長らくお待たせしました
今回シリアスにするかシリアルにするか迷っていたら、他のSSを書き始めるという”なんでそうなった現象”に陥ってしまったのが遅れた原因です
……はい、私が悪いですね。申し訳ありませんでした
とりあえず今回の目玉は……最後ですかね
キャラ崩壊……いや、改変されてるかもです。ちょっとダークな部分が見えてくる感じですね
それでは
あれからしばらくの間、俺達三人は七罪から説教されることとなった
最初の辺りは俺達の短所を突くような言葉を投げかけていたのだが……途中からはほとんど罵倒だったな
きっと苛立ちがピークに達したんだろう。どこで覚えたんだと言わんばかりの言葉をズラリと並べ、俺達三人の心を的確に抉ってきたのはかなり堪えた
その罵倒により、現在ミクとくるみんはこの部屋から退出している。正確に言うと、とりわけ罵倒が激しかったミクの心が折れてしまいこの場から逃走、くるみんがミクを追いかける——という名目で自分もまた逃走。結果、この場には俺と七罪しかいない状況になってしまったのであった
まぁミクは〇ッ〇とか〇バ〇レとか、聞いてるだけでもかなりエグい罵られ方をしてたからなぁ。くるみんも似たようなもんで辛かったってのはわかるぜ? 俺も自分に向けられた罵詈が辛かったもん
でもさ? だからって俺を残して逃げないでくれないかな……ミクとくるみんの分まで罵られる事になっちまったじゃねーか
……はぁ、後の祭りだな
別に逃げようなんて考えは無かったさ。てか被害者置いて逃げるってどういう要件だって話
七罪の罵倒は辛くはあった。——でも、七罪の方が辛かったのかなって考えちまったからかな? この罵倒も甘んじて受け入れるべきだと思っちったんだわ
多分この罵倒が、どれだけ七罪が苦しんでいるのかを浮きぼらせているように見えたからだろうね
そして、言いたいことを言いきってようやく落ち着いた七罪と俺は二人きりで対談することにした
ミク達がいつ帰ってくるかもわからないし、いたらいたで性懲りも無く繰り返しそうだったからな。ははは……
……それに、個人的にも二人には極力聞かれたくない事を話す予定だからな
よし、それじゃあ七罪の証言を聞く事にしますか
さて、まずは今回の真相を知る為に簡潔に一言
実は七罪、ミクに襲われてはいるが頂かれてはないとの事
証言によると、別に純潔を散らされたとかそう言う被害を被ったのではないらしい。どうやらミクに一部の勘違いがあったようだ
七罪に詳しく聞いてみたところ、ミクがやらかした事は「下着姿の状態で抱きつかれ、そのまま一夜を過ごした」って感じみたいで、裸姿(上下の下着は着用)で寄り添い合うよう眠っていた以外の事は特に何もしていないようだ。……なんでお互いに下着姿だったのかは聞かなかった。雰囲気的に七罪もあんまり触れてほしくはなさそうだったし
だから結局……その……ああいうことはおそらくしていないと七罪から証言を頂いた。こればかりは安堵が絶えなかったよ。まだかろうじてミクは犯罪を起こしては……ラ〇ホに了承も無く中学生程の子を連れ込むのは犯罪か? ……あまり考えないようにしよう
しかしながら、それでも七罪には耐えがたい事ではあったようだ
前程として、七罪は普段から人と触れ合う機会など一切無かったのだ。故に七罪に親しい知人など誰もいないのが現状だ
そもそも七罪は人を信じる事が出来ないらしい
過去に何かしらあったのは察したよ。ただ詳しくは聞いていない——てか、聞く気は無いけどな
だって七罪にとっては嫌な事だったんだろうし、わざわざ掘り下げる必要は無いだろう
……え? そんな人を信用できない七罪がなんで俺に事情を話したんだって? そりゃあ——
「いや……俺、精霊だし。人と一緒にされても……」
「……それもそうね。他の奴等とあんた等じゃ脳内構造が異なる事を忘れてたわ」
「地味に酷い」
——なんか思っていたよりもあっさり信用を得られたからだな
ちょっと言葉選びみたいなもんなんだが、俺は人じゃなくて七罪と同じ精霊だよーって言ったら思いのほか信用を得られたらしい。その理由に少し不満はあるけど……まぁ結果オーライか
くるみんの元に向かう前に俺等が精霊だって事を伝えておいたのが功を奏したのかな? ……まぁ、信用を得たと言っても多少ではあるんだろうけど。未だに警戒はしているようだし
その警戒こそ俺等には無意味な事ではあるけどさ。だって相手がどうであれ自重しないのが俺等だもん
人の迷惑? 考えた事も無いです
それともう一つ、七罪は今までに自分以外の精霊に会ったことがなかったみたいなんだ。それもあってか、今の七罪は俺達の事を『人間よりは多少マシ』って感じに思ってくれているようだ
確かに俺から見ても、七罪は初めて会った俺達に対して多少は歩み寄ってきている感じはする。人を信じられない割には俺等の事を叱るぐらいだし、完全に嫌っては……ないと思いたい
少し深く問い掛けてみれば、どうやら俺達三人は他の連中とは
まぁ自慢じゃないが、俺等三人は正直普通じゃないと思う。種族的にも、本質的にも、物事の捉え方でさえ人間とは多少異なるんじゃないかなーってさ
くるみんは元から天使だったから根本的に何かが違うのかもしれないとして、俺とミクは元々人間だ。そこに関して言えば感情面から人間と同じところが見られるはずなのだが……正直、俺の場合はそうでもない
ミクはどうかは知らないが、少なくとも俺は人としての倫理観が欠如していると言っても過言じゃないからな。いろいろと吹っ切れてんだよ
『犯罪? んな事知らん。俺がそれで良ければどうだっていい』
——と、基本的に今の俺はこんな感じだからな
全ては俺基準。俺がやりたいようにやる事が大前提であり、人としての常識、法を場合によっては度外視する……それが今の俺、精霊としての千歳さんだぜ
人よりも精霊を優先する考えだったり、殺しをするくるみんを助けたり、街の被害とか気にせず遊び(暴れ)まくったり……と、そういった感じに俺の事情を優先して人としての間違いを気にしなくなってきているのだ。頭ではなく、心で
人か精霊かは置いておいて、人殺しを庇護するのも街の被害を鑑みないのも、それが間違いだと言うのは分かる
——分かってはいる。でも……
頭ではそれが間違いだと
もう……それが間違いだと思わなく——
滅茶苦茶やっておいて罪悪感が無いなど人としては最低の部類だろう。でも、俺は別に気にしない。何せ人として最低でも精霊としては普通だから(多分)
精霊の俺が今更人間のルールを気にして何になる? 人は俺等精霊をただの害悪としてしか認識しないのだろうから、わざわざ人間のルールを守る意味は無い。その方が俺等精霊としては理に適ってるんじゃなかろうか? 少なくとも今の俺はそう言う考えだ
こんな考えになってしまうのも人から精霊になってしまったが故の弊害なのかねぇ? ……気にしてもしょうがねーか
勿論転生前からこんな奴だった訳じゃないぜ?
少なくとも、俺の記憶では警察のお世話になった事は一度も無い常識人だったはずだ。特に目立たず、時に目立つような平凡な男子高校生だったからな
だから俺が今こうなっているのも、おそらく転生してから精霊になってしまったのが原因なんじゃないかな? ただ羽目を外し……いや、壊しただけかもしれねーが
この考え方が七罪から「他の奴等とは何かが違う」と言われる原因なのかもしれないな。人とは違う、異端の者だからこその思考が表面上に現れてるってとこかな?
……俺だけの考えじゃないといいな。だって俺だけだったら、単に俺の頭がおかしいだけってなるじゃん。……え? 今更だって? 知ってる
……話が逸れたな。さっきの続きだ
そんな人との関わりを持たない七罪にとって、ミクとの接触は……ちと過激すぎたんだ
下着しか身に纏っていない状態の七罪を、ミクは絶対に離さないとでも言わんばかりに腕と足を絡ませていたらしい。それだけでも七罪の頭は理解不能と、次の瞬間には脳がショートするんじゃないかってぐらい混乱したみたいだ。その時の状況に訳が分からなさすぎて理解出来なかったのは言うまでもない
しかもミクは眠っているにも関わらず、七罪の体へと伸ばした手足の拘束を緩める事が無かった。その時のミクの力は尋常じゃなく、七罪一人の力では抜け出す事が出来なかったみたい
それはまるで内側に金属の骨組みがある人形に拘束されているのではないかと疑いたくなるレベルだったらしく、いくら七罪が抜け出そうともがいても、その行動は無意味に終わったらしい。たまに発現するミクのSTR上昇か……ホント謎だよ。一体どこからそんな力を引き出してるのやら
しかしながら七罪は抜け出す事を諦めず、諦めきれずに混乱する頭で脱出方法を考えたらしい。そのままの状態でいたら頭がどうにかなってしまいそうだった為に
そして導き出した解決法が、普段なら決して候補に入れることの無い「元の姿に戻る」というものだった
自身の体を小さくすればそれと同時に小さくなった分の余裕が出来る筈。そう考えた七罪は……数十分程能力を解くか否か葛藤し、悩んだ末に天使の能力を解除したらしい
自身のコンプレックスである姿をさらけ出してまで逃れようとする辺り、結構切羽詰まっていたんだろうな……
それで「これでこいつから解放される!」と、心に余裕ができたらしい。余程嫌だったのが分かる。なにせ自身のコンプレックスだった姿の事が気にならない程度には思考が他所に行っていたみたいだったようだし
とにかくこの変態から逃れよう……それだけを考えていた七罪
——だが、現実は無慈悲にも七罪の思い通りにはならなかったみたいだ
七罪の体が縮んだ瞬間、眠りについている筈のミクが動きを見せた
何とミクは深い眠りについたままの状態で、無意識にも七罪の背中に回していた腕をきつく抱き締めたのだ
おそらく隙間が出来たことにより、その隙間を埋めようと無自覚に体が動いたんだと思う。ミクが起きている気配は無かったらしいからな
そんなミクの行動で一気に七罪が小さくなった分の隙間も埋められてしまい、その上余計きつく抱きつかれる事になってしまったせいで先程より拘束力が上がってしまったのだった。結果、完全に二人は密着状態で——七罪がミクに抱かれる様な形で状態を固定されてしまったのだった
ミクに抱きつかれる事で七罪は先程よりも増した息苦しさと、加えて自身の醜い姿(その瞬間思い出した)をそのままにしてしまっている事が精神的に堪えたらしい。
耐えきれなくなった七罪が「ギャアアアアッ!!」という乙女らしからぬ
因みにここでミクから聞かされた証言によると、ミクが七罪に気付いたのは早朝の事だったらしい。それまでは「千歳お姉様と抱き合っていた夢を見ましたー! ……ぐふふ」と言う桃色展開がミクの夢の中で起こっていたみたいで、ある程度感覚もあったらしいから……多分、その感触と言うのが七罪だったんだろうね。だからミクは無意識に精霊スペックを使ってまで七罪を抱きしめていたんじゃないかな?
……夢の内容に関しては触れない。触れたくない……
んで、ミクはその夢に陶酔してしまった事が原因で眠りが深くなってしまったんじゃないかな?
人は心地良い夢を見る程に夢から覚めたくないと無意識に思いこんでしまうもんだと俺は思うんだよ。無意識に夢を見続けたいという密かな願望が「これは夢じゃない」と脳を錯覚させる事でその夢に浸らせる……おそらくミクはこうなってしまったんじゃないかと思う
……なんでそう思うんだって? そりゃあ……似たようなものだからな。俺の〈
しばらくして叫び疲れて事で大人しくなった七罪は、この時点でいろいろと諦め始めていたとか
無理もないだろうな……突然視点が移り変わったと思えば見知らぬ人間に抱き枕にされていたんだ。もうその時点で人との触れ合いに慣れていない七罪にはツラかっただろう
このスキンシップ(?)が相当心に堪えたと後に語る七罪であった
そんな七罪に現実は容赦が無く、小さくなってしまった事が仇となり七罪に悲劇が起こってしまう
先程の言葉。”くぐもった”という言葉で察してくれた方はいるだろうか? 多分いるとは思います
大人の状態ではミクとほとんど同じぐらいのところに頭部が位置していたようです。七罪の意識が戻った時も、そのすぐ眼前に見えたのはミクの寝顔だったみたいだからな
だが、小さくなってしまった事でその位置がずれてしまった……
——そう、七罪の頭の位置が丁度ミクの……二つの大きな果実のところに
その上でミクのホールドが増してしまえばどうなるだろうか? ……もう察してくれただろう
七罪の顔はその果実に埋もれてしまう事になったのだ。つまり、七罪の行動は彼女に取って最悪で残酷な結果を招いてしまったというわけで……なんとも報われない
七罪の叫びを聞いてホテルの職員が来るなんて事も無かった。何せ七罪はその果実に挟まれていたせいでくぐもった声しか上げられなかったのだ
また、大きな声が出せなかったというのもあるのだが、そもそも「そこ」は少しアレな店だ。ある程度の防音対策は取られている筈だろう
結果、外から七罪の叫びに気づいた者はおらず、その叫びも徒労に終わってしまう事になったのだ
そうなれば後はミクが離す事を待つしか無いのだが……そこで一旦落ち着こうとした七罪は、その自身の顔に押し付けられているミクの果実に腹が立ったとか
本来の自分には無いそれは、七罪がまだ成長期故にないものだと俺は思った。だって天使の能力で大人になった七罪はスタイル抜群だったし、時が経てば——
「精霊に肉体的成長があると思ってんの? 何それ嫌味? 「お前に成長する余地ねーからwww」って言いたい訳?」
「ごめんなさい」
七罪の言葉に素で謝る千歳さんでした
そういやそうだった……俺達精霊は成長しないどころか痩せや太り等の身体変化もしないやんけ
そもそもあれは七罪の理想の姿であって、仮に成長できたとしてもあの姿になるとは限らない訳で……これ、やばいか? 地雷踏み抜いちゃったかも
……うん、踏んだわ確実に。だって目の前の七罪が見るからにいじけちゃってるんですもの。……もう少し言葉を選ばんとな、気を引き締めよう
それからしばらくの間、七罪がまた自虐モードに入ってしまった為、ひたすら機嫌を取ることに全力疾走した俺の話はまた今度。とりあえず今は、七罪がミクに完全ホールドされた後どうなったかについてだ
その後七罪は結局一睡も出来ずに朝を迎える事になった。苦しいわ苛々するわでとてもじゃないけど眠れなかったらしい。寧ろ眠ってしまったら永遠の眠りにつきそうだったとか。洒落にならないとです
そこで俺は「天使の力でどうにかならなかったのか?」と、ちらほら頭に浮かんでいたことを聞いてみたんだわ
だって七罪の天使の能力っていわば変身じゃん? やろうと思えば抜け出しやすいような姿になって逃げられたんじゃないのかな? って思った訳だ
その事を聞いてみたら……何やら視線を逸らされた
表情は何処か固く、何やら苦虫を噛み潰したような顔になっているのだが……雰囲気的に七罪は何も言う気がなさそうなんで、とりあえず触れないでおくことにしたのであった
……忘れ——
「忘れてた訳じゃないわよ」
「何も言っとらんがな」
……うん、触れないでおこう(確信)
そんな訳で七罪はミクが起きるまでの間をジッと堪えていたらしい。……その時に地獄というものを感じたとかなんとか
呼吸困難でかなりの回数意識が飛び掛けたらしいし、時折もがいてみても拘束が強まるだけで余計息苦しくなって……精霊じゃなかったら死んでいたとか
いや、決して行き過ぎた表現ではないだろう。その時の事を思い出している七罪の絶望を前に何もかもを諦めたような虚ろな瞳を見れば誰でもそう感じるはずだ
……何? 男にとっては本望だぁ? ……七罪の顔を見ていないからそんな事が言えるんだよ。絶対七罪の顔を見たらそんな戯言言えなくなるぞ?
……え? 俺はどうなんだって? ………………いや、そこまででもないな。何がとは言わないが、一応俺にも……その……あるし
今はもう完全にとまではいかないながらも女性に対して欲情する事が無くなった千歳さんだ。これって完全に心は女になってきてるってことか?
……なんかそこまで気を落とす事も無くなったなぁ。「俺は男だー!」みたいに心は男であることを貫き通そう! なーんて気持ちも全然沸かねーし
今思えば俺が女に転生してから過去で過ごした分も含めれば約三ヶ月近くはすぎたのかな? ……もし俺の他に性別が変わって転生した奴がいたとしたら、三ヶ月で女に慣れるってのは早い方なのだろうか? それとも遅い方なのだろうか? ……多分早い気がする
もともとそっちのけがあったとかは無いと思うんだけど、流石に気にしなさすぎではなかろうか? 風呂でのあれこれとか結構早い段階で気にしなくなったし……
……まぁいっか、話を戻すよ
そんでミクがようやく起きた頃には、既に七罪は死に体だったようだ
ようやくミクの重圧(物理)から解放された七罪は「かひゅー……かひゅー……」と、掠れた呼吸を繰り返しながら新鮮な空気を吸っていたらしい
数時間の間、幾らかは呼吸が出来ていたから多少は余裕があったものの、それでも空気が足りなかったことには変わりない
結果七罪は一時的な酸欠に陥ってしまい、体に送る酸素が足りなかったが為に体に力がこもらず、その身をベッドに投げ渡す事となったのだ
長時間による束縛の息苦しさ、更には本来の自分と美九の身体つきを対比してしまい、その理不尽な現実に涙を流してしまったとか……
そして、目の前で(酸欠により)息を切らし、(疲労から)頬を朱に染めて(先程までの息苦しさや自身の体の惨めさに)涙を流す七罪の無残な姿を見たミクが、自分の知らぬ間に間違いを起こしてしまったのだと勘違いを起こしたそうだ
流石に不味いと思ったようで、ミクは顔を青くしながら慌ててくるみんに連絡を取り……そして現在に至るってな感じだ
「ホント最悪、なんで私がこんな目に……」
「……」
純潔を散らされた訳じゃないんだから別にいいべ。……なんて、そんな胸糞悪い結果論を言う気は毛頭無い
結果がどうあれ七罪は苦しい想いをしたんだから、それ相応の償いをしなきゃいけねーよな
となると……俺がここですべき行動は――
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なう・ろーでぃんぐ
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「全くもう……急に外へ飛び出さないでくださいまし。追う方も大変なのですよ?」
「ごめんなさ~い。可愛い子に敵意剥き出しにされたのがかなりつらかったんですー」
夜も深まり周囲から人気が消えた静寂の中、二人の少女が街中にある公園で話し合っていた
公園に設置してある街灯からは離れ、光が差さない場所で言葉を交わし合うその光景は、密約を交わしているようにも見えるかもしれない。少なくとも、その光景を警官が見れば補導ものだ
そんな彼女達が話す内容は、先程まで叱咤してきた少女に対しての反省——ではなかった
「……七罪様との早期接触、上手くいったようで何よりです」
「『翡翠色の髪の美女を探してほしい』なんて……これだけの条件じゃあ探すのも運次第ですよぉ? 運よく会うことが出来ましたけどぉ、何日も探し歩くのは大変だったんですからねー?」
「翡翠色なんて珍しい髪を持った者などそうそうおりませんわ。ここ天宮市において言うのであれば、おそらくは七罪様以外にいないでしょう。……接触の方法に問題はありましたが」
「これでも我慢した方ですよー? あんなに可愛い子を前にして
彼女達が今、どのような表情をしているかは周囲が暗いせいでよくわからない
だが、少なくとも彼女達が七罪に対して罪悪感を感じていないことはわかるだろう
何せ今回の件は——
今回美九が七罪に行った所業は、千歳と七罪に関わりを持たせる為のものだった
七罪の性格を鑑みて駆瑠眠が作戦を建て、美九がその作戦通りに七罪と接触したのだ。美九に任せた事で作戦内容と多少異なりはしたものの、結果として千歳と七罪を対面させることが出来たのだから問題ない
——そう、ここまでの流れは駆瑠眠の臨んだ展開通りなのだ
「これでまた未来は不確定となりましたわ……少なくとも、ワタクシが知る歴史にはそうそうなりはしないでしょう。故に、これからどう転ぶかはワタクシ達、そしてお母様の行動次第となりましょう」
「これでいくつ変わったんですかー? ——まぁ未来が変わりさえすれば、私としてはいくつでもいいんですけどねぇ」
「くふふ、そうですわねぇ……未来が変わりさえすれば——”あの結末”になりさえしなければ、いくら変わろうとも構わないでしょう」
美九は九年前から駆瑠眠に千歳の事を話を聞いていた
駆瑠眠の時代の千歳の事を、千歳がどんな精霊なのかを……
そして——
未来の千歳を駆瑠眠から聞いて最初は信じられなかった美九だったが、駆瑠眠が持ちえた未来の証拠——今から先の未来にて撮られた千歳の写真を見せられた事で信じざるを得なかった
加工した物とは思えない程に鮮明に映されたその写真は、美九にとって理解し難いものだった
あまりにも常軌を逸した内容に、ミクの正気はガリガリと削り取られたことだろう
喉が渇く
眩暈がする
涙が止まらない
呼吸がままならない
心が悲鳴を上げている
自身にあらゆる異常をきたすほどに衝撃的な未来を映した写真は、美九を一時的に情緒不安定にさせるまでに追い詰めてしまう
決していい未来ではない。寧ろ最悪であり、醜悪であり、悲惨ずぎる未来に美九は千歳の運命を呪いもした
何故そうなってしまったのか?
……それは千歳が選んだ未来だったから
何故変えられなかったのか?
……それは千歳が拒んだ未来だったから
何故私は動けなかったのか?
……それは千歳を恐れた未来だったから
何故未来の美九が千歳を恐れていたのか、美九には理解出来なかった。したくもなかったし、する気もなかった
私だったら怖がらない。どんな”
だから美九は駆瑠眠の計画に乗ったのだ。今ならまだ間に合うから、今ならまだ……この胸糞悪い未来を変えられる筈だから——
「……くるみん」
「なんです? ミクちゃん」
「……変えましょうね」
「……えぇ、勿論」
静かな公園で二人の声が響き渡る。その声は何処か淡々としているものの、その内には確かな意思を宿していた
彼女達は確固たる決意の元、未来を変えるために暗躍する
周囲の関係がどうなろうとも構わない。自分達が人類の敵になろうとも構わない
全ては——二人が敬愛する一人の
「必ず変えて見せますわ。お母様が——
——”〈
とうとうここで千歳さんの魔王の名バレ
天使の詳細な能力も公開してないというのに何故魔王の名を出したんだ、と思われる方もおられると思います
しかし、これには理由があるんです。ですのでご安心ください
次回の投稿も不定期となりそうです。ですが、隙を見て書いてくつもりなのでエタることはない……筈……いや、ないです。ないと言わせてください