もうしわけ!!!!!!!!
ございませんでしたっ!!!!!!!アッー!!!!!!!!!!!
諸事情により匿名投稿をしておりました。
無事完結し、浮気してたFF15も結局詰んだので恥ずかしながら戻ってきました
では続きをどうぞ。
落ち着きを取り戻してきた、ズイタウンの総合病院。包帯の面積も減ってきたポケモンたちも寝静まった個室の前を、足音がみっつ、通り過ぎていく。片目を開いたボスゴドラは一度鼻を鳴らすと、何事もなかったかのように再び眠りについた。
白衣が風を受けてなびく。先頭を行くのは青髪のドクターらしき青年。その両脇には短くラフな格好の赤髪の女性と、全身を黒一色の衣装にした金髪の女性。ずかずかと勝手知ったる我が家のように練り歩く姿からは想像もできないが、彼らはズイタウンの人間ではない。
「にしても焦ったわよ。ポケッチからいきなり信号が途切れたと思ったら、今度はなーんにも無かった! って感じに戻ってくるんだもの」
「アンノーンの神隠しだっつってるだろうが。何回掘り返すつもりだ、テメエはよお」
「あたっ、ぶつこと無いじゃないの!」
しつこい追求を打ち切るように手の甲を額にぶつけるハマゴ。痛がりながらいつか絶対ぶちのめしてやると復讐の炎を燃やすマーズ。両者の何気ないやり取りは、ここ数日の彼らの様子を知っているシロナからしてみれば、なんというか、吹っ切れたようにも感じられた。
彼女からくすりと零れた笑みにハマゴは視線を向かわせたが、なにもないわよと、大人らしい余裕の表情で流される。鼻から短く息が吐き出される。そんなこんなで、彼らは総合病院の別棟に向かって足を向けていた。
目指す先はそう、プルートが入院している病室だ。
まだ話すことが在る、と言い残して再び眠りについた老人もしっかりと眠ったことで元来の丈夫な体の調子が戻ってきたのだろう。体調は少なくとも、ギンガ団が壊滅した直後程度には回復しているとのことだ。
「Dの309。ここにプルートって爺さんがいるのか」
「ええ。それじゃ入りましょうか」
ノックをすれば、構わんぞという力強い声が聞こえてきた。
「お邪魔するわ、プルートさん」
病室にいたプルートは、今は栄養補給の点滴を受けては居ないらしい。それどころか、見えたのは元気だというのがまるわかりな光景だ。誰かから送られたかは知らないが、剥かれた梨を爪楊枝で指して口に含んでいた所。
もごもごと口を動かし、しゃく、と爽快な音を立てて咀嚼する老人に、以前の弱々しさは見当たらない。もっとも、これこそポケモンという超常的な存在と一緒に暮らす、人間たちの標準的な回復力なのだろうか。
「ん? なんじゃそやつは」
「なりゆきで協力してんだがよ。現ジラーチの保護者でポケモンドクターのハマゴだ。よろしく」
「ほう、おぬしが……ワシはプルート。しがないジジイじゃ。しかし……ふむ」
品定めするように見つめる老人、プルートの目が細められる。
やがて眩しいものを見るように笑みを浮かべ、彼は口を開いた。
「なるほど、なるほど……ワシらに歯向かったあの子供……あやつを思い出す真っ直ぐな目をしておるわい。だが、あやつよりは鋭い。なるほどのう」
「あら、プルートさんもそう思う?」
「納得してるとこ悪いが、俺らもアンタから話を聞きたくて来たんだ。以前こいつらに伝えようとしたコト、その続きを教えちゃくれねえか」
話を切って、これ以上逸れるのも時間の無駄だと判断したハマゴが間に入る。マーズも同意するように頷き、プルートからの情報について興味を示す姿勢を見せている。
同行者は随分とせっかちなようだと、シロナに皮肉を言ったプルートは、やがて老獪な笑顔をひっこめて、硬い表情を作り始めた。
「ワシが回復するまで、というのもがあるが、入院の片手間に作ったこの盗聴防止のマシンの完成も兼ねておったのじゃ。さて」
スライド式の電源をカチッ、と入れる。
低く唸るモーターの音が静かな病室に響くと、プルートの近くに添えられていた花瓶の近くから小さな煙が上がった。
「やはりの」
「盗聴器!? 一体いつの間にこんなもん仕掛けてたのよ」
「さてな、あの新リーダーは本当に、いつの間にか厄介な手を使う。間近で見てきたが故に対処は容易かったが、明日には新しいものが設置されるじゃろうな。……まぁ、そんなことはどうでもいい」
ハマゴらに向き合い、プルートは視線を上げる。
「まず伝えておきたいことは、奴らの本拠地についてじゃよ。使い捨てのアジトで研究させられておったとはいえ、このワシが通信先を逆探知できん道理もあるまい。…そこの、ハマゴといったか。ポケッチを貸してもらえんか」
「おう」
差し出した左手のポケッチから空間投影された画面。それらをタッチした老人は、手元のメモリーからハマゴのポケッチにデータを流していった。
やがてダウンロードされたデータはタウンマップアプリの追加データとして適用される。立体型になったマップデータ。その中心にあるテンガン山の一部に赤い光点が発生。そこをズームするように画面がスライドし、光点を中心としてマップがゆっくりと回転しはじめる。
「やりのはしら。そこに近い岩場をくり抜き、地下へと下っていった先が、奴らの本拠地じゃ」
「テンガン山ですって? テンガン山の磁場は生半可な通信機器を狂わせるうえ、不可思議な力によって直接上空からの移動は不可能な場所よ。ギンガ団ですらあそこを占拠したとき、赤い鎖以外は持っていかなかったのに」
「さて、な。理由は知らんが、あやつらはそこに拠点を置き、ワシに専用の機材の設計図を書かせた。今頃はマグマの隣でパーティーでも開いておる頃か? まあ、1つめはこんなもんかのう」
ひげをなぞりながら、クツクツとプルートが笑う。表情に生気が戻ってきた彼は、いかにも悪どくそう言ってのけた。だが彼とて分かっているのだろう。今行ったところで抜け殻でしか無いだろう、と。
それはシロナであっても同じ。厳しい顔のまま、プルートへと頭を下げた。
「……貴重な情報、感謝しますプルートさん。ハマゴくん、後で私のポケッチにもコピーしてもらうわ」
敵拠点の一つが判明したが、果たしてあのマグマ団の新首領がどれだけ予測してくるのか。既に拠点も移され、テンガン山ですべきことを果たしている可能性もあるが、ともかく今は手に入れた情報に縋るしか無い。
たとえ新首領が抜け目のない完璧超人だとしても、相手は組織だ。末端までが優秀ではない。ならば、その「ほつれ」から僅かな糸をたどるだけ。以前の英雄がしていたように、そうして巨悪を討つのだ。
プルートはそれから幾つかの情報をシロナに与え、再び咳き込みベッドに伏せた。回復してきているとはいえ、相手は本当にくたびれてしまった老人だ。ナースコールをかけ、シロナはポケモン協会に連絡を入れるとプルートに何人かの護衛をつけた。尤も、ほんの一瞬対峙しただけで分かった新生マグマ団首領の性格からすれば、プルートを再び襲うこともなさそうだが。
それからというもの。プルートの病室を後にしたハマゴたちは、ズイタウンをまっすぐ一本に分ける大きな街道沿いにある駐車場へ向かっていた。そこには、シロナが乗っているジープが駐車されているからだ。
道すがら、シロナは表情を固くしながら、ポツリとつぶやいた。
「私はダークトリニティと一緒に、テンガン山のほうを当たってみるわ」
「そうか」
シロナの決心したような声に、彼はぞんざいに返す。
キョトンと目を見開いたシロナは、すぐに笑みを浮かべて言う。
「あら、止めないのね?」
「さてな、オレもオレで本懐を思い出しただけだ。ヨスガシティに向かってからは別行動ってことで」
「ちょ、ちょちょっとハマゴ!?」
「んだよマーズ、耳元で声あげんなイテェだろ」
ハマゴに掴みかかるマーズは事情を飲み込めていないのか、声を荒げて詰め寄った。
その衝撃でハマゴの商売道具であるバックパックの一番上に乗っていたジラーチが顔面から地面にダイブする。それでもまだ寝ていたが。
「アンタ、あたしの行動理念わかってて言ってるのよね!?」
「ああ」
「ジュピターはどうすんの!」
「行ったところで、本当にいると思うか?」
「だって、“やりのはしら”はアカギが消えたところで、だったらジュピターも、残ってるかもしれなくて」
「はぁ~……ったく、又聞きの俺ですら分かってんのにまだ言うか。またヒートアップしてんのか知らねぇが判断能力落ちてんぜ」
ガシガシと側頭部をかき上げたハマゴが、ずれたメガネの位置を直して言う。
彼を補足するように、シロナが一歩踏み出て口を開いた。
「プルートさんから聞いたでしょう、ジュピターは、洗脳されてるって」
「あ……そっか、だったら洗脳してるやつに連れてかれてる、か」
「戦ってみたとこ、ジュピターはトレーナーとしての能力は高いほうだ。それを洗脳って手段にしろ、言い聞かせられる便利な駒に出来てんのなら、新生とかいいつつ残党に変わりねえマグマ団共にとっちゃ、貴重な戦力でもある。そう安々と手放すワケのねぇだろうよ」
「彼の言う通り。私達はあくまで抜け殻を調べに行くつもりよ。ジュピターさんの手がかりなら同じところで探すより、むしろ、何かとあちらの接触がありそうなジラーチがいるハマゴくんと一緒に居たほうが多いと思うけど」
「俺についてきたときのまんまの理由だろ。自分で忘れてりゃ世話ねぇぜ」
シロナもどこか楽しんでいるのだろうか。微笑みを携えてマーズを諭す。その横ではニタリと意地の悪い笑みを浮かべたハマゴが、わざとらしく肩をすくめて首を振っていた。
彼らを交互に見たマーズが、顔を真赤にさせながら叫ぶ。
「あー、えっと。もう、わかったわよ!! この話はこれで終わり!」
ムキになって言う彼女の姿は、年相応の女性といった可愛らしさがある。
「っぶふ」
「こんの!」
「おっとジラーチガード」
耐えきれずに吹き出したハマゴに、理不尽を嘆く平手打ちが襲うも、人の情すら忘れたか、ハマゴがとった手段はジラーチを盾に取ることであった。はがねタイプが入っていることもあって、ジラーチは攻撃に対しては中々の防御力を誇る。
まるで「めざましビンタ」のようにマーズの張り手を受けさせられたジラーチは、芽を丸くしながらバタバタともがいた。もちろん、ぞんざいに羽衣を引っ掴んだハマゴにぶら下げられながら。
怪我が決して出ないと分かっているからだろうか。あの遺跡から返ってきてから、どこかまた吹っ切れたように見えるハマゴは、良くも悪くも落ち着いた雰囲気が少し和らいでいる。まるで悪ガキのような部分が、少し大きくなっているようだった。
「あの、ハマゴくん? 流石にポケモンを盾にするのは褒められた行為じゃないわ。シンオウチャンピオンの前でそんなことをするなんて度胸があるのね」
「さぁてな、今更その肩書が効く相手でもねぇって知ってるだろ?」
「それもそうね。それじゃ、行きましょうか」
「え、そこスルーすんの!? って待って待ってふたりとも足速い!」
愉しみを覚えたのだろうか。合流してからこのかた、すっかり意気投合したらしいシロナとハマゴ。その感情表現が共通して、マーズいじりというのだから、マーズの受難は計り知れない。
さて、そんなふざけたやり取りをしながらもたどり着いたのは、シロナが個人的に所有するジープであった。シロナの服装からは想像もつかないほどの無骨さだが、彼女の考古学者という兼業を知っているなら納得の安定した走破能力を持つ車は、それなりに広い。
「後ろに乗って」
「あいよ」
「シートベルトはしっかりね。ズイからだと舗装されてないとこも通るから」
「ジラーチも、ちょっと窮屈だけど我慢しなさいよね」
シロナの忠告通り、後部座席でハマゴとマーズが並んで座り、マーズの膝の上にジラーチが座った。シロナがエンジンキーを回すと、豪快な音を立ててエンジンが振動する。ハンドルを握ったシロナがアクセルを踏み込むと同時、荒々しくも清涼な風が彼らに吹きかかる。
シロナのジープはオープンカータイプ。後ろに積まれた屋根を展開してないため、自然そのままの風が搭乗者に吹くのだ。
「ここからヨスガとなると、ジープでも半日かかるわ。途中、知り合いの宿屋に寄るからそのつもりでね」
「あいよ、また騒動起きなきゃいいがな」
「あんたねぇ。そういう事言うからまた面倒おこんのよ」
「仲がいいわね二人共。キスのひとつでもしたの?」
「ベトベトンのがマシだ」
「どういう意味だゴルァ!」
「ばっか揺らすな! ただでさえ路面悪ぃんだぞボケ!」
シロナのからかい一つで起きる後部座席の仁義なき戦い。そして振動の主な犠牲者となって顔の青いジラーチ。シロナは後ろの騒動を、微笑みを携えながら眺めていた。思いつめていた表情、後悔した表情、決心した表情。それもマーズの絵になる表情だったが、いまの感情をむき出しにした素直な姿は、かつて宣言した「ふつうの女の子」にほど近い。
(ホントやるわねー、ハマゴくん。ドクターってよりカウンセラーも兼ねたらいいんじゃないかしら)
まだまだ呪縛にとらわれていたであろうマーズを、あそこまで心開かせる。かつてのシンオウを旅した英雄ですら、成し遂げるには難しいであろうそれを、ハマゴは自然に行った。
実のところ、シロナはあまりマーズに動いてほしくはない。なぜなら、もう彼女は人生を左右されるに足る理由はないのだ。たとえ巨悪の一端だったとして、今はもうその絡みつく悪意の蔦を外してしまっても、誰も文句をいうやつは居ない。
シロナの祖父と同じく、マーズには一般人として生きてほしかった。できるなら、こんな騒動に二度と巻き込みたくないと。
(まぁでも、そんな一般人の彼女の要望を叶えようって。想いを汲んじゃったのはポケモンチャンピオンとしては失格かしらね)
自虐を心の中にしまい込み、シロナは再び微笑んだ。
様々な思いを乗せたジープは、そのままどっぷりと太陽が浸かった地平線の彼方へと溶けていく。やがて街頭が灯り、大地の反対側から浴びせられる光を反射し、月が地表を照らす頃。
彼らは中継地点である宿へと到着し、その足で再び大地を踏みしめるのであった。
今後は、当初の予定にはなかったドクター要素をなんとか交えて行きたいと思います! よかったらドクターっぽいアイデアも募集!
詳しくは活動報告へ
この一年ですが、社畜的な意味で病みかけてたのもあって風味あかるめのこの作品があまり手付かずでした。
ですが今回ちょっとしたことで吹っ切れ、作品も手につくようになったのでチマチマと投稿再開したいと思います。お気に入りしてくださっていた皆様、誠にありがとうございます。これからもよろしくおねがいします。