ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー 作:タトバリンクス
星野如月の過去編四話目です。
それではお楽しみください。
12
ファーストライブから数ヶ月経ったある日のこと。
その日は事務所の一室でユーリと一緒のソファーに座りながらぐだぐだとしていた。
「はぁ~、何で私こんなに可愛いのに売れないのでしょうか」
「可愛いだけだからじゃない」
「グッ!!」
ユーリの独り言に無情なツッコミをいれると、ユーリは胸を押さえて膝をついた。
わたしはそんなユーリを尻目に事務所に置いてあったファッション雑誌をパラパラとめくる。
最近はこういうのが流行っているのね。今度買ってみようかしら?
「私が落ち込んでるのに慰めてもくれないですか!?」
「だって事実だもの」
「止めろ!! 事実でも言って良いこと悪いことがあるんだよ!!」
「はぁ~、めんどくさ」
「はあ!? 何ですかそれ!! 私の扱い雑すぎませんか!? 私のほうが年上!! もっと敬って!! 何様のつもりですか!?」
「絶賛人気急上昇中の中学生アイドルさまですが? そちらこそどなた?」
「あなた様の腰巾着A……って自分で言わせるな!! ちくしょう!!」
「売れないアイドルの僻み……見苦しいものね」
「うるさい!!」
ユーリはそう言うとテーブルの上にあったお菓子に手を伸ばしバリボリ食べ始めた。
全く、本当にこの子は……。
私はため息をつくと雑誌を閉じて立ち上がった。
「どこ行くんですか?」
「コーヒーの飲もうかなと思って、ユーリもいる?」
「私は紅茶がいいです」
「はいはい……」
そう返事をして備え付けのキッチンに向かいお湯を沸かす準備をする。
ポットの中に水を入れ沸騰するまで待っている間に棚の中からティーパックとティーカップを取り出す。
確かこの辺にあったはず……っと、あったわ。
それを手に取りカップと一緒に持ってポットの前に戻る。ポットの近くにあったインスタントコーヒー容器を開けてわたしのカップに中身を入れるとちょうどお湯が沸いた。
わたしはそれに気づくと、ポットを手に取り自分の分のお湯を注ぎ終えてから、ユーリの分を注いでいく。
ポットをもとの位置戻して二つのカップを持ってソファーに戻る。
「はい、これあなたの分」
「ありがとうございます」
ユーリに渡してから彼女の隣に座るとそれぞれ用意した飲み物を口に含む。
うん、美味しい。
そのまましばらくまったりと過ごしているとふと思い出したかのようにユーリが口を開いた。
「ところで、絶賛人気急上昇中のアイドルさん」
「なに腰巾着Aさん」
「誰が腰巾着ですか!! ……こほん、それは置いといてですね」
「置いておくんだ……」
「こんなにゆっくりしてて良いんですか? 確か如月ってもうすぐライブありましたよね」
確かにユーリの言う通りわたしは二週間後にちょっとしたライブを控えている。本来であればこんなところでゆっくりしている余裕はないのだけど……。
「大丈夫よ、わたし天才だから」
ちょっとマンガのキャラみたいに返してみる。
自分の表情が出にくいのが、クールなライバルキャラみたい雰囲気なっているのではなんて思ってみる。まあ、実際はただの無気力系少女だけど。
「うっわ~、ムカつくぅ~、激刺激的に腹立つぅ~」
「はいはい、悪かったわね。それで? 何か言いたいことがあったんじゃないの?」
「いえ、如月が大丈夫って言うのなら心配はしませんけど……ただ」
「ただ?」
「例の件があったから心配になって……」
例の件? 最近何かあったかしら? ここ数ヶ月の記憶を辿るけど、いまいちピンとくるものが出てこない。
(ほら……この前の……トレーナーの件……)
ああ、あれね。私に言われて思い出したけど、正直気にもしてなかったからすっかり忘れてたわ。
「別にユーリが気にすることじゃないわ、あっちが勝手にわたしの才能に嫉妬してやらかした、ただそれだけじゃない」
ユーリが気にしていること。それは数日前までわたしの専属のトレーナーだった人物が辞めた。
理由は簡単。わたしに対しての嫌がらせが原因。
最初は馬が合わなかっただけだったかもしれない。だけどそのすれ違いが徐々に大きくなっていつしかわたしに対する罵声を浴びせるようになり、わたしの練習メニューを無茶なものに勝手に変えたりするようもなった。
それでも澄ました顔で普通にこなしているわたしを見てさらに面白くなかったのか逆恨みして、ついには練習中に怪我させようとしてきたのだ。
もちろん、その前にわたしは気が付いていたから避けたけど。
それを偶然たまたま見ていた真拓が慌てて駆け寄ってきて、事情を問いただした。
すると、わたしへの嫉妬心やストレスが溜まり爆発してしまったということだった。そして、その出来事をきっかけに、わたしに危害を加えようとしたということで、クビになったらしい。
そのせいで、わたしのスケジュールが狂ってしまった。今日わたしがここで暇しているのもそれが影響。
「それはそうなんですけど、やっぱり気になっちゃって」
「もう過ぎて終わったことよ」
そんなことはわたしにとって日常茶飯事だった。だから、別に気にする必要なんてない。
わたしはそう言ったけど、ユーリは納得してないのか、浮かない顔をしていた。
「ありがとう、心配してくれて」
「べ、別に私は……ただあなたがもしいなくなったら困るだけです」
「ふ~ん、ユーリはわたしがいなくなったら困るのね、なんでかしら」
「決まってるじゃないですか!! 如月がいなくなったら私が如月よりも激刺激的なアイドルになったって証明出来ないじゃないですか!!」
「……」
「な、なにか反応してくださいよ!!」
「ごめんなさい、あまりにも予想通りの答えすぎて思わず黙り込んでしまったわ」
あまりにもユーリらしい答え。何ヵ月か彼女と一緒にいるけど、あまりにもユーリらしい答え。何ヵ月か彼女と一緒にいるけど、彼女はわたしに勝つことしか頭にないようね。
でも、不思議と嫌な気持ちにはなれない。むしろ、そういう風にわたしと向き合ってくれるほうが嬉しい。
「何か如月嬉しそうですね」
「気のせいよ、ほら見てわたしの綺麗な顔、無表情じゃない」
カップを置いて自分の顔を指差しながらユーリの方に向けてみる。なんだったらついでにアイドルらしい可愛いポーズをキメる。
「はいはい、そういうことにしておきますよ」
ユーリはその光景に呆れたようにため息をつくと紅茶を飲んでいた。
「話は戻しますけど、次のトレーナーの目処はついてるんですよね?」
「さあ? その辺は真拓に任せてるけど、正直期待が出来ないわね」
「前の人で何人目でしたっけ?」
ユーリの質問に私は再びカップを持ってコーヒーを飲みながら少し考えて答える。
「確か……五人目だったかしら?」
「変わりすぎじゃないですか!?」
「仕方ないじゃない、わたしをまともに指導できる人がいないのが悪い」
「そ、それはそうですけど……」
ユーリは反論出来ずに苦い表情をしていた。
そう、これが今の現状。
今まで何人ものトレーナーがついたけど、みんな口を揃えてわたしのことを『天才』だと言った。
だから自分にはわたしを指導することができないって諦めて去っていく。
たまに前のトレーナーみたいに嫌がらせしてくる人がいたりするけど、それくらいならどうってことはない。
問題はそこじゃなくて、その後。
わたしを満足させるほどの人材が見つからないまま、時間だけが過ぎていく。
次のライブはいい。もう十分なパフォーマンスのクオリティーは維持できている以上それで問題はない。
「まあ、例の武道館ライブまでに見つければいいだけの話だし、そこまで気にしなくてもいいんじゃない」
「楽観視している場合じゃないですよ、武道館ライブですよ!! ってかなんでもう武道館でソロライブ決まってるんですか!! まだデビューして一年経ってませんよね!?」
「そりゃあ、わたし天才だから」
そう言ってドヤ顔してみるけど、案の定無表情のまま。気にしないけど。
実際、わたしが天才であるのは紛れもない事実。
「そんなことは分かってますよ、けど、真面目な話やっぱりちゃんと如月には指導できる人が必要だと思います、あとズルい」
「最後の一言は余計ね、でも確かにそれは否定できないわね」
ユーリの言葉も最もだと思う。
けど、なかなかいないものね。わたしの指導が出来るような人なんて……。
「あ、そうだ」
「どうかした?」
突然何かを思いついたのか、ポンッと手を叩く。
一体何かしら? わたしは彼女の言葉を待つ。すると、ユーリはとんでもない提案をしてきた。
「いっそ、雪音さんに指導してもらいましょう、あの人も大概天才なのでいけますよ、化け物には化け物をぶつけるんだよ理論的な感じで」
ユーリの提案にわたしは思わず持っていたティーカップを落としそうになる。
何を言っているんだろうこの子は。
わたしはどうにか平静を保ちながら口を開く。
「マジで止めて……あれに指導されるくらいならアイドル辞めるわ」
冗談抜きでわたしは全力で拒否をした。
あれに指導されたら絶対にろくなことにならない、そう確信があったから。
わたしの反応を見て、ユーリは目を丸くしていた。
「刺激的に嫌そうじゃないですか!! しかも母親をあれ呼ばわりって!!」
ユーリのツッコミにわたしは小さくため息をついた。
「ユーリは雪音のヤバさを分かってない、確かに雪音ならわたしの指導はできるかもしれないけど……」
「けど?」
「あれが指導したら、調子に乗って私もアイドルやるって言い出しかねない、絶対に言う、断言出来る」
「いやぁ、流石にそんなこと……」
「あるのよ、だってわたしの母親なんだから」
「説得力が半端ないですね」
「それに自分の母親がアイドルやっている姿……ユーリは見たい?」
「いえ、全く、そんな状況なら私は自殺します」
「でしょう」
即答するユーリを見て、わたしはまた大きくため息をついた。
何となく雪音がアイドルをしている姿を想像してみた。
(イェーイ!! 皆~今日は来てくれてありがとぉ~!! 娘共々よろしくぅ~!!)
わたしと一緒のステージに立つビジョンが見えた。うん、考えただけでダメ。これは無理。というか絶対やりたくない。
(けど、わりと見てみたいかも?)
私が何か狂ったこと口にしていたけど、気にしない。気にしてはいけない。
「とりあえず、雪音に任せるのはなし」
「そうなると、あとは真拓がいい人を見つけるのに期待するしかありませんね」
「そうね」
「……」
わたしの反応にユーリは何か思うところがあったのか、じっとこちらを見つめてきた。けどわたしはそんなことを気にせずに残りのコーヒーを飲み干す。
その日は結局何も進展がなく、ダラダラとしながらそのまま解散となった。
13
それからある日のお昼休みのことだった。
「はぁ~、やっぱりところてんは最高の食べ物ね」
わたしはところてんの一つ一つをじっくりとねっとりと味わいながら食べていた。
なんだろう、このぷるんとした食感とつるっとした喉越し、そして噛めば噛むほど広がる磯の香り。全てがマッチしていて、素晴らしい。
「ホント、沙紀はところてん好きよね」
「えぇ、大好きよ」
わたしの隣に座っているツバサが話しかけてくる。
彼女はお弁当箱に詰まったご飯を食べている最中だった。
「でも、ところてんってこんな色だったかしら?」
「……何が言いたいの?」
「いや、何か私の知っているところてんと比べてスッゴく青いんだけど」
「よくぞ、聞いてくれたわね、ツバサ」
わたしは箸を置くと、ツバサの方を向いた。
「実はこのところてんはわたしがお手製の最高傑作よ」
「へぇ~」
わたしの言葉にツバサは特に興味なさげに返事をする。
「ところてんとゼリーの比率を9:1にして、さらに味はライチの風味なるように調整し、そのうえ見た目は青くなるように工夫したわ」
わたしは自慢げに語るけど、ツバサは相変わらず反応が薄い。
もっと驚いてもいいと思うのだけど。
「それよりもこの前のライブ見たわよ!! 凄い良かったわ!!」
「急な話題転換だけど……ありがとう」
「もう、あんなパフォーマンスが出来るなんてさすがは私の推し兼ライバルね!!」
さっきのところてんの話とは雲泥の差ほどのテンションで話すツバサ。
まあ、別にいいけど。
「あそこまで高いパフォーマンスを見せられると、今度の武道館ライブも期待しかないわ!! 私、もう楽しみすぎて夜しか眠れないわ!! 早く武道館で如月のライブ見たい!!」
興奮気味に語るツバサにわたしは興味なさそうに答える。
「そんなに興奮しなくてもちゃんと次も期待通りのライブを見せてあげる」
「……」
わたしの答えにツバサはピタッと動きを止めると、じーっとわたしの顔を見る。
まるで品定めをするように。
そして、ツバサはポロッと口を開いて──
「沙紀って……今アイドルやっていて楽しい?」
と、突然そんな質問をしてきた。
「急にどうしたの?」
「いや、何だろう、最近の如月見ているとちょっと楽しそうに見えないっていうか……」
「……」
「もし、少しでも本当にアイドルが楽しかったら沙紀って笑えてると思うのよね」
彼女の言葉にわたしは呆れたように肩をすくめる。
「何言ってるのツバサは、わたしが笑えないの知っているでしょ」
生憎物心付いたころからずっと自分の感情を表情に出した記憶はない。常に無愛想。それがわたし、篠原沙紀だ。
それなのに何を言っているんだろうこの子は。
すると、ツバサは少しムッとして反論してくる。
「そんなことはないと思うわ、ちょっと■■に代わってみて」
「まあいいけど……」
意図がよく飲み込めてないままわたしは身体の主導権を私に引き渡す。
自分の身体の感覚が少しずつ薄れていくとやがて視覚と聴覚だけしか感じなくなった。
これで私に身体の主導権を渡せたわけだけど、急に表に出された私は困惑していた。
「えっ……急に……どうしたの……ツバサ……ちゃん?」
「ごめんなさいね、ちょっと試したいことがあって」
「試したいこと?」
「えぇ、■■に協力してもらいたくて」
ツバサがそういうと、私の両手をガッチリと掴み、真っ直ぐに目を見つめてくる。
その目は真剣そのもの。
そんな真っ直ぐな視線を人の視線が苦手な私が受けたら当然──
(うぅ……やめて……そんなに……見ないで……)
(顔……近い……)
(恥ずかしいよぉ……)
(こんなに……近くて……胸が……ドキドキ……する……)
(ツバサ……ちゃん……可愛い……)
(このまま……キス……される……のかな……)
(あっ……でも……友だち……なのに……しかも……女の子……どうしで……それは……)
このように思考がパンクしてショートしてしまう。
しかし、ツバサはそんなことお構いなしに私の手をぎゅっと握ると──
「スキアリ」
そう言ってパシャっと写真を撮った。
「ふぅ~、いい写真が撮れたわ」
満足そうに笑うツバサ。
その手には携帯がしっかりと握られていた。
「今のは……なに?」
「見ての通り、■■の写真よ」
「どうして……それを……」
「■■の可愛い写真が欲しかったからって言ったら……」
「う~~~~」
恥ずかしながら私はポカポカとツバサの体を叩く。
「冗談、冗談だってば」
そう言いながらツバサは笑いながら私の頭を撫でた。
私はツバサの手を払い除けず頭を撫でられていると、そのまま大人しくなる。むしろもっと撫でて欲しいのか彼女にすり寄っていく。
その光景を見せられているわたしはどこか安心感を覚えた。
あの私がここまで他人に懐いているなんて珍しい。というか普通はない。
私にとって他人とは恐怖の対象でしかない。そんな存在。
けれど、ツバサだけは違った。
彼女は他の人間と違って、私のことをちゃんと見てくれる。
だからこそ、私は初めて自分の名前を告げる勇気が出た。ツバサだから出来たことだ。
きっと彼女以外だったら一生出来なかっただろう。
そう思うとやっぱりこの人はとても不思議な人だと思う。
そして、しばらくするとツバサはそっと私の頭から手を退けると、私は少し物寂しそうな声を漏らす。
「それで……結局……私を……呼んだのは……なんだった……の?」
「あ~……そうね、また一旦沙紀と交代してくれる?」
「うん……いいけど」
ツバサの言葉に素直に従い、再びわたしの身体の所有権は戻る。
そして、ツバサは改めてわたしの方を向く。
「それで何? 私を辱しめるだけ辱しめて終わり?」
「言い方にトゲがあるわね」
「事実じゃない」
「まあ、否定はしないけど」
ツバサは苦笑しながら、わたしに携帯の画面を見せる。
そこには顔を真っ赤にしながら照れている私の写真だった。
「これはさっきの写真よね、これがどうしたのよ?」
「さっき沙紀は笑えない──というより表情が顔に出ないって言ってたけど、■■はこんな風に表情がこんなにも分かりやすく出てる」
「確かにそうね」
私はわたしと比べてちゃんと感情が出ている。
それに比べて私はいつも無愛想で不機嫌そうに見えるらしい。
「なら沙紀だって問題なく表情が出せるのは普通じゃない? だって二人とも同じ身体を共有しているんだから」
「確かにその通りね、でも実際はわたしの表情は全く変化しない」
ツバサの言う通り、二人の精神が入れ替わっても肉体に影響はない。
つまり、本来であればわたしもちゃんと表情が出せて当たり前なのだ。
だが、実際には違う。
わたしの表情は動かない。
どれだけ頑張って笑顔を作ろうとしても全く笑えないのだ。
まるで分厚い仮面を貼り付けられたかのように。
「多分だけど、沙紀は心の奥底で無意識に感情にブレーキをかけていると思うの」
ツバサは腕を組みながら考え込む。
しかし、わたしはその言葉の意味が分からなかった。
わたしは自分の感情にブレーキを掛けるつもりはない。
自分が思うがままに行動して、感情のままに生きている。
なのに、どうしてわたしはそんな事をする必要があるんだろうか。
「ツバサはわたしが感情を抑えてるそんな風に見えるの?」
「ん~正直よく分かんないわ」
「何よそれ」
自分で言ってきたのに分からないとは意味が分からない。しかもわたしを無駄に混乱させることを言っておいて。
「正直な話、■■が色々と面倒なひねくれかたしてたから沙紀のほうも何かあるんじゃないかなって……」
ツバサは申し訳なさそうにそう告げると──
「ツバサちゃん……私の……こと……面倒って……思ってたんだ……」
不意に私が身体の主導権を握って、ショックを受けていた。
「ご、ご、ご、ごめんなさい、悪気はなかったのよ」
ツバサは慌ててフォローを入れるが時すでに遅し。
「そうだよね……私……なんて……めんどくさい……女……だよね……」
涙目になりながら、私は膝を抱えて落ち込んでしまう。
こうなるとなかなか復活出来ない。
ツバサはオロオロと困り果ててしまう。
まあ、実際私が面倒な性格なのはそう。ツバサが私と仲良くなるまで、マジでめんどくさかった。
「もう……いいもん……」
私は完全にいじけてしまい、体育座りをして地面にのの字を書く。
しかし、ツバサがいくら謝っても私は一向に許そうとしなかった。
私に許してもらえずどんどんパニクるツバサ。
「え~と……その……■■は可愛い!! 本当に可愛い!! 天使、女神、妖精、この世の全てに祝福された存在よ!!」
そんなことを叫びながらツバサは必死に私を慰めようとする。
しかし、そんなことで簡単に私は立ち直らない。
「うぅ……ぐすっ……どうせ……私は……可愛く……ないよ……」
「うぅ~……じゃあ……こうなったら……」
そう言ってツバサは塞ぎ込んでいる私の顔を無理矢理持ち上げると、突然私の頬に自分の唇を押し付けた。
それは一瞬の出来事で、すぐに私は解放される。
私は何が起きたのか理解できず、ただ呆然としていた。
「な、なな、ななな」
私は顔を真っ赤にして、口をパクパクとさせる。
すると、ツバサも自分の奇行に気付いて恥ずかしくなったのか顔を赤く染めていた。
「その……元気出して欲しくて……」
ツバサは顔を真っ赤にしながら、指先を合わせてモジモジとするが私はキスをされたという事実に脳の処理が追い付かずに思考がショートしてしまう。
結果、恥ずかしさのあまり意識がブラックアウトする。
そして、再びわたしの身体の主導権が戻った。
「何バカなことやってるの?」
意識が戻ったわたしはツバサのすねを蹴りながら、彼女の顔を睨み付ける。
「いたぁい! ちょっと沙紀、暴力はやめてくれる」
ツバサは蹴られた部分を擦りながらも、わたしに文句を言う。
「うるさい、ツバサが悪い」
「その節は本当に、申し訳ありませんでした!!」
ツバサは綺麗なお辞儀をしながら謝罪をする。
その姿を見てわたしは少し冷静になる。
「まあ、いいわ、それで何であんな事したの?」
「だって■■が元気出してくれないかなって」
「あんなことしたら初な私に刺激が強すぎるに決まってるじゃない」
「ご、ご、ご、ごめんなさい!!」
ツバサはもう一度頭を下げる。
さすがにやり過ぎたと思っているようだ。
わたしはため息をつくと──
「まあ、ツバサの気持ちは分かったからもういいわ」
「ありがとうございます」
「だから、今後は絶対にしないでよね」
「ぜ、善処します」
「善処しますって……あなたまた私とキスがしたいの?」
「まあ、したくないかと言えばしたいけど……唇に」
「変態」
「なんで!?」
わたしの言葉にツバサは驚愕の声を上げる。
だが、その反応は当然だろう。
「普通は嫌がるものでしょ? 女の子同士なんだから」
「確かにそうなんだけど……なんか不思議と抵抗がないのよね、なんだったら沙紀とでもできるわ」
ツバサは平然と言ってのける。
「えっ、あなた顔が同じなら誰でも出来るの?」
とんだ変態プレイガールにわたしは咄嗟に唇を隠す。
「まさか……雪音まで……母娘丼は最高だぜと」
「ち、違うわよ!! そういう意味じゃなくて、あくまで沙紀と■■なら問題ないって意味で──それよりも何でそういうこと知っているのよ」
慌てるツバサを見て、わたしは何事もなかったかのように平然と答えた。
「つまり、姉妹丼ならいけると」
「それは……うん、アリね」
「ナシよ」
わたしは即座に否定する。冗談でもそんなこと言われたくなかった。
「え~……沙紀と■■がお嫁さんになってくれたら毎日がパラダイスなのに……」
「私が気を失ってることを良いことに好き勝手言ってるんじゃないわよ、あとで私がこの記憶を見たらツバサ幻滅されるわよ」
「ちょっと待ってその話は聞いてないって!! ごめんなさい、私が悪かったです」
ツバサは慌てて土下座して謝った。
「一応意識失っている間の記憶は触れなきゃそこまで見ることはないけど、あんまり私の前では変な発言はしないようにね」
「はい……肝に命じておきます」
ツバサは神妙な面持ちで返事をした。
「それにしても沙紀ってホント■■のこと大切にしているわよね」
「当たり前でしょ、同じ身体を共有している言わば同居人なんだし」
「同居人ね……」
「どうしたの?」
「けど同居人にしては過保護過ぎる気がするのよね、だって沙紀ってほとんど学校の時間は■■に主導権あげているでしょ、実際私も沙紀とお喋りするの久しぶりだし」
確かにツバサの言う通り、中学に入ってからは学校の時間は主導権を私にほぼ譲っている。
学校ではわたしが表に出ることは滅多になく、授業や休み時間は私が過ごしている。
「別に良いじゃない」
「いや、良くないでしょ」
ツバサは呆れた表情を浮かべる。
「実はアイドル活動で他のほとんどの時間を沙紀が使っているのが申し訳ないからとか……」
「……」
ツバサの言葉に私は黙り込む。
「なるほどね~何となく見えてきたわ」
「何が?」
「沙紀が感情にブレーキをかけている理由」
そう言ってツバサは私のほうを見る。
わたしは思わず顔を背けた。
しかし、ツバサはそれを見逃さない。
ツバサはわたしの肩を掴むと、無理矢理こちらを振り向かせる。
そして、ツバサは真剣な眼差しで私を見つめた。
その瞳には嘘や誤魔化しを許さない強い意志が宿っていた。
「あなた心の奥底でずっと■■に申し訳ない気持ちが残っていて罪悪感があるんでしょう」
そう言われてわたしは何も言えなかった。
如何だったでしょうか。
気軽に感想や評価など頂けるとモチベにも繋がって嬉しいです。
誤字、脱字ありましたらご報告していただけると有り難いです。
それでは次回をお楽しみに。できれば早めに投稿できたら良いなと思っています。