牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第97話になります。

今回は蘇ったゼクスと再びぶつかります。

統夜の運命はいかに?そして、統夜は無事にゼクスを倒すことは出来るのか?

そして、お待たせしました!今回、いよいよヒロイン発表となります。

それでは、第97話をどうぞ!




第97話 「情愛」

暗黒騎士ゼクスことディオスは、かつて強大な力を持つホラー、グォルブを復活させ、世界を闇で包もうと企んでいた。

 

しかし、その野望は白銀騎士奏狼こと月影統夜によって阻まれ、さらにはディオス自身も統夜の手によって討伐された。

 

ディオスはそんな統夜に対して強い恨みを抱いており、その恨みは強大な陰我となって、邪気の塊として実体化した。

 

ディオスはホラーを封印した12本の短剣を強奪し、その力で実体を取り戻そうとしていた。

 

そんな中、恨んでいる相手である統夜と、堅陣騎士ガイアの称号を持つ黒崎戒人がホラーを封印した短剣を奪い返すべく現れた。

 

ディオスは統夜の力を見極めるために、短剣の力を使って12体のホラーが融合した融合巨大ホラーを呼び出すと、統夜と戒人に仕向けた。

 

最初は融合巨大ホラーの圧倒的な力に追い詰められる統夜と戒人であったが、偶然桜ヶ丘に遊びに来ていたアキトの協力によって、どうにか融合巨大ホラーを倒すことが出来た。

 

統夜たちが融合巨大ホラーと戦っている間に、ホラーを封印した短剣の力の一部を使って、暗黒騎士ゼクスの鎧が実体化したのであった。

 

このゼクスはディオスではなく、ディオスの怨念が生み出した邪気が実体化した姿だった。

 

統夜と戒人はゼクスに戦いを挑むが、融合巨大ホラーとの戦いで消耗した体では敵うわけもなく、返り討ちにあって、気を失ってしまった。

 

アキトはどうにか機転を利かして逃げることに成功し、偶然会った唯たちの協力を得て、傷ついた統夜と戒人を琴吹総合病院へと運んだ。

 

琴吹総合病院到着後は、待機していた医師により、即座に処置が行われた。

 

その結果は命に別状はなく、じきに目を覚ますだろうというものであった。

 

アキトは番犬所に戻り、イレスに今回のことを報告することも考えたのだが、統夜と戒人が目を覚ますまでは待つことにした。

 

現在、統夜と戒人は、琴吹総合病院のVIPルームにベッドを2つ用意してあったので、そこに案内されて未だに眠り続けていた。

 

「……統夜先輩……」

 

梓は悲痛な表情で未だに眠り続けている統夜を見つめていた。

 

「……ねぇ、あずにゃん」

 

そんな中、唯が梓に声をかけていた。

 

「?何ですか?」

 

「ちょっといいかな?私たちから話があるんだけど……」

 

唯がこのように話を切り出すと、澪、律、紬の3人はウンウンと頷いていた。

 

「え?でも……」

 

梓は未だに眠り続けている統夜や戒人を放っぽり出して話をすることに抵抗があった。

 

しかし……。

 

「……行って来い。2人は俺が見てるからさ」

 

アキトは、唯たちの話が重要な話だと察したため、その話をさせるために2人の看病を買った出たのである。

 

「ありがとう、アキトさん。……それじゃあ、梓ちゃん、行きましょう」

 

「はっ、はい……」

 

唯たちは2人の看病をアキトに任せて、病室を後にした。

 

その後、紬の案内で入ったのは、統夜と戒人が眠っているVIPルームの向かいにある部屋で、今は患者のいない閑散とした部屋だった。

 

「……あの、先輩方。話って何ですか?」

 

唯たちに改まって呼び出されたからか、梓は少しばかりオドオドしていた。

 

「梓、そんなに畏まらなくても大丈夫だぞ」

 

「そうだぜ。梓がそんなんじゃこっちも話しにくいしな」

 

「は、はぁ……」

 

「ねぇねぇ、あずにゃんってさ、今でもやーくんのことが好きなんだよねぇ?」

 

「ふぇ!?」

 

唯からの唐突な言葉に、梓の顔は真っ赤になっていた。

 

そして……。

 

「……は、はい」

 

「だったら、梓ちゃんは統夜君に気持ちを伝えたらいいんじゃない?」

 

「え……?」

 

紬もまた唐突な言葉を発しており、梓は驚きを隠せなかった。

 

「で、でも、皆さんも統夜先輩のこと……」

 

梓は唯たち4人も統夜のことが好きだということを知っているため、素直にその唯たちの提案を受けることは出来なかった。

 

「私たち、この前話し合ったんだよ」

 

「統夜、最近梓といい雰囲気だったし、統夜を梓になら譲ってもいいかなって思ったんだよ」

 

「梓ちゃんは私たち以上に統夜君のことが好きなんだもんね♪」

 

「そうだよ、あずにゃん!私もあずにゃんだからいいって思ったんだから!」

 

「皆さん……」

 

梓はここで初めて先輩たちの本音を聞くことが出来た。

 

そんな本音に戸惑いながらも、嬉しいという気持ちもあった。

 

「……だからさ、統夜が目を覚ましてこれからのバタバタが終わったら梓から気持ちを伝えろよ」

 

「統夜は鈍感だからな。こっちから行かないと気持ちは伝わらないからな」

 

律と澪は、梓の背中を押しながら告白するよう仕向けていた。

 

「……は、はい!」

 

梓はずっと統夜に告白をしたいと思っていたが、唯たちのことを気遣うあまりそれは出来なかった。

 

そのため、唯たちが背中を押してくれるとわかり、梓は統夜に告白をするという意思を固めたのであった。

 

「まぁ、話はそれだけだ」

 

「だからまた病室に戻ろうぜ」

 

「そうだよ、あずにゃん!やーくんだってそろそろ目を覚ますと思うし」

 

「梓ちゃん、行きましょう」

 

「はい!」

 

こうして唯たちの話は終わり、唯たちはこの部屋を後にすると、向かいにある病室へと戻っていった。

 

「……おっ、お前ら、もういいのか?」

 

「はい!ありがとうございます、アキトさん」

 

「いいってことよ。それより梓ちゃん」

 

「は、はい」

 

「……告白、上手くいくといいな」

 

「!!?な、何で知ってるんですか!?」

 

梓は、統夜に告白するということをアキトが知っているとは思っておらず、顔を真っ赤にしていた。

 

「やっぱり……。お前らが統夜に惚れてるのは知ってたし、特に梓ちゃんはわかりやすかったからな。多分そうだろうと思ったんだよ」

 

「あぅぅ……」

 

アキトにはすべてお見通しだったようであり、梓は恥ずかしさのあまり小さくなっていた。

 

その時だった。

 

「「う、うん……」」

 

統夜と戒人が同時に反応を示し、目を覚まそうとしていた。

 

「……あっ!やーくんと戒人さん!」

 

「気が付いたのか!?」

 

「こ……ここは……?」

 

統夜と戒人は目を覚まし、虚とした意識のまま、左右に視線を向けていた。

 

「ここはうちの系列の病院の病室よ。傷ついたあなたと戒人さんをここまで

運んで来たの」

 

「そっか……。俺はディオスの奴に……」

 

統夜はここで、何故自分が運ばれてきたのかを理解したのであった。

 

すると……。

 

「統夜先輩!!」

 

梓はいの一番に統夜に抱きついていた。

 

「あ……梓?」

 

「馬鹿馬鹿!統夜先輩の馬鹿!!こんなにボロボロになって、どんだけ心配したと思ってるんですか!?」

 

梓は瞳に涙をいっぱいためながら怒っていた。

 

「……ごめんな、梓。心配かけて……」

 

統夜は穏やかな表情で、梓の頭を優しく撫でていた。

 

唯たちはそんな統夜と梓の様子をしばらく見守った後に、4人揃って統夜に抱きついていた。

 

「ちょ……!?お前らもかよ!?」

 

唯たちは怒ることも泣くこともなく、ただただ黙ってぎゅっと統夜に抱きついていた。

 

「……みんなも、心配かけてごめんな」

 

統夜は唯たちの頭を順番に撫でると、無言で頷いていた。

 

そんな中……。

 

「……何か俺、蚊帳の外じゃないか?」

 

統夜と同時に目を覚ました戒人には誰も触れていなかったため、戒人は寂しい気持ちを呟いていた。

 

「……アハハ、ドンマイ、戒人」

 

アキトは苦笑いをしながら戒人に気休めの言葉を送っていた。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「……それで、アキトさんから話は聞いたけど、あのディオスって奴が蘇ったんだって!?」

 

唯たちかしばらく統夜に抱きついた後、統夜から離れると、律がこう話を切り出していた。

 

「……あぁ。厳密にいえばディオスの怨念が生み出した邪気の塊らしいけど、あの力は、ディオスだったよ」

 

『だが、奴からは生気は感じない。言わば鎧だけの存在ってところだろうな』

 

「そうなんですか……」

 

統夜の口からディオスが蘇ったことを告げられ、梓は不安げな表情をしていた。

 

「心配するな。今度こそはディオスを斬る。じゃないと奴は何をしでかすかわからないからな……」

 

蘇ったディオスの目的は統夜への復讐のため、どのような姑息な手段を使ってくるか予想出来なかった。

 

そのため、統夜は早急にディオスことゼクスを斬るつもりだった。

 

しかし……。

 

「統夜、もうちょっと寝てろよ。まだ本調子じゃないんだから」

澪が統夜の体を気遣って休むよう勧めるのだが……。

 

「そういう訳にもいかないだろ。ディオスはいつ動き出すかわからないんだからな」

 

一刻も早くディオスを探し出すために統夜は立ち上がろうとするのだが……。

 

「ダメです!まだ本調子じゃないんですからしっかり休んでください!まったく……。じゃないと統夜先輩はすぐに無茶をするんですから……」

 

「……わ、わかったよ……」

 

梓に怒られてしまった統夜は、素直に言うことをきくことにした。

 

「……やれやれ……統夜のやつ……」

 

戒人は梓の尻に敷かれている統夜を見て、苦笑いをしていた。

 

「ま、今日1日くらいは休んだ方がいいんじゃないか?」

 

アキトも苦笑いをしながらこの日は体を休めることを提案していた。

 

「明日は土曜日だし、あたしらもここに泊まろうかな」

 

「部屋ならあるから大丈夫よぉ♪」

 

律はこのような提案を唐突にしていたのだが、紬は即座に対応していた。

 

「そうですね。統夜先輩ってば見張ってないと無茶しそうですし……」

 

「まぁ、俺が見張ってるから大丈夫だけどな」

 

梓は統夜を見張るつもりでここに泊まるつもりだったが、一緒に入院してる戒人が統夜の見張りを買って出た。

 

「そうですか……」

 

「でも、せっかくだからみんなでお泊まりしようよ!」

 

「あのなぁ。みんなの気持ちはわかるけど、病院に泊まるとか迷惑がかかるだろ?」

 

『澪の言う通りだぜ。それに、病院はホテルでも旅館でもないんだぜ?』

 

澪は病院に泊まることに反対意見を出すが、それにイルバも同意していた。

 

「だけど、ディオスがみんなを狙ってくるかもしれないから今日1日はここにいた方がいいんじゃないのか?」

 

統夜はディオスが唯たちを狙ってくる可能性を考慮して、ここに泊まるという律の提案に賛同していた。

 

『確かに、その方が安心かもしれんのぉ』

 

「あぁ。万が一奴が襲ってきても迎撃すればいいだけだからな」

 

統夜の話を聞くと、トルバと戒人も、唯たちが泊まることに賛成の意見を出していた。

 

「私もそう思うわ♪さっきの部屋なら大丈夫だから、今日はみんなで泊まりましょ?」

 

紬は、経営者の娘という立場をフルで活用し、唯たちにここで泊まることを勧めていた。

 

「ま、まぁ。ムギが良いんだったら……。あ、だけど、家に連絡しないと!」

 

澪は携帯を取り出すと電話をかけるために病室を後にした。

 

それに続くように唯、律、梓の3人も携帯を取り出すと、電話をかけるために病室を後にした。

 

数分後、電話を終えた4人は病室に戻ってきた。

 

どうやら家に電話をかけていたようである。

 

唯は憂に事情を説明し、残りの3人は友達の家に泊まると親に説明をしていた。

 

家族への説明が終わったところで、唯たちはこの部屋の向かいの部屋で泊まることになった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

翌日、1日ぐっすりと睡眠を取ったことで、統夜と戒人のダメージはほぼ完全に回復していた。

 

医師からも退院を認められたこともあり、統夜と戒人は揃って退院することになった。

 

その後、琴吹総合病院を後にした統夜たちは、唯たちを家に送り届けるために歩いていた。

 

しばらく歩き、桜ヶ丘某所にある広場を通り過ぎようとしたその時だった。

 

『……!統夜!奴の気配を感じるぜ!気をつけろ!』

 

「!?奴の気配って……。今は朝だろ?」

 

『奴は厳密に言ったらホラーではないからな。朝や昼に動いても不思議ではないだろう』

 

「なるほどな……」

 

統夜と戒人は魔戒剣を取り出すと、いつでも抜刀出来る状態にしておいた。

 

唯たちは不安げな表情を浮かべながらも統夜たちから離れないようにしていた。

 

その時だった。

 

「……!」

 

どこからか邪気の塊が飛び出してきたので、統夜は魔戒剣を抜くと、その邪気の塊を斬り裂いた。

 

そして……。

 

「……ほぉ、この攻撃を防ぐとは。傷の方はだいぶ回復したようだな」

 

ディオスの怨念の塊である暗黒騎士ゼクスが、統夜たちの前に現れた。

 

「……!あの鎧って……!」

 

「本当に復活したんだね……!」

 

「あいつが……統夜先輩を……!」

 

澪と唯はゼクスが復活したことに驚いており、梓は統夜を傷つけたゼクスのことを睨みつけていた。

 

「お前、ここで決着をつけるつもりか?」

 

「まぁ、慌てるな。俺が今来たのは別の用事があるからだ」

 

ゼクスが統夜たちの前に現れたのは、戦うためではなかった。

 

「そんなことは知るか!貴様は俺たちが斬る!」

 

統夜と戒人は魔戒剣を抜くと、ゼクスに向かっていった。

 

「フン、相変わらず血の気の多い奴らだ……」

 

問答無用で襲いかかってくる統夜と戒人に、ゼクスは呆れ果てていた。

 

そんな中、ゼクスは魔戒剣を盾に共鳴させて衝撃波を放つと、統夜と戒人を吹き飛ばした。

 

「くっ……!!」

 

衝撃波によって吹き飛ばされた統夜と戒人は、すぐさま体勢を立て直した。

 

すると、ゼクスは梓の方へ向かっていった。

 

「やらせるかよ!」

 

アキトは梓を守るためにゼクスを相手にするのだが、ゼクスはアキトに蹴りを放つと、アキトを吹き飛ばした。

 

「アキトさん!……きゃっ!?」

 

ゼクスは梓を狙っていたのか、梓を捕まえていた。

 

「は……放して!!」

 

梓は抵抗してジタバタと暴れ出すのだが、ゼクスは梓にボディーブローをお見舞いし、梓を気絶させた。

 

「あずにゃん!!」

 

「梓を放せ!!」

 

唯たちは梓を取り返そうとするのだが、それよりも先にゼクスは後方へとジャンプしていた。

 

「……この小娘は預かった!返して欲しければ、今から1時間以内に◯△ビルにここにいる全員で来い!1分でも遅れるようならこの小娘は殺す!覚えておけ!」

 

「させるかよ!梓を返せ!!」

 

統夜は梓を捕まえたゼクス目掛けて駆け出しながら、魔戒剣を前方に突き出して円を描いた。

 

統夜は奏狼の鎧を身に纏うと、ゼクスを狙って皇輝剣を一閃するが、それよりも早く、ゼクスはテレポートを使ってその場から姿を消したのであった。

 

「……!く、くそ!逃げられたか!」

 

統夜はゼクスを逃したことに舌打ちをすると、鎧を解除して、魔戒剣を青い鞘に納めた。

 

戒人も魔戒剣を鞘に納めており、統夜たちは何も言わず集まっていた。

 

「……ね、ねぇ!やーくん、どうしよう!?」

 

唯は梓が目の前でさらわれてしまい、1番焦っていた。

 

「……奴がここにいる全員で来いと要求した以上、不本意だけどみんなにも来てもらわなきゃいけない」

 

『あの男……。梓を人質にして確実に統夜を葬ろうと考えてやがるな。行けば間違いなく奴に殺されることになるだろうな』

 

ゼクスの目的は統夜を殺すことであるため、要求通り◯△ビルに向かえば、梓を人質にして身動きを封じて殺されることは容易に推察出来た。

 

「……だとしても行くしかない」

 

「なぁ、番犬所に相談したらどうなんだ?緊急事態だろ?」

 

澪は1番無難だと思われる提案を統夜にするのだが……。

 

「……ダメだ。下手なことをしたら梓が危ないからな。俺らだけでなんとかするしかない」

 

「……っ!でも!」

 

「大丈夫だ。奴がどんな汚い手を使おうが、奴を倒して絶対に梓を助ける!」

 

統夜は梓がさらわれたことでゼクスに対して怒りを抱いていたが、非常に冷静であり、何があっても梓を救い出すという決意を固めていた。

 

「そうだな。俺とアキトもいるんだ。これ以上は奴の好きにはさせないさ」

 

「その通りだぜ!それに、人の恋路を邪魔してる時点で奴の負けは決まってんだよ」

 

「?恋路?何言ってるんだ?」

 

統夜はアキトの言葉の意味が理解出来ず、首を傾げていた。

 

こんな状態でも相変わらずな統夜を見て、唯たちは苦笑いをしていた。

 

『とにかく、今はボヤボヤしてる暇はない。さっさと目的地に向かうぞ』

 

「あぁ、そうだな」

 

統夜たちは、さらわれた梓を救うために、ゼクスが指定した◯△ビルへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

統夜たちが移動を始めた頃、ゼクスは一足先に◯△ビルへと来ていた。

 

「……さて、そろそろ奴らが来る頃か……」

 

ゼクスは統夜たちが到着するのを待っていた。

 

ゼクスにさらわれた梓は、両手両足を縛られた状態で、身動きが取れない状態だった。

 

「……あなた!私をどうするつもりですか!!」

 

梓はこのビルに来た時から目を覚ましていたのだが、身動きが取れずにジタバタとしていた。

 

「貴様は奴らをおびき寄せるための餌だ。そして、確実に始末するためのな」

 

「あなた……!元は魔戒騎士だったのに、卑怯ですよ!!」

 

「フン、そんなことは百も承知だ。だが、俺は月影統夜を始末出来るなら騎士のプライドなど捨ててやるさ」

 

「あなたは、ただ統夜先輩のことを逆恨みしてるだけです!今のあなたなんて……!統夜先輩の足元にも及ばないです!!」

 

梓は、自分の大好きな人を殺そうと企むゼクスのことが許せず、険しい表情でゼクスを睨みつけていた。

 

「ほぉ、言うじゃないか……。だが、貴様は自分の立場というものを理解していないな」

 

ゼクスは梓の言葉に怒りを示すわけではなかったが、魔戒剣の切っ先を梓に突きつけていた。

 

「ひっ!?」

 

「以前と違い、貴様が生きてようが死んでようがどうでもいいんだ。死にたくなければ、余計なことは言わないことだな」

 

「……っ!!」

 

ゼクスの放つ殺気は本物であり、これ以上ゼクスに対して敵対するような発言をしたら、殺されてしまうと察した梓は、これ以上何も言う事は出来なかった。

 

……その時だった。

 

「……来たか……」

 

ゼクスは統夜たちの気配を感じ取っており、それから間もなくして、統夜たちが現れた。

 

「……梓!無事か!!」

 

「統夜先輩!皆さん!!」

 

梓も統夜たちの姿を確認し、声をあげていた。

 

「おい、お前!!あたしたちの大事な後輩に何をするつもりだ!!」

 

「そうだよ!あずにゃんを返して!!」

 

律と唯は、鋭い目付きでゼクスを睨みつけていた。

 

「……フン、小娘どもが……。そこの小娘は、俺が月影統夜を始末するために利用させてもらう」

 

「何だと!?」

 

統夜、戒人は魔戒剣を取り出し、アキトは魔戒銃を取り出そうとするのだが……。

 

「おっと!!まずはその目障りな武器を捨ててもらおうか!さもなければ……」

 

「ひっ!?」

 

ゼクスは魔戒剣の切っ先を梓に突きつけると、統夜たちに武器を捨てるように告げていた。

 

「くっ……!卑怯な……!」

 

「それが元魔戒騎士のすることか!!」

 

ゼクスの騎士の誇りに反した行為に、統夜と戒人は異議を唱えるのだが……。

 

「減らず口はそこまでだ。今度余計な事を言ったら容赦なくこいつを殺すぞ」

 

ゼクスは魔戒剣をちらつかせ、いつでも梓を殺せることを強調していた。

 

「……くっ」

 

「わかった。武器を捨てる」

 

統夜と戒人は魔戒剣をすぐ目の前に投げ捨て、アキトは魔戒銃を目の前に投げ捨てた。

 

「おっと、そこの魔戒法師!お前は魔導筆も捨ててもらおうか」

 

「……っ」

 

アキトは魔導筆を取り出すと、魔導筆も同様に投げ捨てた。

 

「……お前、魔導具を他にも隠し持っているだろう?そいつも捨ててもらおうか」

 

「……わかったよ」

 

アキトは爆弾の形だが、煙を出す魔導具や、爆弾のように爆発する魔導具など、敵の足を止めるのに使われる魔導具を取り出すと、それらも投げ捨てた。

 

「……これでいいのか?」

 

「あぁ、そうだな……。それじゃあまずは目障りなお前らから潰させてもらおうか!」

 

ゼクスは魔戒剣を盾に共鳴させると、衝撃波を放ち、戒人とアキトを吹き飛ばした。

 

「うっ……!」

 

「くっ……!」

 

吹き飛ばされた戒人とアキトは、吹き飛ばされた場所で倒れ込んだ。

 

「貴様らはそこで大人しくしててもらおう。変な動きを見せたら、そこの小娘を即座に殺す!」

 

「くっ……くそっ……!」

 

戒人とアキトは梓を人質にとられてしまっているため、ゼクスに対して攻勢に出ることは出来なかった。

 

「……さて、そこのお前らにも仕事をしてもらおうか」

 

ゼクスは、統夜を追い詰めるために、唯たちも利用しようとしていた。

 

「お前ら4人で月影統夜をボコボコにしてもらおうか」

 

「!!?私たちがやーくんを!?」

 

ゼクスのまさかの言葉に、唯たちは驚愕していた。

 

「私たちが統夜を傷つけるなんて……。出来る訳ないだろ!?」

 

大切な仲間である統夜を傷つけることに澪は拒否反応を示していたが……。

 

「嫌ならそれでもいいさ。その時は、そこの小娘が死ぬだけだがな」

 

「……っ!?」

 

梓を救うためとはいえ、唯たちは統夜を傷つけることを躊躇っていた。

 

すると……。

 

「……お前ら、遠慮なくやれ!!」

 

「っ!?だけど、統夜君!!」

 

「お前らの攻撃なんて痛くもかゆくもないんだ。だから、思い切りやれ!!」

 

統夜は、梓を救う糸口を見出すために、自ら唯たちにボコボコにされることを望んでいた。

 

「……言っておくが、手加減なんてするなよ。そうしたらその瞬間にそこの小娘を殺す」

 

ゼクスは、手を抜くことなく、全力で統夜をボコボコにするよう告げていた。

 

「「「「……」」」」

 

唯たちは梓を救うためとはいえ、全力で統夜を傷つけなければいけないことに唇を噛み締め、うっすらと涙を流していた。

 

すると……。

 

「……っ!」

 

軽音部の部長である律が、みんなの先導となり、全力で統夜を殴っていた。

 

「……ぐっ!」

 

女性のパンチではあるものの、意外に威力があり、統夜の表情は歪んでいた。

 

「……統夜君、ごめんね!」

 

紬は統夜に謝りながらも、全力で統夜を殴っていた。

 

「統夜……!」

 

「やーくん……!」

 

それに続いて澪と唯も統夜を殴り、その後は連続で統夜を殴り続けていた。

 

「いや……やめて……もうやめて!!」

 

自分の大好きな先輩たちが、自分の大好きな人を殴るという光景が堪えられないのか、梓は涙を流しながら必死に声をあげていた。

 

「うっ……!くっ……!」

 

間髪入れずに殴られ続けては、統夜も平気ではなく、ダメージは蓄積していった。

 

「ハハハハハ!!……ハァーッハッハッハ!!」

 

自分の大切だと思っている人にボコボコにされる光景がゼクスにとっては非常に愉快であり、ゼクスは高笑いをしていた。

 

何度も何度も殴られ続けた統夜はその場に倒れ込んでいた。

 

そんな統夜の顔にはいくつか痣があったが、顔がボロボロになる程ではなかった。

 

「お前ら!そのままそいつを蹴れ!踏み潰せ!!」

 

「「「「……っ!!」」」」

 

殴るだけでも苦痛なのだが、さらに統夜を傷つけなくてはいけないため、唯たちは涙を流しながら統夜を蹴り、さらに踏み潰していた。

 

「ぐぅ……ぐぁ……!」

 

統夜の表情は苦痛によって歪むのだが、まだまだ唯たちの攻撃は終わることはなかった。

 

「……くっ!」

 

「あの野郎……!」

 

統夜を徹底的に苦しめようとしているゼクスの行動に、戒人とアキトは怒りを募らせるが、梓を人質にされている手前、何も出来なかった。

 

この状態が5分ほど続いていた。

 

すると……。

 

「……よし、もういいだろう」

 

ようやくゼクスがやめても良いと告げたため、唯たちは即座に攻撃をやめていた。

 

大切な仲間である唯たちにボコボコにされるということは、統夜たちにとって肉体的苦痛だけではなく、精神的苦痛も相当なものだった。

 

統夜を傷つけることを強いられた唯たちも、精神的苦痛はかなりのもので、ずっと涙を流していた。

 

「「……と、統夜……」」

 

「統夜君……」

 

「やーくん……。ごめんね……ごめんね……」

 

望まない形ではあったが、統夜を傷つけたのは事実であり、唯たちは、涙を流しながら統夜に謝っていた。

 

ゼクスに人質にされた梓も、見たくない光景を見せられてしまい、涙を流していた。

 

「ハハハハハ!!所詮人間の友情などこんなものよ!ここまでためらいもなくボコボコにするとは……!お前ら、最低だな!!ここまで容赦なく傷つけたんだ。そんなお前らはもうこいつの仲間などとはほざくことは出来ないな!!」

 

ゼクスのこの発言は、唯たちの精神を著しくえぐる言葉であり、その言葉に深い傷をつけられた唯たちは、その場で泣き崩れていた。

 

「……お前ら……。奴の言うことは気にするな……!!」

 

唯たちにボコボコにされてしまった統夜は、ゆっくりと立ち上がり、唯たちにフォローを入れる言葉を言っていた。

 

「グスッ……ヒック……。で、でも、私たちはやーくんを……」

 

「……言ったろ?お前らの攻撃なんて痛くもかゆくもないってな。だから、俺は気にしてないぜ」

 

本当は体も心もあり得ない程に痛かったのだが、唯たちの深い心の傷を癒すために、優しい表情で笑っていた。

 

そんな統夜の笑顔に唯たちの心の傷を多少は癒すことは出来たが、それでも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

「……ゼクス!!お前の狙いは俺だろ?こんな回りくどいことはしないで、直接俺を殺しに来い!!」

 

「……フン。この余興を見たらそうするつもりだったさ。それに、この女はもう用済みだ。解放してやるさ」

 

ゼクスは何故か素直に梓の縄を解くと、梓を解放した。

 

「……もう行け!!お前はもう用済みだ!」

 

「あなたは……!!」

 

ゼクスの非道な行為を許せなかった梓はゼクスを睨みつけるが、ここは素直に解放されようと思い、唯たちのもとへと駆け寄った。

 

その時だった。

 

「……フン、何てな!!」

 

梓が統夜の近くに来た瞬間、ゼクスは魔戒剣の切っ先からレーザーのようなものを放つと、それを梓目掛けて放った。

 

ゼクスは、統夜を絶望させるために、梓を解放させるフリをして梓を殺そうとしていた。

 

しかし、梓を解放したのは、それとは別の狙いもあった。

 

「……!!梓、危ない!!」

 

梓の危機を察した統夜は、近くにいた梓を突き飛ばすと、梓を守る体勢に入った。

 

すると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼクスの放ったレーザーのようなものにより、統夜の胸は、貫かれたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!!?」」」」

 

「そ、そんな……!」

 

「嘘だろ……!?」

 

「あぁ……!あぁ……!!」

 

唯たちは目の前の光景が信じられず、絶句していた。

 

アキトと戒人も、目の前で起こった光景が信じられなかった。

 

「統夜先輩!!」

 

梓は胸を貫かれてその場に倒れ込んだ統夜に駆け寄ると、そんな統夜を抱き抱えていた。

 

「「統夜!!」」

 

「統夜君!!」

 

「やーくん!!」

 

唯たちも、統夜を囲むように統夜に駆け寄った。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「てめぇ!!絶対に許さねぇ!!」

 

統夜がやられたことに激昂した戒人とアキトは、それぞれの武器を回収すると、ゼクスに向かっていった。

 

「……フン、いいだろう。俺の目的は果たしたんだ。貴様らも奴の後を追わせてやる」

 

ゼクスも魔戒剣を構え、臨戦体勢に入っていた。

 

これこそが、ゼクスの本当の狙いであった。

 

人質を解放するフリをして梓を殺そうとすれば、統夜は確実に梓をかばうと予想し、梓を庇った統夜を確実に葬るためにこのようなことを行っていたのであった。

 

仮に統夜が梓を庇わなくても、梓の死によって、統夜たちを絶望させるには十分だった。

 

すなわち、ゼクスの作戦は、どちらに転んでもゼクスにとっては都合の良い展開になった。

 

「統夜!!しっかりしろ!!」

 

「おい!統夜!目を開けてくれ!」

 

「統夜君!!」

 

「やーくん!!」

 

『おい、統夜!!しっかりしろ!お前さんは生きて帰るんだろう!?』

 

戒人とアキトがゼクスとの激しい戦いを繰り広げる中、唯たちは統夜に必死に呼びかけをするのだが、統夜は目を閉じたまま、ピクリとも動かなかった。

 

「統夜先輩!しっかりして下さい!目を開けて!統夜先輩!!」

 

梓はまるで泣き叫ぶかのように統夜の名前を呼ぶのだが、統夜はピクリとも動かなかった。

 

この時、唯たちの脳裏には、統夜の死という事実が浮かび上がっていた。

 

梓は必死に統夜へ呼びかけをするのだが、統夜はやはり反応しなかった。

 

「そ……そんな……!私、まだ統夜先輩に言ってないのに……!!あなたのことが……好きだって……!!」

 

梓はここでようやく自分の気持ちを打ち明けることが出来たのだが、統夜は反応を示さなかった。

 

「……統夜……先輩……!!」

 

梓は統夜を失った悲しみから、ポロポロと涙を流していた。

 

「……あずにゃん……」

 

唯たちにとっても統夜の死というのは耐えがたい事実ではあったが、今は梓に何て声をかけて良いのかがわからなった。

 

梓の涙が、ポタポタと何滴も統夜の顔に零れ落ちていた。

 

梓たちが、統夜の死を悲しんでいたその時、信じられない出来事が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………そんなに何度も呼びかけなくても聞こえてるっての……。梓、それにみんな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……胸を貫かれて、死んだと思われていた統夜は生きており、統夜が弱々しくも口を開いていた。

 

「「「「「!!?」」」」」

 

唯たちは統夜が死んだと思っていたため、生きていたという事実は驚きと共に喜びでもあった。

 

「……!?何だと!?そんな馬鹿な!!奴は確実に仕留めたハズだ!」

 

ゼクスは、統夜を殺したと確信していたため、統夜が生きているという事実に驚いていた。

 

それはゼクスと戦っている戒人とアキトも同様であった。

 

「……!統夜!!」

 

「良かった!生きてたんだな!」

 

戒人とアキトは、ゼクスと戦いを繰り広げながら、歓喜の声をあげていた。

 

「やーくん!良かった!良かったよぉ!!」

 

「だけど、統夜君はどうして無事だったの?」

 

唯たちは統夜が無事だったのは喜ばしいことだったのが、急所を貫かれたハズの統夜が生きていたことは疑問であった。

 

「……あぁ、これだよ」

 

統夜は自分が何故無事だったのかを説明するためにあるものを取り出した。

 

それは……。

 

「……あっ、それって……!」

 

「みんな、こいつを壊しちゃってごめんな。だけど、こいつのおかげで俺は助かったんだよ」

 

統夜が唯たちに見せたのは、統夜の誕生日に唯たちがプレゼントした、奏狼の紋章が描かれたネックレスであった。

 

そのネックレスはディオスの一撃によって破損してしまったのだが、これが、統夜の命を救ったのである。

 

「私たちがプレゼントしたネックレスが、統夜を救ったんだな!」

 

「良かった!本当に良かったよ!」

 

唯たちは改めて統夜が生きていることに喜んでいたのだが……。

 

「……」

 

梓は喜びと困惑が入り混じっているため、素直に喜ぶことが出来なかったのである。

 

そして……。

 

「統夜先輩っ!!」

 

梓は力強く統夜に抱きつくと、堰が切れたかのように泣き出していた。

 

「良かった……!統夜先輩が生きてて……グスッ……本当に良かったです!わたし……統夜先輩が……死んじゃった……かと……」

 

梓は泣きながらも必死に言葉を紡いでいた。

 

「梓……。心配かけて、本当にごめんな。俺は必ず生きてみんなのもとに帰ると約束したんだ。そう簡単にくたばってたまるかよ……」

 

「統夜先輩……」

 

「それに、俺は気付いたんだよ。自分の気持ちって奴をさ……」

 

「統夜先輩の……気持ち?」

 

「それに、しっかりと届いたぜ。お前の気持ちってやつがさ……」

 

「え?」

 

梓は統夜の言葉の意味が理解出来ず、しばらくの間、ポカーンとしていた。

 

しかし、その言葉の意味を知った瞬間、梓の顔は茹で蛸のように真っ赤になっていた。

 

「き……!ききききき……!聞いてたんですか!?」

 

「意識は朦朧としてたけどな。ハッキリ聞こえたぜ」

 

「……」

 

梓は知らず知らずのうちに自分の気持ちを統夜に知られてしまい、どうして良いのかわからずに恥ずかしがっていた。

 

「……梓、お前の気持ち……凄く嬉しかったぜ!」

 

「統夜先輩……」

 

「……梓、俺はお前のことが好きになってたみたいだ。みんなにもなんだけど、特に梓に支えて欲しいと思ってる」

 

「はい!改めて言いますが、私は統夜先輩が好きです!これからも統夜先輩と一緒にいたいです!」

 

梓は改めて統夜に自分の気持ちを伝えることが出来た。

 

『……梓、良く言ったな。それに、統夜の奴も、これで天然ジゴロは卒業かもな』

 

統夜に恋人が出来たという事実を目の当たりにしたイルバは、安堵した表情で笑みを浮かべていた。

 

「「「「……」」」」

そして、統夜のことが好きだったが、梓に譲ると決めた唯たちは、フラれて悲しいという気持ちと、統夜と梓が結ばれて嬉しいといった気持ちが入り混じっていた。

 

しかし、4人の表情は思った以上に清々しいものであった。

 

そんな中……。

 

「貴様ら……!!俺を忘れるなぁ!!」

 

統夜と梓はゼクスのことを忘れてラブコメモードに突入していたため、ゼクスは激昂していた。

 

ゼクスは怒りのまま魔戒剣を一閃すると、戒人とアキトを吹き飛ばした。

 

「ぐぅ……!」

 

「くっ!!」

 

「戒人!!アキト!!」

 

戒人とアキトの2人が吹き飛ばされた様子を見た統夜は声をあげて立ち上がり、唯たちも同様に立ち上がった。

 

「統夜!ここまでお膳立てしてやったんだ!後はお前が決めろ!」

 

「戒人の言う通りだ!今のお前ならあいつ如き問題ないだろう」

 

「……あぁ!任せておけ!」

 

統夜は魔戒剣を回収すると、それを抜いて、構えていた。

 

「月影統夜!このままではすまさんぞ!今度こそ貴様を殺す!!」

 

「悪いが、そう簡単にやられる訳にはいかない。貴様をもう一度地獄へ叩き返してやる!」

 

梓というかけがえのない存在を得た統夜は、誰が相手だろうと負ける気がしないといった気持ちだった。

 

「……その前に……」

 

統夜はゼクスから視線を外すと、梓の方を見て、ゆっくりと梓に近付いていった。

 

すると……。

 

「……!!?////」

 

「「「「え、えぇ!?」」」」

 

「おいおい……」

 

「こいつ……統夜……だよな?」

 

統夜は梓にキスをしており、普段は天然ジゴロである統夜らしからぬ行動に唯たちだけではなく、戒人とアキトも驚愕していた。

 

キスをされた本人である梓は、唐突な出来事に訳がわからず、顔が真っ赤のまま硬直していた。

 

(おいおい……。天然ジゴロを卒業したと思ったら、統夜の奴大胆になったな……)

 

イルバは、普段の統夜ではあり得ない行動に、苦笑いをしながらも呆れていた。

 

「……ちょっと待っててくれ。すぐにケリを付けてくるから」

 

「……は、はい!私、信じてますから!」

 

梓は、ゼクスに向かってゆっくりと歩き出す統夜の背中をジッと見つめていた。

 

梓の中には不安というものは一切なく、心の底から統夜のことを信じ切っていた。

 

「……月影統夜……。貴様はどこまで俺をコケにするんだ……。許さんぞ!」

 

殺したと思っていた統夜は生きており、その後の信じられない行動に怒りを露わにしていた。

 

「……ゼクス!てめぇのくだらない逆恨みのせいでみんなを心から傷付けた。俺は、そんなてめぇを許さない!!」

 

統夜は、ゼクスの姑息な策略によって自分が傷付いたことよりも、かけがえのない存在である唯たちを傷付けたことが何よりも許せなかった。

 

統夜は鋭い目付きでゼクスを睨みつけていた。

 

「……貴様の陰我、俺が断ち切る!」

 

統夜はゼクスに向かってこう宣言すると、魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

そこから放たれる光に包まれると、統夜は白銀の輝きを放つ奏狼の鎧を身に纏った。

 

「貴様相手に出し惜しみなどせぬ!確実に貴様を殺す!!」

 

ゼクスは確実に統夜を葬るために最初から本気を出すことにした。

 

ゼクスは魔戒剣の切っ先に紫の魔導火を纏わせると、その魔導火は大きくなりながら力を蓄えていた。

 

「……業火炎破!!……灰になるがよい!!」

 

ゼクスは魔戒剣を十字に振るうと、十字の炎が統夜に向かっていった。

 

「……」

 

統夜は皇輝剣を構えてはいたものの、ゼクスの攻撃を、避けようとも、防ごうともしなかった。

 

そんな中、ゼクスの放った渾身の攻撃が統夜に迫ろうとしたのだが……。

 

「……効かねえよ!!」

 

統夜は皇輝剣を十字に振るうと、ゼクスの渾身の一撃である業火炎破を相殺した。

 

「……な、何だと!?」

 

ゼクスは、自分の渾身の一撃が簡単にしのがれるとは思っておらず、驚きを隠せなかった。

 

「……今度はこちらから行くぜ!」

 

統夜は先ほどのゼクスのように皇輝剣の切っ先に赤い魔導火を纏わせた。

 

その赤い魔導火は激しく燃え上がり、螺旋のように皇輝剣の切っ先に収束していた。

 

この状態は「猛火斬撃」といい、烈火炎装と似た形態であるのだが、魔導火を皇輝剣の切っ先にのみ纏わせ、斬撃に特化した状態にして、攻撃力を飛躍的にあげるものであった。

 

この状態で、統夜はゼクスに向かっていった。

 

「おのれ……今度こそ貴様を殺す!!」

 

ゼクスは再び烈火炎装の状態になると、統夜を迎撃する準備に入っていた。

 

「……倒されるのはお前だ!!」

 

統夜はゼクスが統夜の攻撃を受ける前に皇輝剣を一閃し、ゼクスの体を斬り裂いた。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

統夜がゼクスを斬り裂いた直後に大きな爆発が起こり、それによりゼクスは消滅したものと思われた。

 

「……やったか?」

 

『今の一撃に手応えはあったが、奴は命からがら逃げたようだ。だが、奴の消滅も時間の問題だぜ』

 

ゼクスは猛火斬撃によって斬り裂かれた後に起こった爆発に乗じてどうにか逃げ延びていた。

 

しかし、統夜の一撃は確実にゼクスを斬り裂いており、消滅するのは時間の問題だった。

 

「……また奴が来たとしても斬るだけだ」

 

統夜はこう呟きながら鎧を解除すると、元に戻った魔戒剣を青い鞘に納めた。

 

「「統夜!」」

 

「統夜君!!」

 

「やーくん!」

 

ゼクスを退けたことを確認した唯たちは統夜に駆け寄っていた。

 

「やーくん……勝ったんだね!」

 

「当たり前だろ?俺はどんな奴が相手だろうと、みんなを……そして梓を守るって決めたんだからな」

 

「統夜先輩!!」

 

統夜の力強い言葉を聞いた梓は統夜に駆け寄ると、そのまま飛びつく形で抱きついていた。

 

「……良かったです……本当に良かったです!」

 

梓は統夜が無事にこの危機を乗り越えたことと、自分の想いが通じて結ばれたことに安堵していた。

 

「あぁ……。梓、改めてなんだけどさ、これからもよろしくな」

 

「はい!私は先輩が無茶しないようにしっかりと見張りますからね。覚悟してて下さいね♪」

 

「アハハ……。お手柔らかに頼むよ……」

 

統夜はこれから梓の尻に敷かれそうだなと予想しながら苦笑いをしていた。

 

「やれやれ……」

 

「梓と付き合うことになっても、統夜は変わらなさそうだな」

 

「だけど、少し大胆になったわよね♪」

 

「そうだよねぇ。いきなりあずにゃんにキスするんだもん。それも私たちの目の前で」

 

「!!?お、俺……そんなことを!?」

 

統夜は無我夢中での行動だったため、梓にキスをしたということは覚えていなかった。

 

しかし、その事実を唯たちに告げられると、統夜の顔は茹で蛸のように真っ赤になっていた。

 

そして……。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

あまりの恥ずかしさに居ても立っても居られなくなった統夜は、逃げるようにその場を走り去っていった。

 

「あ!逃げた!!」

 

「おい、統夜!ちょっと待てって!」

 

「統夜君!!待って!!」

 

「やーくん!待ってよぉ〜!!」

 

「統夜先輩!!」

 

唯たちは大慌てで統夜を追いかけて行き、その場には戒人とアキトのみが残されてしまった。

 

「「……」」

 

戒人とアキトは、あまりに唐突な展開に驚きを隠せないのか、言葉を失っていた。

 

「……とりあえず番犬所に報告に行くか」

 

「……あぁ、そうだな」

 

色々と思うところがある2人だったが、とりあえず2人だけで番犬所へ報告を行うためにそのまま番犬所へと向かって行ったのである。

 

こうして、怨念の塊として蘇ったディオスこと暗黒騎士ゼクスは統夜によって討伐され、この事件は解決したと思われた。

 

だが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お、おのれ……。月影統夜……。今度こそ……今度こそ息の根を止めてやる……!」

 

命からがら逃げ延びたゼクスは、統夜への恨みをさらに募らせており、今度こそ復讐を果たそうと心に決めていた。

 

しかし、統夜によって受けたダメージは相当なものであり、回復にはかなりの時間がかかると思われた。

 

ゼクスはどこかへ移動し、その傷を癒そうと考えていたのだが……。

 

ガシャン!ガシャン!

 

鎧を身に纏ったかのような足音が聞こえてきており、それは徐々にゼクスの方へと近付いていった。

 

「……?この邪気……何者だ?」

 

こちらに向かってくる鎧のような足音の先から、自分とよく似た邪気を感じ取ることが出来た。

 

その足音はどんどん大きくなり、そして、ゼクスの前に現れたのは、自分とよく似た漆黒の鎧だった。

 

「……!!き、貴様は……まさか……!!」

 

「……ずいぶんと無様な姿だな。暗黒騎士ゼクスよ……」

 

「!?貴様、何故俺の名を知っている!?」

 

「何故……だと?貴様に暗黒騎士になる方法を教えたのは誰だったかな?」

 

「なっ……!?き、貴様、まさか……!!」

 

「御託はここまでだ。貴様の力は微弱なものだ……。だが、私と1つになり、私の闇の肥やしとなるがよい!」

 

ゼクスによく似た漆黒の鎧の騎士は、手にしていた剣をゼクスの体に突き刺した。

 

「ぐぅ……ぐぁ……!!」

 

すると、ゼクスの体は徐々に粒子のようなものとなり、次第に漆黒の鎧の騎士の中へと吸収されていった。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ゼクスは、まるでホラーに捕食されるかのように漆黒の鎧の騎士の体に吸い込まれてしまい、その巨大な怨念と共に、ゼクスの意思も消滅してしまった。

 

暗黒騎士ゼクスの力を取り込んだ漆黒の鎧の騎士の体にはさらなる邪気が纏われ、そのオーラは禍々しいものであった。

 

「ククク……これで良い。これでこそ、奴をわざわざ蘇らせた甲斐があるというものだ!」

 

ゼクスが復活したのは本当の怨みが陰我となって収束したからなのであるが、そう仕向けたのは漆黒の鎧の騎士であり、12体のホラーを封印した短剣を強奪したのも、ゼクスではなく、この騎士だった。

 

漆黒の鎧の騎士は、短剣を強奪し、ゼクスに渡すことで実体化させ、その上でその体を取り込むつもりだったのであった。

 

「……これで私は究極の闇そのものとなった……。この私の力で、この世界を漆黒の闇へと包み込んでやるさ……」

 

漆黒の鎧の騎士の目的は、自分の得た闇の力により、この世界を闇で覆うという大それたものであった。

 

「まず手始めにこの街だ……。先ほどの戦いは見ていたが、あの程度の実力など私の敵ではない……!」

 

漆黒の鎧の騎士は、統夜とゼクスの戦いを見ていたのだが、それでも自分の敵ではないと判断し、手始めにこの街を壊滅させることを決めたのであった。

 

暗黒騎士ゼクスを倒したのは統夜にとっては終わりではなく、むしろこれから始まる壮絶な戦いの序章であることを、統夜は知る由もなかった……。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 




ヒロインですが、梓に決まりまして、統夜と梓は付き合うことになりました。

ヒロインアンケートで誰ともくっつかないという案もあったので悩んだところですが、この作品は序盤から梓がヒロイン的な動きを見せていたため、誰ともくっつかないや、他の誰かとくっつくのは不自然かと思い、ヒロインを梓に確定させました。

他のキャラをヒロインにしてほしいという意見もあるかと思いますが、それは番外編のIFストーリーとしてあげようかなと考えてますので、ご期待ください。

今回、どうにかゼクスと決着をつけましたが、怨念の塊となったゼクスはただのクズとなってしまいましたね。

ゼクスは暗黒騎士の中でも強さだけを求める小者という設定だったので、このような形にしました。

そしてゼクスは今回、キバの使ったパチ技を使っていました。そう、「履いた靴がいい」こと「業火炎破」です。まぁ、統夜にあっさり防がれましたが(笑)

そして、次回なのですが、もうじきUAが30000を越えるということで、UA30000記念の番外編を投稿しようと考えています。

詳細な内容は活動報告で発表しようと思っているので、そちらをご確認ください。

それでは、次回をお楽しみに!


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