機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ異伝 ~死の戦記~ <完結> 作:二円
お待たせしました。
MS発進準備を終え、
俺は待機室でオルガからの連絡を待ちつつ、
これからの展開について確認していた。
ドルト3本社ビル前で、
待遇改善を求めて抗議デモを行うコロニー労働者達。
しかし突然、
ドルト3本社ビルで謎の爆発が発生。
ギャラルホルンが武力鎮圧を開始し、
抗議デモを起こしていたコロニー労働者達全員が射殺される。
これをテレビ中継で見ていた他のドルトコロニー労働者達は、
武装決起する。
各ドルトコロニーからドルト3に向かうため、
奪った武装ランチやMSで出撃するが、
事態を予め予想していたギャラルホルンが、
武器やスラスターを細工していたために使えず、
無防備な状態に晒され、
制圧という名の虐殺が行われる。
コロニー港を封鎖され動きを封じられたオルガ達は、
偶然接触してきた報道陣を同行させ、
報道専用通信とランチを利用してドルト3を脱出。
当初はテイワズに迷惑が掛かると考え、
静観を決めていたオルガだったが、
苦しんでいるコロニー労働者を救済したいクーデリアや皆の意向を受け、
この戦いに介入する事を決意する。
……ここからだ。
この戦いで俺はMSという巨大ロボットに乗って、
初の実戦を経験する事になる。
大きく硬くむせる物を自分の手で動かすという、
男なら憧れるかもしれない体験をしようというのだ。
生死が掛かっているというのに、
不思議と恐れは無く、
むしろ高揚としていた。
ノルバ・シノの影響だろうか?
そんな事を考えていると、
備え付けているモニターが起動し、
画面にメリビットさんが現れた。
「団長さんから通信が着ました。
これから団長さんの指示を伝えます」
オルガからの指示を聞いた後、
俺はバルバトスが待機しているハンガーへ向かった。
オルガの指示は大まかに分けて二つ。
一つ。
指定された地点にバルバトスを運び、
三日月に渡す事。
二つ。
バルバトスの受け渡しが確認されたら、
オルガ達が乗船している報道専用のランチが、
移動を開始するので、
イサリビは指定された地点で合流する事。
俺に与えられた指示は、
バルバトス輸送の護衛、
その後ギャラルホルンの目を引きつけさせ、
オルガ達がイサリビに合流出来るようにする事だった。
直ぐにMSに搭乗すべきだが、
俺にはやる事があった。
バルバトスに近づくと、
コクピットに近づこうとしている人が見えた。
『ダンテ・モグロ』だ。
原作では、
バルバトスを動かして三日月に渡そうとしたが、
阿頼耶識接続の瞬間に失神してしまう。
時間ロスを減らすためにもそれは避けなければならない。
ダンテに向けて大声を上げる。
「ダンテ!
バルバトスに乗るな!」
俺の大声に反応して、
ダンテが俺の方に振り向いた。
「シノじゃねえか。
大丈夫だ。
シミュレーションはこなしてるからよ」
「馬鹿野郎!
バルバトスの阿頼耶識は三日月用に限界までリミッターを外してあるんだ!
あんたじゃ情報量に耐えられないからやめておけ!」
「何だよいきなり。
そんなのやってみなけりゃわかんねえだろ?」
「おい!
何やってんだ!」
おやっさんがダンテの方に近づいて来た。
さっきの大声で気付いたようだ。
「バルバトスに乗って三日月さんに届けるんだって」
コクピット近くにいた『ライド・マッス』がおやっさんの質問に答えた。
「バッカ野郎!
バルバトスの阿頼耶識は三日月用に限界までリミッターを外してあんだ!
おめぇじゃ情報量に耐えられるわけねぇだろうが!」
おやっさんの怒号を聞いたライドは噴出した。
「ははは!
おんなじこと言われてやんの!」
ダンテはバツの悪そうな顔をし、
おやっさんは何で笑うのか分からないという顔をしていた。
ライドの笑いを誰も止めない間に、
俺はコクピットに近づく事が出来た。
ダンテの肩を掴み、
阿頼耶識を接続しないようにする。
「やめておけダンテ。
バルバトスを動かせるのは三日月だけだ。
誰も動かせない以上、
輸送機を使って運んでいくしかない。
出来るかダンテ?」
輸送自体を止めるのではなく、
方法を変更する事を提案する。
それを聞いてダンテはため息をついた。
「分かったよ。
あれのシミュレーションもこなしてるからよ」
ダンテのバルバドスの搭乗阻止後、
急いで俺はMSに搭乗した。
MSは降ろされデッキに固定後、
カタパルトまで自動的に移動する。
もうすぐ出撃だ。
この感覚はシミュレーションじゃ味わえないな。
ゆれ続ける振動を味わっていると、
ヤマギからの通信が入った。
「どうしたヤマギ?」
「シノ、
さっきの話なんだけど……」
後にしてくれと言いそうになったが、
最後まで聞く事にした。
「嫌とかそういうわけじゃないんだ。
ただ最近のシノ、
すごく思い詰めているような気がして」
思い詰めてるか。
確かにこの先の展開に、
どう対処するか色々悩んでいたからな。
他人から見たらそう見えても可笑しくない。
「死なないで」
辛そうな顔をするヤマギ。
まずい、
誤解を解かないと。
「勘違いするなよヤマギ。
俺は死に場所を求めちゃいないんだからな。
生き残る気満々さ」
果たしてこれで伝わっただろうか?
「……頑張ってね」
そう言うとヤマギは通信を切った。
伝わったよな?
そう信じたい。
機体の揺れが止まった。
メリビットさんからの通信が入る。
「エアロック作動。
カタパルトハッチ開放」
目の間のハッチが開かれていく。
折りたたまれたカタパルトレールが、
一本の道に伸ばされる。
「カタパルトスタンバイ。
何時でもどうぞ」
発進準備が完了した。
後はこちらから操作をすればいい。
その前に、
ずっと考えていた発進前の口上を述べるとしようか。
「ノルバ・シノ!
『イナヅマ号』!
轟かせてやるぜ!」
デッキを射出させる。
その勢いを堪えつつ前を見る。
その先は真っ暗だった。
ロックが外れ、
宇宙と言う未知の領域に突っ込んだ。
このままではイサリビが見えなくなってしまうので、
ブースターを吹かし、
機体を停止させる。
俺は今MSを動かしている!
その事に感動していた。
ダンテが発進してくるまで待機して、
イナヅマ号のチェックをしておこう。
イナヅマ号。
流星号ではない。
俺が提案した案にそって改修されたMSであり、
ノルバ・シノとは違う生き方をするという決意表明であり、
これから戦う俺の相棒だ。
名前だけではなく、
色も形も違っている。
色は青系を使用。
当初は反対された。
どうやら青系の塗料は高価らしいので、
財政面に厳しい鉄華団を苦しめるわけにはいかないと諦めていたが、
ブルワーズの戦利品の中になんと、
青系の塗料が発見された。
しかしその塗料は純正ではなく、
安価なシアン系とマゼンダ系の塗料を混ぜて調色したものだったが、
俺はそれを採用。
アンテナ部分は黄色に配色する事で、
雷をイメージしている。
安価な塗料の混ぜ合わせのため、
性能もそれに準ずるが、
少なくともカッコ良さにかけては、
流星号よりは上だろう。
形に関しても、
流星号よりはカッコ良い自信がある。
変則的な動きを可能にする機体をコンセプトにしており、
肩部分は武器ラックに、
ブルワーズのMS『マンロディ』の脚部ブースターを取り付けるという無茶な改造で、
前後に稼動出来るようにしており、
背部はむき出しの単発式ブースターから、
テイワズ製のMS『百錬』の双発式ブースターに変更され、
背面の脆弱性を克服。
更に腕部に装備していたグレイズ製ナックルガードを、
テイワズ製大型ナックルガードに変更。
大型のため防御力が向上した代償として、
グレイズ用ライフルが使用出来なくなったので、
代わりにブルワーズの戦利品である、
グシオンの武器を改修したものを使っている。
武装面でも負けていない。
現在の装備品を確認する。
腰に懸架しているサブマシンガン。
マンロディが使用しているサブマシンガンと比べ、
バレルが延長されており、
射撃精度が向上されている。
サイドアーマーに取り付けている『イナヅマチョッパー』。
グシオンが使用していた『グシオンチョッパー』を改修したもので、
峰にスラスターが内蔵してあり攻撃時の接触で噴射する事で、
威力を増す仕組みとなっている。
左腕部に持っている『イナヅマシールド』。
グシオンの肩パーツを盾として改修したもの。
頑丈なパーツを防具として流用しているので、
その性能は折り紙つきだ。
このように流星号よりも、
性能が上がっていると自負している。
強いて難点を挙げるなら、
流星号にあった腰部分のスラスターを換装出来なかった事だろうか。
改造に時間が掛かりすぎて、
この戦いに参戦出来なくなると考え、
泣く泣く換装を諦めるしかなかったが、
戦う分には十分だろう。
全ての装備をチェックし、
異常がない事を確認する。
大丈夫だ問題ない。
これから戦う相棒と共に、
必ず生き残ってみせる。
新たに決意を固めていると、
レーダーに反応が現れる。
その方向に目を向けると、
バルバトスを抱えた輸送機『クタン参型』がこちらに近づいていた。
「シノ待たせたな。
よろしく頼むぜ」
ダンテからの通信が入った。
「待っちゃいないさ。
急いでバルバトスを三日月に渡そう」
「その前に聞きたい事があるんだけどよ」
「何だ?」
何を聞いてくる?
思わず身構え、
ダンテの言葉に耳を傾け集中させた。
「イナヅマって何だ?」
ダンテの質問に脱力した。
どうやら、
イナヅマ号の名前は浸透しそうにないらしい。
クタン参型と共に受け渡し場所に向かう。
設定されたマーカーの指示に従い機体を移動しつつ、
敵機体が接近していないか辺りを見渡す。
真っ暗な宇宙空間で敵機体を見つけるのは、
非常に困難だと今更気づいた。
それでもコロニーの照明を頼りに目を凝らしていると、
『エイハブ・ウェーブ』の波動が検知された。
MSがこちらに近づいている!
「ダンテ!」
警告するよりも早く、
クタン参型は左に螺旋を描くような機動を行った。
バレルロールってやつだったか。
直後にクタン参型が先程いた位置に弾丸が通る。
弾丸が発射された方向に目を向けると、
その先にライフルを構えてこちらに近づくグレイズの姿があった。
「こっちを狙え!」
腰に懸架していたサブマシンガンを取り出し、
グレイズに向けて引き金を引く。
狙った射撃ではないので弾は当たらなかったが、
グレイズの気をこちらに逸らす事に成功したようで、
銃口をこちらに向けている。
「ダンテ!
こいつは俺が何とかする!
先に行け!」
「分かった!
後は頼むぜシノ!」
クタン参型が急加速を開始し、
この場を離脱した。
はやくこいつを倒して合流しないと。
サブマシンガンを元の位置に戻し、
イナヅマチョッパーを手に取り、
イナヅマシールドを構えてブースターを吹かして、
グレイズに真っ直ぐ向かう。
これを見たグレイズはライフルを放つが、
弾丸はイナヅマシールドに命中するも跳ね返され、
本体に直撃しなかった。
それを見たグレイズは射撃を諦め、
サイドアーマーに取り付けていたグレイズアックスを取り出した。
どうやら格闘戦に挑むつもりらしい。
こちらがブースターによる移動で近づいているというのに、
相手は動かず待ち構えている。
敵の狙いはこちらの攻撃をかわしつつ、
無防備となったこちらの隙を突いて攻撃をするつもりだ。
これを成功させるにはタイミングが重要になる。
ならばそれをずらしてやれば良い。
ある程度まで近づいた時、
俺はイナズマ号の両肩のブースターを吹かし急加速させた。
突然の急加速にグレイズは反応に遅れた。
その隙を逃す筈が無かった。
「受け取れ!」
イナヅマチョッパーを振るい、
グレイズのコクピットに叩きつけた!
急加速した機体の勢いと、
イナヅマチョッパーに内臓されたスラスターによる勢いで、
コクピットは見事なまでに粉砕され、
その衝撃でグレイズは明後日の方向へ飛ばされた。
「……殺ったみたいだな」
初めての戦闘で初めての敵機撃墜、
そして初めての殺人。
それを行ったにもかかわらず、
全くの嫌悪感や罪悪感を感じる事は無かった。
これもまたノルバ・シノの影響だろうか?
一応感謝しておこう。
今はダンテに連絡を取らないと。
レーザー通信で連絡を取る。
「ダンテこっちは片付いた!
そっちはどうだ?」
「シノか?
こっちはもう運び終わったぜ。
今イサリビに戻る所だ。
合流ポイントの所へ行ってくれ」
「分かった。
直ぐに向かう」
通信を終え、
予め指定されていた合流ポイントまで急ぐ事にした。
合流ポイントまで近づくにつれて、
残骸の量が多くなっている。
コロニー労働者達が乗っていたランチやMSの残骸だ。
無視して強引に進む事も出来たが、
人らしきものが漂っているのが見えたので、
接触は不味いかと思ってしまい、
残骸そのものを避けるように移動していた。
少し遠回りした形になったが、
敵機に遭遇する事無く、
合流ポイントまであと少しという所で、
『エイハブ・ウェーブ』の波動が検知された。
先の方向に三機のMSが見える。
二機のMSが一機のMSを攻撃している。
その一機は三日月の乗るバルバトスだった。
後の二機を俺は知っていた。
ギャラルホルン監査局所属『ガエリオ・ボードウィン』特務三佐が搭乗するMS、
『ガンダム・キマリス』。
ギャラルホルン仕官『アイン・ダルトン』三尉が搭乗するMS、
『シュヴァルベ・グレイズ』。
キマリスの各部の高出力ブースターによる高い機動性を利用した一撃離脱戦法、
シュヴァルベ・グレイズの背後からの射撃に、
バルバトスは動けずにいる。
動けないバルバトスの辺りを注意深く見れば、
移動している報道専用のランチを見つけた。
まずい。
あれにオルガ達が乗っている筈だ。
そのために三日月は離れられず、
敵の攻撃を受け続けている。
三日月を援護しないと。
「三日月遅くなってすまない!」
お詫びの通信を入れつつ、
俺はシュヴァルベ・グレイズに向けて、
サブマシンガンの弾丸を放った。
突然の銃撃に驚くシュヴァルベ・グレイズ。
こちらを確認するなり、
武器をライフルからアックスに切り替えて突撃してきた。
「シノ助かった」
「俺はこいつを抑える。
あの早い奴は任せた!」
「わかった。
シノも気をつけて」
オルガ達を巻き込まないようにと、
バルバトスは移動を開始し、
俺はシュヴァルベ・グレイズの攻撃に備えて、
イナヅマチョッパーに武器を切り替えた。
シュヴァルベ・グレイズのアックスが振り下ろされ、
俺はイナヅマチョッパーで攻撃を受け止めた。
すると通信が入ってきた。
「貴様!
よくもクランクさんのグレイズを!」
送信者はなんとアインだった。
「悪いけど、
こいつの名前はイナヅマ号だ」
思わず答えてしまった。
「なんてふざけた名前を!
しかも厳格だったクランクさんの機体を、
不細工な形にして!」
「あっ、
色は良いんだ」
「良くない!」
激昂したアインのシュヴァルベ・グレイズが蹴りを放つ。
シールドで受け止め、
その反動で間合いから離れる。
追撃しようとしたシュヴァルベ・グレイズだったが、
下から来る大型のエイハブ・ウェーブを検知したようで後退した。
その直後イナヅマ号とシュヴァルベ・グレイズの間に、
イサリビが遮る形となって現れた。
どうやら無事合流できたようだ。
イサリビの甲板上に移動すると、
シュヴァルベ・グレイズが後を追って来た。
あえて迎撃せず、
甲板上をジグザグに動く。
その奇妙な動きを見て、
誘っていると思われたのだろう。
その手に乗るものかとシュヴァルベ・グレイズは後を追わず、
こちらの足を止めようとライフルを構えた時だった。
シュヴァルベ・グレイズの脚部に弾丸が当たった。
イナヅマ号のサブマシンガンではない。
イサリビの対空機銃だ。
こちらの動きに気をとられ、
対空機銃の存在を見逃していたのだ。
イサリビの対空機銃を先に潰そうと、
ライフルの向きを変えるシュヴァルベ・グレイズ。
その隙を逃す筈が無かった。
動き回るのを止め、
シュヴァルベ・グレイズに真っ直ぐ突撃する。
相手はアックスを手にしていない。
チャンスだ!
俺はイナヅマチョッパーを振るった。
対するシュヴァルベ・グレイズは何と、
ライフルをこちらに向けて投げて来た!
投げたライフルは振るったイナヅマチョッパーの刃に食い込む。
食い込んだ箇所は弾装部分だった。
まずい、
思わずイナヅマチョッパーから手を離し、
イナヅマシールドを構えた。
直後、
弾装を圧壊した事による暴発が発生し、
ライフルが破裂した。
小気味良い振動が盾を通して機体に伝わってくる。
幸い本体に問題は無かった。
構えを解くと、
その先にシュヴァルベ・グレイズはいなかった。
辺りを見渡すと、
ある方向に向かっていくシュヴァルベ・グレイズの姿があった。
その先には、
昭弘の搭乗する新たなMS『ガンダム・グシオンリベイク』が、
バルバトスと連携してキマリスを追い詰めていた。
「すまない三日月!
一機そちらに向かった」
三日月に連絡して、
俺は手放したイナヅマチョッパーを回収した。
どうするか?
三日月達に加勢しようかと考えていた時、
新たなエイハブ・ウェーブを検知した。
しかも数は二機。
検知した方向に目を向ければ、
二機のグレイズがイサリビに向かっていた。
俺は追撃を諦め、
迎撃に切り替える事にした。
イサリビを狙うグレイズの目をこちらに向けさせるために、
武器をサブマシンガンに切り替え、
牽制射撃を行った。
弾は当たらなかったが、
こちらに気づいたグレイズ二機は二手に分かれた。
一機はこちらに向かって真っ直ぐに。
もう一機は正面から見て右側に回っていく。
挟み撃ちをするつもりか。
どちらを相手にすれば良い?
考えている暇は無かった。
真っ直ぐ近づくグレイズはアックスを振ってきた。
武器を切り替えてイナヅマチョッパーで受け止める。
もう一機は何処だ?
辺りを見ると、
なんと後方斜め上から近づくグレイズの姿があった。
どうやら目の前のグレイズは足止めで、
その間に後ろのグレイズがトドメを刺すという作戦らしい。
避けようと動こうとすれば、
目の前のグレイズにアックスの一撃を受けるだろう。
普通なら詰みの状況だ。
だが問題ない。
イナヅマ号の両肩のブースターを前面に可動し点火。
後方に急加速した。
「バックブーストってやつだ!」
思わず叫んでいた。
まさか後方に急加速するとは思わなかっただろう。
トドメ役のグレイズはイナヅマ号を逃し、
目の前にいた足止め役のグレイズにそのまま激突した。
その隙を逃す筈が無かった。
バックブースを止め、
二機に向かって突撃する。
トドメ役のグレイズはこちらに機体を向けるが、
ぶつかった衝撃のせいかゆっくりとしていた。
そのためこちらに対応出来ず、
コクピットにイナヅマチョッパーの一撃を直に受けた。
あと一機、
イナヅマチョッパーを引き、
足止め役のグレイズを倒そうとしたが、
食い込みすぎて抜けなかった。
まずい、
足止め役のグレイズが近づいてきた。
抜くには時間が掛かりすぎる。
足止め役のグレイズがアックスを振り上げる。
それを見て俺は、
イナヅマチョッパーを手放し、
イナヅマシールドを振るい、
コクピットに叩きつけた。
足止め役のグレイズは動かなくなった。
見れば叩きつけたコクピット部分は見事なまでにへこんでいた。
頑丈な盾がそれ自体が強力な武器でもあったわけだ。
それにしても危なかった。
トドメ役のグレイズが格闘戦ではなく、
射撃に徹していればこちらが撃墜されていたかもしれない。
誤射を避けるためだろうがイナヅマ号相手には悪手だったな。
三日月達はどうしているだろうか?
手放していたイナヅマチョッパーを回収した後で、
彼等のいた方角を見てみると、
キマリスとシュヴァルベ・グレイズが撤退している所だった。
バルバトスとグシオンリベイクがこちらに向かっている。
これで危機は去ったと思いたいが、
そうはならない事を俺は知っている。
イサリビの進行方向に大量の、
そして大型のエイハブ・ウェーブが検知される。
ギャラルホルン月外縁軌道統合艦隊『アリアンロッド』の本隊が、
イサリビを撃墜すべく現れたのだ。
イサリビ甲板上に降りた。
何があっても対応出来るように。
その後に続くかのように、
バルバトスとグシオンリベイクも降りていく。
「シノ大丈夫?」
「大丈夫だ問題ない」
イナヅマ号の手を上げて大丈夫だとアピールをする。
「……すっげえ数だな」
昭弘の声が震えていた。
恐怖ではなく、
武者震いというやつだろう。
「逃げも隠れも出来ないな」
「逃がして貰えるまで叩くだけだ」
俺の言葉に三日月が答えた。
流石に全てを倒せるとは思っていなかったようだ。
今の状況は絶体絶命というべき場面だろう。
怖くはなかった。
この状況から逃れる方法を俺は知っているからかもしれない。
後はクーデリア、
あんたの出番だ。
上手く言ってくれよ。
次回予告
「信という漢字は、
人が言うと書く。
言わなければ信じる事が出来ないなら、
口に出して言わなければ、
その人の事は分からないって事だろうか?
難しいよな。
人を理解するって。
話す事が出来ない人には、
どうやって理解すべきなんだろうな?
次回『声援』。
信じるだけじゃ駄目だ」