そして、ハッピーハロウィン!!
とは言っても仮装はしないし、どこか出かける予定もありませんが(笑)
それはともかく、今回は卒業アルバムに載せる個人写真の撮影を行います。
今回、意外な人物が出てくるかも?
それでは、第95話をどうぞ!
統夜にとって最後の学園祭が終わってから2日が経った。
本来この日は登校日なのだが、統夜は学校を休み、騎士の使命を果たしていた。
学園祭期間中は劇の準備やライブの準備に追われていたため、エレメントの浄化などの仕事を戒人1人に押し付けてしまう結果になってしまった。
そのため、学園祭終了後、統夜は魔戒騎士の仕事を最優先で行うことにした。
振り替え休日は戒人を休ませるために丸々1日騎士の務めに使っていた。
この日も学校を休んでまでエレメントの浄化を行うのは、今日も戒人に休んでもらうためである。
「……はぁっ!」
統夜は現在、とあるオブジェの前に来ており、そこから飛び出してきた邪気を、魔戒剣で一閃していた。
飛び出してきた邪気が消滅するのを確認すると、統夜は魔戒剣を青い鞘に納めた。
「よし……。イルバ、浄化しなきゃいけないオブジェはどれくらいある?」
『お前さん1人でこなすというのなら5つ以上は残ってるぜ!』
「そんなに残ってるのか……。だとしたらやっぱり今日は学校に行けないな」
統夜は携帯を取り出して時刻を確認すると、間もなく4時間目の授業が終わるといったところであり、この日のノルマを達成してから学校へ行ったとしても、その時には放課後になっていると予想された。
「ま、学祭期間中は戒人に頑張ってもらったし、今日1日は頑張らないとな」
統夜は戒人のおかげで学祭の準備に専念出来たため、振替休日だった昨日と今日はいつも以上に頑張ろうと思っていた。
『さて、統夜。もうすぐ昼の時間だが、これからどうするんだ?』
「とりあえず、ハンバーガーでも食って、すぐ仕事を再開しようかな」
『ま、ちょっとくらいならゆっくりしても良いとは思うが、いいんじゃないのか?』
今日の昼食のメニューが決まり、統夜はいつものファストフード店に向かうため歩き始めた。
歩き始めてしばらくすると、統夜の目にケバブの移動販売車が目に止まっていた。
そこはどうやら営業しているようで、何人かのお客さんで賑わっていた。
『……?どうした、統夜?』
「いや、ケバブの移動販売車とか珍しいなって思ってさ……」
統夜は時々家でテレビを見たりするので、ケバブという食べ物の存在のことは知っていた。
しかし、そのケバブを販売している店は初めてであり、統夜はマジマジとケバブの移動販売車を見つめていた。
すると……。
「……あれ?統夜?」
ここでバイトをしていると思われるヒカリが統夜の姿を発見したのだが、こんな時間にいるとは思っておらず、驚いていた。
「おーい!統夜ぁ!!」
とりあえず声をかけてみようとのことで、ヒカリは統夜に声をかけていた。
「お、ヒカリさん。ここでもバイトしてたのか」
統夜はヒカリがいることに驚きながら、ヒカリがいるケバブの移動販売車まで移動した。
「……ちょっと、統夜。あんた今の時間は学校でしょ?サボったの?」
「そうじゃないって。今日はやるべき仕事があるから学校を休んでそっちを優先してるって訳」
ヒカリはやるべき仕事というのは魔戒騎士に関するものであることを察していた。
しかし……。
「……世間一般ではそれをサボりと言うのよ」
魔戒騎士的にはそうじゃないにしても、世間的にはサボりだったため、ヒカリはジト目で説明をしていた。
「うぐっ……!確かに……」
ヒカリの正論に統夜は反論することは出来なかった。
「おうおう、兄ちゃん。サボりかい?感心しねぇなぁ」
統夜とヒカリの話を聞いていた50代後半くらいの男性が話に入ってきた。
「あっ、マスター」
この男性がこの移動販売車の持ち主であり、この店の責任者であった。
「おう、ヒカリちゃん。この兄ちゃんは知り合いかい?もしかして、彼氏なのかぁ?」
男性はニヤニヤしながら統夜との関係を勘ぐっていた。
「ち、違いますよ!この子は私の弟みたいなものです!それに、彼氏だったらちゃんといますから!」
「え!?そうなのか?まさか……」
統夜はヒカリの彼氏という存在に心当たりがあった。
「……うん、幸太さんよ。最近付き合い始めたのよ」
ヒカリは頰を赤らめて恥ずかしがりながら近況を報告していた。
「いつの間に……」
統夜はヒカリと幸太は遅かれ早かれそんな関係になるとは思っていたが、既にその関係になっていたことに驚いていた。
「何だ、ヒカリちゃん。彼氏いたのか」
男性もヒカリに彼氏がいるとは知らなかったので、驚いていた。
「まぁ、いいや。兄ちゃん、サボりでも何でもいいが、せっかくだからケバブを食っていきな」
男性はここを通りがかったのは何かの縁と思い、統夜にケバブを勧めていた。
「そうだな。ケバブは食べてみたいって思ってたし、マスターオススメのケバブを2つ下さい。あとコーラも」
ケバブに興味を持っていた統夜は、さりげなく注文していた。
「あいよ!毎度あり!代金は全部で千円にしといてやるよ」
統夜は財布から千円札を取り出すと、それをマスターに渡した。
マスターはその千円札を手に、移動販売車のカウンターにいる女性のもとへ向かった。
「おい、母ちゃん!SケバブとAケバブを頼むよ!」
どうやらここのオススメはSケバブとAケバブというようで、マスターはオーダーを女性に伝えていた。
マスターはこの女性のことを母ちゃんと呼んでおり、この女性はマスターの妻だった。
「……クッパ嫌いでしょ!」
女性はいきなり意味のわからないことを言っていたのだが、どうやらそれは「わかったよ」という意味らしく、ケバブの用意を始めていた。
統夜は近くのテーブルの席に腰を下ろすと、ケバブが出来上がるのを待っていた。
「……そういえば、ここっていつもここでやってるんですか?」
統夜は気になっていた疑問をマスターにぶつけていた。
「いや、昨日ぐらいからここでやってたんだが、今週いっぱいには違う街に行く予定なんだよ」
「そうなのよ。それで、私は今週いっぱいここでアルバイトをしてるって訳」
「本当にヒカリさんはあちこちでバイトしてるんだな」
「まぁね。私は画家になるために頑張ってるからね」
ヒカリは画家になるためにアルバイトを頑張りながら、色々と作品を作っていた。
「ヒカリさん、頑張ってな。俺は応援してるからさ」
「うん、頑張るよ!……そういえば、この前のライブだけど、凄く良かったよ」
「あぁ、ありがとうな」
ヒカリは改めてこの前のライブを賞賛しており、統夜はそれが照れ臭かったのか、簡単な言葉しか返さず、笑っていた。
「なんだ、兄ちゃん。あんたバンドやってんのか?」
「はい。俺は桜ヶ丘高校に通ってて軽音部に入ってるんですよ」
「ほぉ、軽音部か。いいじゃないか。俺も若い時はギターでバリバリ言わせてたんだよ!」
マスターはどうやらギターの経験者であった。
そのままマスターは自分の武勇伝を語ろうとしたのだが……。
「ほら!父ちゃん!」
マスターの妻である女性が、マスターのことを呼んでいた。
どうやら、統夜の注文したケバブが出来上がったようだった。
マスターはカウンターへと移動すると、女性からケバブを受け取り、コーラも用意して、それを統夜のところへと持ってきた。
「はいよ、お待ちどう」
「おぉ!美味そう!」
統夜は始めて生で見るケバブに、目をキラキラと輝かせていた。
「ほら、早く食ってみな。美味いからよ」
「はい、いただきます♪」
統夜はさっそくケバブを一口頬張ってみた。
「……美味い!これ、凄く美味い!」
統夜はケバブの美味しさに魅了されたのか、目をキラキラと輝かせながらケバブをがっついていた。
「そうだろそうだろ?そこまで喜んでくれるとはこっちも嬉しくなるぜ!」
マスターは美味しそうにケバブをがっつく統夜を見ていると嬉しいという気持ちになっていた。
統夜は初めて食べるケバブをじっくりと味わっていた。
今週いっぱいはいると聞いたので、統夜は唯たちを誘ってまた来よう。
そんなことを考えながらケバブを完食し、そのままエレメントの浄化の仕事を再開した。
この日のノルマを達成した時は、既に16時を過ぎていたため、統夜はそのまま番犬所へと向かうことにした。
この日は指令はなかったため、統夜は街の見回りを行ってから家路についた。
※※※
翌日の放課後、統夜たちは音楽準備室で、明日の卒業アルバムに載せる個人写真を撮る練習を行うことにしていた。
統夜自身も卒業アルバムに載せる個人写真を撮ることは当然知っていたのだが、唯が個人写真に強いこだわりを持っているために練習を行うと聞かされた時は驚いていた。
律が自分のデジカメを持参し、2年生である梓がカメラマンを担当することになった。
「……りっちゃんの髪って本当にサラサラねぇ♪」
最初に撮影するのは律のようであり、紬がクシで律の髪をといていた。
「もう、いいよ」
律は紬が髪をときながらスキンシップをしてくるのが恥ずかしいのかくすぐったいのか、このようなことを言っていた。
「ずっと触ってたぁい♪」
「おい、よせって」
紬はさらにスキンシップをしてくるのだが、律はこうは言いながらもまんざらではないようだった。
髪の手入れが終わると、紬は律のカチューシャを取り出し、カチューシャをセットするのだが……。
「えっと、この辺かな?それとも、この辺?」
紬は律のカチューシャをどの高さでセットすればいいのかわからず、悪戦苦闘していた。
しかし……。
「……この辺」
律のことを良く知っている澪は、1回で適切な位置にカチューシャをセットしていた。
その適切さに統夜たちは拍手を送っていた。
「それじゃあ、撮りますよ!」
髪の手入れが終わったところで、梓はデジカメを手にして律の写真撮影を行った。
1枚だけではなく、数枚撮影して律の写真撮影は終わり、次は澪の撮影に移った。
恥ずかしがり屋の澪は、写真を撮られることも苦手なようであり、梓が撮った写真はすべて照れからか目を伏せていた。
続いては紬の番なのだが、紬は最初は普通にしていたものの、撮影寸前に何故かぷくーっと頰を膨らませてその状態で写真は撮影された。
「……何故?」
写真を撮った梓も何故紬がこのような表情をしているのか理解出来ず、唖然としていた。
次は統夜の番となった。
統夜は魔法衣を既に長椅子に置いていたため、そのまま椅子に座り、写真を撮る体勢になったのだが……。
「……梓。写真を撮る人は普通にしてもらえると助かるんだが……」
統夜の写真を撮るということで、緊張してしまった梓の頰は赤くなっており、表情が強張っていた。
「す、すいません。つい……」
統夜に注文されたことでハッとなった梓はそのまま統夜の写真を撮った。
その直後……。
「……律先輩。後でその写真、焼き増ししてくださいね」
「……あぁ、いいぜ。1枚100円な」
「お、お金取るんですか?ま、まぁいいでしょう」
「?お前ら、何話してるんだ?」
梓と律は小声で密談をしており、統夜はその様子を首を傾げながら眺めていた。
(やれやれ……。梓のやつ、ちゃっかりしてやがるぜ……。まぁ、気持ちはわからんでもないがな……)
イルバはちゃっかり統夜の写真をゲットしようとしてるのを見て、苦笑いをしていた。
最後に唯の番となり、唯は椅子に座った。
梓はデジカメを構えて写真を撮ろうとするのだが……。
「……ぷっ!」
普段見せることのない唯の真面目な表情が可笑しかったのか、梓はぷっと吹き出し、笑っていた。
「もぉ!あずにゃん!!」
「す、すいません!」
梓はとりあえず謝ると、気を取り直して写真を撮影した。
その写真は……。
「……あぁ、いいじゃないですか」
「まとも過ぎるくらいまともだ……」
梓は唯の写真を見て無難だという評価をしており、律は唯の写真が予想以上にまともだったことに驚いていた。
「あぁ。これなら何の問題もないとは思わないがな」
統夜も唯の写真を見たのだが、問題のある部分は見当たらなかった。
そのため、この写真は問題なく見えた。
しかし……。
「うーん……」
唯は納得していないのか、渋い表情をしていた。
何故唯がこの写真に納得をしてないかというと……。
「……何か前髪長くない?」
前髪が長いと思っていたからであった。
「え?そうですかね?」
『俺様も問題はないと思うがな』
「うぅん。やっぱりちょーっとだけ長いよ……」
梓とイルバがフォローを入れるのだが、唯はやはり前髪の長さに納得していないようだった。
そのため、唯が取った行動とは……。
「切る!」
前髪を切ると決めた唯は、ハサミを取り出した。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
梓は唯を制止しようとするのだが、唯は「ふんす!」と気合をいれていた。
「切るなら美容院行ってこいよ!」
「美容院だったら前髪だけカットしてくれるだろ?」
澪の言うとおり、素人の唯が自分でやるより、プロである美容師にやってもらう方が無難であった。
「だって、美容院だと短過ぎるんだもん!切ってから1週間くらいしたらちょうど良くなるんだけどね。明日までに伸びないし……」
「だったらムギに切ってもらえ!」
「え!?私、そんな重要な役出来るかなぁ……」
「それか、統夜に切ってもらえ!統夜、得意だろ?」
「……俺が切るのはホラーだけだ。だから専門外に決まってんだろ……」
「大丈夫だよ!時々自分でやってるもん!」
統夜が魔戒騎士として切るのはホラーだけであり、人の前髪をカットするなどやったこともなかった。
統夜はジト目になっていたのだが、そうしているうちにも唯は机にティッシュを置き、その上で前髪を切り始めた。
統夜たちは息を呑んで唯のことを見守っていた。
唯は少しだけ前髪を切ると、髪を整えていた。
「……どう?」
「あぁ、いいじゃない?」
「それで行け!それで!」
これ以上ハラハラしたくないため、律はこれで唯を納得させたかったのだが……。
「うーん……」
唯は鏡を見て髪の長さをチェックしたのだが、前髪を少しだけ切ったにも関わらず、まだ納得していなかった。
「「……え!?」」
「「ちょ!?」」
「『もうやめておけ!』」
律、澪、紬、梓の4人は未だ前髪の長さに納得していない唯に驚いており、統夜とイルバはどうにか止めようとしていた。
しかし、そんなことなど気にすることなく、唯は再び前髪を切り始めた。
統夜たちは先ほどよりもハラハラしており、不安そうな表情で唯の様子を見ていた。
唯は前髪を切ろうとするのだが、こんな時に限って鼻がムズムズしてしまった。
そして……。
「ふぇ……ふぇっくし!!」
唯はくしゃみをした勢いのまま、前髪を切ってしまったのだが、その量はかなりのものであった。
「「「「「『あ……あぁ……』」」」」」
取り返しのつかない状態になってしまい、統夜たちは絶句していたのだが、唯はとんでもないことになっていることにまだ気付いていなかった。
しかし、唯は鏡を見たのだが、前髪が眉毛の位置より短くなっていることにここでようやく気付いた。
唯は鏡に映る自分を見て、しばらく固まっていた。
「き……切りすぎました……。ど、どう……かな……」
唯はようやく口を開いたのだが、事の重大さに口は震えていた。
さらに、顔は冷や汗でびっしょりになっていた。
「う、うん!」
「すっごく似合ってるよ!」
「むちゃくちゃ可愛いぞ!」
「はい!若返ったっていうか……」
澪、紬、律、梓の4人は必死に言葉を紡いで唯をフォローしようとしていた。
しかし……。
「……子供っぽいってこと……かな?」
「くはぁ!」
唯は若返ったという言葉を悲観的に子供っぽいと捉えてしまい、唯のフォローに失敗した梓はその場でダウンしてしまった。
「あぁ!でもさ、そこまで切ったなぁって感じじゃ……」
「果たしてそうでしょうか……」
「あぁ!」
澪も唯のフォローに失敗してしまい、その場にダウンしてしまった。
「あ……。あの……何て言うか……」
統夜もまた、必死に唯をフォローする言葉を考えていたのだが……。
『まぁ、確かに子供っぽいが、それはそれでいいんじゃないのか?』
「おい!イルバ!」
イルバは唯をフォローしようなどとは思っておらず、思ったことをハッキリと言っていたため、統夜はイルバをたしなめた。
しかし、それは手遅れであり、唯はそのハッキリとしたセリフを聞いて……。
「あぅぅ……。卒アルなのに……。グス……ヒック……。一生残る写真なのに……」
唯のショックは計り知れないもので、その場で号泣していた。
「……誤魔化せ!これで誤魔化せ!」
律は自分のカチューシャを外して、それでどうにか誤魔化そうと唯に手渡そうとした。
「いや、おでこだけは勘弁していただきたい」
唯はおでこを出すのが嫌だったのか、カチューシャに拒否反応を示していた。
「くぅぅ……!すまなかった!」
律はガックリと肩を落としながら何もしてやれないことを詫びていた。
「……ちょっと横に流したらいい感じになるんじゃない?」
紬は唯の前髪をハッキリと見るのだが、誤魔化す余地がありそうだと判断し、短くなった前髪を横に流していた。
「……ほら、これでいい感じよ」
紬は唯に鏡を見せるのだが、唯は不安そうな表情をしていた。
「……どう?」
「うん!いい、いい!」
「あぁ、悪くないよ」
「可愛くなった!」
「はい!」
律、統夜、澪、梓の4人はこう言っていたのだが、4人は心の底からこう思っていた。
「……ほんと?」
「はい!何か垢抜けた気がしますよ!」
梓はさらにダメ押しで思ったことを唯に伝えていた。
「エヘヘ……。そうかなぁ……」
唯は照れ隠しに笑っていた。
統夜たちはこのままティータイムを行うことにした。
この日のおやつは唯の大好きなモンブランであった。
「……おいひい♪」
大好きなモンブランを頬張り、幸せそうな表情をしていた。
統夜たちは幸せそうにモンブランを頬張る唯を見て、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。
すると、律は自分のモンブランの栗を、唯に譲っていた。
「え?りっちゃん、いいの?」
「いいよ」
「わぁぁ……♪」
唯は栗を譲ってもらい、ぱぁっと表情が明るくなった。
すると、澪と紬も自分の栗を唯に譲っていた。
「ん?……うぉぉ!」
唯は自分のところに栗がさらに増えたことに驚いていた。
「もぉ、甘やかし過ぎじゃないですか?」
「まったくだ」
梓と統夜はこう言いながらも自分の栗を唯に譲っていた。
「おぉ!!」
唯は全員から栗をもらい、さらに表情が明るくなっていた。
「みんな……♪ありがとぉ♪」
唯は栗を譲ってくれたことにお礼を言っており、統夜たちは笑みを浮かべていた。
《やれやれ……。みんな揃って甘やかし過ぎだろ》
(まぁまぁ、今日くらいは許してやれよ)
イルバは全員が唯に栗を譲ったことに呆れていたが、統夜はこう言ってイルバをたしなめていた。
この日はティータイムのみで練習は一切行われなかった。
部活が終わって解散すると、統夜はこの日も番犬所へと向かった。
しかし、この日も指令はなかったため、街の見回りを行ってから家路についた。
※※※
翌日、この日は卒業アルバム用の個人写真を撮る日だった。
唯は短い前髪のショックから未だに抜け出せずにいた。
唯は登校してからというものの、ずっと布で頭を隠していた。
しかし、それを見かねた紬がそんなことをしているとおやつを抜きにすると言うと、唯はあっさりと布を外した。
こうして、個人写真撮影の時間が来た。
澪の出番が近付いてきており、紬は澪の髪をくしでといていた。
すると……。
「秋山さん」
「は、はい!」
「怖くないからね♪」
「よし、行ってこい!」
澪が呼ばれ、澪は緊張しながらも写真を撮る場所へと移動した。
澪は写真を撮る場所へ移動し、椅子に座ろうとしたその時だった。
「みおちゃーん!!」
「頑張って!リラックスリラックス!」
唯と紬が大きな声で声援を送っており、それを聞いていたクラスメイトたちはクスクスと笑っていた。
(……かえって恥ずかしいんだけど……)
声援を送られたのは逆効果だったようで、澪は恥ずかしさのあまり頰を赤らめていた。
「……1回深呼吸だ!」
そんな中、律は澪にリラックスしてもらうために深呼吸をするようアドバイスをした、
律のアドバイス通り1度深呼吸したことで落ち着いた澪は、どうにか無事に写真撮影は終わった。
その後も写真撮影は続いていき、紬、律、統夜の3人の撮影は終わった。
「あぁ!次私だ!」
次は唯の出番であり、唯は慌ててリップクリームを塗っていた。
そして律と紬が制服のリボンや髪などの身だしなみを直していた。
「……行ってくるね!」
唯は覚悟を決めて写真撮影を行う場所へ移動してそこの椅子に座るのだが、座ってからも短くなってしまった前髪を左右に分けていた。
どうにか準備が終わったかと思えば、ピースをしてふざけていたところをさわ子に注意されていた。
それからはどうにか無事に写真撮影を終えることが出来て、唯は統夜たちのところへ戻ってきた。
「……あぁ、秋山さん」
「は、はい」
「後で職員室にいらっしゃい」
「はっ、はい」
澪はさわ子に呼び出しをされたので、休み時間に職員室へと行くことになってしまった。
そして休み時間になると、澪はまっすぐ職員室へ向かい、さわ子と話をしていた。
統夜たちは、職員室の入り口で澪が戻ってくるのを待っていた。
「……失礼しました」
統夜たちが待つこと数分後、澪は職員室から出てきた。
「……みおちゃん。呼び出しっていったいなんだったの?」
「……」
澪は浮かない表情のまま口をつぐんでいた。
「……もしかして、推薦入試断ったとか?」
「「「えっ!?」」」
「う、うん……」
澪が推薦入試を断ったことを知った統夜、唯、紬の3人は驚きを隠せなかった。
澪はかねてから推薦入試を目指しており、今の澪の成績なら問題ないとさわ子から太鼓判をもらったばかりであった。
「……だけど、何でそれを?」
律が推薦入試を断ったということを言い当てたことに澪は驚きを隠せなかった。
「やっぱりなぁ。推薦の書類忘れるなんて、澪らしくないなって思ってさ」
「でも、何で断ったの?」
「澪の成績だったら推薦も問題ないんだろ?もったいなくないか?」
「……」
推薦入試というのはそもそも成績が良くないと厳しいものであり、それを断るというのはもったいない話だった。
澪は推薦を断った理由をなかなか語ろうとはしなかった。
しばらく黙った後、澪は覚悟を決めて語り始めた。
「……あのさ……」
「「「「ん?」」」」
「……私も、みんなと一緒に勉強して、出来たら……出来たらだけど、私も、一緒の大学に行けたらなって。統夜は魔戒騎士の仕事があるから無理なのは仕方ないけど……」
「一緒の大学って……。唯、律、お前ら、まさか……」
統夜は澪の気持ちに驚いていたが、それ以上に唯と律の2人がどこの大学に行こうとしてるのかを察して驚いていた。
「……うん、私たち、ムギちゃんと同じ女子大に行きたいって思ってるの」
「……やっぱりそういうことか……」
統夜が察した通り、唯と律は紬が狙っている女子大を目指すことを決めていた。
『……おいおい、そこの大学はレベルが高いんだろう?大丈夫なのか?』
イルバは、唯と律の2人がその女子大を受けることは無謀と思っていたので、心配していた。
「うん!確かに無謀かなとは思うけど……」
「あたしたちは自分の意思でそこの大学へ行きたいと思ったんだよ」
唯と律の意思は固く、生半可な気持ちで言っているわけではなかった。
「……そっか……。大変かもしれないけど、頑張れよ」
唯や律だけではなく、澪の気持ちも汲み取った統夜は、笑みを浮かべながら4人を応援していた。
「うん!」
「ありがとな、統夜!」
「俺はみんな揃って同じ大学に受かるよう応援するよ」
4人の行きたい大学が同じだと知り、統夜は安堵していた。
本当に4人揃って合格すれば、大学を卒業するまでは4人がバラバラになることはないと思ったからである。
自分は魔戒騎士の仕事をしながらでも4人に会おうと思えば会えるため、卒業して離ればなれになることはないと考えていたため、統夜は安堵していたのである。
「うん!統夜君、ありがとう!」
「やーくんも同じ大学に行けたらもっと最高なんだけどね」
「おいおい……。俺は男だぞ?それに、俺は魔戒騎士の仕事があるからな」
統夜は唯の希望を聞くと、苦笑いをしていたが、それが冗談だということも察していた。
「そういえばさ、統夜は高校卒業しても桜ヶ丘からは離れないのか?」
「そのつもりかな。まぁ、異動の命令があればわからないけどな」
『ま、イレスがお前さんを手放そうとはしないだろうし、大丈夫だろう。それに、お前さんは元老院行きの話を断ってるしな』
統夜は澪からの質問に答え、イルバが補足説明を行っていた。
「元老院って確か……。番犬所の上の機関……だったわよね?」
「お前、それを断ったのか?それこそもったいない気がするけど」
「アハハ、よく言われるよ。だけどさ、俺はこの街が大好きなんだ。だから、この街を守りたい。それに、俺は大好きな街を守ってる方が性に合ってるしな」
統夜はイレスから元老院行きの話を勧められた時も、そのような理由で断っており、今もその考えは変わっていなかった。
「そっか……。やーくんも頑張ってね!」
「おう。俺はずっと続けるつもりだぜ。魔戒騎士として、多くの人を守っていくってことをな」
統夜の魔戒騎士としての生活はむしろこれからが始まりであり、守りし者という終わることのないレールの上を走り続ける覚悟だった。
こうして、卒業アルバム用の個人写真の撮影が終わっただけではなく、唯たち4人が同じ大学を目指すことになった。
※※※
そして翌日……。
「「「……さわ子先生!」」」
とある休み時間に唯、律、澪の3人は職員室を訪れていた。
「あら、どうしたの?3人揃って」
「進路希望用紙、出しに来ました!」
唯、律、澪の3人は同時に進路希望用紙をさわ子に差し出した。
さわ子は3人から受け取った進路希望用紙をチェックしており、3人はその様子を不安げに眺めていた。
チェックを終えたさわ子は、穏やかな表情で笑みを浮かべていた。
「……はい、受け取りました」
3人の希望は無事に通り、進路希望用紙は受理された。
「やったぁ!」
唯たちは進路希望用紙が受理されたことに安堵していた。
「頑張ってね。4人揃って一緒の女子大に行けるといいわね」
「「「はい!」」」
唯たちはこのように返事していた。
統夜と紬は職員室の入り口でその様子を見守っており、進路希望用紙が受理されると、2人揃って笑みを浮かべていた。
「……やったね、統夜君♪」
「あぁ、良かったな、ムギ」
統夜と紬はハイタッチを行い、その後紬はその場でステップを踏んで喜びを表情していた。
(……みんな、頑張れよ。俺は4人揃って同じ大学に行けることを祈ってるからな……!)
統夜は口には出さないものの、唯たちが4人揃って合格することを心の底から祈っていた。
こうして唯たちの進路は決まり、ここから先は受験に向けての勉強が本格的に始まるのであった。
……続く。
__次回予告__
『ようやく唯たちの進路が決まったのはいいが、厄介な奴が蘇りやがったぜ!次回、「怨念」。黒き怨念が牙をむく!』
今回登場したマスターと女性は、この世界のDリンゴとユキヒメになります。
この世界の2人は魔戒法師とかではなく、ただケバブを売って全国を回る2人という設定にさせてもらいました。
そして、個人写真の練習として撮った統夜の写真を焼き増しするよう頼む梓のちゃっかりさ(笑)
そして、唯の前髪がぱっつんになっても容赦のないイルバ(笑)
何だかんだあって無事に個人写真の撮影が終わりました。
そして、唯たち4人は同じ大学を目指すことを決意。統夜もそんな4人のことを応援することを決めました。
そんな中、次回はとある相手が復活し、統夜の目の前に立ちはだかります。
それは、一体何者なのか?そして、統夜の運命は?
次回から2話かけてヒロイン発表となると思いますので、次回をお楽しみに!