ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー   作:タトバリンクス

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マジで遅れましたが、お待たせしました。

にこと彼女との出逢いの物語の後編をお楽しみください。


六十二話 始まり

 3

 

「……」

 

「……」

 

 部室内では微妙な空気が流れていた。お互いにお昼は済ませているけど、食べている間は例の件もあって、一言も喋らないでいたから絶妙に気まずかった。

 

「本当に星野如月ちゃんなの?」

 

「……」

 

 私は沈黙を破って確認するけど、あいつは黙ったまま何も言わない。つまり、肯定を意味していると理解できたわ。

 

「マジか~」

 

「ごめん……なさい……」

 

「なんであなたが謝っているのよ」

 

「私が……星野……如月……だって……知って……幻滅……しました……よね……」

 

「そうじゃないわよ、もちろん、驚きはしたけど、幻滅とかじゃなくて……ただ……」

 

 それ以上は口にはできなかった。当然、幻滅したからという理由ではなく、ただ単純に恥ずかしかったから。

 

 まさか、本人の前で星野如月について語っていたという事実が私の頭を埋め尽くしていた。恥ずかしさのあまり頭を抱えたくなるくらいに。

 

(確かにいま思えば彼女の声、如月ちゃんと同じだし、顔を見たときも見覚えはあったわ)

 

 私はあいつにあった既視感の正体に気づくけど、いまさら過ぎた。

 

「まあ……うん、そうね……アイドルなんだからキャラ作るのは当然よね、プライベートと差があるのは当然だと思うわ」

 

 なんか取り繕ったみたいに聞こえるが、キャラ作りはアイドルをやる上で必要だと常日頃考えていた。だから、星野如月はクールなキャラで売っていたと考えれば納得はできる。

 

「そう……ですか……」

 

 まあ、ただ目の前の気弱なこいつから星野如月だって言われただけだと、微塵も信じられないけど。

 

「あの……このことは……秘密に……して……頂けると……」

 

「別にそのくらい構わないわよ、ただこっちからも一つお願いしてもいい?」

 

「何……ですか……」

 

「あなたのサインが……欲しい……」

 

 少し恥ずかしそうにあいつにお願いをした。さすがに面と向かってこういうことを頼むのは照れくさい。

 

「そのくらい……なら……」

 

「いいの!!」

 

 ダメ元で頼んでみたけど、思いのほか簡単に引き受けてくれたから驚く。

 

「じゃあ……ちょっと待ってて、今から書いてもらうもの準備するわ」

 

 サインを書いてもらえることが分かると、私は部室の中から色紙を探し始める。

 

「あったわ!! これにお願い!!」

 

 色紙が見つかると、そのままペンと一緒にあいつに手渡して、星野如月のサインを書いてもらう。

 

「分かり……ました……」

 

 色紙とペンを受け取ったあいつは手馴れた手付きでサインを書き始めた。

 

「これで……いいですか……」

 

「はやっ!!」

 

 さっき書き始めたばかりなのにもう書き終わり、私に手渡そうとしていたから思わず声に出てしまう。

 

「ありがとう」

 

 私はあいつにお礼を言いながら色紙を受け取って、すぐに書かれているサインを見る。

 

 そこに書かれていたのは、まさに正真正銘『星野如月』のサイン。私は目をキラキラ輝かせながら見入った。

 

 一応ユニット時代のサインは持っているけど、星野如月単体で、しかも直筆のサインは持っていなかったから、めちゃくちゃ嬉しかった。

 

「こんなのでも……喜んで……くれたなら……嬉しい……です……」

 

「こんなのなんてとんでもないわよ!! 充分価値のあるお宝よ!!」

 

(なんたってあの星野如月ちゃんのサインよ、うちの家宝にしたっていいくらいのものよ)

 

「価値……なんて……ありませんよ……星野……如月……として……活動……できない……私に……なんて……」

 

 サインを貰って喜んでいる私と裏腹に、とても辛そうな声であいつは呟いた。

 

「えっ……」

 

「いえ……何でも……ないです……あの……さっきの……件……お願い……します……」

 

 さっきの言葉に反応すると、あいつは誤魔化すように約束の確認だけして、逃げるように部室から出ていった。

 

「ちょっ……なんなのよ……」

 

 あいつを追いかけようとしたけど、タイミング悪く昼休みの終わる予鈴が鳴ったからさすがに諦めるしかなかった。

 

 4

 

 その日の放課後──私は部室で一人、パソコンで星野如月のライブを観ていた。

 

「やっぱり……篠原さんね……」

 

 あいつの素顔を思い出しながらライブに映っている星野如月と見比べた。一応CDのジャケットでも確認はするけど、やっぱり同一人物にしか見えなかった。

 

「はぁ~、まさか……こんな寂れた学校に如月ちゃんがいるなんて……」

 

(むしろ寂れているからかもしれないわね……)

 

 あいつはプロのアイドルとして大活躍していたから素顔も知れ渡っている。

 

 UTXのような生徒の多い学校じゃあ身バレするリスクが高い。だから音ノ木坂のような年々生徒数が減っていた学校に入学すれば、身バレするリスクは多少は下がる。

 

 それにあいつはアイドル活動を休止中の身。変に身バレして面倒事になるのを避けたかったのかもしれない。

 

「まさか、アイドルやっているときと、素じゃあんなに違うなんて……」

 

 別にあいつに言ったように幻滅したわけじゃない。アイドルがキャラを作るなんて当たり前。

 

 アイドルは言ってしまえば競争社会。常に見てくれる人の印象に残るようにしていかないといけない。

 

 そうしないと、星の数ほどのアイドルたちに埋もれてしまう。だからこそ、手っ取り早く印象に残るようにするには、キャラを作ったほうがいい。

 

 最もキャラを作らなくても高いパフォーマンスと技術を持っているならそのかぎりじゃないけど。

 

 私はパソコンの画面に目を向ける。

 

 画面に映るあいつは笑顔とは縁遠い何処か冷めたような表情に、綺麗でクールな歌声。完璧な音程と絶妙なパフォーマンス。そして一見クールに見えても彼女から隠しきれない熱量。そこから彼女自身も楽しんでいるのが伝わってくる。

 

 そんな彼女のライブだからこそ、観ている私たち(ファン)は彼女を応援したくなるし、彼女から元気を貰っていた。

 

 それがアイドル──星野如月。下手な小細工とかしなくても多くの人を惹き付け魅了する才能を持った天才。

 

 私とは住む世界すら違うようにも思える。

 

 だけど、実際に会ったあいつは常に俯いて暗い表情。喋り方もたどたどしくて、まるで何かに怯えてるみたいに見えてた。

 

 とても星野如月と同一人物には思えなかった。

 

(正直、顔がそっくりな姉妹とかのほうがしっくりくるレベル)

 

「せめて生で歌が聴ければ一発なんだけど……」

 

 星野如月レベルの歌唱力なんて早々いない。だからこそ一回でも歌う姿が見れれば、本人だと確信を得られる。

 

「けど……難しいわよねぇ~」

 

 向こうは今や活動を休止している身である以上、そう簡単に引き受けてくれるとは思えない。

 

(まあ、あの感じだと意外と頼めば歌ってくれそうな気がするけど)

 

「明日……ダメ元で頼んでみるしかないわね」

 

 いくらここで一人考えたところで仕方がない。いっそ思い切って頼んでみたほうが早い。

 

「さすがにサイン貰っときながら図々しいわよね……」

 

 若干自分が厄介なファンみたいな感じがして、嫌になるけど、それでも私には一つ気になることがあった。

 

(価値……なんて……ありませんよ……星野……如月……として……活動……できない……私に……なんて……)

 

 なぜ天才的なアイドルの星野如月がそんなことを口にしたのか。その理由が知りたかったから。

 

 5

 

 翌日の放課後──私はCDプレイヤーを持って屋上に向かっていた。

 

 その日の昼休みにあいつに歌っているところが見たいと頼み込み、何とか承諾得ることができた。

 

(まあ、私の巧みな交渉術の賜物ね)

 

 実際のところは最初は嫌がっていたけど、半ば土下座しかけたところを強引に承諾させたようなもんだけど。

 

 そんな経緯もあって、何とか歌う姿を見ることにこじつけ、それどころかダンスまで見せてくれるっていうことになった。

 

 正直ほぼライブみたいな感じになって、内心ワクワクしている。

 

 高ぶったテンションで屋上に着くと、そこには既にあいつがいた。

 

「私からお願いしておいて待たせちゃったみたいね」

 

「いえ……私も……さっき……来た……ところ……です……から……」

 

 そうは言いつつもあいつは、三つ編みに結んだ髪を解いて、眼鏡を外し、ダンスが踊りやすいように制服の袖を捲り、軽く準備運動をしていた。

 

 私はCDプレイヤーをとりあえず手頃なところに置いて、いつでも曲が流せるように準備しておく。

 

 今回見せてもらう曲は事前に私がリクエストした星野如月のソロデビュー曲。これは初武道館ライブでも一番最初に歌ってた曲ってこともあって、私の中でも一番印象に残っているからこの曲を選んだ。

 

 それに本当にあいつが星野如月ならこの曲に思い入れがあるはず。そういった意味でこれほど適切な曲はないと思う。

 

「こっちは準備できたからいつでもOKよ」

 

「はい……私も……準備……できました……ので……いつでも……大丈夫……です……」

 

「そう? それなら今から曲を流すわよ」

 

 私はそう言ってCDプレイヤーの再生ボタンを押して曲を流し始める。

 

 ちゃんとCDプレイヤーが動いているのを確認すると、私は一瞬でも見逃すことのないように、直ぐ様あいつのほうを見る。すると、既にあいつの雰囲気が変わっていた。

 

 さっきまで自信無さそうな表情からどこか冷めたような表情に。全体的にオドオドして、以下にも自信の無さそうな感じが、どこか落ち着いて、自信が溢れているような風に、切り替わっているように感じた。

 

 それは私が何度も何度もライブやテレビで見た星野如月そのものだった。

 

 私はそう確信すると、キラキラと眼を輝かせながらあいつの歌とダンスを始めるのを待つ。

 

 そうして曲のイントロが聴こえ、いよいよあいつが歌って踊り始めると、私は驚愕した。

 

 なぜ人気絶頂の最中、星野如月は突然のアイドル活動を休止したのか。その理由を私は知ってしまったのだから。

 

 歌とダンスは当時と変わらず完璧だった。だけど唯一当時とは違い、あるものが決定的に欠けていた。

 

 星野如月の歌声はクールだけど、いつも彼女の熱量と彼女自身の気持ちが溢れ出ていた。ダンスだってキレは良くてタイミングは完璧だけど、勢いがあってすごく楽しそうに踊っているのが伝わってきた。

 

 だけど、目の前で歌って踊るあいつにはそれが一切感じなかった。

 

 歌とダンスに熱量も勢いもあいつの気持ちも一切なく、ただ空っぽだった。

 

 楽しんでいるのか喜んでいるのか怒っているのか哀しんでいるのか一切伝わってこない。

 

 ただ機械的に歌とダンスを踊っているようにしか見えなかった。

 

 私が驚き心が揺さぶられている間に、ただ気付けば曲が終わっていた。

 

「……」

 

「……」

 

 曲が終わると、お互いに黙ったまま何も話せずにいた。私はその沈黙が辛くてあいつから眼を逸らすと、あいつは黙って眼鏡を着けた。

 

「ごめん……なさい……期待に……答えられなくて……」

 

 ただとても辛そうに私に謝るあいつ。

 

「何であなたが謝るのよ……」

 

 別にあいつが謝る必要なんてない。むしろあやまらなければならないのは、私のほう。あいつはこうなることが分かっていたのに、嫌がっていたあいつを無理矢理歌わせたのは私。

 

「私が……先輩の……期待に……答えられ……なかった……のが……悪いんです……」

 

 ただ自分が悪いと責めるあいつ。

 

「いつも……こう……何ですよ……みんなの……期待に……答えられ……なくて……がっかり……させる……」

 

「誰の……期待にも……答えられ……ない……私……なんて……一つも……価値が……ないから……」

 

「不快な……思い……させて……ごめん……なさい……」

 

 自分のことを否定しながら私に深々と頭を下げて謝るあいつ。

 

「きっと……私が……いると……また……不快な……思いを……します……から……もう……二度と……先輩の……前に……現れない……ように……します……」

 

「今まで……お昼……食べる……場所……貸して……くれて……ありがとう……ござい……ました……」

 

 最後にそれだけ伝えて私から離れようとするあいつ。

 

「……」

 

 私は何も言えず、どんどん遠くなるあいつの姿を私は見ることしかできない──

 

「えっ?」

 

 はずだった。

 

 気付けばあいつの手を握っていて、あいつも急に手を握られていて戸惑っていた。

 

「なにあんた勝手なこと言っているのよ……ふざけるんじゃないわよ」

 

 自分の行動に驚くよりも、私の中には怒りのほうがいっぱい溜まっていて、疑問なんて何も感じなかった。

 

「あんた……自分に価値ないって本気で言ってるの、何であんたがそんなことを言うのよ!!」

 

「あんたは今まで多くのファンに笑顔と元気を届けてきたじゃない」

 

「みんなの前で歌って、ダンスして、みんなと一緒に盛り上がって、また明日から頑張ろうって、そういう気持ちに多くのファンをさせてきたじゃない」

 

「そんなあんたが自分に価値なんてないって否定したらあんたのこと応援してたファンは何なのよ!!」

 

 これが私の怒りの正体。あいつが自分のことを否定したのが、私はすごく許せなかった。

 

「あんたが歌って、ダンスしている姿を見て、楽しくなったり、心を奪われたり、感動した私たちの気持ちを否定しているものよ!!」

 

「そんなことも分からずに自分を否定してるあんたは私たちが憧れて応援してきた星野如月なんかじゃない!! それどころかアイドル失格よ!!」

 

 私はあいつに向かってそう言い切った。

 

「アイドル……失格……そう……ですね……私に……とって……星野……如月は……ただの……ルーティン……」

 

「歌も……ダンスも……ただ……求められて……いる……ことを……繰り返す……だけ……」

 

「楽しい……とか……嬉しい……だとかの……感情……なんて……ない……だって……そこに……私は……必要……ない……から……求められて……いる……のは……星野……如月……だから……」

 

「だからそういうのがムカつくのよ!! ホントにあんたは何も分かっていない!!」

 

(楽しいとか嬉しいとかの感情が必要ない? だったらあのときのライブは何だったのよ)

 

 思い出すのは星野如月の初武道館ライブ。あの時の星野如月は技術面でもすごかったけど、それだけじゃなくて勢いも熱量もあって常に全力だった。

 

 それに歌とダンスから彼女自身が純粋にこのライブを楽しんでいたのが、ものすごく伝わってきた。

 

 そのライブの熱狂を、空気を、一体感を、盛り上りを肌で感じて、感動したし、ワクワクしたし、それに何より憧れた。

 

(すごい……私も……いつかこんな風にファンと盛り上がれるアイドルになりたい……)

 

 私の中にあった夢や憧れがまた一つ大きくなっていた。高校に入学したらまずはスクールアイドルを始めてみようって決心ができた。

 

 なのに、そんな風に夢を与えてくれたあいつが自分自身を否定しているのが許せなかった。

 

 正直ファンとかどうとか建前。本音はあの時の私の想いを踏みにじられたのが、とても腹が立った。

 

「教えてあげるわ、本当のアイドルがどんなものか、だから、あんたアイドル研究部に入りなさい!!」

 

「えっ……」

 

 私の突然の命令に戸惑うあいつ。誰だって急に入部しろだなんて言われて戸惑わないはずがない。

 

「でも……私……スクール……アイドルは……」

 

「そんなことは言われなくても分かっているわよ」

 

 活動休止しているとはいえ、仮にもプロのアイドルである以上、スクールアイドルをやるのは色々と問題はある。

 

「だから、あんたはマネージャーとして入部するのよ」

 

「誰の……」

 

「私の」

 

「でも……先輩……スクール……アイドル……じゃないって……」

 

「そんなこと言ったつもりはないわよ」

 

 確かに初めてあいつと会ったときには答えられなかったけど、今は違う。もう決めたのだから。

 

「私はスーパーアイドル矢澤にこ、いつか世界中に笑顔と元気を届けるアイドルよ」

 

 私はそうはっきりと、胸を張って言い切った。

 

「そしてあんたはそんな私のマネージャーとして、私の近くでよく見ておきなさい、アイドルがどんなものかって」

 

 人に教えられるほどの技術も実力も無いことは痛いほど分かっている。それでも関係ない。やると決めたらやるしかない。

 

「明日のお昼、ちゃんと入部届持ってきなさいよ、分かった!!」

 

「えっ……はい……」

 

 有無を言わさず無理矢理言わせた感が強いけど、あいつは頷くと、私はあいつの手を離した。

 

 6

 

 そして翌日のお昼部室に向かう途中、私は──

 

「どうしてあんなこと言っちゃったのよ……」

 

 昨日の自分の行動を思い出すと、恥ずかしさが膨れ上がり悶えていた。

 

(確かに……あいつにムカついたのは事実だけど……)

 

 あいつに怒りを覚えたのは本当だけど、怒りに任せるままプロのアイドルに対して、マネージャーになれって、命令するのは、無鉄砲にもほどがある。

 

(でも言っちゃったものは仕方がないし、そもそも本当に入部届を持ってくるのかも怪しい)

 

 過ぎてしまったことは諦めるしかないけど、私が一方的に言っただけで、向こうが普通に無視するのはありえる。

 

 ただ万が一、もしも本当に向こうに入部するって言ってきたら私は約束を守るつもりでいた。

 

 本物のアイドルがどんなものか。教えてあげるというか見せてあげる気でいた。

 

 正直、あの星野如月の初武道館ライブみたいなライブなんて、今の私が簡単に作れるものじゃないと分かっている。

 

 それでもあのライブには到底及ばなくっても私ができる最高のライブをあいつに見せてあげたい。

 

 あいつは楽しいとか嬉しいとかそんな感情はないって言ってた。けど、多分、あいつは忘れているだけなんだと思う。じゃなきゃあんなすごいライブなんてできるはずがないわ。

 

 だからあいつに思い出してほしい。アイドルとファンが最高に盛り上がるその瞬間の感動と高揚感を。

 

 そんな自分勝手な想いを秘めながら、気付けば部室まで着いていた。

 

 私は部室の扉を開けるとそこには──

 

「先輩……入部届……持って……きました……」

 

 手に入部届を持ったあいつがいた。

 

「……」

 

 まさか本当に持ってくるとは思ってなくて、少し驚く。

 

「お願い……します……」

 

「えっ……預かるわ」

 

 私に入部届を手渡そうとするあいつに戸惑いながらも入部届を受け取る。

 

「マジで……来るなんて……」

 

「えっ……冗談……だったん……ですか……そうですよね……やっぱり……私……なんて……いらない……ですよね……」

 

 不意に出た言葉に反応して、暗く落ち込み始めるあいつ。

 

「そういうつもりじゃないわよ、ただ驚いただけよ」

 

(何て言うかすぐにネガティブな思考になるのはめんどくさいわね)

 

 そんなことを考えながら私はあいつから受け取った入部届を不備がないか確認する。

 

 入部する部活名とか色々と確認すると、ある項目に目が入った。

 

『名前:篠原沙紀』

 

(そういえば、下の名前知らなかったわよね……ちゃんと覚えておこう)

 

 いつか下の名前で呼ぶ日が来るかもしれないから、あいつの名前を記憶に留めておく。

 

「今日からよろしく」

 

「はい……よろしく……お願い……します……」

 

 入部届の確認が終わると、お互いにそれだけ言って、私は受け取った入部届を鞄に入れる。

 

「あの……私……何も……できない……かも……しれない……ですけど……先輩が……すごい……アイドルに……なれるように……お手伝い……します……」

 

「分かったわ、そこは期待しておくから、その代わり、ちゃんとスーパーアイドルの矢澤にこのことを、しっかり眼に焼き付けなさいよ」

 

「はい……」

 

 正直これがお互いに割に合ってるとは思えない。

 

 私のほうがあいつの技術を貰うだけ貰うだけになって、あいつに何もしてあげられないことなんてありえる。

 

 だからそこ私はここで強く誓った。ちゃんとあいつが感動するようなすごいステージを見せてあげようって。

 

 これが私とあいつとの出会い。

 

 スーパーアイドル矢澤にことそのマネージャー篠原沙紀の始まり。

 




如何だったでしょうか。

この話から歓迎会、そして二人だけのアイドル研究部の日常を経て、この物語の一話へと繋がっていきます。

にこがどのような思いで彼女をアイドル研究部に入部させたのかは明かされました。

アイドルに強い憧れを持っていたにこだからこそ許せなかったものがあり、それがきっかけになって、彼女を入部させた。

そしていよいよ次の話からは彼女の秘密に迫っていく話になっていきます。

彼女の隠していたものとは一体……それが一つ一つと明かされることになっていくでしょう。

気軽に感想など頂けるとモチベにも繋がって嬉しいです。

誤字、脱字ありましたらご報告していただけると有り難いです。

それでは次回をお楽しみに。できれば次回は一週間以内に投稿できたら良いなと思っています。

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