斯くして、一色いろはの日常は巡りゆく。   作:あきさん

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お久しぶりです。そして、あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。


だから、一色いろはは約束する。―Interlude―

  *  *  *

 

 数合わせの役立たず。全然、まったく、これっぽっちのやる気すらも感じられないごく一部のメンバーに対しては、正直そう思う。

 そのくせ文句だけはいっちょまえで、とにかくめんどくさくて、無駄に厄介。おまけに往生際も悪いときた。だから、ほんとにほんとにめんどくさい。

 ……はーつっかえ。わたしは責め問うような冷眼をそちらへと向ける。

「いちいち言われたくないなら結果出してどうぞ」

 事の発端は、そんな連中のうちの一人、そんな男子が、会議の途中でわたしに文句をつけ始めたことだった。

 ぴしゃり一蹴したものの、その男子はなおも食い下がる。

「あのさ、会長。立場上そうしなきゃいけないのはわかるけど、こうも毎回毎回口うるさく言われちゃ、みんな疲れるだけだよ」

 は? どの口でなにいってんだこいつ……。みんなを言い訳に使うとか……。

「わたしだってできれば言いたくないですけど」

「だったら、もうちょっとさぁ……」

 もうちょっとゆるーくぬるーくしろって? ここまでカツカツのきつきつになった原因なんだと思ってんだ? はっ倒すぞ? 仕事なめんな? 働け?

 とはさすがに言えないので、代わりに、魔法の言葉でお返しする。

「こちらの指示にそこまで不満があるのでしたら、今後はあなたが指示してどうぞ」

「え……い、いや……そんな……そこまで大げさなものじゃ……」

 で、出たーっ! 手のひらくるくる保身おじさんだーっ! 今までの調子はどこへやら、男子の声がものっそ小さいぼしょぼしょしたものになった。露骨すぎるクズっぷりに思わず笑っちゃいそうになる。訴訟。

 というわけで、けぷけぷ咳払いしてから、にっこりはすはすといろはすスマイルを浮かべるわたし。すると、書記ちゃんがひえっと小声で呟く。どうやら目まではきっちりスマイルできていないらしい。

 っべー……。思ったよりイライラしてるかも……。

 内心ひとりごちながら、表情もそのままに、わたしは言外の真実を口にする。

「なるほど。つまり、文句は言うけど責任は持ちたくない……と」

「だ、だからそこまでは言ってないって……」

 言ってるっつーの。わたしはため息と共に目を伏せつつ。

 さてしかし、困った。この手の輩は詰めすぎると悪態つくわ逆ギレするわだし、おだてたらおだてたで調子に乗るわの弁えないわでやらかすしだし、ていうかもう既にやらかしてるしだし……。

 おかげで、ついつい、ため息を重ねてしまいそうになったけど。

「……ここまで言われても、じゃあやってやるって開き直れないなら、こういうとこでそういうこと言っちゃだめですよ」

 ネガティブな感情はひとまず遠ざけ、トーンも穏やかにして、やんわり釘を刺す。

 だが、当の男子はというと、何か物言いたげに眉根を寄せるだけ。ですよねー、こんな頭軽そうなやつに言われてもイラッとするだけですよねー。けど、イラッときてるのはわたしもなのでおあいこですよ?

 ……まぁ、そんな私情は今はさておき。

 人の心を動かすために必要なもの、それは強烈な外部刺激だ。何かを見たり、聞いたり、突きつけられたり、目の当たりにしたりして、そこでようやく、心の底にあるめんどくさい部分がもぞもぞと動きを見せる。

 ただ、その何かが一体なんなのかは人それぞれだろうし、後にも先にも、そもそも存在するのかどうかもわからない。けど、だからこその、特別な瞬間。

 それを一緒に探してあげられるなら。でも、心の関わり交わりすらない他人のそれを一緒に探してあげられるほど、わたしは暇人でも偉人でも善人でも聖人でもない。

 なので、こいつどうしてくれようかと次の一手を決めあぐねているうちに。

「……あのー、ちょっといいですかね」

「はい小町ちゃん」

「空気的にも休憩を挟んだほうがいいのでは?」

 双方のイライラゲージを察したらしい小町ちゃんが、そんな提案をしてくれた。

「……そうだね。わたしは異議なしです」

 次いでぽつぽつ上がる声もまぁとかうんとか肯定的で、異を返す者は誰一人としていない。噛みついてきた男子すらも無言は肯定とばかりに何も言わない。

 これは小町ちゃんの普段あってこそかなー……。わたしが同じこと提案しても、逃げたとか投げたとか言われてわたしもキレておしまいだろうし……。

 バッドエンド確定ルートを避けられたことに感謝しつつ、溜まりに溜まった重たいものを外へ追いやるように、ふーっと息を吐いてから。

「……では、一旦休憩ってことでー」

 

 それからしばらくして。

 時間になったので会議を再開させようとした時、あることに気づく。

 空席。あの厄介な男子が座っていた席だ。

 

 そして、主が不在の、ぽつりぽっかり空いたスペースは。

 会議が再び始まっても、会議が終わっても、埋まることがないままだった。

 

 

 

 

 




分割という名の幕間その②でした。あと生存報告も兼ねてます。
今回が短いってことは、つまり……?
さくっと終わらせるつもりがだいぶ膨大になっちゃったなーといまさら。

ではでは、ここまでお読みくださりありがとうございました。

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