俺が攻略対象とかありえねぇ……   作:メガネ愛好者

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メガネ愛好者です

とりあえず今回で原作前は終了です
ちょっとオリジナル設定?独自設定?そんな感じの話となります
多分矛盾はないはず……あったら何とか矛盾が無いように捻じ曲げよう(オイ)

それでは


章終話 「俺のメンタル弱すぎ? 知ってる」

 

 

 四糸乃が俺の真上に落下し、のしかかられる形で地面に押し潰されたときの話をしよう

 柄にもなく「ふぎゅ」なんて声を漏らしてしまったのは仕方がないと思う。死角からの攻撃は対応できましぇん!

 ……ちょっと恥ずかしかった

 

 「ひっ……」

 

 そんな俺の上に落ちてきた彼女の第一声は——まさに怯えてしまい、声をくぐもった様な悲鳴のようなものだった

 俺の上に圧し掛かっていた少女は瞬時に俺の上から飛びのき、3mほど離れたところで体を小刻みに振るわせて怯え始めてしまう

 その行動に対し、俺は——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ゴフッ」

 

 ——吐血した

 かなり傷ついた。小さい子に怯えられるとか精神的に堪えまする……俺何もやってないのに

 ……え? お前の前方不注意? 知って——いや待て待て待て。バックステップで前見てなかったってのは確かに悪いと思うよ? でも真上からだから関係は無いよね? 無いよね!?

 ……ダメですか。知ってる

 

 くそぅ、心が痛いぜ……なんか目から何かが流れるような感触がするよ

 うーん……なんか女になってから涙脆くなってやしないかい千歳さん? また涙が――いや、これは雨だ! 決して泣いてなんかねーから!

 ……ぐすっ

 

 「……ぁ……の」

 

 俺はとりあえず雨に濡れてしまった顔(決して涙で濡れたわけではない。断じてない!)を服の袖で拭き、微かに聞こえた呼びかけに反応する。これでも精霊になったから小さな声でも聞き取れるのだ!

 とりあえず俺は……そうだな……

 外見や言動から察するに、あんまり刺激を与えちゃうと怖がられるだろう。そう考えた俺は、とりあえず体を起こして地べたに座ったまま彼女に向き直るのだった。地面濡れてるけど気にしない

 

 「……こんにちわ」

 

 「——ぇ? ……ぁ」

 

 とにかく警戒はさせちゃいけないと思った俺は軟らかそうな声で挨拶します。……思ってた以上に柔らかい声が出せたことにびっくり。女になって初めてよかったと思ったかも

 ただ……あれだね。身なりのせいで不審者に思われてないかが心配です。だって口元以外は服や髪で肌が隠れちゃってるもん

 そんな私を見た少女の反応は……とりあえず、すぐさま逃げだすってことはなさそうです。よかったよかった

 

 ——え? なんでいきなり挨拶したんだって?

 どんな時でも挨拶は大事だよ? 相手に真摯な気持ちを伝えるのに手っ取り早いし、礼儀でもあるからね

 ただ俺の反応が予想外だったのか、少女は唖然としたような顔で呆けていた。のしかかってしまったことを怒ってるとでも思ってたのかな?

 そんな彼女の様子から、ここでズカズカ話しかけると逆効果だとなんとなく察した俺は、とりあえず相手のペースに持っていけるように彼女の対応を待つことにしたのでした

 

 

 

 しばしの間、少女の反応を待つ千歳さんである

 もし彼女が友好的な子なら何かしらのアクションをしてくれるだろうからね、それまで辛抱なのだ

 因みに泣いてしまったらゲームオーバー。千歳のメンタルにダイレクトアタックを決められてライフゼロになっちゃいます

 尚、泣きながら逃げられたらオーバーキルだ。バ〇サ〇カ〇ソウルなんて目じゃないレベルのダメージが入ります。多分封印から解放されても廃人になっていると思われる

 

 俺の人生は君にかかっている! 頼む! 泣かないでくれ! 俺のためにも!(迷走)

 

 そしてしばしの沈黙が訪れた後、少女は……

 

 

 ……コクッ

 

 

 控え目ながら、確かに会釈してくれたのでした

 

 「(俺は賭けに勝った……っ!)」

 

 その光景についガッツポーズしてしまった。まぁ肩ぐらいの高さで拳を握るだけの控え目なガッツポーズに留めたけどね。あまり大袈裟に喜んでも相手を怖がらせてしまうだけだからな

 そんなガッツポーズをしている俺を、まだ少しの怯えを抱えながらも不思議そうな表情で眺めている少女。少しは気を許してくれたかな?

 よし、攻めてみよう

 

 「俺は千歳って名前なんだけど……君は?」

 

 「ぅ……ぁ…………わた、し……は………よし、の……」

 

 「よしのん?」

 

 「四糸乃、です……!」

 

 あ、名前間違えちゃった。……まぁワザとではあるんだけどさ? 言いたくなってしまったんだからしょうがないよね

 それに対して四糸乃が少しムッとしている。ムッとした四糸乃が実に可愛らしいです。でも俺の心にダメージが来てます。ライフが2400P減った

 

 「ごめんごめん。ただそっちも可愛くない?」

 

 「……ぇ? かわ、ぃ……?」

 

 「そうそう。”よしのん”ってあだ名、愛嬌があっていいと思ったんだけど……まぁ、四糸乃が四糸乃のままの方がいいって言うならそっちで呼ぶけどさ。俺の意思を押し付ける気は更々ないしね」

 

 「……」

 

 「んー……とりあえず今は四糸乃って呼ぶわ。そっちも呼びやすいように呼んでよ」

 

 「……は、ぃ」

 

 実際よしのんって可愛くないかな? 何か電波を感じ取って頭に浮かんだあだ名だったんだけど……まぁいっか、四糸乃が気に入ってくれたときにでも使うとしよう

 とりあえず俺も自己紹介……あ、今更だけど一人称変えた方がいいか?

 ……別にいっか。今更だろうし、何よりこれを変えたら俺が俺じゃなくなるようでヤダ

 

 「無理にとは言わないよ。ただ、せっかく知り合ったんだから仲良くしたいなぁ……ってさ」

 

 「仲よ、く……?」

 

 「うん。ダメかな?」

 

 俺の言葉に四糸乃は戸惑いを見せている。その戸惑っている顔も可愛——と、不謹慎だな。少し控えよう

 お互いに同じ目線で見つめ合いながら語り合う俺達。……と言っても俺の目は前髪で隠れてるけどさ? とにかく四糸乃に敵意を感じさせないようにするのです。大丈夫、怖くないよ?

 ……この対応はキツネかリスに対してだった。彼女はウサギじゃん(見た目からして)

 

 そんな俺の対応に、四糸乃はそのうさ耳の付いたフードを深くかぶって顔を隠すようにしてしまう

 これは……どう反応したらいいんだろう? 良いのか駄目なのかわかんないな。ダメだったら死にます←

 

 四糸乃の反応を見てどうでるか悩んだ末に、俺はとりあえずここは攻めてみようかとの考えに至ったのであった。地べたに座り込んでいたところを静かに立ち上がり、急かさずゆっくりと四糸乃に近づいていく

 多分近づいてきてるのには気づいてると思う。近寄り始めたあたりで四糸乃の体が強張ったのが目に見えたからな。やっぱり怖がってる? 近づいたのはまずかったかなぁ……まぁ、ここまで来たら今更引き返すわけにもいかないけどさ

 そして俺はゆっくりと四糸乃に歩み寄っていき、目の前まで歩み寄れたところで静かに……四糸乃に手を差し伸べたのでした

 

 「とりあえず座ったままってのもあれだし……ね? 立てる?」

 

 「は、ぃ……」

 

 まるで触れることを恐れているかのように振えながら手を伸ばしてくる。手を掴む決心がつかずか暫くは出したり引っ込めたりしていたが、いくらかそれを繰り返したところでようやく俺の手を掴んでくれた

 俺はそっと包み込むようにその手を握る。妹がいたからわかることなんけど、小さい女の子の手ってデリケートだからね。男が普通だと思って握ったとしても小さい子にとっては力が強すぎて痛がられてしまうのがほとんどだ。そういう細かいところも気にしないと子供の面倒なんて見られないと思うのは俺だけかな?

 まぁ今は女だからそこまで意識せずともいいんだけどさ。女性ならではの絶妙な力加減ってやつ? だからきっと子供はみんな、お母さんと手を繋ぐのが好きなんだと思いますよ。偏見かな?

 余談だが、今回みたいに男だった時の癖が抜けきっていないってのは、俺が男だった事実が残っているような感じがして少しホッとしますです

 さてと、とりあえず今は四糸乃の手を優しく引いて立ち上がるのを手伝ってあげよう

 

 「あの……あり……とぅ……ござぃ、ます……」

 

 「怪我はない?」

 

 「はぃ……」

 

 「ならよかった。言っておくけど、俺は大丈夫だから気にしないでな?」

 

 「……ごめ、なさい」

 

 「気にしない気にしない。寧ろ俺は気にしてない」

 

 まずは立ち上がった四糸乃の服についた汚れを優しく落としてあげる。何故だか目立った汚れがないけど……その服、何やら特別性だったり? まぁいいか

 それにしても……なんかこうしてると、少し目を離した隙に土埃で汚れて帰ってきた弟を思い出すわ。アイツすぐに服を汚すから大変だったんだよなぁ……

 前世の弟の事を思い出して懐かしみつつ四糸乃の身嗜みを整えてあげる。不思議な事に抵抗は一切なかったけど……まぁ機嫌を悪くしたわけじゃないならいっか!

 

 「何があったかはわかんないけど、次は気を付けなよ? また落下先に俺がいるとは限らないんだからさ」

 

 「……」

 

 「そんじゃ、帰り道に気を付けてな」

 

 見たところ怪我もなさそうだし、後は四糸乃のやりたいことをやらせてあげようと思った俺はそこで別れることにした

 あまりしつこいと四糸乃の行動を縛ってしまうかもしれないし、下手すれば鬱陶しがられるかもだからね。最悪親切すぎて怪し荒れたり? ははは、今の姿だと十分にあり得るぜ

 それに、いきなり出会った人と必要以上に関りを持つのは……まぁ相手次第だけど、少なくとも四糸乃は辛いんじゃないかな? 仲良くしたいとは思うけど、相手側にもペースがあるだろうしね

 そこまで考えた俺は四糸乃に別れを告げて立ち去ろうとする。実をいうと、倒れた時に服の隙間から雨水が入っちゃったんだよね。霊装さんがある程度弾いてくれているとはいえ、流石にフードの中に直接入って来たんじゃ防ぎようもない訳で——

 

 

 

 

 

  ギュッ……

 

 

 

 

 

 ……何やら俺の服を掴まれてる気配が

 立ち去ろうとしていた俺は、一旦その場に立ち止まってからそっと後ろを振り返る

 振り返った先には……自分の行動に驚いているのか瞳を大きく見開いている四糸乃が俺の服を掴んでいたのだった

 えっと、これは……信用して、くれているのかな?

 

 「えっと……四糸乃?」

 

 「……………ぃで……さ、ぃ」

 

 「え?」

 

 驚いていた顔は、少しの間の後に表情を変えた。何かを言いずらそうに、それでも何かを伝えたいような……そんな少しの勇気が宿った表情を

 そんな四糸乃の言葉は、流石の聴力強化されてる俺でも聞き取れない程のか細い呟きだった

 それでも気の弱い彼女が自分から言葉を伝えようと話しかけてきているんだ。話しかけるというだけの理由でだったとしても、彼女にとっては大きい一歩だ

 それでも聞き取り難いんだったら、俺が聞き取れるようにすればいい

 俺は四糸乃の声を聞きとれるように意識を集中する。次は聞き逃さぬように、周囲に鳴り響く雨音も気に留めずに

 

 

 そして俺は聞き取ったんだ。勇気を出してまで四糸乃が伝えたかった事を……

 

 

 そんな四糸乃の言葉は——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……一人、に……しないで、くださぃ……」

 

 

 ——孤独に満ちた、悲しい言葉だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——と、そう言った経緯で現在に至るのだった

 何やら一人は嫌みたいで、別に断る理由もないから四糸乃を千歳さんパーティーに入れることにした。寧ろ癒しキャラが入ってくれたことに歓喜

 

 ——四糸乃が 仲間に なった ! ——

 

 そして四糸乃を連れて向かった先が……さっきから俺が行こう行こうと思っていた銭湯なのでした

 銭湯に行くことは変わらない、これ確定事項。それに四糸乃も雨で汚れ……てはないみたいだけど、まぁ別にいいだろう。体も温まるし心も休まる

 ……え? やけに銭湯に行きたがるなだって? そりゃそうさ。だって俺、お風呂好きなんだもん

 

 銭湯に向かっている道中、四糸乃が俺の手を恐る恐る握ってきてくれたので、せっかくだし手を繋いで銭湯に向かうことにした。雨の中を傘も差さずにね

 疑似霊装のおかげでもう雨とかは気にならなかったし、四糸乃もあんまり気にしていなかった(てかよく見たら四糸乃の服はレインコートだった)からのんびりと散歩感覚で歩いていますですよー。

 

 そんでもって到着。俺は四糸乃に銭湯の事を紹介するのだった

 

 「ここが銭湯。疲れとか体の汚れを落とす場所だな」

 

 「銭、湯……?」

 

 「ようはお風呂さ」

 

 「お風、呂……」

 

 「……え? もしかして……お風呂も知らない感じ?」

 

 四糸乃に銭湯の事を説明していたのだが、どうやら四糸乃はお風呂さえ知らないようで……え? まさか入ったことがないわけじゃないよね? 流石にそれは——

 

 

  コクン……

 

 

 俺の疑問に四糸乃は素直に首を縦に振ることで肯定した

 それはつまり……

 

 ……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おい四糸乃。親御さん呼んでこい。ぶん殴るから」

 

 四糸乃の親御さんは一体どういう教育をしてるんだ? 女の子に風呂は絶対的に必要でしょうが

 まさか……四糸乃を蔑ろにしてるんじゃなかろうな? 気弱な性格になったのも虐待してるからじゃなかろうか……

 

 

 サツイノ、ハドウニ、メザメソウダ……許スマジ育児放棄者

 

 

 傍から見れば、俺に変化は見られないと思う。……前髪に隠れて分からないだけで、目つきが鋭くなってますがね

 フッフッフッ……久しぶりにキレちまいそうだぜ。気に入らないったらありゃしねぇ……

 

 そうして四糸乃から知らされた衝撃の事実(決して大袈裟なんかじゃない)に俺が四糸乃の親に対して密かに激情を抱いていると、四糸乃から新たな疑問が投げかけられるのだった

 その内容はというと——

 

 

 

 

 

 「……親、って……なん、ですか?」

 

 「——」

 

 ——親を知らないという、もっと深刻なものだった

 

 ……え? これどう反応すればいいん? てか四糸乃って捨て子? ガチで育児放棄されてしまったパティーン?

 

 え? どうすればいいのコレ? 俺にどうしろっていうんだコレ?

 

 そして俺が四糸乃から次々と投げられる爆弾の処理に四苦八苦していると、四糸乃が顔を曇らせつつ静かに語りかけてきた

 

 「その……いたい、のは……ダメ、です……よ?」

 

 「ア、ハイ」

 

 四糸乃めっさいい子

 自分が苦しい目に合っている状況だというのに、それよりも暴力などを否定する様な言葉に俺の心は自然と鎮静化していった

 本当に心優しいなこの子……よし! ならそんな四糸乃にご褒美を上げることにしよう! せっかく仲良くなるんだったら思い出の品があってもいいからね、今のうちに考えておこう

 ……なんでもいいとか言って、親とか言われたらどうしよう……と、とりあえず俺が叶えられる範囲だといいけど……

 

 「とりあえずお風呂行こお風呂。いろいろ教えてあげるからさ」

 

 「は、はい……」

 

 俺は四糸乃に何を上げようか考えながら、四糸乃の手を繋ぎつつ銭湯に入っていくのでした

 

 ——言っておきますが、断じて四糸乃のアラレモナイお姿を堪能するとか、そう言った邪な気持ちは無いからな? 今や女体に然程の興味もわかなくなった俺にそんなゲスイ気を持つ筈がない訳ですよ

 それに四糸乃は妹みたいな感じだからね。俺にとって妹は世話をする対象、よって一緒にお風呂に入ってもOK。おわかり?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おじちゃん、今日は二人分ね? 入り終わったら番台代わるからゆっくり休んでよ」

 

 「いつもすまないねぇ。ありがとう」

 

 因みに、ここの銭湯の番台をしているおじちゃんとは顔見知りである

 何せ俺はこの銭湯の常連でもあるからね。今では結構親しい仲である

 それに、いつもお世話になってるから日頃の感謝も込めておじちゃんの代わりに番台をしていたりもするんだよ。来る人との会話も楽しいから結構やってて面白いんだよね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はい、目を瞑ってな~」

 

 「んっ……!」

 

 あれから四糸乃とお風呂に入り、今は四糸乃の髪を洗ってあげています

 何この子……本当に捨て子なのか? めっさ髪サラッサラなんだけど……

 四糸乃のウェーブのかかった青い長髪は実に手触りが良いです。手入れはしているのだろうか? でもお風呂がわからなかったんだし……うーん、謎だ

 因みに必要な情報かどうかは知らんけど、俺の髪の長さは……ミディアム? ショートボブ? とりあえずそんな名称だったと思う長さです。詳しくは知らん

 肩にかかるかどうかぐらいの長さで、別に整えているわけじゃないから自然な感じに髪が伸びている

 パッと見はそこまで特徴的な髪型じゃない。別に女子力を高めようと思っているわけじゃねーからこれでいいのだ

 俺は地味子でいいのです。下手に目立ちたくもないしね

 

 「次は体洗うぞー」

 

 「は、はぃ……ひゃぅ!」

 

 「あ、痛かったか?」

 

 「だい……じょうぶ、です。た、ただ……くすぐ……たく、て」

 

 「あーそう言うことか。まぁ慣れてないんならくすぐったいかもな」

 

 髪を洗い終えた俺は、次に四糸乃の体を洗ってあげることにした

 女の子の肌は傷つきやすいからね、軟らかそうなタオルをあらかじめ広告から顕現させておいたのでそこは問題無いぜ

 いやーマジ顕現能力便利だわ。必要な物を広告や写真さえあればなんでも取り出せるからな。ホント助かってるよ

 ……え? そもそも広告は何処から貰ってるんだって? そりゃー番台のおじちゃんから貰ってるんだよ。おじちゃんマジ感謝。圧倒的感謝

 それにしても……ホントさ、四糸乃といると妹達を思い出してしょうがないわ。こうやって洗ってあげるのもアイツ等にしていたことだったしな……

 

 「……ち、とせ、さん……?」

 

 「——あ、ごめんごめん。んじゃ洗い流すぞー」

 

 やば、手が止まってたわ。とりあえず今は四糸乃に集中しよう

 四糸乃の言葉で意識を戻し、一旦考えを頭の隅に追いやってから再び四糸乃の体を洗い流し始めるのだった

 

 ……アイツ等との思い出は、絶対に忘れないようにしよう。絶対に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふいぃ……」

 

 「はふぅ……」

 

 やはりお風呂はいいねぇ……昼寝の次に至福な時だと思うのですよ千歳さんは

 やっぱりリラックスできる空間って人に大切なファクターだと思うわけでありまして……ファクターって言葉、何かかっこいいな

 

 「どう四糸乃? 気持ちいいか?」

 

 「はい……!」

 

 お、会った頃と比べて結構ハキハキとしてきたかも。いい事いい事

 四糸乃は本当に気持ちいいのか、周囲への恐怖で強張っていた顔つきも緩んでやわらかい表情になってきている。うんうん、やっぱり子供に笑顔は映えるねぇ。このまま元気で居続けてくれるとこっちも嬉しいんだけど……

 

 まぁ……あれだ。俺は精霊だからねぇ……いつまでもこの子の傍にはいて上げられないんだよ

 どうしたもんかなぁ……なんか代わりになる人がいてくれれば——

 

 ……お? 変わりの……?

 

 …………おお?

 

 ………………おおお! いい事ヒラメキーノ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おじちゃんの代わりに番台も済ませ、俺は四糸乃と再び雨の中を散歩しています

 お風呂に入った傍から雨に濡れてるけど、俺としては気分転換のためにお風呂に行ったわけだから別に濡れても構わないんだよな。実際は霊装さんが弾いてるから濡れてないけどさ

 四糸乃も別に気にしてないみたいだし、着てる服もレインコートだから倒れない限り大丈夫でしょ

 因みに俺が番台の番をしていた際、四糸乃は近くにあったけん玉で遊んでいました。最初は何なのか気になっていた四糸乃だったが、俺がやり方と手本を見せて教えてあげてからは気に入ったのか夢中になって遊んでいたね。失敗しては再び挑戦し、それを何度か繰り返した末に成功した時の晴れやかな笑顔は実に微笑ましい光景でした。眼福です

 そんな四糸乃だが、余程気に入ったのか帰り間際まで名残惜しそうにけん玉を見つめていた。まさかここまでのめりこむとは思わなかったから少し驚いたね

 そして、名残惜しそうにしている四糸乃に気づいたおじちゃんが「持っていきなさい」とけん玉を譲ってくれた時の四糸乃の喜びようは見た目相応の無邪気な姿でした。おじちゃんありがとう、今度肩たたきしてあげるね?

 

 そして現在、四糸乃はおじちゃんから貰ったけん玉を大事そうに両手で包み込むように持っています。時折遊んでいいかと俺の方に視線を送ってきているけど、歩きながらは危ないので次の目的地まで我慢することを伝えた。ちょっと残念そうに落ち込んでたのが印象に残る

 そんなけん玉で遊びたくてうずうずしている四糸乃を見かねた俺は、あまり焦らすのも悪いと思ったので早々に目的地へと足を進めたのだった

 

 ……え? 何処に向かっているんだって? あの高台の公園ですが何か?

 何でまた公園にだって? そりゃー俺の寝泊まり場所があそこだからだよ

 俺はホームレス。これは変わらないとです

 

 

 

 

 

 そんな訳で無事に公園についた俺達

 いつまでも雨の中にいるのも体が冷えると思ったので、俺が寝床に使っている屋根の付いたベンチまで四糸乃を案内することにした

 せっかく銭湯で温まったのに体が冷えてしまったら四糸乃が風邪をひいてしまうかもしれないからね。みんなもお風呂上がりの体調管理に気をつけるように!

 

 「どうだったかな四糸乃? 銭湯に入ってみた感想は」

 

 「はい……すごく、ポカポカして……落ち着き、ました」

 

 「そりゃよかった。そのけん玉も大事にするんだぞ?」

 

 「はい……!」

 

 会った頃と比べて随分と明るくなった四糸乃。そんな四糸乃に心の底で安堵する俺でした

 本当によかったよ。正直、四糸乃の事が心配だったからねぇ……喜んでくれて何よりだ

 

 

 

 

 

 結局、俺は四糸乃を放っておくことが出来なかったんだ

 何せ彼女が最初に俺を見た時の表情が——何に対しても恐怖に思えてしまうような怯えた表情だったから

 この世界自分の味方はいない、みんな自分の事を見てくれない……そんな、どうしようもないくらいの孤独を感じているような表情をする四糸乃が放っておけなかったんだよ

 お節介だったのかもしれない

 だけど……そんな四糸乃の姿が……どこか妹達に被って見えた瞬間、もう見捨てて置けなかった

 今はその行動に後悔をするどころか感謝している。だって今の四糸乃の表情は……当初とは比べ物にならない程の明るさが浮かび上がっているのだから……

 それを見て、俺は改めて思ったんだ

 

 

 ——やっぱり、彼女に負の感情は似合わない——

 

 

 彼女の暗い表情が俺の心を掻き立て、それをどうにかしたくて行動に移した結果は実に実りのある成果になったのであった……

 

 

 ——でも、まだ終わらせやしねーぞ? 四糸乃

 

 

 「そんな四糸乃に俺からのプレゼントを与えて進ぜよ~」

 

 「……え?」

 

 俺は自分のショルダーバックからある物を取り出し、それを()()()()()四糸乃に見せた

 その手につけたものとは——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『どうも~。四糸乃の友達の”よしのん”だよ~』

 

 「よし、のん?」

 

 

 ——右目に眼帯を付けた、愛嬌のあるウサギのパペットだった

 

 

 実はちょっとした応用に気づいた俺は、番台をしている間に密かにこのパペットを()()()()()()()()()

 〈心蝕霊廟(イロウエル)〉—【顕】でギリギリ可能だった応用によって創り出したそのパペットを左手で操りながら、俺はパペットごしに四糸乃へ話しかけて行くのだった

 

 

 

 【顕】の応用とは何か? それは——一から物を創り出すことだった

 以前に現実に存在しない空想上の物は顕現できないと説明していた俺だったが、そこに抜け道が存在していたのをこの短期間で閃いたのだ

 

 その抜け道とは……”イラスト”だ

 

 ようは「写真が無ければ自分で書けばいいじゃない」というやつだった。アント〇ネット精神は時に役立ちます

 そうと決まれば話は早い。俺は広告から紙と色鉛筆を呼び出してこのパペットをスケッチし始めた

 

 今までは現実に無い空想上の物だった場合、一から生み出すことは本来出来ないと思っていたが……俺は一つ勘違いをしていたようなんだよ

 結論を言えば、伝説の武器やら防具を創り出すことは出来るんだ。——ただし、それが()()()()()()()()()()()()()()()でだけどな

 超越した力、異能の業、魂宿る物……そう言った空想上ならではの力を宿した物を創り出す事は不可能だ。しかし、見た目そっくりの何の力も宿さないものであれば……概念を捻じ曲げて無から創り出す事が可能なのだ

 

 そうなれば後は簡単だ

 書いたイラストを視界に収め、大量の霊力を使って生み出すだけ。霊力タンク舐めんじゃねーぜ!

 それでも実際に試してみれば結構霊力を使うことが分かった。それにもう一度同じものを創り出せと言われたら多分無理だと思うから大量生産には向かないかな

 

 ——まぁ、この際そんなことはどうでもいいんだけどね

 無事にこのパペットを創り出すことが出来た……その結果だけで十分なのだから

 

 

 

 そうして生み出されたのがこのパペットだ

 せっかくだからさっき四糸乃にノーセンキューを貰って拒まれた”よしのん”の名を与えてみたけど……反応から察するに、特に気にしてはない感じだな

 そして俺は腹話術を使い、さもよしのんが話しているように見せかけながら四糸乃に話しかけるのだった

 

 『イ、エース! アイアムよしのん! こう見えてもよしのんは四糸乃のヒーローなんだぞー! っと、ヒロインの方がいいかな? でもでもヒロインは四糸乃だからやっぱりよしのんがヒーローだねん。どうどうカッコイイ? よしのんカッコイイかな四糸乃!』

 

 巧みにパペットを操って四糸乃の視線をよしのんに釘付けにさせる。いや~まさか妹達をあやすときに使ってたスキルが役に立つとは……

 余談になるけど、学校の一発芸大会でこれをやったところ結構好評で焦った覚えがあります。まさかそれによって文化祭の出し物にされるとは思わなかったぜ……

 まぁ俺が地味な見た目に合わずにはっちゃけたキャラを演出したからなのかもしれないけどさ? いいじゃんいいじゃん、地味でもたまにははっちゃけたいんだよ?

 ……え? その考えこそキャラじゃないって? 知ってる

 

 それはさておき、四糸乃の反応も確認しないとな。不評だったら申し訳ないし

 とりあえずよしのんを操りながらそれとなく四糸乃の方に視線を送ってみることに

 

 「わぁ……!」

 

 おおぉ、目をキラキラさせてよしのんの話を聞いてくれている。これは成功か? とりあえずもう少し続けてみよう

 

 『これからはずっと一緒にいられるよん♪ よしのんは四糸乃を一人になんかさせないもんね~』

 

 「よしのん……よしのん……!」

 

 どうやら四糸乃は気に入ってくれたみたいだ。何せ四糸乃は感極まったのか、よしのんを抱きしめようと俺の腕ごとすり寄ってきたのだから……って、あらら? なんか思ってた以上に好印象のようで——

 

 

 ——お? おおぅ? 何かが体から抜けてくような感じがするのは気のせい?

 

 

 ……まぁいいや。とにかく気に入って貰えたんなら作戦は成功である。クク、計画通り……

 因みにそこには邪な気持ちはありません

 

 「四糸乃」

 

 「——ふぇ? な、なんです、か? 千歳さん……」

 

 俺は四糸乃をよしのんから一旦離して向き直る

 その時によしのんと引き剥がされたことに泣きそうな表情になる四糸乃からメンタルダメージを貰いつつ、俺は左手からよしのんを取り外し、四糸乃の左手につけてあげるのだった

 

 「……え?」

 

 「はい、これで四糸乃とよしのんはずっと一緒だ。……もう、一人じゃないよね?」

 

 「ぁ……」

 

 四糸乃は俺の行動に疑問を持ったようだったが、俺がさっき四糸乃に言われたことを伝えたら、四糸乃がそれを思い出し、多分嬉しさで涙を流し始めたのだった

 嬉しくて泣いてるんだよね? そうだよね? そうじゃなかったら俺が泣いちゃいそうだからそうだと言ってよバ〇ニィ! それともバニー?

 そんな俺の気持ちも余所に、よしのんを左手につけて肩辺りで掲げる四糸乃はとうとう嗚咽を漏らしながら泣き始めてしまった

 

 ……ヤヴァイ、マジでヤヴァイ。ガチで泣き始めちゃったんだけど?

 つーか、今更ながらにどうしようだわ。ついよしのんはずっと一緒だよ~とか言っちゃったけど、腹話術越しに俺が話してただけだから実際によしのん自体は喋らないんだよ

 俺がいる時ならともかく、帰った後なんかに気づいてしまったらお手上げじゃん。誰だよ計画通りって言った奴? 計画案ガバガバじゃねーか

 はぁ……四糸乃の孤独感をどうにか和らげたいが為にしたことだったけど、ホントこれどう収拾つけよう……

 

 

 そして俺が泣いている四糸乃の横で頭を抱えていると……”ソレ”は唐突に()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 『よしよしよしのん。泣いちゃダメじゃないの四糸乃ー。ほらほらスマ~イル!』

 

 

 

 

 

 ……おや?

 俺は不意に聞こえた声に正気に戻って四糸乃の方に視線を移した

 そこには……よしのんが四糸乃の頭を撫でてあやすように四糸乃に近づいて腕を動かしている光景が移されていたのだった

 

 「よし、のん……ぅぅ」

 

 『ほ~ら! そんな泣いてたら千歳ちゃんが困っちゃうよ? お世話になったんだからお礼を言わなきゃ。勿論笑顔でね?』

 

 「う、うん……グスッ……千歳さん。今日、は、ありがとぅ……ございました」

 

 「——へ? あ、うん。気にすんな。四糸乃が元気になったんならそれでいいさ」

 

 『それにしても千歳ちゃん。随分と四糸乃のことを気にかけてくれたみたいだけどぉ? 何々? 四糸乃のプリティーさに惚れちゃった?』

 

 「いや、今の俺は女だから惚れるとかはないって。あっても親愛ってやつだよ」

 

 『ふぅ~ん。……およ? ()()()()? それってどういうこと?』

 

 「……あ。あー……まぁ、気にすんな。とりあえず俺の性別は女、それでいいだろ?」

 

 『むむむ……まぁそれでいっか! た・だ、な~んか男らしいよねん?』

 

 「それは知ってる。でもそれは別にいいだろ。人の個性さ」

 

 『つまり千歳ちゃんは俺っ娘ってやつなんだね! 面白い属性してんじゃないの~』

 

 「はっはっは。よしのんだって個性的で可愛らしいじゃないのん?」

 

 『おおっ! よしのん口説かれちゃった! でも駄~目。よしのんは四糸乃のヒーローだからその申し出には答えられないよん♪』

 

 ……何このパペット

 なんか俺が腹話術していた時よりもキャラが濃くなってないか? てか四糸乃を見る限り自分でやってるような感じじゃないんだけど……一体どうなってんのコレ?

 実は四糸乃に腹話術の才能が? いやそれにしては急すぎるでしょうが

 でも見た感じではどこにも不備はなさそうだし……てか普通にパペット操るの上手いなぁ。まるで()()宿()()()()()()()()

 

 ——まぁ、四糸乃もご満悦みたいだし結果オーライ……なのかな?

 いやでもやっぱり自分からやったことなんだし、せめてどうなってるかぐらいは知りたいのだが……

 う~ん……ナゼェ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「——あれ? 四糸乃? よしのん?」

 

 暫くの間よしのんの事を考えていたら、いつの間にかに四糸乃達の姿が俺の前から消えていた。今更気づくとは……相当考え込んでたな、俺

 うーん、帰っちゃったのかな? でも捨て子なんじゃ……って、どこに住んでるのか聞いておけばよかった

 でもそれならなんで急に——

 

 

 「——まさか」

 

 

 も、もしかして……いやでも流石にそんな唐突には……

 でも実際に四糸乃達はいなくなってるし、やっぱり——

 

 「……逃げられちゃった。って……こと、かな? ハハ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千歳:ライフポイント=1300

 

 千歳にダイレクトアタック=4500ダメージ

 

 残りライフポイント=0(-3200)

 

 

 

 

 

 「……フフッ」

 

 俺はベンチから立ち上がり、手すりのあるところまで不安定な足取りで歩いて行く

 そうして手すりの前までこれば顔をあげて空を見上げるのだった

 

 気付けば雨も降り止み、雲の隙間から夕陽が差し込んでいる。その夕陽が目に染みるぜ

 

 

 ——でも、なんでだろう? なんで雨が降ってないのに顔が濡れるんだ……

 

 

 「心が折れそうだよ……」

 

 誰か篝火はよ。またはカボタンを……亡者になってしまいそうだ

 

 




千歳さんがよしのんを四糸乃に与えた説

因みにですが、もうわかってるとは思いますが千歳さんは四糸乃が精霊だと気付いておりません
霊力を感知?千歳さんがそんな器用なことできると思うてか!多分知っててもやるのを忘れてるかと
故に四糸乃が隣界したことに気づいてないのです。故に原作までは公園のベンチで不貞寝するという裏設定があったりなかったり?

因みに今回出てきたおじちゃん。今後も出番あるかも

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