牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第96話になります!

今回はとある相手が蘇り、統夜を追い詰めます。

その相手とは一体誰なのか?

それでは、第96話をどうぞ!




第96話 「怨念」

……今からおよそ1年と数ヶ月前、闇に堕ちて暗黒騎士の力を手に入れた魔戒騎士、ディオスは、メシアの腕と呼ばれたホラー、グォルブを復活させようと企んでいた。

 

企み通りグォルブを復活させたのは良かったのだが、グォルブは紅の番犬所に所属する若き魔戒騎士、月影統夜や、黄金騎士牙狼の称号を持つ冴島鋼牙らの手によって討伐された。

 

そして、ディオス自身も、統夜に討伐され、その肉体は暗黒騎士の鎧と共に消滅した。

 

しかし、それでも消滅せずに残っているものはあった。

 

それは、ディオスが統夜に対して抱いている「恨み」である。

 

ディオスは統夜に自らの計画を潰されただけではなく、統夜自身に討伐されたため、その恨みは大きいものだった。

 

ディオスの統夜に対する恨みは怨念となり、陰我と共に集まりつつあった。

 

__おのれ……。月影統夜……。このままではすまさんぞ……!どのような形だろうと俺は貴様に復讐してやる……!

 

ディオスの統夜に対する憎悪が陰我の塊となり、その陰我はとあるオブジェに現れていった。

 

そして、それからすぐオブジェから飛び出し、それが何かへと実体化していった。

 

ホラーは陰我あるオブジェをゲートに人間に憑依し、人間を喰らうため、ディオスの憎悪による陰我の塊が実体化したのはホラーではなかった。

 

それはホラーではなかったのだが、魔戒騎士の鎧に酷似したものであった。

 

 

 

 

 

 

魔戒騎士の鎧に酷似した邪気の塊が実体化した翌日、イレスは統夜や戒人が討伐し、その穢れを浄化した時に現れた短剣が12本になったため、それを魔界へと強制送還しようとしていた。

 

ホラーを討伐するのは魔戒騎士の仕事なのだが、魔戒騎士が封印したホラーを魔界へと強制送還させるのは番犬所の神官の仕事だった。

 

ホラーを封印した短剣が何故12本になったら魔界ヘ強制送還するかというと、12という数字は魔を払う数字と言われているためだからである。

 

イレスはいつものようにホラーを封印した12本の短剣を魔界へと強制送還したのだが……。

 

「……?何でしょう……。おかしいですね……」

 

強制送還が終わった瞬間、イレスは違和感を感じていた。

 

今送った短剣が魔界に到着せずにごそっと無くなってしまうような違和感であった。

 

「……!!イレス様!何者かがホラーの短剣を奪ったようです!」

 

異変を感じ取ったイレスの付き人の秘書官はイレスにそのことを報告していた。

 

「それは本当ですか!?」

 

「はい。恐らくは短剣が魔界にたどり着く直前に何者かが奪ったのでしょう」

 

「……今すぐ統夜と戒人を呼び出してください!ホラーを封印した短剣を野放しにしたらとんでもないことが起きると言われていますからね」

 

「かしこまりました!」

 

イレスの付き人の秘書官は、イレスの指示どおり、統夜と戒人を呼び出していた。

 

「……何でしょう……。この胸騒ぎは……。何もなければ良いのですが……」

 

何故か胸騒ぎを覚えていたイレスは、不安げな表情をしていた。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

卒業アルバムの個人写真を撮り、唯たち4人の進路が決まり、本格的に受験勉強を始めてから1ヶ月ほど経過し、いつの間にか12月になっていた。

 

この日も唯、律、澪、紬の4人は、音楽準備室で受験勉強を行っており、統夜は梓のギター練習に付き合っていた。

 

統夜たち5人は学園祭が終わった後、そのまま軽音部を引退という形にはなっているのだが、統夜たちにとって音楽準備室は居心地が良いため、居ついているのである。

 

唯たちは受験勉強という名目があるのだが、統夜は何の名目もないため、梓のギター練習に付き合いながらその後はティータイムに参加するというのが定番になっていた。

 

この日も、唯たちが勉強する中、統夜と梓はギターの練習を行っていた。

 

「……なぁ、梓。ここのフレーズなんだけどさ……」

 

統夜は梓とセッションを行い、そこで気になった部分を指して、こうすれば良くなるんじゃないかと指摘していた。

 

「あぁ、なるほど……!確かに、その方がいいかもしれないですね!」

 

梓は統夜からの指摘を真摯に受け止めて、それをギターテク向上の糧にしていた。

 

「さすがは統夜先輩です!毎日毎日凄く勉強になります!」

 

「アハハ、そうか?俺なんかでも梓の力になれるのは嬉しいよ」

 

「ふぇっ!?そ、そんな……」

 

統夜のストレートな言葉が恥ずかしかったのか、梓の顔は真っ赤になっていた。

 

「「「「……」」」」

 

唯たち4人はそんな統夜と梓の様子をジト目で見ていた。

 

「……いいなぁ、あずにゃん」

 

「統夜君と2人っきりで練習だもんね……」

 

「……どうしても気になるんだよなぁ……」

 

「そうだよな。何てったって、統夜とのプライベートレッスンだしな」

 

「……おいおい、お前らは勉強に集中しろよ……」

 

勉強そっちのけでこちらを見ている唯たちに統夜は苦笑いをしていた。

 

しかし、梓は律の言ったプライベートレッスンという言葉が気になったようで……。

 

「……統夜先輩と……プライヴェート……レッスン……」

 

梓は頭の中でいらぬ妄想をしていた。

 

 

 

 

〜梓の妄想〜

 

『……統夜先輩……』

 

『……梓……』

 

周囲は何故かキラキラした空間で、統夜が優しく梓を抱きしめる。

 

『……俺のとびっきりの愛、お前にレッスンしてやるぜ』

 

『……イエス、プリーズ……♪』

 

『……I love you……』

 

統夜が梓を力強く抱きしめる……。

 

 

 

 

 

__妄想終わり。

 

 

 

 

 

「……Me too……」

 

梓は未だに妄想から抜け出せていないのか悦に浸っていた。

 

しかし……。

 

「……あ、あずにゃん!鼻血鼻血!!」

 

「ハッ!!」

 

梓は唯に指摘されたことで、自分がダラダラと鼻血を出していることに気付いた。

 

「ったく、しょうがねぇなぁ」

 

統夜はティッシュを取り出すと、梓の鼻血を拭き取ってあげていた。

 

「ふぇ!?と、統夜先輩!?」

 

「いいから、ジッとしてろ」

 

「は、はい……」

 

梓の顔は真っ赤になり、梓はその場で硬直していた。

 

(ど……どうしよう!?また鼻血が出ちゃいそうだよぉ……!)

 

現在、統夜は梓の鼻血を拭き取っているため、かなり至近距離まで接近していた。

 

そのため、梓のドキドキは止まることはなかった。

 

(ほぉ……。これはこれは……)

 

イルバは予想もしていない出来事が起こっていることに対して口をカチカチと鳴らしながらニヤニヤしていた。

 

「「「「……」」」」

 

唯たちはそんな統夜と梓のやり取りをジッと見ていた。

 

「……なぁ、みんな」

 

「「「……うん」」」

 

唯たち4人は、統夜と梓とのやり取りを見ながらとあることを話し合っていた。

 

その話を気付かぬまま、統夜は梓の鼻血を拭き終わっていた。

 

「……ま、こんなもんだろ。梓、ティッシュを鼻に詰めるのは窮屈かもしれんが、勘弁な」

 

「あっ、ありがとう……ございます……」

 

「ま、幸い制服に鼻血はついてないからそれは良かったな」

 

統夜はこう言いながら、ティッシュで床に落ちた鼻血を拭き取っていた。

 

ティッシュでさっとふき取ると、それをティッシュで包み、ゴミ箱へと捨てた。

 

「……さて、練習はこの辺にして、ひと休みしようぜ」

 

「は、はい。そうですね」

 

「ちょうど良かったわ♪私たちも休憩しようと思っていたの。みんなでお茶にしましょう♪」

 

唯たち4人の話も終わったようで、紬がティータイムを提案していた。

 

統夜と梓が唯たちのもとへ行き、ティータイムを行おうとしたその時だった。

 

『……!統夜、残念ながらのんびりお茶をしてる暇はないようだぜ』

 

「……!?まさか、ホラーか?」

 

『わからん。だが、番犬所から呼び出しだぜ。それも大至急だそうだ』

 

「……!?わ、わかった。それじゃあ急いで向かわないとな」

 

番犬所から大至急の呼び出しと聞いた時、余程の事が起こっているのではないか?と推測していた統夜の表情は強張っていた。

 

そして、大急ぎでギターをギターケースにしまい、帰り支度を始めていた。

 

「……統夜先輩……」

 

梓は胸騒ぎを覚えており、不安げな表情で統夜の帰り支度を見守っていた。

 

「……みんな、ごめんな。そういうわけで、俺は行かなくちゃ」

 

「……統夜君、気をつけてね!」

 

「統夜、無理だけはするなよ!」

 

「あたしたちは統夜の無事を信じてるからな」

 

「頑張ってね!やーくん」

 

唯たち4人は、統夜の無事を祈る言葉で統夜を見送ろうとしており、統夜はそんな言葉に頷くていた。

 

しかし……。

 

「……行かないでください……」

 

梓は統夜の羽織った魔法衣の袖をクイっと引っ張ると、統夜に行かないでと懇願していた。

 

「……梓?」

 

「あずにゃん?」

 

梓がそんな言葉を発するとは思っていなかったので、統夜だけでなく、唯たちも困惑していた。

 

「困らせるようなことを言って、すいません……。だけど、凄く胸騒ぎがするんです……。今行ったら、統夜先輩はそのまま帰ってこないんじゃないかって……」

 

「梓ちゃん……」

 

「もちろん、統夜先輩は魔戒騎士として使命を果たすために行かなきゃいけないのはわかってます……。けど……」

 

梓の表情は沈んでおり、唯たちは梓に何て声をかけてあげればいいのかわからなかった。

 

「ったく……。馬鹿だなぁ、梓は」

 

こう言いながら笑みを浮かべた統夜は、梓の頭を優しく撫でていた。

 

「……どんな奴が相手だろうと、俺は死なない。必ずみんなのもとへ帰る。信じてくれないか?」

 

「……でも……」

 

「……俺は大切なみんなを守るって決めてるんだ。そう簡単には死ねないさ。だから、信じて待っていてくれ」

 

統夜は再び梓の頭を撫でると、優しい表情で微笑んでいた。

 

すると、梓は無言のままコクリと頷いていた。

 

「……ありがとな。それじゃあ、行ってくる」

 

統夜は手を放した後に音楽準備室を後にして、そのまま番犬所へと向かっていった。

 

「……統夜先輩……。無事に帰ってきてくださいね……」

 

統夜が音楽準備室を出た直後、梓はその様子を見つめながらこのように呟いていた。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「……あっ、統夜。来ましたね」

 

番犬所へ直行した統夜が番犬所の中へ入ると、イレスが統夜を出迎えていた。

 

統夜と同じく番犬所からの呼び出しを受けた戒人は、すでに来ており、統夜の到着を待っていた。

 

「統夜、待っていたぞ」

 

「おう」

 

統夜は戒人の挨拶を簡単な言葉で返していた。

 

「イレス様。俺と戒人が呼び出されたということは、何か指令ですか?」

 

「えぇ。実は、今日あなたたちが封印したホラーの短剣を魔界へ強制送還したのですが、短剣が魔界へたどり着く瞬間に何者かがそれを強奪したのです」

 

「「!?」」

 

イレスから告げられた大きな事件の内容に、統夜と戒人は驚きを隠せなかった。

 

「……まさか、そんな……!ホラーを封印した短剣が奪われたことも驚きだけど、魔界へたどり着く瞬間に短剣を奪うなんて出来るわけが……」

 

『あぁ。ただの人には出来ないだろうな。だが……』

 

『うむ。ホラーであればそれも可能かもしれないのぉ』

 

ホラーであれば、短剣が魔界へたどり着く瞬間に奪い取ることは可能ではないかとトルバは推測をしていた。

 

「それもただのホラーではありません。そのような芸当が出来るのは陰我が大きくかなりの力を持つホラーで、まだゲートから出てきていないホラーであれば成せるとは思うのですが……」

 

「!?そんなことって、あるんですか!?」

 

『理論的には可能なだけだ。俺様もこのケースは初めてだからな』

 

魔導輪として長い時を生きているイルバでさえ、ホラーを封印した短剣が魔界へたどり着く瞬間に奪われるというケースは初めてであった。

 

「どちらにせよ、短剣が奪われたというのは事実です。統夜、戒人、あなたたちは協力して奪われた短剣を取り戻してください。それが指令です」

 

「わかりました、イレス様!」

 

「ホラーを封印した短剣が奪われたとなると、放ってはおけません」

 

ホラーを封印した短剣が悪用されることを恐れていた統夜と戒人は、イレスからの指令を快諾していた。

 

「頼みましたよ、統夜、戒人」

 

統夜と戒人はイレスに一礼をすると、番犬所を後にして、2人でホラーを封印した短剣を奪ったホラーを捜索することにした。

 

 

 

 

 

『……統夜、1ついいか?』

 

ホラー捜索の途中、イルバが統夜に声をかけてきたので、統夜は足を止め、一緒にいた戒人も足を止めた。

 

「……どうした、イルバ?」

 

『お前さんは軽音部の誰と付き合うのか決めたのか?』

 

「は、はぁ!?何言ってるんだよ!!」

 

イルバからの唐突な質問に統夜は頰を赤らめていた。

 

『俺様はずっと前から気になっていたんだ。お前さんはここ最近唯たちとかなり親しくなっているからな。5人の中で誰か好きな奴がいるのだろう?』

 

「ばっ、馬鹿!今はそれどころじゃないだろ!?早くホラーを見つけないと!」

 

『まだホラーの気配はない。だからこそ、お前さんの気持ちをハッキリ聞いておきたいと思ってな』

 

「それは俺も気になるな。お前ら6人は本当に仲が良いからな。俺はてっきりその中の1人と付き合ってると思っていたが、違うんだな」

 

戒人も、ライバルである統夜の色恋事情には興味津々だった。

 

「か、戒人まで!?」

 

『ホッホッホ。統夜、諦めて白状したらどうじゃ?』

 

トルバも興味があったようで、統夜から話を聞き出そうとしていた。

 

「俺……俺は……」

 

統夜は困惑しながらも何て答えるべきかを考えていた。

 

統夜は色恋に関してはあり得ないくらい鈍感になるのだが、最近は少しずつ唯たちのことを女性として意識するようになってきていた。

 

その中でも、その1人に対して特別といえる気持ちを抱いていることに統夜は気付きつつあった。

 

「……俺が……好きなのは……」

 

統夜はじっくりと考え、答えを見出そうとしたその時だった。

 

『統夜、その続きは気になるが、それは後だ!強大な邪気を感じるぜ!』

 

「あぁ……!確かにピリピリとした空気を感じるぜ……!』

 

ホラーを探知出来ない統夜ですら、その邪気の大きさに冷や汗をかいており、その邪気の凄まじさがハッキリと分かる程だった。

 

統夜だけではなく、戒人もそんな邪気を感じ取っており、統夜同様に冷や汗をかいていた。

 

『……統夜、行くぞ!』

 

『遅れるでないぞ、戒人!』

 

「あぁ!」

 

「わかってる!」

 

統夜と戒人の2人は、それぞれの相棒のナビゲーションを頼りに、邪気の大きなポイントへと移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

それから10分もかからずに目的の場所にたどり着いたのだが、そこは桜ヶ丘某所にある現在は使われていない広場だった。

 

『統夜、ここだぜ』

 

「あぁ。何かさっきよりもピリピリとした空気が伝わってくるぜ!」

 

「そうだな……」

 

戒人もこの場に蔓延する強大な邪気を感じ取っており、2人揃って冷や汗をかいていた。

 

『2人とも!油断するではないぞ!』

 

「あぁ」

 

「わかってる」

 

統夜と戒人はどこから何が現れるのか予想が出来ないため、魔戒剣を手に取り、いつでも抜刀出来る状態にしておいた。

 

……その時だった。

 

 

 

 

 

 

__久しぶりだな!月影統夜!!

 

 

どこからかはわからないのだが、突然男の声が聞こえてきた。

 

「……何者だ!それに、何で統夜の名前を!?」

 

戒人は、何故謎の声の人物が統夜のことを知っているのかわからないため、驚いていた。

 

一方、統夜は……。

 

(……!あの声、まさか……!!)

 

統夜は聞こえてきた声に聞き覚えがあり、その顔は真っ青になっていた。

 

__ククク……。月影統夜……。忘れたか?この俺のことを……。

 

「忘れるわけないだろ……!ディオス……!」

 

「!?ディオスって確か……。統夜が倒した暗黒騎士……!」

 

戒人は統夜からディオスの事件については聞いていたため、この声の主がディオスであることに驚きを隠せなかった。

 

それは統夜も同様であり、統夜も驚きを隠せなかった。

 

「……あぁ、そうだ。ディオスは俺が倒したハズだ!」

 

__そうだ。俺は貴様に倒されたさ……。だから厳密には俺はディオスではない。ディオスの怨念の塊……と言っておこうか……。

 

「ディオスの怨念の塊……」

 

「ホラーを封印した短剣を奪ったのも貴様なのか!?」

 

__いかにも……。ホラーを封印した短剣の力で、俺の実体を完全に蘇らせるためにな……。

 

ディオスの怨念こそが、ホラーを封印した短剣を奪った張本人であり、その短剣の力を自身の復活に使うつもりだった。

 

「そんなこと……させるかよ!!」

 

統夜と戒人は魔戒剣を抜くと、どこにいるかわからないディオスの怨念を警戒していた。

 

「ディオス!姿を現せ!」

 

統夜は険しい表情で周囲を見回していた。

 

__まぁ、慌てるな。姿は現わすさ。だが、その前にこいつでお前の力を見せてもらおう。

 

このようにディオスの怨念が語ると、突如地響きが起こった。

 

「!?な、何だ!?」

 

「これはいったい……」

 

統夜と戒人は、突如起こった地響きに驚きながら周囲を警戒していた。

 

『……!!統夜、何か来るぞ!気をつけろ!』

 

『戒人!巨大な邪気の塊じゃ!油断するでないぞ!』

 

イルバとトルバは強大な邪気を感じ取り、それぞれの相棒に警告した。

 

地響きが収まると、巨大な邪気が実体化していた。

 

その邪気は動き出し、とある姿に実体化していた。

 

その姿とは……。

 

「……!?こ、こいつは、素体ホラーか!?」

 

「そうだけど、何てデカさだよ!!」

 

巨大な邪気は、素体ホラーの姿へと姿を変えたのだが、その大きさは素体ホラーとは比べものにならないくらいの大きさだった。

 

__ククク……!そいつは12本の短剣が一体化した姿。それだけ力は強大になっているぞ。もし、こいつを倒すことが出来れば、俺の姿を見せてやろう!

 

「くそっ、ディオス!出てきやがれ!……って!?」

 

統夜はディオスに向かって怒りの口調で叫ぶものの、その瞬間、12本の短剣の力が1つになった融合巨大ホラーが、統夜に襲いかかってきた。

 

 

統夜はどうにが攻撃をかわすのだが、その力は強大であり、まともに攻撃を受けたらひとたまりもなかった。

 

「くっ……!こいつ、何て力だよ!?」

 

融合巨大ホラーの攻撃をかわした統夜は、その力に驚愕していた。

 

『統夜!気をつけろ!そいつはディオスの言う通り、短剣の中に眠る12体のホラーが融合した姿だ!その力はかなりのものだぞ!』

 

「あぁ、そうみたいだな」

 

先ほど、融合巨大ホラーの力を目の当たりにした統夜は、力がかなりのものだということを実感していた。

 

「統夜!ここでこいつを止めないと街に被害が出るぞ!」

 

「そうだな……。鎧を召還して、一気にケリをつけよう!」

 

「あぁ!」

 

統夜と戒人は、魔戒剣を構えると、融合巨大ホラーを睨みつけた。

 

統夜と戒人は、それぞれの魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

2人はそこから放たれる光に包まれた。

 

すると、戒人は、紫の輝きを放つガイアの鎧を身に纏った。

 

そして、統夜は白銀の輝きを放つ奏狼の鎧を身に纏った。

 

鎧を召還した2人は、融合巨大ホラーに果敢に立ち向かい、皇輝剣と堅陣剣を一閃した。

 

しかし、12体分のホラーの力を持つ融合巨大ホラーに傷をつけることは出来なかった。

 

「なっ……!?」

 

「こいつ……!何て硬さだよ!?」

 

予想を遥かに越える融合巨大ホラーの頑丈さに統夜と戒人は驚愕していた。

 

融合巨大ホラーは反撃と言わんばかりに腕を振り回すと、統夜と戒人を吹き飛ばした。

 

「ぐぅ……!」

 

「くぅぅ……!」

 

強大な力を持つ融合巨大ホラーの一撃を受けた統夜と戒人はかなりの勢いで吹き飛ばされたのだが、2人が壁に叩きつけられそうになったその時だった。

 

「来い!白皇!」

 

「行くぞ!天陣!」

 

統夜と戒人は、魔導馬を召還し、壁に叩きつけられる衝撃を抑えることで、ダメージを最小限にとどめていた。

 

戒人は統夜と再会した時には魔導馬を得ていない戒人であったが、サバックを終えて間もなくホラーを合計100体討伐し、内なる影との試練を乗り越えた。

 

その時に戒人は魔導馬の力を得た。

 

戒人の魔導馬は、天陣(てんじん)という名前であった。

 

魔導馬を召還した2人は、融合巨大ホラーに接近し、皇輝剣と、堅陣剣を一閃した。

 

魔導馬に乗った状態で、剣による攻撃の威力は少し上がったものの、融合巨大ホラーにダメージを与えることは出来なかった。

 

「……やっぱり硬いな……」

 

「そうだな。こうなったら……」

 

統夜は、白皇の力を用いて、皇輝剣を皇輝斬魔剣に変化させた。

 

その状態で、統夜は融合巨大ホラーに向かっていき、皇輝斬魔剣を振るうのだが……。

 

「……っ!?こいつでもダメか……」

 

皇輝斬魔剣の一撃で、融合巨大ホラーにダメージを与えることは出来たものの、致命傷とはいかず、融合巨大ホラーはピンピンとしていた。

 

統夜の一撃に激昂した融合巨大ホラーは、反撃と言わんばかりに統夜目掛けてパンチをお見舞いした。

 

「がぁっ……!」

 

融合巨大ホラーの一撃は強烈で、それを受けただけで、白皇の召還は解除されてしまった。

 

統夜はそのまま壁に叩きつけられてしまい、その時の衝撃で、鎧が解除されてしまった。

 

「うっ……くっ……!」

 

壁に叩きつけられた統夜のダメージは相当なものだったが、フラフラになりながらもどうにか起き上がっていた。

 

「統夜!!」

 

融合巨大ホラーの一撃を受けた統夜を心配して戒人が声をあげるのだが……。

 

『戒人!よそ見をしとる場合じゃないぞい!!』

 

「!?」

 

統夜のことを気遣うことで隙が出来てしまい、戒人は融合巨大ホラーのパンチをモロに受けてしまった。

 

この一撃で、天陣の召還は解除されてしまい、戒人もまた、壁に叩きつけられてしまった。

 

その時の衝撃はかなりのものであり、戒人もまた、鎧が解除されてしまった。

 

戒人もフラフラになりながら立ち上がるのだが、2人とも、融合巨大ホラーの一撃だけでかなりのダメージだった。

 

『統夜!急いで体勢を立て直せ!このままじゃまずいぞ!』

 

「わかって……るよ……!」

 

統夜はフラフラになりながらも魔戒剣を構えるのだが、融合巨大ホラーがゆっくりと統夜と戒人に近付いてきた。

 

「……諦めて……たまるかよ……!」

 

唯たちに生きて帰ると約束した統夜は、強大な敵を相手にしてもなお、諦めてはいなかった。

 

そんな統夜の思いを打ち砕くべく、融合巨大ホラーが統夜と戒人にトドメを刺そうと2人目掛けてパンチを放った。

 

「「……っ!?」」

 

統夜と戒人は迫り来る拳に息を飲むが、2人で協力してどうにか攻撃を受け止めようとしていた。

 

その時、複数の銃弾のようなものが飛び出し、それは融合巨大ホラーの顔面に直撃した。

 

その銃弾のようなものはさらに爆発を起こすと、その状態で、融合巨大ホラーはその場に倒れ込んだ。

 

「……!?今の攻撃、まさか……」

 

統夜と戒人は、危機を救ってくれた攻撃方法に心当たりがあった。

 

統夜と戒人を救った人物とは……。

 

「統夜、戒人!どうやら苦戦してるようだな!」

 

「アキト!」

 

「どうしてここに?」

 

統夜と戒人の危機を救ったのは、魔戒法師であり、レオの1番弟子を自称しているアキトだった。

 

しかし、アキトは元老院付きの魔戒法師のため、ここにいることに2人は驚いていた。

 

「……ん?どうしてかって?たまたま桜ヶ丘に遊びに来たら嫌な気配を感じてな。イレス様から事情を聞いて助太刀にきたって訳だ」

 

アキトが何故ここにいるかということを統夜と戒人に説明していた。

 

「なるほど……。助かったぜ、アキト!」

 

「なぁに、気にすんなよ。それに……」

 

アキトが融合巨大ホラーに視線を向けると、融合巨大ホラーはゆっくりと立ち上がってきた。

 

「こいつを倒さなきゃいけないんだろ?」

 

「……あぁ、そうだな」

 

「統夜、戒人。お前ら、まだ戦えるか?」

 

アキトは、先ほどの戦いでダメージを負っていたであろう統夜と戒人のことを気遣っていた。

 

「あぁ、当然だ」

 

「それに……。俺と戒人とアキト……。この3人が揃えば、倒せない敵はいない!!」

 

統夜は、戒人とアキトと共に戦えば、どんな困難も乗り越えられると確信していた。

 

「……統夜、戒人!鎧を召還して、魔導馬を呼んでくれ。戒人、お前は魔導馬を呼び出せるよな?」

 

「あぁ!問題ない!」

 

「俺に考えがある。3人で奴を倒すぞ!」

 

「「あぁ!」」

 

アキトを信じてその考えを実行しようと考えていた統夜と戒人は、魔戒剣を高く突き上げ、円を描いた。

 

そこから放たれる光に包まれると、統夜は白銀の輝きを放つ奏狼の鎧を身に纏った。

 

そして、戒人は、紫の輝きを放つガイアの鎧を身に纏った。

 

それと同時に、統夜と戒人はそれぞれの魔導馬である、白皇と、天陣を呼び出し、魔導馬に跨った。

 

「……統夜、魔導馬の力で武器を強くするんだ!」

 

「あぁ!」

 

統夜はアキトの指示通りに白皇の力で、皇輝剣を皇輝斬魔剣に変化させた。

 

アキトは続けて指示を出そうとするが、融合巨大ホラーが3人に迫ってきた。

 

「……こいつで動きを止める!!」

 

アキトは魔戒銃にとある弾を装填すると、融合巨大ホラーの足元目掛けて発砲した。

 

その弾丸は融合巨大ホラーの両足に着弾すると、そこから冷気が飛び出し、融合巨大ホラーの足が凍りついてしまった。

 

「おぉ!凄いな!」

 

統夜は、魔戒銃の力に改めて感嘆していた。

 

「へへっ、新型の弾の実験は大成功だな!これで少しの間だけ、奴の足止めが出来るはずだ!」

 

この氷の弾は、アキトの新作であり、この弾に着弾した相手を一定時間凍らせるといった優れものだった。

 

しかし、まだまだ実験段階であり、それがどれだけ効果的なのかは未知数だった。

 

しかし、攻撃の準備を整えるには十分だった。

 

「……統夜、戒人!2人とも、烈火炎装の状態になってくれ!」

 

「わかった!」

 

「承知!」

 

統夜と戒人は、アキトの指示通り、魔導馬に乗った状態のまま、烈火炎装の状態になった。

 

統夜は全身に赤の魔導火を、戒人は全身に黄緑の魔導火を身に纏った。

 

それを見ていたアキトは魔導筆を取り出すと、法術によって魔導火のような炎が放たれた。

 

「統夜、戒人!俺たちの力を合わせるぞ!そうすれば、奴を倒せるはずだ!」

 

アキトの考えた作戦こそ、統夜、戒人、アキトの力を1つにまとめて、それを融合巨大ホラーにぶつけるといったものだった。

 

『なるほどな。それならあいつ相手でも勝機はありそうだぜ!』

 

『戒人!迷ってる暇はなさそうじゃぞ!』

 

トルバがこのような警告をしたその時、融合巨大ホラーの足止めをしていた氷が溶けてしまい、融合巨大ホラーは再び統夜たちに向かってきた。

 

「……やろうぜ!戒人、アキト!」

 

「おう!」

 

「行こうぜ!」

 

統夜の号令で、3人は散り散りになり、それぞれ融合巨大ホラーに向かっていった。

 

「……戒人!!」

 

まず最初に、アキトが魔導筆から放った炎を、戒人目掛けて放った。

 

アキトの放った青い炎は、戒人の体に纏われ、戒人の体には、黄緑と青い炎が纏われた。

 

戒人はその状態で融合巨大ホラーに向かっていくと……。

 

「……統夜!!」

 

戒人は融合巨大ホラーをギリギリまで引き付けると、2つの炎を統夜目掛けて放った。

 

その直後に戒人は堅陣剣を一閃し、融合巨大ホラーの足を止めた。

 

「……受け取ったぜ!みんなの力!」

 

統夜の体に黄緑の炎と青い炎が纏われ、統夜の体には赤い炎と黄緑の炎、そして青い炎が纏われた。

 

そして、皇輝斬魔剣の切っ先にも赤と黄緑と青の炎が纏われていた。

 

この形態は「三炎業破(さんえんごうは)」。統夜、戒人、アキトの3人の力が1つになった形態で、今までにない程の攻撃力を得ることが出来る。

 

この技は、統夜、戒人、アキトの3人の心が1つになっているからこそ放つことの出来るコンビネーション技であった。

 

戒人が融合巨大ホラーの足止めをしてくれたことを活かそうと考えていた統夜は白皇を走らせ、融合巨大ホラーに向かっていった。

 

融合巨大ホラーは、そんな統夜を葬ろうとパンチを繰り出すが、白皇は大きくジャンプして、攻撃をかわした。

 

そのため、融合巨大ホラーに攻撃を仕掛ける最大のチャンスが訪れた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

統夜は獣のような咆哮をあげながら、3つの炎を纏った皇輝斬魔剣を一閃した。

 

融合巨大ホラーはその巨大な体で、巨大な炎の刃を受け止めていた。

 

「ぐっ……!ぐぅぅ……!!」

 

統夜は皇輝斬魔剣を振り抜こうとするが、融合巨大ホラーの体は硬く、上手い具合に切り裂くことが困難だった。

 

しかし……。

 

「負けて……たまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

統夜は維持と気合だけで、再び皇輝斬魔剣を一閃した。

 

今度は融合巨大ホラーの体を切り裂くことに成功し、融合巨大ホラーの体は真っ二つになった。

 

統夜、戒人、アキトの決死の攻撃によって真っ二つに斬り裂かれた融合巨大ホラーは断末魔をあげ、その体は、爆発と共に消滅した。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

融合巨大ホラーを討伐するのに全ての力を使い切った統夜は、白皇の召還解除と共に、鎧を解除した。

 

それと共に地面に着地した統夜だったが、そのまま膝をついていた。

 

戒人も鎧を解除し、アキトと共に統夜に駆け寄った。

 

「……統夜、大丈夫か?」

 

「あぁ……。なんとかな……」

 

「統夜、やったな」

 

「あぁ。俺たち3人が力を合わせたから、あいつを倒せたんだよ」

 

統夜は、融合巨大ホラーを打ち倒せたのは、3人の力が1つになった結果だと確信していた。

 

それは戒人もアキトも同じ気持ちであり、2人は笑みを浮かべていた。

 

こうして統夜たちは、笑みを浮かべていたのだが……。

 

__やるじゃないか、月影統夜!まさか、本当にあれを打ち倒すとはな。

 

勝利の余韻を打ち砕くように、ディオスの怨念の声が聞こえてきた。

 

「でぃ……ディオス!いい加減姿を現せ!!」

 

統夜は先ほどの戦いで消耗していたが、フラフラになりながらもゆっくりと立ち上がった。

 

__ククク……。いいだろう……。貴様らがあいつと戦っている間に俺も完全に実体を手に入れることが出来た……。貴様らに見せてやろう。

 

ディオスの怨念がこのように告げると、統夜たちの目の前に黒い邪気の塊が現れ、それが収束していった。

 

すると、統夜たちの目の前に現れたのは、禍々しい邪気を放った漆黒の鎧だった。

 

「……貴様が……ディオスか!」

 

統夜たちの目の前に立ちはだかった漆黒の鎧こそ、統夜に倒されたはずの暗黒騎士ゼクスこと、ディオスであった。

 

「……フン。今の俺は、ディオスではない。我が名はゼクス。暗黒騎士だ」

 

「ふ……ざけるな!!」

 

統夜は怒りに満ちた表情で、ゼクスを睨みつけていた。

 

「貴様は騎士なんかじゃない!お前はホラーと同じだ!」

 

「そうだ!そして、俺たちはホラーを狩る魔戒騎士と魔戒法師だ!!」

 

統夜だけではなく、戒人とアキトもゼクスを睨みつけていた。

 

「貴様が月影統夜と共に戦いし者か。……悪いが、貴様らに用はない。俺は月影統夜を殺せればそれで良いのだからな」

 

「そんなことさせるか!貴様は俺が斬る!」

 

戒人は魔戒剣を構えると、それを前方に突き出し、円を描くと、その円目掛けて走り出した。

 

そのことで、戒人は再びガイアの鎧を召還し、ゼクスに向かっていった。

 

「……フン、愚か者が……!」

 

ゼクスは笑みを浮かべると、剣を一閃することで放たれる邪気の刃を、戒人目掛けて放った。

 

戒人は堅陣剣で邪気の刃を受け止めようとするが、先ほどの戦いでかなり体力を消耗していた戒人はゼクスの攻撃を受けきることは出来なかった。

 

「がぁっ!!……ぐぅぅ……」

 

ゼクスの一撃で壁に叩きつけられた戒人は、そのまま鎧が解除されてしまい、その場に倒れ込んだ。

 

「戒人!!……貴様ぁ!!」

 

「統夜!無茶だ!」

 

戒人がゼクスに倒されてしまい、その怒りから統夜も鎧を召還してゼクスに向かっていくが、戒人以上に消耗している統夜がゼクスと戦うのは無謀としか言えなかった。

 

アキトは懸命に止めようとするが、統夜はそのままゼクスに向かっていった。

 

「フン……。愚かな……。そのダメージで俺を倒せると思うなよ!」

 

「はぁっ!!」

 

統夜は渾身の力を込めて皇輝剣を一閃するが、その一撃は、ゼクスの盾によって軽々と受け止められてしまった。

 

「自分の状態を鑑みず向かってくるとは、それで成長したつもりか?」

 

「何だと……!?」

 

「貴様など所詮は未熟な小僧。それを俺が証明してやる」

 

ゼクスは盾を押し出して統夜を吹き飛ばすと、烈火炎装を発動し、その体は紫の炎に包まれた。

 

烈火炎装を発動したゼクスは、すかさず紫の炎の刃を、統夜目掛けて放った。

 

統夜はその一撃を皇輝剣で受け止めようとするが、ボロボロの統夜に受け止められる訳もなく、戒人のように壁に叩きつけられてしまった。

 

「ぐぁっ!!」

 

その衝撃で鎧が解除されて、統夜はその場に倒れ込んだ。

 

「くっ……くそっ……まだだ……!」

 

統夜はどうにか起き上がろうとするが、力を完全に使い果たしてしまったため、起き上がることは出来ず、そのまま気を失ってしまった。

 

「統夜!」

 

「ククク……。後は魔戒法師。貴様だけだ……」

 

ゼクスは統夜と戒人を倒して勝ち誇ったかのように、アキトのことを見ていた。

 

「貴様を始末して、月影統夜にトドメを刺してやる!」

 

ゼクスは、この場で憎悪している統夜を始末しようと考えていたのである。

 

(……くそっ!このまま真っ正面から向かってもやられるだけだ。こうなったら……)

 

アキトは、ゼクスとの実力差をすぐさま分析すると、今戦っても全滅するだけと判断していた。

 

そこで、アキトは爆弾のような形をした魔導具を取り出すと、それをゼクス目掛けて投げつけた。

 

「……愚かな。そんなもの!」

 

ゼクスは魔戒剣でアキトの魔導具を切り裂くのだが、その瞬間、大量の煙がゼクスを包み込んでいた。

 

この魔導具はアキトの開発した魔導具であり、煙玉のような効果を持つ魔導具だった。

 

アキトは、ゼクスの視界を遮ることで、この場は退却して体勢を立て直すことにした。

 

ゼクスは煙を払うのだが、その時には既に統夜たちの姿はなかった。

 

「……フン、逃げたか。まぁ、いい。月影統夜に恨みを晴らすために色々と楽しませてもらおうか」

 

ゼクスはこの場で統夜を殺せなかったのは惜しいと思っていたが、それはそれで、統夜への恨みを晴らす良い機会であると考えていた。

 

ゼクスは統夜への恨みを晴らす方法を考えるため、その場から姿を消していた。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「……く、くそ……!さすがに今回はヤバかったな……。さすがは師匠を手こずらせた暗黒騎士だよ……」

 

暗黒騎士ゼクスこと、ディオスの話を、アキトは統夜やレオから聞いていたため、強いということは知っていたが、その実力を身を持って思い知った。

 

現在アキトは、先ほどゼクスと戦った場所から1キロ程離れたところを歩いており、統夜と戒人を運びながら歩いていたため、その足取りはゆっくりだった。

 

「……それにしても参ったな……。この2人をどこで休ませるべきか……」

 

アキトは、気を失っている統夜と戒人をどこで休ませるべきかわからず、ひたすら歩きながら途方に暮れていた。

 

その時であった。

 

「……あれ?アキトさん?」

 

偶然にも家に帰る途中だった唯たちとアキトは遭遇したのであった。

 

唯たちはアキトの姿を見つけると、さらにあることに気付いていた。

 

それは……。

 

「……!?やーくん!!それに、戒人さん!?」

 

「どうしたんですか!?ひどい怪我じゃないですか!」

 

唯たちはボロボロになっている統夜と戒人の姿を見つけると、そんな2人を抱えているアキトに駆け寄っていた。

 

「そんな……統夜先輩……!」

 

ボロボロになった統夜を見て、梓の顔は真っ青になっていた。

 

「心配するな。統夜も戒人も気を失ってるだけだ。命に別状はない」

 

アキトはとりあえず統夜と戒人の無事を伝えると、梓を除く4人は安堵していた。

 

しかし、梓だけはボロボロな統夜を見て泣きそうになっていた。

 

「あずにゃん……」

 

唯はそんな梓の気持ちがわかるため、悲痛な面持ちをしていた。

 

「とりあえずこいつらを休ませたいんだが、お前ら、どこかいいところは知らないか?」

 

アキトは、唯たちに統夜たちを休ませられる場所がないかを聞いていた。

 

「……ちょっと待ってて」

 

紬は携帯を取り出すと、どこかへと電話をかけた。

 

「……あっ、もしもし、斎藤?至急車を出して欲しいの……。場所は……うん……お願いね」

 

紬は琴吹家の執事である斎藤に電話をかけると、車を出すように連絡していた。

 

「少し待っててください。今車が来るので」

 

「あっ、あぁ」

 

アキトは、紬の呼んだ車が来るまで、その場で待つことにした。

 

待つこと数分後、一台のリムジンがアキトたちの前に止まった。

 

「り……リムジン!?」

 

アキトはリムジンの存在を知っていたのだが実物を見るのは初めてで、驚きを隠せなかった。

 

アキトが驚きながらも、リムジンの運転席から琴吹家の執事である斎藤が出てきた。

 

「お嬢様。お待たせいたしました」

 

「お……お嬢様?」

 

アキトはなんのことやらわけがわからずポカーンとしていた。

 

「斎藤、この2人、怪我をしているの」

 

「かしこまりました。ただちに車に乗せましょう」

 

アキトたちは、斎藤に手伝ってもらい、統夜と戒人をリムジンの中に乗せ、唯たちもリムジンに乗り込むのだが……。

 

「……」

 

初めて乗るリムジンに緊張しているのか、アキトはなかなかリムジンに乗ろうとはしなかった。

 

「?アキトさん、どうしたの?」

 

「い、いや、何でもない!」

 

「どうぞ、お乗りくださいませ。アキト様」

 

斎藤はアキトのことも知っているのか、このようにアキトを促していた。

 

「は、はい!」

 

アキトはリムジンに乗り込むと、斎藤はドアを閉め、運転席に乗り込んだ。

 

「紬お嬢様。琴吹総合病院でよろしいのですね?」

 

「えぇ。お願いね」

 

「かしこまりました」

 

斎藤はリムジンを走らせると、琴吹総合病院へと向かっていった。

 

そんな中、リムジンを見つめる黒い影があった。

 

「……ククク……。月影統夜……。お前は簡単には殺さんぞ。貴様を徹底的に痛ぶってから殺してやる。そのために、あいつらも利用させてもらおうか……!」

 

その影とは、先ほどまで統夜たちと戦っていた暗黒騎士ゼクスであり、ゼクスはリムジンが走り去った後もその方角を見つめていた。

 

そして、統夜を葬る計画を実行するために動き始めた。

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『まさかあの男が蘇るとはな……。しかも、あんな姑息な手を使ってくるとは……。次回、「情愛」。おい、統夜!しっかりしろ!!』

 




蘇ったのは何とディオスこと暗黒騎士ゼクスで、さらに融合巨大ホラーを従えての登場でした。

そして、今回は初めて戒人の魔導馬が登場しました。

ガイアの魔導馬は「天陣」と出ていましたが、「牙狼 DIVINE FLAME」に登場したアルフォンソの魔導馬が「テンジン」という名前らしいので、この名前にしました。

ですが、漢字は僕のイメージで考えたため、そこはご了承下さい。

融合巨大ホラーは「牙狼」一期で鋼牙と零が2人がかりでも敵わなかったホラーですが、助太刀に来たアキトの協力もあって、どうにか倒すことが出来ました。

さて、次回はディオスとの決着と共にヒロインがどうなるかが確定します。

フラグは散りばめたので、もうお察しかもしれませんが(笑)

さらに、次回予告でイルバが不穏なことを言っていましたが、統夜はいったいどうなってしまうのか?

それでは、次回をお楽しみに!


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