機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ異伝 ~死の戦記~ <完結>   作:二円

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今回の話は三人称視点です。


第十二話 リベイク

 『エドモントン・セントラルカレッジ』。

エドモントンにある総合大学で、

アーブラウ管理の特別施設でもある。

 

 メインキャンパスでもある北キャンパスは、

ノースサスカチュワン川を挟んで北側にあり、

南側に南キャンパスが存在する。

 

 医学、工学、科学、生物学、宇宙学、粒子学等、

テクノロジー分野を学ぶ学生は南キャンパスで、

司法学、行政学、経済学、教育学等、

アーブラウ中枢を担うための基礎知識を学ぶ学生は、

北キャンパスで受講する形で分かれている。

 

 その北キャンパスで先日、

抗議活動が起きていた。

事の発端はアーブラウ代表指名選挙前に、

ギャラルホルンが警護する事なると発表された時だ。

 

 そこまでは良かった。

問題なのは、

ギャラルホルンの警備で市内が封鎖状態になり、

特に議事堂を中心にした範囲内は、

市民の立ち入りが禁止されている禁止区域になった事だ。

その禁止区域に北キャンパスも含まれていたのだ。

 

 北キャンパスで受講していた学生は、

議事堂前で抗議していた。

 

「市内を封鎖するのはやりすぎだ!」

 

「これはどう見ても内政干渉だ!」

 

「議会は何故これを黙認した!」

 

 警護するなら議事堂前で十分なのに、

市内を封鎖したらどうなるか?

物流が止まり、

経済的な混乱は避けられない。

その補償をギャラルホルンが補填するといっても、

完全にとはいえないだろう。

過剰ではないのか?

議会に圧力を加えているのではないか?

禁止区画を設ける必要はあるのかというのが学生達の言い分だった。

 

 学生達を鎮圧させるのは流石のギャラルホルンも躊躇われた。

無理に鎮圧させれば暴動に発展し、

選挙どころではなくなる。

ドルトコロニーの件とは状況が違う。

 

 そこでギャラルホルンは、

北キャンパスの人気のない建物に、

威力の低い爆発物を仕込み爆発させ、

反乱分子がテロを仕掛けているという偽りの情報で、

学生を反乱分子の仕掛けたテロから守るという名目で学生達を保護し、

何事も無く学生達を退去させる事に成功した。

 

 広大な土地ゆえに、

指揮所として最適な土地だったが、

抗議活動の件もあり、

設置する事は無かった。

 

 それはある意味幸運だったかもしれない。

何故なら、

MS二機が北キャンパスに現れたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エドモントン・セントラルカレッジ・グラウンズ。

野球場、ラグビー場、陸上競技場、ライフル射撃場等、

運動施設が並ぶ広大なエリアである。

そこに二機のMSが降り立った。

グシオンリベイクとロスヴァイセである。

 

「此処で良いのかよ?」

 

 昭弘は相手のパイロットにスピーカーで尋ねた。

てっきり市外で戦うと思ってたので、

まさか市内で戦うとは思っていなかったのだ。

 

「問題ない。

ここなら存分に振るえる」 

 

 ロスヴァイセが右手に持つ巨大槍『ドリルランス』を振り回す。

 

「よくここまでついて来てくれた。

礼に貴様には死をくれてやる」

 

 ドリルランスをグシオンリベイクに向ける。

槍にあたる部分がドリルのように回転している。

 

「そいつはお断りだ」

 

 グシオンリベイクはシールドを構え、

裏に取り付けていたハルバードを取り出し、

ロスヴァイセに向ける。

 

 昭弘は目の前のロスヴァイセを観察した。

ロスヴァイセは変形状態にあった。

両足を後ろに倒し、

リアスカートに格納され、

フロントスカートの後ろから、

ガイドレールが引き倒された状態となっており、

フロントスカートのスラスターと、

リアスカート底部に備えられたホバークラフトによって浮いていた。

これにより高い運動性と機動性を実現している。 

恐らく一撃離脱戦法が主な戦い方だと昭弘は予想した。

 

(気をつけるべきは右手のでっけえ槍だ。

それをかわして奴のコクピットに叩き込むしかねえ。

奴の左手にはシールドを持っているから、

狙うなら奴の右側だな)

 

 昭弘が戦法を考えている時、

ロスヴァイセが後方に動いた。

左手に持った欠けた円方シールドの欠けた部分に、

ドリルシールドを嵌める。

 

「何!?」

 

 思わず昭弘は驚きの声を出してしまった。

まさか槍と盾が一体化するとは思わなかったからだ。

 

「私はカルタ様の矛。

如何なる障害もこの槍で貫き通す。

いざ!」

 

 そういうなりロスヴァイセが突撃を開始した。

回転する槍がグシオンリベイクに向ってくる。

 

 昭弘は慌てず、

ギリギリまで待つことにした。

ギリギリでかわしてすれ違いにコクピットに叩きつける。

それが昭弘の狙いだった。

しかしあるものを見て、

自身の間違いに気づいた。

 

(やばっ!)

 

 あわててシールドをコクピット前に隠すと同時に、

シールドに連続した振動が伝わってきた。

 

 その原因はロスヴァイセの持つシールドだった。

シールドの中央部にバルカンが仕込まれていたのだ。

それを掃射され、

身動きが取れなくなってしまった。

 

(まずい!

このままだと!)

 

 このままではドリルランスの餌食になる。

いくら堅牢なシールドでも、

回転するドリルランスでは損壊は免れず、

いなすべきではないと昭弘は思った。

 

 そこでバックパックのブースターを全力で吹かし、

右へ平行移動を行った。

間一髪、

突撃するロスヴァイセと擦れ違う。

 

(危ねえ。

あんなもん仕込んでたとは) 

 

 危うく一撃を貰うところだった所を避ける事が出来、

昭弘はホッとした。

 

 突撃したロスヴァイセが向きをこちらに変えるまでの短い時間の間に、

昭弘は次の一手を考えていた。

 

(あの射撃武器をどうにかしないと、

正面に立っている事も出来ねえ。

それよりもあの突撃を止めるべきか?)

 

 槍と盾が一体化状態での突撃は、

昭弘にとって非常に厄介であった。

攻撃と防御を同時に行うため、

こちらから攻撃しにくい。

更にバルカンの掃射で、

身動きが取れないのも不味かった。

あれではギリギリまで待って避けて攻撃するという戦法が通じない。

 

 それならば突撃を止めればよいと考えた昭弘は、

チラリと後ろを見た。

 

(あれならいけるかもな) 

 

 視線を前に戻すと、

既にロスヴァイセが体勢を整えていた。

 

「簡単には仕留められんか。

だがそれが何時までも続くと思うな!」

 

 再びロスヴァイセの突撃が始まった。

これに対してグシオンリベイクは、

ブースターを使って、

後退を始めた。

 

「逃げる気か!」

 

 激昂するが、

昭弘は気にしていなかった。

逃げる気はない。

ある場所に誘導していた。

 

 『エドモントン・セントラルカレッジ・講堂』。

グラウンドを抜けてグシオンリベイクは、 

大きな建物の前で移動を停止した。

そしてロスヴァイセに向けて武器を構える。

 

「来な」

 

 昭弘は罠を仕掛けた。

グシオンリベイクの後ろに大きな建物が建っている。

この状態で、

ロスヴァイセは全力で突撃出来るか?

 

 出来ないだろうと昭弘は考えていた。

例えグシオンリベイクを貫いたとしても、

建物に激突してしまって機体を損壊させては意味が無いからだ。

 

 ではどうするか?

スピードを緩めるに違いないと昭弘は予想した。

それが攻撃を仕掛けるチャンスだと。

 

「おのれ小細工を!」

 

 昭弘の罠に気づいたロスヴァイセだったが、

方向展開せず、

そのまま直進し続ける。

 

(このまま来るのか?)

 

 シールドを構えるグシオンリベイクだったが、

バルカンの掃射が無い事に気づいた。

そしてもう一つ、

ある事にも気づいた。

 

(槍の回転が無い?)

 

 ドリルランスの回転が止まっていた事に気づいた。

しかも嵌めていた盾から外した状態だ。

何をするのかと警戒する。

 

 やがて二機の距離が目前に迫った。

にもかかわらずスピードが落ちる気配が無い。

 

(避けるべきか?)

 

 グシオンリベイクが回避行動に移ろうとした時だった。

何とロスヴァイセの持つドリルランスが地面に向けて突き刺した。

それを支点としてグルリと機体が回り、

その勢いでグシオンリベイクに体当たりを仕掛けてきた。

 

 直進するだけの突撃のみに備えていたために、

円を描くような攻撃に対処が遅れたグシオンリベイクは、

そのままロスヴァイセの体当たりを受けて横に吹き飛んだ。

 

 地面に伏したグシオンリベイクは、

暫く起き上がれない状態だった。

それを好機とみたか、

ロスヴァイセがドリルランスを向けて突撃する。

 

 ドリルランスの先がグシオンリベイクに届くまで、

あと僅か。

そこでロスヴァイセが動きを止めた。

 

「こしゃくな真似を……」

 

 ロスヴァイセの視線の先には、

シールドの裏に隠されていた、

グシオンリベイクライフルだった。

 

 倒れて起き上がれないふりをして、

シールドの裏に取り付けていたグシオンリベイクライフルを構えて、

狙いを定めていたのだ。

 

 狙いはロスヴァイセのリアスカート。

正面からではシールドに隠れて狙えないが、

倒れている状態、

つまり下側からならば盾の防御範囲外なので、

そこからリアスカートを狙う事が出来るのだ。

 

 リアスカートのホバークラフトによる高速移動が、

ロスヴァイセの最大の武器であり、

それを損傷されれば、

最悪動けなくなってしまう。

それに気づいたからこそロスヴァイセは突撃を止めた。

 

 睨み合った状態のまま、

ロスヴァイセは後退をし続ける。

 

「仕切り直しだ」

 

 ある程度距離が開くと、

ロスヴァイセはグラウンドに向って高速移動を再開。

グシオンリベイクの視界から姿を消した。

 

 ロスヴァイセが見えなくなった事で、

ようやくグシオンリベイクが起き上がる。

 

「くそっ」

 

 思わず昭弘は悪態をついた。

 

(今のは俺の負けだ。

あのまま突っ込んでいたら、

完全にやられてた)

 

 昭弘はモニターを叩きつけるのをグッと堪えた。

次はどう戦う?

昭弘は色々考えた。

しかしこれといったアイディアが出なかった。

 

(クソッ!

シノなら色々思いつくんだろうが)

 

 昭弘はシノの事を思い出す。

エドモントン市内突入作戦の際、

橋を守るギャラルホルンに対し、

どう対処するかで皆と話し合っていた時、

シノが立案した作戦は皆を唸らせた。

自分では絶対に思いつけないものだと昭弘は思った。

 

(情けねえ。

自分の心配をしろってシノに言っておきながら、

あいつの能力を羨むんだからな)

 

 パンとコクピット内が響き渡る。

昭弘が自身の顔を叩いたのだ。

 

(もういい。

色々考えるのは止めだ)

 

 グシオンリベイクライフルを放り捨て、

ロスヴァイセが待つグランドに移動する。

 

(やっぱり、

正面から攻める奴には、

正面から攻めるに限るよな)

 

 正面からのぶつかり合い。

久しくやっていなかった戦法に、

昭弘はニヤけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グランド場に向ったグシオンリベイクは、

中央に浮遊して待機しているロスヴァイセを発見した。

 

「……来たか。

次はどんな小細工を使うやら」

 

「安心しろよ。

もうそんなのは止めた。」

 

「何?」

 

「次は小細工なしで攻めるからよ。

奥の手を使わして貰うぜ」

 

「ほう……。

面白い。

それが真かどうか、

確かめさせて貰おう」

 

 ロスヴァイセが距離を取った。

それに対しグシオンリベイクはシールドを前に向け、

ハルバードを後ろに向けて前からは見えないように隠す。

 

「三度目のトドメ。

貫かせて貰う!」

 

 ロスヴァイセが三度目の突撃を始めた。

するとグシオンリベイクは、

ロスヴァイセに向って突撃した。

 

「何!?」

 

 まさか突撃してくるとは思わず驚きを隠せない。

しかもシールドを前にしての突撃である。

 

「成る程。

我が矛に対して盾で挑むか。

面白い!

最強の矛に最硬の盾!

矛盾の結果を見せて貰おうか!」

 

 ロスヴァイセのスピードが加速する。

お互いの距離が一気に近くになる。

その間にバルカン掃射される事はなかった。

純粋な力のぶつかり合いをする事を望んだようだった。

 

 ぶつかり合うまであと僅か。

そこで変化がおきた。

グシオンリベイクのバックパックのブースターが吹かされ、

右側にずらすかのように平行移動したのだ。

 

(直前で避ける気か!

しかしその程度の移動では完全にはかわせん!)

 

 機体を僅かにずらしただけではドリルランスをかわすだけで、

ロスヴァイセの突撃をかわすには至らない。

そう思っていた彼だが、

それが間違っていた事を知る。

 

 僅かにずらしたグシオンリベイクは、

突撃を続け、

自身のシールドとロスヴァイセのシールドをぶつけ合ったのだ。

 

「何と!

盾と盾のぶつかり合いを所望だったか!」

 

 矛と盾のぶつかり合いでは不利と考え、

自身の盾にぶつけるという作戦だったかと、

少し残念に思いながらも、

焦りは無かった。

 

(盾のぶつかり合いでどうにかなると思ったら大間違いよ!

貴様の負けだ!)

 

 盾と盾をこすり付けるようなぶつけ合いは、

どちらも押しも押されぬといった状況で、

気も緩めれば吹き飛ばされない。

シールドにはドリルランスが嵌めこんでおり、

少しでもずれればドリルランスの餌食になる。

そのためグシオンリベイクは攻撃出来ない。

このまま待てばやがて推進剤が切れる。

その時が最後だとロスヴァイセのパイロットは勝利を信じて疑わなかった。

 

 だが予想に反して驚くべき事が起こった。

何とグシオンリベイクのバックパックから何かが現れる。

それはサブアームだった。

グシオンリベイクのバックパックには、

隠し腕が存在していたのだ。

それに驚く間もなく、

グシオンリベイクは右腕で、

ロスヴァイセのシールドを掴んだ。

ドリルランスと一体化したシールドを掴んだ事で、

動かす事が出来なくなってしまった。

 

(まさかそんな仕込があったとは!

しかも右手で盾を掴むなど……いや待て。

右手だと!?) 

 

 武器を持っていなかった事に気づき、

まさかと思い上を向けば、

グシオンリベイクの右手のサブアームに、

ハルバードが握られていた。

 

 サブアーム展開時に、

ハルバードを手渡していたのだ。

しかしシールドを前にしていたために、

死角となって見えなかったのだ。

 

「いかん!」

 

 ロスヴァイセは全力で後退をし始めるが、

シールドを捕まれたために動きを止められてしまった。

そこで嵌めていたドリルランスを外し、

振り回して手放そうとしたが既に遅かった。

 

 グシオンリベイクのハルバードが振り下ろされ、

ロスヴァイセの左肩の間接に深く食い込んだのだ。

切断には至らずもう一撃与えようとまた振り上げた時には、

嵌めていたドリルランスが外れていた。

振り回しの一撃を受けるわけにはいかないと、

グシオンリベイクは後退し、

ロスヴァイセも全力で後退した。

 

 ロスヴァイセの受けた左肩間接のダメージは深刻だった。

一応信号は届いているものの、

満足に動かせなかった。

腕を曲げる動作だけでも分単位の時間が必要だった。

だがそれは何も持っていない場合の話だ。

シールドを持った状態では、

その重みで外れかねなかった。

 

「……不覚。

まさか深手を負うとは。

最早盾も握れんか……」

 

 ロスヴァイセは損傷した左肩間接を見ていた。

 

(このまま負けるというのか?

阿頼耶識システムを施したというのに……)

 

 せっかく強力な力を得たというのに、

何故苦戦するのか?

自身が追い込まれている事が信じられなかった。

 

(……いやまだだ。

まだ負ける訳にはいかん。

何のためにこの力を得たというのだ!)

 

 彼は阿頼耶識システムを施す切っ掛けを思い出す。

 

 始まりはミレニアム島での戦闘後だった。

同僚と共にカルタを連れての撤退後、

返事のないカルタの搭乗するグレイズリッターのコクピットを、

強制開放すると、

そこには頭から血を流してグッタリしているカルタがおり、

すぐさま救出し再生医療を受ける事になった。

傷は癒えたが、

脳の損傷が酷かった影響か、

意識が戻る事は無かった。

 

 医者からも意識が戻る事は絶望的だと伝えられ、

二人であらゆる伝手を頼って捜しても、

答えは皆同じだった。

 

 最早一生意識が戻る事は叶わないのか。

絶望に落ちようとしていた時、

マクギリスが現れた。

 

 幼馴染であるカルタを救うべく、

探し出して見つけたというその方法に、

二人は絶句した。

 

 その方法が、

カルタに阿頼耶識システムを施し、

失った脳機能を機械で補う事で意識を回復させるというものだった。

 

 それはギャラルホルンにとって禁忌であった。

当然二人は反対した。

 

 マクギリスはそれを予想したようで、

二人をある場所に連れて行った。

 

 そこは『阿頼耶識研究所』だった。

研究用MSが鎮座しており、

そこにはオルトリンデやロスヴァイセの姿があった。

 

 驚く二人にマクギリスは説明を始めた。

阿頼耶識システムの始まりは、

後にセブンスターズと呼ばれる者達が、

厄祭戦を勝ち抜くために創られたもので、

それに対応出来るガンダム・フレームも創り出し、

今日の世界を構築。

それがギャラルホルンと呼ばれる組織の誕生だというのだ。

 

 阿頼耶識システムを禁忌としたのは、

一般社会に浸透させるのは危険であり、

強力な力を操るには、

それに相応しい人物でなければならない。

選ばれた者だけがそれを使う事を許される。

それは世界を正しく導ける者であるという。

 

 

 マクギリスに言われ、

二人はそれに該当する人物に心当たりがあった。

カルタだった。

マクギリスはカルタこそが、

世界を正しく導ける者であり、

阿頼耶識システムを施すに相応しい人物であると答える。

 

 このままでは、

地球外縁軌道統制統合艦隊の建て直しは不可能となり、

カルタの汚名はすすげなくなる。

二人は決断した。

カルタに阿頼耶識システムを施すという、

マクギリスの提案を黙認した。

苦渋の決断だった。

 

 本人の意思を確認出来なかったとはいえ、

勝手に人ではない姿にさせる事に、

二人は罪悪感を持っていた。

 

 自分に出来る事は何か無いのか?

それは一種の罪滅ぼしであり、

無意識にそれを求めていた。

 

 そこにマクギリスから声が掛けられた。

それは慰めの言葉ではない。

提案だった。

二人にもカルタと同じように、

阿頼耶識システムを施さないかと提案したのだ。

 

 それを聞いて二人は驚いた。

カルタならまだ分かる。

しかし自分にはその資格がないと、

最初は断った。

 

 しかしマクギリスは、

カルタを孤独にする心算かと言われハッとした。

 

 人ではない身になる事は、

周囲から孤立しかねない状況になる。

側で支えられる存在が必要ではないか?

そのためにはカルタと同じ存在になるべきではないか?

 

 マクギリスの提案に、

二人は了承した。

カルタと同じく、

人の身である事を捨て、

側で支える存在になる。

それこそが唯一の罪滅ぼしとなる。

そう考えた。

 

 やがて全員に阿頼耶識システムを施された後、

カルタの意識が戻った時は、

二人は歓喜した。

 

 カルタは最初、

自身が変わってしまった事に取り乱していたが、

側にいたマクギリスの言葉で落ち着きを取り戻した。

 

 現在の状況をマクギリスから聞かされ、

蒔苗がエドモントン市内に入ろうとしているという報告に、

カルタは完全なる決着を求めた。

汚名をすすぐ絶好の機会で、

二人に否は無かった。

 

 マクギリスはカルタの決意に打たれたと言って、

手配を確約した。

そのお陰で何事も無くエドモントンに向かう事が出来た。

 

 エドモントン市東側で待機中、

マクギリスから送られた蒔苗の位置情報を頼りに、

三機とも市内に向け出陣した。

MSを市内に持ち込むという問題行動に、

誰も指摘しないまま。 

 

 そして現在に至る。

 

 少し前までの出来事を思い出し、

自身の心の弱さに活を入れた。

 

(私は強い力を手に入れた筈!

今度こそカルタ様のために負ける訳にはいかんのだ!

私はカルタ様の矛!

ここで折れる訳にはいかん!) 

 

 それは決意表明だろうか?

ロスヴァイセは驚くべき行動に出た。

 

 何とドリルランスを回転させ、

回転部分を損傷した箇所に当てたのだ。 

金属の削る音が響き渡り、

削りカスが撒き散らされる。

やがて響き渡る金属の削り音が止むと同時に、

ロスヴァイセの左手がシールドを持ったまま地に落ちた。

 

「なっ!」

 

 この行動には昭弘も驚かずにはいられなかった。

シールドを手放すのではなく、

腕諸共手放すとは思わなかったのだ。

 

「私はカルタ様の矛!

矛に盾は不要!」

 

 そう叫ぶとロスヴァイセは、

更に距離をとった。

先程の突撃以上の距離をとっている。

 

「……次で最後だ。

この一撃で、

貴様を貫いてくれる!」

 

 全力の突撃を行うようだった。

 

「面白え。

受けて立ってやる」

 

 グシオンリベイクはサブアームを格納した。

シールドを捨て両手でハルバードを握り、

刃を後ろに向けた。

 

「最後はこの手で倒してやる」

 

 グシオンリベイクは腰を沈めた状態で、

ハルバードを構えていた。

深い一撃を与える姿勢だ。

それを見てロスヴァイセは満足げに頷いたかに見えた。

 

「良かろう。

死中求活の一撃で貴様を貫いてくれる!

いざ!」 

 

 ロスヴァイセが最後の突撃を始めた。

今まで以上の加速で近づいて来る。

最大加速である事は間違いなかった。

 

 ぶつかり合うまであと三百メートル。

グシオンリベイクは動く事無くジッと待つ。

狙いはロスヴァイセの左側。

左腕は無いので、

振るえば邪魔される事無くコクピットを叩きつけられる。

しかしリーチの長いドリルランスを如何にかわすかが問題だった。

 

(我が槍をかわしつつ一撃を与える。

簡単に出来ると思わぬ事だ)

 

 あと二百メートル。

ドリルランスの先を胴体より下に向ける。

これによりかわすには全身を動かさなければならなくなる。

大きく動けば攻撃できず、

小さければかわせない。

その点ではロスヴァイセが有利だった。

 

 あと百メートル。

グシオンリベイクは動かない。

 

 あと八十メートル。

グシオンリベイクがハルバードを振り回そうとしていた。

 

(早まったな!

その得物では間合いは届かんぞ!)

 

 先程の戦いで、

ハルバードの間合いは分かっていた。

そのため今振るおうとする攻撃の間合いと、

ハルバードの間合いを計った結果、

空振りに終わると計算出来た。

 

(勝ったな) 

 

 今度こそ自身の勝利を確信した。

その余裕だろうか?

彼は気づかなかった。

ハルバードの刃が既にコクピットに届いていた事に。

勝利を確信したまま彼の意識は途絶えた。

 

 グシオンリベイクはハルバードを振るい、

コクピットに叩きつける事に成功した。

そしてその勢いを利用しつつ、

バックパックのブースターを吹かし、

全力で平行移動する。

 

 その直後、

グシオンリベイクがいた場所を狙ったドリルランスは空を貫いた。

そのまま二機は擦れ違う。

 

 コントロールを失ったロスヴァイセは降下していった。

やがて手に持っていたドリルランスが地面を抉り出す。

しかし勢いは止まらない。

抉り出す地面はどんどん深くなり、

ドリルランスは地面に差し込まれていき、

周囲に抉られた土がまき散らかされる。

 

 突然ドリルランスの回転が止まった。

深く差し込まれ過ぎたために詰まったのだ。

 

 高速回転したものを急に止めたらどうなるか?

高速回転の反動によって腕が捻られ、

機体が回転。

地面に叩きつけられる。

捻られすぎた腕は千切られ、

ドリルランスを持っていた右手は、

本体と分かれる事になった。

 

 回転したまま地面に叩きつけられたロスヴァイセは、

跳ね転がり続けた。

グラウンド場を越え、

ライフル射撃場、

室内競技場等、

運動施設を破壊しながら、

跳ね転がる。

建物を破壊し続けたからか、

地面にぶつかり続けたからか、

跳ね転がる勢いが弱まってきた。

機体自体も最早、

無傷の箇所は無かった。

至る所に擦れた跡があり、

陥没したり剥がされた箇所があった。

 

 そして遂に終わりが来た。

水泳場に飛び込み、 

大量の水が流れ込んだ。

それがブレーキの役目を果たし、

ロスヴァイセの跳ね転がる勢いを止めたのだ。

 

 ロスヴァイセの跳ね転がった跡は、

まるで災厄が通ったかのようだった。

特に酷いのが水泳場で、

水道管が破損したのか、

水が漏れ出しロスヴァイセを濡らすどころか、

沈めるかの勢いで溢れていた。

誰がどう見ても大破は確実だった。

 

 ようやく勝利を得た事に、

昭弘は安堵した。

 

「危ねえ所だった……」 

 

 長く伸ばされたハルバードを見る。

実はグシオンリベイクのもつハルバードは、

柄が伸縮自在になっており、

先の一撃では、

最大まで伸ばして振るっていたのだ。

 

「さて、

急がねえとな」

 

 勝利の余韻に浸る事無く、

次の行動に移る。

シールドとグシオンリベイクライフルを回収し、

アジーとラフタが戦っているであろう更地を目指して移動する。

 

 決闘場から離れる間際、

昭弘はロスヴァイセが倒れただろう方向に目を向けた。

 

「アンタの事、

嫌いじゃなかったぜ」

 

 昭弘は敵パイロットに思う所があった。

真っ直ぐ突っ込むその戦法、

命を惜しむ事無く突き進むその姿は、

かつての自分を訪仏させたのだ。

 

「悪いが、

まだ死ぬ訳にはいかねえんだ。

……悪いな」

 

 それは二重の意味が込められた謝罪だった。

敵パイロットに対して、

そしてあの世にいるであろう弟の昌弘に対して。

 

 謝罪を終えて思考を切り替える。

本来ならば加勢に向うべきかもしれない。

しかし市内突入前のビスケットからの指示で、

決闘終了後は速やかにアジーとラフタの方に加勢する事になっていた。

 

 それはつまり全員が決闘に勝利する事が前提だった。

その事に昭弘は一応問題ないと思っていた。

三日月が負けるとは欠片も思っていない。

最近のシノの頑張りは目を見張るものがある。

少なくともアイディアを思いつく事に関しては、

自分よりも上だと昭弘は思っていた。

それを駆使すれば決闘には勝てるだろう。

そう信じている。

 

(遅れても良いからよ、

負けるんじゃねえぞシノ!)

 

 苦戦しているであろう戦友を激励しつつ、

グシオンリベイクは推力を全開にしてこの場を後にした。

 

 




次回予告「カルタからの決闘最終戦。
遂にカルタと三日月との決闘が始める。
マクギリスのテコ入れで新たなる力を得たカルタに、
三日月はどう戦うか?
次回も三人称でお送りするそのタイトルは、
『白い悪魔』。
お楽しみに」

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