魔戒烈伝放送記念という訳ではないですが、前から考えていた牙狼とけいおんのコラボを書くことにしました。
拙い文章になるかもですが、楽しんでいただけると幸いです。
第1話 「軽音!」
ここは桜ヶ丘にあるごく普通の一軒家。
普通なのはその見た目だけであり、その家の地下では日常的とはとても言い難い風景が広がっていた。
その部屋は明かりもない薄暗い部屋で、1人の少年が目を閉じ、鍔のない剣を構え、精神を集中させていた。
「……」
すると……。
ヒュン!!!
この薄暗い部屋のどこからかかなりの大きさの丸太が少年目掛けて飛んできた。
こんな物が少年の頭に直撃したらその命はないだろう。
しかし、少年は……。
「……!」
剣を一閃すると、大きな丸太は綺麗に真っ二つになっていた。
その直後、サイズは小さいが、ナイフのように鋭く尖った木たちが少年に迫るが、少年は剣を振って木たちを弾き飛ばした。
さらに、鋭い木たちが少年に迫るが、少年は剣を振るいながら木たちをかわしていた。
そして、少年の頭上に最初に飛んできた物の2倍の大きさの丸太が迫ってきた。
「……はあっ!!」
少年の一閃により、巨大な丸太が真っ二つになった。
「ふぅ……」
少年は一息つくとその剣を青色の鞘に納めた。
少年の名前は月影統夜(つきかげとうや)。数年前に共学になった桜ヶ丘高等学校に通っている高校2年生である。
それは世を忍ぶ仮の姿であり、統夜は16歳という若さではあるが、古より來たる魔獣ホラーを狩る魔戒騎士の1人である。
というものの、統夜は魔戒騎士になってからまだ2年も経っておらず、現在はホラーを狩りながら一人前の魔戒騎士になるために精進している。
『統夜、今日の動きは悪くなかったぞ。その調子でこれからも励むんだな』
統夜の右手にはめてある銀色でドクロのような形をした指輪がカチカチと音を立てながら口を開いた。
この指輪は「魔導輪イルバ」。魔戒騎士である統夜をサポートする彼のパートナーである。
イルバも元はホラーであるため、ホラーを探知することが可能で、統夜はそのナビゲートをもとにホラーを捜索し、討伐する。
統夜は高校に通いながら魔戒騎士としての務めを果たしているが、彼が魔戒騎士であるということは同じ魔戒騎士と魔戒法師。そして、彼らを総括する番犬所や元老院の人間しか知らない。
統夜は学校に友人はもちろんいるため、自分が魔戒騎士であることは隠して生活している。
『統夜。そろそろ支度をするんだ。今日も学校に行く前にエレメントの浄化をしなきゃいけないんだからな』
「あぁ、わかってるよ」
統夜は修練場と呼んでいる地下室を後にすると、階段を登り、リビングに到着した。
統夜はコップを取り出し、一杯だけ水を飲むと、コップを流しに置き、着替えのために自室に直行した。
現在は朝の6時半。普通の高校生であればこれくらいの時間なら朝食をとって着替えを済ませたら登校まで時間がある。
統夜がこんな早い時間に登校する準備をしているのは学校が遠いという理由ではない。
魔戒騎士の仕事は昼間はゲートと呼ばれる陰我が集中する場所の浄化を行い、夜は現れたホラーを討滅する。
統夜は昼間は学校があるため、エレメントの浄化と呼ばれるゲートの浄化は朝のうちに済ませ、不足分は同じ番犬所に所属している先輩騎士に任せている。
そしてホラーが出現するのは夜であるため、学校が終わるとホラー退治へと向かっていく。
ちなみに陰我というのは、人間の邪心から生まれるこの世の様々な闇のことである。
ホラーはその陰我に宿ったオブジェをゲートとして人間界に現れ、何かしら心の闇を抱えた人間に憑依し、人間を喰らうのだ。
統夜は手早く制服に着替えると、魔戒騎士としていつも身にまとっている「魔法衣」と呼ばれる赤いコートを羽織った。
魔法衣という物は魔戒騎士によって異なるが、黒い魔法衣が多く、他にも白の魔法衣なども存在する。
統夜の魔法衣は、赤いコートに、肩や背中には自身の紋章でもある四角の紋章がついている。
魔法衣を身にまとった統夜は学生鞄を手に取り、自身が使う剣である魔戒剣を魔法衣の懐にしまい、近くに置いてあったギターケースも魔法衣の懐にしまった。
魔法衣の裏地は魔界に通じており、魔戒剣を始めとしたアイテムを収納し、それを自由自在に出すことが可能になっている。
統夜はギターを背負ったままだと荷物になるので、ギターも魔法衣にしまい、学校が近くなると人目のつかない場所でギターを取り出していた。
出発準備が整うと統夜は家を出て、イルバのナビゲーションを頼りに桜ヶ丘のあちこちを移動しながら邪気がたまっている場所を次々と浄化はしていった。
1時間ほどエレメント浄化を行うと、そこでエレメント浄化を終了し、桜ヶ丘高校へと向かった。
その前に統夜はコンビニで朝食を購入し、朝食を食べながら学校へと向かった。
〜統夜 side 〜
日課であるエレメント浄化を終えた俺は時間通りに桜ヶ丘高校に到着し、そのまま自分のクラスである2年3組の教室に向かった。
まぁ、浄化の方は完璧に出来なかったけど、俺が所属している「紅の管轄」にはまだ先輩の魔戒騎士は存在するんだから、後は先輩たちに任せよう。
最近は騎士のみんなはすごく協力的だからな…。
俺が魔戒騎士になるちょっと前に布道シグマが全ての魔戒騎士に破滅の刻印という刻印を植え付けて魔戒騎士を滅ぼそうとしたんだ。
まぁ、それは黄金騎士牙狼の称号を持つ冴島鋼牙(さえじまこうが)さんの活躍でそれは阻止されたけどな。
その後、シグマはギャノンと呼ばれる強大なホラーを復活させ、そのホラーを討滅するのに多くの魔戒騎士が協力したって聞いたな。
まぁ、そんなことがあったんだから協力的にもなるよな…。
それでも中には未だに群れを嫌う魔戒騎士だっているんだけどな。
自分の教室に入った俺はクラスメイトたちと他愛のない挨拶や会話をかわしながら魔法衣を教室の後ろにかけ、そのまま自分の席についた。
そしてそのまま放課後まで何事もなく時間は過ぎていった。
今は昼間だし、ホラーが現れる時間帯じゃないからな…。学校にいる時間が俺にとっては一番平和な時間なんだよな…。
俺は掃除当番の仕事を終わらせるとすぐさま音楽準備室へと向かった。
そこは軽音部の部室であり、俺は軽音部に所属している。
魔戒騎士としての使命があるから入学当初は部活はしないつもりだったんだけど、ある日廃部寸前と話を聞いていたので音楽準備室の前でイルバと話をしようとしたところを見られちゃったんだよな。
……まぁ、イルバが喋る前だったからばれなかったけど…。
音楽準備室の前にいるということで、入部希望と勘違いされてそのまま音楽準備室に連行されたんだよな…。
もちろん入部希望とするつもりはなかったからそれは伝えたんだけど、熱心な勧誘に根負けしてしまい、とりあえずという形で軽音部に入ることになった。
番犬所も部活に入ることをあっさりと了承してくれた時にはびっくりしたよな…。
番犬所が許可しなければ辞めるなり幽霊部員になるなり対策は出来たんだけどな…。
部活をやってるから、昼間のエレメント浄化は出来ないけど、指令だって、ホラー退治だってちゃんとやってるからな。
音楽準備室に向かう途中、見知った顔である小柄でツインテールで、ギターケースを背負っている少女を発見した。
「…よう、梓」
「あっ、統夜先輩……」
俺を先輩と呼んでくれるこの子は中野梓(なかのあずさ)。小柄でツインテールが特徴の女の子だ。
梓は今年桜ヶ丘高校に入り、つい最近あった新入生歓迎会で俺たち軽音部のライブを聞いて俺たちの演奏に感動したとのことで最近軽音部に入ってくれた。
「どうしたんだ?ずいぶんと浮かない顔をしてるけど」
俺はひょこっと梓の顔を覗き込むと、梓は少しばかり憂鬱そうな表情をしていた。
「あっ、いえ…。この前先輩たちにあんなに色々言っちゃったじゃないですか…。だからちょっと行きにくいなぁって思っちゃって……」
「あぁ…なるほどね」
梓が初めて軽音部の練習に参加したのが数日前なんだけど、新入部員が来たっていうのに俺たちは紅茶を飲みながらダラダラしていた。
これだけ聞くとなんだこれって思うかもしれないけど、軽音部は練習よりもティータイムの方がメインになっちゃってるからな…。
これには俺も戸惑ったけど、俺もそんなまったりとした空気に毒されたみたいだ。
それでも今までのままじゃマズイと思って俺は練習するぞと言ったんだけどな…。
それでもダラけてるもんだから梓が困惑しちゃってその後思わずキレちゃったんだよな……。
その時、色々言ってたから梓はその時のことを気にしてるんだと思う…。
「梓の言ってたことは正論なんだし、あんまり気しなくてもいいと思うけどな。それに、あいつらのことだからきっと気にしてないと思う」
まぁ、それはそれで問題な気もするが、部の空気が悪くなるよりかはマシだなと俺は解釈した。
「は、はぁ……」
「とりあえず、一緒に部室に行こうか」
「は、はい」
俺は不安げな梓を励ますとそのまま一緒に音楽準備室へと向かった。
音楽準備室に到着するなり俺と梓はすぐに中に入り、すぐ目に飛び込んできたのは……。
……紅茶を飲みながら談笑をしている3人の女の子たちだった。
「ぜ、全然動じてない……」
「あ、あいつら……」
いつもと変わらないだらけぶりを見てただただ呆れることしか出来なかった。
このだらけている子たちは一応軽音部の部員だ。
まず、茶色の髪にヘアピンをつけている女の子が平沢唯(ひらさわゆい)。担当楽器は俺や梓と同じギターで、甘いものと可愛いものが好きな女の子で、超がつくほど天然なところがある。
そして黄色いカチューシャが特徴的なのが田井中律(たいなかりつ)。担当楽器はドラムで、こんなんでも一応軽音部の部長でもある。
明るくて元気一杯なところはいいんだけど、いつもアホなことばかりしたり生徒会に出さなきゃいけない申請用紙を出し忘れたりと少々頼りないところがある。
最後に金髪のように明るい髪に太い眉毛が特徴的なのが琴吹紬(ことぶきつむぎ)。通称「ムギ」で、担当楽器はキーボードだ。
いつもおっとりしていて一緒にいるだけでこちらの心も暖かくしてくれるそんな女の子だ。
この軽音部はティータイムがメインになっちゃってるが、ティーセットは全部ムギが持ってきている。
軽音部に入ってもう1人ベース担当の子がいるんだけど、まだ来てないようだ。
まぁ、それはともかくとして……。
《相も変わらずだらけまくってるな。このお嬢ちゃんたちは》
(あぁ、そうだな……)
イルバが思ったことをテレパシーで代弁し、俺は苦笑いをしながらテレパシーで返事をした。
学校にいる間はイルバは喋れないので、会話をする時はこのようにテレパシーで会話をしている。
「お前ら……」
俺は呆れながら3人に声をかけた。
声かけないと気付くまでダラダラしてそうだしな……。
「あっ、やーくん!それに梓ちゃん!?」
俺と梓の存在に気付いたのか唯たちは慌てふためいていた。
ちなみに「やーくん」というのは俺が唯にそう呼ばれていて、本人曰く「とうや」だから「やーくん」らしい。
……まぁ、初めは違和感だらけで慣れなかったけど、1年もそう呼ばれ続けたらさすがに慣れるよな…。
「いっ、今から練習するところだったんだよ!?本当だよ!?」
唯は慌ててギターを取り出し、律は慌ててドラムスティックを取り出していた。
アハハ…。慌ててそんな事言ってもねぇ…。
《全然言葉に説得力がないな》
(あぁ。俺もそれは思ったよ)
再びイルバが的を得たツッコミをいれていた。
そんな俺たちを後目に唯はどうにかギターの演奏をしようとしたんだけど……。
「あうぅ……。ケーキ食べないと力が……」
ちょっと弾いただけでその場に座り込んでしまった。
「はい、唯ちゃん」
それを見かねたムギが一口分のケーキをフォークに刺し、そのケーキを唯に食べさせた。
すると……。
__ジャンガジャンガジャンガジャンガジャン!!!
先ほどとはうって変わり、唯は見事な早弾きを披露した。
《相変わらず単純だな、このお嬢ちゃんは》
(あぁ……。ケーキを食っただけでここまでやるとは……)
唯のやつはかなりの甘党だからな……。
そこは本当に零さんといい勝負だよ…。
零さんこと凉邑零(すずむられい)。銀牙騎士絶狼(ゼロ)の称号を持つ魔戒騎士で、牙狼の称号を持つ鋼牙さんに次ぐ実力の持ち主である。
零さんには魔戒騎士として色々教わったけど、零さんは今どうしているんだろ?
最近は会ってないけど、この間軽音部の話をしたら「俺も遊びに行きたい!」って凄く羨ましがってたっけ……。
まぁ、あの人のことだ。いつものようにホラーを狩りまくってるんだろうな…。
今度会ったらまた軽音部の話をしてあげるか……。
「す、すごい……」
俺が零さんのことを考えている間、梓は唯の早弾きに唖然としていた。
そして唯はそんな梓を見てドヤ顔を決めていた。
……普段はこんなことは出来ないくせにドヤ顔するなよなぁ…。
俺はジト目で唯を睨むと、唯はそんな俺を見て首を傾げていた。
「……ごめん、遅くなった」
すると音楽準備室の扉が開き、背の高い黒髪の女の子が中に入ってきた。
彼女は秋山澪(あきやまみお)。担当楽器はベースで、軽音部の中では一応常識人の類に入る。
見た目だけ言えば背が高くてスタイルも良くて大人っぽいんだけど、超がつくほどの恥ずかしがり屋で、痛い話と怖い話が苦手である。
そんなギャップがなければ邪美さんや烈花さんみたいに芯が強く心身ともに大人な女性って感じになるんだけどな…。
邪美(じゃび)さんと烈花(れっか)さんは魔戒騎士をサポートする魔戒法師であり、その実力は魔戒法師の中でもトップクラスである。
俺もこの2人には相当厳しくしごかれたよな…。まぁ、だからこそ今の俺があるんだけど……。
俺を含めたこの6人が軽音部のメンバーである。
メンバーが全員揃ったところで俺たちは練習ではなくティータイムに入ろうかという雰囲気になっていた。
……ま、そんなことだろうとは思ったけどな……。
「…あっ、そうだ。部室の入り口にこんな物が落ちてたんだけど何だろう、これ?」
そう言って澪が見せたのは俺たち魔戒騎士にとっては馴染みのある赤い封筒であった。
「澪、それは俺のなんだよ」
「そうなのか?ほら、今度は落とすなよ」
そう言いながら澪は赤い封筒を俺に手渡した。
(……学校で指令書を受け取るのは初めてだな……)
この赤い封筒は番犬所からの指令が入っている封筒で、魔戒騎士はこの指令をもとにホラー退治を行うのである。
「統夜、それってもしかしてラブレターか?」
「おぉ!やーくんモテモテだ!」
俺宛の封筒とわかったのか律と唯がニヤニヤしながら茶々をいれてきた……。
ったく……。なんでそうなるかなぁ…。
「そんなんじゃないって。それに、ラブレターにしちゃ派手すぎだろ、これは」
「まぁ、確かにこんな派手な封筒にラブレターは入れないか」
「ラブレターじゃなかったらそれは何なの?」
「悪いけど、それは秘密だ」
……さすがに本当のことは言えないからなぁ……。
「来たばかりで悪いんだけど、用事が出来たから俺は帰るな」
俺は回れ右をするとそのまま音楽準備室を後にした。
「え?ちょっと統夜?」
…なんか澪に引き止められたのに聞かずに出て行くのは後ろめたいけど、騎士の勤めを果たすのが最優先だからな…。
それはそのまま学校を後にすると人目のつかなそうな場所に移動すると、手に持っていた魔法衣を羽織り、魔法衣からライターを取り出した。
このライターはもちろん普通のライターではなく、魔導火を放つ魔導ライターで、俺たち魔戒騎士の必需品である。
俺は手に持っていた指令書を魔導ライターで燃やした。
普通の人が見たらあまりに異様な光景ではあるけど、こうしないと指令書の中身が見れない仕組みなのでこのようなことを行っている。
指令書は魔導火によって燃えると魔戒語で書かれた文字が浮かんできた。
「……この街に小さいが、複数の陰我あり。ただちにこれを殲滅せよ」
指令内容を音読すると、魔戒語の文字は消滅した。
内容的には恐らく素体ホラーであるのは間違いなさそうだけど……。
「複数のってことはホラーが群れてるってことか?ずいぶんと珍しいことだけど」
ホラーは一つのゲートに対して一体なので、ホラーが複数出現するケースというのは稀なケースなんだよな。
『まぁ、確かに珍しいな。相手は恐らく素体ホラーだろうが、油断はするなよ。何体いるかまではわかってないんだからな』
イルバの言う通り油断は出来ないな。素体ホラーであれば、生身でも倒せるが、何体出てくるかはわからないから少々面倒でもある。
「そうだな、肝に銘じておくよ。相手が誰であれ、全力で倒す。ホラー相手に情けは無用だろ?」
『まぁ、わかっているならそれでいい』
そう、俺は魔戒騎士。素体だろうと上級ホラーだろうと人を守るために全力で斬る。ただ、それだけだ。
複数のホラーが散らばる前にさっさと見つけてぶっ倒さないとな…。
「行こう、イルバ」
『了解だ、統夜』
俺はギターを魔法衣の中にしまうと、ホラー捜索のために行動を開始した。
〜3人称 side 〜
桜高を後にした統夜はイルバのナビゲーションを頼りにホラーの出現ポイントを探索していた。
「……イルバ、ここか?」
『あぁ。小さいが複数の邪気を感じるぜ』
イルバが探知した場所にたどり着いた時、既に日は暮れており、夜になっていた。
統夜はどこからホラーが現れるかわからないため、いつでも魔戒剣が抜けるように周囲を警戒していた。
『……!統夜!上だ!』
上空にホラーの気配を察知したイルバがすぐさま統夜に伝えると、統夜は上を向いた。
すると、この世のものとは思えない怪物……ホラーの中でも一番脆弱な素体ホラーが現れた。
統夜は素体ホラーの奇襲攻撃ともとれる攻撃を無駄のない動きでかわした。
「へへっ、奇襲とはやってくれるじゃねぇか……!」
統夜はニヤリと笑みを浮かべると、魔戒剣を抜き、構えた。
「……くらえ!」
統夜はすぐさま魔戒剣を一閃すると、斬撃一つで素体ホラーを真っ二つにした。
「…よし、まずは一体!」
『統夜!次が来るぞ!』
イルバがさらなるホラーの存在を伝えると、先程と同じ素体ホラーが今度は3体も出現した。
「へぇ、こいつら本当に群れてるみたいだな」
『統夜。こいつらが散らばったら討伐が面倒だ。ここで一気に倒すぞ』
「あぁ!もちろんだ!」
統夜は魔戒剣を構えると3体の素体ホラーが襲いかかってきた。
統夜は素体ホラーたちの爪による攻撃を身を翻したり、バク転のような動きをしたりして、華麗とも言える身のこなしでことごとく攻撃をかわしていった。
「イルバ、敵はあとこいつらだけか?」
『あぁ。こいつら以外邪気は感じないぜ』
統夜は攻撃を回避しながらイルバに現状の敵戦力を聞いていた。
イルバはホラーの気配を探知することができるため、イルバが目の前の3体以外の気配を感じないとなると、これ以上ホラーはいないということになる。
「了解した!」
統夜は戦力の確認を終えると後方に大きくジャンプをし、3体の素体ホラーと距離をとった。
「さて…。ここは「鎧」を使わずに行かせてもらう!明日も学校があるからな…。一気に決めてやる!」
改めて魔戒剣を構え、精神を集中させた統夜は再び3体の素体ホラーに斬りかかった。
「っ!」
統夜は素体ホラーたちの攻撃をかわしながら距離を詰めていった。
「まずは一体……もらった!」
素体ホラー一体の爪による攻撃を身を翻してかわすのと同時に、統夜は魔戒剣を一閃し、その素体ホラーを一撃で真っ二つにした。
「よし!あと2体だ!」
統夜が素体ホラーを斬り裂き、地面に着地するのと同時に、素体ホラー2体が左右から一斉に統夜に襲いかかってきた。
「……へへっ、甘い!」
統夜は大きくジャンプをし、2対の同時攻撃を回避した。
すかさず1体の素体ホラーが飛翔し爪による攻撃を仕掛けるが、統夜はその素体ホラーに蹴りを放ち、それを受けた素体ホラーは思い切り地面に叩きつけられた。
残りの1体も同じように爪による攻撃を仕掛けるが、統夜はそれを降下しながら回避し、その勢いのまま先ほど地面に叩きつけた素体ホラーに向かって魔戒剣を振り下ろし、そのまま切り裂いた。
「残りは一体!一気に決めるぞ!」
残り一体となった素体ホラーは未だ上空にいるが、すぐさま降下し、爪による攻撃を仕掛けた。
しかし、それは軽々とかわされてしまった。
「遅い!そんな攻撃で俺を殺せると思うなよ!」
統夜は先ほどから常人の動きとは思えないアクロバティックな動きでホラーの攻撃をかわし続けているにも関わらず、息一つ乱していなかった。
統夜は魔戒騎士として一般人では想像もつかないほど厳しい修行を乗り越えているため、それ程の体力があるのは当然である。
素体ホラー一体を相手にばてていては他のホラーには勝てないだろう。
統夜はトドメを刺すべく魔戒剣を一閃するが、その一撃はそれてしまい、素体ホラーの左腕を斬り落とすのみとなってしまった。
「……ちっ!仕留め損ねたか」
今の一撃で全てを終わらせる予定だった統夜は予想外の出来事に舌打ちをしていた。
『統夜、今のは踏み込みが浅いぞ。奴の腕を切り落とせたのは運が良かったと思え』
「イルバ!戦いのダメ出しは後にしろ!」
戦闘中にダメ出しを入れるイルバに統夜はもっともなツッコミをいれていた。
そんなやり取りの間、素体ホラーは腕を切り落とされた痛みから苦しんでいる様子であった。
「でも結果的には奴の動きは鈍くなったんだ」
統夜は魔戒剣を力強く握りしめていた。
「……これで終わりだ!」
統夜の力強い一線が素体ホラーを真っ二つにし、今度はうまく仕留めることに成功した。
「……さて、これで一丁あがりだ!」
統夜は魔戒剣を青い鞘に納めると、それを赤いコート…魔法衣の懐にしまった。
「さてと……。イルバ、他にホラーの気配はないな?」
『あぁ、今仕留めたので全部だ』
「よし……これでお仕事完了だな。イルバ、帰ろうぜ」
『あぁ。……それより統夜。さっきの戦いだが……』
ホラーを殲滅し、指令書の仕事をこなした統夜は早々に帰路についた。
しかし、その帰り道はイルバによる戦いのダメ出しが出され、統夜は少しばかりげんなりとしていた。
……続く
__次回予告__
『やれやれ……。軽音部があまりにもだらけているせいであのちっこいお嬢ちゃんは何か思いつめているようだな……。これは陰我が出そうな危険な感じだぜ!……次回、「騎士!」白銀の刃がその輝きを見せる!』
今回統夜は鎧を召還しませんでした。
次回は統夜の鎧が登場します。
果たして統夜の身につける鎧とはどのようなものなのか?
次回をお楽しみ下さい!