流れ医師の流れ星   作:幻想の投影物

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これと前回の目的

・アニポケ風の話構成に挑戦
・書き方に三人称と一人称を入れる
・ポケモンの心情の練習
・どこまでマーズを空気にしつつ活躍させるか


標的の行く末

「ドォラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 蹴りぬいた足。陥没する鼻。

 流れ出る流血の軌跡を描いて、密猟者の一人は白目を向いて沈黙する。

 

「野郎やりやがったな! アシッドボムだ!」

「ビークイン、とどめばり!」

 

 攻撃直後のハマゴは片足を突き出した状態。当然ながら飛んでくる攻撃を避けられるはずもない。蹴り飛ばされた密猟者に出されたガーメイルが狼狽え、キュウコンに阻まれているのが救いだが、ポケモンの殺すつもりで放たれた攻撃を食らって、無事で済む人間はいない。

 だが、アシッドボムが振りかかる直前、その間に入り込む影があった。キュウコンだ。

 

「……!」

 

 何も言わず、口に蓄えるのは炎。邪魔をしていたガーメイルを蹴っ飛ばした彼女はアシッドボムを自慢のオーバーヒートで蒸気の一片も残さず消し去った。近づいてきたビークインは、なおもハマゴを狙っていたためその横っ面に鬼火を当てる。青白く不気味な炎を受けたビークインは怯み、技を解いて交代。だがその身には鬼火がもたらしたひどい火傷が染み付いている。

 

「助かったキュウコン」

 

 片手でさらりと、彼女の口元を撫で下ろすハマゴ。

 残り二人と3匹になった密猟者たちを睨みつける彼は、その手袋をぐっと握りしめる。

 

「さぁて、サイホーン共を狙ったその理由。聞かせてもらおうじゃねえか」

「一人倒したくらいでいい気になりやがって……」

「おい、聞こえるか! 邪魔な奴が現れた。全員こっちに来い!」

「チームだったか……。そりゃそうだわな」

 

 ちらりと彼が横目で見れば、ドサイドンたちが自慢の強靭な身を呈して、半壊状態のトラックからほぼ無傷のサイホーンを救出しているようである。人間が人間同士のいざこざを片付けている間に、ドサイドンは当然身内を優先したということだ。

 合理的な判断が出来る彼らに感嘆を抱き、ヒュゥと口笛が鳴らされる。

 

「くろいまなざし!」

 

 ちょうどその時、上空からようやく到着したクロバットが真っ黒に染まった眼を密猟者とそのポケモン達に向けると、そのまま目から抜けだした不可思議な文様が黒い光となり、彼らの足を縫い止める。

 ギンガ団元幹部の手塩にかけて育てたクロバットだ。くろいまなざしという技一つでも、複数の相手を同時に相手取れるだけの成長を果たしているということだろう。

 

「おまたせ」

「おせえぞ糞女。こちとら一人手にかけてんだからな」

 

 白衣についた土を払いながらハマゴがいい、マーズはそれに鼻を鳴らして応える。

 どこまでも優位に立っているのは間違いなく彼らだ。だが、どういうことだろうか。くろいまなざしで縛り付けられた密猟者たちも、その顔に張り付かせたいやらしい笑みを解いては居ない。その増援によほどの自信があるのか。それとも?

 

「コイツはツイてるぜ……」

「あん?」

 

 その答えは、他でもない彼らの口から語られた。

 

「青い髪、ツリ目の白衣!! 小遣い稼ぎに遊んでたら、まさか鉱山を掘り当てるとはなあ!」

「運がいいぜ俺たち。これで遊んで暮らせるってもんよ」

「……ハァ?」

 

 ぐはは、げひゃひゃ、と絵に描いたような悪どい笑い声を上げる彼らの行動に、ハマゴらは疑問の声を上げた。しかし、よほどの欲の源となっているのだろうか。あいも変わらず動けないままだというのに、ギチギチと締め上げられる身体も無理矢理に動かし、彼らはよく滑る舌を回している。

 

「ちょうどいい、教えてやるよ。オマエラは1億もの懸賞金を掛けられてんだ。俺らの中じゃちょっとした有名人なんだよォ! しかもたった一人の人間と、それに加えて手持ちのポケモンまで捕まえれば更に1億!」

「そして仲間の到着はあと2分もいらねえ。さぁ、観念し―――」

 

 続けようとした、二人目の言葉はそこで区切られる。

 何故か? なぜなら―――

 

「やかましいッ!!」

 

 ハマゴが土手っ腹に足を突き出していたからだ。

 

「カ、ハッ……!?」

「あーだこーだとくっちゃべってやかましい奴らだ! いいか! テメェらは遊びと言いやがった! サイホーンたち命ある存在を、ポケモンを捕まえて、売りさばいて、その後死のうがどうでもいいと! これが遊びだと言いやがった!」

「が、っげふっ! ごふっ、ぐえっ……おごっ!」

 

 倒れこんだその腹に、彼は何度も足を押し付ける。

 バウンドする身体に合わせるようリズミカルな蹂躙だ。腹から腕を、足を、そして顔面を蹴り飛ばすハマゴ。擦り切れた傷口から飛んだ血が、ニヤけ笑いを浮かべていた密猟者の最後の一人に振りかかる。

 頬を濡らした生暖かい血液が目元に飛んで、密猟者は顔を真っ青に染め上げる。マーズは、沈黙して見るしか無かった。命を弄ぶ……それは自分にも言えることだ。密猟者に降りかかったその言葉が、まるで自分の過去に響いているようにも聞こえてしまう。だから、彼女は言葉を全身で受け止め、動くことが出来なかった。

 

「捕まえたのなら共に生きろよ! 傷つけて遊んでんじゃねえ! テメエの道楽のためだけに命が在るわけじゃあ……ねえんだよっ!!」

 

 指を絡め、両手で作った槌を振り下ろす。

 肥えた土手っ腹に叩き落とされた人間アームハンマーが、いたぶられた密猟者の一人を情け容赦のない痛みとともにブラックアウトに追い込んで、彼は激情に任せたままに振り下ろした拳を解いた。

 

「ヒッ!」

 

 幽鬼の如く揺らめいて、ギラリと下から横に移される視線。

 まだまだくろいまなざしの効果は続いている。当然だ。彼ら密猟者は鍛えることを怠った者。ジムリーダーとまでは行かずとも、まともにポケモンと共に身体を鍛えていれば、この技の影響はポケモンよりもずっと軽いはず。だというのに動けない彼らは、やはり堕落しきった者である証。

 

 無言で土を捲り上げ、持ち上げられたハマゴの右足。

 一人目のようにその顔面を突き抜けんばかりに振り切られるその足は、しかし避けられる。

 

 このタイミングでくろいまなざしが解けたのだ。

 不味いと思った瞬間にマーズも動き出すが、それよりもフラストレーションが溜まっていたのであろうガーメイルの方が早い。トレーナーが倒されたことよりも、自分がずっと無視されていた事に苛立ったガーメイルは鱗粉を毒の粉に変えて、それを「かぜおこし」で打ち出す。

 触れれば腐食が始まる猛毒は、ポケモンたちはともかく人間がマトモに耐えられるものではない。命が助かったと言わんばかりに密猟者も己のビークインを先行させるが、そこはキュウコンに前を阻まれる。

 

「バカがぁ! トレーナーががら空きだぜぇ!」

 

 キュウコンはハマゴを守らず、マーズのクロバットも間に合わない。

 やがて1秒もしないうちに毒紫の煙がハマゴを飲み込み、止んだ風とともに纏わりついて留まってしまった。あれだけの殴る蹴るの運動をしたハマゴだ。当然呼吸も荒く、咄嗟に息を止めるだなんて芸当が出来るはずもない。

 

「くっ、アクロバットでガーメイルを!」

 

 すでに煙に呑み込まれた以上、これよりもひどくなることはない。だがハマゴはもう倒れてしまっているだろうと判断したマーズは目標をガーメイルに変えた。自分もハマゴの二の舞いになる訳にはいかない。そう思ってのことだ。

 ろくに鍛えられておらず、怒りに身を任せていたガーメイルは隙だらけ。クロバットのアクロバットが背後から突き刺さり、マーズたちが降りてきていた岩山の壁に吹き飛ばされたガーメイル。瓦礫に埋もれて戦闘不能状態になったそれを確認したマーズは、次はドククラゲの番だと、つばめがえしを指示する。

 

 一方、ビークインに向かっていたキュウコンは軽い身のこなしで近づくと、ほぼゼロ距離で神通力をビークインにお見舞いしていた。いつものように冷静を装ってはいるが、ハマゴを直接攻撃しようとしたビークインには内心怒り狂っているキュウコン。締め上げる力はいつもの加減が上手い様相ではなく、九尾の妖狐として恐れられる暴虐の妖の本性をむき出しにした攻撃性に溢れている。

 ギリッ、と締め上げる音がやがてギチギチとすりつぶすような音に代わり、ビークインは一瞬にしてその意識を刈り取られた。それと同時に、吹き飛ばされていたガーメイルが岩山にぶつかって戦闘不能になる。

 

 これで、2対1だ。

 追い詰められた最後の密猟者は、冷や汗を垂らしながら考える。だが、その視線はチラチラとハマゴの方に向けられていた。この期に及んで、一億…いや、二億という金に吊られた欲が彼の思考を妨げているらしい。

 目の前に居るのは、非力そうな女とたった2体のポケモン。今はまだ保っているが、そのうちドククラゲも倒されるだろう。だが……

 

 次の瞬間、密猟者はドククラゲを見捨てることにした。もともとビークインも倒されている。それなら、自分だけが助かってまた適当なポケモンを「奪って」しまえばいい。

 ここで倒れているポケモンたちは、ガーメイルを除いて彼らのポケモンではない。どこからか盗まれたポケモン。それを痛めつけて、酒の勢いで蹴りつけて、すこしばかりドコかが傷んでしまっているが、飽きればまた適当な仲間に渡すか捨てていけばいい。密猟者にとって、ポケモンとはその程度の価値しかなかった。

 

 だから、密猟者は口元をスカーフで隠しゴーグルをつけると、晴れてきた毒煙の中に突っ込んだ。全てはハマゴを確保し、持っているであろうその手持ちのポケモンを「あそこ」に売り渡して金を得るためだ。

 幸い、ドククラゲには脅しつけて死ぬ気で戦え、でなければ殺すと言ってある。だからちょうどいい時間稼ぎになるだろうと、密猟者はハマゴらしき人影を見つけて、欲に塗れたその目を見開いた。

 

「ひゃっははははは!」

 

 腕を伸ばし、嘲笑とともに自分の夢を思い描く。

 金をもらったらどうするか。適当な美人でも買うか、またポケモンで良さそうな商売を見つけるか。いや、仲間の資金にして適当な街を襲えばもっと金が手に入る。いいじゃねえか。

 

「……あ?」

 

 そうしてぐっとハマゴの腕を握った時、彼はその妙に硬い感触に違和感を感じた。

 確かにあいつは鍛えているようだが、こんな、「岩のように硬かったか?」と。

 

「おい」

 

 ぽん、と肩に手が置かれる。

 沸騰するように暑くなっていた感情は冷め切って、目元についた血が先ほどの恐怖を呼び起こす。一瞬にして下がった体感温度は、まるで凍りづけにされているような。

 錆びついたブリキの人形のように、肩に置かれた手の方向を見る。それが、彼の本日みた最後の景色だった。

 

「ぎっ……ぎゃあああああああああああ!? 目が、目があああああああ!?!??」

 

 びちゃり、熱い、と思った瞬間に彼の目は焼きごてを押し付けられたように痛みを発した。必死に目を拭おうとするが、少しでもまぶたを開けば、液体から目に染みる成分が刺激を強める。だから、必死に目をつむったまま、のたうち回るように目を拭うが一向に取れる気配はなく、それどころか強い粘性・弾力性があるのかぐにゃりと形が変わる程度で液体の飛沫一つ上がらない。

 

「ノワキとマトマの実をブレンドした特製カクテルだ。ちょっとした薬品がカクシアジだがな」

「て、てめぇええ!? あ、ああああああああああああああ!」

 

 煙が晴れて、ようやく全貌が顕になる。

 先程まで密猟者が掴んでいたのは彼の白衣。だが、中身は長い石と木の棒が詰まった身代わりだ。本物のハマゴは毒の影響など一切ないかのように見下ろし、その右手の手袋をギュッと嵌め直している。

 

「多少粘膜が焼けるが、まぁ2時間もすりゃあ硬くなる。その時にまつ毛ごと引き剥がしてもらう凝った」

「ぐ」

「そろそろその口閉じろ」

 

 ハマゴの背後からぬっと姿を表したキュウコン。

 養豚場の豚を見るような目で密猟者を見下ろした彼女は、眉間のあたりから薄紫に輝くサイコエネルギーを溜め込んだかと思えば、密猟者の頭にそれを直接打ち込む。リング状のエネルギーが連なって密猟者の頭に消えていったかと思うと、苦しんでいた彼は一気に脱力し、その身を地面へ横たえた。

 文字通り深めの眠りに誘う「さいみんじゅつ」だ。普段は中々寝られない病室の子や、傷が痛んで眠れない患者、薬の副作用で睡眠が難しい人に使うための技だが、今回のこれは昏睡状態にまで追い込むそれだ。一人くらい、1周間寝てても問題無いだろうというキュウコンなりの怒りの表し方である。

 

「ハマゴ! あんた無事だったの!?」

「よお、速攻見捨てた割には心配してくれるじゃねえか」

「それよりなんで毒受けて……」

「んなもん簡単な理由だ」

 

 ドン、と胸を張って彼は言う。

 

「医者に毒が効くかってんだ!」

 

 しばしの無言。吹き抜ける風。そして静寂。

 

 とんとん、と難しそうに額に指を当てていたマーズは、思ったよりも素っ頓狂な理由を聞かされ混乱状態にされたが、自前の精神力でなんとか持ち直そうとしていた。

 マーズの必死の様子をそれはともかく、と一蹴した彼はキュウコンをボールに戻すと、辺りをキョロキョロと見回し始める。すると、在る一点で彼は目を留める。

 

「あれが増援ってやつか」

 

 砂埃を上げて走ってくるのは、先ほどの襲撃で壊したトラックと同型のそれだ。それがおよそ4台ほど。まだ見えないが、後ろの土煙の量を見るにそれに加えて2~3台ほどはあるだろう。

 荷物のところに檻しか入っていないとしても、10人以上がこちらに向かってきているのは間違いない。しかも、キュウコンはオーバーヒートを繰り出したため微妙に疲弊している。その上で、今度は明確にこちらを捕えようとしてくるのが分かっている。

 

「ジリ貧ね、村に一旦戻る?」

「いんや、俺の厄介事だ。ここは一つ協力してもらうしかねぇなあ」

「協力?」

「ああ。あれを見てみろ」

 

 彼は頷くと、在る一点を指差す。つられて目を向けたマーズはうげぇと舌を出すほどに嫌な顔をした。

 先ほどの戦闘が終わったからか、今度はこちらを囲い込むようにしているドサイドンたちの姿があったのだ。敵対している行動は見せていないが、今回の一見で人間にいい感情を抱いていないのは確かだ。警戒心を強めた、鋭い目つきがハマゴたちを見据えている。

 

「あ、ちょっと、なにするつもりよ!?」

「言ったとおりだ」

 

 だが彼はそんなもの気にならないと言わんばかりにスタスタと歩き始めた。

 やがて群れのリーダーであるドサイドンと、その両脇を固める2体のサブリーダーのサイドンの目の前で立ち止まる。両脇のサイドンは威嚇するように角を回転させ、息を荒げている。対してドサイドンは冷静そのものと言った様子で、ここまで無防備に近づいてきたハマゴを見下ろしていた。

 

「頼みがある」

「ばっ…!?」

 

 話を切り出したハマゴに、サイドンは聞く耳持たぬと言わんばかりに腕を振り上げた。警戒しているポケモンに対して、これほど無謀な真似をする彼の姿は見たことがないマーズは、彼らしくない行動にバカと言いかけて、次に訪れるであろう鮮血の未来を脳裏に描いた。

 

 だが、マーズの予想は外れる。

 

「…………」

「ああ、オマエなら聞いてくれると思ったぜ。村にわざわざ警告してくれるオマエならな」

 

 ハマゴの頭上に迫る太い腕は、ギリギリで寸止めされていた。だが、ギリギリと締め上げられるように震えるサイドンの手は、ドサイドンのプロテクターによって無理やり止められていたのだ。

 手の先が抑えられ、サイドンの手首あたりが眼前にあっても瞬き一つしないハマゴ。ドサイドンに止められたこともあって、サイドンはすごすごとその腕を降ろさざるを得なかった。

 

「すぐにでもやってくる、奴ら」

 

 土煙を上げるトラックの台数ははっきりしている。

 6台のトラックに、一人の運転手と上の方に乗っている2人。合わせて18人という脅威が近づいていた。当然、彼らはハマゴを手にした後は予定通りサイホーンを狙い、売りさばくだろう。意地汚い泥棒は、目の前の王冠を手にしたからといって、その背後にある金貨の山を置いていくほど殊勝ではないのだ。

 

「テメェらの怒り」

 

 止められてもなお、サイドンは怒り狂っている。そして散り散りになって逃げていたはずのサイホーンたちも、こうして落ち着いている以上自分たちを襲った相手をぶっ飛ばしてやりたいと心から願っている。三歩歩いて忘れたとして、残る怒りが再びその憎悪の記憶を思い出させる。

 なによりも―――静かに剣呑な光を目にたくわえたドサイドンが、この中で最も内心穏やかではないだろう。

 

「アイツらにぶつけてみねぇか?」

「………」

 

 だが、ドサイドンにはその荒れ果てた怒りの心を押し付ける必要がある。

 彼はこの群れのリーダーだ。群れが減るような自体は避けねばならないし、すでに売られてしまった仲間や、これまでの襲撃で各所に突進していったサイホーンを連れ戻して、元の形に戻す使命がある。

 なるほど、この胆力にあふれた人間の提案も尤もだろう。自分の群れを乱した愚か者どもに鉄槌を振り下ろす。それも必要だが、群れそのものが守れなかったら意味が無い。これ以上、犠牲を出す可能性がある賭けには乗れないのだ。

 

「……」

「まぁ、そうだ。当たり前だ。だが、俺はオマエらの事情を解決できると断言してやる」

 

 ゆったりと首を振ろうとしたドサイドンを止めて、ハマゴは続けた。

 

「知り合いに、人間の中でもリーダーに近しいがいる。そして奴らは人間でも爪弾きモンだ。あの村の誤解だって解いてやれる。ここに奴らが来たのは日が浅いだろ? だったら、売り飛ばされた仲間を取り戻せるよう掛けあって、約束させてやる。そして、この場で傷ついた奴が居れば俺がすぐさま直してやる。どいつも死なせねえよ」

「………!」

 

 ドサイドンからしてみれば、彼は完全に部外者だ。狙う一端となってしまったのもなりゆきであるし、むしろ自分の不利益のほうが大きい。

 

「ポケモンが傷つけちまう状況を強いるのは屈辱の極みだが―――」

 

 ここまで真正面に向き合っている。己の命も顧みず。

 

 ならば、彼の意志は十分に伝わった。

 咆哮だ。怒りの咆哮を掲げよ。

 同胞はすでに奪われ、住居は踏み荒らされた。

 しかし、しかしである。ドサイドン。この群れの主として願う。

 己を脅かした者共には罰を。鉄槌を!

 その身に溜まった怒り、いまここで―――解き放とうではないか!

 

「ヴ、ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 ドサイドンの咆哮が群れに響いて、一匹、また一匹とサイホーンに意志が伝わっていく。目指すはあの畜生ども。平穏を踏み荒らし、家族を奪っていった矮小なる者共だ。

 ならばこそ、我らもまた踏み荒らそう。邪魔するものは突き抜けよ、立ちふさがるならはねのけよ。猪突猛進にして初志貫徹。それこそが我が群れの意義であり、我ら自身であるのだから。

 

「……思った以上に効果的だったかね、こりゃあ」

「あんたまたやらかして…!」

「んなことよりクロバットに俺のバックパック持ってこさせろ。こりゃデカくなるぞ」

 

 本当なら、屈辱だがそれでも奴らを許せないと自分の意志を言葉に乗せるつもりだった。しかし、思った以上にドサイドンは聡いポケモンであるというのをハマゴはその身に刻まれる。知性とプライドと感情と、それらを兼ね備えて、そして頑強無敵の存在として進化したのがドサイドンだったのだ。

 

 もうトラックは100メートル以内に近づいていたが、四十近くのサイホーンの群れは、あっという間にトラックを飲み込んでいった。運転手は破壊されるトラックの中に閉じ込められ、逃げようとした者は跳ね飛ばされている。そして歯向かおうとポケモンを出した者は、リーダーとして謙遜なき実力を誇るドサイドンにあっという間に蹴散らされていった。

 

 一致団結したケモノに人間は為す術はない。食い物だと思っていたそれに、胃袋から食い破られた哀れなる密猟団は次々にその意識を落とし、無様な姿へと変貌していく。

 死人だけは出したらヤバイ。そう思ったハマゴたちが無理やりに救出したのもあるが、結局のところ、密猟者たちに骨折以下の怪我で済んだ者は誰一人としていなかったという。

 

 

 

 

 その数日後、村には大量のジュンサーと、警察組織。そして人間用の医療組織が集まるてんやわんやの大騒ぎとなっていた。

 何かと忙しなく動く村人たちの傍らにはずっとドサイドンたちもおり、最初こそ恐怖していた村人だったが、その原因が彼らの背中で縛られている密猟者たちにあったとハマゴらに教えられることで、恐れていた事を謝罪。そして和解する形を取ることができていた。

 色々と考えさせられるものがあったのか、マーズは借りた部屋でまだ寝ている。そして、ハマゴは……

 

「それじゃあ、あなたは狙われているってことなのね」

「懸賞金1億だかなんだか知らんが迷惑な話だ」

「……本当なら保護するのが当たり前なんだけど」

 

 事情聴取の最中、ハマゴも密猟者の一人と間違われて手錠を掛けられそうになる一悶着はあったが、ジュンサーは純粋に心配そうな表情で彼を見た。

 

「こればっかりはシロナさんが関わっている以上口出しできないわ。でも、忘れないで。今回みたいに必ず私達を頼ること。あなただってまだ18歳の子供なんだから」

「当然だ。それよか、ギンガ団とマグマ団の動向についてそっちに情報はねぇのか?」

「残念だけど、私達のところでは人の失踪が相次いでいる以外わからないわ」

「進展なく、被害ばかりか……辛いもんだ」

 

 加えて、破壊活動とポケモンの窃盗行為もその「失踪した人間」によって引き起こされていると聞いて、彼は歯を食いしばる。ギチギチと軋む音にこもる感情は、ただただ純粋な苛立ちだ。

 

 その後、事情聴取から開放されたハマゴは厄介事をこれ以上持ってくる訳にはいかないと思い立つ。尻を蹴り上げ、泊っていた部屋で悩むマーズを正気に戻して合流。そしてようやくこの村を出発する準備を整えていた。

 

「しかし悪ィな。こんなに木の実だの薬草だのともらっちまってよ」

「いえ、今回の事を考えれば少ない報酬ですよ」

 

 バックパックをパンパンに膨らませ、この辺りに自生する木の実などを貰ったハマゴが嬉しそうな声色を隠せずに言って、村長はハマゴの若々しい表情に笑ってみせる。

 

「そんであれだ。オマエらにも無茶言っちまったな」

 

 トラックを吹き飛ばして、密猟者を実質的に全滅させた功労者の代表ドサイドン。

 彼は気にするなと言わんばかりに首をゆったりと振る。

 

「おまえたちの仲間が見つかれば、私達が必ず伝えに行く。済まなかったな、ドサイドン」

「………」

 

 背中を向けたドサイドンは、片手を上げて群れが待つ平原の方へと足をすすめる。きっと、彼らもこれからは村人と有効な関係を築くことが出来るだろう。既に売られてしまったサイホーンたちの事は気がかりだが、それはもうハマゴたちの手から離れた問題だ。

 ドサイドンの姿が見えなくなった頃、世話になったとハマゴらも歩き出した。

 

 次に目指すはハクタイ。彼らの旅は、まだまだ続いているのだから……

 




というわけで読者企画第一弾はこれにて閉幕。
まだまだ、続く…… という締め方だけアニポケ踏襲。それ以外微妙

ドサイドンを絡めていきたかったが、展開上後半に持ってくるしか無かった 反省

あと複数戦の描写も何気に練習してみたが、どうしてもどっか2~3の人物が固まって同時に動かせなかった。

あ、人間バスケはキルラキルの純潔流子から拝借してみました


振り返りはこんな感じです。
他にも意見批評などありましたら感想でお叱りください(;´Д`)ハァハァ

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