牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第104話になります!

そして、今回から新章に突入しますが、この章が最終章となります。

そのタイトルは、100話到達記念で発表した通り、「卒業!金色の試練編」となっています。

この小説も終わりに近付き、少し名残惜しいですが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

この最終章は劇場版「けいおん!」の話がメインになっています。

前回の後書きにも書きましたが、劇場版が未見でこれから見る予定のある人はこの先多大にネタバレを含んでいるのでご注意ください。

前書きが長くなりましたが、それでは、第104話をどうぞ!


卒業!金色の試練編
第104話 「提案」


唯、律、澪、紬の4人は揃って同じ大学を目指し、必死に勉強を重ねていた。

 

そして、その苦労の甲斐あってか、唯たち4人は揃って第一志望の大学に合格し、4月からは4人揃って同じキャンパスへ行けることになった。

 

その翌日、唯たちはいつものように登校し、さわ子に4人揃っての合格を伝えた。

 

さわ子は素直に4人の合格を祝福していたが、実はこの頃には4人の合格はさわ子の耳に入っていたのであった。

 

昨日、統夜は唯たち4人の合格がわかると、わかりやすい程喜びをあらわにして、クラスメイトたちにもこの情報を共有していた。

 

そのため、クラスメイトたちも唯たち4人の合格を祝福してくれたのであった。

 

こうして、唯たちは合格の報告も終え、ここでようやく受験という呪縛から解放されたのであった。

 

そして放課後、統夜たち5人は音楽準備室に集まると、今まで溜まっていたフラストレーションを発散するように演奏を行っていた。

 

厳密に言うと、ラジカセに入っているテープを再生し、そこから流れてきた激しい音楽に合わせて演奏したフリをするエアバンドであったが、遊びとしてはかなり上等なものであった。

 

音楽準備室からいつもとは違う雰囲気の激しい曲が聞こえてきており、それを聞いて困惑している生徒たちもいた。

 

梓もそのうちの1人であり、音楽準備室から聞こえる激しい曲に困惑していた。

 

そんな気持ちを抱きながらも音楽準備室に入るのだが……。

 

「……スカイハーイ!!」

 

梓が音楽準備室に入るのと同じタイミングで唯がわけのわからないことを叫んでいた。

 

「……な、何やっているんですか?」

 

梓は困惑した状態で今何をしているのかを聞こうとしていたのだが……。

 

「……違う!放課後ティータイムが目指している音楽は……こんなんじゃない!」

 

「でも……。私はこの路線で行きたいんだよ」

 

「何?……唯のくせに唯のくせに唯のくせにぃ!!」

 

何故か音楽の方向性で対立している律と唯であったが、律は唯の胸ぐらを掴み、唯の体をガクガクと揺らしていた。

 

「やめて!2人とも!」

 

「ムギの言う通りだ。その辺にしておけ」

 

紬と統夜の2人で律を止めたため、律は手を離していた。

 

「あの……。何かあったんですか?」

 

「もう……軽音部は……解散しちゃうかも……」

 

「え!?何でこんな時期に!?」

 

梓は突然の解散宣言に驚きを隠せなかった。

 

「みんな……目指す方向性が違ってきたんだよ」

 

「音楽性の違いだよ!あずにゃん!」

 

「なーにが音楽性だよ!」

 

「1つの行動を覚えたら3つ忘れるような唯が音楽性……?」

 

「?」

 

梓は澪の言い方が少しだけ棒読みっぽいのが気になったが、そこは気にしないことにした。

 

「みおちゃんだって、転んでパンツ見せたくせに」

 

「なっ!?そ、それは関係ないだろ!?」

 

唯は1年性の時の学祭ライブの話を出すと、澪は顔を真っ赤にして否定していた。

 

「あ、あの……。音楽性の話をしてたんじゃ……」

 

「梓ちゃんはどう思う?」

 

「は、はい!やっぱり私たち、放課後ティータイムは、やっぱり明るくて元気な曲が……」

 

梓は放課後ティータイムには明るくて元気な曲が合っていると考えており、音楽の方向性を変える必要はないと思っていた。

 

すると……。

 

「……正直……。ふわふわした曲はもう……きついんだよね」

 

「ぷっ!」

 

唯のとんでもない発言を聞いた統夜は思わず吹き出してしまい、笑っていた。

 

「どの口が言う!統夜が笑うのもわかるぜ!唯が入部してきて、「軽音部って軽〜い音楽をやってるんでしょ?」って聞かされた時はババ摑まされたと思ったぜ!」

 

「ババ……?」

 

梓は律の言葉に困惑していた。

 

「ごろごろしてるだけでいいからどうしてもって言ったの、りっちゃんじゃん!」

 

「何ぃ!?」

 

「あ、あの……。ババ抜きやりませんか?」

 

梓はこのピリピリとした空気をどうにか和ませるためにババ抜きを提案したのだが……。

 

「馬鹿野郎!梓!軽音部が生きるか死ぬかを決める大事な話をしてるんだぞ!」

 

律はそんな梓の提案を少しだけ怒り気味に却下していた。

 

「あずにゃん!」

 

「は、はい!」

 

「後で……やろうね……」

 

どうやら唯は今ではなく後からならばババ抜きをやってもいいと思っているみたいであった。

 

(後ならいいのかよ……)

 

このやり取りを聞いていた統夜は、心の中でツッコミを入れていた。

 

「まったく……。入ったはいいものの、ギターは弾けないわ、ハーモニカは吹けないわ!」

 

「吹けるもん!ハーモニカ吹けるもん!」

 

律は唯が軽音部に入ったばかりの頃の話を持ち出し、唯はムキになって反論していた。

 

「え、そうなの?それじゃあ、さっそくふいてみt……」

 

「ごめんなさい!吹けません!」

 

律は制服のポケットからハーモニカを取り出そうとするが、その前に唯はハーモニカが吹けないことを正直に白状し、謝っていた。

 

「……ちゃんちゃらおかしいわね」

 

「……?ムギ……ちゃん?」

 

「「「ムギ?」」」

 

唯、統夜、澪、律の4人は、紬の唐突な言葉に困惑していた。

 

「そ、そもそも!ムギちゃんがお菓子持ってくるから悪いんだよね!」

 

『おいおい、1番飲み食いしてるやつが言うなよ……』

 

今まで沈黙を貫いてきたイルバだったが、先ほどの唯の発言は黙っていられずにツッコミを入れてしまった。

 

「美味しいの持ってくるからいけないんだよぉ」

 

「それは悪うございましたねぇ」

 

「……何をー!!みおちゃんも何か言いなよ!」

 

「り、律が悪い!」

 

「そうだそうだ!りっちゃんのくせに!」

 

「な、なんだとー!?統夜!お前も黙ってないでなんか言えよ!」

 

「……俺はノーコメントで」

 

「なんだとー!すかしやがって!」

 

音楽性についてもめているつもりが、いつの間にかレベルの低い口喧嘩のようになってしまった。

 

「……あれ?このラジカセ……」

 

梓は長椅子に置かれたラジカセが気になり、再生ボタンを押した。

 

すると……。

 

__♪ズンジャンズンジャンズンジャン!

 

「あ、これ、さっきの……」

 

ラジカセからは先ほど聞こえてきた曲が再生されており、梓はふと先輩たちの方をみると、統夜たちはその曲のリズムに合わせてノっていた。

 

「……」

 

梓は停止ボタンを押して曲を止めると、統夜たちの動きはピタリと止まった。

 

「……」

 

再び再生ボタンを押すと、また統夜たちは曲のリズムに合わせてノっていた。

 

「……」

 

そして、また停止ボタンを押すと、統夜たちの動きはピタリと止まった。

 

「……」

 

梓は再生ボタンを押すフリをしてフェイントを仕掛けてみると、律がフライングしてスネアを叩いていた。

 

「……何やってるんですか?」

 

「……バレちゃった♪」

 

「デスデビルごっこだよ、あずにゃん!」

 

「楽しかったねぇ♪」

 

統夜たちは本気で音楽性についてもめていた訳ではなく、デスデビルごっこと称して遊んでいただけであった。

 

「なぁ、いい加減練習の合間に小芝居を挟むのやめないか?」

 

「えぇ!?みおちゃんだってノリノリだったじゃん!」

 

『まぁ、ちょっと澪は棒読み気味だったのが俺様は気になったがな』

 

「えぇ!?そ、そんなことはないと思うけどな……」

 

イルバは統夜たちの遊びを呆れて見ていたのだが、気になったところを指摘し、それを聞いた澪は納得していなかった。

 

「……お芝居ですか……」

 

「そうだよぉ。だって、一度はやってみたいじゃん?音楽的な対立ってやつをさ」

 

「バンドの定番だもんなー♪」

 

「ねー♪」

 

「……まぁ、そんなとこだろうと思いましたけど……」

 

梓は今までのやり取りが遊びであり安堵するが、そうではないかと予想も少しはしていた。

 

そして……。

 

「……まさか統夜先輩も悪ノリに付き合うとは思いませんでしたけど」

 

梓にとっては恋人であり、軽音部の数少ない常識人だと思っていた統夜まで悪ノリをしており、梓はそんな統夜をジト目で睨みつけていた。

 

「だ……だってよ!みんなはノリノリなのに俺だけやらないのはおかしいだろ!?」

 

統夜は必死になって悪ノリをしていた理由を明かしていた。

 

『まぁ、お前さんは割と大人しい方だったがな』

 

イルバは最初からこの悪ノリの様子を見ていたが、統夜は積極的に参加している訳ではなかった。

 

「……まぁまぁ♪とりあえず、梓ちゃんも来たわけだし♪」

 

「あっ、ちょっと待ってください!」

 

統夜たちは悪ノリをしながらではあるが、練習はしていたため、梓はギターを取り出して練習に混ぜてもらおうと考えていた。

 

しかし……。

 

「お茶にしよっか♪」

 

「え!?」

 

梓は練習する気満々だったのだが、唯がティータイムを提案しており、驚きを隠せずにいた。

 

結局唯の意見が採用されることになり、統夜たちはいつものようにティータイムを行うことになった。

 

「……それじゃあ、さっきの反省会でもするか」

 

「もうちょっとあずにゃんをドキドキさせられるかな?って思ったんだけどね……」

 

統夜たちは練習の反省会ではなく、先ほどの悪ノリの反省会を行おうとしていた。

 

「練習の反省会じゃないんですね」

 

「あっ、そうそう。トンちゃんに餌をあげといたからね♪」

 

唯は先ほどの悪ノリを始める前にトンちゃんに餌をあげており、それを梓に報告していた。

 

「あっ、ありがとうございます」

 

「みんないまひとつだったわねぇ」

 

「ムギのちゃんちゃらおかしいはどうかと思うぞ」

 

「それに統夜!お前はいきなり笑い出すなよな!梓にバレると思って本気で焦ったじゃねぇか!」

 

澪は紬のおかしい言動を指摘しており、律は統夜が急に笑い出したことを指摘していた。

 

「だって仕方ないだろ?唯が柄でもないこと言い出すからよ!」

 

どうやら、唯の「ふわふわは正直きつい」という言葉が、統夜にはツボだったようであった。

 

「うーん……。そんなに変かなぁ?」

 

「エヘヘ……。みんな、ドンマイ♪」

 

紬は自分のことを棚に上げてこのようなことを言って笑みを浮かべていた。

 

「……私、こういういい加減な部とは知らずに入部しちゃったんですよね……」

 

「あーら!梓、そんな生意気なことを言っていいのか?」

 

「そうだよ、あずにゃん!軽音部に入らなかったら、このお茶、飲めなかったかもしれないよぉ!」

 

「うっ……」

 

「琴吹家と冴島家自慢の紅茶よ♪」

 

紬が毎日持ってくる茶葉は、琴吹家自慢の茶葉が主なのだが、家柄親交のある冴島家の執事であるゴンザからもらう茶葉があった。

 

どちらの茶葉も最高級品の茶葉であり、普段は間違いなく飲めない紅茶であった。

 

「……す、すいません。美味しいです……」

 

梓もこの紅茶をガブ飲みしていたため、これ以上否定的な発言は出来なかった。

 

「……あっ、ムギ!今日のおやつはバームクーヘンかぁ!1枚ずつ剥がして食べようぜ!」

 

「やめろ!なんか痛そうじゃないか!」

 

1枚ずつ剥がすというのが澪には耐えられないのか、顔を真っ青にしていた。

 

そんな中、紬は袋を開けてバームクーヘンを取り出そうとするが、なかなか開かず、袋を開けるのに悪戦苦闘していた。

 

「……後は卒業するだけだねぇ」

 

唯は唐突にこのようなことを言っていた。

 

「確かにそうですけど、いいんですか?こんなにのんびりしてて」

 

「だって大学受かったしー。ねー、りっちゃん」

 

「ねー」

 

唯と律は互いに顔を見合わせて笑みを浮かべていた。

 

「それにしても奇跡ですよね。澪先輩やムギ先輩はともかくとして」

 

「まぁまぁ、梓。気持ちはわかるがそう言ってやるな。確かに奇跡的な結果だったけど、2人も凄く頑張ったんだしさ」

 

「統夜が一言余計なことを言うから嬉しくない……」

 

統夜は唯と律のフォローをしたつもりだったのだが、一言余計なことを言っていたようであり、律は苦笑いをしていた。

 

4人でこのようなやり取りをしている間にどうやらバームクーヘンの袋が開いたようなので、紬はそのバームクーヘンを切り分けていた。

 

「……では、改めて」

 

「みんな一緒の大学に受かって良かったわねぇ♪」

 

「ってことで乾杯しようぜ!」

 

「ほらほら、あずにゃんとやーくんも!」

 

「は、はぁ……」

 

「はいはい……」

 

こうして統夜たちはそれぞれのカップを手に取り、乾杯の体勢に入った。

 

「かんぱ〜い!!」

 

「「「「「かんぱ〜い!」」」」」

 

6人は律の合図で乾杯をしたのだが……。

 

「……かんぱ〜い!」

 

突如7つ目のカップが現れたのであった。

 

「「「「「うわぁ!」」」」」

 

突如現れた7つ目のカップに統夜を除く全員が驚いていた。

 

「やれやれ……。いきなり現れないでくださいよ、さわ子先生……」

 

「えへっ」

 

さわ子はペロッと舌を出しておどけていた。

 

「いやぁ、私もホッとしたわ。みんな一緒の大学に受かって……」

 

「3年生の担任も大変ですね……」

 

「うん……。でもあっという間だったわ。唯ちゃんたちがもう卒業だなんて……」

 

さわ子は統夜たちの卒業が間近ではあるものの、それがあっという間だったとしみじみと呟いていた。

 

「私たち、この3年間でどれくらいお茶を飲んだのかなぁ?」

 

「軽く千杯はいってるかもね」

 

「サウザンド!」

 

「まさしく放課後ティータイム」

 

「体を張ってバンド名を現してますね……」

 

『……俺様から言わせてもらえばそれだけダラダラしてたという訳だがな……』

 

「うぐっ、確かにそうだが、話に水を差すようなことを言うなよ、イルバ」

 

イルバは正論を突いており、統夜はその言葉にたじろいでいた。

 

「まぁ、後は送り出すだけね。……留年しなければね」

 

「留年?」

 

「そう。来週会議があるの。出席日数が足りてるか、赤点は多くないか、審査するのよ」

 

「そ、そんな大事な会議が!?」

 

「マジかよ……」

 

卒業出来るかを審査する会議の存在に唯は驚いており、統夜は愕然としていた。

 

「ふっふっふ……」

 

さわ子はどす黒い笑みを浮かべると、唯と律の肩を掴み、さらに統夜の肩も掴んでいた。

 

「「「ひぃっ!!?」」」

 

肩を掴まれたことで、自分が留年の可能性があると思い知らされた統夜、唯、律の3人は怯えていた。

 

「さっ……さささささわちゃん!さっき私たち、デスデビルごっこをしてたんだよ!」

 

「で、デスデビル凄いよぉ!!」

 

「そうだな!流石はさわ子先生のいたバンドだよ!だから……」

 

「だから?」

 

「「「ひぃっ!?」」」

 

さわ子は再びどす黒い笑みを浮かべており、3人は再び怯えていた。

 

「こ、ここは1つ、軽音部の先輩として……」

 

「よろしくぅ!!」

 

「今さらゴマ擦ってもねぇ」

 

「そ、そこを何とか!」

 

「さわ子大先生!」

 

「偉大なるさわ子大先生!」

 

統夜、唯、律の3人はどうにか留年を回避するために必死になっていた。

 

『やれやれ……。これが様々な事件を解決してきた白銀騎士の姿とは思えないな……』

 

留年を避けるために必死な統夜の姿に、イルバは心底呆れていた。

 

こうして、ティータイムの間、3人は留年を避けるために必死にさわ子にゴマをすっていた。

 

ティータイムを終えると、統夜たちは必要なくなった本をまとめたり、ゴミをゴミ袋に集めたりして、それをゴミ捨て場へと持っていこうとしていた。

 

その途中、中庭への入り口で、唯は足を止めたので、統夜たちも足を止めた。

 

「うーん……」

 

「どうした、唯?」

 

「うん……」

 

「さっきのさわちゃんが言ったことを気にしてるのか?」

 

「んー、そうじゃなくてねぇ……」

 

唯は言いたいことがあるようなのだが、それを上手く言葉にまとめることが出来ていなかった。

 

しばらく考えた後に、唯は話を切り出した。

 

「……私たち、先輩としての威厳がないまま卒業しちゃうんじゃないのかなぁ?」

 

「そうか?そんなことはないとは思うが……」

 

「やーくんは普段から先輩っぽいことしてるからそう思うんだよぉ」

 

唯の言う通り、統夜は梓と付き合う前から良き先輩として梓に接しており、梓は恋愛感情とは別にそんな統夜のことを尊敬していた。

 

「私たちだってそんなことないと思うけどな」

 

「そうよ!私たちは背が高いし、元気だし!」

 

「それに年上だ!」

 

「……他にないのか?」

 

紬と律の言う先輩らしさというのがどれもイマイチであり、澪は少し呆れていた。

 

「私……。最後に何か先輩らしいことをしたい!」

 

「いいじゃんそれ!唯、ナイスだぜ!」

 

「エヘヘ……」

 

唯の考えたアイディアに律が賛同し、唯はそれが嬉しくて笑みを浮かべていた。

 

「確かに面白そうだが、何にする?」

 

「あずにゃんっぽいプレゼントとかいいかもね!」

 

統夜たちはゴミ捨てのことなど忘れてしまい、梓へのサプライズを何にするか考えていた。

 

しばらく話をしていると……。

 

「……先輩!」

 

統夜たちの姿を見つけた梓が統夜たちに声をかけた。

 

「「「「わぁっ!!」」」」

 

「おう、梓。どうした?」

 

唯たち4人は急に梓に声をかけられて驚く中、統夜だけは冷静に返事をしていた。

 

「これ、落ちてましたよ」

 

梓は廊下に落ちていたチョコレートの袋を見せていた。

 

「ぶ、部室への帰り道がわからなくなるかなって思って……」

 

「おいおい、ゴミ袋に穴が開いてたんだろ?」

 

「そうですよ。それに、拾っちゃいましたし」

 

「あぅぅ……もう帰れない……」

 

「そんな訳ないでしょ。ほら、行きますよ」

 

「へーい」

 

こうして統夜たちは梓へのサプライズをどうするかという話を中断し、梓と共に本来の目的であったゴミ捨てを行った。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

この日、部活が終わると、統夜は番犬所に直行し、いつものように狼の像の口に魔戒剣を突き刺し、魔戒剣の浄化を行った。

 

「統夜、今日は登校日だったのですか?」

 

「はい。今日は登校日で、唯たちは4人揃って同じ大学に合格したことを報告していましたよ」

 

統夜たち3年生は、2月になると毎日登校という訳ではなく、週に2回か3回ほどの登校日以外は学校は休みであった。

 

今日は登校日であるため、統夜は授業を受け、部活へ行った後、番犬所に顔を出していた。

 

「統夜ももう卒業なんですね……。貴方を学校へ行くよう勧めたからか、とても感慨深いです」

 

「イレス様には本当に感謝しております。イレス様が学校へ行くよう勧めてくれたからこそ、俺は唯たちと出会い、守りし者とは何なのかを知ることが出来ました」

 

「そう言ってもらえると私も嬉しいです。それに、ホラーを狩るだけが魔戒騎士ではありませんからね。そこを学んでいただけたなら、私も学校行きを勧めた甲斐があるというものです」

 

「イレス様……」

 

「統夜、もうすぐ卒業ですから、明日からは魔戒騎士の使命をお休みしてもいいのですよ?思い出を作ることも大事ですし」

 

「ちょ!?イレス様!?」

 

統夜に休みを与えるという発言を見過ごせなかったのか、イレスの付き人の秘書官の1人が異議を唱えようとしていた。

 

しかし……。

 

「……イレス様のお気遣い、大変痛み入ります。ですが、俺は騎士の使命を休むことは出来ません。いつどこにいようと、俺は人を守る、魔戒騎士なんですから」

 

「統夜……」

 

統夜は休みよりも騎士の使命を優先しており、その姿勢に先ほど異議を唱えようとしていた付き人の秘書官の1人もウンウンと頷いていた。

 

「……ですが、この2月か3月のどちらかに卒業旅行に行く可能性はあります。その時は改めて報告しますが、イレス様の許可をいただくことになるかもしれません」

 

「それはもちろん許可します。ですが、その時はなるべく早めに言ってくださいね?」

 

「ありがとうございます、イレス様。もしそうだということが決まれば、すぐに報告します」

 

統夜はイレスにペコリと一礼をすると、番犬所を後にした。

 

この日は指令はなかったため、統夜は街の見回りを行ってから家路についた。

 

 

 

 

 

 

そして数日後、この日は登校日であったのだが、統夜はいつものようにエレメントの浄化を終えてから登校した。

 

統夜が教室に入ると、すでに全員が揃っていた。

 

とりあえず統夜は魔法衣をコートをかける場所にかけ、自分の席に座ったのだが……。

 

「……おはよう、統夜君。今日もギリギリなんだね」

 

隣の席である立花姫子が統夜に声をかけていた。

 

「まぁな。それにしてもみんなは早いんだな」

 

統夜はいつも通り登校したのだが、普段であれば8割の生徒がいれば上等だったのだが、今日は統夜以外は全員早く登校していた。

 

「まぁ、登校日じゃないとみんなに会えないしね」

 

「なるほどな」

 

統夜は姫子と挨拶がてらの会話をしていると……。

 

「……ねぇ、みんな!ちょっといい?」

 

クラスメイトの1人であり、黒の長髪に眼鏡が特徴の高橋風子が、クラス全員にこう呼びかけていた。

 

その呼びかけを聞いた全員は一斉に教壇に立つ風子を見ていた。

 

「卒業式の日にさわ子先生に何かしたいんだけど、何がいいと思う?あ、これはもちろんさわ子先生には内緒で」

 

風子はどうやら、この1年間世話になったさわ子にサプライズでプレゼントをしたいということを提案していた。

 

クラスメイトたちは全員賛同のようであり、口々に案を言っていた。

 

(……何かねぇ……)

 

統夜もそのクラスメイトたちの一部であり、同様にさわ子へのサプライズを考えていた。

 

「ねぇ、統夜君は何がいいと思う?」

 

統夜の隣である姫子は統夜に今現在のアイディアを聞いていた。

 

「俺は無難に寄せ書きでいいと思うけどな」

 

「なるほど……確かにそれはいいね!」

 

統夜の出した案に姫子だけではなく、聞いていたクラスメイトたちも賛同しており、始業のチャイムが鳴るまで、この話で盛り上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

そして放課後、梓を除く統夜たち5人はいつものように音楽準備室に集まっていたのだが……。

 

「……という訳で、卒業旅行に行こうと思います!」

 

律が唐突に卒業旅行に行きたいと提案をしていた。

 

「「わ〜!!」」

 

その意見に賛成な唯と紬は拍手をしていた。

 

「……何がという訳なんだ?話の意図がわからんぞ」

 

統夜は急に卒業旅行の話を出されて予想はしていたものの、困惑していた。

 

「実は、バレー部のみんなが卒業式の前に卒業旅行に行くって聞いてさ。それで、律は急に言い出したんだと思う」

 

「なるほどな……。それは理解したし、俺も反対ではないが、梓へのプレゼントはどうするんだ?」

 

「それはもちろん考えるよぉ♪」

 

「やれやれ……いい加減なやつだな……」

 

律のあまりの適当な対応に統夜は呆れていた。

 

「あっ、私、憂にインタビューしてきたよ!」

 

「聞かせてもらおうか」

 

「うん、わかった〜」

 

唯は梓のクラスメイトである憂から色々と話を聞いていたので、そのことを報告しようとしていたのだが……。

 

『……おい、ちょっと待て。唯、そのホワイトボードに描いてる絵はなんだ?』

 

イルバは唯がホワイトボードに描いた落書きが気になるようで、こう訪ねていた。

 

「「ちょーじゅーぎが」だよぉ。これねぇ、この前教科書見てたらさぁ」

 

『わかった、もういい。唯、話を進めてくれ』

 

イルバはこれ以上唯に話をさせたら長くなると判断し、話の本題に入ってもらうことにした。

 

「えーと、憂はねぇ、私たちがもう1年学校にいて、一緒に卒業するのがいいんじゃないかって」

 

「おいおい……。冗談だろ?プレゼントは留年ってことか?」

 

「うん!留年!」

 

唯が「留年」と言ったのと同時に音楽準備室の扉が開いて梓が中に入ってきた。

 

「えぇ!?」

 

「「「「「うわぁ!!」」」」」

 

「アハハ……」

 

突然の留年発言に梓は困惑し、統夜以外の5人は梓に驚いていた。

 

そして、統夜はそんな唯たちの様子を見て苦笑いをしていた。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「べ、別に?」

 

「今、明らかに焦ってましたよね?」

 

「焦ってない焦ってない!」

 

「それに……今、留年って……」

 

梓にしてみれば聞きたいことだらけであったため、色々聞いてみたが、唯たちは慌てて取り繕っていた。

 

「空耳〜多分空の耳〜」

 

唯は梓の前に立つと、手をぐにゃぐにゃと動かし、今の発言を忘れさせようとしていた。

 

「……何やってるんですか……」

 

梓はそんな唯をジト目で見ていた。

 

「あ、あのね!今、卒業旅行の話をしてたの!それで、ドイツ連邦に「リューネン」って都市があってね……」

 

(アハハ……。言い訳が苦しすぎる……)

 

統夜は紬のとっさに出た言い訳を聞いて苦笑いをしていた。

 

「え!?そんな不吉な街があるの!?」

 

「そこはダメだな」

 

「あぁ、卒業旅行ですか!」

 

しかし、梓は卒業旅行という単語に反応してくれたおかげで、どうにか上手く誤魔化すことが出来た。

 

どうにか話を誤魔化し、統夜たちは安堵のため息をついていた。

 

そして、このままティータイムに突入し、卒業旅行の場所をどうするのか話し合いが行われたのだが……。

 

「……ドバイ!」

 

「……ハワイに行きたいって言ってなかったか?」

 

澪の指摘通り、律は以前海外旅行に行きたいという話が出た時、ハワイに行きたいと言っていたのだが、今は何故かドバイと言っていた。

 

「ヨーロッパ!」

 

そして唯は、ヨーロッパに行きたいと言っていたのだが……。

 

『おいおい、ヨーロッパって範囲が広いな……』

 

唯のヨーロッパがいいという意見に、イルバはすかさずツッコミを入れていた。

 

「温泉♪卓球してみたい♪」

 

『だから温泉はパスポート必要ないだろう……』

 

紬は海外旅行に行きたいという話が出た時から温泉に行きたいと言っており、その時もイルバはツッコミを入れていた。

 

『それで、統夜はどこに行きたいんだ?』

 

「んー……!悩むなぁ……。だけど、オーストラリアかな?動物と戯れたいし」

 

統夜は以前は温泉などと言っていたものの、自身が動物好きなこともあって、オーストラリアに行きたいと提案していた。

 

「みおちゃんはどこに行きたいの?」

 

「え、私?私は……ロンドン……かな?色んなミュージシャンの故郷だし、音楽の歴史もあるし」

 

澪はロンドンに行きたいと提案し、理由も軽音部らしい理由だった。

 

「みんな見事にバラバラですね」

 

前回海外旅行に行きたいという話が出た時も、ほぼ意見はバラバラだったが、今回は見事なまでに意見がバラバラになっていた。

 

「梓ちゃんはどこに行きたい?」

 

「へ!?わ、私は卒業しないのでどこでも……」

 

梓は自分はまだ2年生だからという理由で、意見を出そうとはせず、トンちゃんの餌やりを行っていた。

 

「……っていうか、いつ卒業旅行に行くことになったんだよ」

 

卒業旅行に行く前提で話が進んでいることに、澪はツッコミを入れていた。

 

「そこは流れで……さ」

 

「すいません、すいません」

 

「まぁ、どこに行きたいくらいは考えてもいいんじゃないのか?」

 

このような話をするきっかけを作ってしまった唯はひたすら謝罪し、統夜は海外旅行に肯定的な意見を出していた。

 

「澪ちゃん、行きたくないの?」

 

「そりゃ、行きたいけど……」

 

「それじゃあ!卒業旅行に行きたくない人!」

 

「「「「……」」」」

 

「……トーンちゃん♪」

 

統夜たち4人は反応を示さず、梓は水槽を悠々と泳ぐトンちゃんを眺めていた。

 

「決まりだな♪」

 

「……凄い決め方だな……」

 

『まったくだ。これが公平な決め方とは思えないがな』

 

「それじゃああみだくじで決めようよ!私、こう見えてもあみだくじは得意なんだよ」

 

「なんですか、それ……」

 

唯は空いた紙でいそいそとあみだくじを作っていた。

 

「……よし、出来たよ!」

 

こうして、唯は海外旅行の行き先を決めるあみだくじを作ったのだが……。

 

「……唯、ちょっと待て」

 

「ほえ?」

 

「始める前にそのあみだくじを見せてもらえないか?」

 

「ふぇ!?な、何で!?」

 

統夜はあみだくじを始める前にその中身を確認しようとするのだが、それを聞いた唯の顔が真っ青になっていた。

 

「つか、何でそこまで動揺する?やましいことがなければ見せられるだろ?」

 

「あ……あぅぅ……」

 

唯の顔は真っ青になったままだったが、さらにダラダラと冷や汗をかいていた。

 

追い詰められた唯の取った行動は……。

 

「……あっ!逃げた!」

 

唯は統夜相手に誤魔化せないと判断し、逃げようとしたが、すぐにバランスを崩してしまい、転んでしまった。

 

その拍子にあみだくじを書いた紙を落としてしまったので、統夜はそれを拾って中身を確認したのだが……。

 

「……やっぱりな……」

 

「あぁ!」

 

統夜はあみだくじの中身を見てしまい、唯は焦っていた。

 

その理由は……。

 

『……全部ヨーロッパと書くとはな。唯にしてはずる賢いことをよく思いついたもんだぜ』

 

あみだくじには全てヨーロッパと書かれており、どれを選んでもヨーロッパになってしまう仕組みになっていた。

 

「……八百長ですか……」

 

唯の不正がわかり、梓はジト目で唯のことを見ていた。

 

「おい、唯!インチキしてたのかよぉ!」

 

「そうなの!?唯ちゃん、凄い!」

 

「エヘヘ……」

 

「照れるな」

 

律は唯の不正に抗議し、紬は何故か唯をほめていた。

 

そして、それに照れる唯に澪がツッコミをいれていた。

 

「いやぁ、ちょっと間違っちゃって……」

 

唯は必死に言い訳をするが、不正を働いた唯にとある罰が下されることになった。

 

その罰とは……。

 

 

 

 

 

「……ふぇーん!」

 

唯は顔に妙な顔が書かれた紙を貼られていた。

 

「しばらくそうしているといい」

 

この妙な顔が書かれた紙を貼ることこそが、唯に与えられた罰であった。

 

「唯」

 

澪は唯を呼ぶと、澪の方を向いたタイミングで写真を撮っていた。

 

「「「「「ぷっ!」」」」」

 

その光景がおかしかったのか、唯を除く全員が吹き出して笑っていた。

 

「そろそろどこに行くかをちゃんと決めないとな」

 

律はこれ以上のおふざけはなしで、卒業旅行の場所を決めるよう話を切り出した。

 

「多数決は?」

 

「全員の意見がバラバラだから無理だな」

 

澪は多数決で決めることを提案したが、それは困難であると思われた。

 

「ねぇねぇ!だったらトンちゃんに決めてもらったら?」

 

「トンちゃんに?」

 

「うん!」

 

唯は卒業旅行の場所をトンちゃんに決めてもらったらと提案していた。

 

その方法は、トンちゃんの水槽に卒業旅行の候補の数だけカップを置き、その前に国名が書かれた紙を置いた。

 

トンちゃんがどのカップを触るかによって卒業旅行の場所を決めようということであった。

 

唯の候補であるヨーロッパのカップだけはかなり小さかったが、それは、先ほどズルしたペナルティーだった。

 

最初はティーカップに興味を示さなかったからか、トンちゃんは水槽の上の方を泳いでおり、徐々にいつものように泳ぐようになっていた。

 

統夜たちはそんなトンちゃんの様子をジッと眺めていた。

 

しかし、トンちゃんはティーカップには触ろうとせず、ただ時間だけが過ぎていった。

 

そして……。

 

「あー!!と、トンちゃんが……ヨーロッパの前に立ってる!」

 

唯はトンちゃんに動きがあったのを見逃さず、現状を報告していた。

 

確かにトンちゃんはヨーロッパのカップの前に立ってはいたのだが……。

 

「……だけどこれ、ロンドンを触ってないか?」

 

律の指摘通り、トンちゃんが触っていたのは、ロンドンのティーカップだった。

 

「「えぇ!?」」

 

まさかの展開に、唯と澪は驚きを隠せずにいた。

 

「それじゃあ、卒業旅行はロンドンってこと……?」

 

「あぁ、そうなるな」

 

「えぇ!?」

 

卒業旅行の場所がロンドンに決まり、唯は不満そうなのだが……。

 

「いいじゃないですか。ロンドンだってヨーロッパですし」

 

「え、そうなの!?……っていうか、どこからどこまでがヨーロッパなの?」

 

唯はヨーロッパに行きたいと言っておきながら、根本的な部分を理解していなかった。

 

『おいおい。よくそれで大学に合格したな……』

 

そんな唯に、イルバは心底呆れていた。

 

「澪、ロンドンだぞ!」

 

「良かったね、澪ちゃん!」

 

「……や……」

 

「……?澪?」

 

「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

澪はロンドンに行けるのがよほど嬉しかったのか、このように叫んで喜びを表していた。

 

「ロンドン……!やった!ロンドン!」

 

「アハハ、澪、落ち着けって」

 

「本当にロンドンに行きたかったんだねぇ。みおちゃん」

 

「ロン……ドン!」

 

澪は全身で喜びを表現しており、それだけロンドンに行きたかったということが理解出来た。

 

こうして、統夜たちは卒業旅行でロンドンへ行くことが決定したのであった。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『卒業旅行の場所が決まったのはいいが、他にも決めなきゃいけないことが山積みだな。さて、これからどうなることやら。次回、「企画」。ま、決めなきゃいけないことはまだあるんだがな」

 




卒業を真近に控え、統夜たちは卒業旅行に行くことになりました!

それにしても卒業旅行って楽しそうでいいですよね。僕が学生の時は行ってないので余計に羨ましく感じています(笑)

そして行き先はロンドンに決まりました。

僕は未だに海外に行ったことはないですが、劇場版を見て、初めての海外はロンドンがいいなぁと考えています。

実現はいつになるのやら(笑)

統夜が卒業間近ということで、休みを与えようとするイレスがマジで良い上司すぎる(笑)

いくら卒業後にバリバリ働いてもらうとはいえ、一介の魔戒騎士にここまでの待遇をしてもいいやらと思ってしまいますよね。

まぁ、統夜はその申し出を断りましたけど(笑)

さて、次回はロンドン行きを決めた統夜たちですが、さらに話を詰めていきます。

卒業旅行はどうなるのか?そして、唯が提案した梓へのプレゼントはどうするのか?

それでは、次回をお楽しみに!


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