流れ医師の流れ星   作:幻想の投影物

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冒頭の理由説明(ハマゴはいつまでたっても警戒を止めていない)


暗闇で光るガラス片

 ポーン……ポーン……ポン、ポン、ポン。

 ソナーの反応が強くなっていく。次第に光点も増えてきた。このポケモンセンター周辺に、ありとあらゆる人間やポケモンが集まってくる。しかも、絶対に開かなくなったはずの自動ドアや、普段は開かないはずの非情ドア。そして窓からも。

 

「完全に後手に回っちまったな……」

「んで、どうすんのよ?」

「決まってんだろ。強行突破の後に逃げる。戦ったって何の意味もありゃしねえ」

 

 全ての電子機器が停止したポケモンセンター。異変に気づいていない宿泊客や、コトブキシティ全域が停電に陥ったことで混乱する夜勤のジョーイが点在する中で、ファウンスの頃からの対犯罪者用の意識に切り替えたハマゴは停電の時点で完全に目をさましていた。

 それから30秒後、文字通りマーズを叩き起こした彼はキュウコンの入っているボールを握りつつも、ファウンスの頃から愛用しているソナーによって敵の位置を把握していた。何が原因かは知らないし、何を目的としてこのポケモンセンターに「それ」らしい犯罪者の手先が集まってくるのかもわからない。

 それでも言えるのは、とにかく狙われる一因として十分に考えられるジラーチを持つ自分が、まず逃げること。これで追ってくればそれらへの対処。追ってこなければ何とか公的機関の到着を待って立ち回ればいい。ハマゴは公式スポーツ(ポケモンバトル)は苦手だが、殺しもOKなフリーファイトなら幾らでもやりようはある。

 医者ではあるが、他者を平気で傷つける輩がどうなろうと知ったことではない。いざとなれば、「生かして」情報を引き出せばいい。善意もあるが、自分の意志のためなら悪意も十分に持ち合わせているのがハマゴという人間だった。

 

「サン、ニィ、イチ……ゼロ!」

 

 ソナーの光点に頼らずとも、勢い良く近づいてくる足音が聞こえる。

 ゼロ、のタイミングでハマゴたちのいる部屋のドアが蹴破られた。

 

「じんつうりき!」

「あくのはどうよ!」

 

 同タイミングで出てきたブニャットと、キュウコン。

 侵入者の姿を確認するまでもなく、ドアごと侵入者は向かいの壁にたたきつけられた。威力は手加減したものであったが、人間なら再起不能。ポケモンなら確実に一時は怯むだろう。その隙にベルトを手にしていたハマゴは、金具部分で窓を割って飛び出した。

 

「もどれキュウコン!」

「ブニャット戻って! さぁ、クロバット! 行くわよ!」

 

 続いて、マーズが出したのはクロバット。ギンガ団時代よりもずっと愛情を込めて育てた結果、立派で通常よりも大きな体格になって進化した彼女の愛するポケモンだ。

 クロバットはマーズのボールから飛び出すと、その両足にそれぞれハマゴとマーズの手を引っ掛けて上空を舞った。二人も人間を吊るしているせいでスピードはそれほど速くないが、それでも自転車よりはずっと速い速度でポケモンセンターを離れることに成功する。

 

「クソっ、追ってきやがった……やっぱ狙いは俺らか!」

 

 振り返ったハマゴは、ポケモンセンターに侵入したであろう全ての敵対人物がうぞうぞと窓やドア、果てには壁すらぶち破ってこちらの後を追いかけようとしている姿を見た。

 いかんともしがたい異様な光景である。彼の視力が許す限りに見えたのは、皆一様に、同じ表情で同じモーションで追いかけてきているワンシーン。直に、近くにあった乗用車らしきものに乗った足の早い連中も出始めた。

 

「コトブキの中央公園だ! あそこならほとんど誰も居ねぇだろ!」

「オッケイ! クロバット、行くよ!」

 

 徐々に追いつかれそうになるが、裏路地をひょいひょいと通る逃走劇に、車やバイクを使った襲撃者たちは思うように距離を詰められない。クロバットが超音波で自由自在に閉所を飛び回ると、次第に、バッと視界が開けた場所にたどり着いた。

 コトブキシティの中心部に近い中央公園である。噴水や、コトブキの特有の意匠が散りばめられた石造りの見事な場所だった。昼間にはポケモンバトルも繰り広げられる、とても広い敷地を持つ場所。囲まれる可能性は高いが、警察も近い。それでも短期決着を付けられる危険をはらんでいるとはいえ、ハマゴの頭のなかには確実に上手くいく方法が渦巻いていた。

 

「ここで降りるぞ!」

「……なんか考えがあるんでしょうね」

「ったりめーだ。じゃなきゃこんな場所に来ねぇよ」

 

 言いながら、いちいち状況を報告せずとも済む緊急通報をポケッチから発する。これによって電波が発せられた場所がGPS情報と共に発信される仕組みである。警察の到着は30分もあれば十分だろう。

 最も、その30分がなんとも長い時間であることには違いないのだが。

 

「来たわ……って、こいつら!」

 

 敵の姿をはっきりと視認できるようになって、マーズは目を見開いた。

 襲撃者が身につけていたのはギンガ団の服装である。胸元のGマークと、どこかグレイ型宇宙人じみた奇妙な服装。しかし、見た目を引き換えに運動性能や着こなしは最高クラスかつ、量産も容易というそれだ。

 マーズがかつて身につけていた懐かしい服装の人物が10、20、40と次第に増えていく。視認できるかぎりはおおよそ50人前後になった辺りで、円を描くようにしてハマゴたちは包囲されることになった。

 

 直後、どこか機械じみた団員たちをかき分けるように、ゆったりとした足取りで近づく長身の女性の姿があった。公園を見下ろす月光に照らされ、姿を完全に表したその女は両者がよく知る人物。ギンガ団の幹部にして、過激派のトップであるジュピターである。

 

「グッドイブニング。お久しぶりね、お医者さん」

「ジュピター、あんた!」

「裏切り者は黙ってなさいな。今はそこのドクターに話があるの」

 

 ねっとりとした口調で話すジュピターの目は、狂気の色を含んでいた。もはや本当に視界が正常に作動しているかも怪しいほどに。よくよく見れば、その目の下には深く刻まれた隈取も見て取れる。寝ていないのか、寝られないのか。こんな緊迫した状況でも、ハマゴはそんな細かな観察をしていた。

 そして、ジュピターの言葉に対してハマゴの返答はこれだ。肩をすくめて、鼻からフッと息を吐きながら呆れたように言ってみせた。

 

「しがない流れのドクターに用とは、なんだ? 過激派ギンガ団はポケモンの回復要員でも欲しいのか?」

「知ってて言えるのなら大したものね。それとも、単にお馬鹿なだけかしら? ジラーチを差し出せばいいってことよ。もちろん、その後はドクターにも我々の仲間になってもらうけど」

 

 ジュピターの要求は、ジラーチどころかハマゴを単なる部品のように思った上でのものであった。どこまでも人を見下し……いや、単なるデータ上の存在であるかのような傲慢な立ち振舞いに、ハマゴの額にイライラの証が浮かぶ。

 そんなジュピターに言いたいことがあるのだろうか。食って掛かるように身を乗り出したマーズを手で制して、彼はまだ自分との会話だと目で言って聞かせた。

 

「仲間とは穏やかじゃねえな。そのどう見ても洗脳してますって感じの人形になれって? まっぴらごめんだ。もちろん、ジラーチを引き渡すのもな」

「ふぅん、悪い話では無いと思うけど? アカギ様のために尽力できる一員になれる。その誉れ以外に、幸福なんて何もないでしょう?」

「……さぁて、だったら人類平和だろうがな」

 

 続いて飛び出した言葉に、ハマゴは背中に冷や汗が浮かぶのがわかった。

 

(さて、価値観どころか大分狂ってんな、この売女)

 

 思うのは罵倒と、話の通じない相手に対しての感想だった。

 なるほど、確かに各地でテロ紛いのことをしてるだけはある。正常な判断能力はとうの昔に消え去っていると考えたほうが良いだろう。と、ここまで考えてちらりと時計の方を覗き込む。深夜の1時27分。まだ先ほどの警報を発してから数分しか経っていない。

 

「一つ聞きたいが、ジラーチを使って何をするつもりだ?」

「決まっているわ。“やぶれたせかい”に消えていったアカギ様を救い、今一度私達を導いてもらうのよ。そのためにジラーチというポケモンには、私達の願いを叶えてもらう必要があるの」

「私達、とはまぁ大きく出たもんだ。オマエ一人じゃあ無いのか?」

「ここにいる全てのギンガ団員の願いよ。ねえ、そうでしょう?」

 

 ジュピターが隣の団員に問いかけるが、それは命令ではない。そしてアカギという人物について何も知らず、洗脳されて意識すら無い団員は黙りこくるばかりである。完全に無表情で、いつまでたっても返事が来ない事に業を煮やしたジュピターは苛立ち紛れに団員を蹴り飛ばした。

 蹴られた団員は頭からコンクリートの地面に倒れこみ、酷い擦過傷を負う。ハマゴはピクリと手を動かして、しかし押さえつけた。それを知らず、どこか様子のおかしいジュピターは文字通り体を震わせている。

 

「決まっているじゃないの! そう、そうよ! アカギ様がかえってくることを望むのは全ての人間、いいえ、全ての生物の願いなのよッ!! あの方が創りだした新たなる世界で我々を導いてもらい、私はわたたた、た、たた、し、しはああ、ああああああああああああああああああ!」

 

 狂気的で、喉から枯れ果てそうな絶叫とともに顔を両手でつかむように覆い尽くし、エビ反りに腹を突き出すジュピター。ガクン、とスイッチが切れたように動くと、まるで何事もなかったかのように彼女は元の雰囲気を取り戻していた。

 

「さあ、早く来なさい。ジラーチを捕まえた功績を認めてあげるわ。私たちは仲間なのだから。一緒にアカギ様を取り戻しましょう。あの忌々しい世界から……」

 

 ついには、現実と事実をねじ曲げたらしい。もはやジュピターの中では、ハマゴは過激派ギンガ団の一員という事になっているようであった。どこも笑っていない空虚で晴れやかな笑みを浮かべたジュピターに、気分が悪いと言わんばかりにハマゴはツバを吐き捨てた。

 

「一つ聞くが―――」

「時間を待っているなら無駄よ。コトブキシティは全てのシステムがダウンしているわ。緊急通報システムもそれは例外じゃない」

「どういう考えしてんだコイツ……」

 

 仲間だと言っておきながら、完全に敵としても見做している。ジュピターの精神構造はつぎはぎだらけに違いないだろうとハマゴは乾いた笑みを貼り付けて一歩下がった。彼の握る「空のボール」がギュッと握りしめられる。

 さて、どうするべきか。通報が無駄というのはハマゴにとって承知の上だ。非常電源くらい生きていれば良かった程度の保険でしかない。本命はもっと別のところにある。だが、そのためにもまだまだ時間は必要だ。

 そこで話すことすらなくなったハマゴがそろそろ攻撃態勢に入ろうかと足の姿勢を変えるが、今度はつかつかと彼の隣からマーズが歩き出した。

 

「時間が無駄っていうなら、あたしから言いたいことがあるわ」

 

 マーズは、ジュピターにしっかりを視線を合わせた上で言い放つ。

 真正面からの眼光に、正気を失っているジュピターとしては堪えるものがあったのだろうか。ぐらりと、少しよろめいて頭を押さえつける仕草で、息も荒くなっている。

 

「なに、よ……」

「あんた、いつまでアカギの幻を見てるの? あの人は死んだわ」

「……ッ!」

「ばっかみたいよね。やぶれたせかい、伝説のポケモン。一時的にでもあんなものを従えて、アカギの理想に賛同していたあたしは心の底から熱い感情に支配されていたわ」

 

 でもね、とマーズは首をふる。

 

「……だからこそ、熱源であるアカギがいなくなった今、そのうちに熱は冷めていった。そもそもディアルガやパルキアが姿を表したのは、大量のポケモンや人の犠牲と引き換えに赤い鎖なんて物を持ち出せたから。アカギほど頭の良くないし、踏ん切りもつかないあたし達じゃ、どうあがこうとも伝説を引きずり出すなんて土台無理な話よね。そう考えると、やぶれたせかい何て行けないわよ。どう足掻いても」

「やめて、やめてよ……」

「どこから嗅ぎつけたかは知らないけど、ジラーチを見つけるまでは、あんたも同じだったんでしょ? 方法が無いけど、とにかく闇雲に動いていたい。だから―――」

「アアァッッッッァァアァアァアアアアアアアアアアアアア!! オーロォォオオット! ウッドハンマァアアアアア!!」

 

 完全に取り乱したジュピターは、マーズの言葉を遮ってオーロットを繰り出した。そのまま絶叫とも命令とも判別のつかぬ狂態を見せたまま、完全に無防備なマーズを襲う。

 

 ガギィンッ、と耳障りな音がなる。そんな破れかぶれの一撃が通じるはずもないのだ。まだボールに戻っていないクロバットがオーロットの攻撃を、はがねのつばさで受け止めたのである。

 硬質化して銀色にきらめく翼の向こう側から、一歩も引かないマーズの凍てつく視線がジュピターを縫い止めている。完全に体躯の差で下からの見上げる視線だが、ジュピターは本能的に芯の通っていない自分とは違うその視線に恐怖した。

 恐慌状態に陥った彼女は、今度こそ表現のしようのない奇声を上げて手を振り下ろす。その瞬間、周囲にいた下っ端たちがボールを掲げてポケモンを繰り出した。

 

 完全なる数の暴力だ。50体以上も立ち並ぶゴースやズバットの群れ。下っ端たちの声は重なり、一斉に指示を出し始めた。

 

「「「エアカッター」」」

「「「シャドーボール」」」

 

 闇色のエネルギーと、目に見えない真空の刃がハマゴたちに迫る。ジラーチとてボールの中にいようが、巻き込まれればただでは済まないだろう。完全に正気を失ったジュピターの指令は、彼女の願いとは完全に間違った方向で叶えられてしまっていた。

 しかし、そのことに恐慌状態のジュピターが気づくはずもない。今はとにかく、あの自分とは違う裏切り者のはずなのに、自分よりも恐ろしく見える女を排除することが先決であるのだ。自分に意見するありえない存在を消し去ることが最上の幸福であるのだ。

 

「私の前からっ! 消えてええええええええええええええっ!!」

 

 ジュピターの絶叫とともに全ての攻撃が着弾。しかしその直前、ハマゴの口元が―――三日月のように歪んだことに気づかなかった。

 

「……さぁて、マーズ。アイツをこれ以上狂わせてどうするってんだ?」

「仕方ないじゃない。せめて間違ってることくらい言ってやらなきゃ腹の虫が収まらなかったのよ。それに、私の目的はトチ狂った元同僚をぶっ飛ばすことよ。殴りやすくするのは間違ってないでしょ?」

 

 黙々と立ち込める煙の中からは、そんな陽気な会話が聞こえてきた。これは、一体どういうことだ。あれだけの攻撃、防御を貼ろうとも何の意味もなさないはずなのに。

 ジュピターがわずかばかりに残った理性で考えを巡らせつつも、混乱の渦中にある中でその姿は見えてきた。

 

 彼らは完全なる無傷であった。ただ、先程までと違うのは傍らにキュウコンが一匹増えていること。だからといってアレだけの物量差をどうやって押し切ったのか、という疑問が芽生えてくるが、生憎とハマゴはそれを教えてやるほど親切でもなければ、自分を襲ってきた相手へ掛ける情けもない。

 

「焼き払え、はかいこうせん」

 

 まるで太陽かと見まごうほどの眩い輝きがジュピターの目を焼いた。

 かと思えば、耳が機能しなくなるほどの轟音が突き破り、瞼の裏をも焼きつくす閃光が迸る。ほんの一瞬に過ぎない時間であったのに、確かに訪れた正体不明の衝撃にジュピターは吹き飛ばされる。

 それは部下たちも例外ではなかった。洗脳されていたギンガ団員は、繰り出したポケモンごと公園の破片もろとも瓦礫の中に沈んでいる。一応まだ動ける団員は残っているが、此処に来たA~C班を含めた50人前後の人数は、わずか3、4人にまで減っていた。

 

 ここでようやく、アカギの事から意識が遠ざかり、いつものようなジュピターが戻ってくる。頭を打ったことで狂っていた思考も一時中断されたのか、何にせよ、正気に戻ってジュピターが抱いた最初の感情はふつふつと煮えたぎるような怒りであった。

 それは奇しくも、ハマゴが最初にギンガ団員に抱いたそれと同じ。自分の信念を汚すような行いに対する怒りの感情。

 

「よくも、よくもよくもよくも!!」

「吠える前にかかってこいよ。よく吠える犬がリードに繋がれてちゃ迫力も型なしだってハナシだ」

 

 ハッと嘲笑ったハマゴはジュピターたちからの逃走経路を組み立て始めていた。しかし、そのための布石は今打ったにしても、まだ時間が足りない。最後の逃走手段であるジラーチにボール越しに問いかけてみれば、カタカタと任せろと言わんばかりの返事が帰って来た。

 心強いもんだ、と。そんな意味を込めて一度ボールを撫でてやったハマゴは、逆にジト目で睨んでくる隣の女性と向き合った。

 

「あんた挑発しすぎ。戦えるポケモンいんの?」

「後は任せた。キュウコンは今のでグロッキーだ」

「だろうと思った」

 

 呆れたように肩をすくめたマーズは、腰につけていた5つのうちの1つのボールを手にとった。

 

「さ、行くわよブニャット。お仕置き開始なんだから」

 

 クロバットとブニャット。マーズがギンガ団時代からずっと愛してきたポケモンたちだ。それは今となっては並のジムリーダーすらはるかに凌駕する強力なパワーを持ったポケモンとして、ハマゴたちを守るために立ち上がる。

 主人の愛情への答え方。そして何より、自分の力を発揮することができる戦場。鍛えることは数多く有れど、大立ち回りの機会を待ちに待っていたブニャットたちは興奮とともに気鋭を高めていく。

 

「下っ端共、制圧しなさい」

 

 冷静さをいくらか取り戻したジュピターの指令に、ポケモンこそ戦闘不能になったが、まだ体が動くギンガ団員たちがハマゴたちに飛びかかる。動けるのはおおよそ十数人か。流石にマーズのポケモンで攻撃してしまえば、大怪我間違いなしのところではあるが、そこにはハマゴが対処した。

 

 改めておさらいしよう。ハマゴは険しい道ばかりのフエンタウン出身。更には、冒険家のようにファウンス中を駆けまわる調査団の一員として長く活動していた肉体派、かつ医者である。きのみを知り尽くし、利用しつくし、それでいて新たなる可能性を模索する彼は当然ながら自分の肉体と知識を磨き続けていた。

 それすなわち、付け焼き刃の洗脳された団員では相手にすらならないということ。

 

「っしゃ、オラァッ!」

「……うわぁ、エゲツな」

 

 どうせ全員まとめて病院に突っ込めばOK。その考えのもと、見事なヤクザキックを団員の腹にぶちかますわ、その手袋に染み込ませた木の実のブレンド薬剤を口の中に突っ込み行動不能にさせるやらの無双である。

 これなら背中を任せられるだろうとマーズはジュピターに向き直ると、既に先ほどのオーロットというポケモンの攻撃が眼前にまで迫っていた。しかし、そこは「みだれひっかき」を使ったブニャットが受け止める。見た目に合わず俊敏な動きと、鍛え上げられた滑らかな動作でオーロットの力任せの一撃は、威力を散らされ弾き返された。

 

「クッ!」

「その見たこと無いポケモンには驚いたけど、あんたは昔から変わってないわねジュピター。何でもかんでも力で押そうとする。細かく考えるのはいつもサターンか、プルートのお仕事。そして小回りはあたしが担当。ま、その分あんたは突き通す執念深さもあるから……ただのパワータイプとして見ないほうが良さそうね」

 

 懐かしむように言ったマーズの言葉に、図星のジュピターは歯噛みした。

 彼女の言うとおりである。オーロットは攻撃力が高いポケモンではあるが、その真骨頂は恐ろしいまでの持久力の長さ。自己修復機能を持った固定砲台とも言えるポケモンだ。いかにマーズが受け流そうとも、同じペースで全力を打ち込んでくるオーロットにいつかは競り負ける時が来るだろう。

 

「スカンプー、アシッドボム」

「おっとよそ見しちゃいけないわね! クロバット、エアカッター!」

 

 完全にジュピターと対峙する形のマーズに横槍が入るが、彼女は難なくそれを凌ぐ。先ほどのズバットたちとは比べ物にならないほど太く、それでいて強靭なエアカッターはアシッドボムを切り裂き消滅させてなお、スカンプーにダメージを与えた。

 

 その後ろでは、まだハマゴが人間の下っ端相手に立ち回っている。流石に無双とはいえ疲れが見えるのか、ポタポタと零れた汗が顎を伝って地面にシミを作っていた。もっとも、白衣をはためかせて視界を奪い、余裕でカウンターをかます彼はつかれていても余裕そうだが。

 

「マグマ団め……少しくらい手勢を寄越せば良かったものを」

 

 そうして蹂躙される、ジュピターだけの軍団。たった二人だけの強者に蹴散らされる様を見ながら呟いた彼女に、耳ざとくハマゴが反応してみせた。

 

「マグマ団だと!?」

 

 裏拳で団員の一人の顔面を打ち抜いて、彼はメガネを直した。

 

「知ってんの!?」

「聞きたいことが増えた。っつうか確定だ!」

 

 マーズが下っ端の残りポケモンを蹴散らし、オーロットの猛攻をしのぐ。そして戦いが激化していく中で、ハマゴはマーズとの会話を交わしながらもちろんだと頷いた。

 

「マグマ団がその女をそそのかしたに違いねぇ! 奴ら……確かに追ってきてやがった!」

 

 少しずつ明かされていく真実。

 未だコトブキの光は失われたまま。

 




ハマゴは地獄耳。

あ、手袋のきのみ薬液はポケスペのRS編、カガリさんから。

ジュピターの小物化が止まらない……
まぁ狂人入ってると書きやすいってのはある。
ついでに冒頭だと烏合の衆っぽい感じなのにマグマ団の方が大きく見えるね。

ハマゴはポケモンバトル弱いけど、キュウコンが今回強かった理由
話してる間、キュウコンが「わるだくみ」で6段階以上に特攻高めてた。
そして悪巧みを20回くらいので破壊光線発射。
まあ当然規定回数以上だからキュウコンはキャパオーバーで戦闘不能です(自傷入る。
ついでに近くの公共物破壊。仕方ないね、悪の組織と戦ってたし。
ちなみにこれ、ドクターとしてはやってはいけない事をやってます。

次回は決着と、顛末。物語はまだまだ続きます。

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