牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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第15話になります!

今回は歌姫と書いてありますが、とあるアイドルの話になります。

今は牙狼とけいおんのクロスを書いてる僕ですが、牙狼とラブライブのクロスも書きたいなぁって思ってます。

今回はオリジナル要素は強めですが、一部のシーンはmakaisenkiの9話を参考にしています。

それでは第15話をお楽しみください!




第15話 「歌姫」

……ここは桜ヶ丘某所にある某芸能事務所。

 

事務所の中には1人の女性が椅子に座っていた。

 

その女性の顔は絶望に満ちた顔をしていた。

 

「何でよ……!何で私が事務所を解雇されなきゃいけないのよ……!」

 

この女性はこの芸能事務所に所属しているアイドルなのだが、最近人気に陰りがでてきていた。

 

それだけではなく、この事務所所属の後輩アイドルの人気が上がってきていたため、さらに人気に陰りがでてきているのだ。

 

そのこともあり、この日事務所から解雇宣告されたのだ。

 

「私の方がアイドルとして可愛いし美しいのに何で私が解雇されなきゃいけないのよ!」

 

その女性……姫野綺沙羅(ひめのきさら)はこの解雇に納得していないようだった。

 

「この女……!この女がいなければ!私はアイドルとしていられたのに!」

 

綺沙羅は目の前に置かれた写真の女性……。最近人気が出てきたアイドルである綾野美海華(あやのみみか)の写真を睨みつけていた。

 

さらに綺沙羅はこの綾野美海華という女性に憎悪のような感情を抱いていた。

 

この女を消してしまいたい!綺沙羅の心の中はその気持ちでいっぱいになっていた。

 

その時だった。

 

__貴様、それだけその女が憎いのだな……。

 

「……!だ、誰!?」

 

綺沙羅は突然聞こえてきた謎の声に怯えていた。

 

__そこまで怯えることはない。我は貴様のその気持ちがよくわかるのだ。……貴様は最高のアイドルだ。綾野美海華などという小娘如きに遅れを取るアイドルではあるまい!

 

「そうよ!この姫野綺沙羅こそがナンバーワンアイドルよ!あんな小娘如きに遅れは取らないわ!」

 

__貴様はその小娘を消したいとは思わないのか?

 

「もちろん思ってるわ!あの小娘だけじゃない!アイドルは私1人で十分なのよ!」

 

綺沙羅は美海華だけではなく、他のアイドルの存在も疎ましく思っていた。

 

__我が力を貸してやろう……。貴様に、悪魔と契約する覚悟はあるか?

 

「……どうせ今のままじゃ死んだも同然だから悪魔だろうとなんだろうと契約してやるわよ!」

 

__そうか!なら……我を受け入れよ!

 

目の前にある美海華の写真から黒い帯のようなものが現れ、それが綺沙羅の体の中に入っていった。

 

綺沙羅は悲鳴をあげることはなく、されるがままの状態になっていた。

 

「……フフフ……!待ってなさい……綾野美海華……!」

 

綺沙羅は事務所を後にすると、美海華の元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

……ここは桜ヶ丘某所にある高層マンション。

 

ここの最上階のとある部屋に綾野美海華は住んでいた。

 

美海華は現在恋人であるマネージャーと行為に及んでいた。

 

お互い求めあい、今は同じベッドで並んで寝転びイチャついていた。

 

「ウフフ……。そういえばあの女は今日クビになったそうね」

 

「あぁ。あの女が君に敵うわけないからね」

 

「当然よ。なんと言っても私はこれから世界一のアイドルになる綾野美海華なのよ。あの女は私のいい踏み台になってくれたわ」

 

美海華はそう言うと高笑いをしていた。

 

「俺はあの女がクビになる様を見ていたけど、あの時のあの女の顔と来たら……本当に傑作だったよ!」

 

美海華のマネージャーも綺沙羅がクビになり、気分爽快な気持ちになっていた。

 

「もうあの女はおしまいね。アイドルの成れの果てなんてどこも行き場なんてないわよ」

 

「その時は風俗の仕事でも紹介してやるか?」

 

「フフ、それもいいわね」

 

マネージャーは美海華に抱きつき、再び行為に及ぼうとしたその時だった。

 

「……あら、誰がおしまいなのかしら?」

 

突然2人がいる寝室に綺沙羅が現れた。

 

「な!あ、あんた!どこから出てきたのよ!?」

 

美海華は突然の出来事に驚き、ベッドから飛び出し、マネージャーも同様に飛び出した。

 

「な、何の用よ!さっさと出て行きなさい!!」

 

「えぇ。出て行くわ。……あなたを消したらね」

 

そう語る綺沙羅の顔はあまりにも冷酷だった。

 

「じ、冗談はやめなさい。早く出て行かないと警察を呼ぶわよ!」

 

「呼びたけりゃ呼びなさい。私にとっては餌が増えて好都合なだけよ」

 

「え、餌?」

 

綺沙羅の言葉の意味がわからず、美海華は困惑していた。

 

その様子を見ていたマネージャーは綺沙羅の胸ぐらを掴んだ。

 

「おい……アイドルの成れの果てが調子に乗るなよ」

 

「はぁ……。貴方、邪魔よ」

 

綺沙羅はマネージャーの両肩を掴むと、マネージャーをまるで体内に吸い込むかのように喰らい始めた。

 

「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

マネージャーは綺沙羅の体内に吸収される形で喰われてしまった。

 

「い……嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

凄惨な光景を見た美海華は思わず悲鳴をあげていた。

 

「ウフフ……。こんな高いマンションに住んでるから貴方の悲鳴なんて誰にも聞こえないわよね……。可哀想に……」

 

綺沙羅は不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと美海華に近付き、美海華は恐怖で腰を抜かしながらも後ろに下がり続けていた。

 

「い……嫌……来ないで……!」

 

あまりの恐怖に美海華はおかしくなりそうになっており、その瞳からは涙がボロボロと出ており、とても人気アイドルとは思えない顔をしていた。

 

「アハハハハハ!!その顔、最高だわ!!私はね、あなたのその顔が見たかったのよ!!」

 

綺沙羅は高笑いをあげながら携帯を取り出すと、涙でボロボロになった美海華の顔を写メで撮っていた。

 

「さて……。思い切り楽しませてもらったし、メインディッシュをいただくとしようかしら」

 

「お願い!殺さないで!」

 

「私はね、あなたのことが憎いのよ。あの男みたいにただ喰らうだけじゃ物足りないわ。徹底的に痛めつけて喰らうとするわ」

 

「やめて!やめてくれたらあなたの復帰を社長にお願いしてあげる!私がお願いすればあなたのクビなんて取り消してくれるわ!だから!」

 

「そんなもの……。今となってはどうでもいいことよ!」

 

こうやり取りをしているうちに美海華の逃げ場はなくなり、綺沙羅は美海華の両肩を掴んだ。

 

「今日ここであなたは消えて、私、姫野綺沙羅がこの世で1番美しいアイドルとして返り咲くわ!」

 

「た……たすけて……」

 

「……そうねぇ。命を助けてあげてもいいわよ」

 

綺沙羅は掴んだその手を放し、美海華は綺沙羅から解放された。

 

「本当!?」

 

「それじゃあねぇ……。今この場で3回回ってワンって言ってごらんなさい」

 

「え?」

 

「あら、出来ないの?それじゃあ……」

 

「で、出来るわよ!!」

 

美海華は助かりたい本心で綺沙羅の言う通りその場で3回回ってワン!っと言っていた。

 

「……こ、これでいいんでしょ?」

 

「うーん……。まだ足りないわね……」

 

「え?」

 

「そうねぇ……。今度は豚の鳴き真似でもしてもらおうかしら」

 

「………」

 

美海華は無言で綺沙羅のことを睨みつけていた。

 

「あら、そんな反抗的な態度をとってもいいの?」

 

「くっ……!わかったわよ!」

 

美海華はその場に這いつくばっていた。

 

「……ブヒ!ブヒ!ブヒー!!」

 

「アッハハハハハ!!最高だわ!これが人気アイドルの綾野美海華なの!?本当にお笑いだわ!!」

 

「こ、これで助けてくれるのね?」

 

「………」

 

美海華の問いかけに綺沙羅は黙っていた。

 

「……豚といえば家畜ってことよね……。家畜ならどうしようと私の勝手よね」

 

「……!騙したわね!」

 

「私はそれをしたら助けるだなんて一言も言ってないわよ?」

 

「!!!」

 

美海華は綺沙羅のあまりに下衆な態度に戦慄していた。

 

「私、あなたを助ける気なんて最初からなかったしね」

 

「そ、そんな……」

 

「さようなら、綾野美海華。さっきのはとても最高なショーだったわ」

 

綺沙羅は美海華の両肩を掴むと、マネージャーの時のように美海華の体を吸い込むかのように喰らい始めた。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

こうして人気アイドル綾野美海華は先輩アイドルだった姫野綺沙羅に喰われるといった形で生涯を終えてしまった。

 

「ふぅ……。これで1番の邪魔者は始末したわね……。だけど、まだ足りないわ……。アイドルは、私1人でいいのよ……!」

 

綺沙羅はこのままマンションから姿を消すと、どこかへとそのまま姿を消してしまった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

閃光騎士狼怒の称号を持つ布道レオが教育実習生として桜ヶ丘高校に赴任してから数日が経過した。

 

統夜はこの日もいつものように朝からエレメントの浄化を行ってから登校した。

 

「おはよ〜」

 

統夜は教室の中に入ると、教室の中が何故か騒然としていた。

 

「?みんな、どうしたんだ?」

 

「月影君、ニュース見てないの?人気アイドルの綾野美海華が行方不明になったんだよ!?」

 

「綾野美海華?」

 

統夜は聞き覚えのあるない名前に首を傾げていた。

 

「え!?月影君、綾野美海華を知らないの!?今テレビに引っ張りだこで人気急上昇中のアイドルなのに!」

 

「俺、あまりテレビ見ないからさ……」

 

統夜の家には一応テレビはあるのだが、時々見る程度だった。

 

それ故今流行りの歌や流行りのアイドルなどは統夜は知らなかったのである。

 

統夜が美海華のことを知らないとわかると、クラスメイトたちは再び美海華が行方不明になった話を再開し、統夜は自分の席に着いた。

 

(……人気アイドルの失踪ねぇ……。なんかキナ臭いな……)

 

《なんだ、統夜。お前さんはそのアイドルの失踪がホラーと関係があるって言いたいのか?》

 

(まぁ、確証はないけどな。とりあえずもうホームルームだし、後で調べてみるかな)

 

統夜とイルバがテレパシーで会話をしていると、チャイムが鳴り、ホームルームが始まった。

 

 

 

 

そして昼休みになると、統夜は購買で買ったパンを頬張りながら携帯のネットニュースをチェックしていた。

 

「……桜ヶ丘で現在人気急上昇中のアイドル綾野美海華(20)が行方不明ねぇ……」

 

統夜は綾野美海華と検索するとこのニュースが一発で出てきた。

 

その記事を読むと、同様に美海華のマネージャーも行方不明になっていると書いてあった。

 

それだけではなく、他にも今人気が出始めているアイドルたちが次々と行方不明になっていることもニュースに書いてあった。

 

「アイドルが次々と行方不明ねぇ……」

 

『統夜。お前さんはやっぱりホラーの仕業だと思うのか?』

 

「あぁ。アイドルだけがピンポイントで行方不明ってのがな……。それに、これを見てみろ」

 

統夜は違うニュースの記事をアクセスした。

 

「アイドルたちが行方不明になる中、今人気が爆発的に上がってるアイドルがいるみたいなんだよ。その名は姫野綺沙羅」

 

『統夜。もしかしてその女が怪しいって思ってるのか?』

 

「その可能性は高いと思う。とりあえず今日の放課後にでも調査をしてみるさ」

 

『統夜。その前に番犬所に寄ることを忘れるなよ』

 

「わかってるって」

 

統夜は昼食のパンを完食すると、教室に戻っていった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

放課後、律に今日の部活は休むとメールで連絡をいれると、統夜は番犬所に直行した。

 

統夜は番犬所の中に入ると、いつものように狼の像の口に魔戒剣を突き刺し、魔戒剣の穢れを浄化した。

 

この数日の間にホラーは討伐していなかったので、短剣は出てこなかった。

 

「統夜……指令です」

 

統夜が魔戒剣を鞘に納めるとイレスがこう告げ、イレスの付き人の秘書官が統夜に赤の指令書を手渡した。

 

統夜は魔導ライターを取り出すと、その指令書を燃やし、中から飛び出してきた指令の内容を確認した。

 

「この世の中でも容姿が美しき者を徹底的に狙う心が醜きホラーあり。直ちに殲滅せよ」

 

統夜が指令を読み上げると、魔戒語で書かれた文字は消滅した。

 

『ホラー、ジャーレデーア。自分が一番美しいと勘違いをして自分より美しいと思われるやつを捕食するどうしようもなく愚かなホラーだぜ』

 

「自分が一番美しいか……」

 

『統夜の予想は当たってるんじゃないか?』

 

「?統夜、予想とは?」

 

「えぇ。実は今、人気が出ているアイドルが次々と行方不明になってるみたいなんです。それと同時に1人のアイドルの人気が出てきてまして、そいつが怪しいと思っていました」

 

「なるほど……。それなら調べてみる価値はありそうですね」

 

「えぇ。そのアイドルのことを調べてみるつもりです」

 

統夜は姫野綺沙羅のことを調べるつもりでいた。

 

「頼みましたよ、統夜。早急にホラーの正体を突き止め、わかり次第討滅するのです」

 

「はい!任せてください!」

 

統夜は番犬所を後にすると、姫野綺沙羅について調査を始めた。

 

 

 

 

統夜は綺沙羅のことを調べるために桜ヶ丘のテレビ局に行ってみることにした。

 

統夜がテレビ局に到着すると、入り口は綺沙羅のファンとマスコミの群れでごった返していた。

 

「うわ……。人多すぎだろ」

 

『まぁ、人気アイドルならこれくらいは当然じゃないのか?』

 

「そりゃそうだけどさ。この人混みじゃ思うように近付けないぞ」

 

あまりの人混みにどうしたものかと考えていたその時だった。

 

「あっ!統夜先輩じゃないですか!」

 

短いツインテールの少女が統夜に声をかけ駆け寄ってきた。

 

「おう、純ちゃん」

 

彼女の名前は鈴木純(すずきじゅん)。梓と憂のクラスメイトであり、ジャズ研究部に所属している。

 

「純ちゃんは今日もジャズ研の練習があるんだろう?どうしたんだ?」

 

「今日はジャズ研の練習は休みなんですよ。それで今人気が出てる姫野綺沙羅がテレビの生放送に出てるって言うから見に来たんです」

 

「……あぁ、だからこんなにマスコミやらファンやらがいるって訳か」

 

「それにしても意外ですね。統夜先輩ってアイドルなんて興味ないって思ってましたけど」

 

「そ、そうか……?」

 

統夜は純に痛いところをつっこまれてしまい、表情が引きつっていた。

 

「……まぁ、俺はたまたま別の用事でここを通りがかっただけなんだけどな」

 

統夜は苦し紛れにこのような言い訳をして話を誤魔化そうとした。

 

「ふーん。やっぱり統夜先輩はアイドルには興味ないんですね」

 

統夜はどうにか話を誤魔化せたのでホッとしていた。

 

その時……。

 

__キャアァァァァァァァァ!!!

 

突如黄色い歓声が聞こえてきたので統夜と純はその方へ行ってみると、入り口から姫野綺沙羅が出てきた。

 

すると、ファンとマスコミが一斉に押し寄せ、その場は大混乱になっていた。

 

(アハハ……。なんかすげぇな……)

 

《統夜。感心してる場合じゃないだろう。あいつがホラーかもしれないんだろ?》

 

(まぁな)

 

統夜とイルバはテレパシーで会話をしていた。

 

「綺沙羅さん……やっぱり綺麗だなぁ……」

 

純は生で見る綺沙羅にうっとりとしていた。

 

「……私、けっこう前から綺沙羅さんのことが好きだったけど、綺沙羅さん、当時より綺麗になってる気がするなぁ……」

 

統夜は純が呟いた言葉を見逃さなかった。

 

「純ちゃん、今の言葉は本当か!?」

 

「は、はい……。そうですけど……」

 

統夜が自分の呟きに食いついてくるとは思っていなかったのか、純は少したじろいでいた。

 

(だとしたら……。十中八九姫野綺沙羅がホラーだな……。だけど、どうやって接触すればいい……?)

 

統夜はホラーの正体の検討はついたのだが、相手とどう接触するべきか悩んでいた。

 

相手は人気急上昇中のアイドル。正面からの接触は目立つだけでなく、ガードしている人間が多くいるため不可能に近い。

 

「……そういえば姫野綺沙羅が明日ライブをやるって言ってましたね……」

 

「純ちゃん、それは本当か?」

 

「は、はい。チケットは当日券しか発売しないとのことなので、その日はチケット争奪戦が壮絶になるだろうって噂です」

 

「なるほどな……。純ちゃん、ありがとな!」

 

純から有力な情報を得た統夜は純に礼を言うとテレビ局を後にした。

 

「……統夜先輩、一体何だったんだろう……」

 

嵐のように去っていく統夜を見て純は唖然としていた。

 

『……おい、統夜。一体どうするつもりだ?』

 

「俺に考えがあるんだ。手っ取り早くかつ確実に姫野綺沙羅と接触する方法だ」

 

『ほぉ、それが本当なら大したものだな。しかしどうするつもりだ?生半可な方法じゃ接触なんて無理だぞ』

 

「俺1人の力じゃ厳しいだろうな」

 

統夜はそう答えるとポケットから携帯を取り出した。

 

「……もう部活は終わってみんな帰ってる頃合いか……」

 

統夜はそのまま携帯を操作すると誰かに電話をかけ始めた。

 

「……あぁ、ムギか?統夜だけど、今大丈夫か?……あぁ、実はムギに頼みがあってな……」

 

統夜が電話をかけた相手は紬だった。

 

統夜の頼みを聞いた紬はその内容に驚きはしたものの、二つ返事でその頼みを了承した。

 

「本当にありがとな、ムギ。それじゃあ、また明日」

 

統夜は紬に礼を言うと電話を切り、携帯をポケットにしまった。

 

「さて、これで準備は完了だ。あとは明日になるのを待つだけだ」

 

『……なるほどな。そのやり方なら確実に接触は出来そうだ』

 

「ま、そういうことだ。だから今日はあと町の見回りをして帰るぞ」

 

『了解だ、統夜』

 

こうして統夜は町の見回りを始め、それが終わるとそのまま帰宅した。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日、予定されていた姫野綺沙羅の復帰ライブの日である。

 

その綺沙羅本人は控え室でステージに立つ準備を整えていた。

 

「ウフフ……もうすぐよ……。このライブが成功すれば私はアイドルとしてもっと花を咲かせることが出来る……。そして、目障りなアイドルはまだいるから餌にも困らないわ……」

 

綺沙羅はこのライブ成功後はこの桜ヶ丘だけではなく全国区でアイドル活動を行う予定だった。

 

各地には自分より人気のあるアイドルは大勢いる。それ故食糧には困らなかった。

 

綺沙羅はこのライブを成功させるために自分をより美しく魅せるメイクアップを徹底的に行っていた。

 

 

 

 

ちょうど、その頃、ライブのスタッフである青年はこれから行われるライブの準備に追われていた。

 

「さて……。もうすぐ入場だ。今日はこの会場は満員になりそうだな……」

 

青年がぼやいたように今日のライブは満員になることが予想されていた。

 

ライブを見たいがために前日の夜から会場入りしている者もいると聞いている。

 

「まぁ、頑張らないとな」

 

青年が他の仕事を行おうとしたその時だった。

 

「あの……すいません」

 

金髪のように明るい髪の少女が青年に話しかけてきた。

 

「何です?もしかしてファンの方ですか?申し訳ありませんが、直接の面会は禁止されておりまして……」

 

「いえ、そうではないんです」

 

「?それじゃあいったい……」

 

「……ごめんなさい♪」

 

少女は青年の頭に札のようなものを貼ると、青年はそのまま意識を失って倒れた。

 

「……よし、これで全員ね。早く統夜君と合流しなくちゃ♪」

 

金髪のように明るい髪の少女の正体は紬であり、紬は統夜と合流するために移動を開始した。

 

 

 

 

そしてそれから30分後、ライブ開始の時刻は刻一刻と迫っていた。

 

「……おかしいわね。もうライブが始まるっていうのに誰も呼びに来ないなんて……」

 

綺沙羅はライブ開始時間が近いにも関わらずスタッフが誰も呼びに来ないことを不審がっていた。

 

「……まぁ、いいわ。ここにいるスタッフはみんなクビね……」

 

綺沙羅はゆっくりと立ち上がり、ステージへと向かった。

 

その道中、スタッフが誰もいないことを不審がりつつも舞台袖に来ていた。

 

「……ここにも誰もいないなんて……。まぁ、いいわ。このライブは私1人いれば十分だもの。余計なスタッフなんて必要ないわ」

 

綺沙羅がステージに立つと、その幕がゆっくりと上っていった。

 

幕が上がると、歓声が聞こえてきた。

 

「ほら、観客はたくさん入ってるじゃない……。ウフフ……最高のライブになりそうね……」

 

こうして舞台の幕は上がったのだが、綺沙羅は会場の光景を見て呆然としていた。

 

観客はほぼ満員で入っているはずなのに会場は真っ暗で、誰もいなかったのだ。

 

「なっ……!?こ、これはどういうことなの!?」

 

「それは……。貴様は舞台に立つ資格がないってことさ」

 

客席のとある場所にスポットライトが当たると、そこから魔戒剣を手に持った統夜が姿を現した。

 

「あ、あなた!?一体なんなのよ!?」

 

「わかるだろ、ホラーのお前なら。魔導火を使うまでもない」

 

「それに、他の客はどうしたの!?さっきすごい歓声が聞こえたわよ!」

 

「あぁ、これのことか?」

 

統夜はすぐそこに置いてあったCDプレイヤーの再生ボタンを押すと、歓声の音が流れ、それを聞いた綺沙羅の顔は真っ青になっていた。

 

「な……!あとチケットは一体どうしたの!?あれがなければ中には入れないはずよ」

 

「あぁ、それはな……」

 

「私が全部買い占めました♪」

 

客席の陰から紬が出てきて、それに続いて唯、澪、梓が出てきた。

 

ちなみに律は照明係を担当してくれている。

 

「な、それは当日券なのにどうして!?」

 

「統夜君に頼まれてからすぐに手を打ったのよ。チケット全部のお金をすぐ支払ってね♪」

 

「そ……そんな……!あり得ないわ!?」

 

「まぁ、普通に考えたらあり得ないよな。だけど、この作戦はムギがいたから成功したんだ」

 

統夜が考えていた作戦こそ、ライブのチケットを前日のうちに全部買い占め、観客を誰も入れないようにして、ライブ開始時間に綺沙羅が出て来たところで殲滅するというものだ。

 

「す……スタッフはどうしたの!?このライブのために多くのスタッフがいたはずよ!」

 

「あぁ、彼らなら俺が仕事を終えるまでお寝んねしてもらってるよ」

 

統夜はさらにライブのスタッフを巻き込まないようにするために、軽音部全員の協力を得てレオが用意した札をスタッフ全員の頭に貼り付け、仕事が終わるまで眠ってもらっていた。

 

さらに、そのことを悟られないようにスタッフを一か所の部屋に集めることも行っていた。

 

「そ……そんな……。私を斬るためだけにそこまでするなんて……あり得ないわ!」

 

「ホラーを斬るためなら手段は選んでられないんでね」

 

「統夜先輩、それじゃまるで悪役みたいです……」

 

「正義だとか愛など俺たち魔戒騎士は追いかけないんだよ」

 

統夜はこう語ると何故かドヤ顔を決めていた。

 

それを見ていた唯、澪、紬、梓の4人は苦笑いをしていた。

 

「観客は魔戒騎士とお嬢ちゃんたちってわけね……。いいわ、思い切り見せつけてあげる。この姫野綺沙羅の最高のステージをね!!」

 

綺沙羅がこう言い放つと、統夜はステージまで飛び上がり、綺沙羅に斬りかかった。

 

「はぁっ!」

 

統夜の魔戒剣の一閃は回避され、綺沙羅は蹴りや拳などで統夜を攻撃するが、統夜はそれを受け止めていた。

 

綺沙羅の格闘攻撃を受け止めると、魔戒剣を持っていない方の手でパンチを繰り出すが、それはかわされてしまう。

 

しかし、すかさず蹴りを放つと、それを受けた綺沙羅は吹き飛ばされた。

 

「さすがは魔戒騎士だけど……。あなたは致命的なミスをしているわ」

 

「………」

 

「それは、あんな足手まといをここに連れてきたことよ!」

 

綺沙羅は唯たちめがけてエネルギー弾を放った。

 

統夜が今から駆けつけても間に合わないだろう。

 

それにも関わらず統夜は顔色一つ変えていなかった。

 

「……そう来ると思ったぜ」

 

「何?」

 

統夜の予想外の言葉に綺沙羅が驚いていると、どこからかレオが現れ、エネルギー弾を弾き飛ばした。

 

「!魔戒騎士!?もう1人いたって言うの!?」

 

「あぁ、そういう事だ!」

 

統夜はこの場にレオがいる事を知っていたので顔色一つ変えなかったのだ。

 

「レオ先生!」

 

「え!?レオ先生って魔戒騎士だったんですか!?」

 

「知らなかったです……」

 

レオが魔戒騎士と知り、唯、紬、梓は驚いていた。

 

照明を担当している律も知らない事だったので驚いていた。

 

「統夜君!彼女たちは僕が守ります!だから心置きなく戦ってください!」

 

「レオさん!ありがとうございます!」

 

統夜は力強く魔戒剣を握りしめ、それを一閃した。

 

それは綺沙羅にかわされてしまうが、統夜はすかさず攻撃を続けていた。

 

「ちっ……!」

 

少しずつ綺沙羅は追い詰められ、統夜が魔戒剣を一閃したその時だった。

 

「………」

 

綺沙羅は目をウルウルとさせて斬らないでと懇願していた。

 

「……?」

 

統夜は突然の行動に一度手を止めた。

 

綺沙羅はこれをチャンスと思っていたのだが……。

 

「………」

 

統夜はすぐ攻撃を再開して綺沙羅を斬りつけた。

 

「ぐぁっ!何故なの!?あれでたいていの男は攻撃を止めるっていうのに!」

 

「?あれ、どう言う意図でやってたんだ?急に抵抗しないからびっくりしちゃったよ」

 

「なっ!!?こいつ……どれだけ鈍感な男なの!?」

 

統夜が色仕掛けにも全く動じないのを見て唖然としていた。

 

「アハハ、さすがやーくん……」

 

「統夜先輩は女性絡みだとあり得ないくらい鈍感になりますからね……」

 

「さすがは唐変木……」

 

「何かわからないけど、みなさんも大変ですね……」

 

統夜の鈍感ぶりを目の当たりにした唯たちは苦笑いをしていたが、レオもまた統夜の知らない一面を見て苦笑いをしていた。

 

「でも、魔戒騎士としてはいいでしょうけど、男としては最低ですよね」

 

「うん。やーくん最低だよ」

 

「あ、アハハ……」

 

梓と唯の言葉にレオはまたしても苦笑いをしていた。

 

「何だかよくわからないけど、茶番は終わりだ!」

 

統夜は魔戒剣を一閃すると、綺沙羅はそれをかわずが、その隙に統夜は舞台の高台に飛び上がった。

 

「貴様のステージはここで幕を降ろす!ここからは俺の舞台だ!その眼にしかと刻み込むんだな!」

 

こう言い放って綺沙羅めがけて魔戒剣を突きつけるのと同時に律はスポットライトを統夜に当てた。

 

「……うん、あたしグッジョブ!」

 

律は自分の仕事ぶりに満足していた。

 

「おのれ……魔戒騎士。ここは私の舞台よ!貴様ごときに汚させはしないわ!」

 

綺沙羅はこう言い放つと、自分の体をホラーの体へ変えていった。

 

『統夜。こいつがジャーレデーアだ。油断するなよ』

 

「あぁ、わかってる。……貴様の陰我……俺が断ち切る!」

 

統夜は魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

そこから放たれた光に包まれると、統夜の体に次々と白銀の鎧が装着され、奏狼の鎧を身に纏った。

 

統夜は高台から降りると、ジャーレデーアに向かっていった。

 

「……ねぇ。やーくんは高台に上がる必要はあったのかなぁ?」

 

唯は統夜の戦いを見ながら的を得たツッコミをしていた。

 

「統夜先輩、舞台の上だからかノリノリですね……」

 

「ウンウン♪たまにはいいんじゃない?」

 

(何か……。アグトゥルスとの戦いを思い出すな……。あの時はスポットライトを鋼牙さんに向けたのは僕だったけど、鋼牙さんもあんな感じだったよね……)

 

レオは鋼牙と共に戦ったとあるホラーとの戦いを思い出していた。

 

ジャーレデーアは複数のエネルギー弾を統夜に放つが、エネルギー弾程度で奏狼の鎧に傷がつくことはなかった。

 

続いてジャーレデーアは身体の一部から分離したパーツをミサイルのように飛ばした。

 

統夜は皇輝剣を一閃し、それを全て斬り裂いた。

 

「ホラー、ジャーレデーア!傲慢に満ちた貴様の陰我、俺が断ち切る!」

 

統夜は皇輝剣を構えると、ジャーレデーアに向かっていった。

 

ジャーレデーアはエネルギー弾を連射し、それを阻止しようとするが、それで奏狼を止めることは出来なかった。

 

統夜は皇輝剣の一閃で、ジャーレデーアを真っ二つに斬り裂いた。

 

体を斬り裂かれたジャーレデーアは断末魔をあげながら消滅した。

 

「……貴様のような偽物のアイドルは決して栄えることはない」

 

統夜は決め台詞のような言葉を呟くと鎧を解除し、元に戻った魔戒剣を青い鞘に収めた。

 

『…おい、統夜。さっきからいったいどうしたんだ?いつものお前さんとちょっと違うような気がしたんだが……』

 

「いやぁ、舞台の上に立ったら何か気分が高揚しちゃってな」

 

『やれやれ……緊張感のないやつだぜ』

 

「まぁ、たまにはいいじゃねぇか」

 

統夜はイルバとこのようなやり取りをしながら舞台を降りると、唯たちが駆け寄ってきた。

 

照明係をしてくれた律もこの時には合流していた。

 

「統夜君、やったね♪」

 

「ムギ、ごめんな。いきなりとんでもないことを頼んで」

 

統夜は紬にかなりの額を投資させたことを詫びた。

 

「うぅん、いいのよ。私だって統夜君の力になりたいって思ってたもの。これくらい何てことはないわ」

 

「「「「………」」」」

 

紬がいくら投資したか知っている唯、律、澪、梓の4人は唖然としていた。

 

「本当にごめんな。ムギが出してくれた分は必ず返すから」

 

「あら、それはいいのよ。さっきも言ったけど、あのお金は統夜君に協力するための資金だって思ってるから♪」

 

統夜は紬に出してもらった分をすぐにでも返そうと思っていたが、紬は返さなくてもいいと思っていた。

 

「……ムギってやっぱりすごいな……」

 

「あぁ。唯のギターを値切ってもらった時も凄かったけど、今回のはそれ以上だよな」

 

紬は唯のギターを買う時、25万のギターを5万に値切りするというとんでもないことをしたのだが、今回はそれとは規模が遥かに大きかった。

 

「……それじゃあ、帰りましょ♪」

 

「あぁ、そうだな」

 

こうしてホラー、紬を始めとした軽音部のみんなとレオの協力でホラー、ジャーレデーアを討伐した統夜はみんなと共に会場を後にすると、そのまま帰路についた。

 

その後、長きに渡って姫野綺沙羅が行方不明というニュースが流れ続け、世間を驚かせるのだが、それはまた別のお話である。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『レースの臨場感と言うのはなかなかなものだよな。俺様はそういう刺激的な展開というのはかなりの大好物だぜ!次回、「疾走」。そのスピードにお前はついてこられるかな?』

 

 




琴吹家の財力恐るべし(笑)

今回は軽音部のみんな(主にムギの財力)の力でホラーを撃退した統夜でした。

「正義だとか愛など俺(たち魔戒騎士)は追いかけないんだよ」これを言ってドヤ顔をする統夜(笑)

そして今回は地味に純ちゃん初登場回でもあります。

純ちゃんはまたどこかで登場させたいと思っていますが、今のところは未定です。

今回ホラーになった姫野綺沙羅が綾野美海華を喰らった時に豚の真似をさせて殺す。このネタがわかる人とは話が合うかもしれません(笑)

次回はタイトルで何となくわかるかと思いますが、とあるレーサーの話です。

久しぶりに統夜はあの力を使うのか?

そこもふまえて次回をお楽しみに!


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