俺が攻略対象とかありえねぇ……   作:メガネ愛好者

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どうも、メガネ愛好者です

今回は要望があったため、後半から三人称視点で書いてみました
……なってますかね?三人称。ちょっと自信ないかもです……

それでは


第二話 「俺がお邪魔虫? 知ってる……」

 

 

 ——どうしてこうなった……?

 

 

 「おーい! 十香! あんまり先に行きすぎるなよ!」

 

 

 ——何をどうしたらこんな状況になるってんだ?

 

 

 「シドー! あれはなんだ!? 何やら不思議な格好をしているぞ!?」

 

 

 ——俺は十香が心配になっただけなんだ……

 

 

 「あれは……気にするな。気にしちゃいけないものだ」

 

 

 ——それなのに、なんで……なんで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そうなのか? むぅ……()()()()()()()()()()()

 

 「知らない……知りたくない……帰りたい……」

 

 

 

 ——なんでカップルのデートに同伴しなきゃいけねーんだよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の始まりとしては、結局眠れずに一夜を過ごした今朝に遡る

 

 まぁ眠い眠いとは言っていたものの、精霊になったからか眠らなくても全然大丈夫みたいなんだけどさ。実際に今の俺のコンディションはパーフェクトだし

 ——ただし、前世の俺の昼寝癖が治っていないからか眠りたいという衝動はある。最早習慣となっていたもの故に眠いと錯覚してるのかな?

 

 ……まぁそれは置いておくとして、俺は先程の十香との会話で気になっていることがあるんだ。どうにも自分の目で確かめたくて居ても立っても居られない……そんな衝動が俺の心に燻っている

 

 

 その心とはズバリ——”十香の言うシドーとやらは良い奴なのか?”——というものだ

 

 

 いやさ? あそこまで無知すぎる十香の(多分)彼氏が一体どんな奴なのか気になってしょうがねーんよ

 十香の反応を見る限りでは大丈夫そうにも思えるのだが……言っちゃあ悪いが十香だぞ? もしかしたら騙されてるが故の反応かもしれないんだ。素なのかどうかはわからないが、後半の十香の様子からは本当にそうなのかと不安しか感じられないしね

 それに、最早関わってしまった以上は十香に降りかかる不幸を避けたいのです。せっかく暗い表情から明るくなったんだ、十香にはそのままの君でいてほしい

 何よりも……あんな純粋そうな娘の辛そうな顔なんて見たくねーからな

 だからこそ、もしシドーとやらが十香を騙してるような奴だったとしたら――

 

 

 

 ——ムッコロス

 

 

 

 オレァクサムヲムッコロス!! ゼッザィニア!! カクグゥヒオディドゥー!!!

 

 翻訳→「俺は貴様をぶっ殺す!! 絶対にだ!! 覚悟しろシドー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな訳で俺は十香の後を追う事にした

 決してストーカーなどではない。これは純粋に十香が心配で、相手の男を見張るためにそれとなく監視するだけなのです。いい雰囲気だったら邪魔する気ないしな

 俺はいつものパーカーにズボンを着て目的地に向かうことにする。……おっと、フードかぶってたら怪しさ満点だな。何か深めにかぶれる帽子でもかぶっていこう

 俺は広告からいい感じのものを探し出す。派手なのは論外、地味なのでいいのです

 そして見つけたのが焦げ茶色のハンチングキャップだった。いい感じに地味だぜ。デザインも俺好みだし

 早速顕現させてハンチングキャップを着用する。サイズは少し大きいけどそれでいいのだ。ブカブカゆったり大好きですんで気に入りました

 

 それにしても……あれだな

 顕現とか転移とかが便利すぎて〈心蝕霊廟(イロウエル)〉を常時呼び出し状態にしてるからか、何やら〈心蝕霊廟(イロウエル)〉の腕輪が俺の手に一体化しているような……てかもう体の一部みたいな感じで気にならなさ過ぎてきたわ。お風呂とか入るときにようやく〈心蝕霊廟(イロウエル)〉を出したままだったことに気付くぐらいには影が薄いよな、お前

 

 ……なんか〈心蝕霊廟(イロウエル)〉の輝きが小さくなった気がする。落ち込んだのかな? ごめんごめん

 

 そして俺は目的地の来禅高校に足を運ぶ——いや、転移しよう。そっちの方が早い

 

 何故来禅高校なのかと言うと……勘だ。確証なんざありはしねーさ

 まぁ少しは考えがあってのことだけどね。昨日、空間震が起きた場所がここだから、もしもお互いの所在を知らない場合はここで待ち合わせするんじゃねーかなって思ったんだよ

 十香の雰囲気から察し、おそらく二人はこの来禅高校で再開かしたんだろう。なら再び出会うにはそこに足を運ぶのが有力というものだ

 

 俺は来禅高校の近くの物陰まで〈心蝕霊廟(イロウエル)〉—【(ビナス)】で短距離間連続空間転移を繰り返してスタンバる。これで後は待つだけ——え? 技名にルビがついてるって? 知ってる

 ようやく技名にルビが振られました。どうかなカッコイイ?

 因みに後の二つも決めてあるぜ? 【(コクマス)】と【(イェソス)】だ。どういった意味かは……あれだ、なんとなく頭に浮かんだ名前だったってだけで深い理由はないです、はい

 

 まぁ今は別にそんなことを気にするときでもないから後回しにして、早速張り込みとしゃれこもうじゃないか!

 だからと言って壁越しに頭だけ出して様子見とか、そんな素人丸出しのことはしないぜ? こんなこともあろうかと尾行スキルは前世の時に上げておいたのさ!!

 弟や妹に害虫が近寄らないようにと影ながら監視するためにね……ククク、抜かりはねぇぜ?

 

 更に、今回俺は手に本格的なカメラを持参した。(盗ひ——借り物だ) ハンチングキャップなど、それっぽい姿も相まってカメラマンに見えなくもないだろう。多分

 ある程度離れた距離で半壊した校舎や、近くにある物珍しいものをカメラに捉えながら十香達が来るか様子を伺う。撮った写真は俺の転移先や、顕現する物の媒介ともなるから一石二鳥だ

 

 

 

 

 

 そうこうしてのんびりとカメラのシャッターを切っていると、校門の前に一人の男子生徒が現れる。その少年は崩れた校舎を眺めているんだが……

 

 ——あれ? あの時の少年じゃね?

 

 俺は少し唖然としてしまう。まさかこんなところで出会うとは……まぁ相手はこっちに気づいてないけどさ

 てかこうして見てみると結構顔立ちとしては整ってるな。イケメンってわけではないけどブサメンでもない、中性的な顔立ちだ

 まるでギャルゲーの主人公みたいな特徴だな。ははは! もしかして彼がシドーだったりしてな! それだったら十香としても運命的な出会いをした——

 

 「シドー」

 

 「……」

 

 「おい、シドー! 無視するな!」

 

 「——え? ……と、十香!?」

 

 

 

 ……マジかよ

 

 おいおいおいおい。マジですかシドー君よ? ガチのギャルゲー的展開じゃねーですか

 もうお前のあだ名、俺の中で「主人公クン」に決定な? 全く……運命に愛されてんなーおい

 

 そんな主人公クンと十香のやり取りを見ていると……なかなかにいい雰囲気だな。主人公クンも見た感じ誠実そうな奴だし、これなら二人の関係はうまく行きそうだ

 ……よかったじゃないか十香。素敵かどうかは知らんが、きっと当たりだぞ? そのシドー君って人は

 これなら後は主人公クンに任せられるな。彼なら十香を悪いようにはしないだろ

 

 ふぃ~。これで俺の心配事は無くなったよ

 なんか安心したからかお腹空いてきたわ。せっかくだしこれからグルメツアーに——

 

 

 「——む? ……おぉ! チトセではないか!! 先程ぶりだな!!」

 

 「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ——ダッ!!

 

 

 「なっ、どうしたのだチトセ!?」

 

 俺は逃げだした。全力で

 

 いやだってさ……見つかったのはこの際仕方ないとして、多分これからデートなんだろ? この二人。なら俺はお邪魔虫ってやつじゃないか

 俺はただ十香の相手がどんな奴か知りたかっただけだ。性格に問題無いと分かったんだからこれ以上の藪蛇は無粋というもの

 二人のお楽しみタイムを邪魔する気は俺には無い。全く無い。断じて無い

 

 

 なのに………

 

 

 「なんで追いかけてくんだよおおおおお!!」

 

 「チトセが止まればいいだけではないか!! 何故逃げるのだ!?」

 

 「お前等の邪魔をしないために決まってんだろーがよ!? シドーとのデートなら俺は別に要らんだろうがあああああ!!!」

 

 「いいではないか!! チトセもいた方がきっと楽しいぞ!!」

 

 「カップルん中に他の女がいてもただの嫌な奴になるだけだし俺が落ち着かねーから!! だからもう追いかけてくんじゃねーよ馬鹿あああああ!!!」

 

 絶叫しながら逃げる俺に高速で追いかけてくる十香。くそっ、十香お前精霊の力も使ってるだろ!? 一歩一歩コンクリに穴を開けて迫りくるんじゃねーよ!! 周りの住人達が唖然として固まってんじゃねーか!! 追いかけてくるならちゃんと人間のポテンシャルで追いかけてきやがれ!! 力を抑えてる俺が馬鹿みて—じゃねーかよ!?

 

 頼むから……ッ! 頼むからお前は取り残された主人公クンの元に戻りやがれコンチクショーがあああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「紹介するぞシドー! この者はチトセといって、先程まで私の相談に乗ってくれた恩人だ!」

 

 ——はい、結局捕まりました。足はえーよ十香ちゃん

 ……とりあえず、自己紹介はしておくか

 

 「どうも……ぐすっ…………千歳です……ずぴっ、うぅ……」

 

 「お、おう。俺は五河士道だ。……大丈夫か?」

 

 今の状況を見て「大丈夫か?」——とな? 正気かね主人公クン?

 十香が俺の胴回りに腕を回して肩に担がれてる状態でドナドナされてきたんだぞ? おまけにすすり泣いている女性を目の前にして大丈夫かと聞くか?

 ——泣いてねーし

 

 「グスッ……十香、下ろして。もう逃げないから」

 

 「……約束だぞ?」

 

 うぐ、放した瞬間【(ビナス)】で逃げようと考えてたのに逃げ道を塞いできやがったよこの子

 そんな悲しげな顔で頼まれたら逃げらんないじゃないのさ……狙ってないよね?

 とりあえず下ろしては貰えたけど、十香の信頼(してくれてるのかな?)を裏切るわけにもいかないし、しょうがないから様子を見ることにした

 その前に主人公クンに邪魔するつもりではなかった事だけでも伝えておくか。後は知らん

 

 「ごめんな主人公クン。せっかくの十香とのデートを邪魔しちゃって……俺はただ十香の様子が気になっただけだったんだよ」

 

 「(主人公クン……?)いや、気にするな。十香がいいなら問題は無いと思うぞ? ……あるとしてもこっちの問題だし」

 

 こっちの問題? なんだそりゃ

 主人公クンは小さく呟いた気でいるのかもしれんが、俺の聴力舐めんなよ?そんぐらいなら聞き取れるぞ?

 もしかして……何か企んでるんか? でも主人公クンからは人を騙すような雰囲気は感じられないし……誰かに命令されている? ……考えすぎか

 

 「シドー! では速くデェトとやらを始めよう! ……それでデェトとはなんだ?」

 

 とにかく今はこの後にやって来るであろう面倒事をどうするか考えるか。はぁ、めんどくせぇ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてここで冒頭に戻ります

 とりあえず一言

 

 あのさ……

 

 「この「ふらんくふると」とやらも旨いぞシドー!」

 

 「それにさっき貰ったケチャップとマスタードつけてみろ。味が変わるぞ」

 

 「そうなのかシドー? はむ……おぉ! 先程までとは全然違うぞ!! どうなっているのだ!?」

 

 「ほらほら落ち着いて食べろって」

 

 ホントにさ……これ、俺いらないだろ? めっさ場違いじゃん

 さっきから俺の心にチクチクと矢が刺さってきてるんだよ……「お前邪魔」って書かれた矢が容赦無く突き刺さってきてるんだよ……

 確かに俺もそう思うよ? 馬に蹴られても仕方ないと思うもん、今の俺

 それなのに、俺が帰ろうとした途端に十香が捨てられた子犬みたいな表情になるんだぜ? 俺にどうしろっていうんだよ

 もうなんかいろいろ諦めて死にたくなってくるなぁ……早く帰りたいよぅ

 十香が楽しそうなのは俺としても嬉しいさ。ただ俺は嬉しそうだってことだけ知って帰りたかったよ

 だから早くお家に帰してくださいませ十香様

 

 

 ……俺に帰る家無いやん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ————————————————————

      なう・ろーでぃんぐ……

   ————————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十香(ついでに千歳も同行)とのデート中、士道は頭を悩ませていた

 その悩ませている原因と言うのが……十香が連れてきた女の子、千歳という名の——精霊だった

 本来であれば、彼女とは()()()()()()()つもりだったようなのだが既に後の祭りと化している。きっとこの状況を〈フラクシナス〉の人達が確認してしまえば、士道と同様に頭を悩ませる事になるのは間違いない筈だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いい? 士道。最近その姿が確認された精霊……識別名〈アビス〉とは絶対に視線を合わせてはダメよ」

 

 「え? どういうことだ?」

 

 それは、士道が十香と初めて出会った日から数日——訓練と言えるかどうかわからない訓練を受けている最中の事だった

 士道は空中艦〈フラクシナス〉にて自身の義妹”五河琴里”から、その精霊〈アビス〉の危険性を教えられることになる

 

 〈フラクシナス〉のモニターに映るのは、特に目立った特徴も無い私服を着た少女の姿だった

 そんな少女に対し、そもそも精霊が複数いるとは思っていなかった士道は困惑したものだが……それ以上に、士道はこの子が精霊だとは思えずにいた

 見た限り何の変哲も無い普通の少女。十香の様な幻想的な雰囲気を纏っている訳でもない至って普通の女の子に見えたこともあって、士道が半信半疑になってしまうのは仕方がないことだろう

 しかしそれでは話が進まない。士道は本当に彼女が精霊なのかと琴里に確認を取るのだった

 

 「本当に精霊なのか?」

 

 「えぇ、間違いないわ。〈フラクシナス〉の観測機が彼女から膨大な霊力反応を観測したからね。……それこそ、士道が会った〈プリンセス〉以上の……ね?」

 

 「なっ!? それって——」

 

 「……〈プリンセス〉以上の力を秘めている可能性がある、ということだね。その上で最も危険なのが――」

 

 琴里の言葉に士道は驚愕の声を漏らす

 街のビルをもたやすく両断した精霊〈プリンセス〉。霊力が精霊の力の大小を示すのであれば、〈プリンセス〉以上の霊力を持つという彼女がその上を行く力を持つかもしれないと予想できることだろう。少なくとも、士道はその考えに至ったことで驚愕を露わにした訳である

 そんな士道に解析官である令音が補足を入れ、更なる危険性を明かし始める

 令音は自分の端末を操作し、次の映像へと切り替えた

 そこに映ったものは――

 

 「これ、は……」

 

 士道はその光景に絶句してしまう。その異様な光景に

 映された映像には〈アビス〉が一瞬にして姿を消した場面を。そして……一部のAST隊員が()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()が映されていた

 

 

 「ど、どうなってるんだ……? まさか——」

 

 「……解析したところ、彼女達は死んではいない」

 

 士道が最悪の結果を想像しかけたその時、令音からその考えを否定する回答が飛んでくる。それに士道は安心したように肩を下ろした

 ——だが、現実としてはそううまくはいかないようだ

 

 「……だが、未だこの症状を発症した彼女達は目覚めていない。未だに昏睡状態のようだ」

 

 「なっ!?」

 

 「そう。これが〈アビス〉を危険視する最大の理由よ」

 

 「……現状、この症状になってしまえば回復することはほぼ不可能だろう。当初、ただ単に眠らせるだけで好戦的な様子を見せなかったことにより、彼女自身の危険度はB程度に設定される筈だったが……今だに昏睡状態が続いている者が多い。おそらく……近いうちに危険度が更新されることだろう」

 

 「下手をすれば二度と目覚められないかもしれない……そんな状態にされたのだから当然ね。ずっと昏睡状態が続けば生命活動にも異常を来し始めるでしょうし、見方によっては安楽死させたように見受けられる。……どっちにしろ、危険なことには変わりないわ」

 

 「そんな……」

 

 事の深刻さに士道は動揺を隠せない。琴里と令音の深刻そうな表情を見れば、それが真実なのだと嫌でもわかってしまう故に

 そして、彼女達を昏睡させるその原因というのが——

 

 「……彼女の瞳だ」

 

 「瞳?」

 

 「……そうだ。ASTの情報をハッキングしてわかったことだが、倒れた隊員達の共通点が……彼女の正面に立っていた者達であり、尚且つ彼女の瞳を見た者達だからだ」

 

 「なんで瞳が原因だって分かったんですか? 見てしまったんだったらそれを知る人も寝ちまうんじゃ……」

 

 令音の説明に疑問を抱いた士道は、令音に聞き直すように問い掛ける

 何故瞳を見た者だと判断したのか? 見てしまえば眠りについてしまう以上、それを伝える者がいないはずだ。誰しもが気になる疑問だろう

 その問いに令音は淡々と事情を語り続ける

 

 「……実のところ、彼女の瞳を見て無事だった者が数名いるようだ。その彼女達の証言が……共通して、その瞳の事だった」

 

 「な、なんでその人達は無事だったんですか?」

 

 「——”抜け出せたから”だそうよ」

 

 再び令音に問い掛けようとした士道に琴里がいち早く答えを告げた。しかし、士道はその答えがどういう意味なのかがわからない

 抜け出せたから? 一体何に抜け出せたっていうんだ?

 そんな士道の疑問は、令音が再び端末を操作して映し出した次の映像——書き殴られた文章によって理解し始めることになる

 そこに書いてあったもの、それは——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——暗い、暗い、底へと沈む——

 

 ——辺りは一面、黒一色で——

 

 ——永遠に続く、闇の中に——

 

 ——私はどんどん、沈んでいった——

 

 ——何も掴めず、何も見えず――

 

 ——ただそこにあるのは……安らぎだった——

 

 ——心が安らぐ、癒される——

 

 ——幸福のみの、闇へと沈む——

 

 ——他には何もありはしない——

 

 ——脅かすモノなど何もない——

 

 ——ずっとこのまま、この闇に——

 

 ——委ねていたい、私の全てを——

 

 ——他にはいらない、この闇だけを——

 

 ——求めていたい、この安らぎだけを——

 

 ——そこには一切、ありはしない——

 

 

 

 

 ——この世に蔓延る……恐怖など——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なんだ……これ……」

 

 その文章は何処か不気味さを感じさせた

 

 それを言葉で例えるのなら……”牢獄”だろうか?

 

 一度入れば逃げ出せない。一度味わえば抜け出せない

 例え牢から抜け出せたとしても、その闇はズルズルと後を引く

 麻薬の様な依存性。体を蝕む浸透性

 

 

 ——蝕む。身も、心も、魂さえも——

 

 

 「……抜け出す事が出来た隊員の一人が書き綴ったもののようだ。寝ているときに何か見たか、どんな気分だったかを思いのままに書かせたものらしい。結果は……御覧の通りだ」

 

 「このことからASTは『深みに沈める者』——故に〈深淵(アビス)〉と名付けたそうよ。実に的を射ているとは思わない?」

 

 「……一部のASTの隊員は、今も尚彼女が見せる(魅せる)闇に蝕まれているのだろう。復帰した者も時間の経過によって再び昏睡した者もいるらしい。決して復帰したから安心だという保証はないようだ」

 

 「これが意図してやったことなのかはわからないわ。……だからこそ、気を付けなさい士道。アンタが闇に捕らわれたら文字通りのゲームオーバーなんだから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「千歳」

 

 「——んあ? なんだよ主人公クン。俺は気にしないで十香とデートしてろって。彼女なんだろ?」

 

 「いや彼女じゃ――」

 

 「おいコラ。まさか十香の事を弄んでんじゃ――」

 

 「違う違う! 俺は十香にこの世界のことを知ってもらおうとだな——」

 

 「なんかそこだけ聞くと、妄想過多に聞こえるよな。中二病か?」

 

 「違うからな!? 俺はもう中二病を拗らせてなんかいないから!!」

 

 「なんだつまんねーの」

 

 「いやつまらないって……」

 

 「はっはっは、冗談だよ。——んで? 何かようか?」

 

 「——え? あ、いや……なんでもない」

 

 「なんだよそれ。……まぁいいや、ほらほらお姫様が暇してんぞ~」

 

 千歳は前方で手を振っている十香の元へと士道を向かわせるように促している

 先程から彼女は、士道と十香の仲を上手くいかせようとする素振りを見せている。——自分はどうでもいいと言わんばかりに

 実際士道としても、十香と二人だけのデートだと思っていた為にこの状況は予想外だった。もしかしたら千歳がいることによって、十香とのデートがうまくいかないかもしれないと思ったが為に

 

 ——だが、実際のところは千歳がいても十香の機嫌は良好だった

 

 ここまで来ればもうわかる。十香は千歳に気を許していることを

 士道は彼女達がいつ出会ったのかを正確には知り得ない。だが、十香が気を許しているというのであれば……それでいいだろうと思った

 何せ、彼女を肯定してくれる存在が増えたのだから……

 

 

 

 そんな千歳に、士道は意を決して聞こうとした。——アレは意図してやったことなのかと

 

 だがそれは千歳の意図せぬ言葉に遮られたことで話を聞く機会を逃してしまう。まぁ、今思えばそれでよかったんじゃないかと思うのだが

 彼女が精霊だと知っている理由は琴里達から事前に知らされたからであって、千歳から直接聞いたわけではないのだ。ならばそれをいきなり聞いては警戒されてしまうのは必然である。下手をすれば敵意を向けてくるかもしれない

 しかし、それでも真実は知りたいという葛藤が士道の心に焦りを抱かせるのもまた事実。もしも故意に行っていることであれば……あまりにも危険な状況に立たされているということなのだから

 

 

 ——ただ

 

 

 「おーい! チトセも早く来るのだぞー!」

 

 「だからなんで……はぁ、もういいや」

 

 二人の様子を……千歳の様子を見ていると、千歳が意図してやったことには思えなかった

 面倒くさそうに十香の元に向かう彼女は……少し……少し? 個性的ではあるが、士道には普通の少女にしか見えなかったからだ

 歳相応の雰囲気を身に纏い、十香への対応も柔らかく、初体面である士道に対してもフランクに接してくる。——そのどれもが自然体だった

 そんな彼女が意図して人を不幸にさせるか? ——そうは思えない。不幸にさせているとしても、それは決して臨んだことではないはずだ

 

 

 

 だからこそ……士道は考えた。そして……決めたのだ

 

 

 

 ——もし自分の力でこの少女が苦しんでいるのであれば、全力を持ってその苦しみから救いたい……と

 

 

 

 士道は遠くで騒ぐ二人の元へと向かっていく。新たな決意を胸に秘め、目の先にいる彼女達を救う為に——

 

 




お節介が仇となって苦しむ千歳さんでした

そして意図せずして危険人物だった千歳さん。前髪切らなくてよかったですね
その髪が最後の防壁だ! ……まぁ風で揺れて見えてしまったらアウトなんですが……

……あれ? 封印時とか接近するから士道君危険じゃね?

次回……士道死ス

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