俺が攻略対象とかありえねぇ……   作:メガネ愛好者

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どうも、メガネ愛好者です

お気に入りが1000人越えてる……私は夢でも見ているんですか?
これには読者様方に深い感謝を
この度は、このSSを読んでいただき、本当にありがとうございます……!

今回はフラクシナスからお送りいたします
一部過激(?)な表現があります。ご注意を

それでは


第三話 「変な奴ばかり? 知ってる」

 

 

 ——空中艦フラクシナスにて——

 

 

 「——全く、面倒な事になったものね」

 

 司令室の中央に鎮座する艦長席からその声が艦内に響く

 その椅子の肘掛に頬杖を突きながらモニターを見る中学生程の少女——五河琴里は口に含んだチュッパチャップスを器用に口の中で転がしながら、モニターに映る自分の義理の兄と今回の攻略目標、そして——

 

 「まさか十香が〈アビス〉と顔見知りだったなんて……しかも仲いいし」

 

 ——その二人の傍に映る一見地味な風貌の少女に視線を向けていた

 

 「ここで二人同時に攻略できれば万々歳なんでしょうけど……そうもいかないわよね」

 

 「……今のところ、十香の好感度は良好だ。しかし〈アビス〉……いや、千歳の方は先程から好感度に変化が見られない」

 

 琴里の言葉に、近くの席で端末を操作している女性——村雨令音が補足する形で答えた

 

 好感度。それは精霊の力を封印するために必要な条件の一つだった

 好感度が高い状態で、士道がその相手に『ある行為』をすることにより、どういった原理かはいまだ不明だが——精霊の力を封印することが出来るのだ

 これにより精霊はその超越した力を失い、普通の人間と同等の存在へと変化する

 その結果として、精霊は隣界することを——現界する事がなくなり、同時に引き起こる空間震もその姿を消すだろう

 また、精霊はその力の象徴たる天使や霊装の発現も不可能となる為、文字通り人間と同等の存在になると言えよう

 これによって精霊は、ASTなどの精霊を殲滅する者達から狙われなくなる筈だ。そして、そのために組織された者達——精霊を救済するために立ち上げられた組織こそがこの〈ラタトスク〉である

 

 

 

 そして今回現れた〈プリンセス〉——十香こそが、彼らにとって初となる戦争(デート)になる——筈だった

 

 

 

 「……加えて、先程から千歳が二人を置いてその場を離れようとする度に、十香の精神状態が不安定になるのを確認している」

 

 「つまり、十香を無事に攻略するには千歳が傍にいなければいけないってこと?」

 

 「……そうだ。もし千歳が二人の目の前に現れなければ、シンだけでも十香を攻略出来た可能性も十分にあっただろう。……最早後の祭りだがね」

 

 「タイミングが良いのか悪いのか……ホント、いろいろと面倒な奴ね。——まさか狙ってやったんじゃないでしょうね?」

 

 士道達がデートを決行するタイミングで、見計らったかのように千歳が現れたことに疑問を……いや、疑惑を浮かべる琴里

 そんな琴里に令音から言葉が上がった

 

 「……それは無いだろう。彼女自身、二人のデートの邪魔をしないようにと先程から行動を見せている。今では離れる方が逆効果と思ったのか、二人から離れることを諦めたようだ。その上でシンのサポートまでしてくれている……」

 

 千歳からすれば十香の機嫌を損ねたくなかったが故の行動だったのだが、琴里達からすれば、今の千歳の行動に功を奏している

 何せ、千歳が十香の機嫌など関係無しに離れでもすれば、おそらく今回の戦争(デート)は失敗に終わる可能性が高かったからだ。それほどまでに、千歳という存在は十香にとって大事な存在なのだろうか?

 琴里の疑惑に異を唱えた令音が、琴里に自分の考えを語りながら千歳がサポートしている風景を見ようと、再びモニター越しの三人に視界を送る

 

 

 

 そこにはゲームセンターで十香と士道が二人で協力し、クレーンゲームの景品を手に入れようと奮闘する姿。そして——

 

 

 

 「…………………………」

 

 

 

 ——その近くのクレーンゲームで大量の五百円玉をコインゲーム用のカップに入れ、鬼気迫る表情——前髪で口元しか見えていないが、その見えている口を苦虫を噛み潰したかのように大きく歪めながらクレーンを操作している千歳の姿があった。……よく見ると少し体が震えているように見受けられる

 

 「……サポート?」

 

 「……」

 

 「えっと……二人きりにすると言う点ではサポートをしているかと」

 

 モニターに映る光景に琴里が疑問の声を投げかけるのだが、令音は黙り込んでしまった。そこで、琴里の傍に佇む長髪の男性——神無月恭平が、令音のフォローのつもりか補足する。確かに神無月が言ったことは間違ってはいないかもしれないが……

 

 「明らかに自分の世界に没頭してるだけよね? 後、あの大量の五百円玉はどっから出したのよ」

 

 「……明らかに持っている財布に入る容量を超えているね」

 

 「少なくとも、見た限り数十万円程はあるのではないでしょうか?」

 

 三人の疑問は最もだ。何せ千歳の近くに置いてあるコイン用のカップなのだが……容器に満タンの状態で五つもあるのだ。しかもその中身がどれも五百円、明らかに数万単位の価値がそこにあった

 だが、その大量の五百円玉を消費しても尚、未だに目的の物を手に入れられていない千歳だった

 

 五百円玉を投入口に入れる。五百円玉のため三回の挑戦権が得られる千歳はゲームに挑戦する——

 

 ——失敗

 

 再度挑戦——失敗

 

 またもや挑戦——失敗

 

 挑戦権が無くなったため、再び五百円玉が投入される。……その悪循環が続く

 

 ……失敗……失敗……失敗……投入……失敗……失敗……失敗……投入……失敗……失敗……失敗……投入……失敗……失敗……失敗……投入……失敗……失敗……失敗……

 

 『くそぅ……ぐすっ……絶対取ってやる……っ……絶対ッ……ずずっ……ぅぅ………絶対取ってやるぅ……』

 

 『………』

 

 最早三人……いや、司令室にいるクルーも含め全員が、徐々に五百円玉が消えていく光景をただただ眺めることしか出来ないでいた

 

 ——勿論のことながら、未だに持ちあがる気配が無い景品を恨みがましく見つめる千歳の精神状態は不安定になっているが、最早今更である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それにしても……解せないわね」

 

 いち早く気持ちを立て直した琴里が、周囲に聞こえるように呟いた

 それを耳にし、各々が自らに課せられた役割に集中し直す中、令音だけが琴里に先ほどの呟きに反応する

 令音は琴里は言いたいことを予測し、画面上に映り出されている千歳を見ながら答えるのだった

 

 「……それは、未だに彼女から()()()()()()()()()()()()()かな?」

 

 「当たりよ。令音」

 

 そう。令音が言った通り、現状の千歳からは霊力の反応が全く感知されないのだ

 

 「最初の現界時から少しの間は馬鹿みたいな霊力が溢れていたって言うのにね。ASTと対峙した頃にはそのなりも潜め……今では全く感知されないと来た。——一体何をしたの? あの精霊は。本当にあの時の精霊なのかと疑うレベルよ?」

 

 「現状、不可思議な霊力の原因はわかっていません。ですが、彼女からは不規則に霊力反応が現れるのを確認しました。その霊力の質を照らし合わせた結果、間違いなく彼女は〈アビス〉と断定出来るでしょう。現界時の姿とも酷似していますから信用性は高まります」

 

 千歳の謎に頭を悩ませる琴里。そこに補足された神無月の証言で余計に謎が深まり、つい溜息をついてしまう琴里だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、琴里は表情には出さないものの……千歳に対して焦りを抱いていた

 彼女達が焦る理由。それは——千歳には下手なアプローチが出来ないことだった。性格的にも、危険性的にも……

 

 千歳に対しては慎重に攻略を進めなければいけない……それが司令室にて話し合って出した結論だった

 今モニターで見た限りでわかった彼女の印象は、普通の少女のようでいて何処か個性的な精霊だ。あえて悪く言うのであれば……異質なのだ、彼女は

 そのなかなか見られない言動にこちらの常識が当てはまる例が少ない。そのため、機嫌を損なわないよう慎重にならざるを得ないのだ

 攻略すると言っても、まずは士道の安全が最優先だ。何せ彼がいなければこの組織は成り立たないのだから

 よって、どういった対応をすれば士道の身の安全を保ちつつ、彼女を攻略していけるのかを考えなければいけない。——しかしその答えは未だ出せずにいた

 

 何故そこまで千歳を警戒するのか? それは彼女が宿す力が問題だ

 その問題の力と言うのが——

 

 

 

 「どうしたものかしらね……”【心蝕瞳(イロウシェン)】”の危険性が無ければ、まだいろいろと試せる可能性はあったのでしょうけど……」

 

 

 

 あの能力——【心蝕瞳(イロウシェン)】の事だった

 

 

 

 ——【心蝕瞳(イロウシェン)】——

 それは彼女の瞳を見たものが高確率で発症する催眠能力に与えられた名称だ

 現在はまだ両手で数えられるほどの被害しか生んでいないものの、今後増え続ける可能性は大いにある

 その力を自身の欲望のままに使うのであれば彼女の事を危険視していたところだが……今の千歳の様子を見る限り、無暗に人を襲うような精霊ではないのではないかと考えてしまう。だからこそ、彼女は無意識化で力を行使しているのではないかという疑問が浮かび上がってきたのだ

 もし本当に彼女が意図せずして行っていた場合、それに気づいた時の彼女はどういった反応を示すであろうか? 下手をすれば、精神が不安定になり力が暴走するかもしれない

 ——まぁ、完全に千歳を信じ切っているという訳でもないのだが

 

 信用出来ない理由、それは千歳の行動原理がいまだにつかめないからだ

 彼女は一体何がしたいのか? まずそれがわからない限り、琴里が千歳を信用することは無いだろう。寧ろ疑惑を抱いてしまう程だ

 もしかしたら今の彼女の言動は全てブラフなのかもしれない。【心蝕瞳(イロウシェン)】を故意に発動しているのかもしれない……そのような疑いが頭をよぎってしまうのだ

 そしてもし、彼女が自分の意思で能力を行使していた場合、間違いなく彼女の危険度は跳ね上がることだろう。それこそ最悪の精霊と呼ばれる〈ナイトメア〉と並び立つ程の危険度となる筈だ

 当段階の彼女の総合危険度はB。攻撃してくる気配を一切見せず、同じ危険度である〈ハーミット〉と同様にただ逃げ回るだけの存在だ。まぁ、ASTもまだ一度しか遭遇したことがないのだが

 

 しかし、その初接触の最後に見せた【心蝕瞳(イロウシェン)】による強力な催眠能力が、その総合危険度を跳ね上げようとしている

 

 発症当時はただの催眠能力だと判断し、時間が経過すれば回復するだろうと予測していたASTだったが……千歳の現界からもうニ十日以上経っている現状で、未だに目覚めない者、再び昏睡する者、復帰しても思考が覚束無い者と、確実に症状は蔓延っている

 

 おそらく……いや、このままでは〈アビス〉の危険度は確実に上がる

 

 故に〈ラタトスク〉としては彼女を早い段階で精霊としての力を封印したいところなのだ

 精霊の力さえ封印してしまえば、確実と言っても良い可能性で【心蝕瞳(イロウシェン)】をも封じることが出来るだろう。今症状に犯されている者の安否はともかく、これ以上増えることは無い筈だ

 

 だからこそ、〈ラタトスク〉としては一刻も早く〈アビス〉を封印したいのだ。他の精霊を後回しにしたとしても……

 

 

 だが、思惑とはそう簡単には叶わないものである

 

 

 精霊と言えど人と同じ心を持っている……恋愛観における自分好みの感情を持ち合わせているのだ

 士道を好くかどうかなど、士道の対応次第で多種多様に変わり、千歳の気持ち次第で千差万別へと変わるだろう

 それをフォローし、精霊を攻略するのが琴里達の役目だが……現状、それはまだ簡単にはなし得ない難題となっていた

 

 

 まだ彼女を攻略するには……判断材料が、彼女の情報が足りていない

 

 

 「仕方ないわ、今は一旦彼女の事は置いておきましょう。まずは十香からよ」

 

 「……ふむ、それが最善だろう」

 

 とにかく今は、好感度がもうすぐで目標達成値となる十香を先に封印することを優先する琴里達であった

 

 

 どうやって霊力を隠しているのか、どうして霊力を隠しているのか、そもそも天使はどういった力なのか……

 それは、その全てが未だ謎に包まれている警戒攻略対象の千歳にしか知りえはしないのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「——それはそうと、今はどんな状況?」

 

 一旦千歳のことを考えることをやめた琴里は、十香達の状況を探るべくモニターに視線を送る

 そこにはゲームセンターから外に出て、次の目的地に向かう三人の姿があった。……一名、駄々をこねるかのように出ることを拒んでいたが、二人の説得に渋々納得した一名は名残惜しそうにその場を後にするのであった

 

 「ホント彼女の行動原理が読めないわ……」

 

 「青年のような堂々とした姿を見せるときもあれば、少女のような弱々しい姿も見せる……何やらいろいろと混ざったような子だね」

 

 「なかなかに個性的ですね。ですが……一言よろしいでしょうか?」

 

 「何よ神無月? 何か良い案でも湧いたわけ?」

 

 一人の少女に対して考察する琴里と令音

 そこに、神無月が真剣な表情でその少女を見据えながら発言の許可を得ようと琴里に投げかけた

 そんな神無月に怪訝そうにだが、とりあえず発言を許した琴里に……神無月は語るのだった

 

 

 

 

 

 「では…………彼女は素晴らしい素質を持っています」

 

 「……はぁ?」

 

 「男性の強さを持ち得ながら、女性の弱さを持ち得ている……それはつまりッ!! 彼女は男女のSM間を両立して持ち得ている可能性があるということですッ!!! 男性の女性を服従させたいという欲望!! 女性の男性に服従されたいという願望!! その両方の感情が同居する心には二つの趣向が隠されていること間違い無しッ!!! 相手を屈服させたいというサディスティッッック!!! 相手に支配されたいというマゾヒスティッッック!!! それ即ち!! どんな状況下でも自分の立場を変えられ快楽に享受できる天性の才能持っている事は確定的明らかあああッ!!! 時にはその前髪の隙間から除く冷酷な双眸は相手の被虐心をそそり!! 時にはその地味さ故に自身のか弱さを演出!! それにより相手の嗜虐を滾らせる!! そんな相反する感情をどちらからも引き出す可能性を秘めた可能性の体現者こそ彼女であると私は確信いたしましたッッッ!!! 私としては是非ともこの身に宿る被虐心を引き出し弄んでもらいたい所存で——」

 

 

  ——パチンッ

 

 

 「——へ?」

 

 神無月が最後まで語り終える前に、琴里は指を鳴らした

 その直後、神無月の背後から筋骨隆々の男性二名が現れ、神無月の両腕をそれぞれ拘束する

 その光景を一瞥せずに……琴里は告げるのだった

 

 「連れていきなさい」

 

 「司令ぇええええええええええええええええええ!!!!!御慈悲をおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 足を引きずるようにして連れていかれる神無月の、悲痛な叫びが艦内に木霊する。だがそれに対し、誰一人として気にする素振りを見せることは無かったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「令音。士道達は次に何処に進むか予測できる?」

 

 「……現在の位置から察するに——」

 

 何事も無かったかのように再開される二人の会話に、周囲はいつもながら、その切り替えの速さに感服している。……他の人からすれば、司令室にいる者全員が十分に切り替えが速いと思うであろうが……

 令音は手元の端末を操作する。そして、今までの行動パターン、進路状況、予測経路から分析し、一つの答えを導き出した。この間十数秒。かなり早い

 その令音が導き出した予測場所は……

 

 

 

 

 

 「——ふむ、ドリームランドだ」

 

 「チャンネルを変えてちょうだい」

 

 所謂、愛を深め合うためのホテルだった

 

 本来なら千歳が同行するにあたり、行動の選択肢から除外していたようだが……何故か士道達の足取りはそこに向かっていた

 不審に思った琴里が急いでモニター越しに三人を見る。そこに映されていたものは……

 

 

 

 ——ドリームランド完全無料ペアチケットを握りしめ、大喜びで向かう十香の姿と、それに付いて行く二人の姿だった

 

 

 

 「これは一体どういうこと? 千歳が同行したことを確認した辺りでこのイベントは選択肢から外していたはずよ? そもそもなんで十香がペアチケットを——」

 

 そこまで呟きながら考えた琴里は、あることに気付いた

 ——ペアチケットを与える役割だった者は誰だ? と

 それに気づけばもう後は問い詰めるだけだ。その役割を担った者に

 

 「——幹本ッ! 貴方ちゃんと回収したんでしょうね!?」

 

 琴里は現在司令室から席を外し、現地で士道達のフォローを担っている筈の一人であるクルーを思い出す

 元々士道と十香の二人だけのデートだった場合に、イベントとしてペアチケットを自然な形で渡す役割を担っていた者がいたのだ

 その人物——〈社長(シャチョサン)〉こと幹本にどういうことか問い正すため、モニターを一旦そちらに繋げるのであった

 

 だが、繋がったモニターの先には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「——————」

 

 力無く椅子に座る、中年のサラリーマン風(・・・・・・・・・・)の男が魂でも抜かれたかのように真っ白に燃え尽きていた。……そのみすぼらしい頭髪を露見させながら

 ……どうやら抜けたのは魂ではないようだ

 

 「駄目です司令! 数日前の一件に未だ心が修復されていません!!」

 

 「それでもあらかじめ決められていた役割を完遂させたというのでしょうか?」

 

 「あんなにも心に傷を負っていたって言うのに……アンタすげーよ……っ!」

 

 「彼には敬意を払わなければいけませんね。彼こそが支援部隊のMVPであるのは間違いありません!」

 

 そんな幹本に対し、周囲のクルーから次々に声が上がった

 どうやら幹本は、何が原因かは知らぬが心に大きな傷を負っていたようだ。……何が原因かは知らぬが

 だが、その半壊した精神状態でも尚、自分の役割を果たしたその姿に司令室にいるクルーから称賛の声が上がるのだった。……それが今回裏目に出たが

 

 「忘れてた……幹本の精神状態は予め確認していたって言うのに……」

 

 「……琴里」

 

 「……何よ令音」

 

 「……とりあえず、だ。あのままでいいのかい?」

 

 「え? ——あ」

 

 琴里が己のミスに頭を抱えていると、令音から声が掛かる

 今更だが、現状を忘れないでほしい。——士道達の現状を

 

 琴里が令音の言葉に顔をあげ、モニターの先に視線を送って……思い出す。今はそれどころではなかったことに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モニターの先に映るのは、西洋風の小さなお城のような外見のホテルの前に佇む三人の姿だった

 

 一人はその場所が何を意味するのかを察し、滝のような汗を流し始める

 一人はその場所が何なのかは知らないが、城と言う外見に心を躍らせ期待の眼差しを向けている

 一人はその場所が何なのかを理解し、免疫が無いのか羞恥に顔を真っ赤に染めている

 

 

 十香はまだ大丈夫だった。寧ろその外見を気に入っているのか好感度は未だ良好

 ——だが、千歳の方の精神状態が……酷く荒れた

 

 

 『——ッ! なんつー場所に連れて来てんだゴラァ!!!』

 

 『ちょっ!? 俺は悪く——ゴファ!?』

 

 『なっ!? いきなりシドーに何をするのだチトセ!! いくらチトセでも許さんぞ!!』

 

 『待ッ——! 十香落ちつ——ふげっ!?』

 

 『あっ、す、すまないシドー!! 大丈夫か!?』

 

 『おい今の結構いいところに入ったぞ!? すげー勢いで首が曲がって——ッ!?』

 

 『シドー!? 返事をしろシドー!! シドオオオオオオオオオ!!!!!』

 

 

 千歳から理不尽な理由でヤクザキックをくらい、地に平れ伏す士道

 追い打ちの如く、シドーを蹴った千歳に憤慨した十香が駆け寄ってきた勢いを乗せた蹴り込みが、運悪く頭を持ち上げた士道の首に直撃した。その時の何かが折れたような嫌な音と共に、士道は再び地に平れ伏すのだった

 そんなピクリとも動かない士道に、不安げに近寄る十香と千歳の精神状態が一気に揺らいでいく。それはもう急激に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……琴里、どうする?」

 

 「……………あめうまー」

 

 「頼むから琴里は平静でいてくれ」

 

 フラクシナス内に静かに響く令音の声は……何処か悲壮感漂うものがあった。——気がする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——そんな状況だからこそ、琴里を含めたフラクシナスのクルー達は見逃してしまっていた

 一瞬だけモニターに映った……明らかなる敵意を瞳に宿した白髪の少女の事を——

 

 




フフフ……一体、いつ私があのシーンまで行くと言ったかね?

……はい、すいません
でも一応士道君は死にましたよ?精霊キックで首の骨が粉砕・玉砕・大喝采!されたので
まぁ少ししたら復活しますがね

多分今回の話で、一番頑張り、書いてて楽しかったのは間違いなく神無月さんのところでしょう
神無月さんイイですよね!声優が子安さんってのがこれまた何とも……
とりあえずお気に召されたら何よりです

次回、士道再度死ス

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