流れ医師の流れ星   作:幻想の投影物

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毎日投稿は流石に無理です。

次回投稿は27日以降となります 今月中には書きます


事の顛末

「ここがソノオの花畑か……名に違わずってやつだなこりゃあ」

 

 後の言葉は感嘆の息に塗りつぶされた。

 一面に広がる花は、太陽の光を一身に受けて色鮮やかなグラデーションを作り出している。ここが丘のように盛り上がっているからか、まるで花壇が地平線まで続いているようにも見えた。

 この星の全てが花でうめつくされている。そんな錯覚を引き起こしてしまいそうなほど雄大なる自然の景色を見つめていると、視界の端には水を降らせるポケモンや、同じく花畑の整備をしている人間の姿があった。

 

「おっ」

 

 ハマゴが見つけた人物は、いかにも温和そうな恰幅のある体型である。実際に近づいてみればわかるが、身長もかなりある方だったらしい。ハマゴがその人物のとなりに到着する頃には、身長は完全に頭一つ分ハマゴのほうが見下される形になってしまった。

 

「やあ、いらっしゃい。観光かい?」

「どっちかって言うとミツを買いに来た客だよ。よろしく」

 

 ハマゴが握手のために手を差し伸ばすと、土だらけになった手では申し訳ないと握手は拒まれた。まぁ仕方ないか、と手を引っ込めたハマゴに対し、男はすっとある一点を指差した。

 

「見てくれ。ちょうどミツハニーが来たみたいだ」

 

 セリフの直後、ぶぅぅぅぅん……と羽音をかき鳴らしながら頭上をミツハニーが飛んで行く。花畑のとある一角に止まったミツハニーは、何やらそこにいたビークインの胴体にこしょこしょとはなのミツを渡した後、また花畑のどこかへと飛び立っていった。

 

「ああやって集めたミツの一部をもらっているんだ」

 

 見てご覧、という彼の言葉とともにハマゴが辺りを見渡すと、先ほどのビークインとはまた別の個体を見かける。ハマゴが確認したことに頷いて、この花畑の管理人は話を続けた。

 

「この広い花畑にビークインはもう何体かいてね、縄張り争いをすることもなく、協力してミツを作ってもらっているんだよ。あっと、それを買いに来たんだったね! まずは私の家に案内するよ」

「あー、はい」

 

 ハマゴが二の句を告げる前に移動を始めた管理人に、彼もまたついていく。どうやら、随分とマイペースな御仁のようだ。その分他の人間を置き去りにしてしまうきらいがあるようだが、こうした牧歌的な雰囲気の中でこんこんとあまいミツづくりと花畑の管理人をやっているのだから、逆にちょうど良いのかもしれない。

 

 彼の案内に従って暫く進むと、丘の向こうから一軒家が見えてきた。特に何があるわけでもなく、順当に玄関にたどり着いた管理人は、並べられた靴を見ておや、と声を漏らした。

 

「どうやら、ちょっと同居人が帰って来てたみたいだけど、あまりに気にしないでおくれ。彼女もいろいろとあるようだからね。さ、あまいミツはこっちだよ」

「うぃっす」

 

 相手が話を広げてくれるなら、別に突っかかるひつようも無いだろう。ハマゴはそう判断して、部屋の奥へと案内される。よく整えられた廊下をくぐってたどり着いたのはありふれたリビング。

 そこの大きめの椅子にどかりと腰を落ち着けた管理人は、さてと、と一息ついて話し始めた。ハマゴもまた、それに応じてあまいミツの取引を開始する。

 

 それからある程度の時間が経ってから、女性の助けを求める声が響いた。

 

「ッ!? ブニャットだぁ?」

「これって……ハマゴくんは、ドクターだったね。こっちの部屋にきてくれ」

 

 商談も切り上げ、ハマゴは管理人の男に案内されてとある部屋にたどり着く。切羽詰っている様子の声を聞いて、彼は管理人の言葉を待つ前にその扉を勢い良く開いた。

 

「どうした!?」

 

 そこに飛び込んできたのは、どこかで見たような赤髪の女性がブニャットに対して必死に呼びかけている様子だった。心配なのか、揺さぶろうと手を伸ばしていたのだが、ハマゴはその手をはたき落として「安静にさせろ!」と叫んで一喝。そして自分も思わず叫んでしまった未熟さに、バツの悪そうな表情で女性に向かって言葉を放った。

 

「……あー、とりあえず俺が診るから下手に騒ぐな。いいな?」

「わかった……」

 

 よし、と意識のスイッチを切り替えたハマゴは、ブニャットの状態を確かめるために幾つかの器具を取り出して、それを用いてはブニャットの容体を一つ一つ明らかにしていく。その他にも、見た目の症状からある程度の様子を察した彼は、もう「アレ」だろうなと当たりをつけた上で診察を続けた。

 その上で、彼は思ったよりも、というか、完全に気が抜けた様子で腰にあるボールをつかみ、その開閉スイッチを押した。

 

「ジラーチ、リフレッシュだ」

 

 手に持ったボールから出てきたジラーチは、まだ眠気が残っているのかガシガシと手で目をこすっている。そんなジラーチにいつものようにデコピンをかました彼は、「リフレッシュ」をブニャットに掛けるように指示した。

 

 普通なら自身にしか効果のないこの技だが、バトルと違って切羽詰まっていない状況なら、その効力は格段に落ちるにしても、他人に掛けることが可能だ。キラキラとした小さな星のシャワーがブニャットに降り注ぎ、苦しんでいたその表情はいくらか和らいでいく。

 効力が低いにも関わらず、この程度で緩和されたということは、そこまで重大な病気でもない。油断してしまえば下手に大きくなるだろうが、このブニャットを襲った病名は……。

 あたりをつけたハマゴはすっと顔を上げて向き直る。視線の先には、まだまだ不安げなこのブニャットのトレーナーであろう女性だ。どこかで見覚えがあると思えば、あの店内で顔を合わせた相手。

 

「どうなのよ…?」

「こいつは……」

 

 すっ、と首を横に振るハマゴ。

 しかし、彼は気が抜けたように次の言葉を繰り出した。

 

「食あたり、ってか拾い食いか? しかもこの辺に自生してるチビッタケだな」

「しょっ…食あたりぃ~!?」

「症状……あぁっと、腹痛はいつからだ」

 

 ハマゴの問いに、赤髪の女性は呆れたように言い放つ。

 

「き、昨日からよ」

「2日くらいは苦しむが、腹の中からすっかり出ちまえば治るやつだ。つまり、今日クソして寝れば治る。よかったな、毒性の高いキノコじゃなくてよ」

 

 やれやれだ、と聴診器を外したハマゴ。今回ばかりはもう、何もすることはないと立ち上がった。ジラーチは自分のお手柄だ! と胸を張っていたが、あまりにもあんまりな結果であったため、その体制のままボールに戻されたジラーチ。ボールごしにお疲れと一言労られたが、それだけであった。

 

 症状が和らいだブニャットはといえば、先程まで話していた主人との真剣な話はどこへやら。今度は冷や汗を垂らして視線を外す。完全に自己責任なブニャットのつまみ食いと拾い食いが判明したばかりか、食あたりというなんとも言えぬ結果に赤髪の女性はあーもうっ! とひときわ大きな声で不満を漏らし、へなへなと座り込んだ。

 

「このおバカッ! あれほど拾い食いするなって言ってるのにやっちゃうんだからもう!」

「まぁまぁそこまでにしとけよ。昼間のよしみで許してやってくれ」

「昼間のって……あーっ! 見覚えあると想ったら、あんたあたしにぶつかって来たやつじゃない! なんで白衣かと思えば医者だったわけ!?」

 

 ハマゴが諌めてみれば、今度は女性のほうもハマゴのことを思い出したのか指を刺して叫ぶ。

 

「おふたりとも。とりあえず、一旦話を落ち着けてからにしようか。ハマゴくんは私との商談もあることだしね」

 

 そのまま騒がしい言い合いに発展するかと思ったところで、両手で制した管理人が横から口を出してきた。彼のセリフに、それもそうかと納得したところで、二人はヒートアップしかけた感情を元に戻したのであった。

 

 それから、改めて管理人との商談を終えた二人は「あとは若いお二人で」などという戯れ言を放たれながら花畑の一角に放り出された。ブニャットのほうも歩き出せるようになるまで回復したらしく、気まずそうにトレーナーの方に顔を向けてからすっと何処かへ走っていった。おそらく、一旦落ち着いたため厠あたりに向かったのだろう。ハマゴのいうことが正しければ、あとは寝るだけで綺麗さっぱり完治出来るだろう。

 

「チビッタケってのはコイツだ。短小だが、噛みごたえがあって形は崩れないし、何より甘い。ガムみてぇな食感ってのもある」

「うちのブニャットちゃんが食べちゃうのも納得ね……。てか、こんなのどっから見つけ出してきたのよあの子は」

 

 はぁ、と頭を抱えて息を吐く。

 

「まぁ、ビビるのも無理はねえ。チビッタケは食ったポケモンには重度の食あたりにも似た症状を出すが、どういうわけか腹から出ちまえばすっかり症状が収まるわけの分からんキノコだ。タマゲタケのポケモンになる前の姿とも言われてるが……ま、いいだろ」

 

 これ以上の解説よりも、再発を防ぐためにトレーナー自身に覚えさせることができればそれでいい。ハマゴは話を切り上げて、ドサッと草むらの上に倒れこんだ。ひんやり冷たい地面とほんのり温かい日差しのサンドイッチ。全身を包み込む自然の感触に、今回の騒動で張り詰めた気を紛らわせようとしていた。

 

「そういや、あんたの名前聞いてなかったね」

 

 倒れこんだハマゴに小さくありがとう、と呟いた彼女はそういえばと手をポンと置き思い出す。仰向けの彼に、赤髪の彼女は自己紹介を始めた。

 

「あたしはマーズ。今は普通の女の子やってます!」

「普通…? ま、いいや。俺はハマゴだ。流れのポケモンドクターやってんだ。よろしく」

「何カッコつけてんの」

 

 シュッと指を立てて自己紹介したハマゴに、マーズから鋭いツッコミが入る。

 やっぱもう少し工夫したほうが良いかとの思いを胸に秘めながら、ハマゴはふと気になったことを彼女に聞くことにした。それは、ある意味で彼女を中心から抉りぬく話題であった。

 

「ああ、そうだ。ギンガ団の元幹部がこんなトコで何やってんだ?」

「あんた、あたしのこと知ってんの!?」

「ジュピターに襲われた後、ちょいとな」

 

 この数日の旅の中で、情報収集を怠ったわけではない。母親からの進言がある前から、ポケモンハンターはともかくギンガ団については既に探りを入れていた。今はシロナの言うとおり、現社長サターン率いる穏健派が宇宙の新エネルギー発見・開発に着手している。だが、アカギ健在のころのギンガ団がもたらした被害に関しても大方、ハマゴは頭のなかに入れていた。

 その際にマーズの名前を調べ、その後の一般人に至るまでの境遇など、逆にジュピターやプルートといった幹部連中に関しても名前と顔は頭のなかに叩きこんである。元々、世界の作り直しという壮大かつ危険な思想を持った連中だ。願いを叶える可能性を持つジラーチを狙わないとも限らない。

 

「あの馬鹿……! まだ引きずってんの!?」

「どういうことだ?」

「というか、ジュピターは今何してんのよ!? 知ってるなら教えなさい!」

 

 そして目の前のマーズは、その話題を聞くやいなや叫びだしたのはこれである。とりあえず、ハマゴはマーズの剣幕に押されてこれまでの一部始終を語って聴かせる。このシンオウに到着した直後、過激派がポケモンセンターを倒壊させるほどの破壊活動を行っていたこと。シロナの話では、人間味のない下っ端団員がいた事。そしてジュピターがアカギのために、といいつつその場に現れたこと。

 

 マーズは、どうやら知らされていなかったらしい。各地を回る中でも、彼女は何かと人目につかないような点々とした生活を続けていたせいで世情には疎い。そこを改めてハマゴに聞かされたことで、最初は黙って聞いていた彼女も、その顔を悲痛に歪めながら歯を食いしばって自らの感情に耐えるようになっていく。

 

「……ちょっとくらい相談してくれたって良いじゃない……同じ幹部のよしみじゃないの!」

 

 肩を震わせるマーズ。彼女が零した言葉は、ジュピターの凶行に何の関与もしていないことがよく分かるものであった。だが、それに反応するハマゴ。いつの間にか起き上がった彼は、鋭い目つきでマーズを見据えていた。

 

「で、テメェはあいつらの活動に加担するのか?」

 

 これは、被害者側としての意見でもある。なにより、ポケモンをこれからも率先して傷つけていくようならタダでは済ませないという、ドクターとしても意志のこもった言葉。だがマーズも悪の組織で人をまとめる立ち位置だった人物。その視線を正面から受け止めて、目を瞑る。

 

「しないわ」

 

 首を振って、絶対にと付け加えたマーズが続ける。

 

「私だって、もうアカギさまがつけた軛から開放されたいの。ギンガ団とあたしを繋いだ軛からね。それに……あの人はきっと、もう何も見ていない。どこにもいない。だからジュピターがこれ以上馬鹿をしないためにも止めるわ」

「そうかい。なら、俺からは何も言うこたねぇや」

 

 どこまでが真実なのか、ハマゴに判断する術はない。もしかしたら、この場で面倒な質問をした部外者から、逃れるためについた嘘かもしれない。もしかしたら、こんなことを言っておいてすぐさま犯行に移るかもしれない。

 IF、イフ、もしかして。そんな言葉を羅列する前に、ハマゴは彼女の握りしめられた拳を見て判断した。跡が残り、血がにじむまで握りこまれた拳は自分も何度か経験したことがある。きっと痛みは感じていないのだろう。痛みなんかを忘れるほど、激情に駆られているのだろうから。

 

「よっぽど、そのアカギってのはギンガ団にとってデカかったみてぇだな」

「そうよ。新世界を説く、熱意にあふれた素晴らしさ。そればかりか、世界を創るとまで言い切ったカリスマ。どこを取っても素晴らしいお方だったわ。だから、皆がついていった。あの方に心を動かされ、誰もが思いのままに動いたわ」

 

 でもね、と付け加える。

 

「だからこそ、事の顛末をあの子供に聞いて、アカギさまを初めて疑った。それを信じたくなくて、破れた世界ってのを探して……矮小な人間が足掻いたところで、どうしたって行けない伝説の類だったことにようやく気づいた。そして、そんな世界から脱出せず、私たちに連絡すら送らないアカギさまは私たちのことなんてどうでも良いんだって思った」

 

 気づけば、マーズはべらべらと心の中の全てを明かし始めていた。悩んでいたところに現れたのは、昔の同僚の今を語る事のできる人物だったこと。なにより、目の前にいるハマゴがアカギと見た目としての特徴に似通った点が幾つか見受けられるからだろう。

 だが、アカギほど髪の色は薄くない。アカギほど知識を携えていない。遠目からでも、いくつでも相違点は挙げられる。でも、だからこそ少しだけそのヴィジョンを重ねてすべてを吐き出すことに躊躇いは感じられなかった。

 

「……いつまで喋る気かは知らねぇが、まぁなんとも抱え込んじまってんなぁ」

 

 話半分のつもりだったが、想像以上にマーズは気が滅入っていたのかもしれない。ハマゴが相槌を打ちながら聞いてやれば、ここ最近の悩みやら精神のどこかにちらつくアカギの幻影を振り払いたいという内なる望みの全てが、ぶちまけられていた。

 キリがない。生産性がない。なにより、まだ行動に起こしていない。だから、マーズがこれ以上深みに嵌らないようにハマゴは此処で待ったをかけた。

 

 パン、と柏手(かしわで)を合わせたことで、マーズの口はピタリと止まる。あまりにも過ぎた一方的な態度を取り続けてしまったのが今更恥ずかしくなったのか、マーズはバツがわるそうにそっぽを向いた。

 

「とりあえず、だ。お涙頂戴の半生語りはここまでにしようや」

「お涙…ってあんたねえ!」

「問題はテメェが今から何をしたいかだろうが。黙って聞いてりゃ、破れた世界とやらを探さなくなってからは逃げるようにして生きてきただけだ。過去の罪? 自責の念? アカギを振り払いたい? 悩むのは良いが、どうにも吹っ切れたようには聞こえねえ」

 

 だから、と彼は方向を示す。

 

「何を、どうするんだ? 年齢もしたのガキに聞かせる暇がありゃあ、とにかくその罪だかアカギやらをいっぺんに振り払うための丁度いい事が今起きてんだろうが」

「ジュピター……」

「そう、ソイツだ。俺でも分かる。まずはお前自身の手でソイツを何とかすりゃあ、今までテメェに乗っかってた全部を取っ払えるんじゃねえのか? ……ま、テメェ自身がどう考えてるのかなんざわからねぇがな」

「……」

 

 おどけたように言った彼の言葉を吟味して、マーズは言葉にならない声の残骸をボトリとこぼす。

 

 言われるまで、どうして気づかなかったのか。このマーズ様が一つの支えを失った程度で、こうも言い負かされるとはなんと情けないことか。あの子供に負けるのはまだいいとして、こんなの、プルートにバトルで負けるようなものではないか。

 

 マーズは顔を上げて、ハマゴを見据えた。

 

 彼に重ねていたアカギの顔はぼやけて消え去り、初めて彼の本当の顔が見えた。

 深い青の短髪。アカギよりも鋭く尖った目つき。シワのない軽薄そうな笑みは、アカギのそれとは正反対であった。似ている? 何を馬鹿な。こんな奴は、あの男の足元にも及ばないだろう。

 そして何より、ハマゴが一体何を考えているのか。手に取るように分かる。それだけでも、あの男とは全く違うことが分かる。アカギ様……アカギは、自分たちの心を見透かす割に、その心の一片すら読み解くことをさせなかった。

 

 どこか、錆びついた赤い鎖が千切れる音がした。

 

 鎖だったのだ。あの方が作り出したものは全て。神を縛る鎖、人間の心を縛る鎖。がんじがらめにして、動かなくするくせにその鎖を手に持つアカギだけは自由にすることが出来る。きっと、目指したのもそんな世界。心のない世界とは、そういうことだったのではないだろうか。

 

 そんな世界に暮らしたいか? 答えは、嫌だ。

 そんな世界を創る男が戻ってきて欲しいか? その答えも、嫌だ

 

「ねえあんた」

「ん?」

「あたしに発破掛けたこと後悔しないでよね」

「はぁ?」

 

 いきなり何を言い出すんだ、と続けられるはずの言葉は遮られる事になった。マーズが突然立ち上がり、座り混んでいるハマゴに向かってビシッと指を突きつけたのだ。

 これまで話の主導権を握ろうとしていたハマゴは、そんな突然の行動に唖然として口を半開きにしたマヌケな姿を晒す。ハンと嗤ってみせたマーズは、更に続ける。

 

「決めた! あんた何かと詳しそうだし、ジュピターに会えそうだからついていってやるから!」

「はぁぁぁぁ!? なんでいきなりそうなる!?」

「だから後悔しないでよねって言ったじゃない!」

「テメッ、そこは単身ジュピターのヤロウが潜伏しそうな場所に突っ込んで手柄上げて返ってくるんじゃねえのかよ!?」

「あの陰湿女が好みそうな場所なんて知らないわよ!」

「言い切りやがったよこの元同僚……」

 

 突然の大声のやり取りに、ハマゴのモンスターボールの中で眠っていたジラーチが出てくる。眠い目をこすりながら登場した空気の読めないポケモンに、二人は気づくこと無く言い争いの応酬を続ける。

 だぁっ! と髪をかきむしってハマゴが言い返し始める。

 

「だとしても俺についてくる理由とかねえだろ!?」

「何かと言ってあたしを決起させたのあんたじゃないの! 男なら責任取りなさいよね!」

「男が誰でも女の責任取れるわけねぇだろうが。勝手にやってろ勝手に!」

「サターンならあたしの不手際全部処理してくれたってのに、気の利かないやつね!」

「他人にどんだけ迷惑かけてんだこのアマッ!?」

「誰がアマよっ!?」

 

 次第に、先ほどの話題も関係ない口汚いだけの罵り合いに発展していく二人。

 おろおろと二人を止めようとジラーチは手を伸ばしてアピールするが、いかんせん背が低すぎることと、ハマゴとマーズが喧嘩する互いの姿しか見ていないせいで、視界の隅にちらつくことすらできていない。

 

「……?」

 

 騒ぎを聞きつけたのか、主人のいつもの癇癪を止めに来たのか。草花をかき分けながらブニャットもその場に登場。だが、自分を治してくれた医者に罵倒をぶつけるどころか、いつのまにやら両手でつかみ合っての押し合いに発展している主人の姿を見てポカンと口を開けることしかできていない。

 

 ぎゃあぎゃあと子育て中の鳥よりも煩い言い合いは、いつしかタダの罵倒と見た目から探り当てる悪口の応酬となっていた。最終的に、日が傾き始めても戻ってこない同居人と取引相手が心配になった管理人が探しに来たのだが、それでもまだ訳の分からないやり取りをしている。

 

「ちょ、ちょっとふたりとも! もう夜になるからひとまずは―――」

「だ・か・ら! あんたについていったって良いでしょ!?」

「そもそもの目的が違うのにいても邪魔にしかなならねぇってんだよ!」

「……仕方ないね」

 

 最終的に、彼らのやり取りは管理人のお玉によって鎮火される。

 かくして、ハマゴの旅路には騒がしい赤毛の女性が加わることになりそうだ――

 




今回出てきたチビッタケ
タマゲタケと違って白一色。でも、真ん中に「-o-」という黒い線が入ったカサ。
人の小指の先程度と小さいながらも弾力があり、芯の通っているきのこ。
噛むと、甘みのあるエキスが出るので昔の人にとってはガムの前身みたいなもの。
ただし飲み込んだ場合、重めの食中毒に似た症状に悩まされる。
消化されることもなく、排泄されるまで症状が出るが体から出た途端に治る不思議。
名称は「ちびった」というビビるみたいな言葉と、「○○け?(どうだった?)」を組み合わせてチビッタケ。
タマゲタケのポケモンになる前にありそうなきのことして創作してみた。


事の顛末、という二十オチになっていればいいが……なってないね!
とりあえず、この時点でお気に入りが何件か離れそうですがマーズさん加入です。

予想しなくても分かるでしょうがバトル要因です。ハマゴくんはポケモンジムのジムトレーナーに挑んでも10回中0回しか勝てないほど弱いからね!



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