前回で卒業旅行を終えて日本に帰ってきた統夜たちですが、今回の話は帰国後の話となっています。
そして、統夜たち3年生が学校へ通う日もあと僅かですが、どのような生活を送っていくのか?
それでは、第113話をどうぞ!
統夜たちの3泊5日に渡る卒業旅行は無事に幕を下ろした。
飛行機が某国際空港へ到着すると、統夜たちはバスに乗り込み、ようやく桜ヶ丘へ到着した。
バス停で統夜たちは解散し、それぞれ家へと帰っていった。
そんな中、統夜はまっすぐ家に帰ることはせず、桜ヶ丘に帰ってきたことをイレスに報告するために、番犬所へ向かった。
「……おぉ!統夜!ようやく帰ってきましたね!」
「はい、イレス様。月影統夜。無事に戻りました」
統夜は深々と頭を下げながら戻ってきたことを報告すると、続いて狼の像の前に移動すると、魔戒剣を抜いて、狼の像の口に突き刺すことで、魔戒剣の浄化を行った。
ロンドンではホラーとは戦わなかったが、悪魔と戦っていたため、魔戒剣に邪気が溜まっていると思われたからである。
しかし、狼の像のからは、ホラー封印の時のように短剣が出てくることはなかった。
「……やっぱり悪魔相手じゃ短剣は出てこないか……」
統夜は、悪魔を倒したことで短剣が出てこないことを予想していたのか、驚くことはなかった。
「……統夜。やはりロンドンにはホラーではない魔獣がいたのですか?」
統夜の独り言を聞いていたイレスは、驚きながら統夜に確認を取っていた。
「えぇ、運がいいのか悪いのか、旅行先で遭遇してしまいました」
統夜は魔戒剣を青い鞘に納め、魔法衣の裏地にしまいながら、悪魔と遭遇したことを伝えた。
さらに、統夜はその詳細を語り始めた。
「……そいつらは悪魔と呼ばれておりまして、ホラーのいる魔界とは別の魔界に生息している魔獣のようです」
「ホラーのいる魔界とは別の魔界……ですか?」
どうやら番犬所の神官であるイレスも、ホラーのいる魔界とは別の魔界があることを知らなかったようであり、驚きを隠せずにいた。
「そこで、俺たち魔戒騎士のように悪魔を狩る者や、ロンドンの地にいる魔戒騎士とも出会いました」
「へぇ、その悪魔を狩る者がいるのは納得ですが、ロンドンで魔戒騎士とも出会ったのですね」
「えぇ。悪魔を狩る者はダンテ。魔戒騎士は、黒曜騎士是武ことダリオ・モントーヤという名前でした」
「ダンテとダリオですか……。それにしても黒曜騎士ですか……。初めて聞く称号ですね」
『まぁ、あそこは元老院から隔離されてるみたいだからな。お前さんが知らないのも無理ないんじゃないのか?』
「確かに……。イルバの言う通りかもしれないですね」
「そんなことはありましたが、おかげさまで楽しい旅行となりました」
「そうでしたか。そう言っていただけると、送り出した甲斐があるというものです♪」
イレスは、統夜が心の底から旅行を楽しんでいたことを知り、喜びのあまり笑みを浮かべていた。
「あっ、そうそう。イレス様、お土産です」
統夜は魔法衣の裏地からイレスのために用意したお土産を取り出すと、それをイレスの付き人の秘書官に渡していた。
「……おぉ、いっぱいですね♪」
統夜はイレスのお土産を多く用意しており、その多さに驚いていた。
「イレス様にはお世話になってますからね。これくらいはしなきゃと思いまして」
「まぁ♪嬉しいことを言ってくれますね♪」
統夜はイレスへの感謝の気持ちとして多くのお土産を用意していたのだが、統夜の心遣いがイレスには嬉しかった。
イレスがお土産をもらって喜んでいたその時だった。
「イレス様、ホラーを討伐してきました」
「あー……。疲れた……」
「まぁ、俺たち3人で戦ったし、いつもよりは楽だったけどな」
ホラー討伐を終えたレオ、アキト、戒人の3人だった。
「3人とも、ご苦労様です。ちょうど統夜も帰ってきましたよ」
「「「え?」」」
3人はイレスの言葉に驚き、横を向くと、ここでようやく統夜の存在に気付いたようであった。
「統夜君、お帰りなさい」
「ありがとうございます、レオさん」
「旅行は楽しかったか?」
「まぁな。色々あったけど、楽しかったよ、戒人」
「統夜!早くお土産!お土産をくれよ!」
「はいはい……。焦るなよ、アキト」
レオ、戒人、アキトの3人は口々に統夜の帰りを喜んでおり、アキトに至ってはお土産欲しさに興奮していた。
そんなアキトを、統夜はジト目で見ながら、3人のためのお土産を用意していた。
レオとアキトはロンドンならではのクッキーなどのお菓子を渡し、戒人は、ロンドン特有の調味料セットを渡した。
「おぉ!美味そうだな!」
「ありがとうございます!統夜君!」
「これは……料理のレパートリーが増えそうだな」
3人はそれぞれお土産を受け取り、喜びを露わにしていた。
さらに……。
「アキト。お前にはお土産がまだあるんだよ」
「え?まだあるのか?」
「あぁ、これだよ」
統夜は魔法衣の裏地から、ダンテからもらった銃のストックと、設計図をアキトに手渡した。
「……?統夜、これは?」
「俺、ロンドンで悪魔というホラーとは違う魔獣と遭遇したんだけど、そこで悪魔を狩る奴がいて、そいつが使ってた銃のストックと設計図をもらったんだよ」
「へぇ、ロンドンにはホラーとは違う魔獣がいたんだな」
「それに、それを狩る者が使っていた武器と設計図とは……」
戒人とレオは、ホラーとは異なる魔獣がいるということに驚いていた。
そして、統夜から受け取った設計図を見ていたアキトは……。
「!!こ、こいつは……」
「?アキト、どうしました?」
「こいつは普通の銃じゃないぜ!見た目は普通の銃だけど、内部の細かい部分が全然違う!」
「そ、そうなんですか?」
アキトは設計図を見ただけでこの銃がただの銃ではないことを見抜き、驚きを隠せずにいた。
「こいつを参考にすれば魔戒銃を完成させられる……!ありがとな、統夜!こいつは最高の土産だぜ!」
「アハハ……。そこまで喜んでくれると悪魔狩りの仕事を引き受けた甲斐があるってもんだよ」
自分の予想以上にアキトは喜んでいたため、統夜は苦笑いをしていた。
「おっと、こうしちゃいられねぇ!さっそくこいつを参考にして、魔戒銃の改良に入らせてもらうぜ!」
アキトは早く魔戒銃を改良させたいとウズウズしているからか、イレスに挨拶もせずに番犬所を飛び出していった。
「あ、アキト!待ってください!……それでは、失礼します!」
レオはイレスや統夜たちに一礼をすると、アキトを追いかける形で番犬所を後にした。
「と、とりあえず、今日は統夜も疲れていますし、明日から再び魔戒騎士として使命を果たして下さい」
「はい、ありがとうございます。イレス様。お言葉に甘えて今日はゆっくりと休ませてもらいます」
統夜はイレスに一礼をすると、番犬所を後にして、そのまままっすぐ家路についた。
翌日は登校日ではなかったため、統夜は午前中いっぱいはエレメントの浄化を行い、午後は普段から世話になっている幸太やヒカリのもとへ行き、2人にもロンドンのお土産を渡していた。
その後は番犬所に顔を出し、指令がないことを確認すると、そのまま鋼牙の家である雷瞑館へ向かい、鋼牙やカオル。そしてゴンザにもお土産を渡した。
そして、偶然にも雷瞑館に零がいたため、零にもロンドンのお土産を渡していた。
鋼牙たちにお土産を渡すと、みんなそのお土産をとても喜んでくれていた。
統夜はゴンザの淹れてくれた紅茶を飲みながら、卒業旅行の話をしていた。
牙狼の称号を持つ鋼牙や、鋼牙の魔導輪であるザルバも、悪魔の存在は知らなかったようで、ホラーとは違う魔獣の存在に驚いていた。
こうして、統夜は鋼牙たちに卒業旅行の話をしていたのだが、気が付けば遅い時間となり、統夜は話を終えるとそのまま雷瞑館を後にした。
その後、桜ヶ丘に戻ってきた統夜だったが、すでに夜も遅かったため、街の見回りは行わず、真っ直ぐ家へと帰っていった。
※※※
翌日、この日は登校日であるため、統夜はエレメントの浄化を行ってから登校した。
統夜が登校した時にはクラスメイトたちは統夜たち軽音部が卒業旅行に行ったことやロンドンでライブしたことを知っていたようであった。
そのため、その話で持ちきりとなっていた。
「ねぇねぇ、ロンドンでライブやったんでしょ?どうだったの?」
「あぁ、かなり楽しいライブだったぜ」
「ねぇねぇ、何を演奏したの?」
「ごはんはおかずだよ!」
クラスメイトの問いかけに唯はすぐさま答えていた。
「……どないやねん……」
ごはんはおかずをやったと聞いたクラスメイトの若王子いちごは、ボソッと呟いていた。
「それだ!いちご!!」
律はその呟きを見逃さず、自分の呟きが聞こえて恥ずかしかったのか、いちごは無言で髪をクルクルとさせていた。
「だけど、卒業する前にもう一度聞きたいよね。唯たちの演奏」
唯と統夜に挟まれる形の隣である立花姫子は統夜たちの演奏を聴きたいと望んでいたが、それは姫子だけではなく、クラス全員の望みであった。
「ねぇ、ジャズ研は卒業ライブするんだよね?」
「う、うん」
「そうだな。せっかくだし、やれるなら卒業ライブやりたいよな」
「うん!面白そう!」
「確かに、思いつかなかったねぇ」
「どこでやろっか?」
「やっぱ部室か?」
どうやらジャズ研究会は卒業ライブを行うようであり、それを聞いた統夜たちは卒業ライブをやる気になり、どこでライブを行うか検討していた。
「ねぇ、だったらさ、リクエストしてもいい?」
すると、クラスメイトの1人である中島信代がこのようなことを言っていた。
そのリクエストを聞いた統夜たちは驚くのだが、断ることはせず、検討してみることにした。
そこで始業のホームルームが始まってしまったので、その検討は後回しとなってしまった。
そしてとある休み時間、統夜たちは職員室へ向かうと、軽音部の顧問であり、担任でもあるさわ子に相談することにしたのであった。
「……え?教室でライブを?」
信代がリクエストしたのは3年2組の教室であり、それは信代だけではなく、クラスメイト全員がそれを希望していた。
統夜たちもそれに同意して、さわ子にそのことを相談したのであった。
「へぇ、懐かしいわねぇ。私もよくやっ……」
さわ子は私もよくやっていたと言おうとしていたのだが、それと同時にさわ子の同僚教師である堀込が統夜たちの後ろを通り過ぎ、聞き耳を立てていたので、さわ子は口をつぐんだ。
そして……。
「……や、やっぱりダメよ!許可出来ないわ!」
「えぇ!?何で駄目なんだよぉ!」
先ほどとは態度が変わっているさわ子に、律はぷぅっと頬を膨らませながら文句を言っていた。
統夜たちの話を聞いていた堀込は通り過ぎて自分のデスクへと向かっていき、さわ子は律の言葉をスルーしながらその様子を横目で眺めていた。
「とにかく!あなただけ特別扱いというわけには……」
さわ子は堀込がこっちを見ていない隙に紙とペンを取り出すと、紙にあることを書いていた。
「いかないの!」
さわ子はそう言いながら紙に書いた文字を統夜たちに見せるのだが、そこには「朝とかどう?」と書かれていた。
どうやらさわ子は教師の立場として、ライブに反対する素振りを見せていたが、内心はライブを賛成しており、このような提案をしていたのであった。
それを察した統夜たちは……。
「あぁ……」
「うん!うん!」
「わかったよ、さわちゃん!」
さわ子に合わせて、ライブを認められず素直にそれを受け容れる素振りをしていた。
「そう。わかってくれればいいの」
堀込が訝しげな表情でこちらの様子を伺う中、統夜たちはさわ子の言うことに従う素振りをして職員室を後にした。
「……」
統夜たちが出ていくのを見送ったさわ子は、教室でのライブのことを考えていた。
(……あの時、何か知らないけど、メチャクチャ怒られたのよね……)
さわ子たちDEATH DEVILも、卒業前に教室でライブをしたことがあるのだが、その当時から教師であった堀込に止められ、かなり怒られてしまったことがあった。
(……フフッ、統夜君は魔戒騎士だから修羅場には慣れてるだろうけど、後のみんなは全然ロックじゃないし、ふわふわのひよこちゃんだもの……。絶対に泣いちゃうわ……)
もし統夜たちが自分たちと同じ道を歩むことになってしまっては、統夜以外の全員は怒られることに耐えられず泣いてしまうのではないかと予想していた。
(……だったら、私が……守るしかないじゃない!!)
さわ子は無意識のうちに鋭い目付きで前を向くと、さわ子の向かいに座っていた教師が、そんなさわ子を見てビビっていた。
こうして、さわ子は統夜たち以上に教室でのライブを成功させようという決意を固めていたのであった。
教室でのライブが決まり、統夜たちはそのことを梓に報告するために2年1組の教室に向かっていた。
梓たち2年生は卒業式で3年生がつけるコサージュを作っていた。
統夜たちがその様子を見ていると、梓が統夜たちの存在に気付き、教室を出て統夜たちのもとへと駆け出していた。
梓が来たことで、統夜たちは自分たちの教室で卒業ライブをすることを話したのであった。
「……教室でライブですか?」
「うん。でもさ、あたしたちの教室だからさ、あたしたちだけでやろうかな〜って……」
「思ってたんだけど……」
統夜たちは梓にも参加して欲しかったのだが、梓に気を遣って最初は自分たちだけでやることを恐る恐る話したのだが……。
「そんなのダメです!私も一緒に出たいです!!」
「本当!?」
「はい!」
梓もライブに参加したいことを聞くと、律は小さくガッツポーズをしていた。
唯も梓と一緒にライブが出来て嬉しいのか、梓に抱きつこうとするのだが、梓はそんな唯の両側の頬を掴んでブロックしていた。
「で、いつやるんですか?律先輩!」
梓のこの問いかけに、律は、明後日の登校日に行うことを話していた。
この日は統夜たち3年生最後の登校日であり、卒業ライブを行うならこの日がいいと統夜たちは考えていた。
こうして、梓もライブに参加することが決まったところで、この日の放課後にはライブの打ち合わせを行って解散した。
※※※
その日の打ち合わせが終わり、唯たちと解散した統夜は、番犬所を訪れていた。
「……?統夜、どうしたんですか?今日はずいぶんと嬉しそうですね」
イレスは、番犬所に入った時から表情が緩んでいる統夜のことが気になっていた。
「どうせ、梓ちゃんとよろしくやってたんだろ?」
「あぁ、そう言えば統夜君と梓さんは付き合ってるんですものね」
「ったく……。お前ってやつは……」
番犬所にはアキト、レオ、戒人の姿があり、アキトの言葉をレオと戒人は素で受け止めていた。
「ちょっ!?それは違うからな!!」
アキトの言葉を聞いた統夜は顔を真っ赤にしながらその言葉を否定していた。
「そ、それにアキトもレオさんも元老院に帰ったんじゃなかったのか!?」
そもそもアキトとレオは統夜が卒業旅行に行っている間に統夜の代わりにホラー討伐を行うため元老院から派遣されたため、統夜は2人が既に元老院に戻ったと思っていた。
「まぁ、確かにそうなんだけどさ」
「統夜君も卒業ですしね。しばらく桜ヶ丘に留まって統夜君の卒業を見届けようと思いまして」
アキトとレオは統夜が卒業旅行から帰ってきた後は元老院に戻る予定だったが、統夜の卒業を見届けるためにしばらく桜ヶ丘に留まることにしたのである。
「アキト……レオさん……」
自分の卒業を見届けるというアキトとレオの言葉が、統夜には嬉しかった。
「それで?統夜はどうして嬉しそうにしてたんですか?」
イレスは統夜たちのやり取りを最後まで聞いた後に先ほどから聞きたかった話を切り出した。
「はい。明後日は最後の登校日なんですけど、自分たちの教室でライブをすることになったのです」
「へぇ、それはいいですね!私も聞きに行きたいくらいですよ♪」
「い、イレス様。さすがにそれは……」
「エヘヘ……わかってますよ。だけど、私もまた統夜たちの演奏を聴きたいと思いましてね」
イレスは度々統夜たちの演奏を聞いたことがあるのだが、再び統夜たちの演奏を聴きたいと思っていた。
イレスもまた、統夜たち放課後ティータイムのファンの1人であった。
「イレス様。でしたら、僕が魔導具を用意しますので、それを統夜君の教室に設置させてもらい、ライブの様子をこの番犬所に中継しますよ」
「え!?本当ですか?それではレオ、お願い出来ますか?」
「もちろんです!お任せください!」
「それじゃあ師匠。さっそく準備をしないとな」
「そうですね。それでは、魔導具の準備をしますので、僕たちはこれで失礼しますね」
アキトとレオはイレスに一礼をすると、そのまま番犬所を後にして、明後日に使う魔導具の準備を始めることにした。
「……イレス様、今日はホラー討伐の指令はありますか?」
「いえ。今のところは指令はありませんよ」
「そうですか……。統夜、俺は街の見回りに行ってくる。お前はあまり無理せずゆっくり休むといい」
「悪いな、戒人。だけど、ちょっとは仕事はさせてくれよ。休み過ぎは体がなまるからな」
「アハハ……。それはそれで好きにしろ」
戒人はイレスに一礼をすると、番犬所を後にした。
それからあまり間をおかず、統夜もイレスに一礼をして、番犬所を後にし、少しだけ街の見回りを行ってから帰路についたのであった。
※※※
そして、統夜たち3年生の最後の登校日を迎えた。
この日は予定通り朝のホームルーム前にライブが行われることになり、朝早くから、3年2組の教室では、ライブの準備が行われていた。
クラスメイトたちは机をくっつけて即席のステージを作っており、統夜たちはドラムセットなどの機材を教室に運んでいた。
ある程度機材を運び終えると、統夜は即席のステージが良く見えそうな場所に、レオから渡された魔導具を設置した。
レオは設置した時点で魔導具が起動するようセッティングをしてくれており、統夜が魔導具をセッティングすると、それは起動し、その魔導具が映した映像は、番犬所へと中継されていた。
即席のステージはしっかりと映っており、それを番犬所で見ていたイレスは笑みを浮かべ、レオとアキトは小さくガッツポーズをしていた。
戒人も統夜たちの演奏は聴きたいと思っていたのだが、現在はエレメントの浄化を行っており、統夜たちの演奏を聴くのは諦めていた。
こうして全ての準備が整うと、放課後ティータイムの卒業ライブが、3年2組の教室で行われた。
このライブは朝のホームルーム前には終わらさなければいけないため、3曲だけ演奏することになっていた。
1曲目に選んだ曲は、統夜が作詞作曲した曲である「PREDESTINATION」という曲であった。
この曲は統夜が尊敬し、目標としている黄金騎士牙狼こと冴島鋼牙と、その妻である冴島カオルの生き方をイメージにしている曲であり、ボーカルは統夜が担当している。
統夜は以前から牙狼をイメージした曲を作曲したいと考えていたのだが、それで完成したのがこの曲であった。
他にも魔戒騎士の生き様をイメージした曲や、自分の生き様をイメージした曲を現在制作しているのだが、予想以上に苦戦をしており、それはまだ完成してなかった。
放課後ティータイムのボーカルは唯か澪であるが、時々統夜がボーカルを担当することもあり、クラスメイトたちも統夜の歌声が聴けて嬉しいと思っており、楽しげに演奏を聴いていた。
そして、「PREDESTINATION」が終わると、次のボーカルは澪に変わり、「五月雨20ラブ」という曲の演奏を始めた。
ちょうどその頃、さわ子はどの先生よりも早く出勤していた。
しかし、ライブを見ることなく、職員室で待機をしていたのだが、これは他の教師が来ても、ライブのことを勘繰られたり怪しまれたりしないようにするためであった。
さわ子がジッと職員室で待機をしていたその時だった。
「山中先生。お早いですね」
「えぇ。色々やることがありまして」
堀込が出勤してきて、堀込は既に出勤してきたさわ子に驚いていた。
「……おや?この音は?」
職員室にも統夜たちの演奏音は聞こえてきていたため、特にベースの重低音が響き渡っていた。
「え?あー……。工事でもしてるんじゃないかしら?」
「そうですか。随分と景気のいい工事ですね」
堀込はさわ子の工事という言葉に軽く笑いながら自分のデスクへと向かって行くのだが……。
「なんてな!こないだコソコソしてたのはこれか!怪しいと思っていたんだ!」
堀込はどうやら統夜たちやさわ子のやろうとしていたことを見抜いていたようであり、鞄を自分のデスクへ投げ捨て、方向転換をして職員室を出て行った。
「!?待ってください!!」
ここで堀込にライブを止められては、これまでの計画が水の泡になるだけではなく、統夜たちが堀込に怒られることになり、当時の自分たちの二の舞になってしまう。
さわ子はどうにか堀込を止めようと慌てて堀込を追いかけていった。
堀込が職員室を出て行ったちょうどその頃、2曲目である「五月雨20ラブ」の演奏が終わり、残すは最後の1曲となっていた。
統夜たちが最後に選んだ曲は、最後の学園祭ライブのトリとして演奏し、放課後ティータイムとしても思い出深い曲である「U&I」であった。
この曲が始まった頃には3年2組の教室に人数がかなり増えており、統夜たちの演奏を楽しんでいた。
そして、レオが用意した魔導具のおかげで、イレス、レオ、アキトも番犬所で統夜たちの演奏を楽しむことが出来た。
そんな中、堀込は統夜たちの演奏を止めるべく3年2組の教室に向かっており、それをさわ子が必死になって止めようとしていた。
「ま、待ってください!」
「問答無用!」
「朝のホームルームまでには終わらせますから!」
さわ子は堀込にしがみついて必死に止めようとするが、その甲斐むなしく、ズルズルと引きずられていた。
そんなこととは知る由もなく、統夜たちの演奏は進んでいった。
U&Iの演奏が進めば進むほど盛り上がっていき、教室内だけではなく、廊下から覗き込むように演奏を聴いている者もいた。
憂と純がまさしくその例であり、廊下で演奏を聴いていたのだが、それを見ていたいちごが憂と純を教室へと手招きしていた。
いちごの計らいにより、憂と純は教室の中で統夜たちの演奏を聴いていたのであった。
曲も後半になっていき、唯は梓や統夜と向かい合わせになり、同じリズムを奏でて笑い合っていた。
こうして、最後のサビに向けて唯は歌い始めるのだが、「笑わないでどうか聞いて。思いを歌に乗せたから」という部分は、梓の顔をジッと見ながら歌っていた。
梓はこの唯の行動が理解出来ず、首を傾げていた。
そして、最後のサビに突入すると、唯はステージからジャンプして下に飛び降りて、クラスメイトたちに囲まれながら演奏していた。
そんな唯の咄嗟のパフォーマンスにクラスメイトたちは歓声をあげ、ステージで演奏している統夜たちは苦笑いをしていた。
その頃、堀込は3年2組の教室の前まで来ていたのだが、止めようとはせず、統夜たちの演奏をジッと聞いていた。
「……ま、昔のお前たちに比べたら、可愛いもんだな」
堀込は学生時代のさわ子の演奏と今行われている統夜たちの演奏を比較し、これならば問題はないだろうと判断し、統夜たちの演奏を止めることはしなかった。
すると、教室の扉が開かれると、クラスメイトたちは堀込とさわ子を囲むと、2人を教室へと誘導していた。
堀込とさわ子の登場に梓は驚くのだが、紬が「大丈夫よ」と言いたげな感じで笑みを浮かべていた。
曲も後は後奏を残すのみとなり、唯は気持ちが高ぶりすぎてピョンピョンと跳ねながらギターを奏でるのだが、紬もそんな唯につられてピョンピョンと跳ねながらキーボードを奏でていた。
統夜たちは心から演奏を楽しみ、観客たちと1つになり、最後の曲である「U&I」を最後まで演奏し切った。
最後の曲が終わると、ライブを聞いていたクラスメイトたちが大きな歓声と拍手を送り、統夜たちの卒業ライブは幕を閉じたのであった。
※※※
ライブも終わり、撤収作業を済ませると、朝のホームルームの時間となり、いつものような授業が行われていた。
そして最後の登校日の授業が終わり、統夜たち5人は朝のライブの成功の余韻に浸るかのように教室に残っていた。
登校日の授業といっても6時間フルで行う訳ではなく、午前中には授業は終わっており、他の学年は普通に授業を行っていた。
「……さて、後はあずにゃんの歌を完成させるだけだね!」
静寂がその場を支配する中、その静寂を破るかたちで口を開いたのは唯だった。
「だけってそこが一番大事なことだろ?」
『澪の言う通りだぜ。お前ら、ちゃんとあれから考えたのか?』
卒業旅行も終わり、最後の登校日も終わったことで卒業式までは時間が出来た統夜たちであるが、梓に贈る曲がまだ完成していなかった。
曲の練習もしなければならないので、そろそろ完成させないとまずい状況であるのだが……。
「……私、メロディ作ってきたの」
「え?聴かせてぇ!」
紬はどうやらこの曲のベースとなる音源を用意していたようであり、その音源が入っているプレイヤーを取り出すと、それを唯に渡し、唯はイヤホンを両耳にセットしてその音源を聞いていた。
唯はその音源を聴くとそれが良かったのか、唯は頬を赤らめていた。
唯はプレイヤーを澪に渡すと、律とイヤホンを共有しつつ音源を聴いていた。
すると……。
「あ、ムギ!凄いぞ!これ!」
「あぁ!」
どうやら、律と澪にも好評のようであった。
「どれどれ?」
後は聴いていないのは統夜だけなので、澪からプレイヤーを受け取り、統夜は音源を聴いていた。
「……あぁ。いい感じだな!」
「それじゃあ、後は歌詞がまとまれば完成ね!」
統夜にも好評であり、曲はこの曲で行くことが決定し、後は作詞のみとなった。
「あずにゃんといた時間がたくさんあって困っちゃうね。私たちの宝物だよ」
「あ!それ使おうよ!」
さっそく歌詞のフレーズが思いついたのか、ここから統夜たちは梓に贈る曲の歌詞を話し合っていた。
色々とアイディアは出たのだが、上手くまとまらず、統夜たちはそのアイディアを各自まとめて後日発表しようと結論を出してこの日は解散となった。
この日を境に統夜たちは、梓に贈る曲を作るために本格的に動き出すのだった。
そしてそれは、統夜たちの卒業も間近に迫っていることをも意味していたのであった……。
……続く。
__次回予告__
『まったく、人間というのはよくわからん生き物だな。何でもかんでも写真を撮りたがるんだからな。次回、「撮影」。ま、あぁいう写真であれば俺様も良いとは思うがな』
統夜たちは最後の登校日にライブを行い、最高の思い出を作ることが出来ました。
ふと気付いたのですが、堀込先生が何気に初登場でした。
堀込先生はさわ子が高校生だった頃から先生だったため、どこかで登場させてもいいかなと思いましたが、登場は今回だけになりそうです。
DEATH DEVILと放課後ティータイムでは曲の感じがあまりに違うから、堀込が許すのもわかる気はしますね。
そして、梓に贈る曲も少しずつ出来上がってきてますが、これからどうなるのか。
さて、次回ですが、オリジナルの話になります。
この小説の感想を度々くれたジョーカーさんが考えてくれた話をここで使おうと思いまして、次回はその話になっています。
その他にもこういう話を見てみたいというリクエストがあれば、言っていただけると嬉しいです。
番外編にはなると思いますが、出来る限り採用していきたいと思っています。
それでは、次回をお楽しみに!