今回の話のベースは、アニメけいおん!!27話の番外編となっています。
新章に入る前にこの話は必要だと思い、番外編を投稿しました。
今回は前後編になったのは、1話でまとめたら文字数が20000を越えそうだったからです(笑)
さて、今回は夏休みまで遡りますが、統夜たちは一体何の計画をするのか?
それでは、番外編をどうぞ!
統夜たちの卒業まであと僅かとなっていた。
新しい年を迎えてすぐに闇呀による事件が起こり、統夜は様々な人たちの協力で闇呀の野望を阻止した。
そして、唯たちは同じ大学を目指して受験し、4人揃って合格することが出来た。
今回の話は、その後日談ではなく、夏休みまで話は遡る……。
統夜たちは揃って夏祭りに行ったのだが、その数日後に唯の家に集まっていた。
紬はつい最近までフィンランドに旅行に行っており、そのお土産を祭りの時に渡しそびれたため、今日お土産を渡したいというのが、今日集まった理由である。
今集まっているのは、梓を除く全員であった。
梓には後で渡す予定だったため、今回梓は誘わなかったのであった。
紬のお土産を受け取った後、紬が毎年のように海外に行くのが羨ましいという話が出ており、律は海外旅行へ行こうという話を提案した。
統夜たちは場所を変えて話し合うことにし、梓もメールで呼ぶことにした。
統夜たちが向かったのは行きつけのファストフード店だった。
統夜たちは先に注文をすませ、談笑しながら梓を待っていた。
しばらく談笑していると、階段を上ってきた梓の姿を確認することが出来た。
「おーい、梓!こっちこっち!」
律は梓を呼びかけると、そこでようやく統夜たちの場所がわかった梓は、統夜たちのいる場所まで移動した。
梓は空いている席に腰を下ろすと……。
「……はい!あずにゃん、バナナシェイク頼んでおいたよ!」
統夜たちは自分たちのものを注文するついでに梓が好きなバナナシェイクを一緒に注文していた。
「ありがとうございます!」
梓は自分の好きなバナナシェイクを用意してくれたことが嬉しく、礼を言っていた。
「梓ちゃん、はい」
紬は、小さな紙袋を梓に手渡した。
「あっ、ありがとうございます」
梓は紙袋の中身を確認すると……。
「うわぁ……。綺麗……」
その中身は、スノードームであり、中身がとてもキラキラしており、梓の目もキラキラとしていた。
「ありがとうございます、ムギ先輩!」
「ウフフ♪どういたしまして♪それにしても、もう日焼けは冷めたのね」
紬の言う通り、数日前に見たときは真っ黒だった梓だったが、今は真っ白になっていた。
「は、はい。どうにか……」
「それにしても早いよなぁ」
「若いわねぇ♪」
「赤ちゃん並の新陳代謝でちゅね♪」
澪は梓の日焼けが収まる速さに驚いており、紬は笑みを浮かべながら感心し、律はニヤニヤしながら梓をからかっていた。
「それは若すぎますよ」
梓は律に馬鹿にされていると判断し、ムキになっていた。
「ところで、唯先輩。さっきのメールなんですけど、いったい何なんですか?」
梓はここに来る前に唯からメールが来たのだが、そのメールに書かれていたのは「海外進出!」という内容だった。
「実はな、みんなで旅行へ行こうって話が出ててな」
「そうだよ!それも、海外旅行だよ、あずにゃん!」
「あ、だから海外進出なんですね……」
梓は何故唯が海外進出というメールを送ったのか理解していた。
海外旅行自体はいいと思っていた梓だったが、1つ気がかりなことがあった。
「……あっ、でも皆さん。この前夏フェス行ったばかりですよね?」
梓が一番心配していたのは経済面の話だった。
紬と統夜は経済的に問題なさそうなのだが、残りの4人は経済的には不安であった。
「まぁ、俺はサバック出てたから夏フェスは行けなかったけどな……」
統夜はよほど夏フェスに行きたかったのか、しょんぼりと気を落としていた。
「あぁ!統夜先輩!気を確かに!」
梓は夏フェスに行けずしょんぼりとしていた統夜をフォローしていた。
『そうは言っても仕方ないだろう?その時期はサバックだったんだからな』
イルバは正論を言って、統夜をなだめていた。
「そうだよ、やーくん。私もやーくんが一緒じゃなかったのは残念だけど、頑張って準優勝だったじゃん!」
「ま、そうだよな……。魔戒騎士として結果を残せたのはかなり大きいよな!」
自分が魔戒騎士であると自覚した統夜は、ようやく復活したようであった。
「あと、先輩たちは受験もありますよね?」
梓がもう1つ心配していたのが、統夜を除く4人は大学受験をする可能性が高く、この大事な時期に海外旅行など行けるのか?という懸念だった。
「だからさ、受験が終わったあたりで行きたいなって思ってるんだよ」
律はそこまでちゃんと考えていたようであり、海外旅行は受験が終わったあたりに行きたいと考えていた。
「あぁ、卒業旅行ですか。いいですね」
「あずにゃんも一緒に行くんだよ!」
「え?い、いいんですか?」
「だって、みんな一緒の方が楽しいじゃない?」
「そういうことだから、遠慮はなしだぜ、梓」
唯たちはどうせ卒業旅行に行くなら、梓も一緒の方が楽しいと判断しており、出来るなら一緒に行きたいと思っていた。
「は、はい。ありがとうございます……」
梓も統夜たちと過ごす時間は楽しいと思っていたので、一緒に海外旅行という提案自体は嬉しかった。
「よし、それじゃあ旅行代理店に行って色々見てみようぜ!」
律は旅行代理店に向かってどこの国に行きたいかの案を決めることにした。
それに賛同した統夜たちは、テーブルに置かれたポテトやシェイクを完食した後、桜ヶ丘商店街の中にある旅行代理店へと向かった。
桜ヶ丘商店街の中にある旅行代理店はそれほど規模が大きい訳ではないのだが、それなりのお客さんで賑わっていた。
「さてと……」
「それにしても、たくさんあるねぇ」
統夜たちはたくさん並んでいるパンフレットを眺めながらその多さに驚いていた。
「パンフを見て、どこに行くか検討しようぜ!」
「……こんなことしてて、本当にいいんですか?」
「まぁ、梓の言い分はもっともだよな。夏期講習だって近いんだろ?」
梓は受験生である唯たち4人が悠長に旅行の計画なんて立てている場合ではないのではないかと心配になっていた。
統夜もそれは察しており、夏期講習が近いことも確認していたのだが……。
「もちろん夏期講習にも行くし、受験勉強だってやるさ!」
「でもほら!人はおやつがあるから頑張れるんだよ!頑張った後にはおやつを食べるんだよ!」
「おいおい、言いたいことはわかるが、何で例えがおやつなんだよ……」
大変な勉強の後にはご褒美が待っている。そのことでやる気を出すことができるのではないかと統夜も思っていたのだが、唯のおやつを使った例えが解せなかったのか、苦笑いをしていた。
「そうだな……。楽しみがあれば、きっと受験も乗り切れるよなぁ……」
澪はまるで現実逃避しているかのように力なく呟いていた。
「……わ、わかりました。ちょっと現実逃避したいんですね……」
「逃げてない!逃げてないぞ!」
「今朝もちゃんと勉強したよ!」
「いいんだ……。ちょっとくらいは楽しいこと考えてもいいんだ……」
「アハハ……」
唯たちのやり取りをずっと見ていた統夜は、予想以上に全員がナーバスになっていることを知り、苦笑いをしていた。
「……ま、梓の心配はわかるが。少しくらいは息抜きをさせてやってくれ。その方が受験勉強にも身が入るだろうしな」
「そうそう!その通り!」
「さすがはやーくん!わかってるねぇ!」
統夜の肯定的な発言を聞き、律と唯は統夜に詰め寄りながら過剰に反応していた。
「はいはい。とりあえずパンフレットを色々と見てみるぞ」
唯たちが受験のことを考えてナーバスにならないよう、統夜は率先して話を進めることにした。
統夜たちは、色々なパンフレットを手に取ってから1つのテーブルを囲むように椅子に座り、どこの国がいいかの検討をしていた。
アメリカ、イギリス、ハワイなどみんなは行きたいところを言っていたが、意見がまとまることはなかった。
そんな中、紬は家の関係であちこち海外へ行っているからか、特に行きたい国のリクエストはなかった。
そして統夜も魔戒騎士としての日々を過ごしているからか海外にはあまり興味はなく、みんなと一緒ならどこでもいいということを言っていた。
しかし、番犬所の許可がないと海外旅行は無理だということを唯たちに念押ししておいた。
色々案が出たが、決まらなかったため、各自で検討することとなり、この日は解散となった。
解散した後、統夜は番犬所を訪れた。
この日は指令がなかったため、統夜はそのまま街の見回りを行っていた。
気が付けば夜になり、統夜はもう少し街の見回りを行ったら家に帰ろうと考えていた。
その時、突如統夜の携帯が鳴ったため、統夜は足を止めた。
「……ん?何だろ?」
統夜はポケットから携帯を取り出すのだが……。
「……珍しいな……。憂ちゃんからだ」
どうやら電話が来ていたようで、電話をして来たのは憂だった。
意外な人物からの電話に驚きながらも、統夜は電話を手に取った。
「……はいはい、どうした、憂ちゃん」
統夜は相手が憂だとわかっていたので、いきなり憂と呼んでいた。
『あっ、統夜さん。夜分遅くにすいません。今、大丈夫ですか?』
「あぁ。ちょうど家に帰ろうと考えてたところだから問題ないよ」
『良かった……。実は統夜さんに相談がありまして……』
「相談?」
憂からの要件はさらに珍しいものだったため、統夜はまるでおうむ返しのように返していた。
『はい。統夜さんたちは海外旅行へ行くことを考えてるんですよね?』
「あぁ、唯から話を聞いたんだな。そうそう、とりあえず受験が終わったあたりとは考えてるけどな」
『それで、お姉ちゃんに何かあったらと思うと心配で、今日お姉ちゃんのために護身術の本を買ってきたんです』
「アハハ……。心配性だな……」
大好きな姉のために出来ることをしたいという憂の想いは汲み取ったのだが、心配性すぎると感じた統夜は、苦笑いをしていた。
『それで……統夜さんにお願いがあるんです』
「お願い?」
『はい……』
憂は一呼吸置いてから本題を切り出した。
憂からのお願いを聞いた統夜は少しばかり驚いていたが、姉である唯のことを想ってのお願いだったため、統夜は二つ返事で憂からのお願いを引き受けた。
『あっ、ありがとうございます、統夜さん!それじゃあよろしくお願いします!』
「あぁ、わかったよ。それじゃあ、憂ちゃん、おやすみ」
『はい、おやすみなさい』
憂からのお願いを聞いた後に統夜は電話を切り、携帯をポケットにしまった。
「さてと……」
憂との電話を終えた統夜は、ある人物と連絡を取るために歩き始めたのであった。
※※※
翌日、統夜たちはこの日、桜ヶ丘某所にある公園に集まっていた。
「なぁ、唯。何で今日は公園に集合にしたんだ?」
「そうですよ。何かやるんですか?」
既に公園には全員集合しており、今日は一体何をするのか唯に聞いていた。
「……何で俺まで……」
統夜たちの他に何故か戒人まで呼び出されており、突然の呼び出しに戒人は少しだけ戸惑っていた。
「悪いな、戒人。これからやることにはお前の協力が必要だったんだよ」
「……まぁ、お前から事情を聞いた限りではそうなんだろうな……」
憂との電話の後、統夜が連絡を取ったのは戒人であった。
同じ魔戒騎士である戒人に協力してもらい、あることを行おうと考えていたからである。
そのあることとは……?
「ふっふっふ……。これだよ!」
唯は何故かドヤ顔で一冊の本を統夜たちに見せた。
その本とは……。
「……護身術……ですか?」
「そうだよ!昨日憂が買ってきてくれたんだよ!」
梓が答えた通り、唯が手にしているのは護身術についての本であった。
「……憂の買ってた本ってそれだったんだ……」
梓は昨日旅行代理店で解散した後に本屋へと立ち寄ったのだが、その時にたまたま憂とばったり会っていたのであった。
その時に何の本を買っていたのか気になっていたが、その中身がわかり、少しだけすっきりしていた。
「まぁ、確かに海外に限らず旅行は何があるかわからないし、そういう備えは必要な気はするよな」
「なるほど……。だから俺が呼ばれたという訳か」
戒人は、何故自分が呼ばれたのか理由を理解し、納得していた。
「そうだよ!やーくんと戒人さんにはお手本をやってもらおうと思ってね!」
「お手本……ねぇ……」
『おいおい、お前さんの言いたいことはわかるが、魔戒騎士の動きが護身の参考になるのか?』
イルバの指摘はもっともであり、普段から魔戒騎士はホラーと戦っているのだが、その動きは護身術のそれではなく、常に激しい動きをしているので、そんな魔戒騎士である統夜と戒人の動きが参考になるとは思わなかった。
『ホッホッホ!まぁ、やるだけやってみたらいいじゃろう。その方がお嬢ちゃんたちも納得するだろうからのぉ』
冷静に本当のことを話すイルバとは対照的に、トルバは肯定的な発言をしていた。
「さっすがトル爺!わかってるねぇ!」
「おいおい、トル爺って……」
唯は初めてトルバを見た時からトルバをトル爺と呼んでおり、未だにその呼び名に慣れない戒人は苦笑いをしていた。
『戒人の言う通りだぜ。いちいち俺様やトルバのような魔導輪に変なあだ名をつけるなよな……』
イルバは、自分も含めて魔導輪をあだ名で呼ぶ唯に呆れ気味だった。
「むぅぅ……!別にいいじゃん、イルイルの頭でっかち!」
『あのなぁ……』
イルバは頭でっかちという唯の言葉に呆れていたからか、あだ名で呼ばれたことを訂正しようとはしなかった。
「おいおい、護身術の勉強をするんだろ?まずは実践してみないか?」
統夜は、自分と戒人がお手本を見せる前にまずはやってみることを提案した。
「そうだね!まずはやってみよう!」
唯もそれには賛成のようで、唯は憂の用意してくれた本のページをめくって、使えそうな護身術の練習をすることにした。
「……あっ、まずはこれを練習しようよ!」
唯はとあるページを指すと、それを統夜たちに見せた。
「なるほど、これは確かにやっといた方がいいかもな」
「それじゃあ、あたしが犯人役をやるから、澪は実践してみてくれよ」
「あぁ、わかった」
こうして、最初の護身術はりつみおのペアで行うことになった。
律は澪の手を掴み、不意に手を掴まれそうになったらという状況を作り出そうとしていた。
「カネを出せ〜」
律は棒読みっぽくこう言うとシュチュエーション通りに澪の手を掴んでいた。
「みおちゃん!手を掴まれたら、掴まれた手の親指を上に向けて思いっきり手刀をきる!」
唯がそこ護身術の方法を読み上げ、澪はそのまま通りに実践を行っていた。
「そして、振り切ったらダッシュで逃げる」
唯が読み上げた通りに澪はダッシュで逃げていった。
「……なるほど、これはいい感じだな」
20メートルほど逃げるように走った澪は、今行った護身術に関心しながら戻ってきた。
「……次はこれをやってみようよ!後ろから抱きつかれた時」
「あっ、それは私が犯人役をやるね。梓ちゃんは実践してね」
「あっ、はい」
今度の実践は、ムギあずペアで行うことになった。
「……フヒヒヒヒ〜!金よこせ〜!」
紬は棒読みっぽい言い方で梓に抱きついていた。
「いやいや、演技はいらないだろ?」
それとなく演技が棒読みっぽかったため、澪がツッコミを入れていた。
「エヘヘ……。臨場感あるかなって思って♪」
紬はノリノリだったからかニコニコしており、梓は少しだけ気恥ずかしかったのか、頰を赤らめていた。
「あずにゃん!かかとでムギちゃんのスネを蹴って逃げる」
「えぇ……」
やり方としてはなるほどと思っていたものの、梓は紬のスネを蹴ることに躊躇していた。
「なるほどなぁ」
「結構勉強になるのねぇ」
律と紬は唯の読み上げた護身術の内容を聞いて関心していた。
「さてと……。それじゃあ、やーくんと戒人さん!今度は2人が実践してみてよ!」
「実践ねぇ……」
今度は統夜と戒人がやってみることになったのだが、何をすればいいのか統夜は考えていた。
「……統夜。後ろから強盗に襲われた場合の撃退方法をやってみないか?」
「あぁ、それは大事かもな」
戒人の提案を受け入れた統夜は、戒人とどのような実践をするかを話し合っていた。
そして数分後、話し合いを終えた2人はさっそく実践を始めることにした。
「……」
どうやら実践をするのは統夜のようで、統夜はゆっくりと歩いていた。
すると……。
「……動くな。金を出せ」
突如背後から戒人が現れると、戒人は険しい表情でナイフのようなものを統夜に突きつけていた。
もちろんこれは本物ではなく、何故か戒人が持っていたおもちゃのナイフであった。
「……臨場感あるな……」
戒人の俳優顔負けの演技があったからか、臨場感のある実践となり、唯たちは息を飲んで様子を見守っていた。
すると……。
「っ!?」
統夜は反撃と言わんばかりに回し蹴りを放つと、戒人はとっさにそれをかわし、その隙に統夜は戒人の手にしているナイフを叩き落とした。
その後、2人は実践さながらの格闘戦を繰り広げていた。
「「「「「……」」」」」
あまりの迫力に、唯たち5人は言葉を失っていた。
しばらく格闘戦を繰り広げたところで、2人の実践は終了した。
「ふぅ……。何か護身術の実践のつもりが、ただの実践になっちまったな」
「あぁ、いい感じに体を動かすことが出来たぜ!」
意図していたものとは大きくかけ離れてしまったものの、実践さながらの稽古が出来て、統夜は満足そうにしていた。
「なぁ、統夜……」
「ん?どうしたんだ、律?」
「あたしらにそんな動きが出来るか!!」
もっともなツッコミを入れた律は、統夜に拳骨をお見舞いし、その一撃を受けた統夜はその場にうずくまっていた。
こうして、統夜と戒人の実践は、ただのスパーリングで終わってしまった。
※※※
護身術の実践が終了すると、統夜たちは日陰のベンチで一休みすることにした。
「……ちべた〜い♪」
唯は缶ジュースの缶を額に当てて、その冷たさに笑みを浮かべていた。
「すいません、戒人さん。私たちの分を奢ってもらって……」
戒人は唯たちにジュースを奢っており、梓が代表として礼を言っていた。
「気にするな。俺はみんなより年上だし、何より高校生にお金を払わせるわけにはいかないからな」
戒人はホラーを討伐する魔戒騎士といっても社会人である事は間違いないので、たかが100円ちょっとの缶ジュースだとしても、高校生である唯たちにお金を使わせるのは忍びないと思っていた。
「俺まで奢ってもらってありがとな、戒人」
戒人は同じ魔戒騎士であり、自分と同じくらいの収入があるであろう統夜にもジュースを奢っていた。
「気にするなよ。みんなに奢ったのにお前にだけ奢らないってのは感じ悪いと思っただけだ」
「……大人ですね……」
戒人とはおよそ2つくらいしか歳は離れていないものの、落ち着いた対応を見ていると唯たちは戒人がとても大人に見えていた。
「ハハ、そうか?まぁ、とりあえず護身術の練習は終わりだろ?俺はエレメントの浄化の続きをしてくるよ。統夜はせっかくだからみんなとゆっくり過ごすんだな」
戒人は統夜たちにこのように告げると、公園を後にして、エレメントの浄化の作業を再開した。
「……あと気をつけなきゃいけないのは道に迷うことかな?」
戒人がいなくなって間もなく、澪がこのように話を切り出していた。
「地図を見れば大丈夫だろ」
「確かにその通りだな」
地図さえあれば迷う事はないと律と統夜は確信していた。
「そう言ってて京都で迷子になったじゃないか」
『挙げ句の果てには俺様が駅までナビゲートしたよな』
「うぐっ、確かに……」
澪とイルバは修学旅行の自由行動の時のことを話の引き合いに出し、2人の正論に統夜はたじろいでいた。
一方律はと言うと……。
「それじゃあ歩いてる人に聞く〜」
律は京都で道に迷ったことを気にしていないのか、前向きな姿勢だった。
「……言葉通じないぞ」
「ねぇねぇ、ムギちゃん、英語出来る?」
「簡単な日常会話なら」
『おい、統夜。お前も英語はそれなりに出来たよな?』
「まぁ、幼い頃から魔戒語の勉強はしてたし、魔戒語は英語と通づるところもあるから、それなりには得意なんだよな」
「へぇ……」
紬は日々の勉強以外でも海外へ行く機会があるため、簡単な日常会話であれば英語を話す事は可能であった。
一方統夜は、そこまで勉強は得意な方ではないものの、特に英語の成績はずば抜けて良かった。
幼い頃から魔戒語を勉強しており、英語は魔戒語と似ている部分があった。
そのため、英語は得意であり、現地の人間の英語を聞いたらそこで意味を理解し、会話することも可能なのであった。
統夜の知られざる特技を知った梓は感嘆の声をあげていた。
「もしムギや統夜だけじゃなくてみんなとはぐれたら?」
澪は続いて、1番最悪であるパターンをあげていた。
「そ、それは考えたくないね……」
唯はいざその状況になったらと考えてしまい、顔を真っ青にしていた。
「それじゃあ、今から日本語禁止な」
律は唐突にこのような提案を行っていた。
「オーケーオーケー、ノーニホンゴ」
唯は何故か片言で英語っぽいことを言っていたのだが……。
『おいおい、ニホンゴはまんま日本語だろうが……』
「オーケーオーケー」
イルバは真っ当な指摘をする中、唯は軽く返していた。
「……ウェアー、ベリー、デリシャス、ケーキショップ」
「どこ、美味しい、ケーキ屋さん」
「イェース!」
梓は唯の言った単語単語を訳しながらその文章を訳していた。
「何でダイレクトにケーキ屋を聞くんだよ……」
旅行でいきなりケーキ屋を聞くことはないため、統夜はツッコミを入れながら苦笑いをしていた。
「やっぱり聞くとしたら、観光名所とか、泊まってるホテルだよな」
「ウェアー、マイホテル?」
「どこ?私のホテル……」
「ホテルのオーナーかよ!」
「その言い方だとそうなっちゃうよな……」
唯のおかしな英文を梓は訳して、律はすかさずツッコミを入れていた。
統夜も唯のおかしな英文に苦笑いをしていた。
「怪しいけど、ホテルの名前を言えば察してもらえるよな!」
「ホテルの名前とどこにあるかを言えばさらに確実かもな」
澪はホテルの名前を言えばなんとなくわかってもらえると思っており、統夜はそれに場所も言うといいと付け足しを行っていた。
「ホテルって英語でもホテルだもんね」
「発音通じますかね?」
「確かに、日本人が「ウォータープリーズ」って言っても通じなくて相手を困惑させちゃうことがあるからな」
梓は発音の心配をしていたが、統夜は日本語の発音だと通じない可能性があることを話していた。
「じゃあ、どう話せばいいの?」
「そうだなぁ。「ウォータープリーズ」じゃなくて、「water please」の方が通じるしな」
統夜は正確な発音を実践し、それに関心した唯たちは拍手を送っていた。
「水がないと人は生きてはいけないんだよ!」
『確かにそうだが、今はそういうことを言いたい訳ではないだろう……』
イルバは唯の哲学的な話に心底呆れていた。
「ねーねー、やーくんも日本語禁止やってみてよ!」
「え、俺がか?」
「うんうん、統夜君の英語聞いてみたいわぁ♪」
「得意っていうならお手本を見せてくれよな」
唯は統夜にも英語禁止の話を振り、唯たちは統夜の話す英語に興味津々だった。
「えっと……それじゃあ……」
一呼吸をおいて、統夜は語り始めた。
「……コンニチハ、キョウハイイテンキデスネ」
統夜は流暢な英語の発音で話していたのだが、あまりに流暢だったからか、唯たちは目をパチクリとしていた。
「ソレニトテモアツイデスネ。アイスノオイシイオミセヲシリマセンカ?」
統夜はアイス屋さんについて聞いていたのだが、唯たちは聞き取ることが出来なかった。
「ね、ねぇ、ムギちゃん。今のわかった?」
唯は日常会話ならなんとかなる紬に今の統夜の言葉を聞いたのだが……。
「……早いわ……」
「えぇ!?」
統夜は外国人さながらのスピードで喋っていたため、紬はその早さについていけず、意味を読み取ることが出来なかった。
そのことに、澪は驚いていた。
「……まぁ、英語って難しいよな」
英語から日本語に戻った統夜は、結論を出して話をまとめようとしていた。
「何か英語が出来る統夜が言うとシャクだけど……。確かにその通りだな」
律は英語が得意な統夜が難しいと言うのがシャクだったが、とりあえず統夜の結論に納得していた。
「……あっ、そういえばみんな、パスポート持ってる?」
紬は海外へ行くにあたって1番必要になるパスポートの存在を話に出していた。
「「「「「あっ……」」」」」
紬以外の5人は、1番大事なことに気付いたのか、互いに顔を見合わせ、それから紬の顔を見ていた。
「それに、統夜君は魔戒騎士でしょう?パスポートって取れるのかしら?」
紬はさらに気になることを告げていた。
「た、確かに……そうだよな……」
ここに来て、最大の問題に直面し、統夜の顔は真っ青になっていた。
こうして、統夜たちの海外旅行の計画に、最大の問題が直面したのであった……。
……後編に続く。
何と海外旅行行きを計画している統夜たちでした。
ちなみに、今回番外編⑤となっていますが、混沌魔戒騎士編終了後に①〜④まで番外編をあげていたので、今回の番外編はその続きとなっています。
今回戒人が少しだけ登場しました。
戦闘シーンはありませんでしたが、護身術の実践と銘打って2人のアクションがありました。
確かに、あれは護身術ってレベルじゃないよな(笑)
そして、海外旅行では必須であるパスポートの話が出てきました。
次回は、統夜たちがパスポートを取るために奔走します。
果たして、魔戒騎士である統夜は普通にパスポートを取得することは出来るのか?
それでは、次回も番外編となりますが、次回をお楽しみに!