前回、卒業旅行の場所をロンドンと決めた統夜たちですが、今回はさらに詳しいことを決めていきます。
統夜たちの卒業旅行はどのようなものになるのか?
そして、梓へのプレゼントはいったいどうなるのか?
それでは、第105話をどうぞ!
唯たちの受験が無事終わり、統夜たちは不意に卒業旅行のことを考えるようになった。
どこに行きたいかを話し合った結果、統夜たちはロンドンへ行くことが決まったのであった。
「……アフタヌーンティーが出来るね♪」
「え?ロンドンでお茶が飲めるの?」
卒業旅行の場所が決まり、統夜たちは再びティータイムを行っていたのだが、紬が不意にアフタヌーンティーの話を出していた。
「ロンドンといえば紅茶の国でもあるからな」
「すごい!私たちにピッタリだね!」
毎日のようにティータイムを行っている統夜たちにとってはロックの国であり、紅茶の国であるイギリスのロンドンはピッタリな場所であると、唯は感激していた。
「6人だから、部屋は2つかしら?」
「ちょうど3人ずつでいけるからな」
「おい、ちょっと待て。俺は男なんだから1人部屋がいいんだが」
「ダメよ!3部屋にしちゃったらその分予算もかかっちゃうじゃない」
「安心しろ、統夜。梓とは相部屋にしてやるから」
「……まぁ、そういうことなら仕方ないか」
統夜は男であるため、部屋は相部屋ではなく1人部屋を希望していたが、統夜だけ1人部屋となると、その分予算もかかってしまうため、紬に却下されてしまった。
そこを理解した統夜は、渋々2部屋を3人ずつで割ることを承認していた。
「へ?ちょ、ちょっと待ってください!」
梓は自分も卒業旅行に行く前提で話が進んでいることに驚いていた。
「梓ちゃんも行くでしょ?」
「いえいえ。先輩たちの卒業旅行ですから!」
梓は自分はまだ卒業しないため、先輩たちと卒業旅行に行くということに抵抗があった。
「梓ちゃん、パスポート失くしちゃった?」
「ありますけど、私には学校が……」
「期末テストの後に休みがあるだろ?」
「……な、何!?期末テストだと!?」
魔戒騎士としての使命があるため、普段から勉強していない統夜は、期末テストというキーワードに過剰に反応してしまった。
「3年生は期末テストはないから」
「統夜、話が進まんから黙っててくれ」
「す、すいやせん……」
3年生は卒業を間近にしているため期末テストはないのだが、統夜はテストというフレーズに過剰に反応したせいか、律に怒られてしまい、しょんぼりとしていた。
「……た、確か5連休になるはずで……」
「じゃあ、なんの問題もないじゃん!」
「で、ですけど……」
「私はあずにゃんと一緒がいいよ!あずにゃんがいてこその軽音部なんだし!」
「……」
唯の力説を聞き、梓は行きたいという気持ちと、自分は行かない方がいいという葛藤と戦っていた。
「梓、行きたくないなら無理強いはしないぜ。だけど、俺は梓と一緒がいいと思ってる」
「わ、私も行きたいです!行きたいですけど、私がいたら邪魔になりませんかね?」
「やれやれ……。梓、俺たちってそんなに遠慮し合う仲だったか?俺たちは梓が一緒なのがいいんだから、遠慮されるのは寂しいぜ」
「……」
恋人である統夜の説得はかなり効果的だったのか、梓は真剣な表情で考えていた。
そして……。
「……私も、皆さんと一緒に行きたいです!」
「「やったぁ!!」」
梓も行くことを決意し、それを聞いた唯と律はハイタッチをしていた。
「で、でもその前に、おうちに確認をしないと……」
いくら行きたいと思っていても親の承認がなければ行けないため、梓は携帯を取り出して、親と連絡を取っていた。
電話をかけるため梓は音楽準備室を出たのだが、その様子を見ていた唯たちは互いに顔を見合わせていた。
そして統夜を除く4人はとある行動に出ていた。
すると……。
『……!ありがとう!お母さん!』
梓の声が扉越しに聞こえてきた。
その声色は明るく、どうやら、承認が下りたようであった。
「……オホン!母もいいと言ってくれたので……」
梓は音楽準備室に戻り、結果を報告しようとしたのだが……。
「……そう、ロンドン!」
「うん、みんなで卒業旅行に行くことになったのよ」
「あっ、もしもし、ママ?」
「お母さん!一生のお願い!」
「……うん、律も一緒だから大丈夫」
どうやら唯たちもそれぞれ親に連絡を取り、卒業旅行へ行く許可をとっていた。
「ホントに?ありがとー!!」
「それじゃねぇ、バイバーイ!」
親の承認を得た唯たちは一斉に電話を切った。
こうして無事に卒業旅行へ行けることになり、唯たちは笑みを浮かべていた。
(……私がしっかりしよう)
梓は自分が中心になって卒業旅行を進めていこうと決意していた。
一方、統夜は……。
(……今日部活が終わったら、イレス様に許可をもらわないとな……)
統夜だけが卒業旅行に行けるかどうか不透明であり、この部活が終わったらイレスに卒業旅行の許可をもらおうと考えていた。
こうして、卒業旅行へ行くことが決まったところで、この日の部活は終了した。
部活が終わると、統夜は番犬所へ直行し、イレスに卒業旅行の許可をもらおうとしていた。
「……お、統夜。来ましたね」
「はい、イレス様」
番犬所に入るなり、先に魔戒剣の浄化を済ませ、それから統夜はイレスに挨拶をしていた。
都合のいいことに、番犬所には戒人の姿もあった。
「……イレス様。いきなりで申し訳ありませんが、相談がありまして」
「相談?もしかして、この前話していた卒業旅行のことですか?」
「えぇ、今日軽音部のみんなと行くことが正式に決まりまして」
イレスは卒業旅行に行く可能性があると統夜から聞いていたため、統夜の相談が卒業旅行に関することだということは察していた。
「いつ行くのですか?それに場所も……」
「2月×日から5連休が入るんですけど、その5連休で行くことになりました。場所はロンドンです」
統夜は卒業旅行に行く日と場所をイレスに報告していた。
「ロンドンですか、いいですね。それに、×日ってことは来週の終わりあたりですかね?」
「そうですね。それで、俺もぜひその卒業旅行に参加したいのですが……」
「……統夜、行ってこい」
イレスが許可を取る前に、戒人が統夜の卒業旅行を後押ししていた。
「戒人……いいのか?」
「もちろんだ。だって統夜にとってはその旅行が最後の思い出になるんだろ?5日間という期間は長いが、俺なら問題はないさ。だから、統夜。お前はその最後の思い出、悔いのないように作ってこい!」
「戒人の言う通りですよ。それに、こんなこともあろうかと思いまして、元老院から応援を要請したのです」
イレスは、統夜が卒業旅行に出かけるであろうことを見越して、既に元老院へ応援を要請していたのであった。
「元老院から?」
「まさか……」
元老院へ応援を要請と聞いた瞬間、誰が来るのか統夜には思い当たる節があった。
「……そのまさかだぜ!」
統夜が元老院からの応援に来る人物のことを考えていると、番犬所の入り口から声が聞こえてきて、2人の青年が番犬所に入ってきた。
「……よう、統夜、戒人。元気そうだな」
「久しぶりですね。統夜君、戒人君」
「れ……レオさん!?」
「それにアキトまで……」
番犬所に現れた元老院からの応援こそ、統夜とは親交の深い魔戒騎士と魔戒法師の2つの顔を持つ布道レオと、統夜にとっては盟友である魔戒法師のアキトであった。
「イレス様から話は聞きました。統夜君は卒業旅行に行きたいんですよね?」
「はっ、はい」
「卒業旅行かぁ。俺も行きてぇなぁ。でも、俺英語はからきしだし、別にいいけどな」
アキトも卒業旅行に行きたいといきなりとんでもないことを言うが、すぐにその発言を撤回していた。
「ま、そういうことだから、思い切り楽しんで来い」
「えぇ。あなたのすべき仕事は僕とアキトで引き受けます。だから、統夜君はぜひ最後の思い出を作ってきてください」
「アキト……レオさん……」
統夜は、自分のために協力をしてくれるアキトやレオに心から感謝をしていた。
「……あっ、あと!お土産は忘れるなよ!」
「もちろん。みんなへのお土産は必ず用意するから」
統夜は言われるまでもなく、イレスたちにお土産を買うつもりでいた。
「統夜、そういうことですので、心置きなく卒業旅行に行ってきてください」
「イレス様……本当にありがとうございます!」
統夜は卒業旅行に行くことを許可してくれたイレスに非常に感謝しており、 深々と一礼をしていた。
こうして、卒業旅行に行く許可をもらった統夜は、番犬所を後にした。
この日は指令がなかったため、せめて街の見回りは頑張ろうと気合を入れて街の見回りを行っていた。
※※※
翌日、この日は梓も学校が休みだったため、全員で旅行代理店に行くことになっていた。
「……いらっしゃいませ。ご旅行の相談ですか?」
統夜たちを対応していた女性店員は、百点満点な笑顔で接客を行っていた。
「は、はい!」
普段はこのような場所を訪れる機会はないのか、律は少しだけ緊張していた。
「ロンドンで5日間」
「ロンドンで3泊5日ですね?」
「え?3?減ってない?」
「行き帰りで1日使うから」
紬はなぜロンドン行きが3泊5日になるのか簡単に説明していた。
「あー、うん!」
「知ってたし!」
唯と律はなぜ3泊5日なのか知らなかったのだが、意地を張って知ってる風に装っていた。
統夜はそんな2人の様子を見て苦笑いをしていた。
「ロンドン市内のみでよろしいですか?」
「いいんだっけ?」
「あぁ、いいんじゃないのか?」
「いいと思います!見る場所はたくさんあるので!」
梓はロンドンのガイドブックを見ながらロンドン市内のみを見て回ることに賛同していた。
律は梓の見ていたガイドブックを見ると……。
「あー!あたし、これ乗りたい!」
「これ、美味しそうだねぇ!」
「はい!」
「紅茶屋さんにも行こうね♪」
「これ、格好いいな!」
「わ、私はジミヘンとかジミー・ペイジの住んでた家に行きたい!」
「あ、いいですね!」
「あと、アビーロードも!」
統夜を除く5人は、店員そっちのけでどこへ行きたいか盛り上がっていた。
(おいおい、それじゃここに来た意味がないだろうが……)
店員そっちのけで盛り上がる唯たちに、統夜は呆れていた。
店員もそんな唯たちに困惑していた。
「あ、あの……。それでしたら、全て自由行動の個人旅行がオススメですよ?」
旅行代理店の旅行は、プランに沿って行動するため、あちこち行きたいところがあるなら、個人旅行の方がいいと店員は勧めていた。
「え!?さすがにそれは……」
「じゃあ、それでお願いしまーす!!」
律は勝手に個人旅行で卒業旅行を行っていくことを決めていた。
「えぇ!?」
「やれやれ……。やっぱりこうなるか……」
梓は律の決断に驚き、統夜はそんな律の決断を予想して頭を抱えていた。
こうして、統夜たちは旅行代理店に頼ることなく、自分たちで旅行のプランを考えることになった。
翌日、この日は学校であり、放課後に音楽準備室で紅茶を飲みながら旅行のプランを考えることになった。
そんな中、唯はオカルト研の人に頼まれたと話し、ネッシーを見たいと言い出していた。
「……という訳なんだけど予定に入れられないかな?」
「おいおい、ネッシーって……」
唯の唐突な提案に統夜は呆れていた。
「ネッシーですか?……さすがにネス湖は遠いですね……」
梓はガイドブックを参考に旅行のプランを考えていたのだが、ネス湖はかなり距離があるため、プランに組み込むのは困難であった。
「それに、ネッシーっていないって言うらしいじゃない」
その場にはさわ子もおり、さわ子はネッシーは存在しないと話をしていた。
「まぁ、ホラーがいるくらいだからネッシーがいてもおかしくはなさそうだけどな」
統夜は魔戒騎士として日夜ホラーと戦っているからか、ネッシーのようなUMAの存在には肯定的だった。
「えぇ!?それじゃあネッシーっていうのはオカルト研ギャグ!?レベル高すぎてわかんないよぉ!」
「まぁまぁ、平沢さん♪」
律は唯をリラックスさせようと唯の肩を揉んでいた。
「皆さん、他に行きたいところはないですか?」
「「ないでーす♪」」
梓の問いかけに、唯と律は揃って答えていた。
「それじゃあ、これを元に行程をまとめてきます」
「梓、頼んじゃっても大丈夫なのか?」
「はい!私、こういうの好きなんです!」
「だけど、1人でやらせるのは悪いから、俺も手伝うよ」
統夜は梓1人に旅行のプランを考えさせるのは忍びないと思い、手伝うことを提案したのだが……。
「いいんですよ。それに、統夜先輩は卒業旅行に行く前まで魔戒騎士のお仕事で忙しいでしょ?私に任せてください!」
統夜は、卒業旅行に行く前はイレスに多くの仕事を与えられたため、休む時間は少なく魔戒騎士として働いていた。
梓は統夜の申し出自体は嬉しかったのだが、旅行のプランを一緒に考えることで無理をさせたくなかったため、統夜の申し出を断ったのであった。
「……わかった。それじゃあ、悪いけど、頼むな」
統夜はそんな梓の気持ちを汲み取ると、旅行のプランを考えるのは梓に任せることにした。
「はい!任せてください!」
「梓ちゃん、紅茶のお代わりはいかが?」
「あっ、大丈夫です。もうお腹パンパンなので」
「あずにゃんが予定立てるとおやつの時間なくなっちゃうんだよなぁ……。自由行動なんだから、自由に行動すればいいのに……」
『おいおい、それじゃあ旅行として成り立たないだろ?おやつなんてどっかで適当に食べればいいだろ』
イルバは唯の呟きを見逃さず、このようになだめていた。
「……ハッ!確かにそうだね!イルイルの言う通りだ!」
『だからお前さんは何度も何度も俺様を変なあだ名で呼ぶな!』
イルバは唯が自分をあだ名で呼ぶことを今でも気に入らず、相変わらずなやり取りをしていた。
そんな中、梓は帰り支度を始めていた。
「あれ?梓ちゃんはもう帰るの?」
「はい!皆さんは帰らないんですか?」
「あっ、俺はそろそろ番犬所に向かわないと……」
「待てい!!」
律はこのまま帰りそうになっていた統夜の首根っこを掴み、帰り支度をしようとしていることを阻止していた。
「……梓へのプレゼントはどうするつもりだよ」
律は梓にバレないように、小声で耳打ちをしていた。
「……!そうだった!」
「?どうしました?」
梓はそんな統夜と律を訝しげに眺めており、首を傾げていた。
「梓、悪いけど、先に帰っててくれないか?俺たちはまだちょっとやる事があってな」
「は、はぁ……」
「梓ちゃん、これ、クッキー持っていって!食器は私たちで洗っておくから!」
紬は今日のティータイムのおやつであるクッキーの余りを梓に渡していた。
「あっ、ありがとうございます。それでは、失礼します」
梓は統夜たちにペコリと一礼をすると、音楽準備室を後にした。
「……さて」
「……ここからが本番……やで♪」
梓がいなくなったことを確認すると、律は今日決めるべき本題を切りだそうとするのだが……。
「何の?」
さわ子がまだ音楽準備室にいることを忘れており、統夜たちは驚いていた。
「うわぁ!さわちゃん!いたのかよ!」
「ちょ、ちょっとぉ!」
「つまらないものですが♪」
紬はさわ子に余ったクッキーを差し出し、律はさわ子を押し出して音楽準備室から追放しようとしていた。
「あれぇ?さわちゃん、今日はデートの予定があるんじゃなかったっけ?」
「そんな予定ないもん!」
律の言葉が気に入らなかったのか、さわ子はぷぅっと頰を膨らませていた。
「またまたぁ♪」
さわ子は統夜たちに半ば強引に追放される形で、音楽準備室を後にすることとなってしまった。
「……よし」
「改めて、あずにゃんへのプレゼントを考えないとね!」
さわ子もいなくなったところで、今日決めなければいけない本題の話し合いを始めた。
「梓にはかなり世話になっているからな……」
「梓への感謝の気持ちをあたしらなりに表現するとなると……」
「劇とか?」
「それは勘弁してくれ!!」
統夜はもう劇をやりたくないのか、否定的だった。
「……んー、他にないかなぁ?」
「劇は嫌だが、せめてきょk……」
「あーっ!!あずにゃん、むったんを忘れてる!!」
統夜が意見を出そうとしたその時、唯は梓の忘れ物に気が付いていた。
唯のいうむったんとは、梓愛用のギターである「ムスタング」のことであり、梓自身が命名した名前であった。
「ムスタングだろ?」
「澪ちゃんのはエリザベスよね?」
「……////」
エリザベスというのは、澪愛用のベースのことである。
この名前を命名したのは唯なのだが、なんだかんだでこの名前が気に入ったのか、澪自身も時々はエリザベスと呼ぶようになっていた。
澪はそれが恥ずかしいと思ったのか、頬を赤らめていた。
「あ、そうだ!むったんに聞いてみようよ!……むった〜ん♪」
唯はムスタングことむったんの入ったギターケースの前に歩み寄り、その前でしゃがんでいた。
「あずにゃんへのプレゼント……。何がいいと思う?……な〜んちゃって♪」
唯は梓のギターケースを軽くツンっとつつくのだが、その衝撃で、ギターケースが倒れそうになっていた。
「あ、危ねえ!!」
「へ!?う、うわぁ!むったん!!」
梓がいない中、ギターを傷つけるわけにはいかなかったので、唯は咄嗟にむったんを抱きかかえると、そのまま倒れ込み、頭を打ってしまった。
その時、むったんは軽く音を鳴らしていたのだが……。
「……ハッ!!」
唯はその音を聞いて何か閃いたようであった。
「……む、むったんが……」
「「「「ん?」」」」
「曲って言った……」
「しまった!打ちどころが悪かったのか!」
「北極?」
唯のこの提案を、統夜たちは理解しておらず、紬に至ってはボケをかましていた。
「違うよ!曲……」
「芸?」
「じゃなくて、曲……」
「たん♪」
律と紬はボケを繰り返すため、話がなかなか進まなかった。
『おいおい。要するに梓のための曲を作るってことだろ?』
イルバは唯の曲という言葉を聞いて、ここまでのことを分析していた。
「うん!そうだよ!それに、憂も言ってた!あずにゃんは、軽音部と、軽音部の音楽が大好きだって!」
唯は起き上がりながら何故曲という案がいいのか理由を話していた。
「梓ちゃんのための曲……」
「いいじゃん!それ!」
「ったく……。曲って案は俺が最初に言おうとしたのに、美味しいところを持ってきやがって……」
統夜は梓に曲をプレゼントするという案をだそうとしたのだが、その前に唯に止められてしまい、今までそれを言うことが出来なかった。
「いいよね!先輩が後輩に向けて贈る曲なんて、すっごく格好いいよね!」
「あぁ。それなら先輩らしいし、俺もいいと思ったんだよ」
「なぁ、唯。どんな曲にしよう?」
「やっぱり、先輩が後輩に贈る曲だからね……。バーン!として、ドーン!として、ドッカーン!だよ」
「……わからん」
『おいおい、そんな擬音語だらけじゃわかる訳ないだろ?』
唯のイメージはあまりに伝わりにくいため、イルバはこのように唯をなだめていた。
「……要するにスケールの大きい曲ってことか?」
統夜は擬音語からこのように察していたのだが……。
『わ、わかるのかよ!?』
唯の擬音語だけでここまで察した統夜にイルバは驚愕していた。
「そうだよ!今までにない、スケールの大きい曲を作りたいんだよ!ふんす!」
唯は自分の作りたい曲のイメージを伝えると、何故か誇らしげにしていた。
「なぁ、みんな。曲についてなんだが、実はな……」
統夜は梓に贈る曲について案があり、それを話そうとしたのだが……。
『待て、統夜!誰か来るぞ!』
イルバは階段を上がる音を聞き取り、誰かがここへ来ることを告げていた。
「もしかして、あずにゃん?」
「その可能性はあるな。……ここは任せろ」
統夜はむったんの入ったギターケースを手に取ると、そのまま音楽準備室の入り口まで移動し、ドアを開けた。
すると……。
「……あっ、統夜先輩」
梓はドアを開けようとしたら統夜が姿を現したことに驚いていた。
「梓、もしかしてこれを取りに来たんだろ?」
「はい。忘れちゃったのを思い出しまして……」
「ま、忘れることもあるよな。ほら、もう忘れるなよ?」
統夜はむったんの入ったギターケースを梓に手渡していた。
「あっ、ありがとうございます。先輩たちはまだ何かやってるんですか?」
「まぁな。実は、俺たちのクラスでさわ子先生へのサプライズを考えていてな。今、それについて話をしてたんだよ」
統夜は今話していたのとは違うサプライズの話を振り、梓に怪しまれないよう仕向けていた。
「へぇ、そうなんですか!それはさわ子先生も喜びますね!」
「だから、この話はさわ子先生には内緒だからな?」
「はい!もちろんです!」
「それじゃあ俺たちはもうちょっと話し合いをしてから帰るから、梓は先に帰っててくれ」
「わかりました!失礼します」
梓は統夜にペコリと一礼をすると、そのまま階段を降りていった。
「……さてと」
どうにか誤魔化すことに成功した統夜は、音楽準備室に戻ってきた。
「……統夜、どうだった?」
「あぁ。さわ子先生へのサプライズの話を持ち出して、どうにか誤魔化したよ」
サプライズの話をしているということに対しては嘘ではなく事実なので、どうにか誤魔化すことが出来たのであった。
「イルバが気付いてくれたおかげで助かったぜ」
『まぁな。ここで梓にバレてしまったら、サプライズは台無しだからな』
イルバは、統夜たちの気持ちを汲み取り、自分なりに統夜たちのサポートをしようと考えていたため、このようなアシストを行うことが出来たのであった。
「よっしゃあ!したら、梓への曲のアイディアをみんなで考えようぜ!」
「「「「おぉ!!」」」」
こうして統夜たちは、梓へ曲をプレゼントすることを決めて、その曲について話し合っていた。
この日だけでは上手くまとまることはなく、各自で考えてくることになり、この日は解散となった。
統夜は唯たちと解散した後、番犬所に立ち寄り、イレスから与えられた仕事をこなしていたのであった。
こうして、卒業旅行や梓へのサプライズに向けて、それぞれが動き始めたのであった……。
……続く。
__次回予告__
『いよいよこの時が来たな。俺様も海外は初めてだからな。いったいどうなることやら……。次回、「渡英 」。放課後ティータイム。いざ、ロンドンへ!!』
こうして、卒業旅行の詳細が決まり、梓へのプレゼントも決まりました。
統夜たちは梓へ曲をプレゼントすることになりましたが、どのような曲になるのか?
そして、今回統夜がUMAの存在を信じているという事実が明らかになりました。
統夜は日頃からホラーと戦っているので、そのような考え方になるのもわかる気はしますが(笑)
さて、次回はいよいよ統夜たちがロンドンに向けて出発します。
ロンドンへの旅路はいったいどのようなものになるのか?
それでは、次回をお楽しみに!