ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー 作:タトバリンクス
星野如月の過去編五話目です。今回はいつもよりかはだいぶ短め。
それではお楽しみください。
14
罪悪感。
その言葉を聞いて、わたしはある光景をフラッシュバックした。
それはわたしが小学生の頃のこと。
私がクラスで罵倒や陰口を言われる光景だった。
『お前、わざと手を抜いたんだろ』
『どうせ、自分以外はバカばっかりって思っているんでしょ』
『ちょっと可愛いからって調子乗んないでよ』
『自分が一番賢いと思っているんでしょ』
そんな他人の暴言が私に降りかかる。
その言葉に私はただ謝ることしか出来ず、ただただ他人に怯える。誰も助けてくれない、味方なんていない。
私はずっと一人だった。
けど、それは本来わたしが受けなければならない当然の報い。
決して私が受けてはいけない罰。
「別に……そんなんじゃないわよ」
わたしはツバサから目を逸らしながら答える。
しかし、それは明らかに嘘であることは明白だ。
そんなわたしの反応を見てツバサは大きくため息をつく。
「はぁ~やっぱりね……」
「何がよ?」
「沙紀って本当にバカよね」
「はあ? 別に勉強なら首席クラスよ」
「そういう意味じゃないわよ、にぶちん」
そう言ってツバサはわたしの額を軽くデコピンする。
突然の不意打ちにわたしは額を押さえながらツバサを見つめる。すると、ツバサはじとっとした目で私を見つめる。
「沙紀って頭は良いのに、ホント、■■のことになるとバカよね」
「だからさっきから何なの? アイドルの額にデコピンなんて、ファンに殺されかねない行為よ」
「それは……ごめんなさい」
「冗談よ、まあその件に関しては少し反省して欲しいけど……それよりも何なのさっきから? バカだのアホだの言いたいことがあるならハッキリ言って欲しいものね」
私が問い詰めるとツバサは一呼吸置くと、真っ直ぐこちらを見ながらこう告げた。
「沙紀って自分の行動が■■に負担を与えてるって気付いているでしょ」
「……」
ツバサの核心を突く一言に私は何も言えなかった。
いや、言葉を失ってしまったと言ったほうが正しいのかもしれない。
そんな私の反応を見てツバサは深いため息をつくとゆっくりと口を開く。
「やっぱりね……自分が何かをすれば、必然とその負担は■■にかかる」
「……」
「けど、沙紀は分かっていながらも自分の好奇心を抑えることはできないのよね」
ツバサの言っていることは全て的を射ていた。
わたしは自分の行動が私に負担を与えていることを理解しているし、その自覚もある。それでも、わたしは自分の好奇心を抑えることが出来ずについつい身体を動かして行動してしまう。
「今回だってそうでしょ? アイドルになったのも興味があったから……違う?」
「……違わないわ」
わたしは認めざる得なかった。
そうだ、本当はずっと前から気付いていた。
いや、本当はとっくの昔に気付いていたのに、気付かないふりをしていただけなのかもしれない。
わたしが興味本位で何かをすれば私に負担が掛かることを理解しているくせに、その行動を止めることが出来なかったから。
「沙紀って感情がないってわけじゃないのよね、ただ顔に出ないだけで」
「そうね……私は感情がないわけじゃない」
楽しいことがあれば嬉しいと感じるし、悲しいことがあれば涙を流す。
ただそれが表情に出ないだけであって感情はちゃんとある。
「だからこそ、自分が楽しい思いをしているのに、私が苦しい思いをするって分かっているから心の奥底で感情をセーブしている」
「なるほど、だから無意識にわたしは表情が作れずにいるって言いたいのね」
わたしが何か新しいことを始めれば、当然、身体を共有している私に負担が掛かる。
それにわたしは大抵のことは何でも人並み以上に出来てしまう。
そのため、あっという間に技術が向上してしまい、私に対しての負担が大きくなる。
ただでさえ身体を共有して、表に出る時間が限られているのに、その限られた時間をわたしが奪ってしまう。
別に私が律儀にわたしの代わりをする必要はない。あの子がしたいことをすればいい。
だけど、私はそれをしない。だって、周囲が求めているのは、なんでも出来る天才の篠原沙紀なのだから。
決して■■■■ではない。
そのイメージを崩したくないから私は自らの時間を削ってまでわたしの代わりを演じようとする。それがわたしに取って何よりも辛かった。
だから、わたしは自分にとってどんなに楽しいことを見つけても、それを心の底から楽しめない。
だってその楽しさは私の犠牲で成り立っているものだから。
「そうね……ツバサの言う通りよ」
わたしはツバサの言葉を素直に認めた。認めざる得なかった。
だって、それを否定出来るほどの理由がないからだ。
「けど、どうすればいいのよ、いまさらそれに気付いたって、どうしようも出来ないじゃない」
そう。気付いたところで何かができる訳じゃない。彼方立てれば此方が立たず。わたしが何をしようすれば、私に負担がかかる。逆に私が何かしようとしてもきっと私は負い目を感じる。
結局、双方が幸せになんてなれるわけがない。
そんなの分かりきったことじゃない。
だからわたしはツバサに問いかけた。
どうすれば良いのか? と。
すると、ツバサはきっぱりとその質問に答える。
「そんなの私が分かるわけないじゃない」
「ちょっと無責任じゃない」
あまりにあっさりとした答えに私は思わずツバサの肩を強く揺する。
そんなわたしにお構いなしでツバサは話を続ける。
「そもそも、この問題はあなたたちの在り方の問題なんだから、私たちにどうこうできる問題じゃないわよ」
「じゃあ何で私に気付かせたのよ……」
私の弱々しい問いかけにツバサは口に指を当てながら、少し考える素振りを見せる。
そして──
「そうね、私の大好きな親友たちには幸せになって欲しいからかしら?」
と、真っ直ぐな眼差しで私を見つめながら答えた。
そのあまりにもストレートな答えに私は呆気に囚われてしまい言葉を失ってしまった。
「そんな恥ずかしいセリフを堂々と言えるってすごいわね」
「別に、私はただ自分が思ったことを言っただけよ」
さも当然のようにツバサは答える。
本当にこの子は恥ずかしげもなくよく言えたものね。
だからなのかしら。私がツバサに心を許しているのは。
真っ直ぐで純真な心を持つ彼女だからこそ、きっと私は惹かれたのかもしれない。
「ホント、ツバサのそういうところ嫌いじゃないわ」
「あら? 沙紀が人のこと褒めるなんて珍しいわね」
「そう?」
「そうよ、沙紀が人のことを褒めるなんて初めて聞いたわよ」
「そうかしら?」
わたしはツバサの言葉を軽く受け流す。
すると、そんなわたしに対してツバサはやれやれといった表情を浮かべるとため息をつく。
「まあ、いいわ……とりあえず、あなたたちはちゃんとお互いに話し合ってみたら?」
「話し合うって……どうやって?」
「う~ん、とりあえず気持ちを打ち明け合ってみたらどうかしら? 自分の気持ちを吐露するだけでも多少は変わると思うわ」
「言うのは簡単だけど、それが一番難しいのよ」
「そんなことは分かってるわよ……けど、あなたたちに足りないのは本音でぶつかり合うことだと思うのよね」
ツバサは真剣な眼差しをわたしに向ける。
そんな彼女のことをわたしは見つめ返す。そして、ゆっくりと口を開くと正直な気持ちを彼女に伝える。
「そうね……お互い本音でぶつかり合えば何か変わるかもね……」
確かに今までちゃんとお互いの気持ちを打ち明けたことはなかった。
そう考えるとツバサの提案は悪くないかもしれない。
「そうね……とりあえず私とちゃんと話してみるわ」
まずは私とちゃんと話そう。
そして、それからどうするか二人で考える。全てはそこから。
「それが良いわ、その上で決めたことなら、私は全力で応援するわ」
ツバサはそう言うと、わたしの手を握り、真っ直ぐな眼差しでわたしを見つめる。
「まあ……その結果、沙紀がアイドルを辞めたら、私はかなり落ち込むけど、気にしないで」
「そのときは一緒にカラオケでも行って、これでもかってくらいわたしの歌を聴かせてあげる」
「それは……それでテンション上がるわね!!」
ちょっと興奮気味にツバサは答える。確かにカラオケでわたしの歌を聴くのはかなり贅沢だものね。
そんな光景を想像してか、ツバサは目をキラキラさせて喜ぶ。まるで子供みたいに無邪気な笑顔。
「そんな冗談は置いておいて、とりあえず、沙紀は■■としっかり話し合うこと」
「そうね、そうするわ」
ツバサの言葉に私は頷く。
そして、わたしは決意を新たにすると、ゆっくりと立ち上がる。
「さてと、そろそろお昼も終わりの時間ね、教室に戻りましょう」
「うん、そうね」
そう言ってわたしたちは教室に戻る。その足取りはとても軽かった。
如何だったでしょうか。
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それでは次回をお楽しみに。できれば早めに投稿できたら良いなと思っています。