早速ですが、皆さんはデアラの画集を買いましたか? 私は買いました
買って損は無い筈です。何せ、とある一ページに……衝撃的なイラストが載っていたのですから……っ!
——あ、勿論最新刊やバレットも買いました。今回も大変面白かったです
バレットに関してはまた新しい作品を書きたいと思ったぐらいですからね。勿論題材はバレットです
……え? 他のに手を出す暇があったら続きかけって? ご、ごもっともです……
それでは
「——これが俺の知る全て。〈イフリート〉の……五河妹の情報だ」
「…………そう」
休憩を終えた後、俺は早々に白髪さん——もう鳶一でいいか。鳶一に五河妹のことを話した
五河妹が炎の精霊〈イフリート〉である事
精霊の力を使ったが為に、破壊衝動が浮き彫りになっている事
このままでは五河妹が衝動のままに暴れ出し、自我を失ってしまうかもしれないという事
そして——
「もしもお前が〈イフリート〉に復讐したいんなら……明日、栄部にあるオーシャンパークに来るといい。五河達と一緒に、五河妹もそこに行くからな」
——明日、五河妹が訪れるであろうオーシャンパークの話をするのだった
これによって明日、五河達は鳶一に襲われることになるかもしれない。——いや、彼女の復讐心がいまだ衰えていないのであれば、鳶一は五河妹に復讐する為に必ずオーシャンパークにやってくるはずだ
復讐の理由はわからない。鳶一が話してくれない以上、俺にわかる筈もない
しかし、鳶一の様子からして相当根深い恨みがあるだろう事はなんとなくわかった。例え俺が何をやったところでどうしようもないぐらいの事情がさ
だから俺は鳶一に復讐をやめさせようとは考えなかった
無駄だからだ。事情を知らない赤の他人の言葉に――それも復讐相手と同族である俺などの言葉に、鳶一が耳を傾けるとは到底思えないだろ? 下手にやめさせようとしたところで逆効果だろうしね
俺に鳶一の復讐をやめさせることなんか出来やしない。出来たとしても…………いや、
これは鳶一の問題であり、どうするのかを決めるのは鳶一なんだ。俺がそこに介入する道理はないし、必要もない
それなら俺はどうするべきなのか? 鳶一から五河妹に復讐すると聞かされた俺は、一体どう対応すべきなのだろうか……?
——簡単だ。鳶一に復讐させてやりゃあいい
下手に復讐心を心の内側に押し込めるんじゃない。そうするのならいっそのこと、外側に発散させてやればいいだろ
我慢なんてする必要は無い。復讐も一つの感情の表れなんだから、無理に感情を押し殺すなんて真似をする必要は無い
だから鳶一は……思いっきり
例え誰に何と言われようが、その心に抱いた感情は自分だけのものだ。いくら周りから正論を言われようが、そんなものは些事でしかない
己が感情のままに歩んでこその人生だ。思う存分……自分に素直になりゃあいいのさ
…………ただ、これだけは言わせてもらおうかな
「それとさっき言ったかもだけど、復讐するならするでその後の事も予め考えておくといいぞ。例えば、五河妹に復讐した後——”五河とどう関わっていけばいいか”とかさ」
「…………」
「お前にとって五河が大切な人であるのはわかってるつもり。——そんな大切の人の妹を襲うんだ。今までと同じ関係でいるなんて、そんな都合のいい話はそうそうないだろ」
「……わかっている」
今、鳶一が最も思い悩んでいるのはその事だろう
自身の想い人の妹が復讐対象だった。それを知った今の鳶一の心境は計り知れない感情の渦に考えがまとまらないのではなかろうか?
別の誰かの妹であればいざ知れず、自身が好意を向けている大切な人の家族なんだ。すぐにどうこう出来る程、気持ちの整理が追い付くはずもない
復讐する事で五河との関係はガラリと変わるだろう。五河妹に手を出すという事はそういう事なのだ
——しかし、それでも復讐したいのだろう。今の鳶一を見るに、復讐する事を前提で考えていそうだからな
だから今回の衝突は避けられるものではないのだろう
例え俺が隠したところで、彼女はASTなのだからいずれ知る事になるのは目に見えている。ASTの事だし、もしかしたら数日前の俺と五河妹の戦闘が映像として撮られてるかもしれない可能性もある。そう言ったところはちゃっかりしてるからなぁASTは
俺があえて五河妹の情報を口にしたのも、そういった事情と俺の知らぬ間に事が起きないようにするためだったりする。明日には五河妹の力が封印されるかもなんだし、そう考えると復讐するチャンスが明日に絞られるからな。精霊の力を持たない以上、流石に五河妹を襲うのは立場状不味いだろうしさ。……まさか問答無用ってことは…………ありそうで困る
とにもかくにも、復讐するかどうかで今後の道が決まるのだから、鳶一には後悔の無いよう深く考えてほしい。出来れば復讐しない方向に進めばいいけど……この様子だと望み薄だな
「……話す事も話したし、俺はそろそろ帰るよ。お前だっていつまでも精霊を自室に居座らせておくのは嫌だろうしな」
そう言って俺はここから立ち去ろうと玄関へと向かう。まぁ【
そうして俺が鳶一に背を向け、玄関のドアノブを握り締めたところで——
「待って」
「ん? まだ何かあるのか?」
「……一つだけ聞きたい」
——その場から動かずにいた鳶一に呼び止められた
話す事は話したと思っていたので、まさか呼び止められるとは思っていなかったかど……まぁいいか
俺は振り返り、鳶一を見る
鳶一は俺に背を向けたまま立ち尽くしている。その背中には……何処かもの悲しさを覚えた
そして鳶一は、こちらを向かないままに口を開いた
「貴方は……何故、私の話に応じた?」
あー……まぁ、そうだな。確かに不可解っちゃあ不可解か
別に話し合う必要は無かった。いつでも俺は逃げられた以上、態々ここに来る事もなかった
相手にする必要もなかった。だって鳶一は人間でASTだ、精霊である俺が馴れ合う必要なんて一切なかった
関わり合う必要なんて無かったんだ。——だけど
「……見てられなかった」
「——え?」
「最初は気まぐれだった。でも今は……お前の目的が復讐だってことを知ってからは、なんでか知らねーけど……ほっとけなかったんだよ」
気づけば俺は、微かに聞こえる程度の声量で呟いていた
正直に言って、俺自身……良くわかっていない
気まぐれの延長線。ただそうしたいからそうしただけなのかもしれない
…………いや、多分あれだ。あれを見てしまったから、俺はここまで鳶一に深入りしてるんだと思う
——あの時、鳶一が見せた涙を——
鳶一は無意識だったんだろうけど、俺はあれが……あの涙こそが鳶一の素の気持ちだったんじゃないかって思ったんだ
精霊を憎む復讐心と街を守ろうとする使命感。決してそれは年頃の少女が抱えるようなものではないし、抱えるには重すぎる
冷静沈着で才色兼備(?)の鳶一だって、言ってしまえば一人の人間だ、限度もあれば限界もある。先程俺を押し倒したのがいい例だ。鳶一にも我慢出来ない事があるんだ
そしてそれが——あの涙だった
堪えきれなかった。溜めに溜め続けた感情の波は、彼女の堅牢な心の壁に罅を入れるに十分だった
何がきっかけだったのかはわからない。しかし、あの瞬間にその罅から漏れ出した感情は……彼女の心に押し込められた、彼女の素の心だったのだろう
——それを、俺は見ていられなかったんだ
「——あーもうっ、別になんだっていいだろ!? 気まぐれだよ気まぐれ! そんな深く考える事ねーから!!」
……なんか改めて考えたら妙に気恥ずかしくなってきてしまった。これでは俺が鳶一に気があるみたいじゃないか……っ! 違うからな!? 別に全然そんなんじゃないから!!
俺は逃げるようにして鳶一の部屋から出ていった。これ以上何か話してたらふとした拍子に余計な事を口走りそうだったし、何より今の話を追及されてもこれ以上は答えられる気がしないからな
思った事をそのまま口にする事がどれ程後に響くのかを思い知った瞬間であった。——だからと言って治すとは言っていない。寧ろ治せる気がしない千歳さんでした
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「……どういう、ことですか? 令音さん……」
「……私も、まだ全てを把握出来た訳ではないんだ。だが……今はそうとしか言いようがない」
俺は今、家のリビングで令音さんと対面していた
そんな俺達から流れる雰囲気は、実に真剣で————深刻な物だった
何せ、その内容は——
「……現時点で、チサトを救う事は——
——唐突に突き付けられた、非情な現実だったのだから
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——時は数刻前に遡る——
十香達と帰宅した俺は、早々に夕飯の支度を始めた
時間も時間だったし、あの場で見た刺激的な光景を忘れる為にも何か手を動かしたかったのだ
本当に今日は疲れた。主に精神的疲労がかなり大きかった
それも仕方がない事だ。いくら明日、他の女性の水着姿に目移りしないよう慣れさせるからと言っても、流石に限度があるだろう? お世辞抜きでも十香達は美少女なんだ、そんな彼女達のあられもない姿を見せられ続けたんだ。正直、刺激が強すぎてヤバかった
これでも俺は思春期真っただ中の男子高校生なんだよ。しょうがないだろこればかりは……
その上、まさか十香と詠紫音が水着姿を競い合う事になるとは思いもしなかった
折紙とならともかく、十香が詠紫音に張り合おうとするなど誰が予想出来るだろうか? 正直俺は考えもしなかった
別に険悪なムードになった訳ではない。ただ「どっちがシドー君の目を釘付けに出来るか勝負しなぁい?」——と詠紫音が挑発的な発言をしただけなんだ
詠紫音に悪気なんて一切ない。ただ詠紫音は十香をからかっていただけに過ぎない
しかしながら、十香はその発言に対し「望むところだ!」と二つ返事で勝負に乗ってしまったのだ。誰がそれを止められようか? 俺には出来そうもない
その上、その勝負を聞いた令音さんが名案とでも言わんばかりに”景品”を付けてしまったのだ。それを聞いた二人を目の当たりにした俺は、今から中断するのは不可能だと人知れず悟ったのだった。……因みに、その景品の内容は”士道と一日デート権”という俺の事情全く無視のチケットだった。どうやら俺に休みは無いようだ、ははは……
そうして始まった水着姿披露会。十香と詠紫音が張り合う様にして様々な水着を着用していく
そんな中、四糸乃だけは披露会に混ざらず静かに水着を選んでいた。時折詠紫音や俺にアドバイスを聞きに来るが、基本は一人で選んでいるようだ
どうやらこれも四糸乃が自立する為の行動らしい。自分の考えでどうするか行動し、決める事が大切なんだとか。だからと言って無理に一人で考え込まず、周りに意見を求める事も必要のようだ
なんだろう……こうして見ると、四糸乃が一番年上のように見えてしまうのは俺だけだろうか?
暫くの間、周囲の目も気にせずに水着を着用していく二人ではあったが、流石にはしゃぎ過ぎたのか数着選んだ辺りで疲れを見せ始めていた
それを期に俺は二人に一旦休憩しないかと提案し、それと同時に少し気になったことがあった為、理由をつけてその場を離脱する事にしたのであった
十香達から離れた理由としては、一度心を落ち着かせたかったってのもあるけれど……それ以上に、折紙が何処に行ったのか気になったんだ。こういった時、折紙だったらきっと十香達の披露会に介入するだろう事は目に見えていたからな
しかし、そうはならなかった
探している途中、その先で会った千歳に何げなく折紙の所在を聞いたんだ
だが、千歳から折紙が何処にいるかを聞くことは出来なかった
何故なら折紙は……この場に来ていなかったのだから
正直考えもしなかった。普段からいつの間にかに傍にいて、十香と張り合っていたあの折紙が何も言わずに立ち去るなんて……
その時、俺は先日の事を思い出してしまう
先日、折紙が語った精霊を目の敵にする訳を——両親の仇である〈イフリート〉に向ける憎悪を思い出してしまった
折紙の憎しみは深く、今も根強く心に残っている。それは一朝一夕でどうにかできるものではなかった
どうにか折紙の復讐をやめさせたい。琴里を守るというのもあるが……俺は、折紙に精霊を殺させたくないんだ
俺のエゴだってのはわかってる。折紙がそれに納得しないのだって重々承知だ
でも、だからと言って見過ごす訳にはいかないんだ。二人の為にも、俺は二人が殺し合うのを……身を挺してでも止めなければいけないんだ。――そう、俺は人知れずに誓うのであった
そしていくらか千歳と千歳が連れてきた精霊の一人——七罪と会話を交えた後、不意に十香に呼ばれた俺は十香達の元に戻るのだった。……そういや、十香達の元に戻る間際、何処か千歳の様子に違和感を感じたんだが……気のせいか?
俺が十香達の元に戻ると、十香達は新しい水着へと姿を変えていた。どうやら俺が千歳達と話している間に披露会が再開したらしい。観客は既に水着を決めた四糸乃だ
それからは再び十香達の水着姿を見せられることになり、一向に勝負がつかない事に業を煮やした詠紫音が…………まぁ、あれだ。予想外の行動に出たんだ
その結果軍配は詠紫音へと上がり、デート権は詠紫音へと渡ったのだった。……え? 詠紫音は何をしたんだって? …………すまないが、これは俺の口から言っていい事じゃないので控えさせてもらう。それをやった後に詠紫音が自分の行った行動に赤面し、暫くの間委縮してしまったとだけ言っておこう
その後、十香達がどうにか水着を選び終えた事でその場はお開きになった。千歳達はどうやら水着を買う必要がないという事だったが、店の人からしたら堪ったもんじゃないよな、それ
そして自宅に戻ってきた俺は夕飯の支度に取り掛かり……今に至るという事だ
なんとも濃密な一日だった。——と言うか、十香達と出会ってからは毎日がとても長く感じてしまう
だから……こんな日常が続けばと、俺は切実に思うんだ。これから先、まだ見ぬ精霊達の事はあれど……今の平穏な日常を、壊したくなんてない
しかしそれは——ただの現実逃避にしか過ぎなかった
「……すまないね、シン」
「話って何ですか? 令音さん」
食事を終え、十香達が精霊マンションへと帰っていった後の事だ
現状、琴里が〈フラクシナス〉にいるのでこの家には俺しかいなかった。琴里がいない事に珍しさを覚えつつ、それと同時に少しの寂しさも覚えてしまう
そんな中——唐突に令音さんが来訪してきたのだった
どうやら俺に話があるらしい。それは琴里や〈フラクシナス〉のみんなにも話を聞かれたくない事で、こうして俺以外に聞かれない状況になるのを見計らっていたらしい
琴里達にも聞かれたくないという内容に、興味と疑惑、そして不安が湧いてくる。その中で一番強い感情は——不安だった
リビングにあるテーブルを挟んで対面する俺と令音さん。最早当たり前のようにコーヒーへと積み込まれていく角砂糖を尻目に、俺達は言葉を交わし始めるのだった
「……話と言うのは、チサトのことだ」
「千歳? 千歳がどうかしたんですか?」
てっきり琴里の事かと考えていた俺にとって、令音さんが言った人物は意外すぎた
何故ここで千歳の話題が出て来たんだ? 何故令音さんは——そんな思いつめた表情をしているんだ?
「……これから話すのは、今のところ私しか知らない事だ。……いや、もしかしたら彼女の周りにいる子達は、既に知っているのかもしれない」
身が強張っていく。手が震えてくる。喉が渇いてくる
そんな焦燥感が湧き上がってくる。それほどまでに——この先に続く言葉に、嫌な予感を覚えてしまう
そして——
「……今日を含め、時折……チサトの霊力値が
「な————」
——その予感は、現実になってしまう
霊力が急激に下がるとどうなるか? それを俺は、以前に聞かされたことがある
それは四糸乃がASTに襲われ、彼女を守るために詠紫音が顕現した日の事だ
その日、四糸乃の霊力値は下回りかけた
ASTに追い詰められたことで、四糸乃は絶望の淵に立たされてしまった
詠紫音の活躍により霊力値が下回ることはなかったが、もしもあの時、四糸乃の霊力値が下回っていれば——四糸乃は反転していただろう
反転すれば何が起こるかわからない。未だ精霊が反転した等どうなるのかを知らない俺にとって、その先は未知の領域だった
だが、取り返しのつかない事が起きるのは確実だった。そうでもなければ、琴里があれ程狼狽する筈がない。それほどまでの危険を孕んでいるのだ、反転化とは
霊力値がマイナスに下回るという事は、精霊が何かに絶望したという事だ
つまり——
「それなら、千歳は……」
「……日頃から、チサトは何らかの要因によって
「————っ!!」
言葉が出なかった。想像もつかなかった
あの千歳が……絶望しかけている? ……とてもそうは思えなかった
今日だって連れの子達とあんなにも楽しそうに笑い合っていたというのに、そんな千歳が……心の中では何かに絶望しようとしていたというのか?
「な、なんで……」
「……そこがわからない。彼女が何を考え、何を目的に行動しているのかを知らない私には、これ以上の推測は不可能だ」
「そんな……」
令音さんの言葉から、現状で千歳が何に対して絶望しかけているのかを知る術はないのだろう
どうにかしたいとは思うが、それを成すだけの材料が圧倒的に足りていない。下手に余計な事をした結果、反転してしまったなど目も当てられないだろう
それに今は千歳以外のも問題がある。琴里や折紙、それに真那の事だってあるんだ。これ以上問題を抱えたところで、その全てに対応出来る程俺は万能なんかじゃない
それでも俺は、こう言わずにはいられなかった
「なら早く千歳を——」
「……駄目だ」
「どうしてっ!?」
「……無理なんだよ。現状、チサトを救うことは不可能なんだ」
今度こそ言葉を失ってしまった。それどころか、一瞬頭が真っ白になってしまう
慈悲も無く断言された令音さんの言葉に、俺は何が何だかわからなくなってしまう
無理? 不可能? 千歳を救う事は……出来ないだって?
頭が回らない。考えがまとまらない。気持ちの整理が追い付かない
そんな俺に、令音さんは淡々と告げてくる。その声色は何処か……悲痛なものだった
「……チサトの霊力値が下がる時。それは決まって……”ある者”に出会った時だ」
「……常に下がる訳ではない。ただ、何らかのきっかけを持って、チサトの霊力値は下がるんだ」
「……そのきっかけが何なのか、現状はわかっていない。だが……その”ある者”と一緒にいるときに限って……下がっているんだ」
「……シン、君には辛い事実だろう。しかし……これはいずれ、嫌でも知る事になるだろう」
「……だからどうか、気をしっかり持って聞いてほしい。いずれ君が——向き合うであろう問題に——」
「——シン、
……時間だけが過ぎていく
令音さんはその言葉を最後に、口を閉ざしてしまう
俺は依然として……口を開くことが出来なかった
それ程までに……令音さんの言葉に、俺は衝撃を覚えたんだ
「……………」
「……すまない。本来、今話す話ではないのだが……急を要したのだ」
「……なんで」
「……今日、今までに観測された以上の霊力値を確認した。後一歩間違えれば……チサトが反転していただろう」
掠れた声で何とか返答を返したものの、帰ってきたのは非情なまでの現実だった
千歳が反転していた……その言葉が胸に突き刺さる
そしてその原因が……俺にあると、令音さんは言っているんだ
……もしかして、先程感じた違和感はそうだったのか? 俺は……知らず知らずの内に、千歳の事を追い詰めていたのか?
「————ン」
それなら俺は、千歳と関わらない方がいいんじゃないか? 俺が千歳に会えば反転してしまうというのなら……千歳と会わないようにした方がいいんじゃないか?
「————シン」
それにだ。千歳が俺に会う度に反転しかけているという事は、千歳は内心で俺の事を嫌っているという事なんじゃないか? そうでもなければ絶望なんて——
「……失礼する」
「——むぐぅっ!?」
……唐突に、俺の思考は遮られた
理由は簡単だ。……令音さんに、飲まずにいたコーヒーを流し込まれたからだ。溶けきっていない大量の角砂糖がぎっしりと詰まったコーヒーをな……
それによって、俺は思考の渦から引き上げられる事になる。喉に詰まった角砂糖に咳き込みつつ、一体急にどうしたのかと令音さんに向き直るのだった
「ケホッ! ケホッ! ——な、何ですか急に!?」
「……すまないな。心ここに在らずと言ったようだったので、少し気付けを——」
「気付けどころか窒息死しそうだったんですけど!?」
「……まぁ、そんなときもあるさ」
「寧ろそれしかないでしょうこれ!? こんなの飲めるのなんか——」
「……? 私は飲めるが?」
「…………」
そういやそうですよね……令音さん、まるでそれが当たり前かのように飲み干してますもんね…………前々から思ってたんだけど、令音さんて何者なんだ? その……生物的に
だって睡眠導入剤やら胃薬やらを異常なまでに摂取しておきながら、全く異常がないかのように平然としているんだぞ? 最早人間かを疑うぞ……
というか令音さんは極端すぎる。なんでこう……大量に摂取すれば効果が出るという考えになるのだろう? 流石に限度があるでしょ限度が
「……一先ず、対応策はこちらで考えておく。シンは明日のデートに集中してくれ」
「……大丈夫、なんですか?」
「……今は頭の隅に留めて置くだけでいい。…………まだ、猶予はあるからね」
「……はい? 今、何か言いました?」
「……明日、琴里の事を頼んだよ。シン」
「え? ——あ、はい。わかってます」
千歳の事は令音さんに任せよう。現状、俺にはどうすることも出来ないんだし、今は令音さんが言ったように琴里の事がある。まずは琴里の霊力を封印する事が先決だ
……何か最後に言っていたような気がするけど……俺の気のせいだったのかな?
そしてそこで俺と令音さんの密談は終わったのだった。——様々な問題を残して…………
「……不味いな。予想以上に”ゆりかご”の”心蝕”が進んでいる…………一つ、策を講じるべき、か」
あれもこれもそれも、全部”無自覚”って奴の仕業なんだ!