統夜がいかにして魔戒騎士になったのかが明かされます。
この回は牙狼一期の12話を参考に作っているので似ているシーンが一部あると思いますが、そこはご了承ください。
それでは第10話をお楽しみください!
憂がホラーリザリーに監禁され、暴行されそうになったところを統夜が間一髪のところで救出した。
その2日後、この日は月曜日であったので、統夜は朝の鍛錬を済ませてエレメントの浄化を行った。
それが終わったところで統夜は登校し、この日はいつも通りの学校生活を送っていた。
その日の放課後、統夜はいつものように音楽準備室に入ったのだが……。
「……あれ?憂ちゃん。どうしてここに?」
唯たちだけではなく、憂も椅子に座って統夜を待っていた。
「あの……。統夜さんに聞きたいことがあって来たんです」
「聞きたいこと?」
統夜はこう聞き返したものの、何を聞いてくるかは察しがついていた。
「実は、あの後お姉ちゃんに聞いたんです。統夜さんがあんな化け物をやっつける魔戒騎士ってお仕事をしてるって」
「!!」
まさか既に知っているとは思っておらず、統夜は驚きを隠せなかった。
唯だけではなく、他の4人も驚いていなかったので、他の4人も憂が魔戒騎士のことを知ったというのは統夜より前にわかっていたみたいだった。
「唯、お前!話したのか!?あれだけ話すなって言ったのに……」
「ごめんやーくん。この前憂にそのこと聞かれたから話しちゃったの。憂には隠し事は出来なくて……」
「統夜さん、お姉ちゃんを怒らないであげてください。私が無理言ってお姉ちゃんに聞いたんですから」
「……まぁ、そういうことならわかったよ」
統夜はまだ騎士の秘密を話したことを怒っていたが、渋々許すことにした。
「まぁ、魔戒騎士の話を聞いたってことはそれなりの覚悟はあるってことだよな?」
「はい。統夜さんがそんな危ないことをしてると知ったら放っておけないですし、統夜さんのことを支えたいですから……」
「……わかった。……唯が話したと思うけど、俺は魔戒騎士だ。あの化け物、ホラーを倒し人を守るのが使命ってわけ」
「そうなんですね……。それで、その指輪が統夜さんのパートナーなんですよね?確か名前は、イルイル……ですよね?」
『おい、お嬢ちゃん。その情報は間違ってるぞ。俺様の名前はイルバだ』
イルバは憂の間違ってる情報を正すために口を開いた。
「……お姉ちゃんから聞いてましたけど、本当に喋るんですね……」
憂は事前にイルバが喋ることは聞いていたが、あまり実感はなく、喋るのを目の当たりにして驚いていた。
「……あっ!もしかして、あの時統夜さんの近くで統夜さん以外の声が聞こえたけど、それって……」
『あぁ、おそらくは俺様だろうな』
「………」
憂は納得はしたようだが、やはり驚いていた。
それから統夜は改めて魔戒騎士のことホラーのことを話した。
唯たちに話したように魔戒騎士は人殺し同然と言うことも。
「………」
憂は統夜の話を聞いて唖然としていた。
「……改めて聞くとやっぱりすごい話だよな……」
律たちも改めて魔戒騎士の話を聞いて統夜の使命の凄まじさを改めて思い知った。
「魔戒騎士やホラーの話を聞くってことはこれからもホラーとの戦いに関わる可能性が高くなる。だから元の穏やかな生活に戻れる保証はないって言ったんだよ」
「そうですよね。私、最近になって統夜先輩の話を実感しました」
梓たちは魔戒騎士のことを知ってから2度ホラーを見ている。
梓はその前にも一度統夜とホラーの戦いを見ていた。
それ故に最近は以前より穏やかな生活ではないことを実感していた。
「今からだってホラーや魔戒騎士に関する記憶を消すことが出来る。そうすれば憂ちゃんは穏やかな日常に戻れるぞ」
「それはやめて欲しいです。話を聞いたのは私の意思ですから。それに、穏やかな日常に戻れないのも覚悟の上です」
「……わかった。憂ちゃんがそう言うなら記憶は消さないよ」
「ありがとうございます!」
「ただし、魔戒騎士やホラーに関することはこれ以上は他言無用だぞ。家族や親しい友人にもな」
「わ、わかりました」
「みんなもだからな。特に唯、わかったな?」
「わ、わかってるよ!」
『やれやれ。俺様も唯が一番心配だぜ。現にお前さんは妹に話しちまってるからな』
「むぅぅ!意地悪言わないでよ、イルイル」
『だから変なあだ名で呼ぶな!』
唯とイルバはいつものやり取りを行っていた。
「統夜さん、今日は話してくれてありがとうございます」
「気にするなよ。憂ちゃんだって俺にとっては守りたい人なんだから」
統夜は恥ずかしげもなくさらっとこう言うと、憂は顔を真っ赤にしていた。
「「「「「…………」」」」」
それと同時に唯たちがドス黒いオーラを統夜めがけて放っていた。
(……?唯たち、どうしたんだ?あんな怖い顔をして)
《わからないのか?……この天然ジゴロめ……》
(?天然ジゴロ?)
統夜はイルバの言葉の意味がわからなかったのか、首を傾げていた。
「ねぇ、憂。今日はみんなで一緒にお茶しようよ」
「え?でもみなさん、迷惑じゃないですか?」
「大丈夫だよ、あたしたちも憂ちゃんとお茶したいからさ」
律の言葉に澪と紬がウンウンと頷いていた。
「……そうですね。たまにはいいですか」
梓も律の言葉に同意した。
「みなさん……。それでは、お言葉に甘えてご一緒させてもらいます♪」
こうして憂は統夜たちと共にティータイムに参加することになった。
※※※
「……統夜先輩。私、ずっと気になってたことがあるんです」
梓がこう話を切り出すと、全員の視線が梓に集中した。
「統夜先輩ってどのように魔戒騎士になったんですか?厳しい修行を積んだとは聞きましたが」
「確かに統夜がどうやって魔戒騎士になっていったかは興味あるな」
梓の疑問に澪も同意していた。
「そういえば統夜君のお父さんも魔戒騎士って言ってたわよね?」
「統夜のお母さんって何をしている人なんだ?」
唯たちが統夜の過去に関することや家族に関することを聞いていた。
(……もうみんなには話してもいいかな)
統夜は話をする決意を固めた。
「……遅かれ早かれみんなには話すつもりだったから話すよ。……俺の父さんは先代の奏狼だったって言ったけど、俺の母さんは魔戒法師だったんだ」
「魔戒法師って確か……」
「あぁ、烈花さんと同じだよ」
「そうなの?」
「?」
統夜の言葉に紬が反応し、憂は首を傾げていた。
「おっと、憂ちゃんは知らなかったな。魔戒法師っていうのは法術を用いて魔戒騎士のサポートをする人たちのことで、烈花さんっていうのはその魔戒法師をやっていて、かなりの実力者なんだよ」
「へぇ……」
「母さんは魔戒法師だったけど、父さんと結婚するまでは闇斬師をやっていたみたいなんだよ」
「「「「「「闇斬師?」」」」」」
聞きなれない言葉に唯たちは首を傾げていた。
「魔戒騎士や魔戒法師の中には己の欲望に負けて闇に堕ちる人たちがいるんだ。そんな人たちを討伐する使命を持っているのが闇斬師なんだよ」
「討伐って……。その人たちは人間なんだろ?」
「あぁ。だけど魔戒騎士や魔戒法師が闇に堕ちるってことはホラーに取り憑かれるのと同じことなんだ。だから討伐しなきゃいけないんだよ」
「魔戒騎士や魔戒法師にも色々あるんですね……」
「まぁな……。そこをふまえて聞いてくれ。……俺がいかにして魔戒騎士になったのかを……」
静かな口調で統夜は語り始めた。
自分自身の過去の話を……。
〜過去編〜
統夜は魔戒騎士である父親と魔戒法師である母親の間に産まれた。
統夜の父親である月影龍夜(つきかげたつや)は先代の白銀騎士奏狼であり、様々なホラーを葬ってきた歴戦の勇士であった。
その成果を認められたからか、龍夜は全ての番犬所を総括する元老院所属の魔戒騎士になった。
龍夜はその腕を買われ、闇に堕ちた魔戒騎士や魔戒法師の討伐を命じられていた。
そんな中、後の妻になる魔戒法師の明日菜(あすな)に出会った。
2人はコンビを組むことになり、共に闇に堕ちた魔戒騎士や魔戒法師の討伐を行っていた。
共に仕事をこなすうちに互いに惹かれあい、2人は結婚した。
魔戒法師である明日菜の家は代々闇に堕ちた魔戒騎士や魔戒法師を討伐する闇斬師の家柄であり、多くの闇に堕ちた魔戒騎士や魔戒法師を討伐してきた。
そんな中、龍夜と出会い、結婚した。
明日菜は結婚そして妊娠を機に闇斬師を引退した。
明日菜が引退した後も龍夜は闇に堕ちた魔戒騎士や魔戒法師の討伐を続けており、そして統夜が産まれた。
統夜が産まれると、明日菜は子供を守りたいという思いから普通の主婦として生きる道を選んだ。
統夜が3歳になった頃、龍夜は闇に堕ちた魔戒騎士の中でも一番と言えるほどの強敵の討伐を命じられた。
その魔戒騎士は、ただ闇に堕ちただけではなく、暗黒騎士という禁忌の力を手に入れた騎士であった。
その騎士の名は「バラゴ」。暗黒騎士呀(キバ)の名を名乗っていた騎士であった。
バラゴは当代最強の騎士であった、黄金騎士牙狼、冴島大河(さえじまたいが)を手にかけていた。
それ故、元老院もその存在を危険視していたのである。
龍夜に指令が来る前にも数多の手練れの魔戒騎士がバラゴの討伐に乗り出したが、誰1人とバラゴを倒せるものはいなかった。
そんな中、龍夜にバラゴ討伐の指令が来たのである。
龍夜は全身全霊をかけてバラゴに挑んだのだが、バラゴに叶わず、殺されてしまった。
龍夜が殺されたことはすぐ明日菜に伝えられた。
明日菜は龍夜の死をなかなか受け入れられず悲しみに打ちひしがれていたが、統夜は幼すぎた故に龍夜の死を実感出来ずにいた。
統夜が魔戒騎士としての修行を始めたのは5歳の頃だった。
統夜の修行を見たのは明日菜と、龍夜とは盟友であった魔戒騎士であった。
明日菜は龍夜の死後、魔戒法師として復帰し、ホラーの討伐をしながら統夜を一人前の魔戒騎士に育て上げることを決意していた。
修行を始めた頃から統夜は騎士としての才能があったのか、修行を始めて僅か1年でソウルメタルの短剣を持ちあげることが出来た。
そして8歳の時にはソウルメタルの剣をある程度操ることが出来るようになっていた。
しかし、この頃統夜は皇輝剣に選ばれていなかったのか皇輝剣を持ちあげることすら出来ていなかった。
そして統夜が10歳の頃、悲劇は起こった。
この頃統夜は小学校に通いながら魔戒騎士の修行を行っていた。
この日も学校の授業が終わり、家に帰ってから魔戒騎士としての修行を行うつもりだった。
しかし……。
「ただいま〜」
統夜はこう言って家の中に入るが、何の反応もなかった。
「あれ?母さん、出かけてるのかな?」
統夜は明日菜がいないことに首を傾げていたが、そのまま自主トレーニングを行おうとした。
その時であった。
ガシャァァァン!!!
2階から大きな物音が聞こえてきたので統夜は慌てて2階に上がった。
そこで統夜が見たのは信じられないものであった。
漆黒の鎧を身にまとった騎士が明日菜を追い詰めていたのである。
統夜は明日菜を助けたかったが、恐怖で動くことが出来なかった。
そして……。
「………」
「……うっ!」
漆黒の騎士は明日菜の胸に剣を突き刺した。
「!!」
統夜はあまりにショッキングな光景に言葉を失っていた。
漆黒の騎士は統夜の姿を確認するものの、まったく気にすることなくその場から立ち去った。
統夜は呆然と立ち尽くしていたが、明日菜の呻き声を聞いたことですぐさま我に返っていた。
「母さん!」
統夜は明日菜に駆け寄るが、傷が深く、意識は朦朧としていた。
「と……とう……や……」
明日菜は朦朧とした意識の中手を伸ばした。
「母さん!」
統夜は明日菜の手を取るが、その手はすでに血に染まっており、統夜の手にも鮮血がついてしまった。
「統夜……。ごめんね……私が……あなたを……一人前の……魔戒騎士に……育てたかったのに……」
「母さん!喋らないで!傷が広がっちゃうよ!」
「ありがとう……だけど私はね……もうダメよ……」
明日菜の傷と出血は普通の人間であればとっくに死んでいてもおかしくないレベルであった。
「母さん!死んじゃ嫌だよ!俺を1人にしないで!」
命の灯が消えかかる明日菜を目の前にして、統夜はポロポロと涙をこぼしていた。
「統夜……。何を……しているの……?あなたは……こんなことで……泣いてちゃ……ダメよ……。立派な……魔戒騎士に……なるんでしょ……?」
「母さん!」
死にゆく明日菜は統夜に泣くなと気丈に言い放つが、統夜が涙を止めることはなかった。
「ウフフ……。あなたは……優しい子だものね……。あなたの優しさがあれば……どんなことがあっても……人間を守る……。そんな騎士に……なれると……思う……わ……」
「母さん!死なないで!死んじゃ嫌だよ!」
「統夜……。愛して……いる……わ……」
その言葉を統夜に伝えた時、明日菜の命の灯が消えてしまった。
その瞳からは輝きが失われ、統夜がその手を離すと、上げられた手は下がってしまった。
「母さん!母さん!起きてよ!母さん!」
統夜は必死に呼びかけるが、明日菜からは何の反応もなかった。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
統夜の慟哭が家中に響き渡っていた。
〜現代〜
「「「「「「…………」」」」」」
統夜は自分の父である龍夜。そして母である明日菜の死を語ると、唯たちは言葉を失っていた。
「…………」
それを語る統夜の表情も神妙な面持ちになっていた。
「統夜先輩……。辛かった……ですよね……」
「あぁ…。母さんを殺したあの黒い鎧……。未だに見つかっていないんだ…」
「もしかして、統夜の父さんを殺したそのバラゴってやつの仕業じゃないのか?」
律は今まで聞いた話を元に統夜の母親を殺した犯人を推理してみたのだが……。
「それは違うんだ。確かにバラゴは父さんを殺した。だけどバラゴはその頃、すでにこの世にはいなかったんだよ」
「え?と言うことは誰かがそのバラゴって人をやっつけたのかしら?」
「いや、厳密に言えばバラゴはホラーに取り込まれてしまったんだ」
「取り込まれた?」
「あぁ。ホラーの始祖と呼ばれるメシアというホラーにな」
バラゴはホラーの始祖と呼ばれるメシアを復活させようと企み、復活させた。
しかし、バラゴには少しだけ心の弱さがあり、そこをメシアに付け込まれて取り込まれてしまったと統夜は聞いていた。
「ねぇ、やーくん。お母さんを殺した騎士に心当たりはないの?」
「正直心当たりはないんだ。その鎧の騎士は盾を持っていたけど、そんな騎士なんて俺は知らないし……」
「そうですか……」
「それにしても辛いよな……。ママが目の前で殺されるなんて……私だったら耐えられないよ……」
「「「「「「ママ?」」」」」」
「お、お母さん!」
澪は自分の母親のことをママと呼んでいるのだが、ここでも思わずママと呼んでしまった。
統夜たちがおうむ返しのように繰り返すが、澪は顔を真っ赤にしてお母さんと訂正していた。
「それで、統夜さんは本格的に魔戒騎士の修行を始めたんですか?」
「あぁ……」
統夜は再び語り始めた。
〜過去編〜
明日菜の死から一週間が経ち、統夜はとある場所に建てた明日菜の墓にいた。
明日菜の墓の隣には龍夜の墓があり、夫婦が仲良く眠っていた。
「…………」
統夜は沈痛な面持ちで両親の墓を眺めていた。
『おい、小僧。お前はいつまでそんなことをしているんだ』
統夜の指にはめられたイルバがカチカチと音を鳴らしながら口を開いた。
この頃、統夜はまだイルバと契約はしていなかったが、イルバが統夜を守るために指にはめろと言ったのである。
「……うん、そうだね……。俺はもっともっと強くならなきゃいけないんだ……。強くなって、奏狼になるためにも!」
『そうだ、小僧。その意気だ』
「なぁ、イルバ。いつの日か俺が皇輝剣を操ることが出来て奏狼の鎧を受け継いだら……俺と契約してくれ」
『やれやれ……。わかっているのか?俺様と契約したらお前の1日分の命が俺様の1月分の命になるってことを』
イルバを始め魔導具と契約した者は契約の代償として、1月のうちの1日分の命を魔導具に捧げなければいけない。
魔導具に契約の代償として命を差し出すと、その日は仮死状態のまま眠り続けるのである。
「……もちろん、構わない。覚悟の上だ」
統夜の眼は魔戒騎士になるという覚悟に満ちたものであった。
『わかったよ。ただし、俺が認めるくらい力をつけるんだな、小僧』
「イルバ、いい加減俺のことは統夜と呼んでくれよ」
『そう呼んで欲しければもっと精進して力をつけるんだな、小僧』
「ったく……。わかったよ」
こうして統夜は魔戒騎士になるため修行を始めた。
この頃の統夜は1人で修行に明け暮れていた。
母親も既に亡くなっており、統夜が修行を始めた頃に稽古をつけてくれた父親の盟友だった騎士は、明日菜が亡くなった後に行方不明になっていた。
それ故、頼れる人はいなかったので、統夜はイルバと共に一人前の魔戒騎士になるために修行を積んでいた。
統夜は学校に通い、放課後は誰かと遊ぶこともなく家に帰って魔戒騎士になるための修行をするという毎日を送っていた。
毎日毎日同じような日常、その事に統夜は挫けそうになったこともあったが、父親のような魔戒騎士になる。
その思いが統夜を突き動かしていた。
そして統夜が中学3年生になる少し前、とある事件がおこった。
統夜はこの日も修行に明け暮れ、修行の終わりに皇輝剣を手に取ろうとした時、統夜の目の前に1人の男が現れた。
「な、何者だ!お前は!!」
その男は仮面を被った男で、何処か禍々しいオーラが出ているように見えた。
「貴様……。魔戒騎士か?」
「お、俺はまだ魔戒騎士ではない!」
統夜はこの頃にはまだ皇輝剣を操ることが出来ないので、まだ魔戒騎士ではなかった。
「フン、魔戒騎士の卵ってわけか。貴様などすぐに潰せる。今日のところは見逃してやろう」
「!?一体どういうつもりなんだ!?」
「全ての魔戒騎士はもうすぐ滅びる。貴様もそう遠くないうちに滅びるだろう。その短い命、堪能するがいい」
それだけ言うと仮面の男は姿を消した。
「な、なんだったんだよ。一体……」
『統夜、運が良かったな』
「運が良かった?」
『あぁ。あの男のオーラ……本物だぜ。あの男は本気で魔戒騎士を滅ぼすつもりだろうな……』
「イルバ、何言ってるんだよ。全ての魔戒騎士を滅ぼすなんて……。あの黄金騎士だっているんだぞ!」
『あぁ、黄金騎士か……。確かに奴だったらあの男に対抗出来るかもな』
「俺、もっともっと強くならないと……。父さんのような魔戒騎士になるために……」
統夜は魔戒騎士になるという決意をさらに固めたのだった。
そしてその一週間後、待ちに待った瞬間が訪れた。
統夜はこの日も修行を終わらせて皇輝剣を持ち上げようとした。
普段なら持ち上がらずにその日の修行を終える感じになるのだが。
「……!も、持てた……!」
統夜は初めて皇輝剣を持ち上げることが出来た。
まだその資格はないと思っていた統夜は呆然としていたが、すぐさま我に返り、皇輝剣を振るってみせた。
その時、皇輝剣から不思議な光が放たれた。
「うわっ!!」
統夜はその光に包まれると、気が付けば周りが真っ白で何もない空間に移動していた。
「ここは……?俺は一体……?」
統夜はキョロキョロと周囲を見回していた。
その時、統夜の前に1人の男が現れた。
赤いコートを身に纏い、整った顔立ちをした40手前くらいの男だった。
統夜はその男を見て目を丸くしていた。
「と、父……さん……?」
統夜の目の前にいたのはかつて暗黒騎士呀に敗れ、命を落とした統夜の父、月影龍夜だった。
『統夜……。お前はついに皇輝剣を手にすることが出来たんだな……』
「父さん……」
物心がつく前に龍夜は命を落としており、統夜は父親の顔を写真でしか知らなかった。
しかし、目の前の男から発する雰囲気や暖かい空気を出しているのは龍夜であった。
『統夜。今日からお前が奏狼の称号を受け継ぐのだ』
「はい。覚悟は出来ています」
『守りし者となれ。そして……強くなれ』
龍夜は統夜に暖かい言葉を送ると、その体は消滅してしまった。
「父さん!」
龍夜が姿を消したその時である。
『統夜……』
今度は母親である月影明日菜が姿を現した。
「か、母……さん……?」
自分の目の前で殺された母親が目の前にいる。その事実に統夜は驚きを隠せなかった。
『統夜……。大きくなったわね……』
「母さん……」
『あなたなら誰よりも優しい魔戒騎士になるわ……。そのことを自分の誇りにしなさい……』
「……あぁ」
『私は……。私たちはいつでもあなたのことを見守っているわ』
明日菜が統夜を抱きしめると、統夜は明日菜の温もりを感じていた。
それだけではなく、統夜は龍夜の温もりも感じていたのであった。
※※※
「……ハッ!」
統夜は気が付くと元の場所に戻っていた。
統夜は皇輝剣を眺めるが、その姿は魔戒剣に戻っていた。
統夜はその魔戒剣をじっと見つめていた。
『小僧。わかっているとは思うが、これからが本番だ。お前はこれから魔戒騎士として多くのホラーを倒すことになるだろう。己の使命を忘れるなよ』
「……あぁ!」
こうして新たな白銀騎士奏狼が誕生したのであった。
「……イルバ。あの時の約束、覚えてるか?俺がこの剣を操れるようになったら俺と契約してくれって」
『あぁ、忘れてないぜ。だが、本当にいいんだな?』
「あぁ」
イルバと契約するという統夜の意思は変わらなかった。
『月影統夜。お前の1日分の命が俺様の1月分の命に』
「!!」
イルバが統夜にこう告げると、統夜の中に何かが入ってくる感覚になった。
それこそが、魔導輪イルバと契約した瞬間であった。
統夜が魔戒騎士になると、統夜は自分の管轄となる紅の番犬所に挨拶に行った。
統夜はそこで神官イレスと初めて会った。
イレスは統夜が今中学3年生だと知ると、高校には行くのかと聞いていた。
統夜は魔戒騎士として精進するために高校へは行かないつもりだった。
そんな中、イレスは統夜に高校へ行くことを勧めてくれた。
そして、どうせ高校に行くならこの番犬所が近いところがいいとのことで、最近共学になったばかりの桜ヶ丘高校を勧めたのもイレスであった。
こうして統夜は魔戒騎士の仕事をしながら受験勉強をこなし、どうにか桜ヶ丘高校に入学した。
そして、軽音部に入部することになるのであった。
〜現代〜
「……これで俺の話は以上だ」
「「「「「「………」」」」」」
統夜の壮絶な過去の話を聞き終わった唯たちは言葉を失っていた。
「こうして俺は魔戒騎士になった。魔戒騎士になってからも色々あったけどさ、その経験が俺を強くしていったんだよ」
「凄いですね……。統夜先輩は普通の人の当たり前の日常を捨て去って魔戒騎士になったんですもんね……」
「そうだな……。だけど、俺は軽音部に入ってその当たり前の日常を取り戻せた気がするよ。だからみんなには本当に感謝しているんだ」
「何言ってるんだよ、統夜。あたしたちは仲間だろ?感謝だなんて水臭いぜ」
「そうだぞ。私たちだって統夜がいてくれたから毎日が楽しかったんだ」
「そうね。それだけじゃなくて私たちは統夜君に色々助けられたしね」
「うん!私はやーくんと仲良くなれてすごく嬉しかったよ!」
「私は先輩と知り合ってからまだ日は浅いですけど、私もすごく統夜先輩には感謝してます!」
「統夜さん。これからも大変だとは思いますが、無理だけはしないでくださいね」
「みんな……ありがとな」
統夜は唯たちの優しい言葉を聞いて、軽音部に入って良かったなということを改めて実感していた。
これからも魔戒騎士として人を守る。
それだけではなく、みんなを守っていきたい。
統夜はさらなる決意を胸に秘めていたのであった。
……続く。
__次回予告__
『一時も忘れることのない遥かな思い出。笑顔、友情、掛け替えのない時間。次回、「同胞」。その日々はいつまでも色褪せない!』
統夜の過去が明かされました!
統夜の母親がまさかの闇斬師。媚空の先輩ということになりますね。
そしてさりげなくシグマを登場させました。
シグマは魔戒騎士の卵だった統夜には破滅の刻印を打ちませんでした。
シグマはシグマで魔戒騎士の卵を見て思うところがあったのかもしれません。
そして、統夜の母親である明日菜を殺した盾を持った漆黒の騎士。
牙狼を見た方ならまさか?と思うかもですが、その予想で合っていると思います。
そして次回は過去編その2となります。修練場に通っていた統夜の話になります。
ここでももしかしたら牙狼のキャラが出てくるかもしれないので次回をお楽しみに!