ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー   作:タトバリンクス

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少し色々とあって遅れましたが、お待たせしました。

にこと彼女との出逢いの物語をお楽しみください。



六十一話 邂逅

 1

 

 あいつと出逢ったのは、去年の梅雨ぐらい。

 

 当時のアイドル研究部には私しか部員がいなくて、スクールアイドル活動も一切していなかったわ。

 

 どうして部員がいないとか、スクールアイドル活動をしてなかったとかは、あいつか希から聞いているわよね。

 

 当時の私はこころたちに本当のことを話せなかったから、放課後はカラオケで歌の練習をするか、部室で時間を潰すかの毎日。

 

 その日の放課後は、お小遣いも無くなってきたから部室で時間を潰そうと、部室に行くとその扉の前で一人の生徒が立っていたわ。

 

 それがあいつ──沙紀だった。

 

 当時のあいつは今と同じように眼鏡に三つ編みのお下げだったけど、どこか儚い目をしていて思わず見とれてしまった。

 

(綺麗……こんな人がこの学校にいるなんて……)

 

 てっきり当時から美人として学校中で噂になっていた絵里かと思ったけど、見た目が全然一致しなかったから別人だってのは、すぐ分かったわ。

 

(こういう人とスクールアイドルやれたら……Astrologyの如月ちゃんとユーリちゃんみたいに人気出せそうよね、あの人が如月ちゃんポジで、私がユーリちゃんポジみたいな感じで)

 

 バカみたいな想像をすると、私は不思議に思った。

 

(なんでこの人、ここにいるの……)

 

 考えられるのは他の文化系の部員かそれとも……まさか……。

 

「ちょっとあなた、うちに何の用?」

 

 ここで色々と考えても仕方がないから私はあいつに声を掛けた。すると、あいつ自身ここで声を掛けられると思っていなかったみたいですごく驚いた反応をした。

 

 挙動不審な感じで慌てて私のほうに振り返ろうとするけど、足を滑らせその場で転んでしまった。

 

「ちょっとあなた大丈夫!!」

 

 私は転んだあいつに駆け寄ると、あいつは立ち上がろうとするけど、また足を滑らせ、今度は綺麗におでこをぶつけた。

 

「本当にあなた大丈夫!!」

 

 私はあいつの手を取ってこれ以上転ばないように立ち上がらせる。立ち上がらせると、あいつはお礼を言うように頭を下げ、逃げるようにその場から立ち去ろうとする。

 

 しかし、その足取りはフラフラしていて、また転びそうになるんじゃないかと心配させるほど。

 

「はぁ~、あなたそんなんじゃあまた転ぶからこっち来なさい」

 

 さすがに目の前で何度も転んで、更に見てて危なっかしいから、逃げるあいつの手を引いて、手当てをするため、部室に入れた。

 

 部室に入れると、適当なイスにあいつを座らせ、私は鞄に入れてあった絆創膏を取り出す。

 

「ほら、怪我したところ出しなさい」

 

 そう指示すると言われるがまま、あいつは俯きながら膝を出した。

 

 私は出された膝に絆創膏を貼りながら、視界に入ったあいつの脚に目が行った。

 

 綺麗で良く手入れがされているスベスベな肌に太過ぎず細過ぎない引き締まった脚。

 

 それに近くから見ると、制服の上からでもスタイルの良さが分かるし、それに何より胸の大きさに驚いた。

 

 胸の辺りを見ると、必然的にリボンの色も目に入り、こいつが一年生だと分かり更に驚く。

 

(この子私よりも年下でこの胸……一体どうなってるのよ)

 

 一瞬自分の胸と比べそうになるけど、確実に凹むのが目に見えて、考えるのを辞める。

 

「はい、終わったわ、次は……」

 

 他に怪我したところを聞くと、俯きながらこいつは首を横に振りこれ以上はないと言いたげ。だけど、私は気付いていた。

 

「あなたおでこぶつけてたわよね」

 

 目の前で見事におでこをぶつける様を見せつけられているから怪我してないとは思えない。

 

(それにしてもさっきからこの子ずっと俯いたまま、顔を見られたくないのか、それとも単純に恥ずかしがり屋か、人見知りが激しいのか)

 

「ほら、さっさと顔上げなさい」

 

 それでも顔を上げてくれないと、おでこが怪我してないかどうか分からないので、無理矢理顔を上げさせ、髪でおでこが隠れているからそれも手で押さえる。

 

 案の定、おでこは怪我していたけど、露になったこいつの顔は想像よりも可愛くてそっちに心が奪われた。

 

 まじまじと見つめていると、こいつの視線は私を見ないように逸らしていたし、若干怯えて震えているようにも見えた。

 

 何となくそれに気付くと私はおでこにも絆創膏を貼って、髪を元の位置に戻しておく。

 

「貼り終わったわよ」

 

「あ……」

 

 私は余った絆創膏をカバンに戻していると、か細い声が聞こえた。

 

「あ……ありが……とう……ござい……まひゅ……」

 

(あっ噛んだ)

 

 あいつは自分が噛んだって気付くと、恥ずかしさのあまり俯いた顔は更に俯いて、みるみる耳まで真っ赤になっていた。

 

 そのあと立ち上がり逃げるように部室から出ていこうとするが、すかさず、あいつの手を取って逃げられないようする。

 

「だから待ちなさいよ、そんなんじゃあまた転ぶわよ」

 

 せっかく手当てしたのにまた怪我されたら手当てした意味がない。

 

「少し落ち着くまでここにいなさい」

 

「迷惑……じゃ……ない……ですか……」

 

 またイスに座らせようとすると、あいつはか細く弱々しい声を絞り出して聞いてきた。

 

「別に気にしないわよ」

 

(どうせ、ここに来てもパソコンでアイドルの情報収集くらいしかすることないし)

 

 自虐的なことを考えながらあいつを座らせると、私もいつもの定位置に座る。

 

「……」

 

「……」

 

 お互い座ってからというもの無言のまま、気まずい空気になってきた。一瞬、パソコンでアイドルの情報収集しようかと思ったけど、さすがに止める。

 

(それにしてもあの顔……どこかで見覚えがある気がするわね……それに声も……)

 

 さっき見たあいつの顔に既視感を感じるけど、どこで見たのか思い出せずにいた。

 

「え~と……そう、あなた、部室の前で立ってたけど、なんで?」

 

 考えても思い出せそうにもなくって、このままだと空気が悪くなりそうだったから、空気を変えるため、ちょっと気になっていた話題をあいつに振る。

 

「えっ……ごめん……なさい……邪魔……でした……よね……」

 

 軽い感じで話題を振ったはずなのになぜか謝られた。しかもすごく怯えながら。

 

「いや、邪魔だったとかそういうことを言っている訳じゃなくて、単純になんであなたが部室の前に立っていた理由が聞きたいんだけど……」

 

「ごめん……なさい……たまたま……ここを……通って……貼り紙が……見えて……アイドル……研究部って……どんな……部活……かなって……」

 

「あぁ……そういうこと……」

 

 あいつから部室の前で立っていた理由を聞いて納得する。

 

(確かにアイドル研究部って何している部活かなんて分かりづらいわよね)

 

「まあ、簡単に言えば学校でアイドル活動をする部活よ」

 

「もしかして……スクール……アイドル……活動……ですか……」

 

「あなた……スクールアイドル知っているの!?」

 

「えっ……は、はい……A-RISE……とか……有名……どころ……だけ……ですけど……」

 

 スクールアイドルを知っていたことに食い付くと、怯えながら答えてくれた。

 

「良いわよね、A-RISE!! スクールアイドルでありながら、プロ顔負けのパフォーマンスに、それに──」

 

 私は気付けばA-RISEについて一人で長々と語り始めていた。A-RISEだけじゃない、他のスクールアイドルについても長々と話し始める始末。

 

「はっ!! 悪かったわね、一人で長々と……」

 

 話しいるうちに自分が一人で勝手に盛り上がっているのに気付いて、あいつに謝った。

 

「スクール……アイドル……大好き……なんですね……良いと……思います……それだけ……夢中に……なれるものが……あるのは……」

 

 てっきり引かれるかと思っていたけど、あいつはそんな素振りはまるでなかった。どちらかといえば羨んでいるような気がした。

 

「スクールアイドルというか私の場合……アイドルそのものが好きなのよね、みんなに笑顔を届けることのできるアイドルが……」

 

「そう……なんですか……だから……ここには……プロの……アイドルの……グッズも……あるんですね……」

 

「えっ!? あなたプロのアイドルのほうも知っているの!!」

 

(スクールアイドルを知っているからプロのほうも知っててもおかしくないけど、まさか、グッズとかポスターだけで判断できる辺り、実は相当アイドルに詳しいの)

 

 なんて心の中で勝手に期待する私。当時の私からすれば、アイドル全般の話が通じる相手が全くいなかったから、相当飢えていたんだと思う。

 

「は、はい……ユーリちゃんとか……」

 

「ユーリちゃん!! 良いわよね、私もあの子のファンなの!! 健気で努力家なところも良いけど、可愛いらしい歌声も良いわよね!!」

 

 さっきのA-RISEの時のように一人で話続ける始末。そしてユーリちゃんの話題で盛り上がっていると、当然次に話題になるのは彼女だった。

 

「ユーリちゃんを語る上で外せないのは、やっぱり『Astrology』で一緒にユニットを組んでいた星野如月ちゃんよね!!」

 

 私が星野如月って名前を口にした途端、あいつは急にビクッと反応した。

 

「そう……ですね……」

 

「如月ちゃんは見た目の通りのクールな歌声とダンスに内から溢れ出る熱量を感じられるところも良くて──」

 

 そんなあいつの反応に気付きもせず、そのまま星野如月の話題を続けていく。

 

「やっぱり如月ちゃんと言えば、初めての武道館ライブが印象的で、まさに如月ちゃんの集大成──完成したって言っても過言じゃなくて、私も運良くチケットが当選して生で観れて最高だったわ」

 

「あの……ライブ……来てたんですね……」

 

「ん? そうよ、もしかして、あなたも?」

 

 何か違和感のある言い方だけど、そんなことは気にせず聞いてみる。

 

「はい……」

 

 あいつは一言そう答えた。

 

「ウソ、マジで!? あのヤバイ倍率のライブをチケット当てて、あなたも行けたの!?」

 

「はい……あそこに居ました……私も……今までで……一番の……ライブ……だって……思って……ます……」

 

 それを聞いて私は驚いた。星野如月の初武道館ライブは、正直エグいぐらいのチケットの申し込みが起こって、発売開始一分も経たずに販売サイトのサーバーが落ちた。

 

 私も申し込もうとしたけど、発売時間がちょうど授業中でだったからできなくて、完全に乗り遅れた。けど、幸いなことに完全抽選だったことで何とか申し込みはできた。

 

 ただエグい倍率だったからほぼ諦めてたけど、チケット当選のメールが届いたときなんて、嬉しさのあまり気付けば携帯を投げ出してたもの。

 

 そういったこともあって、私の回りにあのライブのチケットが当たった人がいなくて、あの感動を共有できる人がいなかったから、目の前のこいつがあのライブに行ったって聞いて驚いた。

 

「あのライブはスゴかったわよね、始まって早々に今までの如月ちゃんとは次元が違うレベルの歌にダンスといったパフォーマンス」

 

 あのライブは今でも覚えている。ライブが始まると観客全員が彼女に完全に魅了された。元々レベルの高かったパフォーマンスは完璧と言わんばかりに完成され、もはや芸術と言ってもいいレベル。

 

 話に熱が入り、私は気付けばまた星野如月について語り始めた。

 

 ただ私はそのとき気付いていなかった。私が星野如月の話をしているときのあいつが、とても辛そうな顔をしていたことを。

 

「星野……如月……大好き……なんですね……」

 

「そうね、あれだけ多くの人を魅了させて、元気くれた如月ちゃんは大好きだし尊敬するわ」

 

 私の話を一方的に聞いていたあいつはそう結論を言い、私はそれに頷いた。

 

 私のイメージするアイドルとはかけ離れているけど、ある意味あの在り方は、私が思い描くアイドルの完成形だと思っている。

 

 人を魅了させ、笑顔と元気を届けるっていうその姿は。

 

「まあ、悪かったわね、色々と話は逸れたけど、つまり、アイドル研究部ってのは、プロアマ問わずすごいアイドルたちに負けないくらいのスクールアイドルとして、活動するための部活よ」

 

「先輩も……スクール……アイドル……なんですね……」

 

「……」

 

 あいつの言葉に、私は素直に頷くことができなかった。こころたちに嘘を吐いているとはいえ、まともに活動できていない自分がスクールアイドルって名乗るのは、烏滸がましいと感じてしまった。

 

 当時の私がそう名乗ったら、ちゃんと活動している他のスクールアイドルたちに失礼だって思ってしまったから。

 

「ごめん……なさい……何か……変なことを……言いましたか……」

 

 私の感情が表情か態度に出てしまってたのか、あいつは更に怯えだして謝る。

 

「別にあなたが謝る必要はないわ」

 

(そう、この子は悪くない。悪いのは私)

 

 プライドだけ高くて大した実力も無いくせに、高すぎる理想に憧れた結果、他の部員はみんな辞めて、一人になった。

 

 それでも一人でがむしゃらにやってみたけど、全部ダメで、気付けばいつの間にか諦めて、無駄に過ごす日々。

 

 だけど、やっぱり諦めたくないからコソコソと練習をするけど、それが身になっているから分からず、曖昧で中途半端なことをしている。

 

「ごめん……なさい……せっかく……楽しそうに……話してたのに……私のせいで……ごめん……なさい……」

 

 私の暗い気持ちを察したのかあいつは申し訳なさそうそう言って立ち上がると、逃げるように部室を出ていった。

 

「手当て……してくれて……ありがとう……ございます……」

 

 最後にそれだけ伝えながらあいつは部室から居なくなった。

 

 急過ぎてさすがに私もあいつのことを捕まえることができず、部室に一人残される。

 

「別に……あなたが気にすること無いのに……」

 

 私以外誰も居ない部室で独り言を呟くと、私はあることを思い出した。

 

(そういえば、あの子の名前聞いてなかったわ……もうどうでもいいか……)

 

 いくら学校が同じとはいえ、学年が違う以上会うことは早々ない。もしかしたら一度も会わないことなんてざらにある。

 

 だから、私はあいつのことをもう忘れることにして、パソコンの電源を入れる。

 

 さっきと変わってこの部室に聞こえるのは、キーボードを叩く音のみだった。

 

 2

 

 しかし、私の予想とは裏腹にあいつとの再会は意外と早かった。

 

 翌日のお昼休み、お昼を部室で食べるため移動していると、偶然にもあいつを見かけた。

 

 見かけたはいいもの気軽に声を掛ける間柄じゃない以上、スルーしようかと思ったけど、ただ見かけた場所はあまり誰も使用しない女子トイレの前。

 

 しかもお弁当を持ちながらその前でキョロキョロと周囲を確認する挙動不審な動きだったからすごく怪しかった。

 

(まさかねえ……)

 

 何となくあいつがこれから何をしようとしているのか予想する。けど、昨日のあいつの性格からもしもってこともあると思った。

 

「あんた……そこで何してるの?」

 

「!?」

 

 私の考えすぎならそれでいいと思いつつ、声を掛けるとあいつは驚いて昨日と同じように転ぶ。

 

「はぁ~、あんたいつも転んでいるわね……」

 

「ごめん……なさい……」

 

 そう言いつつも罪悪感を感じながら、今度は尻餅ついたあいつを起き上がらせるため手を掴む。

 

「お弁当大丈夫?」

 

「気に……しないで……ください……食べられれば……問題……ない……ですから……」

 

「そ、そう……」

 

 思ってもみない返しに若干戸惑うが、本人が問題ないっていうなら、良いとしておくことにした。

 

「今から……お昼食べるつもりだった」

 

「はい……」

 

「私の勘違いだったらいいんだけど……もしかして……トイレで食べようとしてた?」

 

 恐る恐る私はあいつに聞いてみる。

 

「まさか、それはないわよね、ハハハ」

 

「……」

 

「その反応……マジ……」

 

 あいつは更に俯き出し気まずそうな雰囲気を出してきたから私は察してしまった。

 

「なんで……そんなところで食べようとするのよ」

 

「私が……いると……邪魔に……なるから……誰にも……目が……付かないところで……食べたほうが……いいから……」

 

 そう怯えながら答える姿を見て、私は呆れながらあいつの手を掴んで有無を言わさず連れていく。

 

「えっ……あの……その……」

 

「こっそり食べたいなら付いてきなさい」

 

 戸惑うあいつを気にも止めず私は部室まで連れていった。

 

「ほらっ、ここでお昼食べるくらいなら全然使ってもいいわよ」

 

「でも……邪魔に……」

 

「そんなこと気にしなくても良いわよ、ここ使ってるの私だけだし」

 

(この子ホント、自分のことに自信ない言うか、ネガティブって言うか)

 

 少し会った私でも分かるくらいに、当時のあいつはマイナス思考で暗かった。

 

「少なくても衛生的に考えて、トイレで食べるくらいならここで食べなさい、せっかくのお昼が美味しくないでしょ」

 

「でも……一方的に……借りる……なんて……私何も……返せません……」

 

「じゃあ、ここを使わせてあげる代わりに、私の話を聞くっていうのだったらどう」

 

「それ……だったら……」

 

「決まりね……そうだ、そういえば、まだ名前言ってないし、聞いてなかったわね」

 

「私は矢沢にこ、あなたは?」

 

「し、篠原……です……」

 

「篠原さんね」

 

 お互いに自己紹介をしたあとは一緒にお昼を食べながら、私の話をあいつに聞いてもらった。そうしてお昼休みが終わる頃になると、私たちはそれぞれの教室に戻った。

 

 それから翌日は、あいつが何となく遠慮して部室に来なさそうな気がしたから、一年の教室がある階で待ち伏せする。

 

 そして案の定、部室とは違うほうへ行こうとしたから捕まえて、部室に連れていった。

 

 さすがにその次の翌日からは観念して、キチンと部室に来るようになった。それから毎日一緒にお昼を食べて、あいつに私の話を聞いてもらう日々が続いた。

 

 そういった日々が続いたある日のこと。

 

 その日は大雨で風も強い日だった。部室でいつものようにお昼を食べようと部室に向かうと、たまたま同じように向かっているあいつを見かけ、一緒に向かうことにした。

 

 それは校舎と校舎を繋ぐ一階の渡り廊下を駆け抜けている最中。一階の渡り廊下はほぼ外みたいなものだから風も強いと、当然雨が入ってくる。だから雨で濡れないように一気に駆け抜けようとした。

 

 だけど、走っている途中、雨で濡れた廊下にあいつは脚を滑らせ、運の悪いことに水溜まりに顔からダイブした。

 

「ちょっと篠原さん!! 大丈夫!!」

 

「はい……何とか……」

 

 私はハンカチを取り出してあいつに手渡しつつも急いで部室に向かう。そうして部室に着くと、私は中でタオルを探し始める。

 

「え~と、確かここに……タオルが……あったわ!!」

 

 タオルを見つけると、私は直ぐ様あいつに駆け寄った。

 

「ほらっ、これで頭と顔拭くから」

 

「あっ……ちょ、待って……」

 

 あいつが嫌がるのを無視して、あいつの眼鏡を取り、髪を解いて無我夢中で頭と顔を拭いた。

 

「これで……良し……悪かったわね、急に眼鏡や髪を弄って……」

 

 何とか拭き終わると、机に置いておいた眼鏡をあいつに返そうとする。

 

(そういえばこの子の素顔とか見たこと無かったわね)

 

 それに気付いて眼鏡を返すついでに、あいつの顔を見ると、私は固まってしまった。

 

「ウッソ……」

 

 目の前に見えた顔は、あいつと会ってからこの日まで散々私が話の話題にしていたあの──

 

「星野……如月ちゃん?」

 

 このとき初めて私はあいつが星野如月だと知った瞬間。

 

 これが私と星野如月の出会いだった。

 




如何だったでしょうか。

とりあえず今回はにこと彼女が出逢うところまで。

二人の過去編後編でまた色々と明かされるかと思います。

気軽に感想など頂けるとモチベにも繋がって嬉しいです。

誤字、脱字ありましたらご報告していただけると有り難いです。

それでは次回をお楽しみに。できれば次回は一週間以内に投稿できたら良いなと思っています。

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