俺が攻略対象とかありえねぇ……   作:メガネ愛好者

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どうも、メガネ愛好者です

今回から原作です
でも最初から原作に関わっていくわけではないです
面倒くさがり屋ですからね、千歳さん

今回はオリジナル展開が強いかも。それでも原作に支障はないと思います

それでは


第一章 『彼女は世界に反旗する』
第一話 「彼女は自信を持てない? 知ってる」


 

 

 「うへぇ、何あの動き? 超ハイスペックじゃん」

 

 どうも、あれからなんとか心を癒せた千歳さんです

 四糸乃が何も言わずに立ち去っていったショックはなかなかにデカかったが、おじちゃんのおかげで何とか立ち直ることが出来ました

 

 四糸乃と出会った次の日、俺はおじちゃんの銭湯に重い足取りで向かったんだ。ショックで頭が回らない中でも銭湯の前まで付く辺り、最早習慣化していると言えるだろう

 そして銭湯の中に足を進めればすぐにおじちゃんと対面したんだが、一目見ただけで俺が落ち込んでいることに気づいたようで「どうかしたのかい?」と問い掛けてきてくれたのだった。四糸乃の事を話すとしても、どう話を切り出せばいいのか分からなかった俺としてはとても助かったよ

 とりあえずお風呂に入ってからということになったので、俺はさっさと入浴を済ませることにした。正直ゆっくりと浸かっている気分でもなかったしね

 

 

 

 早々にお風呂を済ませた後、コーヒー牛乳を飲みながら俺はおじちゃんに四糸乃のことを話した

 俺が話している間、おじちゃんは始終口を挟まずにいつもの穏やかな表情で俺の話を聞いてくれた。そんないつも通りの対応に、俺は少しずつ心が落ち着いていくのを感じながら話を進めていく

 そして話を大体聞き終えたおじちゃんは「心が落ち着くまでうちの風呂に来なさい。それまでは料金もタダでよい」と言って頭を撫ででくれた。凄く恥ずかしかったッス

 だって今は営業中だ、周りに視線を見やれば勿論お客さんがる訳であり……その上みんなは当然だと言わんばかりに俺とおじちゃんのやり取りを眺めていたんだ

 なんでみんな見てるん? 見せもんじゃねーぞゴラァ。羞恥プレイならやめてくれ。……いやまぁ事の発端は俺なんだけども

 まぁ、頭を撫でられたことに関しては悪い気はしなかったけどさ

 

 とりあえずタダでお風呂に入れてくれるという話になったので、俺は毎日思う存分入浴することにした。お風呂好きの俺としては感涙もんだよ、傷ついた心が癒されるわぁ……

 そういった経緯で、俺は何とか立ち直ることが出来たのでした。おじちゃんには感謝が尽きません

 

 

 

 

 

 そしてようやく立ち直った今日この日……四月十日の事だ

 

 

 現在俺の視界の先で——あのクレーター現象が再び起こっているんだよ

 

 

 あ、俺のせいじゃねーからな? 俺とは違うやつが原因だからな!? 今視界の先で絶賛無双してる子のせいだからホントに俺じゃないからな!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の始まりとしては、俺が公園のベンチで昼寝していた時だった

 いつも通り高台の公園でのんびりとしていたんだが……そこで急にサイレン音が鳴り響いたんだよ。俺の昼寝を邪魔するが如くにな。——だから近くにあった警報機にベンチを投げつけた俺は悪くないはずだ。両方ともおしゃかになったが騒音が無くなったし構わないだろう

 目覚めは最悪だったが、目は覚めてしまったからしょうがないので起きることにした。それに気になることもあったしな

 

 俺の昼寝を邪魔したサイレン音……それは俺がこの世界に転生してすぐ蹴り飛ばした警報機から流れていたサイレン音と同じ音だった

 ただ今回はそれに加え「空間震警報が――」って感じに機械から流れる音声も付与されてるけどな

 そこで気になる言葉を耳にする

 えーっと……空間震? それがあのクレーター現象の名称なのかな? そこんところの知識はまだあまりないから詳しくは知らないんだよなぁ

 

 

 ただ……それの対策なのか、街がトランスフォームしてるんだよね

 

 

 警報が鳴ると同時に次々と電車や駐車場、地下鉄などの入り口なんかが地下に格納されていく

 住民も地下に続く道に逃げ込んでいる辺り、前回は逃げ終わった後だったのかな? とりあえず一言

 

 

 ——すげぇカッコイイ……——

 

 

 いやカッコイイじゃん! 変形とか男のロマンなんだぞ!? これでテンション上がらない奴はいないと思うんだよ!

 ……人それぞれ? 知ってる

 

 そんな現状を俺は高台の手すりに腰掛けながら双眼鏡で眺めている。……あ、因みにこの双眼鏡、高性能品のため万単位の値段でした

 勿論これは店に行って盗……借りてきたものだ。いや広告なかったしな

 とりあえず店頭に並んでいた奴を遠くから見て、それを手元に顕現させました。急に消えた品に店の人は慌てていたが……まぁ一品ぐらい構わねぇだろ? ククク……

 

 

 

 

 

 そしてしばらく警報が鳴り続けた後、それは起きた

 なんかこう……空がねじ曲がって、デローンってして、落ちた。こんな感じ

 いやそんな感じにしか表現できない光景だったんだよ。そんで地面に着弾時に大爆発

 ……俺ってあん中から生まれたん? デローンから生まれたってなんか複雑な気分だなぁ……てか生まれたって言うのかあれは? 気づいたらあそこに立ってたって感じが一番しっくりくるから生まれたって気は全然しないんだよね

 ……まぁ、いいか。とりあえずどのぐらい被害出たか見てみよう

 そして俺は空間震の全貌を目の当たりしたことでなんとも言えない気分になりつつ、再び双眼鏡で爆心地に視線を送るのだった

 

 そして目撃する。——爆心地の中心に佇む何者かを

 

 

 

 

 

 そこには——きらびやかなドレスと鎧が合わさった様な服装を身に纏った綺麗な少女が、玉座っぽいものの肘掛に足をかけて立っていた……

 

 

 

 

 

 き、決めるねぇ……カッコイイじゃねぇの

 大和撫子風の少女は、それはもう恥じるところも無い堂々とした姿で佇んでいる。いいなぁ……俺もあんな風に登場したかったぜ

 俺の登場なんてただの棒立ちだったぞ? しかも警報機に邪魔されたし……何であんな決めポーズをとれるんだ? 羨ましいなこんちくしょう

 なんかムカついたんで近くにあったもう一つの方の警報機に双眼鏡を投げつけてしまったのは悪くないはずだ。勢いもあって二つとも大破したけど問題無いな。静かになるし

 

 ——あ! 数万円の双眼鏡が!?(警報機は知らん)

 

 

 

 

 

 あらかじめデジカメで双眼鏡を撮っておいてよかったわ。大破したやつとは別の新品同様の物を呼び出せたぜ

 俺は再び双眼鏡を覗いて爆心地を見てみると……おや? クレーターの近くに少年が佇んでいる

 学生かな? あの服装は確か……来禅高校の制服だったな。銭湯で会った子と同じ制服だったからすぐにわかったぜ

 

 「——って、ちょ……あの子マジか」

 

 俺は視界の先に起きた光景に少し驚いてしまう

 何せ、玉座から引き抜いた巨大な剣で見た目普通の男子生徒に斬りかかったんだからな、そりゃ驚くわ

 つーかさ、その玉座どうなってるし。鞘なのか? 椅子であり鞘なのか? 持ち運び大変そうですね

 まぁ鞘(?)はともかくとして、あの剣自体はカッケーな。こう……なんか名前を呼んで振り下ろせば極光ビームを放てそうな伝説の武器みたいだ。欲しいかも……いや、今はいいか

 

 それにしても何なんだろうあの子? 目に映る物全てを切り裂こう! ——って感じか? 物騒過ぎるでしょうに

 てか剣の一振りでビルを倒壊させやがりましたよ。なんつー破壊力でありやがりますか。俺もあんな力を持って、有象無象をバッサバッサと叩き伏せる一騎当千プレイをしてみたかったもんだ。

 しかし、残念ながら俺に戦闘スキルは皆無だ。前世では温厚な日々を暮らしてたし、喧嘩なんぞしたこともないからな。それなのにこの霊装のデザインは一体何なんでしょうね?

 身体能力が上がったと言っても素人が力を振るう感じだから、それなりに武を極めている奴からしたら隙だらけだろう。それを狙われては流石の精霊スペックでも対処出来なさそうな気がするんだよね。そもそも戦う気ねーから別にいいんだけどさ

 それに、無双したいと言ってもそれはゲームの中だけに留めてるさ。現実でそんな上手い話は無いんだよ

 ……え? 何でも手に入る時点で現実味が無いって? 知ってる

 

 

 

 

 

 おっと、展開が進んでた

 どうやらあの集団、訳してASD達が現場に到着。一斉に持っている銃のような武器で少女を撃ち始めた

 しかし、少女は謎バリアーによって全ての銃弾から身を完全に防いでしまっている。タマモッタイネーナ

 無駄! 無力! 無意味! ASDの攻撃はまさにそんな感じだった

 もう全然効いてる様子ないわ。撃たれている少女もバリアーがあるせいか澄ました表情で佇んでいるし、最早ヌルゲーだとでも思ってるのかねぇ?

 

 ……てかさ、あのバリアーをよ~く観察してみて思ったんだが……あれ、霊装による防御壁なんじゃね?

 

 なんとなくだけど、霊装さんが今張ってくれている霊力膜に似てる……てか分類上は同じ感じがするんだよ。霊力膜もいわばバリアーみたいなもんだし、目の先にいる少女が張っているバリアーと同じ用途なんじゃないかなーって思うわけですよ。戦闘用か隠密用かの違いだね

 好き好んで戦闘しようなんて考えなかったから気づかなかったけど、霊装さんにはあんな使い道もあるんだなぁ……ファッションのためだけじゃなかったんだね←

 

 …………………………

 

 あれ? 霊装を身に纏っているってことは、つまり彼女も俺と同じ精霊ってことなのか? ふむ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——精霊って他にもいたの!?(今更かよ)

 

 

 いやちょっとはそんな気もしてたけどさ? まさか本当に他の子達がいるとか思わないじゃん

 俺が精霊になったのも、全部神様のおかげなんだろうから他に精霊はいないと思っれもしょうがねーってもんだ

 そっか、彼女は精霊なのか……なんだろ、同族意識が芽生えた気分だわ。同族なら仲良くできるかな?

 ……あの様子だと、話を聞いてくれない限りはダメそうだぜ

 

 

 

 

 

 ここから彼女の様子を見て気づいたことがある

 それは——彼女がこの世界に対して何もかも諦めているような悲壮感漂う表情をしているということだ

 どう足掻いたところで変わらない、そんな感情がありありと伝わってくるような悲しい表情

 希望はなく、期待もなく、奇跡なんて信じようとする意味がないと考える程に心が渇いている……そんな表情

 

 

 

 そんな彼女の表情が——

 

 

 「……気にいらねーな」

 

 

 ——無性に腹立たしかった

 

 

 

 まぁ、だからと言って、今すぐにどうこうできるような問題じゃあなさそうなんだけどさ。せめて彼女がどういった闇を抱えているのかわかんないとどうしようもないね

 

 ただ……このままでも何とかなる気がするのはなんでだろ? ……もしかして、さっきの少年が彼女の良き理解者になったりするとか?

 はっはっは、まさかそんな出来すぎた話はねーだろ。ギャルゲーじゃあるまいし、そんな都合よく——

 

 

 

 

 

 ——その時は自分が抱いた予感を馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばしていた俺だったが、まさか本当にその通りになるとはな……過去の自分に知らせてやりたいものだ——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「貴様、何者だ」

 

 「いや俺が聞きたいんだが……」

 

 あれから数日が経ちました

 今日は来禅高校で空間震があったよ。自分の目で見たってのもあるが、銭湯に来ていた顔馴染みの学生が愚痴のように話していたのが印象に残っている

 

 空間震は校舎に直撃したみたいだが、どうやら死傷者はいなかったらしい。不幸中の幸いってやつか?

 だがその子は教室に忘れ物をしてしまったらしく、その忘れ物はそれなりに大事だったものだったようです。空間震で吹き飛んだが

 「空間震とかマジうぜーわー」とか延々と恨みつらみを並べていたので、俺はその子にどんなものだったのかを聞いた。……どんなものだったかは控えさせてもらおう

 ヤベ、思い出したら寒気が……

 

 

 

 とりあえずは後日また来るようにとその子に伝え、俺は早速その失ってしまった物に近いものを広告を漁って顕現させておくことにしたのでした。物はともかくその子には大事なものだったらしいし、代わりになるかはわからないが似たような物を用意しておくのもいいだろう。常連だし優遇しても罰は無いでしょ?

 

 そうして番台の仕事を終えた俺は公園に帰宅していたんだ

 その時に、もしかしたら今日の空間震であの時の子がまた現れたのかな~なんて考えたりしたが、今となっては過ぎた事だ。気にしてもしょうがない

 

 

 

 そして銭湯から公園に戻ってきたんだが……公園についてすぐに彼女と出会ったんだ

 

 

 ——そう、あの時に大剣で無双ゲーを繰り広げていた彼女にだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在に至るという訳だ。——彼女が剣を俺に突き立てている状況で

 

 「もう一度言う。貴様は何者だ」

 

 「ナニモンだ」

 

 「……」

 

 「あ、タンマ。まさかそこまでジョークが通じないとは思ってなかったんだよ。——だからその振り上げた剣を俺に向かって振り下ろそうとしないでくださいマジすいませんでしたアアアッ!! お慈悲を!! お慈悲をおおおおおおお!!」

 

 彼女の問いに冗談を言ってみたんだが、お気に召さなかったみたいで剣を振り下ろそうとしてきたわ

 戦闘力皆無の俺には刺激が強いです。冷や汗が止まらないぜ……せっかくお風呂入ってきたって言うのに

 とりあえず俺は彼女に当たり触りのないように名乗るのでした

 

 「千歳って言います王女様」

 

 「私は王女ではない」

 

 「すいません」

 

 再び剣を突きたてられた

 くそぅ……何故にこうも言うこと言うこと裏目に出るかなぁ……

 てかもうこのやり取りが面倒臭くなってきたぞオイ。俺はもう眠いんだ、話があるならすぐに終わらせてくれよ……

 あーもうめんどくせぇ。こうなったら必要最低限の事だけ言って乗り切ろう。例えば上司の小言がめんどくさくなった時に使う〈オールハイ〉を!

 

 ——説明しよう! 〈オールハイ〉とは、相手の言葉に「はい」としか返事を返さないというものだ!

 どうせ拒否権が無いなら「はい」だけ言っとけばいいだろ? 余計なことを言って無駄に長くなるんだったらてきとーに「はい」だけ言っていればいい。——そんな技なのだ!

 やる気の無い返事で相手も話す気が無くなるだろうしな。わざわざ言うのが馬鹿馬鹿しくなってくだろ? そんな感情を利用するのさ

 でも使いどころは見定めよう。逆にやる気の無さに余計な小言が増えるかもしれないのでそこは注意だ

 

 そう考えた俺は、彼女の問いかけに返事をする。「はい」だけで

 

 「……まぁいい。だが、次はないぞ」

 

 「はい」

 

 「……チトセと言ったな」

 

 「はい」

 

 「貴様は……私を殺す気はあるか?」

 

 「は――え? なんて?」

 

 ——早速地雷を踏みかけたじゃねーか! 〈オールハイ〉使えねーじゃんかよゴラァ!!

 

 ふぅ、危ない危ない。危うく殺すという問いに「はい」と答えかけてしまったぜ。んー……ギャルゲー的に考えたら、もしここで「はい」を選んでしまっていたらDEAD ENDルートまっしぐらだっただろうな

 〈オールハイ〉は封じよう。これは禁断の技だ……

 

 それにしても……なんでいきなり殺すとか物騒なことを聞いてきたんだ? 何? 自殺願望者かなんかですかい? 別にどうするかはあんさんの勝手だが、そこに人を巻き込もうとすんなし

 そう思いながら俺は改めて少女に視線を送り——あるものを視界に入れるのだった

 

 

 

 「……」

 

 コイツ…………

 ちっ……クソが、眠るに眠れねー理由が出来ちまったじゃねーかよ、全くもう……

 

 少女を視界に収めた俺の思考は、あるものを見た瞬間一気に冷えていった

 そして俺は少女を冷めた目で見つつ、彼女の問いかけに返事を返していくのだった

 

 「何故にいきなり人を殺さにゃならん。俺はそんなめんどいことを好き好んでやるような奴じゃねーから」

 

 「……」

 

 「疑うなし」

 

 「信じられると思うか?」

 

 「信じる気が無かったら信じられないだろうな」

 

 疑心暗鬼の彼女に俺が素っ気なく答えると、癪に障ったのか少しムッとした表情に顔を歪めた。だがそれは、自分の気持ちを揺らされたかのような変化にも感じられる

 そんな少女の機嫌も気にせずに、俺は何の用なのかと問い掛ける。……少しの苛立ちを込めながら

 

 「んで? 結局はなんのようなんだ? 言いたいことがあるならさっさと言え。ないなら帰れ」

 

 「なっ、貴様——」

 

 「言っておくが、剣を振り回すだけじゃ話は進まねーぞ? アンタは話をしたいんだろ? そうじゃなきゃ話をする前にその剣で俺のことを斬ってるだろうし」

 

 「っ……」

 

 図星を突かれて剣を振るおうとした少女に、これまた行動を読まれた彼女は黙り込んでしまう。つい強く当たってしまったが……今の彼女にはこのぐらいで丁度いいだろ

 情けなく相手の様子を伺いながら話すよりも、こういった”表情”をする相手には常に堂々と言葉をぶつけあった方が相手に言いたいだけ言わせることも無くなるだろうし

 

 さっきまでとは打って変わり、威圧的な雰囲気を見せ始めた俺に多少怯む少女

 それに暫く口籠る少女だったが、彼女としても早く自分の要件を済ませたかったのだろう。意を決するようにして重い口を開いたのだった

 

 「貴様は……信用に値する物が何か、知っているか?」

 

 少女は顔を俯かせる。そのせいで前髪が顔にかかってしまい、顔が隠れてしまったため彼女の心情が表情から察しにくくなった。前髪で顔隠すとかお揃いだー

 ……だが、今はそんなことどうでもいい

 

 

 

 全くよぉ……なんなんだってんだよこの問いは

 人を信じるための物? それが何なのか知りたいっだって……?

 

 

 

 「んねもん知らねーよ」

 

 「——っ! 貴様! 真面目に答えろ!」

 

 俺は少女の問いに対して投げやりのように答えた。そんな俺の返答が大層気に入らなかったようで、彼女は表情に怒りを浮かべて怒鳴りつけてきた

 真面目に答えろ? なら言ってやろうじゃねーか

 俺は彼女のプレッシャーに置くせず自分の考えを語り始める

 

 「なら言わせてもらうぞ? ……そもそも信じるってのは、自分が変わらない限り滅多なことがないとお互いに信じあえる関係にはならないだろうが。アンタは自分を信じてもらいたいのか? 誰かを信じたいのか? なんでそんなこと聞くかは知らねーけどよ……とりあえず言えることは一つだ」

 

 俺が語り始めた内容に怪訝そうな表情になる少女

 意味を理解しようとしているようだが……気付いてっかな? 表情とは裏腹に頭の上にクエスチョンマークが大量発生してるぞ? もしかしてこの子……あまり考えることに慣れてない? 脳筋なのか?

 

 ……まぁいいか。とにかく俺は答えればいい

 さっきから見せる少女の表情、それを目にした時から俺の言うべきことは決まっている

 今から言う言葉が彼女が欲した言葉かはわからない。だが、少なくとも間違いではない筈だ。多分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——さっき、自分を殺すのかと聞かれたときに見せた彼女の表情で気づいたことがある

 あの日、俺が初めて彼女を見た日

 その時、なんで俺が彼女の事を気に入らなかったのかが、こうして対面することで確証に変わった

 わかったんだ。よーくわかったんだよ……

 

 

 あの日から今この時まで……彼女は何をしたって変わらない——自分は不幸な存在だと決めつけたような表情だったんだ

 

 

 その原因は多分ASDだろうな。彼女を殺すような存在なんて、多分だけどアイツ等しかいないだろ。……まぁ豆鉄砲とひのき棒で襲ってきているようなもんだからやられはしなかっただろうけどさ

 

 ……今日、彼女が再び俺の視界に姿を現したことでわかったが、多分空間震が彼女——精霊が何処からかやって来る原因で、ある程度時間が立てばその何処かに帰るのだろう。実際に、前回彼女が現れた時だっていくらか戦闘をした後に霞のように消えていったからな。俺がそっちに戻る様子が無いのは何故だろうかねぇ

 そういえば……あの時の少年もいつの間にかに消えていたけど無事かな? ……まぁいいか

 

 話は戻るが、空間震によって精霊がやって来るってんなら……この少女はさぞや面倒事に巻き込まれていたんだろう

 空間震が観測されれば街の人はシェルターに避難する。その間にASDが原因の場所に向かい、精霊を見つけたら抹殺する……その対象に彼女は何度もなっていたのかもしれない

 多分彼女がこことは違う世界からこちらに来るたび、ASDが街の住人を避難させた後で攻撃してくる。そんな奴らにしか出会ったことが無いってんなら、そりゃー気が参るだろうな

 

 そんな彼女とまともに話をする相手が一切現れなかった。故に彼女はASD達しか人間を知らない可能性があるんだ……自分を殺しに来る存在しかな

 だからこそ彼女は信じられなくなってるんだ。人を、この世界を、そして……自分自身を

 さっき言ったように、彼女は自分が不幸な存在だと決めつけていたんだろう。あの日はそんな表情だった

 

 『だった』

 

 そう。もう過去形なんだ

 何があったかは知らないが、今目の前の彼女の表情や雰囲気はあの時とは違って少し心を開いている。——いや、開きかけているような感じがするんだ。多少ではあるものの、以前よりも棘が丸くなっているような表情に変化してるからな

 多分今回現れた時に何か心境の変化があったとかだと思う。彼女の根幹を成す何かを変えるようなきっかけがな

 それが何なのかはわからない。俺に分かることは……彼女がその変化に自信を持てていないんじゃないかということだ。そうでもなければ信じるものは何かなどと聞くはずもないだろうし

 

 ——だからこそ、言わせてもらおう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そんなもん自分で考えろっての」

 

 「なっ——」

 

 千歳さんは結構ドライだった

 いやだってよ……俺にどうしろって言うんだ? 彼女の事は見て感じたことぐらいしか知らないし、今日だって昼寝中にサイレン音で叩き起こされたんだぞ? つい目に見える範囲の警報機を全て空間震の発生場に転送させちまったじゃねーか……二十台ぐらい。全部木っ端したわ

 今のところ彼女は俺に迷惑しかかけてねーんだぞ? 空間震は自分の意思じゃないのかもしれねーが、今現在進行形で眠い俺の睡眠時間を削ってるしな

 そんな感じで、俺は彼女に対してあまり言えることがないんだよ

 

 

 ——それに——

 

 

 「今知り合った俺の言葉を……アンタは信じられるか?」

 

 「そ、それは……」

 

 どう信じたいのかを知らないのに、一体どういった基準で俺の言葉を信じるって言うんだ? もしここで俺の言葉を信じようとしてるんだったら、その信じようと思ったきっかけの方を優先した方がいいだろうに……

 だからこそ、俺は彼女に伝えたい事がある

 

 「今までのアンタがどういった奴だったのかは俺にはわからない。でも一つ、予想したことがある」

 

 「何……?」

 

 「多分だけどよ……今日、何かあったんだろ? 今までに無かった事……それこそ人を信じようと考えるようになった事がさ」

 

 「——ッ!?」

 

 俺の言葉に図星を突かれたのか、驚愕した表情を浮かべる少女

 予想は当たったか。俺の勘が冴えてるぜ! このまま宝くじでもやれば当たっかな?

 ……え? そもそもお前に今更金は要らないだろって? 知ってる

 クックック……500円玉マスターの俺に万札など今更いらぬわぁ!!

 

 ——コホン。話を戻そう

 

 「ならさ、その自分を変えてくれそうなきっかけを、それだけをまず信じろよ。今更周りに信用の意味を聞く方が混乱するでしょ? その聞いたことが本当なのかってさ」

 

 「……」

 

 「無理に他の奴等から信じる事を知る必要はない。……その自分を変えてくれるきっかけとなったものだけをまず信じればいい。他はそれからだ。……な?」

 

 「……シドーだけを、信じる……」

 

 お? シドーってのがこの子を変えてくれるきっかけなのかな? 感じからして人の名前っぽいな

 ……もしかしてあの時の少年だったりして。なーんてな

 

 「そうそう。ならやることは……わかるな?」

 

 「え?」

 

 「俺に構わずそのシドーって人の元に行けってことだ。アンタを変えてくれるかもしれない奴なんだろ?」

 

 「……でも」

 

 「でも?」

 

 「——怖いんだ。もし、それが嘘だったらと考えると……やはり人間は、私を殺す存在なのだと……だから」

 

 そこに、先程の毅然とした少女の姿は無かった。そこには……不安に怯えた歳相応の少女の姿だけが俺の視界に映る

 

 ——この子は、そのシドーって人を信じるために何か確信が欲しかったんだろうな……

 

 誰でもよかった。とにかく彼女はシドーという者が信用できる人間かを肯定する存在に会いたかったんだ。シドーを信じ、この世界に受け入れてもらうために……

 

 ——言わせて貰おう。「まだるっこしいことしやがって」と

 

 全く……結局のところ、彼女の気持ち次第じゃないか

 そのシドーって子を信じたいなら他の奴に聞くより、その相手に直接会って判断すればいいじゃんかよ。俺の睡眠時間がぁ……もういいや、今更後悔しても仕方ないわな

 そして彼女の反応を見つつ、俺は彼女に一つの選択を告げるのだった

 

 「……君は、シドーを信じたい?」

 

 「え?」

 

 「シドーを信じたいのか? 疑いたいのか?」

 

 ようはそれだけだ。信じる物は何なのかとかではなく、この子はそれだけの答えを知りたいがためにこの場に現れたんだろう

 だがそれは、他の人には答えが出せない。……彼女にしか辿り着けないのだから

 彼女の問いは……彼女の決断でしか答えは生まれない。なら、俺がやることは……彼女の背中を後押しするだけだろ?

 

 俺は彼女に問う。どうありたいのかを……

 そんな俺が提示する選択肢に彼女は返答を迷い、口を閉ざした。……自分の中の気持ちに答えを出すために

 

 

 

 ——そして

 

 

 

 「……信じたい。私は……私はシドーを信じたい!」

 

 その答えは、彼女にとって最良の決断だったはずだ

 そんな彼女の答えに、ようやく俺の中の苛立ちが無くなったぜ。実に清々しい気分だ!

 いや~終わった終わった! よし! さっさと話を終えて寝よう! もう眠くて逆に目が冴えそうなんだよ! 若干深夜テンションに入っちゃってるんだよ!

 そのせいでこんな上から目線の語りとかしちゃったじゃないか! 俺のキャラじゃねーだろ!?

 

 フィー……少し荒ぶったら落ち着いた。なんかもう肩の力も抜けてきたわ

 そんな脱力し始める俺は、話を区切ろうと言葉を投げかける

 

 「そっか。なら明日にでもその相手に会わないとな」

 

 「そうだな。……チトセ」

 

 「ん~……んあ?」

 

 俺がようやく彼女の問いが終わって気を緩めていると、彼女が俺の名前を呼んだ。……つい変な声が出てしまった。ハズイ

 俺は急いで緩めていた気持ちを戻し、彼女に向き直る

 

 「どった? もう俺は必要ないよね?」

 

 「……その」

 

 「……?」

 

 何やらしり込みしている彼女に俺は怪訝そうに相手の様子を見ている。ホント最初に会った時の毅然とした姿はどうした?

 俺がそう考えていると……彼女は告げる。——自身の名を

 

 「……十香だ」

 

 「……君の名前か?」

 

 「あぁ、そうだ。良い名だろう?」

 

 「……そうだな。良い名前だと思うよ」

 

 なんとなく察せたけど当たりだったようだ。彼女—十香がその名で名乗ると誇るようにして……それでいて、嬉しそうに語った

 

 ——その時の表情は、先程までの強張った表情ではなく、純粋な笑顔だった

 

 なんだ、そんな顔も出来るんじゃないか

 それに嬉しくなった俺は、彼女の名前を素直に褒めるのだった

 

 

 

 

 

 ——その先に爆弾発言があるとも知らずに

 

 

 

 

 

 「——っ! そうだろう! これはシドーに貰った名(・・・・・・・・)だからな! 当然だ!」

 

 「……はい?」

 

 シドーに貰った……名前?

 あれ? 雰囲気的にはシドーって人は親とかじゃないよね? なんかこう……恋人とかそんな感じじゃないの!?

 俺が十香の言葉に固まっていると……次なる爆弾発言が

 

 「ありがとうチトセ! お前のおかげで決心がついたぞ! これなら明日のデェトとやらも無事にうまく行く筈だ!」

 

 「——ゑ?」

 

 名付け親と……デェト?

 デェト……でえと…………デート……デート?

 

 ——デート?

 

 「デートォ!?」

 

 「うむ! 何やらシドーはデェトとやらをしたいようだったからな! きっと何か面白いことなのだろう!」

 

 「——は? デ、デート……知らないの?」

 

 「む? そうだな……何をするのかさっぱりだ!」

 

 そんな堂々と言う事じゃないでしょおおおおおおお!!?

 

 え!? なんなのこの子!? めっちゃ純粋無垢なんですけど!? さっきまでの暗かった表情は何処に消し飛んだ!? てかデートの意味も知らずに誘いに乗るとか危なすぎるでしょーが!!

 その子——てか男なのは確実じゃん!? そいつがもしケダモノレベルの変態だったらどうすんだよ!? 十香は見た目通りの美少女なんだぞ!? しかも十香がいろいろと無知な事がこの上なく心配なんですけど!?

 

 そもそも性格変わりすぎィ!? まるで別人じゃねーか!!?

 

 「と、十香? そのシドーって人とはどういった関係なんだ?」

 

 「シドーとの関係か? 私に名を与えてくれた……私の(事を肯定してくれた)初めての人間だな!」

 

 「初めっ!?」

 

 え、ちょ、は、初めてって……アレか? アレのことか? 十香はもう大人の階段上っちゃってた系なのか!? 無知な少女をもう自分の想いのままに貪り尽くした後ってか!? シドーって人鬼畜過ぎるでしょーが!!

 一体どんなことを十香に……ッ、いかんいかん、考えちゃダメだ考えちゃダメだ……

 

 「……チトセ? 何やら顔が赤いぞ?」

 

 「——ぅえッ!? だ、大丈夫だ……問題、無い……ッ!」

 

 「何故そこまで力んでいるんだ? 余計顔が赤くなっているぞ?」

 

 ヤバい、今考えてる方向性を変えんといろいろとヤバい。俺はそっち方面の話にはあまり耐性が無いんだから勘弁してくれ……

 

 転生してからはそういった話に興味が湧かなくなったけど、それも自分から積極的にってだけで興味が無い訳じゃないんだ。……転生以前からそこまで積極的でもなかったけどさ? 気恥ずかしいし

 女性の裸体を見ても何とも思わなくなってしまった今でさえ、変わらずして恋愛ごとには興味があったりするんだよ。特に他人の色恋沙汰なんかに関しては、聞いてるだけでもこそばゆく感じてくるけど……気になる程度には興味がある

 これには少し安心したかな。恋愛ごと事態に興味が湧かなくなってしまったとしたら、それはもう……人として壊れてる感じがするしね

 

 ——だからこそ、急にそんな話をされたら焦りもするでしょうが。てか無性に気恥ずかしくなってくるから詳しく情事を話すのだけはやめてくれよ?

 てか十香さん? お前ワザとじゃないだろうね? 最早狙ってるんじゃないかって言うタイミングだったぞオイ

 ……この無邪気そうな顔を見るに、多分無自覚だろうなぁ

 

 

 ——え? そもそも何を考えたんだって? そ、それは……ノーコメントで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、十香の言葉を深読みしすぎてあれやこれやと考えに耽ている内に、俺の前から十香の姿が消えていた。どうやら考え事をている内に帰ってしまったようだ(デジャブを感じる)

 こういった話が得意じゃないからって、流石に周りの変化に気づけないレベルで考え込むのは直した方がいいよな……ぶっちゃけ隙だらけだから、その間に変な奴に襲われても困るし

 ——てかもう朝じゃねーかよ。結局寝れなかったわちくせう

 

 




なんかおじさんにデレてない? 千歳さん

今回の警報機の被害数、約23台

千歳さんは初心です。ヘタレ故に前世で彼女なんかできたことありませんからね
そもそも弟達の世話に時間を費やし、後の時間は怠けきっていましたからそんな出会いの時間は無かったし

ただ十香に語っていた時は随分と男らしかった気がする。深夜テンション恐るべし

次回は……尾行?

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