流れ医師の流れ星   作:幻想の投影物

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遅くなりました あと第一志望先の内定ゲットだぜ!
これで心置きなく書けます。


真実のイト

「やっぱり知ってるのね」

 

 熱くなったハマゴを押さえつけるように言葉が浴びせられる。

 一度溶けるほど熱されたことで鋼鉄のように冷たくなったのだろうか。ジュピターはすっかりと正気を取り戻したようで、冷たい視線のままにハマゴを見ていた。そんな彼は近づいてきた団員を一本背負いにし、ギッと絞め落としながらに言う。

 

「当たり前だ……その上で言っとく。テメェはただ利用されてるだけだろうよ。都合よく組織同士が手を組むなんざありえねえ。ジラーチも手柄も願いも、何もかも掻っ攫われてもいいのか?」

「ハッ! 私がそんな失態を犯すとでも? 私の元を離れている間に随分とおちゃめな考えを持つようになったのね、ドクター」

「……そっちのは固定されちまってんのな」

 

 未だ、ジュピターの中では「ハマゴが仲間だった」という間違った認識は事実として固定されているようだ。発狂した時との落差があまりにも激しい。これが正真正銘の狂人か、と悪態をついたところでハマゴは最後の一人を背負投げ、地面に叩きつける。受け身を取ることもままならずたたきつけられたギンガ団員は、一度ビクリと手を伸ばして視界を黒く染め上げた。これで、動ける団員もいなくなる。

 

「さて」

 

 パンパン、と手を交差するように叩いたハマゴは手元のモンスターボールをこんこんと叩いてみせたが、カタッと一度だけ揺れたジラーチのボールは「まだだ」という意思表示。今のところは静観するしかないか、と息をついて激戦区へと視線を移した。

 

 オーロットとブニャット、そして団員のポケモンとクロバットの戦いは未だ激しい火花を散らしている。マーズは矢継ぎ早に指示を出し、一体多数の立ち回りにはなれた手つきで対応していた。

 

「ブニャット! オーロットにシャドークロー!」

 

 ここで、オーロットのタイプを見抜いたマーズが、有効打を与えようとした。命を受け取ったブニャットが地面を蹴り飛ばし、アスファルトの欠片を巻き上げながらオーロットの懐へ潜り込む。音も置き去りにするような一瞬の移動に、オーロットはギョロリとその大きな単眼の光を広げて驚愕する。

 だが黙して受けるはただの樹木。されどオーロットはポケモンだ。練度が低いだけのウドの大木とはいかず、オーロットの足となる根は鋭い棘を作ってブニャットの後ろ足をえぐり取らんと迫る。奇襲を仕掛けたつもりが、細かな足払いを返されたブニャットは当然、飛び込みから軸足を崩されたことでぐらりとよろめいた。

 

「ウッドホーンでなぎ払いなさい!」

「甘えんなブニャット! そのまま行っけぇ!」

 

 ギリッ、と歯を食いしばったブニャットは前足にこめる力を強め、腱がはちきれんばかりに身を張り詰めた。その脂肪のようにも見えるが、その実多くが筋肉で構成された前足は、矢を放つ弓のように、前足の力だけでドンッと地面を蹴りあげる。オーロットのウッドホーンは薄皮一枚を剥いで通り過ぎた。

 

「クッ!?」

「そこおぉぉぉぉぉっ!」

 

 ブニャットの後ろ足が闇色に輝いた。器用にも後ろ足の爪を使ったシャドークローの三本の軌跡がオーロットの眼がある個所を大きく斜めに薙ぎ、深い爪痕を残す。あまりの痛みにうめいたオーロットは暴走するように根の足やウッドホーンを振り回すが、冷静を乱した相手にブニャットは遅れを取るはずがない。

 無理をした前足の痛みをこらえてオーロットの幹を蹴りつけると、でんこうせっかの要領でその場を撤退。空中へと身を投げ出したブニャットは、ギンガ団員のポケモンを軒並み倒したクロバットがキャッチし、マーズの元へと舞い戻った。

 

「オーロット…! ねをはる!」

「同時にシャドーボール乱打よ!!」

 

 これはバトルではない。行けると確信したマーズが二体に攻撃の指示を下すと、闇色に輝く球体が小さな粒のようになり、次々と生成されていく。それらが一直線にオーロットに向かうと、弾ける着弾音とすさまじいまでのエネルギーの爆発を持って襲いかかった。

 さすがのオーロットといえど、極限まで鍛えられた二体の攻撃に為す術はない。根を張って吸い上げた栄養も、その身に承った木の実の効果も上回る連撃は瞬く間にオーロットの最後の一線を超えさせた。

 

 ぐらり、と巨体が揺れる。次いで樹木が倒れる独特の葉がざわつく音とともにオーロットの巨体はゆっくりと地に沈み、彼の赤い単眼は幹のウロの中で閉じられていた。

 

「戻りなさい! ……よくも!」

「量を出しても変えられないわ。昔のように質を磨きなよ」

「言ってくれるじゃないの。だったら―――!?」

 

 二個目のモンスターボールに手を伸ばし、ピタリとジュピターは動きを止めた。

 片手は腰から耳元へと移される。

 

「クソジジイ! この忙しい時にどうしたっていうのよ!」

 

 彼女が叫ぶと、ジュピターの隣には半透明のウィンドウが現れた。

 

≪襲撃を受けておるのじゃ! 第3研究所が得体のしれぬ三人組に防衛を突破され、施設が次々と破壊されてしまっておる!≫

「なんですって!? マグマ団の精鋭とやらはどうしたの!」

≪ポケモンを出す前に気絶させられ、門の前に放り出されおったわい! 戻ってこいジュピター!≫

「クソっ…!」

 

 忌々しげに舌打ちをかましたジュピターは背を向けた。だが―――

 

「おっと、どこへ行こうってんだ? テメェにはまだ聞きたいことが残ってんだが?」

「ドクター…そこをどきなさい。今ならジラーチだけで許してあげなくもないわ」

「聞けねえ相談だ犯罪者。そして俺はギンガ団員でも何でもない。とっととブタ箱への切符を受け取りやがれ」

「観念しなさいジュピター! もうあんたの手下も全員無力化したわ!」

 

 死屍累々とした深夜の公園に、勇ましい女性の声とヤクザじみた重低音の男の声が響いた。辺りを埋め尽くすうめき声と、唇の下を噛むようにしてジュピターは怒りをこらえるような表情を見せた。

 しかし、それも一瞬でしかない。ジュピターは腰のボールに素早く手を伸ばす。

 

「しまっ―――」

「遅いわ!」

 

 途端に広がる光と音。スタングレネードだろうか。キュウコンの破壊光線と違い、純粋に感覚器官を潰すために発せられたそれを真正面から受けて、ハマゴは視界と聴覚を真っ白に染め上げられる。10秒ほど続くキンキンとした音響と閃光の中、人間はごまかせてもポケモンはごまかせない。いち早く我に返ったクロバットは、マーズの指示を待つ前にどくどくのキバを備えてジュピターがいるであろう音の発生地点へと斬りかかった。

 しかし、

 

「……逃しちまったか」

 

 次に元に戻ったハマゴの言うとおり。ジュピターはいかなる手品を使ったのか、既に影も形もない。辺りに倒れていたはずのギンガ団員もあらかた消えており、残っているのは瓦礫に埋もれて身動きが取れない少数の団員と、完全に倒されて伸びてしまったドーミラーたちだけ。

 ある程度の収穫はあったが、本当に聞きたいことを聞けないまま事件は収束してしまった。復興した電灯がジジジ、パチン! と音を立てて公園を照らし始めたが、彼らが掴もうとした尻尾の影すら映すことはない。

 ハマゴはもういい、と「準備」をしていたジラーチのボールを撫でながらに言う。淡く全体が光出していたボールだったが、スッと元の色に戻ってしまった。

 

「何させようとしてたの?」

「なんてこたねぇよ。単なるトドメの一手だ。……まあ、マーズが強すぎて終わっちまったがな」

 

 大げさに両手を広げて肩をすくめてみせる。

 公園はそれっきり、全てが終わったと言わんばかりの静寂が包み込んだ。ブニャットたちをボールに戻したマーズがつかつかとハマゴの元へ歩き、先ほどの「マグマ団」について疑問を発そうとした瞬間。

 

 PiPiPiPiPi!

 ハマゴのポケナビがコールを鳴らした。

 コールが二巡目に入る前に、彼はポケナビを耳に当てる。

 

≪ハマゴくん、無事!?≫

「シロナ?」

≪襲撃した基地の情報から決行日は今日だと聞いて……襲撃されたりしていないかしら!?≫

「おせーよ……ったく」

 

 肩を落としたハマゴは、先程までの一部始終をそのまま語って聞かせた。出鼻をくじかれたマーズも、仕方ないという態度で息を吐いたあと、近くのベンチに座って汚れた服などを繕い始める。

 

 それから約5分。ハマゴの言葉に応対するシロナとの会話が繰り広げられた中で、聴き終わった彼女は顎に指をやって考えこんだ姿を見せていた。マグマ団、そしてジラーチ。何よりハマゴとギンガ団。ジュピターの行動……。

 まだ何も解決していない。団員は捕まえたが、どうせこれもニュースの通り洗脳された手下だろう。ジュピターを捕まえられなかった、マグマ団という組織がハマゴ達と関わっている、ギンガ団はマグマ団と手を組んだ。考えこむほどに、不足した情報に苛つかされる。

 

≪それじゃあ、やっぱりマグマ団は手を組んだのね≫

「ジュピターが漏らしてた言葉を受け取るならな。そっちにも腕章をつけた奴がいたんだろ?」

 

 マグマ団のマークが入った腕章。今のところ確認されているマグマ団員は、ホウエン事変のユニフォームを着ては居ないが、必ず所持品の中にその腕章がある。逆に、普段はマグマ団員だということを隠しているのだからますます危険性は高まっているなとシロナは語った。

 

≪ええ。私の協力者がポケモンを出す前に気絶させたけど……それから彼、珍しいものを持っていたから徴収しておいたわ。ところで、マーズさんがそっちにいるって本当かしら?≫

「ああ。何なら変わるか? 電波越しでの情報交換はこのくらいで良いだろ」

≪そうね、お願い。彼女とも話しておきたいことがあるから≫

「らしいぜ。ほら」

「わっと!? 投げること無いじゃない!」

 

 自分の方へ話が向いているのはわかったが、突然ポケナビを投げ渡されマーズは驚愕する。あの戦闘の後だというのに、変わらないハマゴの態度にぶつくさと文句を言いながらもマーズはポケナビ越しにシロナと久しぶりの対面を果たした。

 

「お久しぶりねチャンピオン。事情聴取以来かしら」

≪ええ、久しぶり。ハマゴ君には確認を取ったけど、マーズさんも結局関わってきたのね。目的は今も変わらないのかしら?≫

 

 シロナが思うのは、あの「やりのはしら」での事件のこと。普通の女の子に戻ります、なんて宣言をしたとはいえ犯罪組織の幹部クラスだった人物だ。全てが終わって、あのシンオウの制覇者が別の旅に出て行った後、きっちりとジュピター共々警察組織やシンオウポケモン協会でマーズは取り調べをされていた。

 その上で解放されたのは、やはり「やぶれた世界」が常軌を逸した場所であるからだろう。どう足掻いてもそこにたどり着くことはできない。唯一の希望は他地方での伝説のポケモンたちだが、そもそもあの事変がおかしいだけで伝説のポケモンは普段、人の目に触れることはない。

 

 アカギを探そうと熱意に満ち溢れていたマーズの姿を思い浮かべたシロナは、しかし次の彼女の言葉に否定されることになる。

 

「…あんたが思ってることだけどさ、今のあたしには当てはまらないわ。あたしはね、ジュピターを止める。そしてアカギさ―――アカギはこの世界に戻ってこなくても良いと思ってる。あいつに付いて行って、あたしたちの全てを終わらせるわ」

≪……そう≫

 

 所詮は電話越し。もしかしたらマーズの考えは、この言葉とは真逆かもしれない。だけど、シロナはそれでも賭けてみようと思った。あのたった一人の人物にすべてを握られていたような女ではなく、独り立ちを宣言したマーズへ。

 なによりハマゴもいる。そしてジュピターに言葉を届けるには、幹部時代から一緒であったマーズならば或いは。

 

≪なら、あなたにも事の詳細を話しておくわ≫

 

 そこから聞かされたのは、薄々感づいてはいたが隠されていた事実。願い事を叶えられないジラーチ、それを狙うマグマ団というホウエン地方の組織。マグマ団はギンガ団に協力していること、引き取り手のハマゴのこと。

 

≪厄介なのがマグマ団は何かしら、ジラーチの願いを叶える力を復活させる方法を持っているかもしれないということ。でなければ、ハマゴ君が見たようにピンポイントに目覚めたばかりのジラーチを狙わないわ≫

「でしょうね。あたしたちも“赤い鎖”を作れると分かっていたから神を従えようとした。でも、そんな方法がわからないからあんたたちは後手に回らざるを得なかった。湖を干上がらせた時もね」

≪だからこそ、今マーズさんがこちら側に着いてくれたことは頼もしいわ。あちらがわの考えを少しでも想定することができるからね≫

「そう言う頼られ方はちょっと心外なんだけど?」

 

 むくれたようにマーズは言う。

 

≪ふふ、ごめんなさい。他に聞きたいことはないかしら?≫

「なるようになれって感じよあたしもそこまで考えてるわけじゃないからね」

≪それじゃあ、ハマゴくんを呼んでくれる? ナナカマド博士のところに行ってからで構わないけど、来て欲しい場所があるの≫

「だってさ、チャンピオン様が呼んでるわよ」

「あいよ」

 

 二人が話している間、瓦礫に埋まったギンガ団員を引っ張りだしていた彼は、ずらりと並ぶ気絶した団員たちのもとから歩いてくる。白衣をまくり上げた彼の姿は完全にただの喧嘩師だったが、マーズはあえて何も言わずにスルーした。

 

「いま代わったぜ」

≪さっき言った、こっちで襲撃した研究施設の資料。そこに興味深い事があったからあなたと話しておきたいと思ってね。それから、そこを守っていたマグマ団員が持っていたものを渡しておきたいの≫

「ほう、そりゃあ……確かに興味深ぇこった。しっかし、ボックスの転送システムを使えばすぐじゃねえのか? いちいち足で会いに行く必要も薄いと思うが」

≪いえ、ハクタイシティ……正確には、ハクタイの森の廃館が目的地よ。そこにしか無いものもあるから≫

 

 その目的地について、シンオウ地方出身のマーズが声を荒げた。

 

「ハクタイの……森の洋館? ちょっと、あたしたちで肝試しにでも行くつもり?」

≪いいえ、本当に大事な……あるいはギンガ団への一手を打てるかもしれない。そんな大事な場所だって言えばわかるかしら≫

「え? でもあたしたちはそんな場所、手を出した覚え無いんだけど」

 

 マーズも大抵の作戦には関わってきているため、どこで何をしたのか、そして幹部という立場からギンガ団の活動概要は十分に知っていた。しかし、ハクタイの森での活動はポケモンの徴兵であったり、あの地に満ちる特別なパワーを用いたエネルギー実験のみ。後者の方はイーブイが進化するパワーを利用できないかと、いわゆる「表の新エネルギーの創造」、そして赤い鎖に回す要素の一つとして見ていたが、結局微弱すぎて利用できなかった、という報告がある。

 

≪こちらも、ギンガ団に関しては前から対策を練っていたということよ。とりあえず、あなた達のタイミングで構わないからまずはハクタイシティに向かってくれるかしら≫

「そんな悠長にしててもいいのか? あいつら、一般人をさらって洗脳、しかもポケモンの強奪まで進めてんだろ?」

≪でも、あなたたちはそこにいた大半の団員とジュピターを撃退した。それに、私も協力者が優秀なおかげで、潜伏している基地を前よりもずっと早く発見、制圧できているわ。末端とはいえ相手も残党。この混乱の中で活動も収まるはず≫

 

 加えて団員の大半は洗脳されているだけの木偶だ。ブレインとなる人間は、恐らく現在のギンガ団残党の規模に比べれば驚くほど少ないだろう。そこへ襲撃を続ければ、小石を投げ込んだだけの小さな波紋も、底の栓をピタリと打ち抜き巨大な渦を作る。

 落ちぶれた組織はそんなものだ。やっていることは非道極まりないが、続けていた月日が経っているだけあってその実態もシロナたちには知られている。

 

「その間、シロナは働き続けるってことか」

≪案外悪くないものよ? 行き詰まっていた研究もあらかた終わったし、いい羽伸ばしになるわ≫

「そんなんでよくチャンピオンやってられるわね……」

≪リーグの時期も随分先だし問題無いわ≫

 

 そういうことだからと言って電話が切られた。

 コトブキシティの電力も復旧し、街は話し込んでいる間にすっかり騒がしくなっている。自分たちが泊まっていたポケモンセンターの方は直接襲撃を受けただけあって、かなり立て込んでいるようだ。赤色の光がセンターに続く路地裏やビルの壁を染め上げている。

 

「んじゃ、まずはここで伸びてる奴らを回収してもらうか」

「そうね。しかも夜更かししちゃったし肌も荒れてるかも……はぁ~」

 

 肩を落とすマーズ。彼女自身にとっては美容はポケモンの次に大事なことである。その辺りの感情はよくわかっているが、だからこそめんどくさそうだとハマゴは苦笑を返してみせた。

 

 それから約1時間後、グラッキー状態から立ち直ったキュウコンの力も借りながら、ギンガ団員を届けたハマゴたちは、警察機関に簡易な質問をされるとあっさりと開放された。シロナの手が回っているということもあったのだろう。加えて、無傷とはいえないが洗脳されている一般人を取り返したことなども含めて表彰だのと言い始めた頃に、ハマゴはマーズの手を引いてポケモンセンターの自室の鍵を締めた。

 

 後日の昼時、ハマゴ一行はコトブキシティを出てマサゴタウンへの道のりを歩き始めていた。先日と唯一違うのは、ハマゴの片手には青色のポケッチが巻かれていることだろう。旅立とうとした直前に、ジョーイからポケッチカンパニーからの荷物が届いているとのことで受け取った一品である。

 

 そう、先日にハマゴが応募した医療業務用の試作品ポケッチだ。デザインに関しては完全なオーダーメイドということで、とにかく機能性と快適さを求めた余分な装飾の無いフレームが特徴的であった。

 

「地味ねぇ。もっとあたしみたいにこう、医療用! って感じのデザイン期待してたのに」

「あったところで邪魔だろうが。俺はこれ気に入ってるぜ?」

 

 そう言いながら、ハマゴはいつもどおりバックパックの上に座っているジラーチへ照準を合わせる。すると、それだけでポケモンのパロメーターが立体映像で投影された。心電図や状態異常といったものから、ハマゴたちドクターにしか分からないグラフのようなものまで。マーズとしてはちんぷんかんぷんな表情を浮かべているのだが、逆にハマゴは満足気に口の端を吊り上げていた。

 

「これで試作品か……まぁ、施設のあるとこでならコレで十分だがちょいと足りねえなあ」

 

 これだけでも格段に診断は楽になるが、ハマゴのように旅をするポケモンドクターや出張ドクターにとって少し痒いところにギリギリで手が届かないような感じはする。その辺りの経験も含めて最初のレポートは提出した方がいいだろうと既に下書きを始めていた。

 

「こういうの見るとあんたって本当にマメだと思うわ。ねージラーチ? って、あら」

「どうせいつものだ。ほっといても治る」

「……あんたそういうとこ大雑把よね」

 

 最初はハマゴともども投影画面を見つめていたジラーチであったが、当然意味を理解できずに目をぐるぐると回してオーバーヒートを起こしていた。キュゥ、と声を上げて倒れこんだがバックパックに上手いこと引っかかっているため落ちる気配はない。

 

 ほんの一夜の出来事。だがそれが過ぎ去って、元の日常は戻ってきた。

 目指すはマサゴタウン。裏では、大きな陰謀が姿を現し始めている。彼らの導く一本の道は、一体ドコに絡まっていくのだろうか。

 

 

 

「……お持ちしました」

「ありがとうダークさん。今日はこれで十分だからゆっくり休んでてて」

「御意に」

 

 サッと音を立てずに消えていくダークトリニティ。いつも姿の見えないところで休息や自由時間を取っている彼らに訝しみつつも、シロナは今は確実に味方なのだからと言い聞かせるようにして己の感情を飲み込んだ。

 

「それにしても、マグマ団もホウエン地方の組織ってことよね」

 

 彼女が手で転がしていたのは、先ほどダークから手渡されたもの。

 ポケットから同じものを取り出しその隣に乗せる。先ほどハマゴと電話をしていた際に言っていたマグマ団員から徴収したものだ。これで、2つ。虹色に輝く小さな珠。遺伝子構造の二重螺旋を描くかのようなそれは、今のシロナにとってすっかり馴染んだものであった。

 

「下っ端ですらコレを持ってるってことは……いえ、やめましょう。もう過ぎたことなんだから」

 

 「コレ」は紛れも無い貴重品だ。ホウエン地方でのマグマ団がこれを手に入れるには、発掘をするか他人から奪い取るくらいしか入手方法はない。しかし、あの「新生マグマ団」を名乗る過激派集団の手段は後者であることは明白だろう。そうした事実に苛立ちと悲しみを覚えながら、シロナは手のひらに転がる二つの珠を握りこんだ。

 




更新ペース早めたいけど、多分私自身のコンディションもあるのでウィークリーかもしれません。
とりあえずお楽しみいただけたら幸いです。


さて、前置きはともかくここから本題。

今のところハマゴたちのストーリーはマサゴタウンで一服つくので、読者様方から募集したアンケートの案を実現していく形になります。今のところ、2つ頂いているのですがどちらも実現できればいいなと思っております。

活動報告の最新でまた設置しておくので、興味を持った方は投下してみてください。
以上、練習作のくせに更新が遅い作者からでした。ちなみにアンケート期限はありません。

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