俺が攻略対象とかありえねぇ……   作:メガネ愛好者

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メガネ愛好者です

今回人口密度……精霊密度? 高いかも
とりあえず士道PTと千歳PTが合流します

それでは

追記:感想に指摘がありましたので、一部伏字を入れました


第六話 「明らかに人選ミス? 知ってる」

 

 

 しばらくして七罪のブラッシングを終えた千歳は朝食の準備に取り掛かり始めた

 精霊故にいくら食事を取ろうが体格に変化が現れる可能性は少ないものの、こういったものは気持ちの持ち様で変わる事もあるのではないか? そういった新しい変化によって七罪が意識するようになれば、そこから身体にいくらかの変化が現れるかもしれない……所謂プラシーボ効果というものを試してみようと千歳は考えたのだ

 それにこちらが積極的に協力しようという姿勢を見せれば、七罪も少しは自分に自信を持ってくれるのではないかという思惑もあったりする

 そうなれば七罪も自分の姿をを好きになれるかもしれない……自身を偽らないで済むかもしれないのだ

 ならば千歳が協力しない訳にはいかないだろう。基本的に千歳は精霊相手なら真摯に対応するようにしているのだから

 

 それに……いや、これは今言う必要はないか……とにかく、今の千歳は七罪の為ならある程度の事はやってやろうと思っていることだろう

 

 

 そんな千歳が気にかけている七罪はというと——

 

 

 「美容は常日頃の努力によって結果が出るものですけどぉ、一度やるだけでも違いが現れる方法もありますからねー。それらの要点さえしっかり覚えれば、それだけで七罪ちゃんもすぐさま美少女に早変わりですよー!」

 

 「……ふん、そう簡単に微少女になれるんなら苦労しないわよ」

 

 「七罪様、字が違います」 

 

 美九と駆瑠眠の二人が開いている『美少女に到るまでの過程』なる名目の講習会をリビングにて聞いているのだった

 以前に使ったホワイトボードに細やかな説明と適切な図を書き記し、それを補足するように説明しながら二人は己が技術を七罪に伝授している

 やはり元男の千歳と比べれば、二人の知識はなかなかに要点をついている。それに千歳は「これが本物の女子力か……」などと自身が持ちえない知識を目の当たりにしたことで感慨深いものを感じていた

 

 そんな三人からは他人行儀だったり余所余所しい雰囲気は全く感じられない。出会い当初と比べれば七罪の対応が軟化しているのが見て取れる

 美九に対しても苦手意識はあれど明確に拒絶するような事はなくなった。詳しい話は省略するが、帰宅して来てからの二人の対応によって二人はなんとか和解したのだ。……なんとか和解したのだ

 とりあえず七罪は千歳達三人に対していくらかは心を開いてくれたようで、初めの頃と比べれば警戒心も薄れてきている。今では明らかな拒絶を見せていた美九にも多少柔らかい対応をしているのが見受けられる

 そんな七罪の姿が微笑ましく、ほのかに感じる和やかな雰囲気も合わさってか、リビングの三人を眺める千歳は意図せずして微笑んでしまうのだった……

 

 

 

 

 

 数分前に遡ることになるが、美九と駆瑠眠が帰宅した時には既に七罪は帰宅前と比べて多少の変化を現していた

 

 千歳は二人が帰ってくるまでの間、七罪が今の自分の姿を好きになれるようにとあれこれ手段を講じていたのだ

 

 まず初めに、千歳は七罪と『ある約束』を交わしてそうそうお風呂に連れていくことにした

 話を聞けば七罪はお風呂に入ったことがないという。精霊が持つ霊装によって汚れを溜め込むことがない事を理由にか、七罪はお風呂に入ろうとも思わなかったようだ。それを聞いた千歳としては気が気じゃなかったという

 無理もない。お風呂好きな千歳にとって、お風呂に入らないなどという事態は考えられない事なのだ。正気でなんかいられない、寧ろ発狂するレベル……とまではいかないものの、決して耐えられるものではなかった

 だから千歳は七罪と共に入浴することにした。……決して自身がまだ入っていなかったからという理由ではない

 それを嫌がった七罪ではあったのだが、千歳と交わした『約束』の内容上強く拒むことが出来なかったので断念。ここで一度目となる『約束』を交わした事に対する後悔は生まれたのだった

 

 しかし、いざ入浴した七罪が感じたものは……安らぎだった

 心も体も温まる湯加減に全身が脱力し、人には見せられないような緩みきった顔を千歳に晒してしまっていた。千歳はそんな七罪の姿を満足そうに見つめていたという

 更にはシャンプーやボディーソープなどの洗浄も初体験だったにもかかわらず、千歳の手際の良さによってそこまで苦も無く終えてしまった。寧ろ心地よかったことに七罪は内心驚いていた

 千歳としては前世の幼い弟妹にもやっていた事と同様だった為、どうすれば七罪が嫌がらないか、寧ろ受け入れてくれるかを直感的に見切っていた。人によって多少は異なれど、要点はある程度同じである為そこまで苦戦はしなかった

 

 入浴を済ませた後も千歳の手は止まらなかった

 お風呂上がりに七罪の湿った髪を見た千歳は、ドライヤーでほんの少し乾かした後に次なる行動に移ったのだ

 七罪の髪をほんの少し湿らせたままの状態まで乾かした後、千歳はそのまま七罪をベランダに連れて行った

 風呂上がりに外へ出ては風邪をひくのでは? と思いがちだが、霊装を身にまとっている二人にはあまり関係のないことだったりする

 

 そして七罪をベランダに連れ出した千歳は……なんと七罪の髪を切り始めたのだ

 

 〈瞳〉の力を使って鋏と櫛を手元に創り出した千歳は、七罪に一声かけるなり何の躊躇もなく髪を切ったのだ

 急に千歳が髪を切り始めたことには流石の七罪もギョッとしたようだ。髪は女の命ともいうし、例え嫌っている姿だったとしても気にしないはずが無かったのだ

 しかしそれも、七罪が冷静に状況を見たことですぐさま落ち着きを取り戻すことになる

 何せ千歳に切られた髪はほんの数ミリ程度であり、同じく〈瞳〉の力で創り出した姿見に映る自身の姿を確認しても外見に差異が出ない程度にしか切っていない事が分かったからだ

 それでもなんで急に髪を切り始めたのかが分からなかった七罪は、疑問と不満を合わせて千歳に問いかけるのだった

 そして問いかけられた千歳の言い分はというと——

 

 「今まで手入れも何もしていなかったからか、ところどころの髪の長さにばらつきがあったんだよ。どんなもんでもそうだが……まとまってたほうが綺麗に見えんだろ? なんで、七罪の長い髪を生かすように長さを切り揃えてるって訳だ」

 

 ――というものだった

 ある程度同じ長さに切り揃えれば、その分まとまりがあって清潔さを感じられる

 特に七罪みたいな癖っ毛が強い髪の場合は、下手に直すようにはせず自然な形に合わせた方が見た目もよくなると千歳は考えたのだ

 結果、未だにわさっとした髪ではあるものの、当初と比べれば手入れが行き届いている感じに見えてくる。いわば『雑草だらけだった荒地』が『綺麗に除草された更地』に変わったような感じである(例えが酷い)

 

 「私を荒地〇魔女とでも言いたい訳?」

 

 そんなことは言っていません。貴方の天使に『魔女』の名があり、識別名が〈ウィッチ〉だからと言ってアレと同列にするはずがありませんから

 

 ……コホン。本題に戻ります

 実際に美九や駆瑠眠に確認を取ってみたところ、帰宅時の混乱で指摘するのに遅れはしたものの七罪の変化には気づいていたようだ

 そして千歳の言葉と七罪の姿を見た二人——特に美九が先に立って協力したいと申し出たことをきっかけに仲を深めていったのだった

 

 千歳が疎い部分を補うように、二人は今までの経験で培ってきた技術や知識を七罪にレクチャーしていく

 美九はエステを中心に、駆瑠眠はメイク技術を伝授していく。後ほど美九が七罪に簡易エステを施すことになるのだが……それはまだ後の事だ。少なくとも朝食前にすることではない為、今は『ちょっとした裏技テクニック』と細かなポイントを含めつつ、七罪にメイク技術を教えているようだ

 千歳としても力になれればなと考えはすれど、流石に美容法までは知らないので二人にお願いすることにした。下手に根拠の無い自信で何かやって取り返しのつかないことになるんだったら素直に協力を願い出た方が利口だろう。今回は願い出るまでもなかったようだが

 

 そんなことを考えつつ、千歳は朝食の準備をさっさと終わらせようと手を動かしていく

 その間に「あいつらの口に合えばいいけど……」と、自身の作る朝食に少し不安がよぎったりもしていたが、そこは相手次第であるので確認のしようがないためあまり考えないことにした

 別に千歳は料理が下手な訳ではない。前世で弟妹の世話をするためにいち早く身につけた技術と言ってもいい料理には少し自信があるぐらいには作れるはずだ

 それでも称賛されるほど美味しいものを作れるわけではない。良くて「また食べてみたい」、悪くても「まぁいいんじゃない?」レベルの腕前だ

 故に相手が絶対に美味しいと言えるような料理を作れる訳ではないのだ。言うなればその時の千歳の気分次第(適量次第)で味が変わると言っても過言ではない

 しかし、だからと言って粗末なものを出す訳にもいかない。リビングのほのぼのとした空気に意識が向きつつも、千歳は改めて朝食を作ることに集中するのであった

 

 

 

 

 

 ……そんなときである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——Get 〇own Get 〇own 闘〇の時刻 脆弱な心の〇まに ♪——

 

 「ん? 珍しいな……」

 

 不意に千歳の方から何か雄々しい曲が流れ始めたのだった

 

 突然の事でリビングにいた三人も呆気に取られてしまい、その発生源であろう千歳の方へ眼を点にしつつ視線を送るのであった

 そんな三人の視線も気にぜずに、千歳は一旦朝食の準備を取りやめ――未だに曲が流れ続ける携帯を懐から取り出したのだった

 

 「着メロ!? 何故そのチョイスを!?」

 

 「燃えるだろ? お気に入りだ」

 

 「ちょ、それよりも私としては千歳さんが携帯を持っていたことにビックリなんですけどー!? なんで教えてくれなかったんですかあ!?」

 

 「だって俺、ミクのメアド知らねーし……知りたい?」

 

 「是が非でも!!」

 

 「脆弱な心……なんだ私の事か」

 

 「そこは反応するところじゃありませんわ!?」

 

 「とりあえず電話に出っから少し声抑えてくれな? あと七罪、案外俺も脆弱だぜ?」

 

 「お母様!? それ威張れることではありませんからね!?」

 

 予想外の出来事に場は騒然となり、最早講習会を行う雰囲気ではなくなってしまった

 そんな状況も意に介さず、千歳は待たせるのも悪いと着信を繋いで発信元と会話し始めてしまうのであった

 その間にもリビングでは騒がしく言葉が飛び交っている。七罪もそれに参加している辺りこの環境に対応してきていることが分かるだろう。

 ……それが彼女にどういった影響を与えるかはいまだにわからない。せめて常識は捨てないでいてもらいたいものだ

 

 そして千歳が数回受け答えをした後、不意に耳から携帯を離して三人に呼び掛けるのであった

 

 「……おーい、お前らー」

 

 その一言で騒がしかったリビングが一旦静まり返り、三人が千歳へと注意を向けるのであった

 そんな三人の目には、千歳の何やら心底複雑そうな……それでいて、何処か真剣な表情が目に入る

 一体電話の先で何を聞いたのか……三人は千歳の表情から何か言いにくい事でも言われたのかと予想しながら言葉を待つことにする

 

 そして千歳は三人の意識がこちらに向いたことを確認しつつ、次に予想される事態——主に美九と駆瑠眠が喜んで舞い上がり、千歳と七罪は頭を抱えることになろう質問を伝えるのであった……

 

 

 

 

 

 「まだ決まってはないみたいなんだけどよ……プールに行くって言ったら、みんなは行きたいか?」

 

 

 

 

 

 ——案の定、その質問に二人ほど暴走しかけたのは言うまでもなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ————————————————————

      なう・ろーでぃんぐ

   ————————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺、五河士道は今……頭痛に悩まされていた

 

 先日、様々な事がありすぎたせいで俺の記憶許容量は限界まで来ていると言っても過言ではないだろう

 

 本当の狂三。その本性と恐るべき力

 千歳を『お母様』と呼んでいた狂三の堕天使、駆瑠眠

 『スパイ〇ーマッ!』のような登場と共に場を掻き乱した千歳

 そんな千歳にとうとう怒りに理性を失った修羅()の降臨

 修羅()——琴里が実は精霊で、混乱の元凶である千歳とガチバトル

 最後はお互いに大質量の霊力のぶつけ合い。結果は校舎消滅

 生徒が移された公民館は大パニック。事情徴収されかける

 

 たった数時間の内にがらりと変わった日常。これが精霊の力か……なんて、事情徴収しに来た警官を前に現実逃避しかけそうにもなった

 なんとか〈フラクシナス〉の構成員の人に助けてもらった事で事情徴収から逃れることが出来たのだが……〈フラクシナス〉に回収された先に待ち受けていたものもまた……悲惨だった

 

 虚ろな目で事後作業に取り組む〈フラクシナス〉のクルー達

 その中で令音さんが胃薬の入った瓶を片手に倒れている

 

 不穏な空気が流れる司令室。最早見てられなかった。痛ましすぎて

 その場は(一応)副司令である(あの)神無月さんが(珍しく)的確な指示を出していたことで混乱は免れたようだ

 しかしまぁ……言っては何だが、あの神無月さんが冗談抜きで真面目に動いていたことに目を疑ってしまった

 それほど事態は深刻だったのだろう。街の惨状も——琴里の現状も

 

 その日はみんな疲れも溜まっているという事で、一旦状況の整理も兼ねて休息を取ることになった

 そして次の日、あれから何とか復帰することが出来た令音さんに事情を聴くことで事の不味さを理解する事になったのだった。……飲み物感覚に胃薬の入った瓶を持たないでください。絶対に大量の角砂糖を入れたコーヒーより体に悪いですからね?

 

 

 

 

 

 今、琴里は精神的に危うい状態らしい

 自身の霊力に耐え切れず、その影響でか『破壊衝動』に駆られてしまう状態が続いていた

 今は精神安定剤や鎮静剤などで症状を抑えているようだが、それも長くて――あと二日

 あと二日でどうにかしないと琴里は琴里でなくなってしまう。そんな現実を叩きつけられた俺は頭がどうにかなりそうだった

 

 

 その上、琴里の現状を打破する為の攻略法が……文字通り琴里を攻略する(デレさせる)とかホント頭がどうにかなりそうだった

 

 

 今の琴里は精霊だ、精霊の対応策としては何ら問題はないだろう(……いや、元から問題大有りか)

 しかし琴里は妹だ。例え美少女であろうが妹なんだ

 俺は……妹を口説かなければいけないのか?

 現実的に不味くはないか? ……いや、血は繋がってないからセーフ? いや世間的にはアウトだろう

 俺は琴里の事をそんな目で見た事なんてない。俺にとって大切な妹としてしか見た事がなかったんだ……そんな俺が、琴里をデレさせる事なんて出来るのか?

 

 

 そんな不安が積もる中、世界は俺に頭の整理をつける暇さえ与えてくれないようだ

 

 

 令音さんから二日後に琴里とデートすると言われてからは……いろいろありすぎた。衝撃的な事を中心に……

 

 

 

 

 

 「ねえさま~どこ~?」

 

 何があったのか聞きたくないレベルで精神を病んだもう一人の妹――真那

 どうやら俺が狂三の元に向かう前、琴里に呼び出しがあったらしい

 そして呼び出された先に待ち構えていたのが……現実との相違点を尽きられた為か一時的に情緒不安定になった真那だった

 どうやら真那自身の方で何かがあったようだが、詳しい事は真那が復帰しない事にはわからないらしい。なんで俺の妹は二人とも精神的に異常をきたしてるんだ……泣きたい

 令音さんは他にも何か言いたげであったが、今は琴里に集中してもらいたいとのことで詳しい話を教えてくれなかった

 たった数日ではあれど、俺を兄と呼んで親しんでくれた子があんな状態になっている。そんな事実に、何もしてやれなかった俺は不甲斐無さと遣る瀬無さを感じずにはいられなかった……

 

 

 

 

 

 「全ては、〈イフリート〉を殺すために……私は……」

 

 過去に両親を精霊に――『炎の精霊』に殺されたことを伝えてきた少女――折紙

 前々から精霊に対する憎しみは人一倍強かった彼女は、今回の精霊……琴里を目にしたことで以前よりも険しい顔つきになっていた

 先日の狂三の件では疲労が大きかっただけで外傷はなかった折紙は、次の日の朝に俺の家を訪ねて来たのだ。炎の精霊の事を聞くために

 あの時の折紙は疲労によって視界がぼやけていたらしく、〈イフリート〉の顔をハッキリ見た訳じゃないらしい。更に、その後に起きた琴里と千歳の戦闘の余波で気を失ってしまったようだ

 琴里が炎の精霊だと気づかなかったのは運が良かっただろう。下手をすれば……玄関を開いた先に銃口を向ける折紙がいたかもしれない

 十香や四糸乃、詠紫音が一時的に〈フラクシナス〉に行っていたのも運が良かった。今の殺気だった折紙と精霊であった十香達を対面させたらどうなるか……予想が出来なかったから

 それから折紙の用件を一通り聞き終えた後、俺はわからない、見た事のない精霊だった事だけを折紙に告げるしかなかった。そうでもしなければ、最悪折紙と琴里が殺し合うことになるかもしれなかったから……

 そして俺からあまり情報を得られなかったことに、折紙は悔しさでか唇を噛んでいたのが帰宅した後でも印象に残っている。正直……折紙のあんな辛そうな顔は見ていたくない

 「なんでこんなことになってんだよ……」と、俺は現実の理不尽さに頭を抱えるしかなかったのだった……

 

 

 

 

 

 今回の件で琴里以外にも複雑な事情を持った者達がいる事を知ってしまった

 それら全てに対応出来るなんて、そんな身の程知らずな事など考えてはいない

 それでも……どうにかしたい、助けたいと思ってしまう

 みんな俺にとって大事な奴らなんだ。それを見捨てる事なんて出来る訳ないじゃないか……

 

 

 ――そんな俺の心情も、どうやら令音さんにはお見通しだったようだ

 

 

 令音さんはこうなる事を予想してか、『とある子』に助っ人として救援を依頼したらしい

 今回は琴里のデート時のアシストとしてその子が来るようだが……一体誰なのかを聞いても令音さんは教えてくれなかった

 とりあえず明日、十香達の水着を買いに行く際に会うことになるとのことなのだが……

 

 

 なんでだろう……嫌な予感しかしない……

 

 

 因みに、何故琴里のデートに十香達の水着を買いに行く必要があるのかというと……それは……不服ではある内容だが、俺の為らしい

 琴里とのデート先が『オーシャンパーク』という屋外プールがあるテーマパークに決まった際、『琴里以外の女性の水着に見惚れないよう慣れておけ』と、令音さんから指示されたのだ

 琴里が大変だって時にそんなこと……とは言うものの、俺も結局は一人の男のようだ。絶対に見惚れないなんて何があるかわからない以上断言出来ないのもまた事実。こればかりは人間の、如いては男性の(さが)であるため回避しようがない

 すまん琴里、こんな情けないお兄ちゃんを許してくれ……

 

 

 ——ヘタレ——

 

 

 ……なんか理不尽に罵られた気がする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日、俺は十香達と水着を買いに来ていた

 途中で折紙や例の子と一緒になり、なんやかんやで彼女達も共に水着を買いに行くことに

 折紙はともかく、例の子”達”は明日オーシャンパークで支援する為にも水着が必要とのことなのだ。だから同行する事に関しては何も文句はない

 

 文句は、ない――

 

 

 

 ――ただ

 

 ただ、一つだけ……言わせてほしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……令音さん。どういうことですか」

 

 『……解析結果が出たよ。チサトが連れて来た駆瑠眠とは別の子達、彼女達も――』

 

 「聞きたくない。それを聞きたいんじゃない。だからその先言わな——」

 

 『――精霊だ』

 

 「…………」

 

 『……すまない。流石に……これは予想外だったよ……』

 

 今、令音さんから聞かされた無情な一言

 聞こうとしていたことではなかったものの、その衝撃の事実に……ホント、世界ってままならないものだなぁ……なんて、途方もない事を考えてしまう俺は、目の前で繰り広げられる彼女達の談話を眺めるのであった

 

 

 

 

 

 「キャー♪ 可愛い子達がいっぱいですー!! あぁ、もうこの光景だけでご飯が何杯でも行けますジュルリ」

 

 「な、なんだお前は? 何故抱き着いてくるのだ? シドー! チトセ! なんとかしてくれ!」

 

 「ごきげんよう。相も変わらず大きなお友達向けの愛らしい身なりですこと。……ぷっ」

 

 「あッははー……そっちも変わらずコアなマニアに受けそうな言動は健在だねぇー?」

 

 「え……えっ? よ、よしのん……? どう、したの……?」

 

 「……誰だか知らないけど、今は何も考えない方がいいわよ。……考えるだけ無駄に疲れるから」

 

 「……そう」

 

 

 

 

 

 今、俺の目の先には……見知らぬ精霊が二人いる

 紫紺色の髪をした美少女と、翡翠色の髪をした少女。傍目から見ても二人が美少女だというのが分かるだろう

 前者はまるでアイドルだったのではないかと疑いたくなる程に抜群なプロポーション

 後者は不慣れながらも上手く着飾る事で自身の魅力を十二分に引き出している

 どちらにもそれぞれの魅力があり、目を引くものがある事は間違いない

 

 

 そして、そんな二人を連れて来た例の子はというと……

 

 

 

 

 

 「……なんか、わりーな五河。こっちもこっちで事情があんだわ。……だから、すまん。切実に」

 

 「いや……うん、もう諦めたわ」

 

 「ホントごめん……とにかく、これまでに迷惑をかけた分は協力するよ。五河の妹にも正気の時に直接謝りたいしな……」

 

 「千歳……」

 

 「ただ……こいつら全員の手綱を一度に握れる気がしないです……」

 

 まさか千歳から弱音を聞かされるとは思わなかった……それほど十香達や千歳が連れて来た子達は制御不能なのか?

 ……出来なさそうなのが予想出来て目から汗が流れそうだ。がんばれ千歳

 

 

 そう、令音さんが救援を依頼した例の子とは千歳の事だったのだ

 

 

 令音さんは以前に千歳と接触していたらしい。(千歳はチサトって呼ばれてるのか……)

 その時に感じたことで、どうやら千歳は案外世話好きな性格なのではないかという印象だったらしい

 十香や四糸乃、直接的にではないが詠紫音(正確にはパペットのよしのん)とも面識があり、みんな千歳には世話になった事があるとか

 故に、令音さんが千歳に頼んだ内容は『シンが琴里とデートしている間、チサトには三人の相手をしてもらいたい』とのことで、それによって精霊達の精神状態を保とうという算段のようだ

 

 それはまぁ……確かに助かる。デート中に十香達の精神状態が不安定になったらデートどころではなくなってしまうからな

 だから令音さんの言い分はわかる。決してわからない事ではないのだ

 

 

 

 それでも……言わせてくれ

 

 

 

 「令音さん……今の琴里の前に千歳を出したら不味い気がするんですけど……」

 

 『…………』

 

 

  …………ボリッ、ボリッ、ボリッ——

 

 

 「無言で胃薬を貪らないでください」

 

 

 

 ホント、世界ってままならないなぁ……

 

 




令音さんが考えているのか考えてないのかよくわからない……そんな回です
とりあえずフラクシナス内での胃薬の流通量はそこらの薬局を上回りそうな気がします

今回から千歳さんの心労が絶えなくなる予感
これで千歳さんも令音さん達の苦労がいくらか思い知ることになる……筈
もしも開き直ってしまったら……多分世界滅ぶんじゃないですかね?(適当)

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