機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ異伝 ~死の戦記~ <完結>   作:二円

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第二話 葬送の中で

 気がつけばノルバ・シノに憑依していた。

これからどうしたら良いか?

 

 ブルワーズとの戦闘で獲得した戦利品の精算と、

今後の話し合いが行われる中で俺は考えていた。

 

 原作ではこの後に、

鉄華団の財務アドバイザー担当の『メリビット・ステープルトン』が、

お葬式を行う事を提案する。

 

 鉄華団の団長『オルガ・イツカ』はこれに難色を示すが、

彼の兄貴分のタービンズのリーダー『名瀬・タービン』のフォローとノルバ・シノ、

そして鉄華団MSパイロットの一人『昭弘・アルトランド』の嘆願によって行われる事になる。

 

 そして葬式の後に、

ノルバ・シノはMSパイロットになる。

ここからが問題だ。

 

 MSパイロットになれば、

MS同士の戦闘で死ぬ可能性が高い。

 

 だからといって、

MSパイロットにならなくても、

他の戦闘で死ぬ可能性がある。

 

 MSパイロットになるのか?

それともMSパイロットにならないのか?

選ばなければならない。

 

 どっちが良いだろうかと考えていた時だった。

 

「……頼む。

俺は葬式をやりたい」

 

 気がつけば昭弘が、

オルガに葬式を行う事を願い出ている所だった。

 

 考えている内に、

何時の間にか言うタイミングを失っていたようだ。

 

 考えていると、

考えすぎて周りが見えなくなっている時がある。

そして気がつけば終わっている。

俺の悪い癖だ。

自分の名前を忘れても、

この癖は忘れる事は無かったらしい。

 

 幸い昭弘の嘆願は聞き入れられ、

葬式が行われる事になったが、

下手をすれば行われなかった可能性があった。

気をつけないと。

 

 

 

 

 葬式が始まった。

 

 宇宙空間に出る時、

ノーマルスーツを着る必要があり、

一人で着られるだろうかと不安になったが、

難なく着る事が出来た。

 

 どうやらノルバ・シノの記憶だけではなく、

知識と技術も引き出せるようだ。

 

 ひょっとしたらあの時のひどい頭痛は、

ノルバ・シノの知識と技術と記憶が流入したんじゃないかと思っている。

その影響で前の自分の記憶が失われてしまったかもしれない。

 

 棺が宇宙へと放たれ、

皆が死んだ者達の魂を送り出した後、

弔砲が放たれた。

まるで蒼い花火のようにイサリビを照らしている。

 

 その光景に皆は見とれていたが、

俺は音がしなかった事に驚いていた。

 

そういえば真空状態の宇宙では、

音は伝わらないんだったな。

原作では轟音が響いていたので、

それに備えていたのに拍子抜けしまった。

 

 照らし続けた蒼き華は、

やがて輝きを失い消えていく。

 

「……すまない」

 

 俺は思わず謝っていた。

 

 ノルバ・シノは葬式をやりたがっていた。

死んだ仲間の苦痛を忘れさせたいため、

そしてカッコ良かった仲間を見送るためだ。

 

 それを突然ノルバ・シノに憑依してしまった俺が、

駄目にしてしまった。

 

 未だに場違い感が拭えずにいる。

この先どうすれば良いか全く分からずにいる。

 

 その時、

俺の肩に誰かが手を置いている事に気づいた。

 

 思わず振り返ると、

そこにいたのは意外な人物だった。

 

「……ユージン?」

 

 その手の主は、

『ユージン・セブンスターク』だった。

 

「あやまるんじゃねえよ。

お前は悪くねえんだからよ」

 

 しまった!

先程の謝罪が通信で周りに伝えられてしまったようだ。

通信を切っておくべきだった。

 

「仲間を送り出すんだぜ。

そういう時は『すまない』じゃなくて、

『またな』って言えばいいんだよ」

 

 まさかユージンに励まされるとは思わなかった。

ひょっとしたら俺が、

ブルワーズとの戦闘の件で落ち込んでいると思っているのかもしれない。

 

 実際は違うのだが、

すこし気分が軽くなった気がした。

 

「ありがとうユージン」 

 

 ユージンに礼を言うと、

当の本人はジッと俺の顔を見ている。

 

「……だいじょうぶかシノ?

なんか今日は変だぞ?」 

 

 その言葉に少し動揺した。

気付かれたか?

いや流石に別の人物が憑依していますなんて予想出来ないだろう。

だが違和感があるのだろう。

それに対して俺は何も言えなかった。

 

 俺は今、

ノルバ・シノになっているが、

ノルバ・シノと全く同じ事が出来るわけじゃない。

 

 俺が彼より優れている所があるとしたら、

この先の展開を知っている事だけだ。

 

 ……展開?

そういえば、

お先真っ暗の展開がある事に気づいた。

 

 鉄華団にとって、

最も辛い展開。

 

 それは『ビスケット・グリフォン』が死亡する所ではないだろうか?

 

 ビスケットの死に団員全てが悲しみ、

敵討ちに身を焦す様は見ていて辛かったのを良く覚えている。

 

 このまま何もしなければ、

それを直に味わう事になる。

 

 それは絶対に避けたい。

それが出来るのは展開を知っている俺だけだ。

 

 ここにきてようやく、

俺はこれからの目標を決める事が出来た。

 

 目標は二つ。

生き残る事。

そしてビスケットを生存させる事だ。

 

 そのためにはまず……

 

「……おいシノ!

聞こえてるのか!」

 

 ……またやってしまった。 

この癖をどうにかしないと。

今後の課題だな。

 

「すまないユージン、

ちょっと考え事をしてた」

 

「本当に大丈夫かよ?」 

 

「努力するさ。

それよりも俺は決めたよ」

 

「決めた?

何をだよ?」 

 

「不甲斐ない自分を卒業する」

 

「はあ?」

 

 ユージンは不思議そうな顔をしていた。

 

 これは俺の決意表明だ。

俺はノルバ・シノになれない。

登場人物の真似なんて俺には出来ない。

彼の持つ技術、知識、記憶を利用して、

戦いを生き抜き目標を達成させる。

 

 周りから色々と変に思われるかもしれない。

別人になったと言われるかもしれない。

 

 その時は、

不甲斐ない自分を変えるためと言って誤魔化すつもりだ。

 

 先程の選択にも答えが出た。

MSパイロットになる。

その決断に不思議と恐怖は無かった。

 

 

 

 

 

 

 




次回予告
「目標を達成させるのは非常に困難だ。
他をどうこうする余裕が無い。
だから俺は切り捨てる。
何が起こるのかを知っていてもだ。
次回『フミタン・アドモスを助けない』。
……悪く思うなよ」

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