牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第98話になります!

昨日だけど、梓、誕生日おめでとう!!

梓の誕生日の日に誕生日記念の番外編を作ることも考えたんだけど、他のキャラの誕生日記念はしなかったし、ネタがまとまってなかったのでやりませんでした。

さて、今回はゼクスとの戦いの後日談となります。

付き合うようになった統夜と梓に何か変化はあるのか?そして、唯たちとの関係は?

それでは、第98話をどうぞ!




第98話 「平穏」

かつて統夜が討伐した暗黒騎士ゼクスことディオスが、怨念の塊として蘇った。

 

それはディオスそのものではなく、ディオスの怨念が鎧として実体化した姿だった。

 

ゼクスは12体のホラーを封印した短剣の力を用いて実体化に成功したのであった。

 

ゼクスは統夜を確実に葬るために梓を誘拐し、姑息な手段で統夜を追い詰めていった。

そんな中、ゼクスは不意に梓を解放するのだが、これはゼクスの罠であった。

 

ゼクスは梓を殺すために攻撃を仕掛けるのだが、統夜は梓を庇ってその攻撃を受けてしまい、倒れてしまった。

 

この一撃で統夜は殺されてしまったと思われたのだが、唯たちが統夜の誕生日に送ったネックレスのおかげで、統夜は一命を取り留めた。

 

一命を取り留めた統夜は梓に自分の気持ちを伝えた。

 

そのことによって自然と力のみなぎって来た統夜は、蘇ったゼクスと決着をつけるべく戦いを挑んだ。

 

統夜は渾身の一撃でゼクスを退くことに成功したが、完全にゼクスを討伐したことにはならなかった。

 

そのゼクスは、謎の漆黒の騎士に取り込まれてしまった事を、統夜たちはまだ知らなかった。

 

その戦いから数日後、統夜はこの日も普通に登校した。

 

「……おう、みんな。おはよう!」

 

統夜はいつものノリで唯たちに挨拶をするのだが……。

 

「……あっ、やーくん……」

 

「おっ、おはよう、統夜君……」

 

「「おっ、おはよう、統夜」」

 

唯たちは統夜を見るなりとりあえずは挨拶をするのだが、どこかよそよそしい態度だった。

 

「……?みんな、どうした?」

 

「あ……。いや……えっと……」

 

「……あっ、統夜君ごめん!私、トイレに行ってくるね!」

 

「あ、私も」

 

「あたしも行ってくるよ」

 

「あっ、私も行く〜!」

 

唯たちは揃ってトイレに行くとのことで、教室を後にした。

 

「……?どうしたんだ?唯たちのやつ」

 

《まぁ、あいつらの気持ちもわからんではないがな》

 

イルバは、何故唯たちが統夜によそよそしい態度を取っているのか理由を察していた。

 

(……イルバ、そうなのか?)

 

《そりゃそうだろ。だって、あいつらは……》

 

イルバが説明をしようとしたその時だった。

 

「……ねぇねぇ、統夜君。唯ちゃんたちとケンカでもしたの?」

 

いつもと違う様子の唯たちを見ていたクラスメイトの佐伯三花が、統夜に声をかけた。

 

「いや。別にそんなことはないんだけど……」

 

「あっ!もしかして、4人揃ってフっちゃったとか?」

 

統夜と三花との会話に、中島信代が割って入ってきた。

 

「アハハ!さすがにそれはないんじゃない?そうだよね?」

 

「アハハ……。ま、まぁな……」

 

4人揃ってフったという言葉が統夜の胸にグサリと刺さったのか、苦笑いをしていた。

 

《統夜……図星だな》

 

(わかってるっての!)

 

《だが、唯たちがよそよそしいのはそれだけが理由ではなさそうだがな》

 

(え?……!?も、もしかして……)

 

統夜は唯たちが統夜によそよそしい態度を取るもう1つの理由を察していた。

 

すると……。

 

「……?統夜君?どうしたの?」

 

「もしかして……。あたしの言ったこと、当たってるとか?」

 

「アハハ、違う違う。そんなんじゃないからさ」

 

統夜は苦笑いをしながらこのように話を誤魔化していた。

 

「お、俺もトイレ行ってくるかな〜」

 

統夜は平静を装い、そして逃げるように教室を後にすると、本当にトイレに向かった。

 

トイレで用を足した統夜はそのまま教室に戻ることにしたのだが……。

 

「「……あっ」」

 

偶然にも梓とばったりあったのだが、お互いを意識しすぎて互いに恥ずかしがっていた。

 

「……あっ、そうだ。統夜先輩!」

 

「ん?どうした?」

 

何かを思い出した梓は、恥ずかしがるのをやめて統夜に話しかけた。

 

「さっき先輩たちを見かけたんですけど、先輩たち、すごくバツが悪そうで……」

 

「あぁ、梓も見かけたのか……」

 

「私が統夜先輩と付き合うようになったから、気まずくなったんですかね……」

 

「いや、それだけが理由じゃないと思うんだよ」

「それだけじゃない……。あっ!もしかして……!!」

 

「まぁ、そういうことだろうな」

 

「……」

 

梓はゼクスにさらわれたことを思い出し、俯きながら黙っていた。

 

「梓、気にすることはないんだぜ。悪いのはゼクスなんだから……」

 

「……っ!でも!」

 

「唯たちには改めて話をするよ。俺としてもこのまま唯たちと気まずいのも嫌だしな」

 

統夜は未だに気まずいと思っている唯たちときちんと話をしようと心に決めていた。

 

「それじゃあ、今日も部活に顔を出すから、その時に唯たちに話をするからな」

 

「はい!それじゃあまた後で!」

 

統夜は梓と会話を終えて、梓と別れると、そのまま教室へ戻っていった。

 

教室に戻った統夜は、こちらを気まずそうに見つめる唯たちの姿を確認するが、唯たちを気遣って自分から声をかけることはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後、統夜はいつものように音楽準備室を訪れたのだが……。

 

「……あっ、やーくん……」

 

「統夜君……」

 

「やれやれ……。お前たち、まだあの時のことを気にしてるんだな」

統夜は相変わらず気まずそうにしている唯たちを見ながら苦笑いをしていた。

 

それから魔法衣と学生鞄を長椅子に置き、学生鞄からイルバ専用のスタンドを取り出すと、自分の席に座り、イルバ専用のスタンドをテーブルの上に置いた。

 

統夜は自分の指にはめられたイルバを外すと、専用のスタンドにセットした。

 

「……だって……私たち……」

 

「梓を助けるためとはいえ、統夜をあれほど傷つけて……」

 

「だから……」

 

「やーくんに合わせる顔がないよ……」

 

唯たちが統夜に対してよそよそしい態度を取っているのは、ゼクスとの戦いの時に梓を救うために、統夜を傷つけた罪の意識があるからであった。

 

それは仕方のないことだということは頭ではわかっていても、申し訳無さは消えることはなかった。

 

「皆さん……」

 

梓は悲痛な表情で唯たちのことを見ていた。

 

もし自分ではなく違う誰かが誘拐されていたら、きっと同じことをしていただろうと思っていたからだ。

 

そのため、梓はどのような言葉で唯たちを励ますべきかわからなかった。

 

「……やれやれ……。馬鹿だなぁ、お前ら」

 

統夜もそんな唯たちの気持ちは理解していたが、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

「……あの時だって言ったろ?お前らの攻撃なんて痛くもかゆくもないってな。それに、あの状況じゃああするしかないってのは俺もわかってるから」

痛くもかゆくもないっていうのは嘘だったが、梓を人質にとられた状況ではやむなしだということは統夜もよく理解していた。

 

「……っ!だ、だけど!」

 

「それに……。それだけ後ろめたく思ってるってことは、それだけ俺のことを大事に思ってくれてるってことだろ?そこは嬉しく思ってるぜ」

 

『ほぉ……』

 

統夜は梓と付き合うようになり、その時に唯たちの気持ちがなんとなくではあるが理解出来るようになっていた。

 

色恋に関しては鈍感だった統夜の成長ぶりに、イルバは笑みを浮かべていた。

 

「だからさ……。いつも通りでいてくれないか?このままずっと気まずいのも嫌だしさ」

 

統夜は唯たちの気持ちを理解した上でこのように告げながら笑みを浮かべていた。

 

そんな統夜の言葉は唯たちの胸に響いたようで、唯たちの瞳には涙が滲んでいた。

 

そして……。

 

「やーくん!!」

 

「うぉっ!?」

 

唯は統夜にタックルするかのように飛びついてきて、その勢いで、統夜は唯に押し倒される形になってしまった。

 

「やーくん……!やーくん……!」

 

唯はすかさず統夜に抱きつくと、堰が切れたかのように泣き出していた。

 

「やれやれ……」

 

統夜は穏やかな表情で笑みを浮かべると、唯の頭を優しく撫でていた。

 

そして、そのやり取りがしばらく続くと、澪、律、紬の3人も統夜に抱きついていた。

 

「統夜……!統夜!」

 

「ごめんな……!本当にごめんな!」

 

「統夜君、本当にごめんね!」

 

律、澪、紬の3人も涙を流しながら統夜に詫びの言葉をいれていた。

 

「まったく……。俺たちの絆があれくらいのことで壊れる訳ないだろ。だから、奴の言った言葉は気にしないでもいい。俺はみんなのことを大切に思ってるんだからな」

 

統夜は1人の女性として好きになったのは梓だったが、唯たちのことも色恋とは別として大切に思っていた。

 

「うん……!私もやーくんのこと、好きだよ!」

 

「あぁ、色恋は別にしても、あたしは統夜のことを大事に思ってるんだからな!」

 

「私も同じ気持ちだよ!」

 

「うん!私も統夜君が大好き!!」

 

律と澪は色恋は別にという線引きをしてこのように言っていたが、唯と紬に関してはまるで告白のような言い回しだった。

 

だが、唯と紬も色恋は別にと線引きをした上で統夜に好きと言っており、統夜もそのことは理解していた。

 

そんな中……。

 

「……むー……!」

 

1人だけ蚊帳の外になってしまった梓は、ぷぅっと頬を膨らませながら不機嫌そうにしていた。

 

だが……。

 

(……まぁ、私だって先輩たちの気持ちはわかるし、あれくらいなら許してもいいかな?)

 

梓は唯たちの気持ちをよく理解していたため、統夜は譲れないものの、多少のスキンシップであれば許してもいいと考えていた。

 

こうして、唯たちの心の中にあったわだかまりは、統夜の優しさによって切り裂かれたのであった。

 

その後、ティータイムに入ったのはいいのだが……。

 

「……」

 

統夜はいつもと違うティータイムの様子に困惑していた。

 

それは何故かというと……。

 

「エヘヘ……。やーくん♪」

 

「統夜、疲れただろ?肩もんでやるよ」

 

「とっ、統夜。恥ずかしいけど……。私がケーキを食べさせてやる!」

 

「エヘヘ……。統夜君♪」

 

唯たち4人があまりにも統夜にベタベタくっついていたからである。

 

唯と紬は統夜に抱きつき、律は統夜に肩もみをしており、澪は統夜にケーキを食べさせようとしていた。

 

「ちょ……。お前ら!暑苦しいから離れろ!」

 

「えぇ?いいじゃん別に」

 

「そうよそうよ!」

 

離れてくれと言われたのが不服だったのか、唯と紬は頬をぷぅっと膨らませていた。

 

「それに、澪。ケーキは自分で食べられるから」

 

「あぅぅ……。ダメ?」

 

「うぐっ……!」

 

澪は目をウルウルさせながら上目遣いと、男であれば一発で落ちてしまいそうな仕草をしていた。

 

それを見ていた統夜の頬は赤くなり、澪の仕草に動揺していた。

 

「ったく……。わかったよ……」

 

統夜は覚悟を決めると、澪はケーキを統夜に食べさせていた。

 

そんな唯たちの一部始終を見ていた梓は……。

 

「むー……!!」

 

自分は蚊帳の外で唯たちが統夜とベタベタしていたのが気に入らなくて、梓はぷぅっと頬を膨らませながら様子を伺っていた。

 

「先輩たち!そろそろ統夜先輩から離れてください!統夜先輩は私の彼氏なんですからね!」

 

「えぇ?あずにゃんはこれからやーくんといくらでもイチャイチャ出来るんだから、ちょっとくらいはいいじゃん!」

 

「い……イチャ?」

 

唯の言葉を聞いて恥ずかしくなった統夜は、顔を真っ赤にしていた。

 

「確かにそうよね。それに、私たちだって時々は統夜君とスキンシップしたいわ♪」

 

「そうだよなぁ。梓は統夜と2人きりの時に思い切り甘えればいいんだし、ちょっとくらいはいいだろ?」

 

「あぁ。あたしもそう思うぜ!」

 

「あっ……!甘っ!?////」

 

「////」

 

澪の言葉に動揺した梓と統夜は、顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。

 

梓は統夜と付き合うようになったのはいいのだが、恋人としての接し方というものがよくわかっていなかった。

 

それは統夜も同様であり、出来る限り普段と同じ感じで接しようと思っていたのである。

 

「ま、まぁ……。ちょっとくらいだったら許してもいいですけど……」

 

梓は唯たちが統夜に惚れていることを知っているため、部活の時だけは統夜を独占しなくてもいいかなと思っていた。

 

「やったあ♪さすがあずにゃん♪」

 

梓のちょっとくらいならいいという言葉を聞いた唯は、さらにぎゅーっと力強く統夜に抱きついていた。

 

「アハハ……。どうしてこうなった……」

 

統夜はあまりに唐突な展開についていけず、苦笑いをしていた。

 

《まぁ、唯たちを散々心配させたし、悪いこともしたからな。今日1日くらいは唯たちの好きにさせてやったらどうだ?》

 

(あぁ、俺はそのつもりだぞ)

 

統夜はいつも以上の唯たちのスキンシップに恥ずかしいという感情を抱きながらも、それを受け入れていた。

 

「あー!もう!私も我慢出来ないです!」

 

唯たちばかりスキンシップをしており、我慢出来なくなったのか、梓は席を立つと、統夜に近づき、空いているスペースを使って統夜に抱きついていた。

 

「……やれやれ……」

 

統夜は苦笑いをしながらもこの状況を受け入れていた。

 

……その時、音楽準備室の扉がガチャリと開かれた。

 

「みんな!今日もお茶してるの?」

 

ティータイムが目当てでさわ子が音楽準備室に入ってきた。

 

さわ子は統夜たちを見つけるなり、信じられないものを見たような目でその場で固まっていた。

 

「あっ……」

 

『やれやれ。これは面倒なことになりそうだな』

 

イルバはまるで他人事のような発言をしており、カチカチと音を立てながら笑みを浮かべていた。

 

「なっ……!ななななな……!何やってるのよ、あなたたち!」

 

「い、いや、さわちゃん。これはだな……」

 

唯たちは慌てて統夜から離れ、律が必死に弁解をしていた。

 

「前々からスキンシップは多いと思ってたけど……。統夜君は5股をする最低男だったなんて……」

 

さわ子はどうやら唯たちのスキンシップを見て、統夜が唯たち全員と付き合っていると勘違いをしているようだった。

 

「!?ち、ちがっ……!俺は……!!」

 

「統夜君!そこに正座なさい!!」

 

「はっ、はいぃ!?」

 

統夜はさわ子の言うことには逆らえず、大人しくさわ子の前で土下座をしていた。

 

「まったく……。統夜君、あなたって人は……」

 

さわ子は統夜が5股をしていると勘違いをしたまま、統夜に説教を始めていた。

 

(……お、お前ら!助けてくれ!助けて事情を……)

 

統夜は唯たちに助けを求めるため、視線を向けるのだが……。

 

「……いやぁ、今日のお茶も美味いなぁ」

 

「ムギちゃん、今日のケーキも美味しいねぇ♪」

 

「そう?良かった♪」

 

先ほどまでのスキンシップは何だったのか、唯たちはまるで他人事のようにティータイムを楽しんでいた。

 

(う……裏切りやがったなぁぁぁぁぁぁぁ!!)

 

《やれやれ……。あいつらの手のひら返しは鮮やか過ぎるぜ。よほどさわ子の説教を受けたくないんだな》

 

(み……ミナザン!!オンドゥルルラギッタンディスカー!!)

 

統夜は何故か心の中で数年前に流行ったオンドゥル語を使って絶叫していた。

 

「……ちょっと、統夜君!聞いてるの!?」

 

「ヴェ!?は、はいぃ!!」

 

さわ子は小一時間ほど統夜の説教を行っていた。

 

(あぅぅ……。何で俺がこんな目に……)

 

《ま、損な役割はいつものことだろう。今回も諦めるんだな》

 

(そうだな……)

 

統夜は自分の不幸な役回りを呪いながらさわ子の説教を聞いていた。

 

さわ子の説教が1時間を越えると、さすがに統夜がかわいそうになり、唯たちは真実を話し、統夜のフォローを行った。

 

「……え!?何?統夜君と梓ちゃんが付き合うことになったの!?」

 

「「は、はい……////」」

 

統夜と梓は改めて付き合っているのかと聞かれるのが恥ずかしかったのか、2人揃って頬を赤らめていた。

 

「……まぁ、唯ちゃんたちも統夜君のことが好きなんだもんね。そういうことなら許してもいいわ」

 

さわ子は唯たち5人が統夜に惚れていることを見抜いており、事情を聞いたことにより誤解は解かれ、統夜はどうにか許されたのであった。

 

「それにしてもあの朴念仁な統夜君に彼女が出来るとはねぇ……♪」

 

さわ子は統夜の性格を知っているため彼女が出来るとは思っていなかったため、ニヤニヤしながら統夜のことをからかっていた。

 

「いやいや……。俺はそこまで鈍くはないですって!」

 

統夜は此の期に及んで自分は鈍感ではないと主張するが……。

 

「「「「「はぁ!!?」」」」」

 

「……すいませんでした」

 

唯たちが統夜の主張を全力で否定すると、しょんぼりとしながら謝罪をしていた。

 

「まぁ、とりあえずお茶でも飲みながら詳しい話を聞かせてもらいましょうか」

 

「は……はい……」

 

統夜たちは再びティータイムに突入すると、統夜がいかにして梓と付き合うようになったかを説明していた。

 

さわ子はゼクスの起こした事件の話に驚きながらも、2人が付き合う経緯を聞いて納得していた。

 

その説明がひと段落ついたところで帰る時間となり、統夜はそのまま番犬所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「……統夜、来ましたね。傷の具合はどうですか?」

 

統夜が番犬所に顔を出すなり、イレスは統夜を気遣うことを言っていた。

 

それは何故かというと、戒人とアキトがゼクスの起こした事件のことを話し、その戦いで統夜がだいぶ消耗していることを告げられたからである。

 

統夜はゼクスとの戦いの後、統夜はまともに動くことは出来ず、どうにかエレメントの浄化に出かけられたのは昨日であった。

 

「えぇ。おかげさまで、もう何ともないです」

 

「そうですか。それは何よりです」

 

統夜はイレスに一礼すると、狼の像の前に立つと、魔戒剣を突き刺し、剣の浄化を行った。

 

この数日でホラーは討伐していないが、エレメントの浄化を行ったことで少なからず魔戒剣に浄化がこびりついているため、ホラーを討伐していなくても定期的に魔戒剣の浄化は行っていた。

 

浄化を終えた統夜は、魔戒剣を青い鞘に納めた。

 

「……それはそうと。統夜、あなたは梓と付き合うことになったそうですね?」

 

「え!?な、何故それを!?」

 

梓と付き合ったことがイレスの耳に届いているとは思わず、統夜は驚きを隠せなかった。

「戒人とアキトから聞いたのです。2人ともニヤニヤしながら報告していましたよ」

 

「あいつら……!!」

 

戒人とアキトの2人が統夜と梓が付き合ったということをイレスに報告したことを知り、統夜は一瞬怒りを覚えるが、隠すようなことでもないと冷静に判断することで、怒りは収まったのであった。

 

「統夜と梓……。すごくお似合いだと思いますよ♪……あっ、だとしたら、梓が奏狼の後継者を産むのですかねぇ?」

 

「ちょっ!?それは気が早すぎますよ、イレス様!」

 

「ウフフ♪わかってますよ♪今はそこまで考えられないですもんね♪」

 

イレスは統夜のウブな態度が面白く、少々からかっていたのであった。

 

「それにしても、あの統夜にようやく大切な人が出来ましたか……。いえ、梓と付き合う前から梓は大切な人でしょうし、唯たちもそうなのでしょう?」

 

「はい!俺は唯たちと出会ったことで「守りし者」とはなんなのかを教わりました。彼女たちこそ、俺にとってはかけがえのない存在なんです」

 

「ウフフ♪そう言ってもらえたら、あなたを桜ヶ丘高校に入学させた甲斐がありました♪」

 

統夜が桜ヶ丘高校に入学出来たのはイレスの力添えがあったからであり、統夜はそんなイレスに対する感謝から、イレスには頭が上がらなかった。

 

「それにしても、私としてはあなたが誰かとくっつくのをずっと待ってたのですよ?恋愛といえば、高校生活の醍醐味でもありますからね♪」

 

イレスは統夜に恋人が出来ることを願っており、その願いが果たされたことに喜びの気持ちを現していた。

 

「アハハ……。そうかもしれないですね……」

 

恋愛が高校生活の醍醐味というイレスの言葉に賛同した統夜は苦笑いをしていた。

 

「統夜。梓をきちんと幸せにしてあげるのですよ。魔戒騎士としてではなく、1人の男として」

 

「……はい。もちろんです!」

 

統夜は力強く答えており、その瞳からは、何があっても梓を守るという覚悟を感じることが出来た。

 

「統夜。今日は指令はありませんので、今日はゆっくりと体を休めてくださいね」

 

「イレス様、ありがとうございます。街の見回りを少し行ったら少しばかり休養させてもらいます」

 

統夜はイレスに一礼をすると、番犬所を後にした。

 

統夜はいつも使用している番犬所の出入り口に戻ってくると、そのまま街の見回りに向かおうとしたその時だった。

 

「……統夜先輩」

 

「……!?梓、待ってたのか?」

 

番犬所の出入り口の場所で梓が待っていたため、統夜は驚きを隠せなかった。

 

「はい。私、統夜先輩と一緒にいたいって思いまして」

 

「……ずっと待ってたんだろ?こんなに寒いのに……」

 

梓は寒空の下、統夜のことを待っていたと思われ、梓の手が冷えていると思った統夜は、両手で梓の両手を包み込んでいた。

 

「ふぇ!?と、統夜先輩!?////」

 

「か、勘違いするなよ!俺はただ冷たくなった梓の手を暖めてるだけだからな!」

 

統夜は恥ずかしさからか、なぜかツンデレのような言い方になっていた。

 

『おいおい、何でツンデレっぽい言い方になってるんだよ……』

 

そのことに、イルバはすかさずツッコミをいれるが、統夜はそれをスルーしていた。

 

「あっ……ありがとうございます……。統夜先輩……。凄く……暖かいです♪」

 

梓は統夜の手の温もりを感じており、満面の笑みを浮かべていた。

 

『やれやれ……。付き合ってるからといって、これ見よがしにイチャつきやがって……』

 

「「ちょ!?イルバ!?」」

 

イルバの言葉で正気に戻った統夜は慌てて手を離すと、互いに顔を見合わせて恥ずかしそうにしていた。

 

『ところで梓。お前さんは統夜を待っていたのだろう?何か用事があるのか?』

 

「……あっ、そうそう。統夜先輩、今日って指令はあったんですか?」

 

「いや、今日は指令はないよ。街の見回りをして帰るつもり」

 

「でしたら……。私も付いて行ってもいいですか?」

 

「え?」

 

梓の思わぬ提案に、統夜は驚きを隠せなかった。

 

『おいおい。いくら街の見回りとはいえ、遊びに行くわけじゃないんだぞ?』

 

「そ、それはわかってますよ!でも、私は少しでも多く統夜先輩と一緒にいられたらなと思ったんです」

 

「ま、俺も同じ気持ちではあるし、今日くらいなら問題はないかな?」

 

「ほ、本当ですか?」

 

街の見回りに梓が同行することを統夜が許可すると、梓の表情がぱぁっと明るくなっていた。

 

『やれやれ……。お前さんは相変わらず甘いな、統夜』

 

「わ、わかってるよ!」

 

『だが、街の見回りを兼ねてデートというのもたまにはいいのかもしれないな』

 

「……そう言ってもらえると助かるぜ」

 

「ありがとうございます!統夜先輩、イルバ!」

 

統夜と一緒に街の見回りに行けることになり、梓は統夜とイルバに礼を言っていた。

 

「とりあえず、これが俺たちが付き合って初めてのデートってのもあれだけど……行こうか」

 

「はい!私、統夜先輩と一緒だったらどこだって嬉しいです!」

 

「……アハハ、そう言ってもらえると嬉しいよ。それじゃあ行こうぜ」

 

こうして統夜は梓を連れて街の見回りを行おうとしたのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

ぎゅっ……。

 

 

 

 

 

 

 

梓が不意に統夜の手を握ったのである。

 

「エヘヘ……。こっちの方が恋人っぽいと思いまして……」

 

「……そうだな」

 

統夜も梓と手を繋ぎたいと考えていたため、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。

 

こうして、統夜と梓は手を繋ぎながら街の見回りを開始した。

 

1時間ほど街を歩いた後、梓を家まで送り、統夜はそのまま家路についた。

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『今年もこの季節がやってきたか。こいつは統夜にとっても無関係なイベントじゃなくなってきたぜ。次回、「聖夜」。メリークリスマス!!』

 

 




統夜は唯たちの心の中に残ったわだかまりを解きほぐすことが出来ました。

そして、付き合ってるのは梓だけど、何故かハーレムのような展開に(笑)

これはただ単純にスキンシップが激しくなっただけで、これ以上の関係にはなりません。

ヒロインは梓って決めたし、ハーレムはないかなと思っていたので。

そしてさわちゃんの動揺ぶり(笑)

何も知らなければ5股してると勘違いしても仕方ないですよね(笑)

さて、次回はクリスマス回となります。

今回はそこまでイチャついていない統夜と梓ですが、次回はどうなるのか?

それでは、次回をお楽しみに!!


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