今回はクリスマス回となります。
現実のクリスマスは来月ですが、今年のクリスマスは楽しいクリスマスにしたいですね(遠い目)
僕はともかくとして、統夜はどのようなクリスマスを過ごすのか?
それでは、第99話をどうぞ!
怨念の塊として蘇ったゼクスを討伐し、統夜と梓が付き合うようになってから、早くも10日ほどが経過した。
クリスマスが間近に迫っており、街のあちこちでクリスマスのイルミネーションが目立つようになっていた。
統夜はこの日も学校に行く前にエレメントの浄化を行っていた。
「……はぁっ!!」
統夜はとあるオブジェから飛び出して来た邪気を、魔戒剣で斬り裂いた。
「……よし。イルバ、ノルマはあと1つくらいか?」
統夜は魔戒剣を青い鞘に納めながらイルバに確認を取っていた。
『そうだな。もうそろそろ学校に行かないと遅刻するし、ここの近くのオブジェの浄化を終えたら学校に向かうぞ』
「了解だ、イルバ」
たった今浄化を終えたオブジェの近くに別のオブジェがあるとのことなので、統夜はそこへ向かうことにした。
『……それはそうと、統夜』
「ん?どうしたんだ?」
移動を始めようとしたところでイルバが声をかけてきたので、統夜は足を止めた。
『あちこち装飾がうっとおしいのだが、もうすぐクリスマスだったな』
「そういえばそうだな」
『例年なら関係なく騎士の務めを果たすところだが、今回はそういう訳にはいかないだろう?』
「そうだよなぁ。俺だってクリスマスは梓と過ごしたいけど、指令があったらダメだからなぁ」
統夜も恋人である梓とクリスマスを過ごしたいという気持ちはあったものの、指令があったらと考えたら複雑な心境になっていた。
『まぁ、その時はその時だろう。せめてプレゼントくらいは買ってやらないとな』
「わかってるって。それよりもさっさと仕事を終わらせないと。学校に遅れちまう」
統夜はここで話を終わらせると、ここの近くのオブジェへと向かい、そこから飛び出してきた邪気を浄化した。
それを終えた統夜はそのまま学校へと向かっていった。
※※※
この日の昼休み、統夜はいつものように購買へ向かい、パンを買おうとしていた。
「さーて……。今日はどのパンを狙おうか……」
既にパン争奪戦は始まっており、統夜はその争奪戦に出遅れないように、人混みの中へと入っていこうとしたその時だった。
「……統夜先輩!」
梓が人混みの中へと入ろうとする統夜に声をかけると、統夜は足を止めた。
「おう、梓か。どうしたんだ?」
「統夜先輩は今日も購買でパンですか?」
「まぁな。急がないと出遅れちまうからな」
「クスッ……。統夜先輩、良かったらなんですけど、私、統夜先輩の分もお弁当を作ったんです。一緒に食べませんか?」
「え!?マジで!?いいのか!?」
タダで食事にありつけるとわかった統夜は食いついてきていた。
「は……はい……」
統夜の食いつきぶりに、梓は苦笑いをしていた。
「統夜先輩っていつもパンですよね?それじゃ栄養が偏るかなと思いまして、弁当を作ってみたんです!」
「アハハ……。和と同じことを言うんだな……。だけど、ありがたいよ!」
「それは良かったです!それじゃあ部室で食べましょう!」
「あぁ、そうだな」
梓が弁当を用意してくれたことで購買のパン争奪戦を行う必要のなくなった統夜は、梓と共に音楽準備室に向かい、共に昼食を取ることになった。
「……よし、唯先輩たちはいない」
梓は音楽準備室に入ると、誰もいないことに安堵していた。
統夜たちは自分の教室で集まって食べることがほとんどなのだが、時々は音楽準備室で食事を取り、食後に紅茶を楽しんだりもしていた。
しかし、唯たちは教室で昼食を取っているため、音楽準備室には誰もいなかった。
統夜と梓は隣り合って座ると、梓は弁当を広げ始めた。
「……お!美味そうじゃないか!これ、全部梓が作ったのか?」
統夜と梓の前に並べられた弁当は、栄養バランスを考慮したものであり、さらには彩りも良かったので、料理上手な人間が作る弁当だった。
「お母さんに教わりながらですけど……。全部私の手作りなんですよ!」
梓は料理はそれなりに出来るが、料理上手という訳ではないため、母親に教わりながら、この弁当を完成させたのであった。
「手作りか……。男心がくすぐられるよ♪」
(やれやれ……よく言うぜ。鈍感で天然ジゴロのくせに……)
イルバは統夜が男心というものを語る発言が気に入らなかったのか、心の中で悪態をついていた。
「統夜先輩。食べてみて下さい!」
「おう!それじゃあ、いただきます!」
統夜は箸を手に取ると、さっそく弁当のおかずを1つ取って頬張った。
「……!!美味い!これ、すげー美味いよ!」
統夜は梓の作ってくれた弁当が美味しかったのか、頰を紅潮させていた。
「本当ですか!?良かったです!」
梓は統夜に美味しいと言ってもらえて、安堵したのか笑みを浮かべていた。
『おい、梓。統夜は味オンチなんだ。何を食っても美味いと言うことを忘れてはいないだろうな?』
「あっ……」
イルバの指摘で現実に引き戻された梓は、苦笑いをしていた。
「おいおい、イルバ。水を差すようなことを言うなよ。俺は本気で美味いって思ってるんだぜ」
『どうだか……』
「……」
梓はイルバに言われて統夜が味オンチだということを思い出したのだが、統夜が自分の作った弁当を美味しいと言いながら食べてくれるのは、純粋に嬉しかった。
「統夜先輩!遠慮しないでどんどん食べてくださいね!」
「あぁ、そのつもりだよ」
統夜と梓は、イルバの発言をスルーすると、2人で楽しいランチタイムを送っていた。
そんな中……。
「ぐぬぬ……。やーくんとあずにゃん、いい雰囲気だね……!」
「まさか、梓の奴が手作り弁当を持ってくるとはな」
「梓も統夜の彼女って感じがしてきたな」
「そうねぇ。私たちとしては悔しいけど、2人を見守りましょう」
「うん、そうだね……」
統夜たちより早く昼食を終えた唯たちは、恨めしそうに統夜と梓の様子を見ていたが、仲睦まじい2人を見守っていこうと思っていた。
統夜とイルバは唯たちがこっそり見ていることに気付いていたが、あえて知らないフリをしていた。
※※※
「……あっ、そうだ、梓」
「?何ですか?」
梓お手製の弁当を完食し、少しの間まったりしていた統夜と梓だったが、統夜が不意に話を切り出していた。
「もうすぐクリスマスだろ?そこら辺の話をしておきたくてな」
「え?でも統夜先輩はクリスマスこそ魔戒騎士の務めで忙しいですよね?」
梓は統夜とクリスマスを過ごしたいと思っていたのだが、魔戒騎士の務めが忙しいと予想し、気を遣っていた。
「まぁ、そうなんだけどさ……。もし時間が取れればクリスマスは梓と過ごしたいって思ってるんだよ」
「統夜先輩……。はい!私も統夜先輩とクリスマスを過ごしたいです!」
「24日は厳しいかもしれないけどさ、25日は冬休みだし、どうにか時間作るからさ、一緒にどこか出かけないか?」
24日は終業式であり、この日は指令が来る可能性が高いと思われたのだが、25日の朝と昼はどうにか時間を作れると判断し、梓にデートを申し込んだ。
「はい!統夜先輩とデート出来るならいつだって大丈夫です!」
梓は統夜とデート出来ること自体が嬉しいと思っていたので、25日でも問題ないことを告げた。
「ごめんな、梓。それじゃあ近くなったら詳しいことを決めような」
「はい!」
こうしてクリスマスデートの日程を決めた統夜と梓だったが、昼休みも終わりが近付いてきたので片付けをして、それぞれの教室へと戻っていった。
そして放課後になったのだが、統夜はいつものように部室へ顔を出し、唯たちの受験勉強の風景を眺めながら、梓にギターを教えていた。
勉強と練習がひと段落ついたら、ティータイムに突入し、この日は解散となった。
唯たち4人が同じ大学を目指すようになってからは、このような感じで1日が過ぎていくことが多く、クリスマスまではずっとこのような感じで1日が過ぎていった。
※※※
そして、クリスマスイブを迎えたのだが、この日は2学期の終業式だった。
「今日はクリスマスイブか……。今年こそみんなでパーティしようぜ!」
この日も統夜たちは部室に集まっていたのだが、律がクリスマスパーティを企画していた。
「おぉ!面白そうだね!」
「おい!私たちは受験生だろ?そんなことしてる暇はないだろ」
「わかってるよ。だけど、息抜きは必要だって♪」
さすがの律も自分の立場はわかっていたのだが、息抜きが必要だと主張していた。
「ごめんなさい……!私もそれには賛成なんだけど、今日はうちのクリスマスパーティに参加しなきゃいけなくて……」
紬は軽音部のみんなでのクリスマスパーティには賛成だったのだが、今日はこれから行われる琴吹家のクリスマスパーティに参加しなければならず、申し訳なさそうにしていた。
「そっかぁ……。それじゃ仕方ないよな……」
律は紬が参加出来ないと聞いて残念そうにしていた。
「それに、私も参加出来そうにありませんので……」
梓は申し訳なさそうに、欠席を伝えていた。
「……彼氏ですよ、奥さん」
「羨ましいですねぇ」
梓が欠席と聞いた律と唯は、ニヤニヤしながら梓をからかっていた。
「ち、違います!今日は家族と過ごすんです!」
「あれ?そうなの!?」
「それは意外だな……」
梓は統夜と2人きりのクリスマスイブを過ごすと唯たちは予想していたのだが、その予想が外れると、意外だと驚いていた。
「統夜はクリスマスイブって忙しいのか?」
「あぁ。クリスマスイブはかなりの確率で指令があるからな」
『この時期は幸せな奴が多い分、陰我も多いからな。ホラーもよく現れるという訳だ』
「そ、そうなんだ……」
イルバの説明を聞くと、唯たちはどうやら納得したようだった。
「あっ、わかった!今日は無理でも明日はデートするんだろ!」
「ふぇ!?な、何でわかったんですか?」
「やっぱりな。今日じゃないなら明日あたりでもデートするだろうと思ってたんだよ」
「それにしても羨ましいですなぁ」
統夜と梓が明日デートするとわかると、唯はニヤニヤしながら梓をからかっていた。
「あぅぅ……////」
改めて明日デートすることがバレて恥ずかしかったのか、梓は顔を真っ赤にしていた。
「梓ちゃん、統夜君、楽しんできてね♪」
「そうだぞ、梓。統夜とのんびり出来る機会は少ないんだから今のうちにしっかり甘えておかないと」
「そ、そうですね……」
紬と澪は梓を焚きつけるようなことを言っており、梓にはそれが恥ずかしかった。
「とりあえず、お茶にしましょうか♪」
紬はティータイムの準備を整えると、そのままティータイムに突入した。
統夜は唯たちにからかわれながらもティータイムを楽しみ、それが終わると、番犬所へと向かっていった。
「……お、統夜。来ましたね」
「はい、イレス様」
統夜はイレスに一礼すると、狼の像の前に立ち、そこに魔戒剣を突き刺すことで、魔戒剣の浄化を行った。
「……それはそうと、今日はクリスマスイブみたいですね」
統夜が魔戒剣を鞘に納め、しまうタイミングでイレスがこのように話を切り出した。
「えぇ。だからか街はクリスマスのイルミネーションでいっぱいですよ」
「すいませんね、統夜。せっかくのクリスマスイブだというのに。梓と一緒に過ごしたいでしょう?」
「いえ……。梓とは明日ゆっくり過ごそうと思っていますし、この時期は陰我が集まりやすいことも理解していますので」
「そうなんですよね。この時期は幸せそうな人が多い反面、その幸せを妬む気持ちが陰我になりかねますからね」
クリスマス時期はいつもより陰我が集まりやすいことから、ホラーの出現率も高く、かなりの確率でホラー討伐の指令が下される。
どうやら今年もそのようであり……。
「……統夜、指令です」
統夜に指令が下され、イレスの付き人の秘書官が、統夜に赤い指令書を手渡した。
それを受け取った統夜は、魔法衣から魔導ライターを取り出すと、魔導火を放って指令書を燃やした。
すると、そこから魔戒語で書かれた文章が飛び出してきた。
「……人の幸せを妬み、その幸せを喰らうホラーあり。ただちに殲滅せよ」
統夜が文章を読み上げると、魔戒語で書かれた文章は消滅した。
『やれやれ……。いかにもらしい指令じゃないか。ホラー、エンヴィード。幸せそうなカップルを狙って捕食する胸くそ悪い奴だぜ』
「幸せそうなカップルを捕食……?そんなことさせるかよ!」
統夜は人の幸せを踏みにじろうとしているホラーの存在を許すことは出来なかった。
「そうですね。幸いにも今の所被害の報告はありません。ホラーが誰かを捕食する前に討滅するのです」
「わかりました。ホラーを見つけて、討滅します」
統夜はイレスに一礼すると、番犬所を後にして、イルバのナビゲーションを頼りにホラーの捜索を開始した。
※※※
統夜が番犬所を後にして、ホラー捜索を始めてしばらく経過すると、すっかり夜になり、街はクリスマスのイルミネーションでキラキラと輝いていた。
今日はクリスマスイブということもあり、街は幸せそうなカップルが多く見受けられた。
そんな中、その幸せそうなカップルたちを恨めしそうに見ている男が1人いた。
「……くそっ!何がクリスマスだよ。どいつもこいつも幸せそうにしやがって……」
幸せそうなカップルを睨む男の様はただクリスマスというイベントと幸せそうなカップルに嫉妬している男に見えたのだが、この男こそ、ホラーであった。
「……幸せそうな奴らはこの俺が食ってやるさ」
ホラーである男の標的こそ、幸せそうなカップルだった。
その時、男は1組のカップルに目を付けていた。
「よし……。まずはあいつらからだ」
目を付けたカップルを捕食するためにゆっくり近付こうとしたその時だった。
「……おい、ちょっといいか?」
男がカップルに近づく前に赤いコートの少年……統夜が男に声をかけた。
「……な、何だお前!邪魔するな!」
「……そういう訳にはいかないんだよ。だってお前……」
統夜はこう前置きをすると、魔法衣から魔導ライターを取り出すと、魔導火を放って、男の瞳を照らした。
すると、男の瞳から不気味な文字のようなものが浮かび上がり、その男がホラーであるということが明かされた。
統夜が魔導火を照らした時、男に狙われたカップルはふと統夜の姿を見て足を止めた。
それは何故かというと……。
「……あれ?もしかしてあれって、統夜?」
「それに、あいつは……!」
この2人はヒカリと幸太であり、幸太は統夜が男の前で魔導火を放っているのを見て、この男がホラーであることを推測した。
「……貴様、魔戒騎士か……!」
「ま、そういうことだ」
男は統夜が魔戒騎士だとわかると、統夜を殴り飛ばし、統夜はヒカリと幸太の近くまで吹き飛ばされた。
「……ちょっと、統夜!大丈夫?」
「つつつ……。ってあれ?ヒカリさんと幸太さんじゃないか。デート中って訳だな」
「そういう統夜君はホラー退治か?」
「ま、そんなところだ」
統夜は体勢を立て直すと、男を睨みつけていた。
ここは人が多いため、迂闊に剣を抜くことが出来ない状態であった。
「統夜!ホラーをそこの路地裏に誘導するんだ。あそこなら人目につかず戦えるハズだ」
「了解だ!感謝するぜ、幸太さん!」
幸太のアシストに感謝しながら、統夜は男の体を掴み、近くの路地裏に移動した。
統夜が移動したことを確認すると、幸太とヒカリは、路地裏の入り口に移動し、他の人が入ってこられないようにした。
幸太とヒカリのおかげでホラーとの戦いに専念出来る統夜は、男を蹴り飛ばすと、魔戒剣を抜いた。
「……おのれ……魔戒騎士……。俺の邪魔をしやがって!」
「悪いが、お前らの邪魔をするのが俺の仕事なんでな」
統夜は魔戒剣を構えると、男を睨みつけていた。
「……おのれ……!!こうなったら、目障りな貴様を始末し、俺の食事を楽しませてもらうぞ!」
「そうはさせるか!せっかくのクリスマスなんだ。お前の好きにはさせない!」
統夜はホラーである男を倒すために男に向かっていった。
男も統夜を仕留めるために向かっていって攻撃を仕掛けるが、攻撃は統夜に難なくかわされてしまい、逆に蹴りによる攻撃を受けて吹き飛ばされた。
「くそっ……!こうなったら……本気で貴様を殺してやる!」
こう言った男の瞳は真っ白になると、人間の姿から、ホラーの姿へと変わっていった。
『……統夜!こいつがエンヴィードだ。油断するなよ!』
「あぁ、わかってる!」
統夜は魔戒剣を構えると、エンヴィードを睨みつけた。
ホラーの姿となったエンヴィードは統夜に襲いかかると、爪による攻撃を仕掛けた。
統夜はエンヴィードの攻撃を軽々と防ぐと、魔戒剣を一閃してエンヴィードを斬り裂き、蹴りを放ってエンヴィードを吹き飛ばした。
「よし、一気に決着を付けてやる!……貴様の陰我、俺が断ち切る!」
統夜はエンヴィードに向かってこのように宣言すると、魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。
そこから放たれる光に包まれると、統夜は白銀の輝きを放つ奏狼の鎧を身に纏った。
「こ……こいつ!まさか、奏狼とかいう魔戒騎士か!」
エンヴィードは奏狼の存在を知っていたのか、統夜と対峙して驚きを隠せずにいた。
「へぇ、お前も俺のことを知っていたか……。だが、一気に決着をつける!」
統夜は魔戒剣が変化した皇輝剣を構えると、エンヴィードに向かっていった。
「おのれ……!これならどうだ!!」
エンヴィードは統夜の接近を阻止するために、衝撃波を何度も放つが、奏狼の鎧に傷1つつけることは出来なかった。
エンヴィードに接近した統夜は、皇輝剣を一閃すると、エンヴィードの体を真っ二つに斬り裂いた。
「こ……こいつ……強すぎる……!」
エンヴィードは統夜の圧倒的な力に為す術もなく、真っ二つにされてしまい、その体は、爆発と共に消滅した。
エンヴィードが消滅したことを確認した統夜は鎧を解除すると、元に戻った魔戒剣を青い鞘に納めた。
「ふぅ……。とりあえずお仕事は完了だな」
統夜はエンヴィードを討伐し、一息ついていた。
「統夜君!」
「統夜!」
機転を利かして統夜とエンヴィードを路地裏に誘導した幸太とヒカリは、統夜がホラーを討伐したことを確認すると、統夜に駆け寄った。
「幸太さん、ヒカリさん。的確にここまで誘導してくれてありがとうな。おかげでスムーズにホラーを狩ることが出来たよ」
統夜は、幸太とヒカリによる的確な誘導に感謝をしていた。
2人のおかげで、統夜は一般人に怪しまれたり巻き込んだりすることなく、ホラーを討伐することが出来たのであった。
「気にするなよ。俺にはホラーを倒す力はないが、出来ることでお前のサポートをしたいと思ってたしな」
「それは私だって同じ気持ちよ」
幸太とヒカリは魔戒騎士でも魔戒法師でもないため、ホラーを倒すことは出来ないが、それでも統夜のサポートはしたいと考えていた。
「そう言ってもらえると助かるよ。それにしても、2人ともデートなんだろ?邪魔して悪かったな」
「気にするな。ホラーを見つけたとなるとおちおちデートなんかしてられんからな」
「幸太の言う通りだわ。これで私たちは心置き無くデート出来るって訳♪」
ヒカリは幸太と出会ったばかりの頃は「幸太さん」と呼んでいたが、付き合うようになって「幸太」と呼び捨てで呼ぶようになった。
その微妙な変化を統夜は感じ取り、苦笑いをしていた。
「それはそうと、2人ともデートなんだろ?邪魔しちゃ悪いし、俺はそろそろ行くな」
統夜はホラーを討伐したということで、幸太とヒカリのデートを邪魔しないよう足早にその場から立ち去った。
その後はキラキラと輝くクリスマスイルミネーションを眺めながら街の見回りを行い、家路についた。
※※※
翌日、この日はクリスマスであり、統夜は梓とデートの約束をしており、桜ヶ丘某所で待ち合わせをしていた。
統夜は約束の時間より20分も早く待ち合わせの場所に到着したのだが……。
「……あっ、統夜先輩」
何と梓は統夜よりも早く待ち合わせの場所に来ており、統夜のことを待っていたのであった。
「梓、ずいぶんと早いな。まだ待ち合わせまで時間あっただろ?ちょっと待ったか?」
「いえ、大丈夫です!ここに着いたのは5分くらい前ですから」
「アハハ……。それにしても早いな……」
「私、今日が凄く楽しみで、家でジッとしていられなくて……」
梓は今日のデートを楽しみにしてたからこそ、待ち合わせの時間よりも早く来ていたのであった。
「ま、そこは俺も同じ気持ちだよ。……とりあえず、行こうか」
「はいっ!」
統夜は自然と梓の手を繋ぎ、2人揃って幸せそうな笑みを浮かべながら移動を始めた。
(……やれやれ。最近はようやく恋人同士らしくなってきたか。今日のデートはいったいどうなることやら……)
ずっと統夜と梓のことを見守ってきたイルバは、最近の2人が恋人同士らしくなったことに安堵しており、今日のデートが無事に終わるよう心配していた。
2人が向かったのは、隣町にある複合型のショッピングモールであり、様々な店だけではなく、ゲームセンターや映画館も併設されている。
今日のようなイベントの日にもなれば、多くの若者で賑わうのである。
梓がここのショッピングモールに行きたいと話をしたため、ここを今日のデートスポットにしたのであった。
統夜たちがショッピングモールに到着すると、すでに多くの人で賑わっており、カップルの姿が目立っていた。
「凄い人ですね……」
「そうだな……。さすがはクリスマスといったところだな……」
人が多いことは予想していたものの、ここまで多いとは思っていなかったので、2人は驚きを隠せなかった。
「……梓、まず最初にどこに行きたい?」
統夜は梓に行きたい場所の確認をとっていた。
「……そうですね……。まずはお買い物がしたいです!」
「わかった。それじゃあ行こうか」
「はいっ!」
統夜と梓は買い物をするために移動を開始した。
最初に向かったのは、服屋が多いブースであり、すでにここも多くの人で賑わっていた。
「アハハ……。やっぱりみんな服を見るんだな」
このショッピングモールの来場客の多くが10代〜20代であり、オシャレな服が揃っていることから、服を売っている店は大賑わいだった。
2人はとりあえず梓の服を見るために女性ものの服を扱う店で服を物色していた。
「統夜先輩」
「ん?どうした?」
「私の私服って……。ちょっと子供っぽいですかね?」
「へ?」
梓からの思いがけない質問に、統夜は面食らっていた。
「今日はデートだからちょっとは頑張ってオシャレしましたけど、普段の服はちょっと子供っぽいのかなぁって……」
「んー……。そうか?そこは気にしなくてもいいと思うけどな」
《俺様から言わせてもらえば子供っぽい気はするが、あまり背伸びをする必要はない気がするがな》
イルバは梓にも伝わるようにテレパシーを送っていた。
「……そうですかねぇ……」
「梓、イルバの言う通りだぜ。オシャレは大切だけど、あまり背伸びはしなくてもいいと思うぜ。俺はありのままの梓が好きなんだからな」
「あっ……ありがとう……ございます……////」
統夜のストレートな言葉が恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
「とりあえず、色々服を見てみようぜ。欲しい服があれば買ってやるよ」
「え?で、でも……。悪いですよ!」
「大丈夫だって。魔戒騎士の仕事をしてるから番犬所からそれなりにもらってるし、両親の遺産もあるからけっこう貯金はあるんだぜ」
統夜は自分の懐事情を梓に説明し、気兼ねなく奢れるようにしていた。
統夜の現在の収入は、エリートと呼ばれるサラリーマン以上であり、貯金を含むとかなりの金額がある。
そのため、統夜は毎日のように外食をしているのであった。
「あ、ありがとうございます……。それじゃあ、遠慮なく……」
梓は統夜と共に服の物色を行った。
梓は気に入った服を手に取っては試着を繰り返し、欲しい服を吟味していた。
一方統夜は、大好きな梓がコロコロと衣装チェンジをするのを見て満足そうにしていた。
最終的に、梓は2着ほどの服をチョイスし、統夜はその2着の服を購入した。
続いては、統夜の着る服をチョイスすることになった。
「それじゃあ次は統夜先輩の服を見ましょう」
《まぁ、統夜はこんな感じで出掛けない限りはほぼ同じような格好をしているからな》
イルバの指摘通り、統夜は唯たちと遊ぶ時はちゃんとした私服に着替えるのだが、休みの日のエレメントの浄化の時は、同じような格好をしていることが多かった。
「今の格好でも十分オシャレですけど、やっぱり統夜先輩にはもっとオシャレな格好をしてもらいたいです」
「そ……そうか?俺はあまりオシャレとかは無頓着だからさ。梓、コーディネートをお願いしてもいいか?」
「任せて下さい!」
梓は男物の服を物色し、どれが統夜に似合うかをじっくりと吟味していた。
いくつかの服をチョイスした梓は、統夜にそれを試着してもらい、さらに吟味をしていた。
自分の服よりもじっくりと時間をかけて統夜の服を選んだ梓は、2セットの服をチョイスし、統夜は梓に選んでもらった服を迷わず購入した。
「俺の服を選んでもらって、ありがとな、梓」
「いえ、気にしないでください。だけど、この服、次のデートに着てきて下さいね」
「わかってるって」
服の買い物を終えた統夜と梓は、続いて雑貨を見て回り、めぼしいものを見つけては購入していた。
雑貨を見た辺りでちょうど昼食の時間になり、2人はショッピングモール内にあるフードコートで昼食を取った。
食事を終えた後、梓はショッピングモール内にある映画館でとある映画を観たいということを提案した。
しかし、まだ映画の上映まで時間があったため、近くにあるゲームセンターで時間をつぶすことにした。
クレーンゲームの辺りを歩いていると……。
「……あっ」
梓はとある景品に目が止まって足を止めると、統夜も足を止めた。
「……梓、これが欲しいのか?」
「はい。でも、難しいですよね……」
梓は不安げに景品を見つめるが、その景品は猫のぬいぐるみなのだが、クレーンゲームの初心者には厳しそうな配置だった。
「……梓、任せろ」
「……統夜先輩?」
統夜は魔戒騎士としてではなく梓に格好いいところを見せようと張り切ると、500円を入れると、クレーンゲームに挑戦した。
統夜は何度かクレーンゲームの経験はあるものの、魔戒騎士であるが故に初心者同然のため、1発で景品を取ることは出来なかった。
500円はあっという間に無くなり、統夜は追加投資をした。
その500円もあっという間に無くなり、統夜は気が付けば2000円も投資していた。
「と、統夜先輩。もういいですよ!気持ちだけでも十分に嬉しいですから!」
「だ、大丈夫だ……。も……もう少しだ……」
梓は追加投資をしてまで挑戦を続けている統夜を申し訳なさそうに見ていたが、統夜は諦めずに挑戦を続けていた。
(やれやれ……。格好つけるどころか、格好悪いところを見せることになったな、統夜……)
イルバは格好悪いところを見せる結果になってしまった統夜に呆れていた。
そして、投資額は3000円を越え、それもなくなるかと思われたその時だった。
「……よし!そこだ!」
アームが絶妙な位置に移動し、アームはガッシリと猫のぬいぐるみを掴んでいた。
「行け!そこだ!」
統夜は成功を祈っており、その祈りが届いたのか、猫のぬいぐるみを掴んだアームは絶妙なバランスで戻ってきた。
そして……。
……ガタン!
統夜の祈りが届いたのか、猫のぬいぐるみを掴んだアームは離され、統夜は見事に景品を獲得することが出来た。
「よし!やっと取れた……」
統夜は3000円を使ってようやく景品を取ることが出来、疲労感を露わにしていた。
「……ほら、梓」
統夜はやっとの思いで獲得した景品を梓に手渡そうとした。
「え?で、でも、悪いですよ……」
「いいんだよ。俺は梓にプレゼントするために頑張ったんだから。受け取ってくれなかったら、苦労が無駄になっちまうよ」
統夜は苦笑いをしながらおどけて、梓にぬいぐるみを受け取るよう促した。
統夜の気持ちを察した梓は統夜からぬいぐるみを受け取った。
「統夜先輩……ありがとうございます!これ、大切にしますね!」
「あぁ」
梓は心から喜んでいるようであり、梓の笑顔を見た統夜は、穏やかな表情で笑みを浮かべ、先ほどまでの疲労感はあっという間に吹っ飛んでいた。
クレーンゲームコーナーを楽しんだ2人は、ゲームセンターを一周し、そこで上映時間が迫ってきたので、映画館へと戻ることにした。
受付でチケットを購入し、ドリンクやポップコーンを購入すると、劇場の中へ入り、適当な席へと座った。
2人が座ってから数分後に映画の予告編が始まり、映画が上映された。
2人が見ている映画は、若者に絶大な支持を得ている恋愛映画であり、ひょんな事から出会った2人が互いに惹かれあい、結ばれるという感じの内容であった。
恋愛映画ということもあってか、カップルが多く、主役である2人の恋愛に夢中になっていた。
一方統夜は……。
「……」
恋愛映画はあまり見ないからか、ジト目で映画を見ており、少しばかり退屈そうだった。
《……おい、統夜。ずいぶんと退屈そうだな》
(まぁ、俺ってあまり恋愛映画は見ないからちょっと苦手なんだよな)
《そうかもな。だが、たまにはこういう映画も悪くないんじゃないか?》
(そうだな。あまり退屈そうにしてても梓に悪いしな)
統夜はイルバとテレパシーで会話をしていたのだが、会話が終わると、映画に集中していた。
そして映画がクライマックスに近付いていくのだが、とある事情で2人は離れ離れにならなければいけなくなった。
そんな2人に感情移入をしたカップルたちは感動からかうっすらと涙を流していた。
梓も同様に感情移入したのか、涙を流すまではいかなかったが、瞳をウルウルとさせていた。
そんな中、統夜は……。
(……ダメだ……。全然感情移入出来ねぇ……)
統夜は色々と思うところがあるせいか、感情移入が出来ず、ジト目で映画を見ていた。
そして離れ離れになった2人だったが、ラストで再開を果たし、2人の絆がより一層深まったところで、映画は終了した。
映画を見終わった統夜と梓は、ショッピングモールの中を歩いていた。
「映画、面白かったですね!」
「あぁ、そうだな」
統夜の本音としては面白くないと思ったのだが、梓に気を遣わせないように面白いと答えていた。
「恋愛映画ってあまり見ないから新鮮だったよ」
統夜は嘘がバレないようにこう答えたのだが、これは嘘偽りのない本音だった。
「そうなんですか?だったら良かったです!」
(良かった……。梓のやつ、楽しそうだよ)
《まぁ、お前さんも頑張ってるってことだな》
イルバはせっかくのデートで梓を楽しませようと奮闘している統夜のことを評価していた。
映画も終わり、気が付けば間も無く日が落ちる時間帯になっていた。
「……統夜先輩。ここを出る前に1箇所だけ行きたいところがあるんですけど、いいですか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます!それじゃあ、行きましょう!」
梓は統夜を連れてとある場所へと向かった。
その場所とは……。
「……綺麗ですね……」
「そうだな……」
2人はこのショッピングモールに併設されている観覧車の中にいて、そこから見える景色に見入っていた。
「統夜先輩……。今日は本当にありがとうございます。すっごく楽しかったです!」
「俺も楽しかったぞ。梓とゆっくり過ごせたからな」
魔戒騎士として忙しい日々を送る統夜ではあったが、このように梓と普通のデートが出来ることが素直に嬉しかった。
「統夜先輩……。隣にいってもいいですか?」
「もちろん」
向かい合わせに座っていた2人だったが、梓が統夜の隣に移動した。
すると、梓は何も言わずに統夜にもたれかかっていた。
梓の温もりを感じた統夜は何も言わずにただ笑みを浮かべていた。
2人は何も言わずにしばらくの間、その状態でいた。
「統夜先輩。ちょっといいですか?」
「ん?どうした?あず……」
梓に呼ばれて統夜が梓の方を見たその時だった。
梓は自分から統夜にキスをした。
「……エヘヘ////キス……しちゃいました////」
梓は少し恥ずかしそうにしながらも満面の笑みを浮かべていた。
「お、おう……////そうだな////」
統夜も梓にキスされて恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしていた。
2人は既にファーストキスは済ませていたのだが、それはゼクスとの戦いの最中で統夜が無我夢中の時だったので、統夜は記憶していなかった。
なので、統夜がハッキリと感じたキスはこれが初めてなのである。
「統夜先輩……。今度は統夜先輩からキスして下さい……」
「……わかった」
今度は統夜から梓にキスをし、いい雰囲気になったところで観覧車の時間は終了した。
観覧車を出た2人は、ショッピングモールを後にすると、桜ヶ丘へと戻っていった。
※※※
桜ヶ丘に戻ってきた2人は、統夜の知っている店でクリスマスらしい夕食を取った。
そこで、統夜と梓はそれぞれ用意したクリスマスプレゼントを手渡した。
食事を終えた2人は、桜ヶ丘某所の道を歩いていた。
「……梓、今日は本当にありがとな。凄く楽しかったぜ」
「はい!私も楽しかったです!」
「それじゃあ、今日はそろそろ帰るか?送るからさ」
「……」
統夜から帰るというワードが出ると、梓は何故か黙った状態で俯いていた。
「……?梓?」
「……帰りたくないです……」
「え?」
「統夜先輩……。今夜は統夜先輩と一緒にいたいです……」
「!?」
梓からのまさかの言葉に、統夜は驚きを隠せなかった。
いくら色恋に関しては鈍感な統夜でも、帰りたくないというのがどういう意味なのかは理解しているからである。
「……あー……。その……えっと……」
梓の言葉に動揺した統夜は、梓に何て返答すべきか迷っていた。
『おい、統夜。お前さんも男だろう?だったら覚悟を決めたらどうだ?』
ここでイルバが梓に助け舟を出すと、そのイルバの言葉に統夜はハッとしていた。
「……わかった。したら、俺の家に行こうか」
「はい!」
統夜はホテルという選択肢は選ばず、梓を統夜の家に招くことにした。
こうして、統夜は梓の家に泊まることになり、クリスマスの夜は2人で過ごすことになった……。
……続く。
__次回予告__
『今年ももう終わるのか。何だかあっという間じゃないか。次回、「新年」。来年もよろしく頼むぜ!!』
ぐぬぬ……!統夜が羨ましい!(笑)
それにしても、統夜と梓はようやく恋人らしくなってきましたね。
クリスマスイブはホラーと戦っていましたが、クリスマスは楽しい日々を過ごしていたと思います。
今回登場したホラーは妬みを陰我として現れたホラーですが、名前をどうするか少し悩みました。
ジェラシットだと、某海賊戦隊に出てましたからね(笑)
さて、次回は年末年始の話となります。
統夜たちはどのような年末年始を過ごすことになるのか?
それでは、次回をお楽しみに!