牙狼×けいおん 白銀の刃   作:ナック・G

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お待たせしました!第92話になります!

昨日のうちに出来ていて投稿もしようと思えば出来たのですが、色々と直しをしていたら今日になってしまいました。

しばらくは3日おきに投稿となるかなと思っています。ストックがたまって戻せそうなら2日おきに戻そうとは考えています。

今回はいよいよ学園祭が始まります。

統夜たち3年2組の劇はいったいどのような劇になるのか?

それでは、第92話をどうぞ!




第92話 「伝説」

学園祭まで日が迫っており、統夜たちは劇の稽古に追われていた。

 

統夜は学園祭の準備が忙しいことをイレスに報告した。

 

それを了承したイレスは、ホラー討伐の指令は極力戒人に回すよう手配することになった。

 

その事を戒人も了承しており、戒人は統夜が学園祭の準備に専念できるようにサポートをするつもりでいた。

 

そんな中、統夜はイレスや戒人だけではなく、レオやアキトなどにも連絡を取り、自分たちが行う劇をぜひ見て欲しいとお願いしていた。

 

こうして、統夜たちは学園祭へ向けて準備を順調に行っていた。

 

しかし、劇の準備が忙しいせいか、全員揃っての練習はあまり行えず、梓はそこに不安を募らせていた。

 

学園祭まで数日と迫ったある日、統夜はこの日も殺陣の稽古を行っていた。

 

この日は講堂のステージを借りて、実際に動きを確かめるリハーサルのような練習だった。

 

「さあ!統夜!思い切り行くよ!!」

 

「そうだよ!講堂使えるのは今日だけなんだから!」

 

素体ホラーこと怪物役であるバスケ部の中島信代と、バレー部の佐伯三花は、この日しかない講堂での練習に気合をいれていた。

 

「アハハ……。そうだな。今日で一通りの動きをマスターしないとな!」

 

統夜は実際の小道具を使っての練習となり、牙狼剣に酷似した剣を構えていた。

 

「それじゃあ!まずは動きの練習から始めます!!」

 

講堂の1番前の席に座っている紬がこのように宣言すると、ステージに立つ全員が無言で頷いた。

 

「それでは!よーい……始め!」

 

紬の宣言で練習は始まった。

 

まず最初に行ったのは、殺陣のシーンの練習からだった。

 

素体ホラーこと怪物役の4名は、元々運動部にいたからか、統夜の指導でメキメキと動きが上達し、アクション俳優顔負けの動きをしていた。

 

それに合わせて統夜は剣を振るったり回し蹴りの仕草をしたりと台本に書かれている動きを難なくこなしていた。

 

そして、怪物役の4名はアクション俳優のようにクルクルと回転しながら転倒したりもするのだが、受け身の練習をしっかりと行っていたからか、怪我もなく順調に進んでいった。

 

最後は統夜が剣を一閃し、4人が倒れたところでこのメンバーでの殺陣のシーンは終了だった。

 

「はい、OKです!」

 

統夜を含めた5人の動きがかなり良かったからか、それを見ていたクラスメイトたちから大きな拍手が送られた。

 

「……よし、いい感じだな。これなら本番も大丈夫そうじゃないか」

 

「そうだね。統夜の指導が良かったからかな?」

 

「うんうん、私もそう思ったよ。それにしても統夜君って運動神経がいいから軽音部なのがもったいないなぁ。ぜひバレー部に入って欲しかったよ」

 

「何言ってるのさ!ここはバスケ部でしょう!」

 

素体ホラーこと怪物役を引き受けた4人は統夜と殺陣の稽古を重ねていくうちに、統夜の運動神経の良さを実感していた。

 

そのため、三花と信代はそれぞれ自分の部に統夜をスカウトしようとしていたのである。

 

「アハハ……。気持ちは嬉しいけど、俺は軽音部だから……」

 

「そうよ!統夜君は軽音部の大切な部員なんだから」

 

紬は三花と信代のスカウトをやめさせるため、少し強めな口調で言っていた。

 

「まぁ、そうだよね」

 

「でも残念だなぁ」

 

信代と三花は諦めたのだが、落胆の色は隠せなかった。

 

「さぁ、時間もないし、練習しましょう。次は統夜君と澪のセリフ合わせかしら?」

 

今回みんなを取り仕切る1人である和が、このように次の練習の指示を出していた。

 

素体ホラーこと怪物役の4人は1度ステージから離れ、澪がステージに上がり、2人でセリフの通し練習を行った。

 

澪は恥ずかしがることはなく、最後までしっかりと演技をやり切っていた。

 

それに応えるように統夜もセリフ1つ1つを確かめるように正確な芝居をしていた。

 

それを見ていたクラスメイトたちから大きな拍手が起こっていた。

 

最初こそは不安だったが、ここまでの出来になるとは思ってもいなかったからである。

 

続いて統夜1人でのアクションの練習が行われ、最後に木の役の人間の立ち位置を確認して講堂での練習は終了した。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

……場所は変わって東京、秋葉原。

 

この日も魔戒騎士として務めを果たしていた如月奏夜は、街の見回りを行う前にエネルギーを補充するため、近所にある和菓子屋「穂むら」へ向かった。

 

「……あら、奏夜君、いらっしゃい」

 

奏夜が店内に入ると、30代か40代くらいの女性が接客しており、奏夜を出迎えていた。

 

「あぁ、どうも」

 

この女性は奏夜の友人であり、この家に住んでいる高坂穂乃果の母親であり、奏夜は穂乃果の母親に軽く挨拶をしていた。

 

「穂乃果なら2階にいるわよ。良かったら上がってうちの新作メニューを食べて行ってちょうだい。海未ちゃんとことりちゃんも来てるわよ」

 

「じゃ、じゃあ、お邪魔します……」

 

ただで新作のお菓子を食べられるならと考えた奏夜は、お言葉に甘えて上がらせてもらうことにした。

 

店の奥から家の中に入った奏夜は、そのまま階段を上り、2階にある穂乃果の部屋に直行した。

 

奏夜はコンコンとノックをすると、「はーい!どうぞ!」と穂乃果の声が聞こえてきたので、奏夜は穂乃果の部屋の中に入った。

 

「……よう、みんな」

 

「あ、そーくんだ!どうしたの?」

 

「いや、いつもみたいにここへ寄ったら穂乃果のお母さんが上がってって言ってくれてな」

 

「そうそう!今ね、穂むらの新作のお菓子を海未ちゃんとことりちゃんと一緒に試食してたんだよ」

 

「うん♪すごくおいしかったよ♪」

 

「奏夜も良ければいかがですか?」

 

「あぁ、いただこうかな」

 

奏夜は空いたスペースに腰掛けると、穂乃果が大福を差し出してきたので、奏夜はそれを頬張った。

 

「……ん!美味い!やっぱり穂むらの和菓子は最高だな!」

 

「エヘヘ……。そう言ってくれると嬉しいな♪」

 

奏夜が穂むらの和菓子を絶賛していたのが嬉しかったのか、穂乃果は満面の笑みを浮かべていた。

 

「……あっ、そうそう!そーくん、今度の土日って暇?」

 

「え?まぁ、暇っちゃ暇だけど……」

 

奏夜は魔戒騎士の使命以外は特に予定がなかったので、こう答えていた。

 

「今度の土日って、統夜さんの学校の学園祭なんだって。もし良かったら一緒に行かない?」

 

「え?そうなのか?そういうことなら俺も行きたいかな」

 

「本当!?それじゃあ、決まりだね」

 

奏夜も共に行くと宣言し、学園祭に行くという話は確定したのだが……。

 

「穂乃果。学園祭は2日とも行くのですか?」

 

「そうだよ。土曜日は統夜さんが劇の主役をやるみたいだから見てみたいし、日曜日は軽音部のライブを見たいし!」

 

穂乃果は統夜からメールで学園祭の予定を聞いていたため、土曜日と日曜日の両方見たいと思っていた。

 

「ということは、2日とも秋葉原と桜ヶ丘を往復するということですよね?」

 

「んー、そうだねぇ。どこか泊まれればいいけどアテがないからねぇ」

 

「そうですよね……」

 

「……まぁ、2日も往復するのは大変だけど、こんな機会も滅多にないしな」

 

「うん、そうだね!そーくんの言う通りだよ!」

 

「確かに……そうですね……」

 

奏夜の滅多にないという言葉に、ことりと海未は賛同していた。

 

「いやぁ、統夜さんや皆さんの晴れ舞台……楽しみだなぁ♪」

 

「うん♪私も楽しみ♪」

 

「はい!私もです!」

 

「俺も楽しみだよ」

 

奏夜たちは、学園祭での統夜たちの舞台を心待ちにしていた。

 

奏夜は穂むら新作の和菓子を食べながらしばらくのんびりしていたのだが、その後は穂むらを後にして、街の見回りを行っていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

そして、学園祭当日を迎えた。

 

毎年桜ヶ丘高校の学園祭は模擬店が多数出店されているからか、大いな賑わいを見せていた。

 

統夜たちの劇はこの日の午後から行われることになっており、軽音部のライブは翌日の昼からになっていた。

 

統夜たち3年2組は、午後から行われる劇の準備に追われていた。

 

そんな中……。

 

「へぇ、かなり賑わっているねぇ」

 

秋葉原から桜ヶ丘までやってきた奏夜たちであったが、穂乃果は周囲をキョロキョロと見回しながら賑わいぶりを確かめていた。

 

「そうだねぇ♪模擬店もいっぱいだし♪」

 

「えぇ♪今から回るのが楽しみです♪」

 

ことりと海未も目をキラキラとさせながら周囲を見回していた。

 

すると……。

 

「……おっ、奏夜じゃないか」

 

奏夜は声をかけられたのでその方を振り向くと、声をかけてきたのは黒いコートの青年だった。

 

「!れ、零さん。お久しぶりです!」

 

その人物は銀牙騎士絶狼の称号を持つ涼邑零で、奏夜とはサバック以来の再会だった。

 

「元気そうだな。わざわざ桜ヶ丘に来たってことは統夜たちを見に来たのか?」

 

「はい!零さんもですか?」

 

「まぁな。それに、ここの出店はどこも美味しくてな。それを楽しみに来たんだよ♪」

 

零は去年の学園祭でも模擬店を堪能していたのだが、今年も同様に模擬店を楽しみにしていた。

 

「それよりも……」

 

零は声をかけた時から同行している穂乃果たちが気になっていた。

 

「この子たちは奏夜の彼女か?3人とも可愛いじゃないか♪」

 

「ちょ!?そ、そんなんじゃないですって!」

 

奏夜は零の問いかけを顔を真っ赤にしながら否定しており、穂乃果たちも可愛いと言われたのが恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしていた。

 

そんな奏夜たちの初々しい反応に零は笑みを浮かべていた。

 

「あっ、そうそう。2年生の教室で喫茶店をやってたぜ。梓ちゃんのクラスな」

 

「え、そうなんですか!?」

 

「梓さん?」

 

零の言葉に穂乃果は反応し、梓と会ったことのない奏夜は首を傾げていた。

 

「ま、思い切り楽しんでな。それじゃあ、またな」

 

零は話し込んで邪魔をするのも悪いと思い、そのまま模擬店の方へと消えていった。

 

「奏夜、今の人は知り合いですか?」

 

「あぁ。知り合いだよ」

 

「へぇ、そうなんだ♪」

 

「ねぇねぇ、さっきの人が言ってた梓さんの喫茶店に行ってみようよ!」

 

「そうですね。梓さんにも挨拶をしたいですし」

 

「行きましょ行きましょ♪」

 

とりあえず次にどこへ行くのかは決まったのだが……。

 

「なぁ、梓さんって誰なんだ?」

 

「あれ?そーくんって梓さんに会ったことないんだね」

 

「梓さんは、統夜さんの後輩で、統夜さんと同じ軽音部に入っているんです」

 

「なるほど」

 

奏夜は海未の簡潔な説明で納得していた。

 

「ほらほら、まずはそこに行こうよ!」

 

「えぇ!」

 

「うん♪」

 

「そうだな」

 

こうして、奏夜たちは梓のいる教室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、梓は統夜たちの様子を見に統夜たちのクラスを覗いていたのだが、あまりに忙しそうだったので、声をかけずに自分のクラスへ戻っていった。

 

「……あ、梓ちゃん。おかえり。お姉ちゃんたちどうだった?」

 

「うん。何か忙しそうだったから声かけてこなかった」

 

「お姉ちゃんたちの劇、お昼からだもんね。楽しみだなぁ♪」

 

梓と憂は昼から行われる統夜たちの劇を見たいがために午前中いっぱいは自分のクラスの出し物に専念することになっていた。

 

すると……。

 

「あ、梓さーん!!」

 

穂乃果が梓の姿を発見し、ブンブンと手を振っていた。

 

「あ、穂乃果ちゃん!それに海未ちゃんとことりちゃんも」

 

梓は穂乃果、海未、ことりのことはすぐにわかったのだが、奏夜のことはわからず、首を傾げていた。

 

だが……。

 

「君が奏夜君……だよね?」

 

「え!?何で俺の名前を?」

 

「統夜先輩と似たような格好をしてたからわかったんだ。奏夜君のことは統夜先輩から聞いてたから」

 

「そうだったんですか……」

 

梓は統夜の後輩であるため、奏夜の話を聞いていても不思議ではないと奏夜は感じていた。

 

「こんにちは、平沢憂です。あなたたちのことはお姉ちゃんから聞いてるよ♪」

 

穂乃果たちと初めて会う憂は、このように自己紹介をしていた。

 

「もしかして、あなたは唯さんの……」

 

「うん、妹だよ♪」

 

穂乃果たちは唯に妹がいるという話は聞いていたため、名前を聞いた時点で何となく察しがついていた。

 

しかし、奏夜は唯たちに会ったことがないため、首を傾げていた。

 

「まぁ、立ち話もあれだから中に入って入って♪」

 

「「「「お邪魔しまーす!!」」」」

 

奏夜たちは、梓と憂の案内で、教室内の喫茶店に入り、この店で提供している食べ物や飲み物を堪能していた。

 

 

 

 

 

そしてその頃……。

 

「……へぇ、これが学園祭ってやつか。師匠から話は聞いてたけど、ずいぶんと賑わってるな」

 

物珍しそうに周囲を見回しながら歩いているのは、レオの1番弟子である魔戒法師のアキトだった。

 

学園祭のことはレオから聞いていたものの、実際に見るのは初めてだったので、賑わう景色1つ1つを楽しんでいた。

 

「……食い物はどれもこれも美味そうだしな。どれから喰おうかな♪」

 

模擬店へ向かい、色々と物色しようと考えていたその時だった。

 

「……あっ、アキト!こっちです!」

 

アキトの師匠である布道レオがアキトの姿を発見して呼んでいたので、アキトはレオのもとへ駆け寄った。

 

「師匠も学園祭を見に来たのか?」

 

「えぇ。そんなところです。後で鋼牙さんとカオルさんも来るみたいですよ」

 

「へぇ、そうなのか」

 

「アキト。もし良かったら僕と一緒に回りませんか?」

 

「それはいい!師匠、案内を頼むよ」

 

「もちろん!」

 

こうしてアキトはレオと共に学園祭を見て回ることになった。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

統夜たちのクラス発表まであと1時間程となり、統夜たちは本番で着る衣装を着始めていた。

 

そんな中、今回衣装を担当したさわ子は、自分たちのクラスの衣装だけではなく、他のクラスの衣装にまで手をつけていたため、ここ何日か徹夜で作業をしていた。

 

2年2組が出している「マンモスの肉」という店の衣装と、1年3組の「ヴァンパイア喫茶」という店の衣装などを作ったりしていた。

 

「……せ、先生……。大丈夫ですか?」

 

和は顔が真っ青で、目にくまが出来ているさわ子のことを気遣っていた。

 

「……さ、さすがに今回は手を伸ばし過ぎたわ……。でも大丈夫。どの衣装も気合入れて作ったから!!」

 

顔は疲労でボロボロだったが、さわ子は全ての衣装の出来に満足しており、満面の笑みを浮かべていた。

 

さわ子が自身満々に語るように、さわ子の衣装はどれもクオリティが高く、模擬店の衣装は他の生徒や学園祭に来たお客さんにも好評だった。

 

「……ふぉぉ!!やーくんの鎧、凄い!!」

 

統夜はさわ子お手製の鎧を着ていたのだが、そのクオリティの高さに唯は驚いていた。

 

しかし、それは唯だけではなく、その場にいる全員が同じことを思っていた。

 

「本当に凄いよな、これ。かなり金もかかってそうだけど……」

 

統夜の着ている黄金騎士の鎧はまるで絵本から飛び出してきたかのようなクオリティであり、その分費用がかかっていると思われた。

 

しかし、この衣装を作るにあたっては紬が支援をしていたため、格安でこの衣装を作ることが出来た。

 

「本当にさわ子先生は凄いわねぇ♪この鎧もそうだし。それに……」

 

紬はある方向へ視線を向けるのだが、視線の先には素体ホラーの着ぐるみを着た4人が立っていた。

 

さわ子は以前作った素体ホラーの着ぐるみを量産したのである。

 

どれもクオリティは落ちておらず、その出来栄えに統夜たちは驚いていた。

 

そして、素体ホラーの着ぐるみを着ている佐伯三花は、「食ってやるぞぉ!」と言いながらクラスメイトの子達とじゃれあっていた。

 

「あぅぅ……。本当にこれを着て舞台に出なきゃいけないの……?」

 

澪は自分の衣装を着て恥ずかしがっていたのだが、その衣装はさわ子の衣装にしては非常にシンプルなワンピースだった。

 

「みおちゃん!凄く可愛いよ!!」

 

「あ、ありがとう……。だけど、唯は……」

 

「ほえ?」

 

澪は唯の衣装を見て苦笑いをするのだが、唯は木の役のため、木の格好をしていた。

 

「……うん、明らかに変だよな……」

 

律は木の姿をした唯を見て苦笑いをしていた。

 

「うーん、そんなに変かなぁ?」

 

唯はこの木の衣装が気に入っているのか、首を傾げていた。

 

「さぁ!みんな、集合して!」

 

劇の開始時間が迫っており、和と共にこの劇を取り仕切っている松本美冬が全員を集まるよう呼びかけていた。

 

「さぁ、澪。行きますか」

 

「う、うん……」

 

統夜は澪をリードするようにみんなのもとへ向かっていった。

 

その様子が姫を守る騎士のように見えたのか、クラスメイトたちは感嘆の声をあげていた。

 

全員が集合したところで、今後の流れと劇の流れを確認し、本番が行なわれる講堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

統夜たちの劇が始まる10分前となり、梓、憂、純の3人は講堂に来ていた。

 

この時点で講堂の席はほぼ埋まっており、満席に近い状態だった。

 

「うわぁ、人いっぱいだね!」

 

「座れるところ、あるかなぁ?」

 

憂と純は3人が座れる場所がないか探し始めていた。

 

そんな中、梓は手伝うことはせず、その場に立ち尽くしていた。

 

(……結局最後の方は先輩たちは全然来なかったな……。……ライブなんて、どうでも良くなったのかな?)

 

学園祭1週間前くらいは時々顔を出してちょっとは練習出来たのだが、それを過ぎると、統夜たちは劇の練習に専念していたため、全員集まっての練習は出来なかった。

 

そのため、悲観的な考え方になってしまった梓は頰をぷぅっと膨らませていた。

 

「……梓ちゃーん!」

 

「席、あったよ!!」

 

梓たちの席はさわ子が確保してくれたみたいで、憂と純の呼びかけを聞いた梓はハッとしていた。

 

(……私ってば、嫌な子……)

 

先ほどの考えを払拭するかのように、梓はブンブンと首を振っていた。

 

「ごめん!ありがとう!」

 

梓は慌てて憂たちの元へ向かい、空いている席に腰を降ろした。

 

(先輩たちにとってはこれが最後の学園祭なんだもん!まずはこの劇の成功を祈らなくちゃ!)

 

3年生である統夜たちにとってこれが最後の学園祭であることをわかっている梓は、最後のクラス発表であるこの劇で、悔いのないようにしてほしいと心の底から祈っていた。

 

統夜にこの劇を見て欲しいと案内されたカオルと鋼牙は、講堂の特等席に座っていた。

 

零、レオ、アキトの3人もその列の席に座っていた。

 

戒人も本当は行きたかったのだが、統夜に代わってエレメントの浄化を行っているため、行くことが出来なかった。

 

しかし、明日のライブは顔を出すつもりでいた。

 

カオルは今回雷牙も連れてきたのだが、カオルに劇を見ることに専念して欲しいと思っていたヒカリが、講堂の入り口で雷牙の面倒を見ていた。

 

雷牙はヒカリに懐いていたため、抱っこをしてもぐずることはなかった。

 

そして、秋葉原から統夜の晴れ舞台を見に来た奏夜たちも、どうにか4人分の席を確保して、席についていた。

 

「……いよいよ統夜さんの劇が始まるね!」

 

「どんな劇なのでしょうね?とても楽しみです♪」

 

「うん!ことりも凄く楽しみだよ♪」

 

穂乃果、海未、ことりの3人は、これから始まる劇が楽しみだからか、目をキラキラと輝かせながら劇が始まるのを待っていた。

 

奏夜も同様にワクワクはしていたのだが……。

 

(統夜さん、一体どんな役をやるんだろうか?劇なんて見る機会はなかったし、それも楽しみだな……)

 

奏夜は幼い頃から魔戒騎士の修行に励んでいたからか、劇を見る機会はあまりなかった。

 

映画に関しては、穂乃果たちに誘われて何回か見に行ったのだが、それもつい最近のことであった。

 

そのため、奏夜もこれから始まる劇を心待ちにしていた。

 

ここにいる全員がこれから始まる劇を心待ちにする中、開演を告げるブザーが鳴り響いた。

 

『それでは、3年2組による演劇。「黒い炎と黄金の風」を開演いたします』

 

劇の始まりを告げるアナウンスが流れると、講堂の明かりが消えて、ステージの幕が上がり、ステージを照明が照らしていた。

 

背景は草原のようなものであり、ステージには誰も立っていなかったのだが、すぐにBGMが流れてきた。

 

『……光あるところに漆黒の闇あり。古代より人々は闇を恐れていました』

 

最初にナレーションから始まったのだが、その声を担当していたのは紬だった。

 

「あ、ムギ先輩だ!」

 

「紬さんの喋り方、いい感じですね」

 

梓と憂はすぐ紬の声に反応し、目をキラキラと輝かせていた。

 

『ですが、闇を切り裂く騎士の剣によって、人々は希望の光を得たのです』

 

「おぉ!ここは絵本にはないけど、何かそれっぽいね。鋼牙」

 

「……そうだな」

 

カオルも鋼牙もこの劇を楽しみにしており、2人は互いに顔を見合わせると笑みを浮かべていた。

 

『……今ではない、遥か昔……』

 

紬が時代背景をナレーションで説明すると、少女の役である澪がステージに現れた。

 

「……遅くなってしまいました……。早く帰らなくては……」

 

澪は恥ずかしがることはなく、堂々とセリフを言っていた。

 

澪のセリフを聞いた途端、澪ファンクラブの子達が澪の登場に喜びの気持ちをあらわにしていた。

 

そんな中、純はあることに気付いていた。

 

「……木って顔を出す必要があるの?」

 

現在、唯が木の役として登場しており、かなりの存在感を出していた。

 

純はジト目でその様子を見ていたのだが、憂は唯の活躍を見て目をキラキラと輝かせていた。

 

「……そこはあまり突っ込まない方向で……」

 

さわ子も木を演じている唯を見て苦笑いをしていた。

 

『……とある地方のとある村に住んでいる少女は、暗い夜道を歩いていました。すると……』

 

紬がこう言うと、不穏なBGMが流れると、素体ホラーこと怪物役の4人が澪の前に現れた。

 

『少女の前に現れたのは、この世のものとは思えない怪物でした』

 

この劇を通してホラーや魔戒騎士の秘密を明かす訳にはいかないので、この劇ではホラーや魔戒騎士といった単語は一切出てこない。

 

そのため、素体ホラーは怪物と銘打たれていた。

 

「か……怪物!?」

 

『この世のものとは思えない怪物の存在に少女は怯えていました。そんな中、怪物は少女を喰らうために迫ってきます』

 

紬のナレーションの後に素体ホラーこと怪物役の4人はゆっくりと澪に迫っていた。

 

「……だ、誰か……!」

 

『少女はどうにか声を振り絞って助けを求めますが、誰も現れる気配はありません。このままでは怪物に食べられてしまいます』

 

BGMの影響もあってか、緊迫した状況になっており、観客は息を呑んでその様子を見守っていた。

 

『……そして、怪物が少女を食べるために襲いかかろうとしたその時でした』

 

「……そこまでだ!」

 

統夜の声が聞こえるのと同時にBGMは止まり、照明も一度消えて真っ暗になっていた。

 

そして、再び明かりがつくと、澪の前に鎧を着た統夜が立っていた。

 

『暗闇から一筋の光が照らされ、金色の輝きを放つ騎士が現れました』

 

あまりにリアルな騎士の登場に、客席からは歓声や「カッコイイ!!」と言った声が聞こえてきていた。

 

(……私、グッジョブ!!)

 

この鎧を作ったさわ子は歓声などが嬉しかったのかニヤニヤしつつドヤ顔になっていた。

 

「あ……あなたは?」

 

「下がっていろ」

 

「は、はい!」

 

『黄金の騎士は少女を守るように剣を構えると、少女は安全な場所まで避難しました』

 

紬のナレーション通り、統夜は剣を構え、澪は安全な場所まで移動とのことだったので、舞台袖に移動していた。

 

『4体の怪物が黄金の騎士に襲いかかってきましたが、黄金の騎士はそれを迎え撃ちました』

 

紬のナレーションを聞き、怪物役の4体が統夜に襲いかかった。

 

4人は統夜に殴りかかる真似ではなく、本気で殴りにかかっていた。

 

これは統夜の提案であり、本気で来てくれた方が臨場感があると思ったからである。

 

戦闘BGMに合わせて統夜は攻撃をかわし、剣を振るった。

 

すると、「ザシュッ!」と斬られる効果音が鳴り、怪物役の4人は勢いよく倒れた。

 

練習の甲斐あってか、綺麗な受け身を取っており、4人は再び立ち上がった。

 

「貴様らの闇、俺が断ち切る!!」

 

統夜は陰我という言葉をセリフにはいれず、闇という言葉にしていた。

 

統夜は怪物に向かって4回剣を振るった。

 

アクションショーのように「ザシュッ!」「ザシュッ!」と斬り裂かれる効果音が鳴り響くと、怪物役の4人は苦しそうに舞台袖へ移動した。

 

すると、爆発の効果音が響き渡り、怪物を倒したかのような演出になっていた。

 

黄金の騎士が見事に怪物を倒し、客席から大きな拍手が送られた。

 

そこでステージの照明が消えると、次の場面の準備が行われた。

 

1分ほどで準備が終わると、背景はそのままなのだが、澪と木の役の数人以外ステージには立っていなかった。

 

この劇では、魔戒騎士の鎧の召還を再現しているため、戦闘シーン以外は統夜は登場しない。

 

統夜は天の声的な感じで澪とやり取りをするのであった。

 

『黄金の騎士は圧倒的な力で怪物を討伐しました。……すると、黄金の鎧はどこかへと消え、その場にいたのは若い青年でした』

 

「……あっ、あの!助けてくれて……ありがとうございます……」

 

『……気にすることはない。俺は当然なことをしたまでだ』

 

統夜は姿を現さず、天の声的な感じで語り始めた。

 

その感じは、まるで澪の一人芝居だった。

 

そのため、澪のファンクラブの子達にはたまらない展開だった。

 

「あっ、あの……。あなたの名前は?」

 

『……名乗るほどの者ではない……』

 

「あなたの鎧……。私の村の伝説にあった、光の騎士の鎧……ですよね?」

 

『少女の住む村には、とある伝説がありました。「この地に災いが降りし時、光の騎士が現れ、その災いを斬り裂く」と……』

 

紬がナレーションで言っていたのは、完全にオリジナルであり、紬がそれっぽい伝説を考えたものであった。

 

『……俺は、そんなんじゃない……』

 

「嘘です!だって、あなたの鎧は、金色の輝きを放っていたではないですか!」

 

『……確かにそうだが、俺はお前の言う光の騎士ではない』

 

『黄金の騎士である青年は、少女の言っている伝説の光の騎士ではありません。ですが、少女はそれを認めようとはしませんでした』

 

『……とにかく、お前は自分の村に帰るんだ。この先は危険だからな』

 

「あなたは、一体何をしようと言うのですか?」

 

『……この先に怪物を支配している怪物の王がいる。俺はそいつを倒すためにここへ来た』

 

『黄金の騎士である青年は自分の目的を告げると、そのまま、怪物の巣窟へと向かおうとしていました。ですが……』

 

「……待って下さい!光の騎士様!私も行きます!」

 

『少女は、自分の村の近くで大きな災いが起きそうだと感じ、居ても立っても居られなかったため、このようなことを申し出ていたのです』

 

『……ダメだ。危険すぎる。お前は村に帰るんだ。いいな?』

 

『黄金の騎士である青年は、有無を言わさないといった感じでこう告げると、そのまま怪物の巣窟となっている谷へと向かいました』

 

「……光の……騎士様……」

 

澪がこのように呟いたところで、ステージの照明が消え、真っ暗になった。

 

すると、クラスメイトたちが協力して背景の入れ替えなどの作業を行っていた。

 

全ての準備が整うと、再び照明が照らされ、劇の続きが行われた。

 

ステージには黄金の騎士と、4体の怪物。さらには木の役が数人立っていた。

 

「……やはり、そう簡単には通してくれないか……」

 

『黄金の騎士はこう呟きながらも剣を構えました』

 

統夜は紬のナレーション通りに剣を構えた。

 

こうして黄金の騎士と怪物は対峙し、この場には緊張感が漂っていた。

 

「……何か、ドキドキするね……」

 

「う、うん……。そうだね……」

 

ジッと劇の動向を見守っていた純と憂は固唾を飲んで劇の様子を見守っていた。

 

梓も同じようにドキドキしていたのだが、その視線は統夜や怪物ではなく、木の役をやっている唯に向けられていた。

 

唯は木の役としてジッとしていながらも鼻がムズムズしてきたのか、くしゃみを必死にこらえていた。

 

(べ、別の意味で緊張するよぉ!!)

 

梓はこの劇が始まった時から唯が何かしでかすんじゃないか心配していたのだが、今この瞬間にも大きなくしゃみをして、この緊張感をぶち壊すのではないかと心配していた。

 

唯の仕草1つ1つにハラハラしていた梓は、劇を見るのに集中できずにいた。

 

梓がこのような心配をする中、黄金の騎士と怪物との戦いが始まった。

 

疾走感のあるBGMをバックに戦いが繰り広げられ、剣で相手を斬り裂く効果音や、「ガキン!!」という怪物の爪による攻撃を剣で防ぐ効果音などが響き渡っていた。

 

効果音はとても音量が大きく、これをチャンスと思っていた唯は、「ガキン!」という効果音と同時にくしゃみをしていた。

 

効果音が大きいため「ぶぇっくし!」という声は聞こえなかったのだが、くしゃみをしているということはすぐにわかったため、観客たちは苦笑いをしていた。

 

「……もう、唯先輩……!」

 

唯のくしゃみの仕草は予想以上に目立っていたようで梓は頭を抱えていた。

 

「……木がくしゃみ……」

 

純は木がくしゃみをするというシュールな光景に苦笑いをしていた。

 

「まぁ、効果音に合わせてくしゃみをするってところは褒めてあげてもいいわね……」

 

唯は唯なりに空気を読んでいたことにさわ子は理解していた。

 

そして、唯がくしゃみをしているのはステージ上でアクションしている統夜もわかっていた。

 

(……ったく、唯のやつ……。こんな緊迫なシーンでくしゃみをしやがって……)

 

効果音で誤魔化せてはいるだろうと思いながらも統夜は苦笑いをしながらアクションに臨んでいた。

 

鎧を着ている統夜は顔も隠れているため、苦笑いをしてもバレないのが幸いであった。

 

そして、舞台袖にいる和たちも唯がくしゃみをしているのを見ていた。

 

「……あぁ、もう!唯のやつ何やってるんだよ!」

 

舞台袖で劇の行方を見守っていた澪は頭を抱えていた。

 

「唯のやつ、何かやらかすんじゃないかと思ったが、まさか本当にやるとはな……」

 

律も澪の近くで劇の行方を見守っていたのだが、予想通りの展開になってしまい、苦笑いをしていた。

 

「でもまぁ、ちゃんと効果音に合わせてくしゃみをして誤魔化してたから、まだいいんじゃない?」

 

和も唯のことを心配しつつ、何とか誤魔化せたことから結果オーライだと思っていた。

 

唯のくしゃみというハプニングはあったものの、黄金の騎士と怪物の戦いは続いていた。

 

今回もヒーローショー顔負けの動きに観客は魅了されていた。

 

「……凄いね、鋼牙」

 

「あぁ。ホラー役の4人の動きがいい。統夜がここまで特訓したんだろう」

 

ホラー役の4人の動きは予想以上に良かったのか、鋼牙はその動きに感心していた。

 

黄金騎士の称号を持つ鋼牙が認める中、統夜は4体の怪物目掛けて剣を一閃した。

 

『黄金の騎士は、その圧倒的な力で怪物を打ち倒していきました』

 

怪物役の4人はフラフラしながら舞台袖に移動し、その姿が見えなくなると、「ドカーン!」という爆発の効果音が鳴り響いていた。

 

ここで、再び照明が消えて真っ暗になると、次のシーンに向けての準備が行われた。

 

この劇は演じる人間が少ない分、背景を使って表現しなければいけない部分が多々あった。

 

そのため、大道具の人間を多めに配置し、多めの人数で定期的な背景の入れ替えを行っていた。

 

ここで木の役としての唯の出番は終わり、唯は舞台袖に移動していた。

 

「ふぅ、やっと終わったぁ……」

 

「おい、唯。もうちょっとくしゃみを我慢出来なかったのか?あれじゃせっかくのシーンも台無しだぜ?」

 

唯の姿を見つけるなり、律は反省すべき点を唯に指摘していた。

 

「だって、我慢出来なかったんだもん!」

 

「ま、まぁ……。まだ多少は誤魔化せたし、許してあげましょ?」

 

ここで和がフォローをいれると、唯の表情がぱぁっと明るくなっていた。

 

そして、準備が整うと……。

 

『黄金の騎士は、怪物の王を探すために先へ進みました』

 

まだステージに照明は照らされていないのだが、紬はこのようにナレーションをすると、話を進めていった。

 

背景はそのままで再びステージの照明が照らされると、怪物の王にたどり着くのは決して楽ではないということをナレーションで説明していた。

 

2度ほど怪物との戦闘シーンがあったり、この谷に住むものとの会話があったりと、ここら辺でちょい役の人達の出番があった。

 

この劇は登場人物があまりに少ないため、このように必要なさそうなシーンを入れなければ、人手が余ってしまうだけではなく、劇の時間があまりに短くなってしまうからであった。

 

『……そして、黄金の騎士はついに怪物の王のもとへとたどり着きました』

 

このシーンの前にステージの照明が消え、背景の入れ替えが行われていた。

 

紬がこのようにナレーションをすると、ステージに照明の明かりが照らされ、そこには統夜と木の役2人だけが立っていた。

 

「……貴様が、怪物の王か」

 

『ククク……。よくぞここまで来たな!光の騎士よ!』

 

背景に描かれた巨大な怪物こそが怪物の王であった。

 

怪物の王の声は統夜が事前に録音し、それをボイスチェンジャーを用いてそれっぽい声に加工したものであった。

 

「俺は光の騎士ではない。だが、貴様を倒す者だ!!」

 

『怪物の王も黄金の騎士が伝説の光の騎士と勘違いをしていましたが、それを即座に否定していました』

 

『我を倒すか……。愚かな!』

 

ここで「ドーン!!」というまるで衝撃波を放つような効果音が鳴り響くと、統夜は吹き飛ばされる演技をすると、その場に倒れ込んだ。

 

そして、すぐさまゆっくりと立ち上がった。

 

統夜は剣を構えて背景に描かれた怪物の王に向かっていくが、再び衝撃波が放たれる効果音が鳴り響き、統夜は再び吹き飛ばされる演技をしていた。

 

『怪物の王の力は圧倒的で、黄金の騎士は苦戦を強いられていました』

 

「くっ……!こ、こんなところでやられてたまるか……!」

 

このように語りながらゆっくりと立ち上がる統夜は演技っぽくなく、まるで本物のホラーと対峙しているかのようだった。

 

『黄金の騎士が再び怪物の王へと向かっていったその時でした』

 

「……光の騎士様!!」

 

紬のナレーションに合わせて、澪がこのように声をあげながらステージに現れた。

 

『自分の村に帰ったはずの少女が現れたのです』

 

澪の登場を澪ファンクラブの子達は待ちわびており、パチパチと拍手を送っていた。

 

「……アハハ……。さすがは澪先輩だ……」

 

梓は澪の人気ぶりを垣間見て苦笑いをしていた。

 

そして、秋葉原から来た奏夜たちは、澪が登場しただけで何故盛り上がっているのかわからず首を傾げていた。

 

「……なんか、凄い盛り上がりだね……」

 

「えぇ。それだけ澪さんは人気なのでしょうか?」

 

「澪さん、凄く美人だしね♪」

 

「……この人も、軽音部なのか?」

 

「うん、そうだよ!さっきくしゃみしてた人もね!」

 

「そうだったのか……」

 

奏夜たちは澪の人気ぶりに驚き、奏夜は会ったことのない軽音部のメンバーを確認していた。

 

澪の登場で盛り上がりながら話は進んでいった。

 

「……!来るな!ここは危険だ!」

 

『黄金の騎士がこう叫びますが、怪物の王の牙が少女に迫ります。すると、黄金の騎士は身を呈して少女を守りました』

 

紬のナレーションに合わせて、統夜は澪を守る体勢になり、その直後に「ザシュッ!」という斬り裂かれるような効果音が響き渡った。

 

「ぐっ……!」

 

統夜はその場に倒れ込み、その一撃を受けて、倒れたという状況を作り出した。

 

「光の騎士様!!」

 

『少女は自分を守って傷ついた黄金の騎士を気遣って声をあげます。その一撃は強力で、黄金の騎士は立ち上がることは出来ません』

 

統夜はどうにか起き上がろうとするが、起き上がれない演技をしていた。

 

『……フン、その女を守ったか。無駄なことを……。どうせ貴様もその女もこの場で始末するんだからな』

 

『黄金の騎士は絶体絶命の状況に追い込まれ、怪物の王は勝ち誇ったかのように高笑いをしていました』

 

紬のナレーション通りに話は進んでいき、『ハッハッハッハ!!』と怪物の王の高笑いの音声が再生されていた。

 

「……それは、どうかな?」

 

『すでにボロボロだった黄金の騎士はどうにか立ち上がり、剣を構えていました』

 

「俺はお前を倒す。そして、そいつを守る。それこそが、人を守る者としての俺の使命だ!!」

 

「守りし者」というフレーズは使われず、人を守る者というフレーズに変更されていた。

 

『ボロボロだった黄金の騎士を突き動かしていたのは、人を守るという騎士の誇りからでした』

 

「光の騎士様……」

 

「怪物の王よ!貴様の闇、俺が断ち切る!」

 

『黄金の騎士は声高々に宣言をすると、剣を構えました』

 

紬のナレーションが入った直後に再び照明が消え、ステージが真っ暗になった。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

背景の入れ替えが行われるなか、統夜は獣のような叫び声をあげていた。

 

『黄金の騎士はまるで狼のような唸り声をあげると、怪物の王へ突進していきました』

 

紬のナレーションが入ると、「ザシュッ!」という何かを斬り裂く効果音が3度ほど鳴り響いていた。

 

『黄金の騎士の激しい攻撃に、ついに怪物の王は倒れました』

 

『……ば、馬鹿な……!王であるこの……俺が……!グワァァァァァァァ!!』

 

怪物の王の断末魔が響き渡ると、先程よりも大きな爆発の効果音が響き渡っていた。

 

この爆発により怪物の王が倒されたことを理解した観客たちは大きな拍手を送っていた。

 

そして、拍手が収まったタイミングでステージの照明が照らされ、ステージには統夜と澪。さらに木の役2人が立っていた。

 

『怪物の王が倒れ、黄金の騎士は闇の中からでした光を取り戻しました。これでもう人々は怪物に襲われることはありません。黄金の騎士の戦いはこうして終わったのでした』

 

「……光の騎士様!大丈夫ですか?」

 

「……大丈夫だ。問題ない」

 

『黄金の騎士はこう答えますが、先の戦いで消耗したため、ボロボロでした』

 

ボロボロな黄金の騎士は何も言わず歩き始めた。

 

黄金の騎士の足取りは重く、剣を杖代わりにしていた。

 

「……光の騎士様!どこに行くのです?」

 

「……戦いは終わった。だから俺は行く」

 

『ボロボロに傷ついた黄金の騎士はどこへ行くのかは明かしませんでした』

 

「……私も付いていきます!私、光の騎士様に救っていただいたお礼がしたいのです!」

 

「……好きにしろ」

 

『こう語ると黄金の騎士は再び歩き始めました。その傍らには少女が寄り添っていました』

 

紬のナレーションに合わせて統夜と澪はゆっくりと歩いていた。

 

ソウルメタルの鎧に一般人が触れると大変なことになるということを忠実に再現させるため、澪は統夜には一切触れていなかった。

 

澪が何故黄金の騎士を支えないのか観客たちは疑問に感じていたが、そのまま劇はクライマックスに向かっていった。

 

『戦いを終えた黄金の騎士は少女と共に何処かへと向かっていきました』

 

この紬のナレーションが終わると、再びステージの照明が消えると、最後の背景の入れ替えが行われた。

 

ステージにいる全員は舞台袖に移動し、背景の入れ替えは終わった。

 

『ボロボロになっている黄金の騎士と、それを支える少女を待ち受けていたものとは……』

 

紬のナレーションの直後にステージの照明が照らされたのだが……。

 

ステージには誰も立っておらず、背景は何も描かれていない真っ白なものだった。

 

まさかの展開に観客の多くがざわついていた。

 

しかし、この劇の元を知っている人間はなるほどと言いたげな感じで頷いていた。

 

『……物語の結末は人それぞれあるものです。そう、この先の未来を決めるのは……あなた自身なのです!』

 

この劇の元になっている絵本の最後は白紙なので、それを忠実に再現するかのような終わり方でこの劇は終了した。

 

最後のナレーションが終わったところで、幕が降りてきて、客席から大きな拍手が送られた。

 

「……鋼牙、面白かったね!」

 

「あぁ、そうだな」

 

カオルも鋼牙も統夜たちの劇が予想以上のクオリティだったことに驚きながらも、その出来に満足していた。

 

近くに座っていたアキトとレオ、そして零も笑みを浮かべながら拍手を送っていた。

 

秋葉原から統夜たちの晴れ舞台を見にきた奏夜たちも大きな拍手を送っていた。

 

特に奏夜は、黄金騎士の伝説を垣間見た気持ちになり、満足そうにしていた。

 

梓、憂、純の3人も、統夜たちの活躍を賞賛して大きな拍手を送っていた。

 

大きな拍手が客席から送られる中、統夜は劇の成功に安堵していた。

 

「統夜、やったね!」

 

「統夜君!お疲れ様!」

 

「あぁ!」

 

素体ホラーこと怪物役を好演した信代と三花が統夜を出迎え、統夜とハイタッチをして成功の喜びを分かち合っていた。

 

「統夜!お疲れ様!」

 

「あぁ!澪もお疲れ!」

 

統夜は澪ともハイタッチをして、互いに劇の成功の喜びを分かち合っていた。

 

「やーくん、お疲れ様!」

 

「統夜!なかなか良かったぞ!」

 

唯と律が統夜に駆け寄り、統夜に労いの言葉をかけていた。

 

「あぁ、ありがとな!」

 

統夜は2人からの労いの言葉に笑みを浮かべていた。

 

統夜はその後もクラスメイトたちと劇の成功の喜びを分かち合っていたのであった。

 

こうして、統夜たち3年2組の劇、「黒い炎と黄金の風」は、大成功で幕を閉じたのであった。

 

劇は無事に終わったが、学園祭はまだまだ続くのであった。

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

 

__次回予告__

 

『劇は無事に終わったが、今度はライブが待ってるぜ。だが、ライブに向けて準備はきちんとしないとな。次回、「準備」。学園祭はまだまだ終わらないぜ!』

 




今回も少し長くなりましたが、無事に統夜たちの劇は終わりました。

今回は鋼牙やカオルだけではなく、零とレオも登場しました。

そして、今作に出てたキャラも再登場させています。

奏夜は穂乃果たちと学園祭に訪れましたが、そこは若干ラブライブの要素が出てるかな?と思います。

それにしても、相変わらずさわちゃんは凄いと思い知らされますね(笑)

ホラーの着ぐるみだけじゃなくて、黄金騎士の鎧を再現とか(笑)ちなみに、黄金騎士は絵本の黄金騎士がモデルとなっており、それが飛び出してきたかのような感じになっています。

それだけじゃなくて、他のクラスの衣装にまで手をつけるとか、さわちゃんは今年の学園祭のMVPと言っても過言ではないかもしれません。

さて、次回は翌日のライブに向けて統夜たちは準備を行います。

その準備とはどのようなものになるのか?

それでは、次回をお楽しみに!


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