今回からこの小説もクライマックスに突入します。
けいおんの話がメインになるため牙狼要素は少なめとなっておりますが、そこはご了承ください。
さて、今回は卒業式前日の話となります。
統夜たちは卒業式前日をどのように過ごすのか?
それでは、第116話をどうぞ!
統夜たちが卒業旅行でロンドンから帰ってきて、最後の登校日も過ぎていった。
それから間もなくして、梓の知り合いであるカメラマン泉京水の依頼で、花嫁花婿の衣装を撮影することになり、統夜は梓と共にその写真を撮ることになった。
唯たちも付き添いで来ており、撮影は終始盛り上がったのだが、その帰りにホラー、ブーケリアと遭遇してしまった。
統夜、戒人、アキト、レオの4人の連携によってブーケリアは討滅され、その後は幸太行きつけの焼き肉屋で、食事を楽しんでいた。
翌日以降、統夜は魔戒騎士としての使命を果たしながら、唯たちと共に梓に贈る曲の製作を行い、さらにはその曲の練習を行っていた。
そうしているうちに時はあっという間に過ぎて行き、卒業式を翌日に控えていた。
そんな卒業式前日であったが、統夜はいつものようにエレメントの浄化を行っていた。
「……はぁっ!」
統夜は某所にあるオブジェから飛び出してきた邪気を、魔戒剣で斬り裂いた。
その一閃により邪気は消滅し、統夜は魔戒剣を青い鞘に納めた。
『統夜。卒業式前だというのに、精が出るな』
「まぁな。卒業式前だからって家でジッとしてるのは性に合わないからな。だったら騎士として使命を果たそうと思ってな」
統夜が卒業旅行から帰ってきてからは、イレスは統夜に積極的に指令を出すことはしなかった。
イレスはこの卒業間近の時間を、魔戒騎士としてではなく、1人の高校生として過ごしてほしいという思いがあったからである。
統夜は花嫁花婿写真の撮影時にブーケリアと出会った以降はホラーと遭遇することはなかった。
実は2体ほどホラーがゲートから出現していたのだが、そのホラーは戒人、レオ、アキトの手によって討伐されたのであった。
『それはそうと、統夜。梓に贈る曲の練習はもういいのか?』
「あぁ。練習自体は問題ないよ。ただな……」
『ただ?』
「一部の歌詞がどうもしっくり来なくてな。なんかモヤモヤしてるんだよ」
梓に贈る曲については統夜たちの入念な話し合いの末、歌詞も完成したのだが、統夜はその一部分だけ違和感を感じていた。
しかし、他に良案もなく、そのまま行くことにしたのだが、統夜は未だにその部分をどうするか悩んでいた。
『ま、悩んでいても仕方ないんじゃないのか?大事なのはその曲にお前たちの気持ちが込もっているかどうかだぜ』
「イルバ……」
統夜はイルバの言ったストレートな言葉に、心を打たれていた。
「……そうだな。悩んでたって始まらないもんな!」
『そうだぜ、統夜。その調子だ。だから、さっさとエレメントの浄化を終わらせないとな』
「わかってるって、次へ行くぜ、イルバ」
統夜が次のオブジェへと移動しようとしたその時、突如統夜の携帯が鳴り出した。
「……ん?電話か……」
統夜は足を止めて携帯を取り出すと、本当に電話のようであり、電話をかけてきたのは律だった。
「……もしもし、どうした、律?」
『あっ、もしもし統夜?今って何してる?』
「俺はエレメントの浄化を行ってるよ。ジッとしてるのは性に合わなくてな」
『やっぱりそうなんだな』
どうやら律は統夜がエレメントの浄化を行っていることを予想していた。
『なぁ、あたしたち今学校にいるんだけどさ、統夜もこないか?』
「へ?今日は登校日でも何でもないだろ?何で学校に?」
律たちはどうやら今学校にいるようであり、そのことに統夜は驚いていた。
『だって明日は卒業式だろ?学校はあたしたちにとっても思い入れがあるし、今日1日は学校で過ごしたいと思ってな』
「なるほどな。そういうことか」
律たちが何故学校を訪れたのかを知り、統夜は納得していた。
『だからさ、統夜も今から学校に来ないか?』
「そうだな……」
統夜は今からでも学校に行きたいという気持ちはあったが、どうするか考えていた。
「今からでも行きたいけどさ、魔戒騎士の仕事を中途半端にする訳にもいかないからさ。昼頃に顔を出すよ」
統夜はキリの良いところまで仕事をして、およそ昼頃に律たちと合流することを伝えた。
『えぇ!?昼からかよぉ!……まぁ、仕方ないよな。だけど、なるべく早く来いよな!』
「はいはい。わかってるって」
統夜は苦笑いをしながらこう答えると、電話を切って、携帯をポケットにしまった。
「さてと……」
『統夜、結局学校に行くのか?』
「あぁ。エレメントの浄化をある程度終わらせたらな」
『なるほどな。だったら早く終わらせないとな』
「そういうことだ。行くぞ、イルバ」
『了解だ、統夜』
こうして、統夜はなるべく早くエレメントの浄化を終わらせるために、次に浄化するオブジェへと移動を開始した。
統夜は出来る限り早く学校へと向かうために、手早くそして正確にオブジェから飛び出してきた邪気を浄化していった。
そして、正午頃には自分の浄化すべきポイントはすべて浄化し、統夜はそのまま学校へと向かった。
道中コンビニに立ち寄り、パンとコーヒー牛乳を購入してから学校へと向かった。
統夜が学校に着いた時は既に昼休みであり、後輩たちに「あっ!統夜先輩だ!」と驚かれながら音楽準備室へと向かっていた。
「……みんな、いるか〜」
統夜はこう言いながら音楽準備室に入るのだが、唯たちはいつもの席に座ってのんびりとしていた。
「あっ、統夜!やっと来たな!」
「やーくん遅いよぉ〜!」
「仕方ないだろ?これでも急いで来たんだぞ」
唯はぷぅっと頬を膨らませながら昼になってようやく顔を出した統夜に文句を言っていたが、そんな唯を統夜はなだめていた。
「まぁまぁ♪それよりも統夜君、早く座って。今、お茶を淹れるわ♪」
「あぁ、頼むな、ムギ」
紬は立ち上がると、統夜の分の紅茶を淹れ始め、統夜は魔法衣を脱いで長椅子に置き、ギターケースを壁に立てかけてから自分の席に座った。
「……あれ?やーくん。お昼買ってきたんだね」
唯は統夜が机の上に置いたコンビニの袋にすぐ反応していた。
「あぁ。購買は使えないと思ったからな。だからコンビニに寄ってパンを買ってきたんだよ」
「ふーん、そうなんだねぇ……」
「はい、統夜君♪」
「おう、悪いな、ムギ」
統夜がコンビニに立ち寄ったことを唯に説明していると、紬は紅茶を統夜の前に置き、さらにチョコパンらしき切れ端も統夜の前に置いた。
「あれ?ムギ、このパンは?」
「ゴールデンチョコパンだよぉ♪さっきあずにゃんが私たちの代わりに買ってきてくれたんだぁ♪」
「アハハ……。そうだったんだ……」
「そういえば、統夜ってゴールデンチョコパンって食べたことあったっけ?」
「一応な。イレス様がここに留学生として来たことがあったろ?その時にイレス様のために買ったんだけど、少しだけ分けてくれてな」
統夜はイレスが桜ヶ丘高校に潜り込んだ時に、半ば強引な手段でゴールデンチョコパンを入手し、それをイレスに渡した。
その時、イレスやクラスメイトたちと一緒に食事をしたのだが、その時イレスは頑張ってくれた統夜にお礼として少しだけゴールデンチョコパンを分けてくれたのだった。
それ故に統夜は一応ゴールデンチョコパンを食べたことがあるのである。
「まぁ、統夜はほぼパンだったし、食べたことがあるのは当然と言えば当然か」
律は統夜がほぼ毎日購買のパンを食べていたことを思い出していた。
「ま、3年生の時に買うチャンスは何度もあったけど、そういう時は大概1番人気のカツサンドを狙ってたしな♪」
「アハハ……。そうなんだ……」
「ところで、これは俺が食べてもいいのか?」
「もちろんよ♪そのためにとっておいたんだもの」
「だって、私たちだけ食べてやーくんだけ当たらないっていうのが申し訳ないって思ってね」
「悪いな、みんな。それじゃあ、こいつらと一緒にいただくよ」
統夜はコンビニで買ってきたパンと共に、ゴールデンチョコパンを食べ始め、唯たちは既に食べ終わっていたのか、その様子を眺めながら紅茶を飲んでいた。
※※※
統夜の食事が終わると、統夜も同じくティータイムに参加し、まったりと過ごしていた。
「……ねぇねぇ、何かやり残したことないかなぁ?」
「やり残したことねぇ……」
唯の唐突な問いかけに統夜はじっくりと考えていた。
そんな中……。
「わ、私……。トンちゃんに餌をあげたことがなくて……」
トンちゃんとは春からの長い付き合いであるが、澪は1度もトンちゃんに餌をあげたことがなかった。
主に唯か梓の仕事なのだが、統夜、紬、律の3人も時々ではあるが、トンちゃんに餌をあげたことがあった。
『だったら悔いの残らないよう、カメ公に餌をやったらどうだ?』
「う、うん。そうだな……」
こうして、澪は初めてトンちゃんに餌をあげることになった。
しかし……。
「むぅぅ……。カメ公じゃなくて、ちゃんとトンちゃんって呼んであげなきゃダメだよぉ!イルイル!」
『おい、唯!だからお前さんは何度も何度も俺様を変なあだ名で呼ぶな!』
唯たちが統夜の秘密を知り、イルバが部室で喋るようになってだいぶ経つのだが、イルバは未だにイルイルと呼ばれるのが許せないようで、今回もまたそう呼ぶのをやめるように言っていた。
「やれやれ……。イルバは相変わらずだよなぁ」
「ウフフ♪そうね♪」
律と紬は、そんなイルバと唯のやり取りを見て、笑みを浮かべていた。
「なぁ、イルバ。せっかくだし、お前もトンちゃんって呼んでやれよ!」
「あ!それ良いね!カメ公カメ公って呼ばれちゃトンちゃんがかわいそうだもん!」
『お断りだ。何で俺様があんなカメ公をトンちゃんって呼ばなきゃいけないんだよ』
イルバはトンちゃんと呼ぶつもりはなかったのだが、ふとその言葉を口にしてしまい、その言葉に水槽の中を悠々と泳ぐトンちゃんが反応していた。
「あ!トンちゃん嬉しそうだよ!」
「トンちゃんもイルバのことを認識してるのかしらねぇ」
「そうかもな。トンちゃんもそうだけど、イルバだって軽音部の一員だしな」
トンちゃんが嬉しそうな反応をしているのを見た統夜は、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。
唯たちもそんなトンちゃんが可愛いと思ったのか、目をキラキラと輝かせていた。
そんな中、澪はトンちゃんの餌を取り出すと、恐る恐るではあるが、その餌を水槽の中に入れた。
「……あ!食べてる食べてる!」
「あぁ!本当だな♪」
澪は自分があげた餌を美味しそうに食べるトンちゃんを見て、頬を赤らめながら嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「ねぇねぇ、次はどうする?」
澪がやり残したことをこなしたところで、唯が続けて何をしたいのかを聞いていた。
「……実は部費が余っててな」
律はこう言って部費の入った封筒を取り出した。
どうやら、余った部費の使い道に困っているようであった。
律は封筒から残ったお金を出したのだが、その金額は……。
「……たったの5円かよ!!」
『確かに、そんなもんしか残ってないならどうするか困るよな』
部費は5円しか残っておらず、そのことに統夜はツッコミをいれ、イルバは冷静に分析していた。
「そうなんだよ。だからさ……」
律は何かを取り出すと、5円玉にとある細工をした。
その細工とは……。
「……リボンをつけてみました!」
「おぉ!おめでたい感じでいいわね♪」
律は5円玉にリボンをつけており、それを見た紬が感嘆の声をあげていた。
「……これ、さわちゃんにあげる?」
「やめておけ。そんなことをしたら後が怖いぞ」
唯はさらっととんでもないことを言っていたため、統夜が慌ててそれを制止していた。
「せっかくだし、とっておこうぜ」
『まぁ、それが1番いいんじゃないのか?』
最終的にはこの5円玉は特に使わずとっておくということで落ち着いた。
「あっ、あのね。これ買ったけど、使ってなかったの。窓をピカピカにするクロス」
紬は軽音部のみんなでホームセンターに寄った時にこのクロスを買ったのだが、結局は使わずじまいだった。
試しにそれを取り出し、窓を拭いてみたのだが、窓は本当にピカピカになっており、それを見て、紬は感動していた。
「なぁ、せっかくだから、部室全部をピカピカにするのは良くないか?」
「おぉ、それはいいかもな。この部室にはかなり世話になってるからな」
紬が窓を拭いているのを見て、澪は掃除することを思いついたのだが、統夜はその案に賛同していた。
「そうだよ!私たちは今日、掃除をしに来たんだよ!」
『やれやれ……。調子のいい奴だな……』
唯は澪の案に賛成なのか、このようなことを言っていたのだが、イルバは調子のいいことを言っている唯に呆れていた。
こうして、統夜たちは音楽準備室の掃除を開始した。
掃除道具を準備すると、床の雑巾がけを行ったり、窓の下や棚等、細かいところも徹底的に掃除をしていた。
この音楽準備室には全員の思い出が詰まっているため、掃除を行うことに誰1人愚痴も文句も言うことなく、確実に掃除を行っていた。
そんな中、唯は未だに部室に置いてあるカエルの置物を掃除すると、笑みを浮かべていた。
そのことに統夜とイルバがツッコミを入れるという場面もあったが、あまり深く追求することはせず、そのまま掃除を行った。
そして、1時間ほど掃除を行った結果、音楽準備室は隅々まで綺麗になっていた。
「終わったぁ!!」
「あぁ、終わったな」
「うん♪部室も綺麗になってるしね♪」
統夜たちは、1時間ほどの大掃除を終えた達成感と、思い出深い部屋を掃除したという満足感を抱いていた。
そんな気持ちを噛み締めていたその時だった。
__キーンコーンカーンコーン……。キーンコーンカーンコーン……。
放課後を告げるチャイムが鳴り響いていた。
このチャイムは、統夜たちにとって最後の放課後を告げるチャイムであったため、感慨深くこのチャイムを聞いていたのであった。
そして……。
「放課後だぁ!!」
「よっしゃあ!梓が来たら演奏するぞ!!」
律は演奏する気満々だったからか、非常に興奮していた。
本来であれば演奏ばしたかったのだが、1年生と2年生は授業をしているため、自重していたのであった。
律だけではなく、統夜も演奏する気満々だったのだが……。
「ねぇ、その前にお茶しない?」
そんな中、紬が再びティータイムを提案していた。
「え?また?」
『おいおい。掃除前も散々お茶は飲んでただろ?』
「だって、最後の放課後だし……」
紬のティータイムという案に、澪は驚き、イルバは反対意見を出していたのだが、紬は最後の放課後だからこそ、自分たちらしいティータイムを提案したのであった。
「最後?」
そんな中、唯は“最後”という言葉に過剰に反応していた。
すると……。
「ね、ねぇ!どうしよう!私たち、何かしなくてもいいのかなぁ!?」
「唯、落ち着けって!」
「だって、最後の放課後でしょ!?」
唯は最後の放課後と聞き、今さらになって慌てていた。
「何かって、いったい何をしたいんだ?」
統夜は慌てている唯をなだめるように唯のしたいことを聞いていた。
「何か残すってのはどうかな?和ちゃんの写真みたいに」
「和の写真?何の話だ?」
統夜は午前中はエレメントの浄化を行っていたため、唯の言葉の意味が理解できず、首を傾げていた。
「統夜君が来る前に生徒会室に遊びに行ったんだけど、そこで和ちゃんの写真を見つけたのよ」
「毎年生徒会長のアルバムを作って、歴代の生徒会長の写真を残しておくみたいだぞ」
「なるほどな……。和みたいに何かを残すってのがどういうことか納得だわ」
統夜は生徒会長に行ったという話を聞き、唯の言葉の意味を理解していた。
「残すって言ってもな……。俺たちの曲を録音して残すくらいしかないんじゃないのか?」
「それだよ!やーくん!!」
「うぉっ!?」
統夜の提案を聞いて、唯が詰め寄ってきたため、統夜は驚いていた。
「私たちの曲を残すか……いいかもな!」
「ラジカセもテープもあるしな♪」
この音楽準備室には、ラジカセが置いてあり、未使用のテープもあったため、唐突な提案ではあったものの、対応は可能であった。
「うん!素敵ね!それじゃあ、梓ちゃんが来たら始めましょう♪」
こうして、統夜たち放課後ティータイムの曲をテープに録音するという案が、満場一致で決まると、統夜たちはそれぞれの楽器の準備を始めた。
統夜、唯、澪の弦楽器組は、楽器のチューニングを行っていたのだが、そのチューニングが終わるのと同時に、梓が音楽準備室に入ってきた。
「あっ、あずにゃん!待ってたよぉ!」
「あれ?演奏するんですか?」
統夜たちが演奏準備をしていることに、梓は驚いていた。
梓は唯たちが来てたことは知っていたが、どうせお茶を飲みながらダラダラしていると思っていたからである。
さらに、統夜が来ていることは同級生だけではなく、1年生の子達も言っていたため、統夜がいても驚くことはなかった。
「あぁ!そうだぞ」
「今までの曲、全部ね♪」
「え?全部……ですか?」
まさか、今までやった全曲をやるとは思っていなかったので、梓は驚きを隠せなかった。
「録音するんだよ!あずにゃん!」
そう言って唯は、長椅子に置かれているラジカセを指差していた。
「え?これで……ですか?」
「まぁ、こんなもんしかないし、とりあえずはこれでな」
この音楽準備室には録音に適した機材などないため、ラジカセを使った録音しか出来ないのであった。
「放課後ティータイムの記録っつーか、足跡っつーか……。そういうのを残しておきたくてな」
「……はい!わかりました!」
梓は自分たちの曲を残すということに賛同しているのか、嬉しそうにギターの準備をしていた。
そして、すぐにギターの準備は終わったのだが……。
「……ところで、曲順はどうするんですか?」
「曲順?」
梓の曲順という言葉に、唯は首を傾げていた。
しかし、しばらく時間が経つと、その意味を理解したようであり……。
「「「「あっ!」」」」
「アハハ……。そういえば考えてなかったな……」
『おいおい、そんな調子で大丈夫か?』
どうやら、統夜たちは曲順までは考えてなかったようで、慌てていたのだが、イルバはそんな統夜たちをジト目で見ていた。
こうして統夜たちは、楽器を置いていつもの席に座ると、これからやる曲の曲順を話し合うことにしたのであった。
「……うーん……。最初はふわふわかなぁ?」
「それ、最後がいいんじゃないかなぁ?」
「いや、俺は最初で良いと思うんだけどな……」
統夜たちは最初にやる曲の時点で、何をするのか決めかねていた。
「あたしはカレーからの方がいいと思うけどな」
「私もそう思う。やっぱり1曲目はアップテンポな曲の方がいいと思うし」
律と澪は1曲目はアップテンポな曲調の「カレーのちライス」が良いと思っていた。
「いや。私たちの音楽性からすると……」
「おい、ただそれを言いたいだけじゃないのか?」
唯の口から音楽性という言葉が出てくると思っていなかった統夜は、ジト目で唯のことを見ていた。
「なぁ、梓は1曲目は何がいいと思う?」
「はい!1曲目はふわふわのインストにしてみたらどうですか?」
「インストかぁ。その発想はなかったな!」
梓はふわふわ時間のインストゥルメンタルバージョンを提案したのだが、その発想は思いつかなかった統夜は、素直に感心していた。
「ねぇ、インストって何?」
唯はインストという言葉を聞いたことがないのか、首を傾げていた。
「インストゥルメンタル。歌なしで演奏だけするんだよ」
澪が、インストについて簡潔かつ分かりやすい説明をしていた。
「あっ!カラオケバージョンのこと?」
「厳密に言えば違うけど……。まぁ、そんなところかな?」
カラオケとインストは似てるといえば似てるのだが、異なるものであるので、唯の例えに統夜は苦笑いをしていた。
「そういえば、アルバムとかでもあるもんな!最初と最後にインストが入ってるの!」
「はい!」
「まぁ、それはわかるけど、そこまで込んなくてもいいんじゃないか?」
澪はプロのバンドのアルバムの一例をあげて賛同していたが、律はそこまでのことはしなくていいと思っており、消極的な意見を出していた。
『それは俺様も賛成だぜ。スタジオとかならまだしも、テープで録音なら時間も限られてるしな』
「あぁ、確かにそうだよな。良い案ではあるけど、そこがなぁ……」
「そ、そうですよね……」
イルバの的確な指摘に統夜は納得しており、梓は自分の案がボツになって少しだけ残念そうにしていた。
「それにしても、曲順決めるのって意外と難しいんだねぇ」
「確かに、そうかもしれないな」
統夜たちは、曲順を決める難しさというものを改めて認識していたのであった。
「あっ、お茶淹れるね♪」
紬は紅茶を飲んでリラックスした方がいいと考えたのか、席を立って紅茶を淹れる準備をしようとしていた。
しかし、その途中、長椅子に置かれたラジカセをジーっと見ていたのだが、何かいいアイディアを思いついたのか、ラジカセを手にして戻ってきた。
唯たちが梓と雑談をする中、紬はラジカセをテーブルの上に置くと、ラジカセの録音ボタンを押していた。
「「「「「ん?」」」」」
紬の唐突な行動に、全員の視線が紬に集中していた。
「この時間も録音しておかない?」
どうやら紬は、この変哲もない会話こそ放課後ティータイムだと思い、会話も録音しようと考えたのであった。
「おぉ!」
「つまり、放課後ティータイムっていうのはな、今を生きる高校生のロックスピリットを熱〜く、激し〜く表現するロックバンドっつうかさぁ!」
「いいこと言おうとしてるだろぉ」
「だって、後に残るんだろ?これ……」
「つか、俺たちはそんな仰々しいバンドじゃないだろうが」
律はこの会話が残るということで良いことを言おうとしたのだが、それを澪に見透かされ、統夜にツッコミを入れられていた。
「では、部長のりっちゃん。あなたにとって、放課後とは?」
唯は何故かインタビューのような口調で律に質問をしていた。
「そうだなぁ……。人生の無駄遣い……かな?」
律の答えがあながち的を得てるのか、統夜たちはクスクスと笑みを浮かべていた。
「確かにな」
「本当ですよね」
「それじゃあ、ちょっと聞いてみようよ!」
そう言って唯は、ラジカセの停止ボタンを押して、録音を止めると、巻き戻しをして、再生ボタンを押した。
『そうだな……。人生の無駄遣い……かな?』
『確かにな』
『本当ですよね』
律、澪、梓の声が再生されており、それが恥ずかしかったのか、3人は揃って頬を赤らめていた。
「わ、私の声ってこんなんなのか?」
「や、やめましょうよ!撮るのは曲だけにしましょう!」
「えぇ?面白いじゃん!」
唯はまったく気にしていないのか、再び録音ボタンを押して、会話を録音しようとした。
すると……。
「やめてください!」
梓はとても恥ずかしかったのか、慌てて停止ボタンを押していた。
「ふふん♪今のも撮れたかな♪」
「はっ!?」
どうやら先ほどの梓の声も録音されてるようであり、唯は巻き戻しをすると、ちゃんと撮れてるか確認をしていた。
『やめてください!』
梓の声に、6人は揃ってビクッとしていた。
「こ、怖い……」
梓は自分の怒鳴り声がここまで怖いとは思ってなかったのか、驚きを隠せなかった。
「そうだじょぉ♪」
「あずにゃん怒ると怖いんだよぉ♪」
「すいません、私、ずっとこんな感じで……」
梓は自分が怒ったら意外と怖いということを知り、申し訳なさそうにしていた。
「そうそう。俺なんかしょっちゅう梓に怒られてるしな♪これ以上に怖い思いしてるんだぜ♪」
『おいおい。統夜、それはお前さんの自業自得じゃないのか?』
「イルバの言う通りです!それに、統夜先輩はいつもいつも無茶ばっかするから悪いんじゃないですか!」
梓は先ほど申し訳ないと思ったばかりなのだが、恋人である統夜の前ではついつい普段のように怒ってしまっていた。
「あずにゃん怖ぁい♪」
「もぉ!唯先輩みたいなこと言わないでくださいよ!」
統夜は唯のような口調でおどけていたのだが、そんな統夜を梓は膨れっ面で睨みつけていた。
「それに!そうじゃなくて!早く曲順決めないとダメじゃないですか!」
今度は統夜だけではなく、唯たちにも梓の説教が飛び火していた。
「「あずにゃん怖ぁい♪」」
「あー!もう!唯先輩と律先輩まで!」
統夜だけではなく、唯と律もおどけていたため、梓はさらに膨れっ面になっていた。
「まぁまぁ♪それよりも早く曲順決めて演奏しましょう♪」
「そうだな。じゃないと時間がなくなっちゃうしな」
こうして統夜たちは再び話し合いに戻り、曲順を決めたのであった。
そして、決まった曲順は以下の通りとなった。
1.ふわふわ時間
2.カレーのちライス
3.私の恋はホッチキス
4.ふでペン〜ボールペン〜
5.ぴゅあぴゅあはーと
6.いちごパフェが止まらない
7.Honey sweet tea time
8.ときめきシュガー
9.冬の日
10.五月雨20ラブ
11.Bright hope
12.S#0
13.Predestination
14.ごはんはおかず
15.U&I
最後の方に統夜がボーカルの曲が集中しているのだが、テープの録音可能時間はA面B面合わせて80分なため、厳しそうであれば、カットすることにした。
こうして曲順が決まったところで、統夜たちはその曲順通りに演奏し、それを録音していった。
録音途中にさわ子が来たり、休憩を挟んだりしたため、録音が全て終わった時にはすでに夜になっていた。
ちなみに、統夜がボーカルを務める曲は一応全て出来たのだが、テープの時間の都合上で、一部をカットして、ギリギリ全曲収まったのであった。
「あぅぅ……。やっと終わったねぇ……」
「つーか、何やってんだろうな、あたしら……」
全ての録音を終えた統夜たちは長丁場の演奏に疲れたのか、机に突っ伏していた。
「だけど出来たよ♪私たちのアルバム♪」
唯はラジカセからカセットを取り出すと、それをジッと眺めていた。
「ま、アルバムにしてはお粗末だが、これはこれで味があっていいかもな」
「そうだな」
澪は穏やかな表情で頷いており、統夜たちは、唯の手にしているカセットをジッと眺めていた。
「唯、ちょっと貸して」
律は唯から、先ほど録音したカセットを受け取ると、油性ペンを取り出した。
すると、テープの何も書いていない部分に「放課後ティータイム」と書いていた。
「よし、書けたぞ」
「……聴いてみようよ!」
「いいねぇ!聞いてみようぜ!」
「おいおい、明日は卒業式だろ?そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」
録音に使ったカセットはAB面合わせて80分録音出来るため、今これを聴くとなると、さらに帰りが遅くなることが予想された。
「統夜君の言う通りよ。それに、もし聴くなら1回だけにしておきなさい」
さわ子もまた、帰りが遅くなるのを心配してこのようなことを言っていた。
そして、録音したものを聴こうとしたのだが……。
「あーっ!!卒業式用のタイツ買ってない!」
どうやら唯は卒業式用に新しくタイツを買う予定だったのだが、今まで忘れていたようであった。
「帰りに買えばいいじゃない」
「ま、今ならまだ間に合うだろうしな」
統夜は、先ほど録音したものを聴かずに帰れば、問題なくタイツを買えるだろうと判断していた。
「あっ!そういえば部室が綺麗になってますね!」
「やっと気付いたのか」
梓はようやく部室が綺麗になったことに気付き、律は安堵していた。
「そうだよ、あずにゃん!私たち、掃除したんだから!」
「唯先輩。制服汚れてますよ?」
「あー!!明日は卒業式なのにぃ!」
どうやら掃除の時に少しだけ唯の制服が汚れてしまったようで、それに気付いた唯は慌てていた。
すぐ取れる汚れではあるのだが、唯の慌てぶりに、統夜たちはそれを見て笑っていた。
こうして統夜たちは放課後ティータイムの曲をカセットに記録し、1つの“形”として残すことが出来た。
明日は卒業式であるため、録音したものを聴くことはなく、そのまま帰ることにした。
唯は無事に明日使うタイツを購入することが出来、この日は解散となった。
明日はいよいよ卒業式である。
この日は統夜にとっても唯たちにとってもかけがえのない1日になるであろうことは容易に予想することが出来た。
統夜は家に帰ると、明日行われる卒業式に期待を膨らませて、眠りについていた。
……続く。
__次回予告__
『いよいよ統夜も卒業か。今日は悔いのないように過ごしていきたいよな。次回、「卒業」。統夜の高校生最後の1日が今始まる!』
こうして、統夜は卒業式前日を学校で過ごすことが出来ました。
本来であればこの話の前にとあるホラーとの戦いを入れようと考えていたのですが、ネタがまとまらなかったので今回はこの話にさせてもらいました(汗)
どうにかまとまれば番外編にでもあげようかなと思っています。
1日中何をするでもなく学校で過ごす……統夜たちがどれだけこの学校が好きなのか伝わってきますよね。
僕も学生の時は学校は好きでしたが、そこまでのことはしなかったので、少しだけ羨ましいと思ってしまいました。
あと、統夜たちは今回放課後ティータイムの曲すべてを録音しましたが、その様子の一部始終を番外編であげたいなと考えているので、ご期待ください。
さて、次回はいよいよ卒業式となります。
この小説も本当にクライマックスですが、最後までこの小説をよろしくお願いします!
それでは、次回をお楽しみに!