流れ医師の流れ星   作:幻想の投影物

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ハマゴとスズナ、観客視点をちらっと。
次回で一つのバトルを長々と書いてみる練習は終わりです。


その心滾るままに 中

「流石は幹部クラス。スモモと渡り合うなんてやるわね」

 

 時は少し遡り、ブニャットがゴーリキーのヌンチャクに吹き飛ばされていた頃。押しも押されぬバトルの応酬に感心し、そしてマーズの戦いかたにとある感情を抱くスズナの姿があった。

 彼女は出会った当初こそマーズたちを疑っていたが、そのバトルに向ける熱意やひたむきな表情を見る限り、客観的な視点を以ってマーズはもう「悪」と呼べるような相手ではないと判断していた。ここで誤解が解けているのだから、スズナとのバトルの時はマーズも少しは肩を軽くして臨めるだろう。

 しかし、そうなるとスズナにとってわからなくなるのが隣で大きなあくびをしているハマゴの存在だ。服の上から白衣をまとった、いかにも悪人面というか強面の青年。隣に腰おろして同じバトルを観戦しながらも、どちらかと言うとあまり集中して見ていないようにも見える。

 マーズの連れのようなものだと言っていたが、それは肩の上に乗っている、星のような頭をした珍しいポケモンと関係があることなのだろうか。

 

「ん、勘ぐってんのか? 無理もねえがな」

「あっ、そ、そういうわけじゃないけどさ!」

「見た目から散々言われてる。いまさら気にすんな、キッサキのジムリーダーさんよ」

 

 メガネの手入れをしながら笑ってみせる彼。何かと慣れている様子に、スズナも彼の近寄りがたい雰囲気からは抜け出せたようだ。実際に話してみれば口調は刺々しくも、声色は優しげ。見た目と中身の釣り合ってないタイプの人なのだろうなとスズナは思う。見た目優しげで中身が真っ黒という人間なら多くは見たことがあるが、スズナにとってハマゴは珍しいタイプの人間だった。

 そうすると、少し手持ち無沙汰な現状、話を聞いてみるのも良いかもしれない。スズナは思い切って会話を切り出してみることにした。

 

「あなたはさ、なんであの人と一緒にいるの?」

 

 まず聞いたのはマーズという元犯罪者と同行している意味。一般的に考えて好奇心の燻られる話題であろうし、同時に答えにくいことは重々承知の上だ。だが、ハマゴという人間がどんな感じの人物であるのかを知るには丁度いいだろうと思って切り出した。

 この質問に、ハマゴはスズナの予想通り言いにくそうに額のシワを寄せ、ガシガシと後頭部を掻き始めた。数瞬の間、しかし彼の頭のなかではジムリーダーならばという思いが湧いてくる。

 

「端的に言うとだ。最近、ギンガ団とやらが暴れてんのは知ってるだろ。俺はソイツらに狙われて、アイツはギンガ団の…ひいてはもう一人の幹部の尻拭いってワケだ。俺についてくればギンガ団は自然と姿を現す。だからアイツは付いてきたってこった」

「ギンガ団の残党…あたしのとこにも話は来てたっけ。そっか、ってなんで狙われてるの!?」

 

 納得しかけたところで、重要なところに食らいつくスズナ。驚愕とともに開かれた瞳で射抜かれたハマゴは、めんどくさそうに肩に捕まっているジラーチの羽衣をムンズと掴みとって、ぶら下げたジラーチをスズナと自身の間に挟み込んだ。

 

「コイツだよ。流れ星の化身サマだ。文字通り、願い事をなんでも叶える力を持っているんだとよ。ホウエン地方のおとぎ話の存在だ」

 

 ハロー、と片手を上げてスズナに挨拶するジラーチ。話題の中心であるはずのポケモンが、しかしあまりにもぞんざいに扱われながらも抵抗せずに順応しているという理解し難い光景に、スズナはピタリと思考をショートさせてしまった。

 

「おっと、決着か。マーズも随分とド派手な戦法が好きなもんだ」

 

 ハマゴの言葉にスズナがフィールドへ目を戻すと、ちょうど8本のエアカッターが同時にゴーリキーを覆い尽くし、そしてブニャットの伸し掛かる攻撃が炸裂したところであった。着弾と共に巻き上げられる砂埃と、倒れ伏すゴーリキーの姿に負けちゃったか、と無意識にスズナは言葉をこぼす。

 

「アイツが居ない場で話しちまうのも面白かねぇからな。バトルが終わってからにしようや」

「…それもそうね。スモモも一緒に聞いたほうが良さそうな話題だし」

 

 ハマゴはジラーチの羽衣を持ったまま、ぐるりと回して頭の上に着地させる。そしてまた大きなあくびを伸ばしながら、スモモが繰り出した二体目のポケモンと、満身創痍のブニャットとの闘いを眺め始めるのであった。

 

 

 

 

 時は戻り、クロバットとメロエッタが相対する場へ。

 メロエッタの固有能力である透明化。技ではないが、確実に厄介なその能力をマーズは見たことがある。いや、それどころか一部の研究員から話を聞いたこともある。そう、彼女がまだギンガ団のマーズであった頃の話だ。

 ユクシー・エムリット・アグノム。未確認にして、原初の精神を創りだした神の分身たち。幻と呼ばれたあのポケモン達もまた、人目につかず伝承から生き続けてきた故の力を持っていた。それが、今メロエッタと呼ばれたポケモンが使った透明化だ。

 

 人やポケモンは第一に目で認識したものを見て判断する。それ故に、最初から視界に映らなければ認識することはまず少ない。音だけでは、気のせいだと理由を付けてすぐに忘れてしまうものだ。だからなのだろうか、幻と呼ばれるポケモン達……ホウエンのもので言えばラティオスなども含めて、何かと透明になることで人目を避けて生きるポケモンが多い。

 

(ユクシー達の場合は精神に働きかけて、あたしたちの脳に認識させないようにしてたのよね。でも、スモモは見た目からヒントを出した。……ダンス? いいえ、音符……音波?)

 

 ここまで頭を巡らせて、約十秒間。マーズの希望通り、長考などもありのスタンスのバトルを繰り広げていたスモモは、チャレンジャーであるマーズの考えを尊重するため、アクションを一切見せていなかった。スモモ自身、メロエッタの透明化能力は多用するつもりはない。しかし、この能力は時としてはジムリーダーの本懐である、相手トレーナーの成長にも繋がる良い力だ。

 

 故に、スズナと諸国バトル修行の旅に出ているスモモはまずメロエッタから与えられる試練のテストケースとして、その相手をマーズに定めた。もし、スモモが思う通りにマーズが悪人のままであれば、この珍しいポケモンであるメロエッタを出すつもりはなかった。

 

 だが、先ほどのブニャットや、このクロバットとの信頼しあった様子から、そんな心配も杞憂であると悟っている。それどころか、今はこの強力なチャレンジャーがどのような攻め手を使ってくるのかと、ワクワクしているほどだ。

 

「…よし」

「来ますか…!」

 

 スッ、と構えるスモモ。メロエッタもまた目を吊り上げ、キッと相手のクロバットを睨みつけた。

 

「メロエッタ、かげぶんしん!」

 

 また同じ技の繰り返し。ジムリーダー戦によく見られる、必勝にして登竜門のワンシーンである。対し、策の決まったマーズは、自分が試されている立場であるのだろうな、と半ばスモモの思考を予想しながらも、しかし受けて立つと言った様子で高らかに声を上げる。

 気迫と熱意を受け取ったクロバットは、腹の決まった主人の声を耳に受け止め、その翼の筋肉にグッと力を込める。

 

「スピードスターでなぎ払いなさい!!」

 

 バッと振り払われる手の動きに合わせ、クロバットの口いっぱいに貯めこんだ綺羅星が抑えきれぬ煌めきを瞬かせた。勢い良く飛び出したスピードスターを繰り出しながら、その高い機動性を活かした旋回でぐるりと360度を覆い尽くす。

 それは先程のシーンの焼き直し。まるで考えなしのようなマーズの行動にスモモの目は一瞬見開かれて、しかしすぐさま驚愕を押さえつける。

 

(万策尽きた…? いいえ、ですが)

 

 あちらが誘っているというのなら、あえてそれに乗ってみるのもまた一興。優勢だからと奢っているわけではない。ただ、このメロエッタの戦略をどのような形で破ろうとしているのか。その欠片をつかみとり、策が功する前に速攻で摘み取るべくスモモはメロエッタに指示を出した。

 ブニャットが倒された時と同じだ。まだメロエッタの分身たちにかかりきりになっているクロバットの死角から、今度は「しねんのずつき」を叩き込む……!

 

 パートナーの意向を読み取ったメロエッタは、また透明になりながらクロバットに向かわせる分身たちを増やして、しかし一歩ずつその距離を詰め込んでいく。翻弄されているわけではない。だが、クロバットという音に敏感な相手にはメロエッタとて緊張は隠せない。

 そして獲物として狙われるクロバットの高感度の耳はピクピクと反応していた。そして目でもまた情報を得て、分身を片付ける速度はグングン上がっていく。メロエッタの動きを読み取り始めているのだ。

 スモモも、これには気づいている。しかし完全に影分身が読まれるよりも先に、メロエッタの射程圏内に到達するほうが早いと確信していた。故に、無言でメロエッタと意識を同調させ、初手にして全てに繋がる第一打を叩き込むべく集中力を最大限に発揮させる。

 

 あと5メートル。もう少しでクロバットの背後を取れる。

 残り3メートル。メロエッタと繋がる意識から、その手に握る汗を振り払った。

 接触まで1メートル! 透明化を解いたメロエッタが、しねんのずつきを繰り出し―――クロバットの表情がニタリとした笑みに変わる。

 

「ッ!?」

「つばめがえし!」

 

 マーズのよく通る声が響いて、クロバットは空気を切り裂きその場を離脱。そしてギュンッ、と小さく円を描いて元の場所へと、メロエッタが無防備な背中を見せる場所へと頭から突き進む! 風を裂き、空間を切り裂き、邪魔するものなど何一つとしてないそこへ!

 

「しまっ……!」

「細切れにしてやりなさい!!」

 

 光り輝く4枚2対の羽はほとんど無音でクロバットを導き、そしてメロエッタへと打ち据えられる! 同時にクロバットは体を横転。これまで無音だった羽音は、空気を切り裂く甲高い悲鳴を上げながら、鋭いスクリューのようにメロエッタへと打ち込まれる連撃に早変わり。そして恐ろしい連撃にさらされるのはこれまで狩人気分だったメロエッタ。獲物を前にしたサメが、通りがかった船のスクリューに巻き込まれたような呆気なさ。意識などできるはずもない攻撃を、メロエッタは甘んじて受けるほかなかった。

 

 体力のそこまでも切り刻まれそうな中で、だが当然、メロエッタもやられっぱなしでは居られない。スモモは不意を打たれ返された事に賞賛と悔しさを抱きつつも、メロエッタ脱出のために的確な体の動きをトレースさせる。アクロバッターも真っ青な空中ジャンプで踏みとどまり、回転するクロバットの羽刃と真正面から向き合ったメロエッタに、スモモは拳を打ち付けるように指示を放った。

 

「れいとうパンチ! 白刃取りぃ!」

 

 ぱき、と一瞬で凍りついたメロエッタの両手。それを打ち合わせることによってクロバットの回転羽刃の一枚がしっかりと掴み取られる。重心を失ったことで回転を止め、不格好な耐性にならざるを得ないクロバットのピンチが到来。

 とは言えそこはマーズのポケモン。愛情を注ぎ込まれ、心血をともにした訓練と、日々を送ってきた最高のポケモン・クロバット。凍りついていないメロエッタの足に無理やり照準を定めると、ご自慢の牙を向いて一気にかぶりついた。

 白刃を決めることに全神経を注いでいたメロエッタは、予想外のところからの痛みにうめき声を上げて跳びはねる。その一瞬の手の緩みを突いて抜けだしたクロバットは空高くへと瞬時に離脱してみせ、そして反転し一気に急降下! 折り返し地点で一気に体を捻って、繰り出すその技の名前は―――

 

「アクロバットォォォッ!」

「ドレインパンチです!」

 

 相手の力を削ぎ、そして自分の力をもかさ増しするための格闘の秘儀。スモモといえばドレインパンチ、とまで言わせしめるほど有名なその技を、メロエッタが覚えていないはずもなかった。

 

 直撃する二つの技の威力に、いつの間にか地面を支えにせざるをえないメロエッタは足場を陥没させるが、しかしそれでも倒れない。一方でクロバットはドレインパンチにて体力やエネルギーをも削られて、徐々にその勢いを無くしていく一方。

 対等であったはずの拮抗(ガチンコ)は徐々にクロバットが不利に陥っていく。そして、正々堂々と真正面から打ち破るべくさらなる気合を込めたスモモに呼応するように、メロエッタの繰り出すドレインパンチは力を得、さらなる輝きを見せ始めていた。

 

 だというのに何故だろうか。マーズは、不利であるはずなのにその顔に浮かべた戦闘の高揚感と笑みを崩さない。このままでは負けるのは間違いない。まだあと1体残っているとは言え、ここでクロバットをこのままにしておけるだろうか?

 勿論、そんなことはなかった。

 彼女はマーズだ。ギンガ団のマーズ。当然といえば当然であるし、それが彼女らしい強さの根底。だからこそ、真正面からこのまま突き抜けようとしているスモモとメロエッタに送る笑みを、嘲笑を浮かべてみせる。

 

「クロバットぉ!」

 

 スモモがその声にハッと顔を上げるが、もう遅い。なにもかもが。

 ギャリッ、とクロバットが地面を抉り、羽をたたむことでメロエッタの懐まで身を潜りこませて、その手を弾きあげる。気を集中させているところとは別の場所の衝撃から、込めた力は見当違いの方向へ抜け出てしまう。いわゆるバンザイの状態で完全に無防備を晒したメロエッタ。更に、一気に翼を広げたクロバットは思いっきり跳ね飛ばす!

 

「ヘドロばくだんで、トドメッ!」

 

 そして体勢すら満足に整えられないメロエッタに、クロバットのヘドロばくだんが炸裂。クロバット特性の、心ゆくまで熟成された濃密な毒の塊は、過剰に込められたエネルギーのせいで非常に不安定だ。それがメロエッタに触れたらどうなるか? その答えはわかりきっている。毒汁を撒き散らしながら炸裂し、相手ポケモンを吹き飛ばす!

 

「メロエッタ!」

 

 体力を徐々に削る濃密な毒気となったそれが漂う中で、腕で口と鼻を覆いながらも晴れてきた毒けむりの向こうを覗き込むスモモ。せめて後一撃だけでも耐えて欲しいとの願いを抱くも、それは儚く散ることになる。

 完全に伸びきって、目を回し倒れるメロエッタの姿が晒されていたのだから。

 

「戦闘不能、ですね」

「これでまた私が優勢ね。ヒントを出してくれてありがとう。おかげで最初から最後まで、存分にメロエッタの位置を把握することができたわ」

 

 マーズの得意げな語りにスモモは一つの悔しさを抱く。そしてメロエッタの透明化や、常時行っている気配を薄くする術が、何一つとして通用していなかったことに興味が湧いた。彼女の言うとおりなら、その弱点を知ることでよりメロエッタの先は開かれるだろうから。

 

「……そのからくり、後で教えてもらってもよろしいでしょうか?」

「良いわよ。と言っても、ほとんどポケモンの相性だけどね」

「ありがとうございます。それでは、私は三体目と参りましょう!」

 

 綺麗な一礼をしたスモモは、すぐさまそのボールホルダーに手を掛けて、最後の一体を繰り出した。

 

「ルカリオ!」

 

 現れたポケモンはルカリオ。数多く生息するポケモンの中でも「波導」という、一部の人間も扱うことのできる特殊能力を有したポケモンである。そしてかくとうタイプとして抜け目の無いしなやかな体、波導を扱う特殊な技、なによりも強靭なはがねタイプの肉体を有するスモモの切り札だ。

 近々、遠い地方からの贈り物で更なるシンカと(まみ)える事になるのだが、その話は今は置いておくとしよう。

 

「来たわね……そのルカリオの厄介さはよーくわかってるわ」

 

 なんせ、ギンガ団時代でもギンガ団下っ端の仕事を妨害したことでも有名な組み合わせだ。数でもダメ、多少の質でも真正面から押し切られる。それこそマーズのような実力者が当たらなければ、スモモたちが現れた時点でそこの計画を一旦中断する必要に迫られた時もある。

 その組み合わせが今目の前で、ピンと伸ばした指全てを折ってクンッ、と挑発してきている。「いつでもかかってこい」という意志の現れであり、既に言葉を交わさずとも即座に戦えるとのサインだ。

 

(でも、それでこそ…)

 

 付け焼き刃を叩き上げたばかりのゴーリキーではない。まだまだツメの甘いメロエッタでもない。正真正銘、スモモのパートナーとして長くを闘い、そして長くを勝ち抜いてた連戦練磨の達人共。

 

「挑戦ッ! そして打破のしがいがあるってもんよね!」

 

 胸の内よりこみ上げるような歓喜。未だかつて抱いたことのない高揚感。ここにきて、ボルテージが上限を振り切ったマーズは最高の笑顔を振りまきながら宣言する。

 ビリビリと空気をしびれさせる心地の良い戦闘宣言に、ド直球に浴びせかけられたスモモは口の端をわずかばかりに吊り上げて、そしてルカリオもまた鋭い犬歯を覗かせる。

 

 ここでスモモは思うのだ。これまでことごとくを打ち破る挑戦者マーズ。いつのまにかジムリーダーと一人のトレーナーとしての意識が混在するような、不可思議な高みへ足を掛けているような気がするのだと。

 そしてマーズという「トレーナー」とのバトルは、このシンオウの旅で求めていたものの一端をわずかばかりにでも垣間見る事ができるだろうとも確信する。別に、巨悪と戦っているわけでもない。これ以上強くなってどうしようと言うわけでもない。だが、その漠然としたものを取り払うような何かが……スモモの胸の内で燃え上がる!

 

「その意気や良し! 挑戦を受けます! さぁ、まずはマーズさんから……かかってきなさい!!」

「いいわ、だったら速攻でキメて上げる!」

 

 クロバットはグググッ、と身を張り詰めさせる。直後にパンッと一本の矢のように、まっすぐと、ルカリオの元に跳びかかっていった。

 

「あやしいひかり!」

「ルカリオ!」

 

 クロバットの黄色い瞳が怪しげに輝いて、相手を惑わせる魔性のゆらめきがルカリオの精神を狂わせにかかった。しかしルカリオはあろうことか、敵を目の前にして目を瞑る。一見勝負を投げたようにも見える愚行は、しかし、ルカリオというポケモンならではの闘い方であった。

 惑わせる相手には、その惑いを超えた真なる世界を通して相手をする。ルカリオの耳の根本にある4つの房はビンッと張り詰められる。閉ざしたはずの視界に青白く、そして明るくも暗黒の世界を浮かび上がらせながら、ルカリオは構えを取ってクロバットの突撃を躱してみせた。

 

「そのくらいは読み通り! 続いてエアカッター!」

「はどうだん!!」

 

 振り向きざまに放たれたエアカッターを紙一重でかわしつつ、両手を腰だめに構えたルカリオの手の中に青い光の玉が生まれていく。これこそが、ルカリオの持つ波導の力を注ぎ込まれた力の結晶。ルカリオが見る世界のままに、そしてごく自然な動作で放たれた蒼の弾丸は、クロバットを追いかけるように迫りつつあった。

 

 クロバットもまた、マーズからの教えで波導の追尾弾に焦ること無く対処をはじめる。力強くはためかせた羽は、音を作らぬままにクロバットの進路をカクンと変えてみせた。しかしそれでも追いすがる死神の鎌のような波導弾。徐々に徐々に、その距離を詰められているのはクロバットの方だった。

 その間にもルカリオは波の導きを感じるままに駆け出して、地面を蹴り上げ上空のクロバットが降下する一点を予測する。まるで吸い込まれるようにそこへ逃げ込んだクロバットに、ルカリオは鋭い眼光を浴びせかけた。

 

「しんそく!」

「はがねのつばさ!」

 

 一瞬ルカリオの姿がブレたかと思うと、何やらを振りぬいた姿勢で地面へ戻ってくるルカリオ。そしてクロバットはルカリオが地面に降り立つ瞬間に、置き去りにされた現象をその身に受ける。

 まさに世界の認識すら置き去りにする神速の一撃は、しかしマーズの判断によって大きく軽減されることとなった。鈍色に輝いたクロバットの前羽。その一部は不格好な形で弾かれようと、クロバットは未だ健在。はがねのつばさで神速の当たるであろう個所をガードしていたのである。

 

「ダメよクロバット! 宙返り!」

 

 だが、ここで忘れては居ないだろうか。まだ波導弾が残っていることを。

 完全に油断していたクロバットにマーズの叱責が飛ぶが、一瞬の攻防と痛んだ体は瞬時の判断を受け付けない。直後、後ろ羽に波導弾の直撃をもらってしまって、クロバットの体は地面に叩きつけられることになる。

 

「今です―――」

「クロスポイズンで弾きとばしっ」

「さきどり!」

「んなっ!?」

 

 この窮地にて、攻撃を判断したマーズは悪くはない。

 だが、ルカリオの持つこの技を警戒していなかったのは大きな間違いであった。

 駆け出しながらルカリオの放つ「さきどり」は、不可思議な現象を引き起こす。クロスポイズンで毒々しい色に輝いたクロバットの前羽の先は、振りぬかれる頃には輝きを失い単なる羽の交差切りに変わってしまう。

 反対に、クロバットの元に辿り着いたルカリオは両手の角のような部分を紫色に輝かせ、いま繰りだそうとしていたクロバットのクロスポイズンをより強い威力で再現してみせた。

 

 不可思議な現象、そして一方的な終幕。もはやマーズも理解しているのだが、風前の灯となっているクロバットの体力は今度こそ尽きてしまう。もはやこのままクロバットがルカリオを倒す未来図は何一つとして無い。

 だからこそ、まだ後続を残すマーズは判断を急いだ。そして無意識に手をつき伸ばしてまで叫ぶのだ。クロバットの最後の一手を与えるために、その一手をして倒しきるまでの気迫で!

 

「おどろかす攻撃よ!」

 

 すんでのところで、バチンとクロバットの翼膜同士がぶつかって、ルカリオの目の前で弾けた。これにたまらず一瞬怯んでみせたルカリオに、クロバットは最後の力を振り絞って後ろ羽を跳ね上げる。不格好なジャンプでルカリオに覆いかぶさったクロバットは大口を開けてルカリオにかぶりついてみせた。

 

 これにはたまらず顔をしかめるルカリオだが、最後の力を振り絞ったに過ぎないクロバットの拘束は強いものではない。「さきどり」で奪いとったクロスポイズンの力を、今度こそクロバットの顔面に叩き込むことで、突き立てられた牙ごとクロバットを弾き飛ばす。

 カハッ、と声にならない叫びを上げながらクロバットは地面を転がり、力なく横たわる。

 

「…くっ、このクロバット……まだ!?」

 

 だが、クロバットはそれでも諦めない。

 体力はとうに尽きている。後続があるから、勝敗にはまだまだ余裕がある。

 だがそれがどうしたのというのだ?

 自分の手で勝利を捧げるは最高の誉れ。

 マーズの最高なまでに昂るこの瞬間を、最高の感情とともに分かち合いたい。

 

 後ろ羽を支えに、クロバットは前羽にグッと力を入れる。

 そして―――暗転。

 

「ねえクロバット」

 

 堕ちる前に、声を聞いた

 

「ホンっと最高よ、あんた!」

 

 クロバット、戦闘不能。

 








熱い展開になれたでしょうか。
今の私はコレが精一杯ですが、過去一番最高クラスで掛けたと思います。

それでは、以下解説

メロエッタ:歌とかマスコットとか関係ない。スモモの真っ直ぐな心を受け取るハードパンチャーで真正面を振りぬきます。

クロバット:愛情込めて育てられて、原作(ゲーム展開)後に進化した組。ブニャット以上にマーズへの好感を抱いていて、スピードと根性と意地汚さがウリ。物語に影響しないけど、なんだろう、書いてたらいつの間にか騎士になってた。ローリアンお兄さまの曲聞いてたからかな…

スモモ:そろそろクリアマインド届きそう。そしてジムリーダー的に相手の実力も引き出し切って戦いはじめた。ルカリオさんはDPtからポケモン入ったプレイヤー並みに現役ギンガ団相手に絶望振りまいてたようです。

マーズ:バトルメインだからあんまりしゃべれないけど、地の文ですらスモモ視点が多くて影になりがち。でもその分、マーズ陣営が行動を起こした瞬間にビックリを与えられるだろうか、という表現のために書かせてもらってます。

ハマゴとスズナ:傍から見たら援交かと思われる危険な組み合わせ。なお、年齢的にはほぼ同年代の模様。(原作数年後だからスズナ16~8?、そしてハマゴは18歳)

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