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誰かに嫌われるのなんて、そんなの、わたしにとっては当たり前のこと。
いつも陰口を叩かれていた。数人がかりで悪口を言われたことだってある。
おかげで、嫌われることには慣れた。というより、慣れちゃったといったほうが正しいかもしれない。そんな毎日ばっかりだったから。
最初の頃は、その誰かに嫌われることが、どうしようもなく嫌だった。
たくさん落ち込んだし、いっぱい傷ついた。悲しくて、苦しくて、つらかった。
でも、わたしがいくら泣いたって、誰もわたしをみんなという輪の中に入れようとはしてくれなかった。
だから、みんなの中の一人になることを、わたしは途中で諦めた。諦めるしかなかった。
けど、やっぱり、何も変わらなかった。
何一つとして、変わってくれなかった。
そしたら、気づいたんだ。
わたしがこの顔でいる限り、この先も、ずっと同じなんだなって。
それを一度でも恨んだことはないといったら嘘にはなる。けど、恨むよりも最大限の武器として使うことをわたしは選んだ。
だって、そのほうがいろいろと都合もよかったから。
わたしにとっては、誰かにちやほやされることも当たり前だった。
そのたびに、わたしを嫌っているほうからは何度も陰口を叩かれ、何度も悪口を言われ、何度も貶めるための噂を流されて。
なのに、わたしの味方であるはずの誰かは、いつも口先や見せかけばかりで、実際にわたしを守ろうとはしてくれない。
けど、それは仕方のないことだった。
本気でわたしを守ろうとしてしまえば、自分も輪の外に追い出されてしまうから。
誰だって、自分が一番可愛い。
どれだけ相手を信じていても、それを晒すことは、なによりも怖い。
ましてや、それが信じてもいない相手になら。
たとえ心の中のわたしが全部バレていても、晒すのなんて、絶対に無理なこと。
だから、言い訳ばかりしていた。誰だってそうすると正当化していた。求められているからを免罪符にしていた。二つの当たり前として割り切っていくしかなかった。
それは、きっと、これからも。
これからも、ずっと。
そうやって、わたしは生きていくんだ。
でも、ほんとはわかってた。
そんなことしてたって、いつか寂しくなるだけだって。いつか虚しくなるだけだって。
でも、やめられなかったんだ。
そんなことしてる間だけは、誤魔化せていたから。見て見ないふりができたから。
そうやって、わたしは『一色いろは』を肯定し続けていくんだ。
でも、ほんとはわかってた。
そんなことしてたって、事実は変わらないって。人気者の皮を被った嫌われ者のままだって。
でも、やめられなかったんだ。
そんなことしてる間だけは、否定できたから。真実を受け止めなくて済んだから。
ほんと、バカみたい。
わかっているのに繰り返してばかりいる。終わらせることができないでいる。逃げ続けてばかりいる。抜け出せないでいる。
だから、そこが羨ましかった。
でも、仕方なかった。
それでも、そこにいられるのが、わたしにはどうしようもなく羨ましかった。
そこは、あまりにも遠くて、あまりにも眩しい。
めいっぱい手を伸ばしたところで、指先すらも届かない。
だから、この先も、わたしがあの場所に立つことはないんだろうなって。
きっと、わたしじゃ、主役にはなれないんだろうなって。
絶えることのない歓声を浴びるあちら側に、ただ、悲鳴にも似た声を送りながら。
煌びやかなスポットライトに照らされる向こう側に、ただ、目を細めながら。
それぞれが強い主張をしている音の波に、ただ、悔しさを感じながら。
飛び跳ねるアリーナに、ただ、混じりながら。
熱気と輝きの中心であるステージの上とは、全然違うところで。
主役を引き立てるための、その他大勢の中で。
――わたしは、そんなことを考えていたんだ。
明けましておめでとうございます。
そして、本年もよろしくお願いします。
幕間のお話なので、凄まじく短かったと思います。ごめんなさい。
一旦ここで切ったほうが綺麗だなって思ったんです。あと、こういう流れ一回はやってみたかったんです。だから許して。
ではでは、ここまでお読みくださりありがとうございました!