流れ医師の流れ星   作:幻想の投影物

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予定変更して繋ぎ回です。


大口開けた闇の穴

 ピリリリリリリリリリリリ!! ピッ。

 無造作に置かれた右手が画面に触れた途端、もぞもぞと布地を動かす奇妙な生物。その端から赤色のぐったりと伸びた毛を覗かせたそれ。またの名をマーズという女性は、半開きになった目であたりを見回し、ぐっと体を伸ばしてみせた。

 

「んんー……もう朝ぁ?」

 

 夢を見ていたのだろうか。夢を忘れているのだろうか。それともそもそも見なかったか。眠る直前から真っ暗に暗転、そして一瞬で迎えたような感覚と、たしかに眠っていることで鈍った体が思考とバラバラの緩慢な動きになっている。

 暖かさがほんのりと残る掛け布団にもう一度体を埋めたい衝動に駆られながらも、必死にそれを我慢する。んあっ、とおおよそ女性のイメージが崩れた適当な掛け声。誘惑という名の物体を取っ払うと、テントの隙間から入ってくる冷たい空気にヒンヤリと肌を凍えさせて、背筋を震わせた。

 

 あくびを一つ。ぼやけた視界をこすりながら、チラリと腹を見せてだらしない寝間着姿で外に出る。まだまだ傾いている太陽の光は谷底にまでは入らないので、薄暗くもその中で輝く焚き火の炎がマーズの前面を黄色く照らし出した。

 

 次に鼻孔をくすぐったのはシチューの香り。腹に直接殴りかかってくる暴力的なまでの攻撃に、直撃を受けた欲求は腹を鳴らして抗議した。ぐぐぐぐぐ、いつもの光景である。

 

「おはよう」

「おはよー……」

 

 先日の夕食とは逆の光景だ。

 何らかの薬草か、はたまた調味料でも加えたのだろうか。昨日よりも緑色の使者が紛れ込んだシチューの入った器が、マーズの前にコトリと置かれた。大抵こういうときはハマゴの仕業である。だが、それにハズレという文字は存在しない。

 

「いただき―――」

「……の、前に顔洗ってきやがれ。水ならキュウコンが濾過しといてくれたからよ」

「あーい……」

 

 ガチガチとした岩場というよりも、暗く閉鎖された崖のしたという環境だからだろうか。いつもよりも圧倒的にグラグラと意識の薄いマーズを尻目に、やれやれだと首を振るハマゴ。

 マーズは簡易的な水桶に溜まった冷たいそれを手に救うと、バシャッと自分の顔に懸けて丁寧に洗っていく。肌を傷つけず、かつ全体的に塗りたくるように。最初に手を入れたときからだが、徐々に彼女の意識はハッキリとし始めていた。

 

 水面に映っただらしない格好に気がつくと、軽く手ぐしで髪の毛を整える。少し流れてしまっているが、朝の間はこれでも十分だろう。顔だけはまともになったマーズは、今度こそ食卓の場に着いて「いただきます」と手を合わせて口を動かし始めた。

 

「へえ、美味しいじゃない」

「いつものことだろ。ほら食った食った」

「わかったわよ」

 

 コトコトと煮込み直すシチューは、先日に比べて少し固まりやすくなっている。だがそれがいい、という人がいるように、この二人も一旦置いたカレーやシチューの方が好きなタイプだ。サラサラすぎるのは嫌いではないが、置いたものに比べれば負ける、という思想の持ち主である。

 

「よし、出てこいジラーチ」

 

 当然ながら余すこと無く食べられたシチュー。鍋の内側に僅かにこびりついた程度に残るそれは、キュウコンが「じんつうりき」で浮かして綺麗さっぱり取り払い、ジラーチの前にある皿の中へと飛び込んでいく。

 

 当然のように寝ぼけていたジラーチだったが、ハマゴが羽衣をひっつかみ、そのままバルブのようにぶん回すとビックリして飛び起きてしまった。最後は遠心力に任せて上に投げ、落ちてきたところをハマゴがナイスキャッチといった具合だ。

 ジラーチは寝起きでいきなり虐待じみたことをされてお冠だったが、無言でスッと差し出されたシチューの残りとスプーンを渡され、不機嫌な感情もどこへやらといった具合である。幸せそうな表情を浮かべながら、一心不乱に食べ始めていた。

 

「んじゃデカイもんは洗っとく」

「ジラーチもすぐ食べ終えるでしょうし、小さい方はキュウコンとあたしでやっとくわね」

 

 ハマゴは鍋や、机などの設置具を。マーズは皿をはじめとした小物を片付けはじめ、キュウコンは食器などを洗うための水を神通力で川から浮かし、すぐさま火で炙って蒸留させると、気体になったそれらをこれまた神通力で洗い物用の水桶に移し替える。そうして準備された後は、マーズのやっていない小物をテキパキと片付け始めていた。

 

 一方、シチューの残りを食べきったジラーチはご満悦でお腹をポンポンしている間に、ハマゴが空っぽの皿を取ってマーズ側に投げ捨てる。飛んでくる方向も見ずにキャッチした彼女は他の洗い物と一緒にそこへ入れると、ザバザバと一緒に洗い始めていた。

 

 朝の食事が終われば、次は朝の体操である。

 ポケモンたちを全て出して、ハマゴがそれぞれに考案した体操をやらせる。ドータクンなら腕のような部分を中心に、サイコパワーの精密動作確認。クロバットなら羽を中心にした柔軟と、一定の飛行方法が十全に出来るかどうか。ブニャットやキュウコンは関節と神経を確かめる軽めの柔軟運動と、技の確認である。

 ジラーチはというと、ドータクンとタイプが一緒であることから似たような体操に加え、しっかりと手足を伸ばし、第三の目がしっかり開くかどうかの確認だ。

 

「おお、やっぱ目力あるな。あいつの腹」

「むしろ怖いと思うんだけど」

 

 ジラーチの第三の目といえば、お腹の真ん中からカッ、と見開かれたそれである。模様であるのか、眼球であるのか。ジラーチを始めとする幻のポケモンは、内部までの詳しいスキャンが通らないため真相は闇の中だ。

 第三の目は他にも、バトラーがジラーチの力を利用するとき、千年彗星のエネルギーを受け止めて願いを叶えるそれを、単にグラードン復活のために回されていたということもあった。特別な力を使う器官であるが、別に普段からカッと開いてもパワーを回さなければ不思議な事は何も起こらないようである。少なくとも、ハマゴやマーズが慣れる程度には。

 

「戻れキュウコン」

「みんな、戻って! ―――さて、あんたの用事は終わってるの?」

「時間が時間だからな。咲いてる間にしっかり採取させてもらったぜ」

 

 ほらな、と差し出された試験管には、彼が求める花が収められている。その状態を維持するため、ほんのりと水色っぽい液体越しであるが、時間を過ぎても開花したままの花を見てなるほどね、とマーズは呟いた。

 

「それじゃ行っちゃう? テンガン山抜け」

「ああ、カンナギ方面で頼むぜ」

 

 すでに車や交通道路が整備されているだけあって、テンガン山の内部を徒歩で抜けていくルートは、ある程度の獣道こそあれど正式に補導されている場所は無い。自らの足で旅をする旅人たちのためのルートでもあるが、それは薄暗く険しい洞窟の中。一筋縄ではいかない道のりが待ち受けているというものだ。

 

 テキパキとテントも片付け、ハマゴの背負う荷物の中にピッタリと収まったところで、彼らは降りてきた急な斜面を登るためザリザリと石を蹴り転がしながらあるき始めた。しかし、あの重い荷物を持った上でというのは、ハマゴに相当な負担が掛かるはずである。

 

 流石のアイツといえども、ギブアップしそうなら素直にクロバットを貸してやろう。そう思って少しばかり息を切らしながら、斜面の途中を歩いて行くマーズはふとハマゴの方へと振り返ってみたのだが。

 

「……あんた、ホントに人間? ポケモンが化けてるとか無いわよね?」

「んだテメェ。いきなり何言ってやがる。寝てる間に脳でもやられたか?」

「いや、聞いたあたしがバカだったわ……」

 

 ピンピンしている。それどころか、ハンドバッグ程度の荷物量しか無いマーズですら少しばかり息を切らしているのに、ハマゴの方は余裕の表情である。吐き出す息でメガネが曇っている、などということもないので、やせ我慢でもないのだろう。

 こいつどんだけ過酷な環境にいたんだ、と。自分もある意味前線から戻ってきてはまた行くなど、過酷な労働を強いられる職場にいた事を棚に上げて内心ドン引きしているマーズ。ある意味で悪い夢だと断じた彼女は、思いを振り切ってテンガン山を抜けるための先導に専念するのであった。

 

 

 

 

「……対象・ジラーチとその護衛はテンガン山に入りました。どうやらカンナギへ向かう模様です。よほどのことがない限り、作戦時にトバリへ到着することはないでしょう」

 

 水の中に仕込ませた機械からの動画を元に、火山を模した腕章をつけた者が機械的に告げる。ハマゴたちが洞窟の中へ入っていく映像を最後に、モニターは先程の映像で、彼のバックパックの上に乗っかるジラーチの拡大画像へと切り替わった。

 

 静かな部屋に、ふんと鼻を鳴らした声が響く。

 

「キッサキにでも行ってくれたほうが、雪に紛れて奇襲も楽だったのだがな……まぁいい。トバリでの作戦後はそのまま奴らの確保に行けばいいだろう。ジラーチの確保にそう急ぐ必要もない……」

「監視は打ち切りましょ。そろそろここも破棄する予定だし」

 

 新生マグマ団の数あるアジトの一つ。マグマ団の中でも上位の権限を持った者たちのうち、二人がそこにいた。ジラーチという宿願への足がかりがすぐ手に入るかもしれない場所にあるというのに、あまり感情らしきものは見られない。よほど彼らの言う次の作戦というのが大事なのであろう。むしろ、それを経てこそジラーチに価値が生まれるとでも言うのだろうか。ここまでギンガ団以外、ロクな襲撃をしてこなかったことからも事情は窺い知れる。

 

 ここで明らかになった事実としては、彼らの行う大規模作戦の目的地は「トバリシティ」だということだろうか。前にハマゴたちが手にしている情報と合わせれば、トバリシティ壊滅の危機がすぐそこにまで迫っているということ。

 当然、まだシロナたちはその情報を手にしていない。気になるのはその猶予期間。この悪意が侵略するその時間だが―――

 

「そう言えばトバリのジムリーダーは戻ってるの?」

「いや、我らのリーダーのおかげでまだ武者修行に出たままだ。現在はミオシティで鋼鉄島への出港準備をしているらしい。まだまだ青臭いガキだということだな、完敗した程度でジムを空けるとは」

 

 鼻で笑う男にとって、少女たちのバトルに掛ける情熱なんてものは何の価値もない物であるらしい。まるでやんちゃな子供に苛つき、鬱陶しいと思っているような態度で、行儀よくしてろ心のなかで毒づいている。

 質問をした女も同様、彼女らの現状を知ってあざ笑ってみせた。彼ら新生マグマ団にとって、ポケモンとは「最初からある程度強いもの」なのだ。当然、強いトレーナーをバトル以外の方法で倒し、奪っているのだから強いのは当たり前である。

 

 従わなければ、プルートが死にかけになりながら開発させられていた「洗脳マシン」をポケモン用の出力にして従順にさせ、いずれはマシンを使わずとも自分たちに使われることこそが生きる理由だと誤認させる。鬼畜外道の所業とはまさにこのことだろう。

 良識なんて、犯罪集団である彼らには微塵も持ち合わせていない。全ては目的に至るための手段であり、自分だけの幸せを使うための道具だ。今ここにいる仲間たちですら、途中までは庇うように見せるだろうが……本質はあのニューリーダーと同じだ。最後の最後で、自分以外は簡単に切り捨てるだろう。

 

「まぁいい、準備ができ次第招集をかけるぞ。我々の数は少ないのだからな」

「はいはい。まぁ手足はいくらでもその辺に居るんだけどね」

 

 プルートが残した人間専用の洗脳装置を見ながら女は笑う。他人の人生なんてどうでもいいのだろう。それが壊れようが、脳に生涯を負おうが、身体に異常が発生しようが、所詮は他人事。むしろ、自分たちの目的のために死ねて幸せだろうと勝手に想像する。ある意味で、狂ったジュピターと同じような思想だ。

 

 願わくばこのような人間、世の中の法理などに関係なく、居なくなったほうが害が減ってちょうどいいだろう。だが世の中とはこんなものだ。蹴落とす側のみが生き残って、躊躇した方はどれだけ高潔な意志があろうと世界に残らない。

 結局のところ、倫理なんてものは人間が勝手に作り出したルールだ。自然界には何の意味も持たないということ。故に―――

 

「さぁ、2日後のパーティ準備よ」

「そうだな」

 

 間に合わないのだ。良き心を持ったものたちは、いつもその心のせいで倒すべき相手を取り逃がす。自らもその非情に徹することが出来ればいいのに、出来ないからこそ。

 

 つかつかと廊下を鳴らしてドアを閉める二人に続き、マグマ団の正式団員と、荷物持ちの洗脳団員が続いていく。機器は全て移動することを想定した分解型なのだろう。テキパキと短時間で荷造りが成され、やがて彼らが使っていたアジトは書類一枚も残っていなかった。

 

 シロナたちにも、もはや彼らを止めることは出来ないのだろうか。

 マグマ団は完全に撤退している。情報の一つすら残っていないこの場所に辿り着いたところで、シロナがやっていたように終わりのないイタチごっこが続くだけ。

 

 

 果たして、そうだろうか?

 

 

 ごそっ、と天板が外れる音がする。

 

「…………任務、完了」

 

 降り立ったのは忍びのような黒い装束をした、灰色の髪をなびかせる影たち。マグマ団たちの弱点は、これだ。次々に拠点を移し、短時間しか留まることが出来ないため、周辺の索敵が開始される前に潜入していれば、内部の警備はガラ空き。洗脳された団員(いっぱんじん)たちは、そもそもが希薄な意志しかないため視界に入らなければ戦闘行動を取れない。

 こうして気配の全てを殺すことが出来る人間がいれば、情報は全て筒抜けだ。

 

「弐、報告を」

「ああ」

「参、男を追え」

「…ああ」

「潜り込む」

 

 手短に伝えあった3人。彼らはダークトリニティと呼ばれている、シロナが直々に雇った何でも屋だ。既に報酬を受取り、彼らの主……ゲーチスの元に送ってあるのだが、ゲーチス自身がまだまだ身を潜める必要があるため、そのために必要な活動資金を集めるためシロナから雇われ続けているのだ。

 

 彼らこそ、悪意寄りではあるが中立にして、倫理に囚われたものたちには出来得ない仕事をこなす者たちだ。その働きぶりはこの光景を見ただけで分かるだろう。実質、ギンガ団残党や新生マグマ団に関する情報の8割以上は彼らの手によってもたらされている。

 

 だからこそ、間に合った。

 

 弐、参、と便宜上識別されたダークトリニティの2人は、闇の中に吸い込まれるようにしてその場から掻き消えた。残る一人も、どこからか取り出したモンスターボールを構えて新生マグマ団たちが歩いていった方向に顔を向ける。

 直後、おそらく壱となるダークトリニティの一人が幹部の女がいる方へ尾行を開始した。

 

 今、男が指揮して行った方は実働部隊だろう。洗脳団員の多くを引き連れ、気を引き締めたようにしてトバリシティの方へと足を向けている。逆に新生マグマ団の正団員と幹部の女が居る方は、少数であり気を楽にして向かっている。

 どちらも一般人に見つからないルートを通っているが、女幹部が居る方はかなり厳重な警戒を敷きながら、あらゆる電子機器の探知範囲外へ、あるときはポケモンの鋭い感覚器官を利用した警戒を行って行軍を続けている。ともなれば、女の方がマグマ団の本拠地がある方へ歩いているということだろう。

 

「………」

 

 壱は、ここで焦って通信を行い、シロナへ報告するようなことはしない。そもそも報告と、いざという時の護衛を兼ねているのは弐と呼ばれた方だ。今の自分は完全に己を殺し、マグマ団の本拠地を見つけること。金払いがいいだとか、シロナを気に入ったという感情はそこに微塵も存在しない。

 ただ、「命令」であるが故に。どこまでも忠実で人形のようでありながら、たしかに人間である彼は密やかに足跡を消していく。

 

 これまで秘された強大な「地」の悪意。それが明らかになる時は、近い。

 

 

 

 視点を「参」と呼ばれたダークトリニティに移すとしよう。

 彼はトバリシティで行われる作戦の実働部隊の一部を連れた、新生マグマ団幹部の男の追跡を開始していた。アジトから撤収する道中で、ふいに辺りを見回した彼は部下に耳打ちしている。あの女とは違い、神経質そうな見た目に違わず疑い深いのだろう。部下のレーダーや周囲を見張るポケモンたちの様子を見ながら、付けられていないことを何度も確認している。

 ダークトリニティの「参」は息を潜め、体臭を周囲の草木と同化させ、見つめているという感覚を消して相手の認識から完全にズレてみせる。およそ人間業ではない隠形に、ようやく警戒を解いた幹部の男が通信を始めていた。

 

「……アジトは引き払った。我々は今トバリに向かっている」

 

 近過ぎもせず、遠過ぎもせず、小声であるが聞き取れる位置で「参」は幹部の男の言葉を耳に拾っていた。流石に通信機から発せられる通信相手の声までは聞き取れなかったが、働きとしては十分以上だろう。

 

「ああ、問題ない。証拠は何一つとして残っていないはずだ。決行は……何?」

 

 はた、と男が足を止めた。

 

「そんな馬鹿な……だが、リーダー。そんな笑えない冗談はよしてくれ」

 

 幹部が話しているのは、我々でしか未だ正体を知らぬ、ニューリーダーだったようだ。おおよそ若く、しかし明らかに邪悪で実力を持った怪人物。その相手から信じられない言葉を受け取ったのか、再び神経質そうな幹部の男は辺りを見回し、焦ったように部下から機器のモニターを奪い取る。

 

「だが機器やポケモン共には何の反応も!」

≪……! ッハ! …………≫

「だ、だが……そうか。き、貴様の言うことに間違いは無かったな。仕方ない、その言葉に乗ってやろう」

 

 完全に足を止めた男はその手に何かを握っている。それは、この世界に住むものなら、見たことがないはずもないありふれたモノ。モンスターボールだ。おもむろに放り投げた彼の側に、一匹のポケモンが青白い光の筋から、その頑強な姿を表した。

 

「メタグロス! 周囲にサーチをかけろ!! 全域だ!」

 

 その瞬間、「参」はその場から飛び退いた。

 当然それを見逃すメタグロスではない。スーパーコンピュータを超える脳の処理速度で周辺を分析する中で、動く物体など容易くロックオンすることが出来る。メタグロスは主人である幹部の男の指示を待つまでもなく、バレットパンチを発動させた。

 銀の一矢となって「参」がいる場所へと急加速。だが身をなんとかよじらせ躱してみせた「参」は、電話越しというありえない状況から自分が居ることを予測してみせた「ニューリーダー」とやらの危険度を一気に引き上げる。

 ほんの一瞬に過ぎないが、このまま人間たちにも姿を見られるのは不味いと考えた彼は、メタグロスの視界の外に外れ、再び気配を押し殺した。

 

(撤退、情報を持ち帰るべき。だが……)

 

 大樹の幹を背もたれにし、ちらりとメタグロスを見る。まだトレーナーは追いついていないが、姿を見られたことには変わりない。そしてあの常軌を逸した速度、何もせずに逃げに徹するのは得策とはいえないだろう。

 どこからともなく取り出したのはモンスターボール。常日頃、ほとんど頼ることはないが、それ故に確実な切り札であるポケモンを繰り出すことに躊躇はない。

 

「…キリキザン」

 

 持ち主に似たのか、寡黙にただ刃を研ぎ澄ますポケモン。主人の代わりにメタグロスの前に躍り出たキリキザンは、腕の横についたブレードを振りかぶりながら「だましうち」を放つ。しかし、対するメタグロスは動きを観察、計算して確実にキリキザンを弾き返す場所に鋼鉄の腕を挟み込んだ。

 たたらを踏み、のけぞるキリキザン。その不意を打ってバレットパンチを繰り出したメタグロスだったが、キリキザンは軽い身のこなしで体をひねった。自身の刃をスケートのように滑り込ませ、硬質なメタグロスの腕を滑り抜ける。一気に眼前に躍り出たキリキザンに、「参」はカッと目を見開き呟いた。

 

「つじぎり…」

 

 メタグロスの側を通り抜ける際に、キリキザンの刃が自然な流れで振るわれた。

 しばし、硬直。

 

 一陣の風が吹きすさび、木々を揺らす。

 土煙が巻き起こり、メタグロスの巨体は地面へと倒れ込んだ。

 

「め、メタグロス! そんな馬鹿な、こいつはエリートトレーナーが育てていたポケモンだぞ!?」

 

 同時に到着したのはマグマ団の幹部連中だった。キリキザンは彼らを一瞥したのち、木々の雑踏の中へと消えていく。すぐさま薄影ど同化して行ったキリキザンは先に離脱していた「参」と合流し、モンスターボールの中へと戻っていった。

 

 あのまま尾行を続けるのは簡単だが、作戦実行地にはダークトリニティに何故か気づいてみせた謎のニューリーダーが控えているはずだ。そのまま捕まって、洗脳装置を使われてしまえばダークトリニティの名折れ、ひいてはここまで彼らを育て上げたゲーチスの顔に泥を塗る事になる。

 確実ではないにせよ、強大なリスクが存在する中で現状最も有用な情報を手に入れている中、深追いする必要はない。

 

 口元のマスクのズレを直した「参」は、すぐさま「弐」が向かったであろうルートとは別の道でシロナの元へと走り出した。

 影の揺れる森の中、存在の跡すら残さずに。

 




ダークトリニティに明確な見分けはありませんが、作中で認識しやすいように「壱・弐・参」と名付けました。彼らの中でこの呼名は固定されておらず、今回であれば報告・追尾・観察といった役割ごとに判断したものから付けられるだけです。
 わかりやすく言うと、言い出しっぺが「壱」、そこから割り振って順番に「弐・参」がついて、今回の「参」が「壱」にもなるってことですね。

オリジナル要素甚だしいですが、そもそも存在しない原作後のストーリーなうえ、ゲーチスが手に入れていたはずのDPt(宝玉)も、ダークトリニティが手に入れたことになってるこの世界では気にしないように。

ではサラッと解説


ニューリーダー
・どこぞのトランスフォーマーと違って超優秀な上本物。
 前回冒頭で出てた「ドッカンドッカン大作戦~」って言ってた狂人ですね。
 てかオリキャラ狂人モドキ~本物狂人ばっかりじゃな。

新生マグマ団幹部
・幹部といっても、元々は多少実力があった下っ端や研究員の集まり。
 思想こそ一致しているが小物感が拭えない。持ち歩き便利(違う
 こいつらの手持ちは全部強奪ポケモン。ホウエンでは被害者多数。
 ポケモンはプルートが開発した洗脳マシンの審査通過済み。
 あんまり詳細設定はない。下手にキャラ立たせると大変でしかないから。

キリキザンの辻斬り
・あれだ、時代劇の納刀した時に敵が倒れるシーン。
 でもやってることは辻斬り

ダークトリニティ有能
・言うに及ばず。何度も取り上げてるけどコイツら出さなかったら詰んでる。
 描写してないけど拷問とかも得意。描写してないけど。
 実際は別に識別名つけなくても活動できると思う。
 でも小説的に分けないと描写きっつい。

 関係ないけど、一説ではやたら強いゲーチスの「サザンドラ」の化身説がある。擬人化ってことに抵抗がある人には受け入れづらいかもだけど、アニメだとラティアスとか、サトシになったゾロアとか前例あるからね。悪の中でも特別可愛がられてるポケモンとか正直めっちゃ滾る。 あ、今更だけどこれ妄想です。


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