ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー 作:タトバリンクス
それではお楽しみください。
1
あれから二週間が経ち、ついにラブライブ予選当日になった。
既に私たちはUTX学園に入り、A-RISEが用意してくれた控え室で準備に取りかかっていた。
「あっ、可愛いにゃ~」
「当たり前でしょ、今日は勝負なんだから」
「よしっ、やるにゃ~」
私が気合い入れて準備する姿を見て、凛もやる気を出す。
「既にたくさんの人が見てくれているみたいだよ」
もう既に他のスクールアイドルがライブを配信し、ラブライブ予選は最高の盛り上がりを見せているみたい。
「みんな何も心配はないわ、とにかく集中しましょう」
「でも本当に良かったのかな、A-RISEと一緒で」
前大会優勝者であるA-RISEと同じステージに立つのが、不安になる花陽。無理もないわ、私だって同じことを考えているのも。
多分、ここにいる何人かは同じような気持ちを少なからず持っていると思う。
「一緒にライブをやるって決めてから集中して練習が出来た、私は正解だったと思う」
確かに良くも悪くもA-RISEの提案は、私たちに影響を与えてくれた。結局のところ私たちがどう取るかってことね。
「こんにちは」
「こんにちは」
私たちが準備していると、A-RISEが挨拶に来てくれて、ちょうど外に出てた穂乃果たちが戻ってきて彼女たちに挨拶した。
「いよいよ予選当日ね、今日は同じ場所でライブが出来て嬉しいわ」
「予選突破を目指して、互いに高め合えるライブにしましょう」
「はい!!」
お互いに健闘を祈ると、綺羅ツバサはキョロキョロと何かを探すような動きをする。
「もしかして沙紀ちゃんを探してます?」
「えぇ……ライブ前に一言あの子に声を掛けたくて……」
「少し遅れてくるみたいですよ」
「そう……それじゃあ、ステージで」
穂乃果から沙紀のことを聞くと、A-RISEはこの場から離れていった。綺羅ツバサは少し残念そうでどこかホッとしたような顔をしていたのは、気のせいかしら。
「沙紀ちゃんとお話したかったのかな?」
「中学時代の親友らしいので、積もる話でもあるのでしょう」
綺羅ツバサの反応を見て、そんな会話をする穂乃果と海未。
「なあ、にこっち……」
「何よ……」
二人を見て、希は私に小声で話しかけてくる。
「委員長ちゃん本当に来ると思う?」
「分からない……」
それしか答えることができなかった。
一応遅れてくるとは連絡が入っているけど、希が言うように来るかどうかは怪しいところ。
「まあ、委員長ちゃんが来る気がないならそれでも良いと思う、色々と顔を合わせ辛いと思うから」
「そうね」
あいつと綺羅ツバサに何があったのかそこそこ知っているから、あいつがここに来たがらないのも分からなくもない。
ただ、こういう大事なときにあいつがいないのは、何故か落ち着かない。
「でもずっとそのままって言うのもお互い辛いと思うわ」
「絵里……」
「この予選が終われば、結果はどうなろうと時間はできるわ、その間に少しでもあの子の力になれるように何かしてあげたいの」
「そうやね、なんだかんだウチたちは委員長ちゃんのお世話になっているから」
この二人はそうね。生徒会だったときに業務を手伝ったり、絵里がμ'sに入るときに色々と気を遣ってくれたらしいから。
「にこだってそのつもりだったんでしょ」
「えぇ……」
私は小さく頷いた。
このライブが終わったあと、綺羅ツバサにあいつのことを聞くつもりだった。その覚悟はあのライブで決めていたわ。だけど……。
あのライブで見たあいつの何時もと変わらない笑顔。いや、あのライブが終わってから今日まであいつは、何時もと何も変わらないように振る舞っていた。
綺羅ツバサと再会して、複雑な気持ちになっているはずなのに、そんな素振りを見せないあいつ。
正直、あいつのことが分からない。アイドル研究部に来る前のあいつのことを知らないから、あいつが何を考えているのか全く分からない。だから、不安になる。
本当にこのまま一歩先に踏み込んでいいのか。あいつのことを知ってしまっていいのか。あのときした覚悟が揺らぐ。
けど、私の気持ちの整理がつかないまま、ライブの時は刻一刻と迫ってきた。
2
UTX学園の前で私は携帯で時刻を確認する。もうそろそろA-RISEがライブを始める時間だ。
しかし、すぐに私は学園に入ろうとはせず、その場で立ち尽くすことしかできなかった。
きっと、みんなA-RISEのライブを生で見て、たじろいでしまうかもしれない。こういうときこそ、私が励ますべき何だと思う。
「けど、それは私じゃなくてもいい」
私がいなくても穂乃果ちゃんが居れば何とかなる。今までの傾向から彼女は本番に強いタイプ。こういう土壇場のときに力を発揮する。
それになんだかんだにこ先輩もメンタル面では強いほうだ。二人が居れば、みんなが怖じ気づいてもやる気を取り戻すことはできるはず。
だから、あそこに私が居なくても何とかなる。もうここには私の居場所なんてない。
今日ここに来たのは、全てを終わらせるため。だけど、その一歩が踏み出せないで、かれこれずっと学園の前で立ち止まっていた。
気付けば、学園の壁にでかでかと取り付けられているモニターに、A-RISEの姿が映し出されていた。
いよいよ、彼女たちのライブが始まるみたい。私の周りには彼女たちのライブを見ようと、モニターに集まるギャラリーたち。
私も彼女たちが映し出されているモニターを見上げる。そのまま私はA-RISEの──あの人のライブを見始めた。
人を魅了する歌声にキレのあるダンス。三人の息もピッタリで、見ていて安定感のあるライブ。
流石は前大会優勝者。並みのスクールアイドルでは到底及ばない圧倒的な実力を持っている。いや、今の彼女たちはプロと遜色ない実力って言ってもいい。
(まずはそうね……スクールアイドルで頂点を取るわ、そしてそのままの勢いでプロになって、あなたたちに負けないくらいのアイドルになるの、どう? 良いプランでしょ)
思い出すのは私と楽しげに目標を話す彼女の姿。
「ホントに……目標達成するなんて……スゴイよ……つーちゃん……」
有言実行ってレベルじゃないよ。ただでさえスクールアイドル人口は増えて、そこで頂点を取るのすら難しいのに、ホントに頂点を取るんだから。
(それで何時かね、あなたたちとうんと大きなステージで一緒に歌えたらなって……)
更に思い出すのは、あの人がそのあとに少し照れくさそうに言った夢だった。
あの人にとって星野如月は憧れであり、全てのきっかけ。ファンであり、越えるべき目標であり、ライバルであり、友達だった。
憧れていた彼女たちをもっと近くで見たい。彼女たちと競い合いたい。彼女たちと対等な存在でありたい。そして、彼女たちと一緒に楽しみたい。
いろんな思いがあの人にはあった。だから、あの人が語った夢はそれらを全部纏めて叶えようとした絵空事だって、あの人はそう口にした。
初めてあの人の口から聞いたときは、そこまでしなくてもプロのアイドルになったら、すぐにでもできるのに、何て私は口にした。
けど、それは嫌だって、それじゃあただの星野如月のおまけみたいに見えるから。ちゃんとステージでは対等でありたいと、あの人は口にした。
それが何かとても嬉しかった。何だか青春しているみたいで、青臭い感じがとても心地がよかった。
だからこそ、私たちは約束した。
絶対にお互いにすごいアイドルになって、一緒のステージで歌おうって。
けど、星野如月のほうがもっともっと有名になって、簡単には追い付けないほどのアイドルになっているかもって、軽口を言いながら。いつか、その約束が叶う日を楽しみにしていた。
だけど、現実は違った。
私のせいで星野如月として二年近く何も活動はできず、その場に立ち止まっていた。
逆にあの人はスクールアイドルの頂点を一度は取った。そして今も再び頂点を取ろうと努力している。
この現状がもどかしくて、焦燥感に駆られる。あの人の約束を無下にしたまま時間だけが過ぎ去っていく。
過ぎ去った過去と割り切れば、どれだけ楽だったろう。けど、私にはそんなことはできず、罪悪感しかなく、あの人とは顔を合わせ辛い。
これも私の罪。
大切な親友との約束を破り、更にあの人を傷付けた私の罪。
そして、今まさに同じことを繰り返そうとしている。
もう一つ私には罪がある。
何があってもわたしの隣に居続けようとしたあの娘。あの娘にはあの娘なりの理由で、わたしの隣にすがりついていた。
あの娘は私のこと嫌いだけど、それでも私は感謝していた。わたしの側に居てくれたことを。
そんなあの娘から大事なものを奪ってしまった。だからこそ、あの娘は私のことを決して許さない。恨まれてもいいレベル。
気付けばA-RISEのライブは終わり、いよいよμ'sのライブの時間が近づいていた。
ここまで来れば否応なしに中に入るしかない。だから、私は仕方がなく学園の中に入った。
今日までのことをまた過ぎ去った過去にするために。
3
あいつ何処にいるのよ、バカ。
ステージが用意されているUTX学園の屋上で、ここに居ないやつのことを私は心の中で罵倒していた。
目の前で直にA-RISEのライブを見て、私も含めてみんなが圧倒されて、怖じ気づいてしまったじゃない。穂乃果が励ましてくれなければ、最悪なコンディションでライブしかけそうになったじゃない。
こういうときこそあんたの出番なのに。あんたが励ましてくれれば、みんながやる気を取り戻してくれるのに。例え全員のやる気を取り戻せなくても、少なくても私のやる気は取り戻せるのに、何であんたはここにいないのよ。
あいつのことを考えながら、私はステージの上に向かって、ダンスのポジションに立ち、ライブの最後の準備をする。
他のμ'sのメンバーもそれぞれのポジションに立ち、私たちの持ち時間になれば、いつでもライブを配信できる状態になった。
ライブが始まるまであいつが来るかどうかそわそわしながら、客席のほうを見る。けど、今のところあいつの姿は見当たらない。
時間になるまで何度も確認するけど、あいつの姿はまるっきり見当たらない。
そして、ついに時間となり、いよいよ私たちのラブライブ予選が始まろうとする。
ライブが始まるとなると、多少不安はあるけど、気持ちを切り替えるしかない。
今からは私たちのステージを見てくれたファンを楽しませるためにライブをする。それ以外のことは、何も考えない。
『ユメノトビラ』
この予選のために用意したμ'sの新曲。
最初はこの予選のために新曲を用意しないと、ラブライブに出場できないって聞いて、色々と焦ったわ。
けど、みんなで合宿をした結果、完成することができた曲。だから、絶対にこの曲で最終予選に行ってやるんだから。
意気込みながら私たちのライブは始まった。
それからは無我夢中だったわ。目の前で見てくれているファン。ネットで配信を見てくれているファンのために歌い躍り続けた。
曲もサビまで来て、ライブも盛り上がろうとしているなか、私はチラッと客席のほうを見る。
そこには見覚えのある三つ編み眼鏡の女生徒の姿が見えた。あいつの姿を見ると、一瞬頬が緩みそうになるけど、気を引き締め直す。
だけど、あいつの顔を見れただけで、私のやる気は最高潮になり、曲の最後まで駆け抜けた。
4
ライブが終わると、私はあいつの元へ駆け出す。
「来るのが遅いのよ……バカ……」
軽くこいつのお腹を殴るけど、ライブで力を使い切って、拳には全然力が入らなかった。
「ごめんなさい……にこ先輩……」
こいつは私が殴ってくるのを躱さず、そのまま拳を受け入れる。
そんな私たちのことをニヤニヤとしながら見ている希がいた。
「何よ」
「いや~にこっち、委員長ちゃんが来なくてそわそわしてたから、来てくれて嬉しそうやなって」
「別にそんなじゃないわよ!!」
「フフフ、照れちゃって可愛いなぁ~委員長ちゃん」
「そうだね」
希の振りに笑顔で答える沙紀。
「……」
「……」
こいつの反応に私と希は目を見合わせた。明らかに私と希はこいつの反応に違和感を感じた。何時ものこいつの返しなら私に抱き付くくらい平気でやってくるのに。
今日はそれすらやらないこいつに私と希は違和感を感じた。すると──
「あら……あなた……」
A-RISEが私たちのほうへやって来て、綺羅ツバサは沙紀が居ることに気付くと、こいつのほうに走り出し抱き付いた。
「来てくれたのね……」
「うん……ライブ、モニターでだけど、見たよ……」
「そう、ありがとう……できれば直で見てほしかったなあ」
なんと言うかぎこちない感じの二人の会話。それに沙紀の顔が今まで見たことないような顔をしていた。
そのせいなのか何故か複雑な気持ちになる。どうしてこんな気持ちになるのか分からなかった。
「あっ~沙紀ちゃん~」
穂乃果たちも沙紀に気付いて、こちらのほうにやって来ると、綺羅ツバサは沙紀から離れる。
「高坂さん、今日は素敵なライブをありがとう」
「いえ、こちらこそ、ライブに誘っていただいてありがとうございます」
お互いに今日のお礼を言うと、綺羅ツバサは手を差し出し、穂乃果も気付いて手を差し出し握手を交わした。そんな二人を割って入るかのように──
「いや~どちらも素晴らしかったです、チャライズとヒューズのライブ、この激戦区に相応しいライブでした」
拍手をしながら近づいてくるUTX学園の制服を着た一人の生徒。しかし、その見た目はいかにも怪しかった。帽子を深く被り、サングラスを掛けて顔が全く見えない。
だけど、彼女の声を聞いた瞬間、綺羅ツバサの顔は強ばり、沙紀に至っては震えているようにも見えた。
「それに久々にヒューズのライブを見れたのは、刺激的に感動しました!!」
「μ'sのことを変な風に間違えて……それに刺激的? もしかして……」
「おやおや、流石は穂乃果さん!! 私の変装を見破ってしまいましたか、なら、こんなものいりませんね」
穂乃果はこの生徒のことで何か気づいたような反応をすると、生徒は身に付けていた帽子とサングラスを投げ捨てる。そこから緩いカールの掛かったブラウンの綺麗な髪と素顔が現れた。
「あぁ~やっぱり結理ちゃんだ~、どうしてここにいるの!?」
「実は私もこの学校の生徒だったんですよ、それで今日ヒューズのライブがここでやるって聞いて観に来ちゃいました」
「ヒューズじゃなくてμ'sだよ!! もう相変わらず間違えるんだから……へぇ? 結理ちゃん……この学校の生徒なの?」
「はい!! 正真正銘この学校の生徒です!!」
「でも最初に会ったとき三年生って……」
「ピッチピッチの高校三年生です!!」
「……」
「ごめんなさい!! てっきり中学三年生だと思って、馴れ馴れしい態度を!!」
「気にしないでください、むしろ若く見られてラッキーって思ってますから、それに今さら敬語を使わなくても平気ですから」
「そうですか」
「今まで通りの対応でお願いします」
「分かりました──いや、分かったよ結理ちゃん」
まるっきり私たちを蚊帳の外にして二人だけで会話を続ける穂乃果とUTXの生徒。しかし、私にはこのUTXの生徒はとても見覚えがあった。
「ほ、ほ、ほ、穂乃果ちゃん……こ、こ、こ、この人と知り合いなの……」
明らかに花陽も気付いて、動揺しながら穂乃果に恐る恐る聞いてくる。
「うん、何度か私たちのライブに観に来てくれて、うちにもちょくちょく買い物に来てくれるの……それにしても花陽ちゃん、何だか様子が変だよ?」
「そりゃあんた、変にもなるわよ!! だってその人──」
「ストップ、ストップですよ、矢澤にこさん」
「私のこと知っているんですか!!」
「勿論ですよ、何たって私はフーズのファンですから」
「フーズじゃなくてμ'sだよ!! 何か食べ物みたいになってるよ!!」
「失礼失礼」
彼女にツッコミを入れる穂乃果だけど、そんなことよりも彼女に私の名前を知って貰っていたことのほうが重要だった。
「では改めまして、何人かはお気づきの方がいますようですが、自己紹介といきましょう──とその前に」
そう言いながら穂乃果のほうを向く彼女。
「一つ穂乃果さんには謝らなければいけないことが」
「えっ? なに結理ちゃん?」
「実は私の名前……偽名なんですよ」
「ぎめい?」
「嘘の名前ってことですよ」
偽名の意味が理解できなくて、ピンとこなかった穂乃果に海未がこそっと教える。
「へぇ~そうなんだ……えぇ!!」
「実はあの時まだ本名を明かすわけにはいかなかったので、つい嘘をついてしまいました、ごめんなさい」
「う~ん、理由があったんだったらしょうがないよね」
そう穂乃果に頭を下げる彼女を穂乃果は普通に許した。
「何て心の広いかたなんでしょう、私刺激的に感動しました」
穂乃果の対応に芝居掛かった感じで返す彼女。しかし、このテンションの高さとウザさは見覚えがある。
「ではでは、話は逸れましたが、改めて名乗らせていただきましょう」
「古き道を結ぶ理と書いて、
「ユリユリ~ユラユラ~私のハートをFOR YOU」
「高校生アイドルユーリです」
彼女はポーズを取りながらそう名乗った。
そして私と花陽が取った行動は──
『サインください!!』
「喜んで」
ダメ元でサインをお願いしてみると、ユーリちゃんは笑顔で快く引き受けてくれた。
如何だったでしょうか。
高道結理改め、古道結理ことユーリついに本格的に登場です。
まあ、実際彼女が星野如月のパートナーであることは気付いていたかたは多いと思いますが……。
ですが、彼女が絡むことで物語がどう動いていくのかをお楽しみに。
次回で五章完結です
気軽に感想など頂けるとモチベにも繋がって嬉しいです。
誤字、脱字ありましたらご報告していただけると有り難いです。
それでは次回をお楽しみに。できれば次回も一週間以内に投稿できたら良いなと思っています。