今回の話は、前回の続きとなっています。
今回のテーマをあげるとするならば、「統夜、パスポートを取る」。こんな感じですかね(笑)
そのテーマ通り、統夜は問題なくパスポートを取得することが出来るのか?
それでは、番外編の続きをどうぞ!
夏休みの夏期講習前、統夜たちは不意に海外旅行へ行こうという話をしていた。
以前夏フェスに行ったばかりで、さらに唯たち4人は受験生であるため、海外旅行はその受験が落ち着いてから行うことに決めた。
そして、どこの国にするか話し合ったものの、案がまとまらなかったため、それは後日改めて決めることにした。
その翌日、海外旅行へ行くにあたっての護身術を学ぶこととなり、統夜だけではなく、戒人も呼び出され、護身術の実践が行われた。
憂が唯のために買ってきた本を元にその内容を読み上げながら実践をしていたのだが、統夜と戒人も護身術の実践を行ったのだが、魔戒騎士の激しい動きは護身術とは呼べなく、ただ単純に統夜と戒人のスパーリングになってしまった。
護身術の実践終了後、戒人はそのままエレメントの浄化へと向かっていったが、統夜たちはベンチで一休みをしていた。
そこでは道に迷ったらどうするかという話や、英語の重要性を話していた。
ここで、紬が1番大事な話を切り出した。
それは、パスポートの問題である。
紬は既にパスポートは取得済みであり、唯たち4人も申請さえすれば取得自体は問題ないと思われた。
しかし、魔戒騎士である統夜は無事にパスポートを取れるのか?そこが最大の懸念であった。
唯たち4人もパスポート申請に必要なものがわからなかったため、自宅にネット環境のある澪が、パスポートに必要なものを調べることにして、この日は解散となった。
その帰り道、統夜はとりあえず番犬所へ向かおうと考えていたのだが……。
「……なぁ、統夜。ちょっといいか?」
先に帰ったと思われた澪が、統夜の元へ戻ってきて、声をかけてきた。
「……ん?どうしたんだ、澪?」
「今ネット環境があるのは私の家と統夜の家だけだろ?統夜は忙しいだろうから私が調べるのを引き受けたけど、自信なくて……」
澪は今自分が思っていることを正直に話すと、俯いた表情をしていた。
現在自宅にネット環境があるのは澪、統夜、紬であった。
紬は家が家だからかネット環境はあるものの、紬は普段からパソコンを使うことはあまりなく、ネットを使っての調べ物は困難だと思われた。
そして統夜は家にいる時はパソコンを使うことが多く、人界のことを知るためにネットで色々と調べ物をしたりもしていた。
しかし、魔戒騎士としての仕事が忙しいため、触らない時はほとんどパソコンに触ることはなく、澪が調べ物を引き受けることになっていた。
「それで……。統夜、この後って少しでもいいから時間取れないか?私の家に来て調べ物を手伝ってほしいんだよ」
「うーん……。そうだなぁ……」
統夜としては引き受けてあげたい気持ちだったのだが、魔戒騎士の使命も大事なため、二つ返事で了承することは出来なかった。
統夜がしばらく考えていると……。
「……ダメ……かな?」
「!!?////」
澪は涙目で、頰を赤らめ、上目遣いという男を落とす三拍子をさりげなく使いこなし、統夜は頰を赤らめていた。
「……わ、わかった!俺も知りたいことだし、手伝うよ」
「ほ、本当か!?」
澪はあのような三拍子を使いこなしていたものの、断られると思っていたからか、ぱぁっと表情が明るくなっていた。
「……いいよな、イルバ?」
『やれやれ……。どうせダメだと言っても行くつもりだろう?まだ指令もないようだし、指令が来るまでで良ければ俺様も許可してやるよ』
「イルバ……ありがとう!」
澪は統夜だけではなく、イルバにも例を言っていた。
「それじゃあ、さっそく澪の家に行くか?」
「あぁ。よろしく頼むよ」
こうして、統夜は澪と一緒にパスポートに必要なものについて調べることになり、2人は澪の家へと向かった。
10数分ほど歩くと、澪の家に到着した。
(……今思えば、澪の家に入るのは初めてかもしれないな……)
統夜は澪の家にあがるのは初めてであり、少しばかり緊張していた。
どうやら、それは澪も同様であった。
(……い、勢いよく統夜を誘ってしまった……。調べ物自体は1人で出来るけど……統夜と2人きりになるきっかけが欲しかったんだよな……)
澪は普段から統夜と2人きりになれる機会を伺っていたが、なかなか2人きりにはなれなかった。
澪も他のメンバー同様に統夜のことが好きであったが、他のメンバーと比べて、統夜とスキンシップをすることもなく、2人きりになるきっかけもなかった。
しかし、今回の調べ物に関しては、2人きりになれるきっかけになると思っており、思いきり統夜を誘ってみたのであった。
いざ統夜を誘ってみたら澪は意識してしまい、恥ずかしさがあるからか頰を赤らめていた。
「と、とりあえず上がってくれよ、統夜」
「あぁ、お邪魔させてもらうよ」
統夜は澪に案内され、澪とともに家の中に入った。
「ただいま〜」
「お邪魔しまーす」
澪と統夜は家に入ると共にそれぞれこのように言っていた。
それからまもなく、ドタドタドタと足音が聞こえてくると、1人の女性がやって来た。
「あらあら、澪ちゃん。お帰りなさい」
「うん、ただいま。まm……お母さん!」
澪は統夜が隣にいるため、慌てて母親の呼び方を訂正していた。
(今澪のやつ、ママって言いそうになってたよな……?)
《あぁ。澪のやつ、しっかりしてそうで唯以上に幼い一面があるからな》
(確かに、言われてみたらそうかもしれないな)
統夜とイルバは、澪がママと言おうとしたことについてテレパシーで話をしていた。
「あらあら、ウフフ♪」
そのことを察した澪の母親は、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。
そして、澪の母親は、統夜の姿をジッと見ていた。
「あらあら……あなたは、澪ちゃんのお友達?」
「初めまして。月影統夜です」
統夜は初めて会う澪の母親に丁寧に挨拶をしていた。
「もしかして、澪ちゃんのボーイフレンドかしら?」
「ふぇ!?ま、ママ!違うから!」
「?」
澪の母親の問いかけに澪は顔を真っ赤にして、咄嗟にいつもの呼び方をしてしまった。
統夜はなぜ澪がそこまでムキになっているのが理解できずに首を傾げていた。
《統夜、言っておくが、ボーイフレンドっていうのは彼氏って意味だからな》
(え?そうなのか?てっきりボーイフレンドってただの男友達って意味だと思ってたけど……)
《やれやれ……。やっぱりか……》
統夜はボーイフレンド=男友達と思っていたようであり、統夜の勘違いを見抜いていたイルバが苦笑いをしていた。
「ですが、澪は俺にとって大切な友達です」
ボーイフレンドは彼氏だということを理解した統夜は、澪のことは大切な友達だということを澪の母親に伝えていた。
「そうなの?統夜君、これからも澪ちゃんと仲良くしてあげてね?」
「はい、もちろんです!」
「あぅぅ……」
統夜のまっすぐな言葉が恥ずかしかったのか、澪は顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
「……と、統夜!とりあえず上がってくれよな!」
澪は気持ちを切り替えて、靴を脱いでそのまま上がっていった。
「わかった」
そんな澪の動きに合わせて統夜は靴を脱いで上がっていった。
「後でお茶とお菓子を持っていくわね」
「ありがとう!まm……お母さん!ほら、統夜。行くぞ」
「あぁ」
統夜は澪の案内で階段を上がり、そのまま澪の部屋へと入っていった。
「……」
澪の母親は階段を上がる2人の様子をジッと見ていた。
「ウフフ。変わった格好はしてるけど、素敵な男の子じゃない♪」
澪の母親はいつものように魔法衣を羽織っている統夜にこのような評価をして、台所へと向かっていった。
「……へぇ、澪の部屋ってけっこう整理されてるんだな」
澪の部屋はあまり女の子っぽくない部屋で、きちんと整頓されており、統夜はキョロキョロと周囲を見回していた。
「と、統夜!あんまりジロジロ見ないでくれ」
「わ、悪い悪い」
澪は統夜に部屋をジッと見られるのが恥ずかしかったのか、このようなことを言っていた。
「さて……とりあえず始めようか」
「あぁ、そうだな」
澪はパソコンの電源を立ち上げると、続けてインターネットを起動した。
「うーん……。ここまではわかるけど、何て検索しようか……」
澪は本当は操作方法などわかっていたものの、1人で全部やってしまうと、統夜を誘った意味がなくなるためこのようにわからないフリをしていた。
「パスポートと必要書類で検索したら出てこないか?」
「なるほど、やってみるよ」
澪はゆっくりと統夜の言ったキーワードを打ち込むと、エンターキーを押した。
すると、打ち込んだキーワードの検索結果が出てきた。
「……思ったより多いな……。どこを探したら……」
「……澪、ちょっとごめんな」
どこを調べればいいのか迷う澪を見かねた統夜は、マウスを手にしている澪の手を取った。
「ふぇ!?と、とととと……統夜!?」
「あ、悪い。嫌なら手を離すけど」
「いい!びっくりしただけだから!」
「そうか?」
統夜はマウスと一緒に澪の手を掴みながら詳しい情報が載ってそうなホームページにアクセスした。
「……あっ!これじゃないか!」
「そうだな!」
お目当のホームページが見つかったところで、統夜は手を離し、そのホームページをジッと見ていた。
「えっと、必要なものは……」
澪は携帯を取り出すと、ホームページに書かれたパスポートに必要なものをそのままメールに打ち込んでいた。
調べた結果をそのまま唯たちにメールで送るためである。
ホームページによると、住民票を始めとして、多くの書類が必要となっていた。
「……結構用意しなきゃいけない書類は多いんだな」
「そうだなそれに、身分証明証と未成年は親の同意……っと」
「お、親の同意!?」
澪が最後に言った親の同意という言葉に、統夜は驚愕していた。
「と、統夜?」
澪は何故統夜がここまで驚いているのか理解出来ず、首を傾げていた。
「つ、詰んだ……。俺、両親いないし……」
統夜の父親は暗黒騎士キバに、統夜の母親は暗黒騎士ゼクスことディオスに殺されており、そのため、統夜には今許可をもらう両親はいないのであった。
「あっ……」
澪もそれを察したのか、バツが悪そうにしていた。
『おい、統夜。両親がいなくても、法定代理人がいれば問題はないんじゃないのか?』
「確かに、それは私も聞いたことがある」
「法定代理人ねぇ……」
「統夜、法定代理人のアテはあるのか?」
「ある訳ないだろう?俺が普通の高校生ならいたかもしれないけど……」
統夜は両親の死後は魔戒騎士になるため精進していたためか、法定代理人などそのような存在など考えたことはなかった。
その理由としては、修行以外の生活は両親の遺産があったため、何不自由はなかったからである。
「……とりあえずイレス様に相談してみるよ」
「その方がいいかもしれないな」
統夜はパスポートについて、イレスに相談してみることにした。
番犬所の神官であり、統夜を桜ヶ丘高校に入れたイレスであれば、なんとかしてくれるかもしれないと思ったからである。
「とりあえず、明後日にこれらの書類を全部集めて集合ってことでいいよな?」
「そうだな」
「それじゃあ、みんなにもメールするよ」
澪は、統夜を含めた全員にパスポートに必要な書類を羅列し、それらを集めて明後日に集合とメールを送っていた。
統夜にメールを送ったのは、口頭で説明しただけじゃ何の書類を用意したらいいかわからないからである。
「統夜、ありがとな。おかげで助かったよ」
「気にするなよ。つか、俺はそんなたいしたことしてないしな」
統夜はそう言って苦笑いをしながらおどけていた。
「それじゃあ、調べ物も終わったし、俺はそろそろ行くよ」
「え?もう行っちゃうのか?」
「本当ならもうちょっとのんびりしていたいが、番犬所にも行きたいと思ってるしな」
「そっか……。残念だな……」
もう少し統夜と一緒にいたいと思っていた澪は、しょんぼりと肩を落としていた。
「ごめんな、澪。それじゃあ俺はこれで……」
統夜はそのまま澪の部屋を出ようとしたのだが、それより先にコンコンとドアをノックする音が聞こえると、澪の母親が部屋に入ってきた。
「あっ、まm……お母さん」
「澪ちゃん、お茶とお菓子を持ってきたわ」
「あっ、ありがとう。でも……」
「でも?」
「すいません、用事も終わったので、俺はそろそろお暇しようと思ってまして……」
「あら、残念ねぇ。晩御飯、あなたの分も用意したのに……」
「え、そうなんですか!?」
まさか澪の母親が自分の分も晩御飯を用意しているとは思っておらず、驚いていた。
「ねぇ、統夜君、この後、用事があるのかしら?」
「えぇ、まぁ……」
「急ぎの用事?」
「そ、そう言われると……急ぎではないですけど……」
番犬所へ行くのは急ぎの用事ではないため、正直に急ぎの用事ではないことを伝えていた。
「だったら、せめて晩御飯だけでも食べていってちょうだい」
「そ、それじゃあ……お言葉に甘えて……」
統夜は澪の母親の説得に根負けし、渋々晩御飯をご馳走になることにした。
ここまであっさり引き下がったのも、タダで晩御飯がありつけるのはありがたいと思っていたからである。
統夜と自分の母親とのやり取りを聞いていた澪の表情は、ぱぁっと明るくなっていた。
(ママ……!ありがとう!まさか、ママが統夜を引き止めるなんて思わなかった)
澪は、統夜を引き止めてくれた澪の母親に感謝していた。
「ウフフ♪実は統夜君のことは澪ちゃんからよく聞いていたのよ♪だって、澪ちゃんってば、いっつも軽音部の話かあなたの話ばかりするんだもの」
「ちょ、ちょっと、ママ!」
澪は顔を真っ赤にしながら慌てていたが、咄嗟にいつもの呼び方になってしまった。
統夜は澪がママと呼ぶことにツッコミを入れなかった。
「晩御飯が出来るまで澪ちゃんとお茶でも飲んで待っててちょうだい♪」
「はい」
こうして澪の母親は澪の部屋を後にして、台所へと向かっていった。
「……まぁ、そういう訳で、もうしばらくのんびりさせてもらうよ」
「統夜、ごめんな。無理に引き止めちゃって」
「気にするなよ。のんびりするのはたまには悪くないしな」
統夜はそこまで気にしていなかったため、すかさず澪をフォローするような言葉をかけていた。
こうして統夜は、澪と一緒にお茶とお菓子を楽しみ、食事が出来上がると共に食卓へと向かって夕食を取っていた。
その時には澪の母親だけではなく父親もおり、統夜は少しだけ気まずいと思っていたものの、物怖じすることなく、澪の両親とコミュニケーションを取りながら食事をしていた。
夕食終了後、統夜は澪の家を後にして、番犬所へ向かうことにした。
※※※
澪の家を後にした統夜は、番犬所へ直行した。
番犬所へ到着した時は、既に夜になろうとしていた。
「統夜、今日は珍しく遅いですね。今日は来ないかと思っていましたよ」
イレスは、いつもより遅く番犬所を訪れた統夜に驚いていた。
「すいません。ここへ来る前に澪の家に行ってまして、夕食もご馳走になっていたので」
統夜は何故いつもより遅くなったのかを説明していた。
「おぉ、良かったですね!澪も楽しそうにしてたでしょうね」
イレスはその理由に納得しており、澪の楽しそうな表情が頭に浮かんでいた。
「今日は遅かったことは気にしないでくださいね。今日は指令はありませんので」
「あっ、ありがとうございます。あと、イレス様に相談したいことがあるのですが……」
「私に相談……ですか?」
統夜が自分に相談とは珍しいと思い、イレスは驚いていた。
「はい。実は昨日から唯たちと海外旅行の計画を立てていまして……」
「海外旅行ですか……。いいじゃないですか!魔戒騎士である貴方にとっても貴重な経験になるはずです」
イレスは統夜の海外旅行行き自体を反対しようとはしなかった。
「それで、1つ大きな問題がありまして……」
「問題……ですか?」
「はい。実は海外旅行にはパスポートなるものが必要なんですが、未成年で両親もいない俺には法定代理人なる者が必要みたいなんです」
統夜は今抱えている障害をイレスに打ち明けていた。
「つまり、統夜はパスポート作りに悩んでいるという訳ですね?」
「は、はい……そうなります」
「クスッ……。統夜が深刻に話すから何かなと思いましたが、そういうことでしたか」
イレスは統夜の話を聞いて、笑みを浮かべていた。
「?イレス様?」
「あぁ、すいません。それで、統夜はパスポートが必要なんですよね?」
「はい、そうなりますかね」
「唯たちもパスポートを発行するのですよね?いつ手続きしに行くのですか?」
「明後日です。みんなそれぞれ必要な書類を集めて」
「わかりました。統夜、私に明後日まで時間をくれませんか?それまでに必要な書類を集めますので」
「え……?いいんですか?」
「問題ありません!あなたが桜ヶ丘高校に入るための書類を集めたのも私でしたしね」
「そうだったんですか……」
統夜はイレスが桜ヶ丘高校に入るきっかけだけでなく、必要な書類も集めてくれたことを初めて知り、驚きを隠せなかった。
統夜は入学に必要な書類を誰が集めてくれたのかずっと疑問だったが、その疑問を解消することができて、少しだけスッキリしていた。
「あっ、そうそう。あの時も写真だけは撮ってもらいましたが、今回も写真だけ撮ってきてくださいね。明日中に撮って番犬所へ持ってきてもらうと助かります」
「わかりました。パスポート用の写真は明日持ってきますので」
「頼みましたよ、統夜」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
統夜はイレスに一礼をすると、番犬所を後にした。
「さてと……。書類集めは統夜が高校に入る時以来ですね」
「い、イレス様。よろしいのですか?一介の魔戒騎士のためにイレス様自らが動くなど」
統夜のために動いているイレスをたしなめようと付き人の秘書官の1人が言っていた。
「良いのです。魔戒騎士はホラーを狩るのが仕事。それ以外のことをお手伝いするのが我らの使命だとは思いませんか?」
「そうですが、しかし……!」
「大丈夫ですよ。統夜にはその分、魔戒騎士として頑張ってもらうつもりですから」
イレスは統夜に高校生として楽しんでもらいたいと思っているが、それと同時に魔戒騎士としても今まで以上に使命を果たしてもらいたいとも思っていた。
「そ、そういうことでしたら……」
イレスの付き人の秘書官は、イレスの力説に納得せざるを得なかった。
「それにしても海外旅行ですか……。いつ行くかは知りませんが、統夜にとって素晴らしい思い出になるといいですね……」
イレスは穏やかな表情でしみじみと呟いていた。
※※※
翌日、統夜はいつものようにエレメントの浄化を行っていた。
写真撮影も大事なことであるが、まずは魔戒騎士としての使命が最優先だと思っていたからだ。
「はぁっ!!」
統夜は魔戒剣を一閃すると、オブジェから飛び出してきた邪気を斬り裂いた。
それが終わると、統夜は魔戒剣を青い鞘に納めた。
「ふぅ……。イルバ、あと浄化しなきゃいけないポイントはどれくらいだ?」
『あと1箇所だな。ここからは少しだけ距離はあるぞ』
「そっか、それじゃあさっさと片付けて写真を撮らないとな」
統夜は早くパスポート用の写真を撮るために、最後に浄化すべきオブジェまで移動を開始した。
およそ20分ほど歩いたところに最後に浄化すべきオブジェはあり、統夜は早々にそこから飛び出してきた邪気を浄化した。
「……よし、これで全部だな?」
『あぁ、これで全部だ。統夜、さっそく写真を撮りに行くのか?』
「もちろん。イレス様が色々と書類を用意してくれるんだから俺だってなるべく早く写真を撮ってイレス様に届けたいしな」
『なるほどな……。そういえば、この近くに証明写真用の機械があったぞ』
「そうなのか!?それじゃあさっそくそこへ向かうぞ、イルバ」
『やれやれ……。忙しないやつだぜ……』
エレメントの浄化を終えたばかりだというのに、慌ただしく動こうとしている統夜にイルバは呆れていた。
こうして、統夜はイルバの案内で近くにある証明写真用の機械を見つけ、そこでパスポート用の写真を撮影した。
その撮影を終えた統夜はすぐさまその写真を番犬所のイレスに届けた。
写真を受け取ったイレスは、統夜のパスポート発行のために動き始めた。
この日も指令はなかったため、統夜は夜遅くまで街の見回りを行ってから帰宅した。
そして翌日、統夜たちが集まったのは、パスポート発行を行う桜ヶ丘にある県庁の建物だった。
パスポート発行以外にも様々な手続きがこの場所で行うことができ、この日もパスポート窓口以外の場所も多くの人で賑わっていた。
紬は既にパスポートは持っているが、付き添いで一緒に来ていた。
統夜たちは集合するなり忘れ物がないか確認をしていたのだが、律が身分証となる生徒手帳を忘れてしまった。
律は弟に生徒手帳を持ってきてもらうために携帯を取り出すと、律の弟に電話していた。
統夜は律が戻って来てからイレスに書類を頼んでいることを話してもいいと判断したのか何も言わなかった。
律の弟が来るまで、統夜たちは暑い外ではなく、涼しい待合室で待つことにした。
10分ほど待つと、律の弟が来たようであり、律は弟のもとへ向かっていった。
「……ねぇねぇ、みおちゃん。りっちゃんの弟ってどんな感じ?」
「そうだなぁ……律に似てるかも。目元とか特に」
「おぉ!りっちゃんの男バージョン!」
唯は律の弟が律に似ているということに反応していた。
そして、もし憂が妹ではなく弟だったらと想像してみた。
〜唯の妄想〜
男憂 「……ったく、姉ちゃんは……。気を付けろよな」
顔は憂のまんまだが、何故か学ランを着ている……。
__唯の妄想終わり。
「……おぉ!なんかいい!」
「確かに、良いですよね、弟って」
唯と梓は、弟という存在を良いと思っており、弟が欲しいとも少し考えていた。
「弟か……。もし俺に弟がいたら、そいつは魔戒法師になるのだろうか……」
統夜はもし自分に弟がいたらとしみじみと考えていた。
統夜がそんなことを考えていると……。
「……ったく、姉ちゃんは、気を付けろよな♪」
唯は何故かニヤニヤしながら弟っぽいことを言っていた。
「えぇ、唯先輩が弟ですか……?」
「えぇ!?ダメ?」
梓は唯が弟だったらと考えたくなかったのか、ドン引きしていた。
統夜たちがこのようなやり取りをしていると……。
「……ごめん、お待たせ」
律が統夜たちの元へ戻ってきたのだが……。
「おう、待ってたぜ。り……つ……?」
律の隣にはもう1人おり、その人物を見て、統夜は硬直していた。
果たして、律と一緒にいる人物とは……。
「あっ!イレスちゃん!」
いつもの神官としての格好ではなく白いワンピースを着ていたが、イレスであり、唯が反応していた。
「皆さん、お久しぶりです♪」
イレスは唯たちと会うのは久しぶりだったため、満面の笑みで挨拶をしていた。
「だけど、どうしてここへ?」
「えぇ。統夜から話は聞きました。皆さん、海外旅行を計画してるんですよね?」
「あぁ。だけど、私たちの受験が終わったらって考えてるけどな」
唯たちはかつてイレスが留学生として桜ヶ丘高校に潜り込んだ時に仲良くなり、普通の友達のような接し方をしていた。
「なるほど、受験が終わったあたりで考えてるんですね」
統夜はいつ頃行こうとしているのかは言わなかったため、いつ頃行くのかわかり、スッキリしていた。
「イレス様。もしかして……」
「えぇ♪必要な書類は全部用意しましたよ♪保護者の同意の部分も問題はありません♪あとはこれを提出するだけです」
イレスはパスポートに必要な書類を全部用意し、統夜のところへ持ってきた。
1番のネックとなる両親の同意の部分は番犬所の力を使って上手いこと誤魔化せるようになっていた。
「あ、ありがとうございます。イレス様」
統夜は書類をすべて受け取ると、イレスに礼を言っていた。
「むぅぅ……。やーくんだけずるい!」
統夜だけ書類を全部用意してもらったのが気に入らなかったのか、唯は膨れっ面になっていた。
「仕方ないじゃないですか。統夜先輩は色々と事情があるんですから」
「それはそうだけどさ……」
梓は膨れっ面になる唯をなだめており、唯は頭では理解していても、納得は出来なかった。
「そういうことだぜ、唯。俺だって出来ることなら1人で何とかしたかったけど、厳しいからイレス様に頼らざるを得なかったんだよ。そこはわかってくれよな」
「……うん。わかった」
統夜の説得で、唯はようやく納得してくれたようであった。
「それでは、統夜に書類を届けたので、私はそろそろ行きますね」
「えぇ?イレスちゃん、もう行っちゃうの?これ終わったらみんなでアイス食べに行こうと思っているのに……」
「アイス……ですか?」
アイスという言葉にときめいたのか、イレスは少しだけ頰を赤らめていた。
しかし……。
「わ、私も食べたいですけど、番犬所に戻らなければいけないので!」
イレスはアイスに釣られそうになったが、神官としての使命が最優先だったため、どうにか唯の申し出を断っていた。
「残念だけど……仕方ないよね」
唯はしょんぼりしながらも仕方ないと諦めていた。
「ごめんなさい。だけど、また一緒に遊べたらいいですね♪」
「……うん!」
「それでは、私はこれで!」
イレスは唯たちにペコリと一礼をすると、そのまま番犬所へと向かって行った。
「それじゃあ、さっそく申し込みに行こうか」
こうして、統夜たちはパスポートの申請を行うために受付に並ぶことにした。
唯、澪、律、梓、統夜の順で並んでいたのだが、何故か唯は澪に先頭を譲っていた。
澪の順番がきて、澪は書類を提出するのだが、澪の撮った写真に問題があるらしく、受付が出来なかった。
写真をよく見ると、髪がアップになっていたため、余白が無くなり、余白がないためこの写真ではダメとのことであった。
受付がないとなると仕方ないため、澪は近くにある証明写真用の機械で写真を撮り直すことにした。
澪は機械の中に入り、写真を撮ろうとするのだが、唯たちが何度も笑わそうとするため、何度も写真撮影に失敗していた。
統夜とイルバはジト目でその様子を眺めていた。
こうして、何度目かの挑戦でようやくちゃんとした写真が撮影出来、再びパスポートの申請を行った。
今度は澪の写真も大丈夫で、統夜を含む全員が見事に申請が通ったのであった。
※※※
「お、終わった……」
予想以上に長丁場になったせいで、澪はひどく疲れきっていた。
統夜たちはパスポートの申請を終えると、予定通り度々訪れるアイス屋でアイスを食べていた。
「いやぁ、なんか凄く疲れたよなぁ」
「誰のせいだっ!」
証明写真撮影の時に1番澪を笑わしていた律がとぼけていたので、澪はすかさずツッコミをいれていた。
「でも、おかげですっごくアイスが美味しいよ♪」
「ホント、甘いものには前向きですね」
『まったくだぜ』
唯の甘いものに対しては前向きな姿勢に、梓とイルバは呆れるが、唯は満面の笑みを浮かべていた。
そんな中、澪は撮影に失敗した写真を眺めていた。
「……つか、これどうするんだよ……」
「記念にとっておこうぜ!」
この律の発言がおかしかったのか、澪、律、紬の3人は笑っていた。
澪は統夜、唯、梓にも失敗した写真を見せ、それを見た3人もまた同じように笑っていた。
「……1週間くらいしたら、パスポート取りに行かないとね」
「夏期講習が終わったら行くか」
来週から夏期講習があり、バタバタしてしまうため、夏期講習が終わってからパスポートを取りに行くことにした。
「それで、私たち、どこに行くんでしたっけ?」
梓は、結局どこへ行くのか確認をとっていた。
「そういえばまだ決めてなかったねぇ。どこがいいかなぁ?」
「イギリスでライブ!」
「ハワイ!」
「アメリカ……」
「温泉で卓球とか♪」
澪、律、梓、紬の順番で自分の行きたいところをあげていた。
「温泉じゃパスポート取った意味はないが、いいかもな!」
『おいおい、パスポート取った意味がなくなるからそれはダメだろ』
「「だよねぇ〜」」
イルバからのツッコミに統夜と紬はおっとりと返していた。
統夜たちは海外旅行の場所をどこにするかということを、とても楽しげに話していた。
そんな中、唯は……。
「……それじゃあ、2回行こうよ!卒業旅行!」
「「「「「え!?」」」」」
唯からのまさかの提案に驚いた統夜たちは、思わず唯のことを見ていた。
「あずにゃんが卒業する時も行けばいいし!」
「え?私の時も、みんなでですか?」
「まぁ、梓が嫌でなければだけどな」
「私は、皆さんと一緒なら嬉しいですけど……」
梓は本音でこのように話すと、唯はふと立ち上がっていた。
「そうしたら、イギリスもハワイもアメリカも温泉もみーんな行けるよ!」
『おいおい、それだけの場所、2回の旅行で行ける訳が……』
「イルバ!」
唯の発言に統夜たちは戸惑う中、イルバが正論を言おうとしており、統夜はそんなイルバをなだめていた。
唯はそんなイルバの言葉を気にすることなく話を続けていた。
「……私たち、どこへだって行けるよ!」
この力強い唯の言葉を聞いた統夜たちは笑みを浮かべていた。
「……うん、そうだな」
「あぁ、そこは唯の言う通りだぜ」
唯の力強い言葉に賛同していた律と統夜はウンウンと頷きながらこのようなことを言っていた。
「よし、海外旅行に必要なものを見に行くか」
「お、いいねぇ!」
こうして統夜たちは、旅行に使うであろうバッグなどを見るため、移動を開始した。
※※※
統夜たちが訪れたのは、桜ヶ丘某所にある、桜ヶ丘1番のデパート的な店であり、そこにあるトラベルコーナーに来ていた。
「おぉ、海外旅行って感じだなぁ♪」
律はキャリーバッグなどを眺めながら目をキラキラと輝かせていた。
「ねぇねぇ、りっちゃん!これがあれば授業中も熟睡できそうだよ!」
唯がそう言って律に見せてきたのはアイマスクだった。
「寝るな」
『つか、バレバレだろう』
唯の発言に、澪とイルバがすかさずツッコミをいれていた。
「律にはこういうのいるだろ?」
そう言って澪が律に見せていたのは、海外でも手軽に日本食が食べられる日本食のコーナーだった。
「日本人として当然ですな!」
お米が大好きな律は、日本食は必要不可欠だと思っていた。
「ノーライス、ノーライフ」
唯は唐突にギャグをかましていたが、統夜たちはスルーしていた。
「もしお金すられたら、私たちストリートミュージシャンとしてお金を稼ごうよ!」
「わぁ!海外デビューね!」
「つか、お金をすられたらなんて考えたくもないけどな……」
唯の発言に紬は目をキラキラと輝かせていたが、統夜はさらっととんでもないことを言っている唯に苦笑いをしていた。
「ウィーアー、ホウカーゴ、ティータイム!」
唯は何故か「放課後ティータイム」を英語っぽく言っていた。
「……なんか長いな」
「略して「HTT」ね!」
「だけど、英語だったら、「After School Tea Time」になるんじゃないですか?」
放課後は英語で「After School」なため、梓はバンド名も変わってしまうのではと思っていた。
「確かにそうだな。だけど、唯が言いたいのはそういうことじゃないんじゃないのか?」
「え?」
統夜も梓の言うことはもっともだと思っていたが、唯が何を言いたいのかということを汲み取っていた。
「うん!やーくんの言う通りだよ!私たちはどこへ行っても「放課後ティータイム」だよ!」
唯のこの言葉はとても力強いものであり、この言葉を聞いた統夜は笑みを浮かべながらウンウンと頷いていた。
そして、澪、律、紬、梓の4人も穏やかな表情をしていた。
そして、確かにその通りだなと心の中で思っていた。
「……でもさ、旅行に楽器持っていかないだろ?」
唯の言葉に賛同しながらも律はもっともな指摘をしていた。
それに対して唯は……。
「エアギター!これエアギター!」
唯は何故か片言でエアギターを行っていた。
「ビリーブするヒトには見えまーす!」
律もそれに乗っかって片言でおかしな言葉を言っていた。
「もうやめろよ。その怪しい喋り」
「私たちはどこへ行ってもこんな感じですね。きっと」
「あぁ、そうだな」
澪、梓、統夜の3人は、唯と律の奇妙な喋り方に呆れながらも苦笑いをしていた。
こうしてこの日は旅行に使えそうなものを見ただけで店を後にして、この日は解散となった。
統夜は、番犬所に立ち寄ると、イレスに無事パスポート申請の手続きが済んだことを報告し、イレスに礼を言っていた。
この日も指令はなかったので、統夜は夜遅くまで街の見回りを行い、帰宅した。
統夜たちがパスポートを受け取ったのは、唯たち4人の夏期講習が終わってからであった。
統夜を含めて全員が無事パスポートを取得し、唯の家に集まってみんなで喜びを分かち合っていた。
特に統夜は、本当にパスポートが取得出来たことに驚きながらも、心から自分のために奔走してくれたイレスに感謝していた。
結局海外旅行でどこへ行くのかは決まらなかったが、統夜たちは全員パスポートを取得し、海外へ行く準備だけは整えることが出来た。
最後に全員でパスポート取得記念の写真を撮り、これもまた統夜たちにとって貴重な思い出の1ページとなったのであった……。
……終。
__次回予告__
『唯たちが揃って合格出来て一安心だぜ。まさか、この時期になってこの話が出るとはな。次回、「提案」。やれやれ。いったいどうなることやら』
統夜は唯たちとともに無事パスポートを取得することが出来ました!
この話の冒頭で、統夜は澪の家に行くことになりましたが、この話を入れたのは、澪と統夜が2人になるシーンってあまりないなと思っていれてみました。
この頃はまだ梓と付き合っていないので、問題はないかと思います(笑)
そして、パスポートに必要な書類を集められる番犬所が有能なのか、イレスが有能なのか(笑)
イレスの力添えで統夜は桜ヶ丘高校に入学したということになってますが、書類集めを行ったのはどうやらイレスのようでした。
そして、次回からはいよいよ新章に突入します。
この新章がこの小説の最終章になるため、終わりが近付いてきています。
次回はいきなり劇場版の話から始まります。
ここから先は劇場版の話がメインなので、「けいおん!」の劇場版を見てなくて、これから見る予定の人はご注意ください。
それでは、次回をお楽しみに!