俺が攻略対象とかありえねぇ……   作:メガネ愛好者

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どうも、メガネ愛好者です

大変長らくお待たせしました
修正の方はまだ終わっていませんが、ひとまずこの章だけでも終わらせようとの考えで投稿いたしました
話の流れは出来ていても、その内容を肉付ける表現力が圧倒的に経験不足。正直今回の話は苦戦いたしました
投降後に納得がいかないからと書き直すかもしれませんが……ひとまずはこの形に収まったので、書けなかったことは次章にて書きます

それでは


章終話 「彼女との約束? 覚えてる」

 

 

 あれから数分程経っただろうか? どうやら四糸乃は泣き疲れちゃったみたいで、今は俺の背中でスヤスヤと寝息を立てて眠ってしまいました。ホントぐっすり眠ってるなぁ……うん、気持ち良さそうに眠る四糸乃の寝顔がマジで癒されるわ。加えて無意識ながらに顔を俺の背中へとすりつけてくる四糸乃がもう可愛くてしょうがない。……ホント、誰かを背負うとか懐かしい感覚だよ

 

 ——っと、方向性ずれてた

 とりあえずだ。四糸乃も今まで抱えてきたものを取り払えたようなのでホントよかったよ。俺自身も心に引っかかっていたしこりが無くなったし、これで四糸乃との交友関係も深まるかな?

 

 ……それはそうとだ

 

 「……なぁ、五河」

 

 「なんとなく言いたいことはわかるけど……どうした? 千歳」

 

 「……今になって恥ずかしくなってきた」

 

 「だろうな……」

 

 気づけば周囲の人達から凄い注目されている件について。……いやまぁ当然と言えば当然か

 普通に考えたらわかることだった。だってここ商店街のど真ん中だぞ? そんなところで騒ぎを起こせばそらぁ注目されるわな。思っていたよりも四糸乃の泣き声は響き渡ったみたいだし

 そんな状況だ、恥ずかしさを抱いてもしゃあないやん? 元々大勢の人の注目を集めるようなことをするのが好きな性格でもないし。……まぁハッチャけたりはするけどさ

 さっきまでは四糸乃の事で周囲を気にしている余裕がなかったからそこまで気にもしなかった。——でも、今はそうじゃない。四糸乃は眠っちまった今、俺は周囲の状況に意識が回るようになったんだ

 

 

 だから……うん、すげー恥ずかしくなってきた

 

 

 恥ずかしさのあまりに顔が熱くなっていく感じがする。どんどん胸の中で膨らんでいく羞恥心に頭の中がグワングワンと荒ぶって……これ、絶対に俺の顔赤くなってるよね? 加えてそんな表情を周囲に晒しているかもしれないっていう事態が余計に俺の心を揺さぶってくる件について。もしも眠っている四糸乃を背負っていなかったとしたら、多分奇声を上げて逃げ去っていたところだろう……うん、四糸乃がいなければ余計に醜態を晒していたところだった。ありがとう四糸乃

 

 なんでこんな状況に陥ってしまったんだろう……俺と四糸乃はお互いの気持ちをぶつけ合っていただけなんだよ? 決してそこには恥ずべき事なんて一切無い筈なんだ。……なのに今、ものすっごい恥ずかしい思いをしているのはなんでなん? あまりの恥ずかしさに視界がぼやけて——あ、別に泣いてる訳じゃねーぞ? この千歳さんが恥ずかしいぐらいで涙を流すと思うてか! ……ちょっと滲んできてるだけだし、全然泣いてる訳じゃねーし

 ……え? その割には随分と口振りが落ち着いてないかって? いや見せかけだけだから。無理にでも気丈に振舞おうと意識せんと、この気が狂いそうなまでに昂った感情が爆発してしまいそうなだけだから

 事実、これ以上のハプニングがあろうものなら俺は衝動のままに騒ぎ始めると思うもん。今は四糸乃を起こさないようにとの自制心が働いているから何とか堪えられているけど、俺にも我慢の限界ってやつがあるんでね

 それにしても、感情を堪えるのがここまできついことなんだと感じるのなんて久々かも。……堪え性の無い俺に我慢するような自制心があるのかとかツッコんじゃいけない

 とにかくだ。今の俺は自制心をフル稼働している状態なんだ。下手にこれ以上の圧力をかけられたくない訳である

 

 それなのに……

 

 

 

 

 

 「今の千歳さんすごくかわいい(小並感)ですー」

 

 「普段から前髪で隠れていますからお母様の素顔をお見えになること自体希少ですのに、その上で頬を染めた素顔までも拝顔することが出来ようとは――ワタクシ、誠に感無量ですわ。——よし、カメラに収められました」

 

 「あ、現像したら私にも回してくださいね? 一画につき三枚程お願いしますー」

 

 「モチのロンにございます。——あ、お母様、急に顔を背けないでくださいまし。上手く撮れないではありませんの」

 

 「うるせぇ。その減らず口を今すぐにでも閉じねーなら後でハッ倒すぞテメェ等」

 

 「寧ろ押し倒してくださっても構わないんですよ~? それならいつでもバッチ来いですー♪」

 

 「あ、あの……お母様? 流石に親子でそのようなことをするのはワタクシとしてもどうかと——」

 

 「二人の頭がポンコツすぎて話が通じねぇ……くそっ、マジでハッ倒したいところだが今は堪えろ、堪えてくれ俺の自制心——っ」

 

 「「お母様(千歳さん)が自制とかマジウケるwww」」

 

 「…………」(#^ω^)ピキピキ

 

 ——そんな俺の心境も気にせず、嬉々として言葉を交えるアホ二人なのであった

 

 少し離れた位置にて俺の様子を伺う二人——くるみんとミクは、声量を低くしながら言葉を交し合っていた

 その二人の様子からは、四糸乃を起こさないようにとの配慮を感じられた。しかし、その一方で俺に対する配慮は一切無いのが目に見えてわかってしまう

 だってさ、この二人は俺の性格をある程度は知っている筈だろ? それなのにこうして俺の癇に障るような言動ばかり取って……もうこれ確信犯だろ? キレていい? 千歳さんキレてもいいの? マジでハッ倒したろうかテメェ等……?

 

 ……ダメだ、今無理に動いたら四糸乃が起きちまう。気持ちよく眠っている四糸乃を無理に起こすなんてことはしたくない

 こいつ等……俺が抵抗出来ないことを知ってのこの言動か? もしそうだったらマジでイイ性格してるなこいつ等。「様々な表情のお母様写真ゲットー♪」とか言って楽しそうにはしゃいでるところ悪いが、こちとら今にも(はらわた)が煮えくり返りそうなんだけど? ……まぁ素で楽しんでるくるみんとは違い、ミクはくるみんのノリに乗せられてる感があるからまだマシなんだろうけどさ? 悪乗りしてることには変わりないけど

 

 ……もういい。もう許さん。二人とも帰ったらそれ相応のお仕置き決定な? ミクは拳骨程度で許してやらんでもないが、くるみんは簀巻きにして吊るした上で”〈蝕爛霊鬼(イロマエル)〉”の砲撃ブッパしたるから覚悟しておけよ

 

 「ちょ——ミクちゃんと比べて私の処罰が重すぎませんこと!?」

 

 「あの純粋無垢だったミクがこうなったのも、長年ミクの傍にいたお前の影響だろうが。それも今回の罰にプラスしてる」

 

 「今出す事でしょうか!? それは今出す事なのでしょうか!?」

 

 「ダメですよぉくるみん? そんなに声を出したら四糸乃ちゃんが起きちゃいますー。もう少し静かにしないと、千歳さんを余計に怒らせちゃいますよー?」

 

 「そうだぞくるみん。例え罰を受けることになっても四糸乃を起こさないよう静かに話すミクを見習え」

 

 「そ、それはまだミクちゃんの罰がワタクシほど重くないからでは——」

 

 「言い訳無用」

 

 「え、えぇ……何故だか釈然といたしませんわ……」

 

 しょうがないね、だってくるみんだもん。……まぁこちらがどれだけ言ったところでくるみんは直す気ないだろうけどさ

 

 ……え? それよりも〈蝕爛霊鬼(イロマエル)〉ってなんだだって? あれ、まだ言ってなかったっけ?

 んー……あー……そう言われてみると、まだハッキリとは言ってなかったかもしれない。せっかくの機会だし説明しておこうかな

 

 

 

 

 

 〈蝕爛霊鬼(イロマエル)

 

 簡単に言うと——【(コクマス)】の力で創り出した五河妹の〈灼爛殲鬼(カマエル)〉が、いつの間にかに俺専用へと”変異してしまった”複製天使の名称だ

 わざわざ変える必要があったのかと聞かれれば……まぁ、あるにはある。特徴や性能が本家とは多少異なるからな

 

 それじゃあ説明していくとする。まず前提として、五河妹から複製した〈灼爛殲鬼(カマエル)〉は〈鏖殺公(サンダルフォン)〉と違って、完全に俺専用になっちゃったんですよ。うーん……改造したというよりは侵蝕したって表現の方がしっくりくるかな? 多分俺の霊力が流し込まれたせいで複製した天使自体が変質したっぽいし

 何せ十香の時とは違い、直接俺の霊力を運用して複製天使を使っちまったんだ。俺の霊力によって影響を及ぼしたというのもあり得ない話でもない訳だ。……なんか俺の霊力がウイルスみたいに聞こえてくる不思議

 確認の為に、その辺りの事情に詳しそうなくるみんから話を聞いてみたところ……やっぱり本来の持ち主である五河妹の霊力じゃなかったのが原因のようだ

 天使は宿主である精霊の為の力だから、使う者に合わない力であってはいけない。故に、使う者に合わせて天使が変化する事も考えられると言う……

 ようは——柄にも無く五河妹とガチバトルすることになった俺に合わせ、複製した天使が自動的に変化したということだ。……武器を得て喜べばいいのか、俺自身の特異性に嘆けばいいのか……まぁこれからの主力武装をゲット出来たと単純に考えておけばいいか。あまり深く考えるのも億劫だし、何よりカッコいいからね!

 

 そんな複製天使である〈蝕爛霊鬼(イロマエル)〉には、〈灼爛殲鬼(カマエル)〉と比べて異なる点がいくつかあるんだ

 

 まずは……見た目だな

 形状こそ変わらなかったものの、オリジナル本来の配色とは異なるものへと変化した。黒色の部分はそのままに、五河妹のイメージカラーでもある紅色だった部分が深緑色へと変色してしまったのだ。……まぁ俺としては嬉しい限りではあるけどね

 いやね? 深緑色と黒色って結構マッチしてると思うんだよ。俺の霊装の配色とも同じだし、二つ同時に展開すると統一感があっていい感じの雰囲気になるんだよ。加えて転生してからは深緑色が身近な色になったし、今では結構気に入ってる色であるのも後押ししていると思う

 

 次に、五河妹の〈灼爛殲鬼(カマエル)〉とは違って、炎の代わりに俺の霊力が放たれる使用になったのは……前に言ったか。五河妹が放つ炎からは苛烈さが目立つ一方で、俺の霊力は苛烈さよりも不気味さが勝っていたりするので似た武器でも印象がガラリと変わっている。まぁ紅色と深緑色だからな、色によってイメージが変わるのもしょうがないだろう。文句はないけど

 そして、その使用によって大斧形態では刃に霊力をまとわせることで十香みたいに斬撃が放てるようになった。砲門形態の時には文字通りの”霊力による砲撃”を放つことだって出来るので、この複製天使は本家と同様の”近・中距離戦に適した天使”と言えるんじゃないかな? 俺は結構な拾い物を——模造品を手に入れたようだ

 

 

 

 

 

 そんな訳で「完全に俺専用に調整されてしまった色違いの〈灼爛殲鬼(カマエル)〉を、そのままの名前で呼んでしまってもいいのだろうか?」——と、思ったことがきっかけで改名することにしたのでした

 まぁそこまで深く考えて名付けた訳じゃないんだけどさ? だって俺に宿る〈心蝕霊廟(イロウエル)〉と五河妹の〈灼爛殲鬼(カマエル)〉の名称を混ぜただけだもん

 そして組み合わせた結果が〈蝕爛霊鬼(イロマエル)〉ってわけだ。……テル〇エ・ロ〇エみたいな響きになった気がするが、そこは気にしちゃいけねーってやつだ。おーけい?

 

 ——さてと。後程〈蝕爛霊鬼(イロマエル)〉でくるみんに砲撃ブッパすることは確定として——え? 慈悲? 知らない子ですね

 ……まぁ大丈夫だろ。〈灼爛殲鬼(カマエル)〉と違って炎じゃないから焼き貫かれたりトラウマ思い出したりなんかすることも無い筈だしね。……ただ某龍玉のような極太ビームに包まれるだけだから……うん、問題ないね。せいぜいナ〇パる程度だろう

 

 うし、〈蝕爛霊鬼(イロマエル)〉の解説をしたおかげである程度落ち着いた気がする。未だに周囲からは視線が突きつけられてくるけど、先程と同様にあまり気にしないよう意識すれば割となんとかなりそうだ

 あれだ、所詮は他人なんだし気にするだけ必要性皆無だったのです(悟り)

 

 「照れ顔の千歳さんはほんと可愛かったですねー。……欲を言えば、もう少し見ていたかったんですけども……」

 

 「因みにですが、ワタクシの力があれば先程の時間軸まで戻れますので、別アングルから撮影した写真をご用意することも可能です。ワタクシに不覚はありませんわ」

 

 「くるみん砲撃ブッパ三割り増し確定不可避」

 

 「新たなトラウマ回避不可避ィィィィィ!?」

 

 そうして俺が落ち着きを取り戻し始める一方で、それに不服を申し立てるアホ二人が現れるのは必然な事なのだろうか? マジでブレねーなお前等。……後くるみん、マジで叫ぶのやめろ。四糸乃が起きちゃったら五割増しだからな?

 ——そもそもな話、なんで俺の事を煽ってまで写真を撮ろうとすんだよ。そこまで写真を撮ることに固執するくるみんの気持ちが俺にはわからん——

 

 「なら聞きますが、お母様は……今の四糸乃様のお姿を写真に残したいとは思いませんの?」

 

 「…………」

 

 「ほぉら、体は正直ですわねぇ……くひひ」

 

 「その言い方やめろ」

 

 てか体に変化はないだろうが。……顔には出てそうだけどさ

 なんでだろう……凄い説得力があった。先程から当たり前のように行われている読心術が気にならなくなる程のインパクトがあったというね

 いやだってしょうがなくね? 四糸乃の寝顔写真よ? そこらのロリコンに売りつけようものなら一枚数万——いや、数十万でもまだまだ安い程度には価値があるもんなんだぜ? ——まぁ、いくら金を積まれようが非売品であるのには変わらんがな

 

 余談だが、以前にくるみんが撮ってきた四糸乃とよしのんが笑い合っているツーショット写真は俺のアルバムに厳重保管済みさ。その他のくるみんが撮ってきた四糸乃達の写真も同じくね

 思い出は大切にするべきものであり、同時に写真はアルバムに収めるものだと思うのです。——あ、本人にとって辛かっただろう写真は別だぞ? それらはこちらで丁重に処分させてもらいましたのでご安心を

 ……え? そもそも盗撮自体するなって? ……うん、それに関しては素直に悪かったと思ってる。俺が撮ったって訳じゃないけど、それを無くしても四糸乃には一度事情を話して謝る気ではいるよ

 ——その上で四糸乃の写真を保管しておくことを本人に頼み込むつもりでいる俺の心って、結構汚れてるよな……

 ……え? 今更だって? 知ってる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてと、とりあえずくるみんとミクの事は置いておこう。いちいち相手してたら日が暮れそうだし、いつまでも相手にしていられないのです。……別に相手するのがめんどくさい訳じゃない。二人の相手よりも優先して対処しないといけない子がいるだけであって、二人の相手をするのが疲れたとか……そんなことこれっぽっちも思ってないからね? うん、ホントホント。千歳さん(そこまで)嘘つかない

 

 くるみんとミクの相手を切りやめた俺は、二人から視線を外してすぐ傍にいる子に視線を向ける

 

 ——少し前から現在進行形で俺に不服を申し立てている子に——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……んで、なんで七罪はさっきから俺の足を執拗に踏んでくるん?」

 

 「…………ふん」

 

 傍目から見ても不機嫌なのがわかる程に睨みを利かせつつ、先程から俺の足を踏みつけているツッコミ要員——もとい七罪

 彼女は俺が四糸乃と和解し、アホ二人の相手を始めた辺りから俺の足を”わざと”踏みつけてきた。割と力を込めて

 七罪が不機嫌なのかは表情の変化で察することが出来たのだが、その原因がよくわからなかった。七罪が機嫌を損ねるようなことをした覚えはないんだけど、現にこうして俺の足をコンクリにめり込ませるレベルで踏みつけ——

 

 「——って痛い痛い痛い痛い痛いッ!? ちょっと待って七罪!? 流石に力込めすぎだから——っ、精霊スペックに物を言わせて踏みつけるのはガチで痛いから少し力抜いてくださいお願いしますっ!!」

 

 「……そんなに声を荒げたら起きるんじゃないの? その子」

 

 「え? ——っ、ぐ、ぬぅぅ……ッ」

 

 し、しまった……あまりの痛みについ声を出しちまった。四糸乃を起こさない為にも我慢だ、我慢するんだ千歳ぇ……

 てか七罪さん? 貴女「起きるんじゃないの?」って間違いなく確信犯でしょ? 意地の悪い笑みを浮かべていた辺り絶対ワザとだよね七罪さん? 運良く今の声で四糸乃が起きることはなかったけど、危なかったことには変わりないからね?

 全くもう、意地悪して……一先ず痛みは耐えればいいから、七罪の様子を伺いながら異議を唱えようと視線を向けた俺は——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ちっ」

 

 ——何故かさっきよりも余計不機嫌になっている七罪の姿を見ることになるのでした

 

 ……え? な、なんで? 今の何処に不機嫌になる要素があったん? さっきまでのしてやったりって顔から一変、非常に面白くなさそうな顔するのはなんでなのさ? ——てか舌打ちはやめてよ!? 七罪に睨まれるのだって嫌なのに、それに加えて舌打ちとかマジで悲しくなってくるからホントにやめて!?

 あーもうっ、ホントどうしたらいいんだよぉ……

 機嫌を直してほしいのは山々なんだけど、いまだ機嫌を損ねた理由に見当が付いていないし、話を聞こうにも今の状態の七罪が素直に話してくれるとも思えないし……くそぅ、こういうのを八方塞がりっていうのか? 七罪をそのままにしておく気なんて更々無いけど、流石に何かヒントがほしい……

 

 七罪は理由も無く意地悪をするような子じゃない筈だし、絶対に何かこうなった原因があると思うんだけど……

 

 

 うーん……

 

 

 ……

 

 

 …………

 

 

 ………………ん? あれ?

 

 

 どうにか原因を知ろうと七罪を観察すること約数十秒、俺は七罪の様子からあることに気づいた

 よく見なければ気づかないかもしれない程の一瞬の事だったけど、どうにか気づくことが出来てよかったと思う。だって、その一瞬の事ってのは——俺に対して向けられたものではなかったのだから

 

 

 時折だが、七罪は俺だけにではなく——()()()()()()()()()()()()()()()()視線を送っていた

 

 

 俺に睨みを利かせる一方で、七罪はたまに俺から視線を外して四糸乃を見ていた。俺個人に何かあると考えていたから気づくのに遅れちまったよ

 ——あ、別に四糸乃を見ていたからと言ってそれが悪いという話じゃあないよ? それを言うんだったら、先程の事で俺や四糸乃へと視線を向けている周囲の見知らぬ通行人達も悪いという話になっちまうからな。……まぁ、見られないに越したことは無いけどさ

 なら何故、俺は視線を気にしたのか? それは……込められていたからだ

 

 

 七罪の視線に——七罪の気持ちが込められていたからだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相手がこちらをどのように思っているのかを知るとき、一番手っ取り早い手段は”相手の視線に含まれる感情を読み取ること”だと俺は考えている

 視線ってのには感情を乗せられる。好奇、憧憬、羨望、敬愛、渇望、軽蔑……そういった喜怒哀楽(その他諸々)を視線に乗せて、相手に伝え伝わるものなんだ

 そして、そういった感情は意識しなくとも視線に乗っているものだ。少なくとも”感情”というものがわからない訳ではない限り、誰しもが持つ人体の機能だと思う

 

 だから俺は相手がこっちをどう思っているかを知るときに、まずは相手の視線から感情を読み取ることから始めていたりする。今だって七罪の気持ちを知るとき、真っ先に見たのが視線――相手の目だからな

 別に感情を相手に伝える手段が視線だけという訳でもない。表情や仕草、言葉からでも判断する時だってあるから一概にそれが一番だとは言わないさ。個人的に読み取りやすいってだけだし

 

 実をいうと、どうやら俺は表情などから読み取るよりも視線からの方が読み取りやすい質なんだわ

 それは何故かと聞かれれば……多分〈瞳〉の影響だと思う。前世ではそうでもなかったけど、転生してからはどうにも周囲からの視線やそれに含まれる感情なんかに敏感になった気がするんだ。実際にこうして感じ取ることが出来るようになったからな

 

 だからこそ、今の七罪が四糸乃に向けている感情に気づけたのだ。その上で……七罪が俺を睨んでくる理由も、わかった

 

 …………

 

 「……七罪」

 

 「……何よ」

 

 俺の呼びかけに()()()()()()()()態度で反応する七罪。……うん、この様子からして俺の予想は当たっていることだろう。そういう事だったか……

 

 四糸乃に向けられた視線に込められた想い……それを汲み取った瞬間、俺は七罪がなんで機嫌を損ねたのかを理解した——

 

 

 ——俺が悪かったのだと、今更理解した——

 

 

 よく考えれば気づけなくもない事だった。——いや、すぐにでも気づかなければいけない事だった

 それなのに……気づけなかった。その事実に頭を殴られるような感覚に襲われる。それほどまでの罪悪感が、俺の心にひしめいた

 最早言い訳のしようもない。言ったところで後の祭りだ。現に七罪はこうして機嫌を悪くしてしまった……

 

 

 ………………

 

 

 ……こうしてる、場合じゃない

 自身の不甲斐無さで七罪に嫌な思いをさせてしまったんだから、俺が何とかしないといけないんだ。例え今更遅いと言われようとも、七罪に誠意を示したい。嫌いになられようとも——それが何もしない理由になんてならないんだから……

 

 「……そろそろ行くんだろうし、皆のところに行こっか」

 

 「——え?」

 

 足を踏まれながらも自然体に言葉を紡ぎ、五河達の元に向かおうと七罪に話したところで——七罪は呆気に取られたような声を漏らしたのだった

 別に不思議なことではない。そもそもここには皆と買い物に来たのだ。……買う物が買う物だけに喜べるかどうかは置いておくとしてだがな

 周囲を見れば、既にくるみんとミクは五河達の近くに佇んでいた。どうやら俺と七罪が話し合っている間に向かっていたようだ。五河達の方も大分収拾がついたのか、今ではそこまで騒いでいる様子は感じられない。寧ろ俺達を待っている感じさえする

 五河達を待たせるのも悪いし、いつまでも街中で騒いでいるのも迷惑だろう。だから、特におかしなことを言っている訳ではないのだ

 ならば、何故七罪は不意に呆けた言葉を漏らしたのか? それは——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「な、なな、何を急に——っ!」

 

 「その……なんだ、これぐらい別にいいだろ? こうした方が七罪と出かけてるって感じがしていいかなってさ」

 

 

 ——俺が唐突に七罪の手を握ったからだろう

 

 

 四糸乃を背負ってはいるものの、四糸乃一人を支えるぐらいなら片腕だけでも十分だからな。——だから俺は七罪と手を繋ぐことにした何も不自然な事はないだろう?

 ……え? そもそもなんで手を繋ぐ必要があったんだって? そりゃあ……そうした方がいいからだよ。七罪の気持ちを考えるならさ

 

 だって七罪は……きっと()()()()()()()()()()()()()んだろうからね……

 

 七罪が機嫌を損ねたことに気付いたのは四糸乃と和解した後の事だった

 その時には既に七罪は機嫌を損ねていたし、それと同時に俺の足を踏み始めていた。だから七罪が機嫌を損ねる理由に、俺だけではなく四糸乃も関わっている可能性はあったということになる

 そんな可能性を七罪が四糸乃に向けた視線から読み取ることが出来たから、俺は七罪の気持ちを汲み取ることが出来たんだ。俺に苛立ちをぶつけつつ、四糸乃に視線を向けていたその訳を——

 

 七罪は……四糸乃が羨ましかったんだと思う。自分と同じぐらい背丈の子が、誰かに相手してもらえている状況を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——令音さんから連絡を受けた後、七罪は俺とくるみん、ミクの三人によって実施された『七罪様イメージアップ大作戦!』(くるみん命名)を受けていた

 だって七罪、俺達の前でなら今の姿でも(今更隠しても遅いから)いいみたいなんだけど、流石に他の奴らに今の姿を見られるのは我慢ならないみたいでさ? 一時的に俺達三人を幼稚園児程度の年齢まで体を若返らせ、身体的に優位に立つことで七罪がこれまで溜めてきた鬱憤をぶつけようとするぐらい嫌がったんだよ

 ”他人の体を好き放題変化させることが出来る”という点で、七罪の天使に恐ろしさを垣間見た瞬間だったね。――まぁ俺達三人の能力がどれもこれも天使の力によって周囲に影響を与える系の能力だから、別に身体的に負けていても何ら問題は無かったんだけどさ?

 

 くるみんは過去に戻ることが出来ることから事前に”七罪の天使の能力を避けた結果”にしてきたようで、七罪の天使の能力が発揮後も姿が変わっていなかった。……その事に七罪はチート過ぎると嘆いていたよ

 ミクは天使の力を宿した声を七罪に聞かせ、直接”お願い”することで七罪自身に効力を解いてもらうという荒業を披露した。ミクの力とはいえ、能力をかけた矢先に自分で元に戻す羽目になったことが余程屈辱的でショックだったのだろう……目が据わって現実逃避し始めていた気がする

 そして俺も七罪の〈贋造魔女(ハニエル)〉を複製することが出来るから、いつでも自分の意思で能力を解くことが出来るんだよね。……うん、七罪は俺達三人と相対するには相性が悪い気がしてならない

 

 ——だから、俺はあえて戻らなかった 

 ……いや、だって七罪があまりにも可哀そうで心が痛んだんだもん。自身の力が一切通用しないことに気づかされたことで、打ちひしがれるように部屋の隅で体育座りしようとする姿が見てられなかったんだよ。——だからせめて俺だけでも七罪の憤りを受けようと思ったんだ

 

 ただ……抵抗出来ることを黙っていたのが悪かったんだと思う。幼児の姿から戻らない俺を見た七罪が「どうせあんたも対処できるんでしょ!?」と食って掛かってきたんだ。若干涙目の七罪の姿がいたたまれなく、俺は咄嗟に誤魔化そうとしたんだが……運が悪いことに、こっちの事情を知る由もないくるみん達が暴露してしまった

 それで結局七罪に俺の能力を知られることとなり、自身の無力さを突き付けられた気がした七罪はより一層落ち込んでしまったのだ。……余計な気遣いもそれを助長させたとか。役立たずでごめんなさい……

 

 ……話を戻すよ

 そんな訳で、自身のコンプレックスから外出することを拒んでいた七罪だったが、俺達三人が最大限に助力したことでなんとか外出する事を了承してくれたのだった

 正直な話、俺達が全力で作戦に取り組んでいなかったら七罪は今日この場に来なかったかもしれなかい。能力まで使って外出を拒否していた七罪の拒みようはホントすごかったからなぁ、ありえなくもない話なんだ。いわば社会復帰を拒むヒキニート並みの拒否反応を見せていたよ。……あ、そのぐらいの反応を見せたってだけで七罪はヒキニートなんかじゃないからね? そこんところ間違えないように

 

 そんな七罪のコンプレックスだった姿も、今では見違える程に生まれ変わっていた

 わさっとしていた髪も七罪の髪色に合った髪留めを使い、低めの位置でポニーテールにまとめたことで不潔感なんて感じさせないし、カサカサだった肌だってミクの入念(意味深)なエステによって少女特有の潤いを取り戻した。くるみんが施したナチュラルメイクで七罪に秘められていた魅力が引き出されているし、服装も明るい配色を組み合わせて着用したブラウスとスカートによって清楚感が醸し出されている。猫背気味だった姿勢もミクの指導(意味深)によってある程度改善したから立ち姿も問題ない

 

 そういった経緯によって、今の七罪は「正にこれぞ女子力!」と言わんばかりの姿へと変貌したのだ

 鏡に映る七罪は誰の目から見ても美少女と言えるだろう。正直な話、メイクやエステでここまで変わるものなのかと俺の方がビックリしたよ。……ちょっとだが、俺も少し興味が湧いてきて——あ、いや、やっぱ今のは無しで。そんなことを考えるほど乙女チックな性格じゃないでしょうが千歳さんや

 コホン……言っておくが、驚いたのは俺だけじゃない。七罪の変貌にくるみんも感嘆とした吐息を漏らしていたし、ミクなんかは「こんなところに金の卵が……」などと真顔で呟いていたぐらいだ。ミクが真顔になるとか珍しいなんてもんじゃないぞ? 幻のポ〇モン並みに希少だと言っても過言じゃないから、余程七罪の変わりようには良い意味で驚かされたんだろう

 

 ——そして当事者である七罪はというと、そんな自身の姿が一向に信じられず本当にこれが私なのかと現実味が湧かなかったようだ。いろいろ理由をつけて否定しようとしていた

 しかし、七罪が鏡に映る自身の姿を否定する一方で……おそらく無意識だろうけど、生まれ変わった自身の姿が映る鏡を何処か嬉しそうな表情で眺めていたのだ

 何かと自虐に走る七罪が、無意識にとはいえ嬉しそうに微笑んだのだ。一瞬の事だったとはいえ、その感情は間違いなく自身の変化を素直に受け止め喜んでいたことに他ならない。これなら……今すぐにとはいかなくとも、いつか七罪は自分の姿を受け入れてくれる日がきっと来るはずだ。……そう、信じたいと思ったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言った経緯によって、いくらかの説得と共に七罪は外出する事を受け入れてくれたんだ

 そもそも、何故七罪がそこまで人の前で自身の本来の姿を晒すのが嫌だったのかというと、どうやら以前に現界した際に——七罪が初めて現界した際に何か原因があったようだ

 その原因を、七罪は大雑把にだが教えてくれた

 時間にして数分程度の短い時の中で、諦めと愚痴を織り交ぜた言葉によって紡がれた七罪の過去——

 

 

 ——七罪は……誰一人として”七罪”の事を見てくれる人に出会えなかったのだ——

 

 

 初めての現界。見知らぬ土地を前にした七罪は、一体どんなところなのだろうとの期待があったことだろう。七罪ぐらいの年齢(おそらく見た目相応の精神年齢な筈)なら見知らぬものに興味が湧かない筈もない

 見知らぬ土地で、何も知らない七罪は未知への期待や興味を抱いていたことだろう……

 

 しかしそこはまだ幼さが残る七罪だ。時間が経つにつれて徐々に不安や恐怖が増長していった

 そしてそれがピークに達しそうになった時、七罪は周囲を頼ることにしたのだ。その不安や恐怖を紛らわすために……

 

 ——だが、人間は見知らぬ他人に対して酷く冷淡な時がある

 知り合いでもなければ態々関わろうともしない。例えそれが助けを求められているとしても、「自分には関係ない」「誰かが何とかするだろう」「頼られても迷惑だ」などと自分に言い訳して関わることを避けようとする。特賞な心を持ち得ない限り、態々厄介事に首を突っ込みたくはないということだ。それが悪い事かどうかは立場によって変わってしまうことだろう

 

 七罪は出会いに恵まれなかったのだ

 五河みたいな誰にでも真摯に対応するような馬鹿真面目な人に出会えれば、七罪もここまで捻くれることは無かっただろう。ちゃんと七罪の事を見てくれる相手と出会いさえすれば、七罪もここまで自身の姿を卑下することは無かったはずなのだ

 

 そして自身の幼い姿に嫌気が差した七罪は姿を変えることにした

 子供だから相手にされないなら、大人の姿ならどうだろうか? それもとびっきりの美人になれば、きっと誰か相手にしてくれるはず——そう考えた七罪は、奇しくもその願いを叶える手段を持っていた為すぐさま行使した

 そうしたらどうだろうか? 本来の姿の七罪を気にかけてくれる者は誰一人としていなかったのに、七罪が天使の力で大人の姿に変わった途端に起きた手のひら返し——相手にしないどころか、寧ろ近寄ってくる者達が現れたのだ。……だから、七罪がそう思い込んでしまうのも無理はないんだ

 

 

 ——本来の姿では誰も私を相手にしてくれないんだ、と——

 

 

 だから七罪は本来の姿を嫌った。嫌い始めていった

 その姿では誰も相手にしてくれない。その姿——そんな姿の私なんて、誰も見てはくれないんだと……

 

 今の七罪もその想いは決して消えていないことだろう

 例え自分着飾ったところで自分は子供なのだから、また誰も私を相手にしないんじゃないかと——またあの時みたいに誰も自分を見てくれないかもしれないんじゃないかと、そんなトラウマにも似た不安を抱え、怯えているかもしれない……

 

 それなのに……俺はそれに気づけなかった

 最早七罪は俺の身内——家族のようなものなんだ。そんな家族にも等しい七罪の苦悩や不安に気づけなかったなど……家族だと思う資格が無いじゃないか

 

 「……ごめん」

 

 「ほ、本当に何なのよ? あんたがそんなしおらしいと調子狂うじゃない……」

 

 気づけば七罪に謝罪の言葉を漏らしていた

 同情を誘うような言葉が出たことに、情けなさが込み上げてくる。七罪の方が辛いっていうのに、先に許してもらおうと考えてしまう自分の心に嫌気が差すし、何より七罪の前で弱気なところを見せてしまっている自分自身が……ホントどうしようもないぐらいに情けなくて苛々する

 

 久々の再会だからと五河達ばかりを気にかけていた。七罪が不安を抱いていたかもしれないっていうのに、四糸乃のことばかりを気にかけていた。そして七罪が俺の足を踏んでいるときでさえ、くるみん達の事を優先して後回しにしてしまった……

 七罪の事を考えていなかったと言ってもいい行いだろう。七罪が不機嫌になっていたのはいわば救援信号だったというのに、それに気づくのが遅れてしまった

 五河達がいるから、くるみん達がいるからって七罪の事を任せようとしてたんじゃないか? 皆なら七罪の相手をしてくれるって、七罪の事を見てくれるって安直に考えていたんじゃないか?

 ——そうじゃないだろ。何やってるんだよ俺は……これじゃあ七罪と交わした”約束”を破ることになっちまうじゃないか! せっかく七罪が信じようと努力してくれているのに、何を他人を頼りにしようと考えてんだよッ

 七罪と交わした”約束”を破る気か? 七罪に抱いた想いはその程度の物なのか? 七罪の事を家族も同然だと思っていたのは噓だったのか?

 俺の”約束”ってのは……そんな薄っぺらいもんだったのか……?

 

 俺は……俺が交わした”約束”は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『——だから、今の私に価値なんて無いのよ……あの姿じゃないと、誰も私を見てくれない……だから私は……』

 

 『……なぁ七罪、あのさ……俺と”約束”をしてみないか?』

 

 『はぁ? いきなり何よあんた?』

 

 『まぁとりあえず聞いてくれ。……よし、じゃあ七罪——試しに俺を信じてみろ』

 

 『………………は?』

 

 『俺はこう見えて世話焼きでな? お前みたいな自分に対して捻くれてるような奴を見ると、どうにも見て見ぬふりする事が出来そうにない質なんだよ。少なくとも——今の七罪を”独り”にしたくはない』

 

 『な——そ、それがなんだってのよ! あんた余計なお世話って言葉知ってる!? ハリボテみたいな上辺だけの優しさなんて惨めなだけよ! そもそもな話っ、どうせ「冗談でしたー♪ ……え? 何? 本気にしたの? マジウケるんですけど—」みたいな相手の反応を見て面白がるような、そんな——』

 

 『わかってる! ……お前がすぐに人を信じる事が無理なのは、今の話を聞けば嫌でもわからされたっての。……だからこその”試しに”なんだよ』

 

 『……?』

 

 『七罪は……一度も信じようとしたことが無いだろ? どうせ誰も自分を見てくれないからって理由で他人を信じない——信じられる気になれなくなった。だから……七罪は誰かを信じるってことを知らないだろ?——それだといつまでたっても変わらない。他人を心から信じることなんてできやしねー……そうだろ?』

 

 『それ、は……そうかも、だけど……で、でもっ——』

 

 『——俺を信じてくれるなら、俺はお前の傍にいる』

 

 『————っ』

 

 

 

 

 

 『七罪、お前は俺の事を信じてみろ。その代わり——俺はお前が望む限り、七罪の傍にずっといてやる。それが俺から提案する——”約束”だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——絶対に破っちゃいけないんだっ!!

 

 当たり前だ、何の為に交わした”約束”だと思ってんだ? ——七罪の事を思って交わした”約束”だろうが!

 履き違えんじゃねえ、この”約束”は自分の為に交わしたものなんかじゃ断じてねぇ! 七罪に自分の姿を受け入れてもらう為の”約束”だろ? ——そこに俺がどうとか余計な事を考えてんじゃない! ”約束”を守り通す気でいるんなら、例え失敗しようが選択を間違えようが——意地でもやり通す気概を示すんだよ!!

 

 「——七罪」

 

 「っ、な……何?」

 

 頭の中で考えをまとめた俺は、改めて七罪の名前を呼んだ

 俺の声色が先程までとは違ったからか、七罪は一瞬身を強張らせていた。そんな七罪の姿を視界に収めながら——

 

 「……”約束”、だもんな」

 

 「ぁ……っ……」

 

 ——今度こそ忘れない為に、七罪の前で誓いなおす

 その決意に影響されてか、俺からは絶対に離さないようにと繋いでいる手を固く握りなおした

 勿論七罪が嫌がれば離す気ではいる。ただ……これだけは七罪に伝わってほしかった

 

 

 ”約束”は未だに続いているっているんだと——ずっと七罪の傍にいるってことを……

 

 

 自分の意思を七罪に改めて伝えた俺は、七罪が何か反応を示すまでそのまま待つことにした。今のところ七罪から手を放す気配は見られない

 急かすつもりはない。七罪にも自分の考えをまとめる時間が必要だろうし、急かせば急かす程に自身の意思を反映出来なくなったりもするから下手に焦らす気なんてない

 

 少し伝わりにくかったかもしれないけど……これが、俺なりの決意表明なんだ

 だから……待つよ。七罪がその気になるまでさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「———————————————————」

 

 

 そうして暫くの沈黙が続いた後、七罪は俺の言葉に返事を返してくれた

 

 その七罪の言葉に今度は俺が呆けてしまった

 

 俺から顔を背けつつ、七罪はか細い声で呟いた。周りの喧騒にかき消えてしまいそうなほどのか細い呟きだったが、すぐ傍にいた俺の耳はしっかりとその呟きを拾ったのだった

 その言葉を聞いたとき……何故だかその言葉の意味をすぐに理解する事が出来なかった

 ——しかし、その言葉に込められた想いだけは十分に伝わってきて、次第に言葉の意味を理解していくと——七罪の想いに俺は心が昂った

 嬉しさが込み上げてきてしょうがない。あまりの嬉しさに——

 

 

 

 「——ふふっ、あぁもうほん——っと可愛いよ、七罪はさ」

 

 

 

 ——つい、笑顔を浮かべながら笑声を溢してしまった

 そんな俺の反応がお気に召さなかったのか、七罪は俺と繋ぐ手に力を込め始める。——まるで握り潰さんばかりに握られた手の痛みに顔が綻んでしまう

 だって、七罪に握られる手の痛みをどうしようかと考えていた時に……気づいてしまったから

 

 

 

 髪をまとめたことによって露わになった七罪の耳が、赤く染まっていることを——

 

 

 

 その変化で七罪がどういった気持ちなのかがわかってしまう

 そんな恥じらいを見せる七罪の姿が可愛いくて、握りしめ踏みつけられる痛みを耐え忍びながら——お返しとばかりに俺からも強く手を握り返すのだった

 

 

 この(”約束”)をもう二度と離さない(忘れない)ように……

 

 




七罪との”約束”……この内容は、ある意味千歳さんの”本質”を垣間見せているかもしれません

さて、これにて第四章は終わりです

次は第五章——彼女が、覚醒します

それでは

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