今回は少し暗い部分が出てくるかも
そして千歳さんが無自覚を卒業する……?
それでは
「はぁ……疲れた」
現在俺は、街といつも寝泊まりしている公園の境目にある、雑木林に囲まれた道にあった自動販売機の前にいる
その自販機のラインナップを確認しつつ、今日のデートとは流石に呼べねー代物になってしまったイベントを思い出しては、人知れず溜息を漏らすのだった
――え? 十香達はどうしたかって? 今頃公園でいいムードの中を二人っきりになってるだろうね
あの後何とか復活した主人公クンだったのだが、気付けば辺りはもう夕方だったんだよな。暗くなり始めたことによってライトアップされたドリームランドは、とても……いかがわしさを感じました
結局俺と言うお邪魔虫のせいで、デートらしいデートにならなかったことに申し訳なく感じた俺は、十香に気づかれない程度の声で主人公クンに謝ってましたよ
主人公クンはあまり気にしていない様子だったが、そんなことでは俺としては納得がいかない訳でありまして……ね? やはり二人の仲を見た俺としてはこの二人をくっつけたいと思うわけでありまして
いやだってさ? この二人、傍から見ていて実に微笑ましいわけなのでありますよ。まさに初々しいカップルと言わんばかりにな
……冗談みたいだろ? これで付き合ってないってんだぜ? この二人
二人の関係は文字通り良好、十香も主人公クンにほとんど心許しているようだったし、主人公クンも十香の事を本気で思っているのは見ていれば誰だってわかるだろう
そんな二人の言動を見てしまえば、誰だって二人に幸せなルートに歩んでもらいたいものだろう。嫉妬深かったりしない限りは
……それにだ。今まで誰も信じられず、人から敵意しか向けられていなかった十香がやっと自分の心を許せる存在に出会えたんだ。俺が十香とまだ一日にも満たない関係だったとしても、彼女の幸せを願っちゃダメな理由は……無いだろ?
だからこそ、最後ぐらい二人っきりの時間を作ってやろうと思ったわけだ
俺は夕焼けを確認次第、十香の右腕、主人公クンの左腕に自分の腕を組んで、引っ張るような形で無理やりここに連れてきた
やっぱりさ? ムードがあっていい景色を拝めながら仲を深め合える場所と言ったら、景色がいい場所……あの高台がベストマッチっしょ? デートの締めくくりにはもってこいの場所だ。ロマンチックに~ってやつ
十香達は急に積極的な行動に出た俺に不思議がったり戸惑ったりしてたなぁ……何やら言っていたようだけど、いちいち聞いてたら夕日が沈んじまうから適当に相槌を打っていた
「まぁまぁまぁ。まぁまぁまぁ」と、それだけ言って誤魔化してたわけだが……まぁいいだろ。俺を二人のデートに半強制に同行させたんだし、最後ぐらい俺がやりたいようにやったって今更罰は当たんねーだろ? それ以上に振り回されたんだしな
そんな経緯で俺はグイグイと二人を引っ張って高台の公園にやってきたってわけなんたぜ。ざまーみろ十香! 全部お前のペースで事を運べると思ったか!? 甘いわ小娘ェ!!
……あれ? この言い方だと十香が敵っぽいような気がするのは俺だけか? いやいや十香は敵じゃないし……なら敵は誰だ? ——あれ? そもそも敵って何だ?(迷走)
いかんいかん、話の方向性がズレてきてるじゃねーか。今は二人のデートの締めくくりの話だったはずだ
――え? 俺の方が敵役だろ? 知ってる
……そういえば俺の気のせいかな?腕を組んでいた時の主人公クンの顔、なんか赤くなっていたような……あ、夕日のせいか
とりあえず高台の公園に連れて来た俺は、早々に十香達を二人っきりにしようと二人の元から離れたわけです
ここでまた下手に理由が無い状態で離れようとすると、十香から子犬版捨てないでオーラが放たれるので、俺はその辺りの自販機から飲み物を買ってくると伝えて安心させることにしたのだった
すぐに戻るような言葉を十香達には伝えてあるので、これだったら十香も然程気落ちせずに主人公クンと二人でいられるだろう
……ま、「その辺り」であって「すぐ近く」の自販機じゃないんだけどな? それに「すぐ戻る」と言っても、その「すぐ」ってのは人それぞれだ。十香が遅いって思っていても俺からすれば速いかもしれないわけなのですよ
俺は別に嘘はついてないぞ? ただお互いに認識の違いがあっただけだ。ククク……
ついでに二人から離れる前、すれ違いざまに「時間取ってやっから最後ぐらいデートらしく二人っきりで話せ」と主人公クンだけに一方的に伝え、返事を待たずして離れたりもしたから、今頃は仲睦まじくしてんじゃねーかな? そうだといいんだけど……
そんな訳で、邪魔をしないようにとこの雑木林が生い茂る道まで二人から離れた俺は、そこにあった自販機の前で何を買おうか選びながらのんびりまったーりしているのでした。なんと言うか達成感がかなりあるわ
とりあえず俺は、目の前にある自販機に五百円を入れてファ〇タグレープを三本買うことにした。飲み物買ってくるって言ったからには二人の分も買っておかないとな?
この時、お釣りは放置安定である。それか募金箱にボッシュートが基本
いやーそれにしても五百円マジ便利だわ。こうして丁度三人分のジュース(160円×三本=480円)を買える程の価値はあるから実に重宝するね
何よりコインだから水に落としても問題無いし、焼けることも滅多にないから少し雑に扱っても問題無い。そんな五百円を見ていたら、なんかお札よりも高価な物に見えてきたぜ。硬貨だけに
……19点
それに500円だと何かとお得だったりするんだよね。マ〇クでもワンコインでセットが買えたりできる時期もあるし、ゲーセンのクレーンゲームだって一回200円のところ、3回できるしな
……できるしな
できる、けど……取れなかったら意味が無いけどな……くそぅ……
——はっ! べ、別にさっきの事を気にしてなんかねーぞ!? 景品なんて、デジカメで最後に写真撮っておいたからいつでも手に入るしな! はっはっは! ざまーみろクレーン野郎!!!
——圧倒的敗北感を感じる
忘れよう。あれは悪い夢やったんや……
……え? それより本格的なカメラはどうしたんだって? いや……だって使いにくいんだもん。デジカメが楽すぎる
コホン。とりあえず自分のファ〇タを飲み始めることにした。うむ、美味なり
そういや炭酸だったら俺的にはオレンジよりもグレープの方が好きなんだが……あの二人はどっちが良かったかな?
十香はグレープ好きそうだな……霊装の色紫だし
――え? 偏見だって? 知ってる
「……うめぇ」
今日のデート擬きで疲れ切った体に染みわたるファ○タは最高だったぜ! ……でも、なんでだろう? なんか空しい……
「……ん?」
俺が人知れずしんみりとファ〇タで鋭気を養っていると、視界の端に何やら見覚えのある物……いや、人か? とりあえず何か見えた気がした
気になった俺は、精霊になって強化された目を凝らし、その何かを視界に捉えようとする
そこに見えるのは……こう……何て言うか……痴女感溢れ出る衣装を身に包んだ女性が……
「……あ、なんだASDか」
そう、あの集団だった。通称ASD
俺の視界の先にはピッチリスーツに武器やらスラスターやらの機械を身に纏う……俺的にはちょっと人前には出て行きたくない姿をした少女が
何でこんなところにASDがいるんだ……?アイツ等って空間震が起きなければ出てこないはずじゃねーの? 一体何をしに……
「……追ってみるか」
ASDの動向が気になった俺は、今度こそ尾行スキルを発動して後を追うことにする
何かしらそっち関係の情報を知れるかもしれないしな。知っておいて損はないだろうし、それに……もしかしたらだが、精霊を狙って――十香を狙ってきたのかもしれない
……もしかしたらだ。杞憂で済んでくれっと助かんだけどなぁ……
それからASDであろう少女達を追いかけた俺は、未だに歩みをやめない彼女達を木に隠れつつ跡をつけるのだった
……あえて言わせて貰おう。今、とても……楽しいです
いやな? なんか刑事ドラマみたいでちょっと面白いんだよ。こう……犯人を追う刑事みたいで
最終的には「なんじゃこりゃあ!?」って言ってみたいもんだ。……まぁ撃たれたくはねーけどよ
とりあえず俺は相手の動向に意識を向ける。どうやらASDの二人は何かを話しながら移動しているようだ
ここは聞き耳を立てるべきかな? とりあえず相手の話を盗み聞くことにしてみよーかね
・聞き耳(90)…………(92)失敗
千歳は上手く聞き取れなかった
あ、あれ? 精霊になってからは聴力も強化されたはずなんだけどな……もう一度耳を凝らしてみよう
・聞き耳(90)…………(43)成功!
千歳は相手の会話を聞き取ることが出来た
……お、聞こえてきた聞こえてきた。……なんか今の間に変な描写が入った様な気が……? 気のせい、か?
少し変な気分だが、とりあえず俺は二人の話を盗み聞きすることにしよう
俺が耳を傾ければ、少し離れた先の少女二人の会話が入ってくる。その内容を、相手に気づかれないよう気を引き締めながら、聞き取り始める千歳さんでした
「はぁ……空間震も起こってないのに何で出動命令が出るってのよ。本当に精霊なんているの? いなかったら無駄足じゃない」
「えっと……隊長から聞いた話によりますと、鳶一さんが一般人と歩いている〈プリンセス〉と〈アビス〉らしき少女二人を見つけたみたいですよ? 〈アビス〉似の人からは霊力反応が観測されなかったそうですが、〈プリンセス〉似の人からは霊力反応が観測されたみたいです」
「それが本当だったら厄介極まりない話よね。こっちだって暇じゃないのよ?せっかく非番だったっていうのに……」
「あ、あはは……」
二人の様子を伺うと、一人は心底面倒くさそうに、もう一人は控えめながらも苦笑いを浮かべながら話し歩いている
〈プリンセス〉? 〈アビス〉? なんじゃそりゃ?
霊力反応が云々言ってたから精霊なんだろうけど……もしかして俺と十香の事か?
確かに十香は……今でこそ来禅高校の制服に身を包んでいるが、霊装を顕現すれば〈プリンセス〉と言っても違和感はないな。でもそれだと俺が〈アビス〉ってことだよな?
中二心をそこはかとなく刺激する言葉だが……どうしたら俺なんかに〈アビス〉何てあだ名がつくんや
アレか? 地味すぎて暗いからとかそんなしょーも無い理由だったりするのか? 理由はともかくカッコイイから許そうじゃないか!
――え? なんで俺は霊力が感知されなかったんだって? そこは霊装が頑張ってくれましたよ
俺の霊装……正確には疑似霊装の方だが、これを身に纏っている間は霊力が外に漏れ出ないんだよ
少し弄ってて分かったが、この疑似霊装は俺の思考に合わせて変化するみたいだ。その傾向は三つ
一つ目が外見の変化で、二つ目が機能面重視の強化
そして三つ目ってのが、俺の意思の反映だった
ようは、俺が地味でありたいと思っていたのが効果として現れたのか、なんと気配遮断のようなステルス性能がついたんだよ
姿が消えるわけじゃないが、俺から放たれる気配――それこそ霊力だろうが身の内に隠蔽し、周囲からは感知されなくなるのだ!
自分の気配なども多少消すから、最早地味と言うよりは影が薄いと言っても過言ではないが別に気にしない。マジ霊装さんには感謝だ
しかもこれ、〈
ただそれも一瞬の事だし、常に観測しているわけじゃないなら気づかれないだろ
防御面が消えた代わりに、疑似霊装の各種機能が高性能になってきている件
そんな訳で、どうやらASDの方は霊力を辿ってきたみたいだけど、今の俺から霊力を感知するのは非常に困難だから俺を精霊だと断定は出来ないんだろうね
つまり、彼女達の話通りと言うならば……やはり十香が〈プリンセス〉って事なのかね?
とりあえず、お勤めご苦労様です
「それにしても……〈アビス〉の方はハズレでよかったわよね。私、あんな事をする精霊とは二度と会いたくないし」
「いや確かに気持ちはわかりますが、それで任務放棄はできませんからね?」
おや? 〈アビス〉と言うことは俺の話になって――って、ちょい待ち
ちょ、ちょっと待ってくんねーかな? 「あんな事」って何さ? 俺なんもやった覚えなんてねーぞ? ……ないよな?
視界の先の彼女の言葉に疑問を持った俺は、詳しく知るために二人の話を集中して聞くことにするのだった
そこで俺は……己の知らぬところで被害を出していた事を初めて知ることになるのだった
「確か……【
「そうそうそれそれ。〈アビス〉の目を見ただけで植物人間状態にされるアレ。私はあの時〈アビス〉の目を見てなかったから何とも言えないけど、症状にかかった子達を見ると……不謹慎だけど、私がならなくてよかったと思ってるわ」
……イロウシェン?
それは一体なんだってばね? 話からすると、俺の目を見た奴等が眠っちまう病気……ってことか? そんなもん俺は知らないぞ?
彼女達が言った聞き慣れない言葉と気になる話に、俺は耳を逸らせないでいた
……もし、ここで彼女達の話を聞いていなければ……俺は思い出すことは無かっただろう
『ソレ』に気づかぬままに……『アレ』を思い出すことも無く
だが、それを知ることは定めとしか言いようが無かった。それほどまでの運命であった
逃れることもできず……目を背けることもできず
ただ俺を……縛り付ける
――自身の心に絡みつく、酷く歪んだ深い闇が……
彼女達は俺に気づかず話を続ける。……俺にとって知らなかった真実が炙り出しながら
「もうすぐで一カ月になりかねない状況で、未だ症状の回復が見られませんもんね。……正直、私も怖いです」
「他の精霊とはまた違った恐ろしさよね……。今までの精霊は物理的に被害を出していたって言うのに、〈アビス〉は内側から被害を出してくる。例えるなら、そうね……他の精霊は相手自身に恐怖を直接植え付けてくるのに対し、〈アビス〉は周囲に恐怖を伝染させていく感じかしら? 一人が症状にかかれば周りにその不安やら何やらが広がっていく……そんなところかしら?そのせいで、確かもうすぐ総合危険度が更新されるそうだし」
「え? そうだったんですか? どのぐらい上がるんでしょう……」
「えっと……隊長の話を盗み聞きした分には、噂に聞く〈ナイトメア〉と同ランクまで上がるかもしれないって言ってたわ」
「えぇ!? ナ、〈ナイトメア〉!? それって総合危険度Sの最悪の精霊って言われてる精霊の事ですか!? さ、流石にそれは上げ過ぎではありませんか?」
「そうでもないわよ。現状を見ればそう言っても過言じゃない状況なんだから。何せ空間震じゃなく、自身の力を持って人に直接被害を出すほど危険な精霊なのよ? 今はAST内でしか被害は確認されてないけど……今回みたいに空間震が起きない状態で現界していたら?もしそうだったとしたら……知らないところで〈アビス〉によって、次々と一般人が昏睡状態に陥るかもしれないのよ?もしかしたら、もう既に発症している人がいるかもしれない」
「そ、そう言われてみると確かに。……もしもですが、〈アビス〉が見境なく一般人を眠らせたら……」
「確実に最優先討伐対象になるでしょうね。治療法があればもう少し低かったかもしれないけど……今のところ完治する見込みは見られないもの……」
これは……マジなのか?
え? ナニソレコワイ。ようは何か? 俺の目を見たら発狂して昏睡状態になるってか? 俺はどこの神話生物だよおい……
てかそんな力使った覚えないんだけど? もうすぐで一カ月ってことは最初の接触からってことだよな? そん時に使ったのは【
それに、もしその力が〈
……俺の知らない力?
それとも本来の力が漏れ出てるのか? ……どちらにしても不味いな
別に俺は自由気ままにやりたいように過ごしたいとは思っているぞ? でも、だからと言ってわざわざ敵を増やすようなことをする気はない。付き纏われてもめんどくさいし、命狙われんのも普通に考えて嫌に決まってる
これは後で〈
とりあえず目に関しては後で考えよう。だからと言って先延ばしする気もないけどよ
だってこのままだと、下手したらおじちゃんを文字通りの深い眠りにつかせちゃうかもしれないし、十香や主人公クンの事も運が悪いと……
——え? なんでおじちゃんが最初に出てくるんだって? 銭湯が無くなったら俺のリフレッシュ場所が無くなっちまうからだよ。世話にもなってるしな
それに十香と主人公クンは、何か大丈夫そうだしね。十香は精霊だし、主人公クンは……主人公だし!! ギャルゲーの主人公だけど
俺が自身の力の事を考えている間も、彼女達の会話は続いていく
――そこで、聞き逃せない言葉が俺の耳に入るのだった
「まぁそれは今は置いておきましょ? 早く配置に着かないと、また隊長にどやされるわ」
「そうですね。もう少し先でしたよね?
……今、何て言ったコイツ等?
狙撃? それってスナイプ的な意味のあれだよな?
そんでもって、彼女達は精霊の反応があったからやってきたわけで……彼女達は精霊を襲うわけであって
それはつまり――
「どうせ鳶一に任されるんだろうし、私等が行く必要はないと思うんだけどねぇ……」
「狙撃が失敗した時のために、現場に待機しておくのは基本ですよ? それに今は霊装が纏っていないそうですし、もしかしたら〈プリンセス〉を――」
ドサッ……
そこから彼女達、AST隊員達の言葉が紡がれることは無かった
今まで声が聞こえていた場所には……瞳から光を失い、地に崩れ落ちた少女が二人、そこに横たわっているだけである
それをやった張本人、千歳は二人の様子を見て言葉を漏らす
「……うわぁ、マジで今の話本当だったのかよ」
先程彼女達が話し合っていた千歳の瞳、それの真偽を確かめるべく千歳は彼女達と接触した。……相手は千歳に気づく前に意識を闇へと沈めたのだが
千歳が取った行動は単純だ。ただ二人の目の前に転移しただけ
ただし、前髪を横に逸らして自身の瞳がはっきりと相手に見える状態で、だ
その状態で、千歳は二人の隊員の目の前に転移した。……彼女達と向き会う形で
その唐突な千歳の行動に、彼女達が瞬時に反応することは……気づくことは出来なかった
抗う暇など無い。気づいたら……いや、いつの間にかに『ソレ』はあったのだろう。最早自分達が先程まで畏怖していた症状にかかったことも気づけず、彼女達は闇へと意識を沈めて行った……
千歳は二人に歩み寄って症状を伺う
地に伏し力無く横たえるその二人の姿は……最早人形同然だったと千歳は後に語る
彼女達からは表情が抜け落ち、呼吸以外の動きを見せない
頬を叩いてみても、耳を引っ張ってみても、脇をくすぐってみたとしても彼女達は無反応
これは本当に生きているのか? と疑いたくなるような姿。精巧に作られた人形だと言われた方がまだ信じられる
そんな姿を前に、ここで千歳は事の深刻さを理解するのだった
そして、その力の一端を自覚した千歳は……理解する
――あぁ……これはダメだ——
その”二つの人形”を見たことで、千歳は己が力を——”本質”を理解する
常識を持つ一般人であれば、今目の前で昏睡する二人を見て良い気持ちになることはない筈だ。道端で倒れているのと同意義でもある為、普通だったら慌てふためくことだろう
――しかし、千歳はそれに当てはまらない
何せ感じてしまったのだから。……思い至ってしまったのだから
そう、これが……これこそが千歳の――
「……はぁ、知りたくなかった」
千歳は今後の事を考える。これからの自分の立ち位置をどうしようかと頭を悩める
この時、千歳は最早人と積極的に関わる気など何処かに消え失せていた
今までは前髪を伸ばしていたからこそ問題にはならなかったのかもしれない。だがそんなものは運が良かっただけに過ぎず、根本的な解決方法には至っていない、至らない
もし何かしらの事で前髪がめくれたら? もしそれが大勢の人の周りで起きたら? もしそれが……大切に思う人達に起きてしまったら?
別に今すぐにでも周囲から距離を置こうと考えている訳ではない。——ただし、何も知らない一般人を撒き込むぐらいなら距離を置くことも考えなければいけない
千歳は巻き込みたくないのだ……
不安は止めどなく溢れ出でる
暗く、黒い感情が、千歳の心を汚していく……
もう千歳は何も考えたくなかった
気持ち悪い。”この感情”が自分の本質だったことに吐き気がする
――しかし、それを否定できない自分がいる
この感情を持ってこそ、自分は自分なのだと理解させられる
——歪み狂った、千歳と言う人間を……
否定したい、だが否定できない。否定したくとも、それは変わりようのない事実だった
仮にもし、誰かがこの感情を否定してくれたとしよう
きっと千歳は、その自分の間違いを否定してくれる言葉に嬉しさを感じるだろう。……それと同時に、自分が否定されたことに対して怒りを覚えてしまう光景も浮かび上がってくる
——矛盾が交差する感情
——どちらが正しいのか、間違いなのか
——その答えに辿り着くのは…………まだ先の話であった
「――って、そうだった! 十香狙撃されかけてんじゃん!?」
俺は一旦考えるのをやめた
あのままいったら俺の何かが壊れそうな気がしたから……いや、確実に何かしら壊れていただろう
忘れよう……この感情は忘れるべきだ
そう考えた俺は、とりあえず目の事は後で何らかの対処をすることを決め、十香達の元に向かうのだった
さっきまで自分の世界で病み期突入しかけていたから忘れかけていたが、ふとしたきっかけで十香が狙われてることを思い出せたのでした
……十香には悪いけど、狙われててくれて助かったわ。おかげで切り止めることが出来たんだからな
「……十香を狙ったことに関しては気に入らないが……すまなかったな」
十香達の元に戻ろうと思った時、その時には既に俺は、この横たわる二人に謝罪を述べていた
十香を狙ったからこそこうなったんだと言いたいところだが……ここまでする必要は本来なかったんだ
それなのに、まるで実験台のような扱いをしてしまった。人を人として見ていないような扱いをしてしまった
だからこそ俺は、例え聞こえていないだろうとも……謝らずにはいられなかった
簡素に謝罪を告げた俺は、再び十香達の方に向かうよう普段は抑えている精霊としての身体能力を解き放ち、十香達の元に走り始めるのだった
――だが、ついた時には既に……終わっていた
十香は無事だ。傷一つ無い姿で佇んでいる
……血溜まりの中に倒れ伏す、先程まで十香と笑い合っていたであろう少年の傍で……
おや? チトセのようすが……
(残念ながら進化ではありません)
千歳さん病み期突入。ヤンデレではない
今回で千歳さんが【心蝕瞳】の事を知っちゃいました。果たして対応策をとれるのだろうか?
そして千歳さんの闇とは一体……?
とにかく反転フラグは立てて置こうかと思った回でした
……え? 早すぎる? 知ってる
哀れにも実験台にされてしまった二名には安らかなる眠りを(死んでません)
まぁこればかりは、千歳さんの前で十香ブッ殺発言をしてしまったのが運の尽きですね
……え? 盗み聞きされてるとは思わない? そりゃそうですね
結論。ドンマイ