機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ異伝 ~死の戦記~ <完結>   作:二円

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 原作ブレイク始まります


第六話 宇宙(ソラ)で果たす願い

 モンターク商会との商談が再開され、

最終的に取引は成立し、

地球降下の船を得る事が出来た。

 

 だが問題がこれで解決出来た訳ではない。

地球軌道周辺を管轄する防衛艦隊『地球外縁軌道統制統合艦隊』が、

地球降下を防ぐべく待ち構えているからだ。

 

 これを如何にして突破するか、

その打ち合わせが行われ、

無茶にも程がある作戦とは呼べない作戦が立てられた。

 

 俺はイナヅマ号とクタン参型のチェックを行っていた。

今回の作戦でイナヅマ号は、

クタン参型とドッキングして出撃する事になっているからだ。

ドッキング調整だけではない。

今回の戦闘で使用する事になる新装備のチェック等、

やる事は沢山ある。

 

 コクピットシートに備え付けてあるサバイバルキットの、

装備点検をしていた時だった。

 

 目の前を何かが漂っているのに気づき、

その方向に目を向けた。

 

 そこには体育座りで漂っていたユージンが、

溜息をついていた。

 

 格納庫内は無重力状態なので、

体育座りで漂っているその姿はシュールに見える。

 

 傍から見れば落ち込んでいるようにも見えるが、

原作を知っている俺はあえて知らない振りして声を掛ける事にした。

 

「どうしたユージン?

辛気臭い溜息なんかついて」

 

「つきたくもなるだろ。

俺がしくじりゃ鉄華団全員お陀仏なんだぞ」

 

「気負ってるのか?」

 

「ったりめーだろ!

俺を何だと思ってんだ?」

 

 壁を蹴ってその反動でこちらに近づき、

掴みかかるユージンに、

俺は何も抵抗しなかった。

 

「怒る事ないだろう?」

 

「……あぁ、

わりぃ」

 

 掴んでいた手を離し、

ユージンは謝罪した。

 

「別に死ぬのが怖いってわけじゃねえんだ。

チャラ付いた自分捨てて、

ガツッとした男になりてえって思ってんだ。

全員の命を預かるってのに憧れていたからよ。

絶対に失敗したくねえんだ」

 

 ユージン、

気づいていないだろうな。

遠まわしにオルガに憧れているって言ってるぞ。

それを指摘したら、

怒るだろうからあえて言わないけど。

 

 だからもう一つ、

ユージンが気づいていない事を指摘しておこう。

 

「そいつは無理だな」

 

「んだと!」 

 

 またも掴みかかるユージン。

 

「だって、

もう既にガツッとした男になってるからさ」

 

「えっ?」

 

 てっきり否定的な言葉が来ると思っていたユージンは、

呆気に取られていた。

 

「『オルクス商会』や、

ギャラルホルンの船に追われていた時の事を覚えているか?」

 

「……覚えてるが、

それが何だよ」

 

「その時イサリビ前方に小惑星があって、

これを利用する計画を立てた。

小惑星に向けてアンカーを射出して打ち込んだ所を支点として、

遠心力を利用した急転回で追跡をかわそうという計画だったよな?」 

 

「え、えんしんりょく?」

 

 しまった、

ユージンには遠心力は分からなかったか。

説明するのは面倒なのでそのまま続けよう。

 

「この計画の問題は、

打ち込んだアンカーをどう外すかだ。

普通に抜こうとすれば時間が掛かって追いつかれる。

そこでアンカーの先に爆弾を仕掛ける事になった。

だが更に問題が一つ。

どう起爆させるかだ。

遠隔操作の物を造るには時間が足りない。

そこでMWで遠距離からの攻撃による直接起爆をする事になった。

MWの操縦は最初はオルガがやるつもりだったが、

ユージンが反対して、

代わりに自ら操縦を志願した。

そうだろう?」

 

「ああ。

よく知ってんな」

 

 テレビで見たからと思わず言いそうになるのを堪え、

話を続ける。

 

「あれはかなり危険だった筈だ。

下手をすれば、

イサリビが小惑星に衝突。

乗っていた鉄華団全員が死んでもおかしくなかった。

気づいているかユージン。

あの時、

鉄華団全員の命を預かっていたんだ。

危険なあの作業を成し遂げたユージンは、

間違いなくガツッとした男さ」

 

「そ、そうか?」

 

「そうさ。

だから今度もまた同じようにやればいいだけさ。

簡単だろ?」

 

「……ったりめーだろ」

 

 何時の間にか掴んでいた手を離し、

ユージンは腕を組んで背中をこちらに向けていた。

どうやら照れているらしい。

もう一押しと良くか。

 

「だから今回もカッコ良い所を見せてくれよ。

俺もユージンみたいに、

カッコ良くなれるように頑張るからさ」

 

 これで良いだろう。

そう思った俺は作業を開始しようとした。

 

「……頑張ってんだろシノは」

 

「え?」

 

 ユージンの声に手を止めた。

まだ話は終わっていなかったらしい。

 

「最近のシノはさ、

すげえ頑張ってんじゃん。

女の話とか全然しねえし、

アホな事しなくなったしさ」

 

 酷い言われようだったが、

似たような事を聞いていたせいか慣れてきた気がする。

 

「ドルトコロニーの戦闘、

覚えてるか?

イサリビに近づくMS二機に、

あんた一機で立ち向かって返り討ちにしたよな」

 

 忘れる筈がない。

あの戦闘は運が良かった所があった。

 

「あれ見た時、

シノのくせにやるじゃねえかって思ってよ。

だっていつも詰めが甘いからヘマすんじゃねえかって思ってたからよ。

葬式の時、

不甲斐ない自分を変えてえって言ってたのを思い出してな。

頑張ってんだなって思ったよ。

だから頑張るなんて言うんじゃねえよ。

そんなの何もしてねえって言ってるようなもんだ。

既に頑張ってんだからよ」

 

 俺は言葉を失った。

まさかユージンに励まされるとは思いもしなかったからだ。

奇妙な感動を覚えるのは何故だろうか?

思わず本物のユージンかと思い、

ジッと見ていた。

 

 返事をしない事に不審に思ったユージンが、

こちらに顔を向けた。

 

「な、何だよ?」

 

 俺がジッと見ていた事に気づき、

たじろぐユージン。

まずい。

何とか誤魔化さないと。

 

「いや、

自分の事は案外気づかないもんだなと思ってさ。

それでこれからどうする?」

 

「どうするって何だよ?」

 

「お互い自分が凄いって事に気づいたんだ。

目標を変えるかって話さ」

 

「ざっけんじゃねーぞ。

男なら自分の決めた事ホイホイ変えるもんかよ。

悪いか?」

 

「いや、

良いんじゃないか?

またカッコ良い所見せてくれよ」

 

「ふん、

言われるまでもねえよ。

それよりもシノ、

てめえしくじるんじゃねえぞ。

ある意味、

鉄華団の命を預けるんだからよ」

 

「分かってるさ。

だから凄い力を見せつけてやろうぜ。

お互いにな」

 

「ふん、

ったりめーよ」

 

 ユージンが拳を握って腕を突き出した。

ノルバ・シノの記憶でそれが何を意味しているのかを知っている。

俺もユージンと同じように拳を握り腕を突き出した。

 

 互いの拳が軽くコツンと突き合わされた。

『互いに勝利と幸運を』という意味のジェスチャーだ。

 

 突き合った反動で、

ユージンがゆっくりとだが離れ背を向ける。

 

「よーし、

いっちょうやってやるぜ!」

 

 気炎を吐いて格納庫から出て行った。

さっきまでの緊張が嘘のようだ。

 

 突き合った拳をなぞる。

まさかユージンと拳を突き合うとは思わなかった。

驚きはしたが、

嬉しさが大きかった。

 

 鉄華団の一員として認められた。

そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 準備を終え、

無茶にも程がある作戦とは呼べない作戦が始まった。

 

 今回の目的は、

クーデリアを降下船に乗せて地球に降下させる事だ。

それを地球外縁軌道統制統合艦隊が行く手を阻んでいる。

 

 クーデリアが地球に行く目的は、

アーブラウ政府とのハーフメタル資源の取引公正化の交渉のためだ。

 

 アーブラウ政府側の交渉役は、

『蒔苗 東護ノ介』。

彼は今『オセアニア連邦』圏内に属する孤島『ミレニアム島』に構えた別荘にいる。

 

 彼に会うためには、

ミレニアム島に降下する必要があり、

それを知っているギャラルホルンは、

ミレニアム島地球降下ポイントに艦隊を配置していた。

 

 遠回りは出来ない。

何とか突破する必要があった。

 

 そこで二手に分かれる事になった。

イサリビ組と地球降下組。

イサリビ組が敵の目を引きつける囮役。

その間に地球降下組が敵の目を掻い潜り地球に降下する。

 

 俺は地球降下組に組み込まれ、

イナヅマ号とクタン参型のドッキング状態で出撃していた。

 

 作戦開始時、

地球降下組は待機していた。

イサリビ組が敵を撹乱させ、

敵の監視網に穴が開く瞬間に突入する必要があるので、

そのタイミングを計っていた。

 

 イサリビ組は敵陣に真っ直ぐ突っ込んでいた。

敵は横一列に並べる『横陣』の陣形でこれに対応。

砲撃を開始した。

 

 真っ直ぐ突っ込むだけなので、

堕とすのも容易いと思っていただろう。

しかし今回の作戦のために何と、

ブルワーズの戦利品で手に入れた、

ブルワーズの船一隻を、

イサリビの盾役として航行していたのだ。

 

 そのため砲撃の弾はイサリビに当たらず、

ブルワーズ船に命中。

航行に支障なくそのまま進んでいく。

 

 この予想外の行動に、

敵は両翼を前方に出したVの字型の陣形『鶴翼』で対応する。

敵が両翼の間に入ると同時に閉じ、

包囲殲滅させるつもりだ。

 

 これによりイサリビにも敵の砲撃を受けた。

このままではイサリビは大破するだろう。

 

それを避けるために、

イサリビの操舵役のユージンはブルワーズの船のコントロールを、

イサリビと同じく阿頼耶識で動かすという行動に出る。

 

 阿頼耶識による二隻の操船はジグザグに動き、

敵の砲撃を迷わせる。

どちらの船を先に攻撃したほうが良いか?

前方の船か?

後方の船か?

そうした迷いが結果的に砲撃の手を緩める形となり、

遂に敵陣中央にイサリビが辿り着く。

そしてブルワーズの船が爆発した。

 

 敵の砲撃ではない。

イサリビからの遠隔操作だ。

そしてそれは合図でもあった。

 

「よし行くぞ!」

 

 オルガの合図と共に、

ブーストを吹かす。

クタン参型のサブアームには多数のランチが抱えられていた。

その中にはオルガがいた。

 

 鉄華団の命を預けるというユージンの言葉はそういう事だ。

俺は地球降下組が乗っているランチを抱えて航行しているのだ。

 

 その事に緊張はなかった。

気をつけるべきは敵に見つからないようにする事だ。

万が一見つかったとしても、

護衛役のバルバトスとグシオンリベイクがいる。

 

 今敵の監視網は塞がれている状態だ。

何故ならブルワーズの船には、

特殊塗料を塗布したチャフ『ナノミラーチャフ』が満載されており、

それが撒き散らされた事で、

レーザー通信や光学探知が妨害され、

レーダーが使用不能状態になっている。

 

 突入には最高のタイミングだ。

ブースト最大加速し使用不能の警戒網を抜けていく。

 

 その時、

後方が明るくなったのに気づき目を向ける。

 

 敵艦隊が周囲にミサイルを発射し、

ナノミラーチャフを焼き払ったのだ。

まずい、

レーダーが回復する。

 

 俺は急いでブーストを切り、

慣性航行で進む事にした。

 

 敵艦隊の動きを見るが、

特に変わった動きは見られない。

気づかれなかったようだ。

 

 そのまま慣性航行を続けていくと、

その先にモンターク商会が用意した地球降下船があった。

 

「シノ、

ここで放してくれ」

 

 オルガからの通信で、

抱えていた多数のランチを開放する。

 

 彼等が地球降下船に搭乗し、

降下準備に入る。

 

 それをバルバトスとグシオンリベイクが警護している間、

俺はイサリビを見ていた。 

 

 一時的にレーダーが使用不可能になり、

イサリビを見失った敵は、

イサリビを探していた。

 

 原作を知っている俺は、

イサリビの位置に辺りをつけていた。

予想通りにイサリビはそこにいた。

 

 地球軌道上に存在する、

ギャラルホルンサテライトベースの一つ『グラズヘイム1』。

地球外縁軌道統制統合艦隊の駐屯地の真下にいた。

そして急加速をしてグラムヘイム1向かって特攻したのだ。

 

 イサリビを止めようにも、

基地に当たる可能性があって敵は砲撃出来ない。

 

 そうこうしている内に、

イサリビはグラムヘイズ1と激突。

グラムヘイズ1は居住区を損傷し、

イサリビはその勢いのまま離脱していく。

 

 本来ならば、

イサリビを追跡すべきだが、

居住区を損傷し、

地球に落下する可能性があるグラムヘイズ1を捨て置けず、

救助を優先。

敵艦隊は動けなくなった。

 

「さすがユージン。

カッコ良かったよ」

 

 賞賛の声を上げていた俺は、

直ぐに周囲を見渡す。

この先の展開を知っている俺からすれば、

気をつけなければならない場面だ。

 

 真上を見る。

するとそこに動く光を見つけた。

こちらに向かって近づいている!

 

「三日月!

昭弘!

真上に敵が来る!」

 

 警告を発し、

イナヅマ号を動かしその場を離れる。

 

 すると暫くして、

俺のいた所に弾丸が通過した。

 

 発射された弾丸の方角を見れば、

すでに二機のMSが視認出来るまでに接近していた。

キマリスとシュヴァルベ・グレイズだ。

 

 俺はシュヴァルベ・グレイズに向けて、

サブマシンガンを単発射撃モードにして引き金を引く。

シュヴァルベ・グレイズはこちらに気づき弾丸はかわし、

こちらに向かって来た。

対するキマリスはバルバトスに向かって行き、

一対一の状態に持ち込まれた。

こちらにとっては好都合だ。

 

 俺はイナヅマ号を急加速させ、

シュヴァルベ・グレイズに接近し、

イナヅマチョッパーを振るった。

 

 シュヴァルベ・グレイズはアックスで受けるも、

急加速の一撃に耐えられなかったのか、

アックスを手放す。

 

 チャンスだと思い踏み込もうとしたが、

シュヴァルベ・グレイズの左腕がこちらに向けていたのを見て、

慌ててその場を離れた。

 

 シュヴァルベ・グレイズの左腕にはワイヤークローがあった。

射出して拘束される可能性があったので、

離れたのは正解の筈だ。

 

 見ればシュヴァルベ・グレイズはアックスを回収せず、

ライフルをこちらに向けて撃っている。

 

 今のイナヅマ号はクタン参型とドッキングしている状態だ。

その分大きくなっており被弾しやすい。

 

 俺は弾丸をかわしつつも再接近を試み、

今度はバースト射撃に変更し射撃を行う。

 

 シュヴァルベ・グレイズは最小の動きで弾丸をかわし、

左腕をこちらに向け、

ワイヤークローを射出した。

 

 当たるわけにはいかない。

俺はイナヅマ号を円を描くように動かし回避した。

 

 チャンスだ!

俺はワイヤークローを回収しているシュヴァルベ・グレイズに接近する。

 

 その時、

イナヅマ号後方に衝撃が走った。

ドッキングしたクタン参型に何かが当たったようだ。

確認してみると何と、

クタン参型のブースターにアックスが刺さっていた!

しかも柄部分にワイヤークローが掴んでいる!

 

「やられた!」

 

 アインにしてやられた!

ワイヤークローの射出先に先程手放したアックスがあった。

それを掴み振り回す事で、

クタン参型のブースターにアックスの刃を突き刺したのだ。

 

 気がつけばシュヴァルベ・グレイズがライフルを撃ってきた。

狙いが分かり慌ててブースターを切り離そうとするが遅かった。

 

 ブースターに着弾し、

その時発生した火花がアックスの突き刺した部分から漏れた燃料に引火。

ブースターは爆発し、

その連鎖に巻き込まれる形でクタン参型は誘爆した。

 

 ドッキング解除し避難しようとしたものの、

爆発の衝撃に飲み込まれ、

イナヅマ号は一時行動不能に陥った。

 

 衝撃が収まり何とか体制を整えようとした時、

頭部と腕部の動きがおかしくなっている事に気づいた。

見ればワイヤーで、

頭部や腕部の間接部分が巻きつけられていた。

 

 シュヴァルベ・グレイズがイナヅマ号後方から、

ワイヤークローを使って、

頭部や腕部の間接部分を巻きつけ拘束したのだ。

 

「これなら阿頼耶識とやらも関係あるまい!」

 

 アインからの通信が入る。

 

「クランク二尉はお前たちに手を差し伸べてくれたはずだ。

それをお前らは振り払った!」

 

「あの人は自分で死にたがっていたぞ」

 

 俺は原作で見ていて思った事をアインにぶつけた。

 

「出鱈目を!

クランク二尉はお前達を救う心算だった!

それを何故信じない!」

 

「仕掛けたのはそちらだろう?

それで助けるなんて虫が良すぎると思わないか?」

 

「なんて狭量な!」

 

「あんた程じゃない」

 

「クランク二尉を死に追いやった罪、

悔い改めさせて貰う!」 

 

 殺す気はなさそうだが、

安心出来る筈がない。

この状況から脱する必要がある。

 

 イナヅマ号の右肩のブースターを前に稼動させ、

それぞれ手にした武器を手放す。

 

「何の心算だ?」

 

 武器を手放した事に不審に思うアイン。

先程の会話からまだ戦うと思っていたので、

降伏するとは思っていないようだ。

 

「あんたに救われる心算はないよ」

 

 イナヅマ号の左手のナックルガードの先端を

ワイヤーに触れさせる。

ワイヤーを解く事が出来ないが、

触れる事が出来たのは幸いだった。

 

「何?」

 

「代わりに、

あんたを救ってやるよ!」

 

 スイッチを押す。

すると左手のナックルガード先端から、

青白い光が巻きついたワイヤーを通して流れ、

射出口に到達。

シュヴァルベ・グレイズの動きが鈍くなった。

 

「電気ショックか!」

 

 アインの忌々しい声が聞こえる。

ワイヤー射出口をパージし離れようとする。

俺はその隙を見逃さなかった。

 

 イナヅマ号の両肩のブースターを吹かす。

両肩共に別々の方向にブースターが吹かした事で、

イナヅマ号はその場でクルリと回った。

ターンブーストってやつだ。

 

 そして左手をシュヴァルベ・グレイズに向け、

腕に取りつけた新装備『ネットランチャー』を射出。

筒状に固まっていた網が展開し、

シュヴァルベ・グレイズを包み込んだ。

 

「何だと!」

 

 まさか網を投げられるとは思わなかっただろう。

至近距離だったためにかわす事が出来ず、

シュヴァルベ・グレイズは身動きが取れなくなった。

 

 ワイヤーによる拘束を解いた俺は、

直ぐに網に包まれたシュヴァルベ・グレイズを押さえつけた。

 

「拘束するなら、

拘束されても文句は言えんよな」

 

「きっさまあ!」

 

 シュヴァルベ・グレイズが暴れようとするが、

絡まって動くに動けない。

 

「離せ!

この……」

 

 暴れるのを止め、

ある方向に顔を向けるシュヴァルベ・グレイズ。

その方向を見ると、

その先に二機のMSが見える。

 

 そこにいたのは、

バルバトスと自身の槍に貫かれたキマリスの姿だった。

 

 「ボードウィン特務三佐あぁ!」

 

 アインの悲痛の叫びが響く。

その隙を俺は見逃さなかった。

 

「イナヅマナックル!」

 

 ずっと考えていた技名を宣言し、

必殺の一撃を叩き込む!

 

 右手のナックルガードを振るい、

シュヴァルベ・グレイズのコクピットに叩き込まれ、

ナックルガードの先端から高電圧の電気ショックが放たれた!

網に包まれていたために、

青白い光は網を通して全身に流れる

アインの悲鳴が聞こえなかったが、

通信が故障したのだろうか?

 

 電気ショック放出を終え、

ナックルガードを退かし、

シュヴァルベ・グレイズの様子を確認する。

動く気配はなった。

レーダーを見るとエイハブウェーブの停止が確認された。

 

 手応えはあった。

しかし安心はしなかった。

原作を知っている俺は、

もしかしたらアインが生きているのではと思っていた。

 

 手放した武器を回収し、

念のため追撃を行う。

 

(アイン死んでくれ!)

 

 イナヅマチョッパーを振るい、

願いを込めた一撃をコクピットに叩きつけた。

さらにスラスターによる更なる追撃により、

コクピット部分が破損した。

 

 これでもうアインは生きていないだろう。

そう思いたかった。

だが万が一生きているという可能性を

完全に払拭出来なかった。

 

 更なる追撃を行おうとすると、

オルガからの通信が入った。

 

「降下準備に入った、

シノ早く戻れ!」 

 

 戻らないといけないようだ。

急がないと地球降下船が大気圏に突入してしまう。

 

 ……大気圏?

俺はある事を思いついた。

網に包まれたシュヴァルベ・グレイズを引っ張り、

地球降下船に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球降下船に近づくと、

その上に機体を固定している三機のMSの姿があった。

 

「来たかシノって、

何だよそれは!」

 

 こちらに気づいた昭弘が驚きの声を上げた。

 

「こいつのワイヤーに絡まったから、

そのまま引っ張ってきたんだ。

今ようやく解けた所さ」

 

「だったら捨てとけよ!」 

 

「分かってる。

ほらよっと!」 

 

 網に包まれたシュヴァルベ・グレイズを、

地球に向けて思い切り投げた。

 

 このまま何もしなければ、

シュヴァルベ・グレイズは地球の重力に引かれ、

落ちていくだろう。

その途中で熱圏に突入する事になる。

熱圏に突入時、

その進行方向にある大気を圧縮して高熱状態になる現象、

断熱圧縮による空力加熱が発生する。

 

 この時の表面温度は千度を超える。

つまりシュヴァルベ・グレイズは千度以上の熱に、

包まれる事になる。

 

 ここまでやれば、

アインも生きてはいまい。

ようやく殺す事が出来たと安堵した。

 

「何やってんの?

早く降りなさいよ」

 

 タービンズ所属MSパイロット『ラフタ・フランクランド』からの通信が入った。

 

「ラフタさん?

ひょっとして隣にいるのはアジーさんか?」

 

 原作を知っていたので何故ここにいるのかは知っていたが、

あえて知らん振りして尋ねた。

 

「そうだよ。

名瀬にあんた達の事頼まれてね。

まあよろしく」

 

 タービンズ所属MSパイロット『アジー・グルミン』から返事が来た。

その間にイナヅマ号を着地し、

機体固定に入る。

 

「ちょっとぉ、

この機体の事聞かないの?」

 

 ラフタさんが自身が乗っているMSについて聞いてきた。

百錬ではない見た事のないMSを前に無反応なのが面白くないらしい。

 

 ここは知らん振りではなく、

原作の知識を活用しよう。

 

「上手く偽装してますね。

装甲の換装大変だったでしょう?」

 

「へえ……」

 

「何だ分かってんじゃん。

これは『漏影』っていうの。

よしくね!」

 

 一目で百錬を改修した機体である事を見抜いた事で感心された。

タービンズの方々はノルバ・シノをピアスのアホと評価しているので、

これで少しは払拭されたと思いたい。

 

「もうすぐ突入する。

しっかり掴まってろよ!」

 

 オルガからの通信が入る。

地球降下船は四十度程の迎角を取りつつ、

降下していく。

しかし目の前のグシオンリベイクは上を向いて、

完全な機体固定に入っていない。

 

「昭弘!

機体の固定急げ!

放り出されんぞ!」

 

「けどよ三日月がまだ……」

 

 おやっさんからの注意を受けても、

グシオンリベイクは固定を完全にせず、

上を向いている。

 

 理由は分かっている。

三日月が来ていないからだ。

 

 三日月は今敵MSと戦闘中の筈だ。

こちらからは動けない。

 

 地球降下船の船底に施された熱保護シールドが過熱し始めた。

熱圏に突入したようだ。

 

 やがて熱保護シールドが灼熱と化し、

周囲の空気がプラズマ化。

気流が乱れ、

地球降下船が不安定になりガタガタと揺れる。

 

「三日月!」 

 

 昭弘の叫びが聞こえるが、

俺は展開を知っているからか全く心配していなかった。

それよりも安堵感が大きかった。

 

 もう一度今回の事を振り返ってみようと思った。

 

 今回俺はこの戦いで、

アインを殺そうと考えていた。

この先の展開で、

ノルバ・シノがアインとのMS戦闘で、

深手を負うのだ。

 

 幸い生きていたが、

運が良かったとしか言いようがない。

あれが俺なら死ぬ可能性が高い。

 

 死ぬ可能性が高い要因は排除するに限る。

俺はアインをどうやって殺すか考えていた。

 

 気をつけなければならないのは、

シュヴァルベ・グレイズのワイヤークロー。

これで動きを封じられると危険だ。

 

 そこで当初は、

ワイヤークローのような拘束具で、

シュヴァルベ・グレイズを拘束する事を考えた。

 

 それに見合う装備品はあった。

ブルワーズの戦利品の一つ、

ネットランチャーだった。

デブリ回収用のネットらしいが、

獲物を捕らえるモノでもあったらしいそれは、

シュヴァルベ・グレイズを拘束するのにピッタリだった。

 

 ネットランチャーでシュヴァルベ・グレイズを

網に包み込み拘束する作戦。

それだけで俺は満足しなかった。

 

 もしもワイヤークローで拘束された時の対策を考えた。

ワイヤーを切断するワイヤーカット、

後方を攻撃できる特殊武装等、

考えに考えた。

 

 沢山のアイディアの中から選んだのは、

ワイヤーに電気ショックを流し、

ワイヤークローをパージさせる事だった。

 

 電気ショックというアイディアは、

とある装備を思い出したからだ。

 

 テイワズ製MS百錬。

実は百錬には放電機構を備えるナックルガードが、

サイドアーマーに取り付けてあるのだ。

 

 それを思い出した俺は、

タービンズの方々に聞いてみると、

何とそれ以上の高電圧の放電機構を備える、

大型ナックルガードがある事を知る。

 

 お荷物扱いのソレを譲ってもらい、

イナヅマ号に取り付ける事が出来た。

タービンズの方々には感謝の念が絶えない。

 

 大型ナックルガードの電気ショックは強力で、

MSのコクピットに直接触れて流せば、

対策を施していない限り、

システムをダウンさせ、

エイハブウェーブを停止させる事が出来る。

ただし使用すれば、

チャージに時間が掛かるため連続使用する事は出来ない。

 

 また漏電の危険があるため、

漏電防止処理を施す必要がある。

イナヅマ号の完成に一番時間が掛かった作業だった。

 

 でも効果はあった。

ワイヤーに拘束された時、

間接部分に巻きつけられていた。

この時ワイヤーに電気を流せば、

当然間接部分にも流れる事になる。

しかし予め施した漏電防止処置により、

システムに異常をきたす事無く動く事が出来た。

 

 もしもの時に備えた作戦が上手くいったのも良かったが、

シュヴァルベ・グレイズを拘束した時のタイミングも良かった。

 

 原作では、

バルバトルがキマリスの槍を奪い、

キマリスに向かって投げ、

そのまま何もしなければ撃墜するかという所で、

シュヴァルベ・グレイズがキマリスを突き飛ばし、

代わりにシュヴァルベ・グレイズが撃墜した。

 

 つまり、

シュヴァルベ・グレイズが動かなければ、

キマリスが撃墜する事になる。

拘束したのはこのためだ。

 

 シュヴァルベ・グレイズが拘束された事で、

キマリスの撃墜を目撃し、

アインは絶叫した。

その隙を逃す筈がなかった。

 

 あとはトドメを刺すだけだった。

予め考えていた必殺技を放つ事が出来て気分が良かった。

 

 因みにこの電気ショック攻撃が、

イナヅマ号の命名の理由だったりする。

だから大型ナックルガードを取り付けなかったら、

イナヅマ号と命名しなかっただろう。

 

 とにかく、

上手くいって本当に良かった。

心からそう思う。

安堵感に浸っていた時だった。

 

「三日月!」

 

昭弘の叫びが聞こえる。

気がつけば地球降下船は水平状態に降下していた。

どうやら熱圏を抜けたらしい。

原作の記憶を頼りに、

三日月のいるであろう方向に目を向ける。

 

 そこに何かが落下しているモノが三つあった。

その内二つが重なって見えるので、

最大望遠にして見る。

 

「ええっ!」

 

 思わず驚きの声を上げていた。

それに反応した昭弘や他の面々も、

イナヅマ号が見ている方向に目を向けた。

 

「三日月!」

 

 誰かの驚きの声が重なっていた。

 

 視線の先にはバルバトスがいた。

しかし熱に焼かれていなかった。

近くのMSをサーフボードのように盾にして、

自身が焼かれるのを防いでいたのだ。

 

 三日月は生きていた。

それは別に驚きはしなかった。

驚いたのはその盾にしたMSだった。

 

 そのMSは網に包まれていた。

バルバトスは網の余った部分を掴んでいた。

 

 そのMSは俺が投げたシュヴァルベ・グレイズだった。

どうやらバルバトスの近くまで流れていったようだ。

 

 もう一つの落下物こそが、

三日月が盾にする筈だったMSだった。 

 

「おい、

あれはシノが投げたものじゃないか?」

 

「……そうみたいだ」

 

 昭弘の問いに苦笑いで答える。

まさかこんな事になるとは思いもしなかった。

 

 熱圏を抜けた事で、

盾にしたMSをバルバトスは蹴り上げ、

こちらに近づいて来た。

 

 三日月が生きていた事に対する歓声の声が聞こえる中で、

俺はバルバトスと同じものを見ていた。

 

 それは月だった。

暗い夜にひっそりと輝くそれは、

真っ暗闇の中に差す一筋の光、

希望に見えた。

 




次回予告
「遂に来た、
いや帰ってきたと言うべきかな?
最大の死亡要因を潰したからって安心しちゃいけない。
これから起きるであろう悲劇を食い止めなきゃならないからな。
そのためにはどんな手を使っても構いやしない。
既に俺の手は汚れてる。
そして染まってる。
次回『片棒』。
その思惑に乗ってやるよ」

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