機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ異伝 ~死の戦記~ <完結> 作:二円
気がつけばノルバ・シノに憑依していた。
これからどうしたら良いか?
ブルワーズとの戦闘で獲得した戦利品の精算と、
今後の話し合いが行われる中で俺は考えていた。
原作ではこの後に、
鉄華団の財務アドバイザー担当の『メリビット・ステープルトン』が、
お葬式を行う事を提案する。
鉄華団の団長『オルガ・イツカ』はこれに難色を示すが、
彼の兄貴分のタービンズのリーダー『名瀬・タービン』のフォローとノルバ・シノ、
そして鉄華団MSパイロットの一人『昭弘・アルトランド』の嘆願によって行われる事になる。
そして葬式の後に、
ノルバ・シノはMSパイロットになる。
ここからが問題だ。
MSパイロットになれば、
MS同士の戦闘で死ぬ可能性が高い。
だからといって、
MSパイロットにならなくても、
他の戦闘で死ぬ可能性がある。
MSパイロットになるのか?
それともMSパイロットにならないのか?
選ばなければならない。
どっちが良いだろうかと考えていた時だった。
「……頼む。
俺は葬式をやりたい」
気がつけば昭弘が、
オルガに葬式を行う事を願い出ている所だった。
考えている内に、
何時の間にか言うタイミングを失っていたようだ。
考えていると、
考えすぎて周りが見えなくなっている時がある。
そして気がつけば終わっている。
俺の悪い癖だ。
自分の名前を忘れても、
この癖は忘れる事は無かったらしい。
幸い昭弘の嘆願は聞き入れられ、
葬式が行われる事になったが、
下手をすれば行われなかった可能性があった。
気をつけないと。
葬式が始まった。
宇宙空間に出る時、
ノーマルスーツを着る必要があり、
一人で着られるだろうかと不安になったが、
難なく着る事が出来た。
どうやらノルバ・シノの記憶だけではなく、
知識と技術も引き出せるようだ。
ひょっとしたらあの時のひどい頭痛は、
ノルバ・シノの知識と技術と記憶が流入したんじゃないかと思っている。
その影響で前の自分の記憶が失われてしまったかもしれない。
棺が宇宙へと放たれ、
皆が死んだ者達の魂を送り出した後、
弔砲が放たれた。
まるで蒼い花火のようにイサリビを照らしている。
その光景に皆は見とれていたが、
俺は音がしなかった事に驚いていた。
そういえば真空状態の宇宙では、
音は伝わらないんだったな。
原作では轟音が響いていたので、
それに備えていたのに拍子抜けしまった。
照らし続けた蒼き華は、
やがて輝きを失い消えていく。
「……すまない」
俺は思わず謝っていた。
ノルバ・シノは葬式をやりたがっていた。
死んだ仲間の苦痛を忘れさせたいため、
そしてカッコ良かった仲間を見送るためだ。
それを突然ノルバ・シノに憑依してしまった俺が、
駄目にしてしまった。
未だに場違い感が拭えずにいる。
この先どうすれば良いか全く分からずにいる。
その時、
俺の肩に誰かが手を置いている事に気づいた。
思わず振り返ると、
そこにいたのは意外な人物だった。
「……ユージン?」
その手の主は、
『ユージン・セブンスターク』だった。
「あやまるんじゃねえよ。
お前は悪くねえんだからよ」
しまった!
先程の謝罪が通信で周りに伝えられてしまったようだ。
通信を切っておくべきだった。
「仲間を送り出すんだぜ。
そういう時は『すまない』じゃなくて、
『またな』って言えばいいんだよ」
まさかユージンに励まされるとは思わなかった。
ひょっとしたら俺が、
ブルワーズとの戦闘の件で落ち込んでいると思っているのかもしれない。
実際は違うのだが、
すこし気分が軽くなった気がした。
「ありがとうユージン」
ユージンに礼を言うと、
当の本人はジッと俺の顔を見ている。
「……だいじょうぶかシノ?
なんか今日は変だぞ?」
その言葉に少し動揺した。
気付かれたか?
いや流石に別の人物が憑依していますなんて予想出来ないだろう。
だが違和感があるのだろう。
それに対して俺は何も言えなかった。
俺は今、
ノルバ・シノになっているが、
ノルバ・シノと全く同じ事が出来るわけじゃない。
俺が彼より優れている所があるとしたら、
この先の展開を知っている事だけだ。
……展開?
そういえば、
お先真っ暗の展開がある事に気づいた。
鉄華団にとって、
最も辛い展開。
それは『ビスケット・グリフォン』が死亡する所ではないだろうか?
ビスケットの死に団員全てが悲しみ、
敵討ちに身を焦す様は見ていて辛かったのを良く覚えている。
このまま何もしなければ、
それを直に味わう事になる。
それは絶対に避けたい。
それが出来るのは展開を知っている俺だけだ。
ここにきてようやく、
俺はこれからの目標を決める事が出来た。
目標は二つ。
生き残る事。
そしてビスケットを生存させる事だ。
そのためにはまず……
「……おいシノ!
聞こえてるのか!」
……またやってしまった。
この癖をどうにかしないと。
今後の課題だな。
「すまないユージン、
ちょっと考え事をしてた」
「本当に大丈夫かよ?」
「努力するさ。
それよりも俺は決めたよ」
「決めた?
何をだよ?」
「不甲斐ない自分を卒業する」
「はあ?」
ユージンは不思議そうな顔をしていた。
これは俺の決意表明だ。
俺はノルバ・シノになれない。
登場人物の真似なんて俺には出来ない。
彼の持つ技術、知識、記憶を利用して、
戦いを生き抜き目標を達成させる。
周りから色々と変に思われるかもしれない。
別人になったと言われるかもしれない。
その時は、
不甲斐ない自分を変えるためと言って誤魔化すつもりだ。
先程の選択にも答えが出た。
MSパイロットになる。
その決断に不思議と恐怖は無かった。
次回予告
「目標を達成させるのは非常に困難だ。
他をどうこうする余裕が無い。
だから俺は切り捨てる。
何が起こるのかを知っていてもだ。
次回『フミタン・アドモスを助けない』。
……悪く思うなよ」