ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー 作:タトバリンクス
前回予告した通り今回から原作のあの回が始まります。
それではお楽しみください。
1
それはA-RISEとの合同ライブが決まってから数日後のある日の出来事だった。
「なんで後つけるの?」
「だって怪しいんだもん……」
真姫ちゃんと穂乃果ちゃんは話ながらも目線だけはある人物に向けていた。彼女たちの目線の先にはスーパーに入っていくにこ先輩の姿。
つまり今私たちは練習を休んで、みんなでにこ先輩のストーカーもとい尾行していた。
「まさかここでバイトしてるとか……」
「待って、違うみたいよ」
スーパーの入り口付近で物陰に隠れながら様子を見ていると、買い物カゴを持って食材選びを始めるにこ先輩。少なくともバイトしているようには見えない。
「普通に買い物しているみたいですね」
「なんだ、ただの夕飯のお買い物か~」
にこ先輩が何しているか分かると、安心した声を出す穂乃果ちゃん。
「でもそれだけで練習を休むでしょうか」
「……」
今の海未ちゃんの疑問こそがにこ先輩を尾行している理由。実は今日珍しくにこ先輩が練習を休んでいた。
「予選で使うステージが決まって気合も入ってるはずなのに……」
アイドルに強いこだわりを持っているにこ先輩だったら、このタイミングで休むはずがないとみんな知っている。だからこそみんなはにこ先輩が休んだ理由が気になってこっそりと跡を付けているってわけ。
ただ私はこの中で唯一にこ先輩が練習を休んだ理由を知っている。と言うよりも練習が始まる前ににこ先輩から連絡があった。
だからこの状況はちょっと好ましくないし、本当ならみんな練習に励んでしてほしいところ。でもみんな練習に集中できそうになかったから不本意だけど、こうしてにこ先輩の尾行するのを許した。
「よほど大切な人が来てる……とか……」
「どうしても手料理を食べさせたい相手がいる……とか……」
「ま……まさか……」
「いや~私のためにわざわざ手料理を作ってくれるなんて……」
「そこで真っ先に自分だと思う辺り相当ポジティブですよね」
話の流れ的にここはあえて照れている振りをすると、海未ちゃんにツッコミを入れられる。
「まあね、にこ先輩に愛し愛されているのはこの私だからね!!」
調子に乗って高らかにそんなことを言いながらにこ先輩の方を見ると、何故か目が合ってしまった。と言うよりも私の声で気付かれてしまったってのが正解な気がする。
『あっ……』
「……」
「きゃ、私ってにこ先輩と相思相愛」
一瞬だけ時間が止まったかのようにお互い見つめ合っていたので、可愛いポーズでも取ってみる。それからにこ先輩はゆっくりと買い物カゴを足元に置くと、踵を返してその場から走り出した。
『逃げた!!』
にこ先輩が逃亡したので、慌てて穂乃果ちゃんたちはにこ先輩の後を追いかける。
私はみんなとは一緒ににこ先輩を追いかけず別の場所に走って移動した。
確かあのスーパーの入り口は私たちがさっき見張っていたあそこだけしかなかったはず。だからにこ先輩の逃走経路を考えるとここしかない。
そうして私が向かったのは、このスーパーの裏口。
そこには私より先に絵里ちゃんとお姉ちゃんが先回りしてにこ先輩を待ち構えていた。私はそんな二人よりも少し離れたところで様子を窺ってみる。
「さすがにこ、裏口から回るとはね」
「うわぁ!!」
絵里ちゃんに裏口から回り込まれているとは思わずにこ先輩は驚くと、その隙を逃さずお姉ちゃんがにこ先輩の背後に回りわしわしの体勢でにこ先輩を捕まえた。
「さぁ!! 大人しく訳を聞かせて!!」
「はぁっ!!」
ここで万事休すかと見ていたら、にこ先輩は機転を利かせてその場に屈むと、運良く(この場合は悲しいことにと言うべきなのか)お姉ちゃんの腕からすり抜けることができ、そのまま逃走する。
お姉ちゃんもまさか逃げられるとは思ってなく呆気にとられたが、直ぐ様にこ先輩を追いかけた。
私もにこ先輩の後を追いかけるが幸いにも私が居た方ににこ先輩が走ってくれたので、お姉ちゃんよりも先に追い付くことができた。
「お疲れさまです、にこ先輩」
「何がお疲れさまよ!! 何で私が追われなくちゃいけないのよ!!」
「いや~モテ期入りました?」
「入ってないし、そもそもモテ期じゃないわよ!!」
走りながら軽口をたたく私にちゃんとツッコミを入れてくれるにこ先輩。
「それよりも用事があるって言ったわよね、何で後付けて来てるのよ!!」
「何かにこ先輩が怪しさ全開だったからみんな気になっちゃったみたいですよ、ちなみに私は止めましたけど、無理だったんで諦めました!! てへっ」
「てへっじゃないわよ!!」
「なのでここは不肖である私が時間を稼ぎますので、その間に逃げきってください」
「分かったわ、頼んだわよ」
「Yes My Master」
「誰がマイマスターよ!!」
走りながらにこ先輩を逃がす段取りを付けると、私はその場に立ち止まり振り返る。
「ここを通りたくば私を倒すことだ」
とりあえず何かかっこよさげなポーズを取り、お姉ちゃんの前に立ち塞がる。
「やっぱり委員長ちゃんはにこっち側に付くんやね……知ってたけど」
「そうだよ、私は常ににこ先輩の味方だからね……」
特に意味のない構えを取り戦闘態勢に入る私。いつもの私なら羞恥心が湧いてくるところだが、ノリとテンションがマックスマックスアゲな状態では全く気にならなかった。
両者互いに向かい合い何時でも動けるような状態になり、静かにその時が来るのを待つ。
そして今がその時と感じた私が動き始め、これより姉妹の契りを交わした者たちによる悲しい戦いが──
「お姉ちゃんかく──」
「ウチの邪魔をする悪い子にはお仕置きや」
始まらなかった。既にお姉ちゃんは私の背後に回り込み例の体制に入っていた。
「い、一番ハードなやつでお願いします」
私は最後にそう言い残して全てを諦めた。
わしわしには勝てなかったよ……。
2
お姉ちゃんのお仕置きを受けたあと、一度みんなと合流をした私たち。
「結局逃げられちゃったか……もう沙紀ちゃんが邪魔するからだよ」
私の体を張った時間稼ぎのおかげでにこ先輩は何とか逃げ切ることができた。多少周りから批難されるが、正に試合に勝って勝負に負けたというところ。
「沙紀がにこ側に回るのは予想は出来ましたが、しかし、あそこまで必死なのはなぜなのでしょう……」
「沙紀は知っているんでしょ?」
「今日休んだ理由は知っているけど、それだけだよ」
絵里ちゃんの質問に正直に答える。
正直私個人としてはそこまでこそこそ隠す必要がある理由とは思えない。むしろ部活休んでも仕方がないと思える理由だ。となると明らかに別の理由がある気がする。
「家……行ってみようか……」
「押しかけるんですか?」
「だって、そうでもしないと話してくれそうにないし……沙紀ちゃんだったらにこちゃんの家知っているでしょ」
「確かににこ先輩の家の場所は知っているけど……」
私は煮え切らない返事をしながら少し悩む。穂乃果ちゃんの言うように家に押しかければ、否応なしに理由を聞くことができるとは思う。ただそれがにこ先輩のためになるかどうかと考えると、悩ましいところなため教えていいものか。
「あぁ!!」
「どうしたの?」
「あれ……」
私が考え込んでいると、花陽ちゃんの驚いた声が聞こえ彼女が見ていたほうに視線を移す。そこにはにこ先輩にそっくりな女の子が歩いていた。
あれ……もしかしてあの子は……。
「にこちゃん?」
「でもちょっと小さくないですか?」
「そうね」
一瞬にこ先輩と勘違いをするが、背丈が違うので別人だと気づくが凛ちゃんだけは違った。
「そんなことないよ! にこちゃんは3年生の割に小さ……小さいにゃ~!!」
「あの? 何か?」
「あっ……いや……」
にこ先輩とそっくりな女の子が凛ちゃんの近くを横切ると、明らかに背丈が違うことに驚く。そんな凛ちゃんの反応を見て、女の子は不思議そうしながら話しかけた。話しかけられた凛ちゃんは少しどう対応すべきかで戸惑っていると、にこ先輩にそっくりな女の子は私のほうを見る。
「あれ? もしかして沙紀お姉さまではありませんか?」
「あはは……久しぶり……」
にこ先輩にそっくりな女の子に話しかけられて、苦笑いしながら挨拶をする。やっぱり私のことそう呼んでくれるのね。そのせいでなんか少し視線が冷たい気がする。
「お久しぶりです、それによく見るとあなた方μ'sのみなさんではありませんか?」
「え? 私たちのことも知ってるの?」
私だけでなく、μ'sのことも知っていることに少し驚く絵里ちゃんがにこ先輩にそっくりな女の子にそう聞いてみる。
「はい! お姉さまがいつもお世話になっております妹の矢澤こころです」
『ええええええ!?』
にこ先輩にそっくりな女の子がにこ先輩の妹だと知り、私以外の全員が驚きの声を上げるのだった。
3
それからにこ先輩に会いに来たと私たちは説明すると、こころちゃんが家まで案内してくれることになった。結果的ににこ先輩の家に向かうことになった私たちだが、何故か物陰から何かから隠れるようこそこそとしながら移動していた。
「あの……こころちゃん? 私達なんでこんなところに隠れなきゃ──」
「静かに!! 誰もいませんね……」
穂乃果ちゃんが隠れる理由を聞くけど、逆に何故かこころちゃんに怒られた。しかし穂乃果ちゃんは何故怒られたのか全く理解できてない顔した。
「そっちはどうです?」
「人はいないようですけど……」
「よく見てください!! 相手はプロですよ、どこに隠れているかわかりませんから!!」
今度は海未ちゃんのほうに確認するから彼女がありのままに伝えると、更に注意深く探すように怒られる。
「沙紀お姉さまのほうはどうですか?」
「怪しい人影は一つもないよ」
私も同じことを聞かれたので、周囲を確認するけど怪しい人影どころか人っ子一人いない状態。
「沙紀お姉さまがそう言うのなら大丈夫みたいですね、それでは合図したら皆さん一斉にダッシュです」
「なんで?」
「決まってるじゃないですか! 行きますよー!」
「ちょ、ちょっと~!!」
こころちゃんは理由を説明しないまま勝手に走り出すと、私たちも後を追いかけるように走り出す。
そうしてこころちゃんがマンションの中まで入ると、ようやく走るのを止める。私たちも同じようにマンションの中に入り足を止めた。
「どうやら大丈夫だったみたいですね」
「いったいなんなんですか?」
「もしかしてにこちゃん殺し屋に狙われてるとか?」
「何言ってるんです? マスコミに決まってるじゃないですか!!」
『えっ?』
まるで当然のように言うこころちゃんに対して、予想外の理由で戸惑う私たち。何人かこれはどういうことかと言いたげに私のほうを見るけど、私自身も何が何やらと知らない状況なので、首を横に振る。
「パパラッチですよ、特にバックダンサーのみなさんは顔がばれているので危険なんです!! 来られるときは先に連絡をください」
「バック……」
「ダンサー?」
パパラッチにバックダンサー? 全く話が見えてこない。いや、待って何か心当たりがある気がする。
「スーパーアイドル矢澤にこのバックダンサーμ's」
『はぁ?』
「いつも聞いてます、今お姉さまたちに指導を受けてアイドルを目指していられるんですよね」
なるほど、そういうこと。こころちゃんの話を聞いて、やっと話の合点がいった。他のみんなも理解したようで、呆れた顔をしている者もいれば、笑顔だかとても恐怖を感じる者もいる。
「ねぇ……こころちゃん」
「はい?」
「ちょっと電話させてくれる?」
「はい!」
絵里ちゃんはこころちゃんに一言確認すると鞄から携帯を取り出し、電話を掛けようとする。電話の相手は言うまでもない。
「もしもしー私、あなたのバックダンサーを務めさせていただいてる絢瀬絵里と申します、もし聞いていたら……すぐ出なさい!!」
「出なさいよ!! にこちゃん!!」
「バックダンサーってどういうことですか!!」
「説明するにゃ~!!」
「?」
留守番電話に切り替わってたようで各々文句を残し、そのあと私たちはこころちゃんに案内され、矢澤家にお邪魔させてもらうことになった。
「ここがにこちゃんの家……」
穂乃果ちゃんはそう言いながらにこ先輩の家を見る。生活感溢れるごく一般的なありふれた普通のマンションの一室。
「弟の虎太郎です」
「きさらちゃん……ばっくだんさ~……」
「こんにちは、虎太郎くん」
一人おもちゃで遊んでいた虎太郎くんに挨拶する。私の呼び方はともかく虎太郎くんもμ'sをバックダンサーだと思っているみたい。となると……。
「お姉さまは普段は事務所が用意したウォーターフロントのマンションを使っているんですが、夜だけここに帰ってきます」
「ウォーターフロントってどこよ」
「あっ、もちろん秘密です、マスコミにかぎつけられたら大変ですから……」
「あははは……」
真姫ちゃんのツッコミに対してのこころちゃんの反応に愛想笑いしか出なかった。嘘もここまで来ると、呆れるよりもどれだけ話を盛っているのかってほうが気になってきた。
「どうしてこんなに信じちゃってるんだろう……」
「μ'sの写真や動画を見れば私達がバックダンサーでないことぐらいすぐわかるはずなのに……」
「ねぇ、虎太郎君」
「?」
「お姉ちゃんが歌ってるとことか見たことある?」
「あれ~」
そうことりちゃんに聞かれると、虎太郎くんが指を指したのは壁に貼られているμ'sのポスター。しかし、このポスター……どこか違和感を感じる。
「いや、なんかおかしい」
「え?」
真姫ちゃんも違和感を感じていたようで、私の気のせいではなかったみたい。なので違和感の正体を調べるため、じっくりとポスターを観察してみる。
「あっ、合成してる……」
本来このポスターのセンターは穂乃果ちゃんなんだけど、それをにこ先輩に入れ換えている。入れ換えていると言っても穂乃果ちゃんの顔ににこ先輩の顔を張り付けているだけだけど。
それから私たちはにこ先輩の部屋に行くと──
「ここがにこちゃんの部屋?」
にこ先輩のイメージカラーのピンク色が全体的に多めの部屋。この部屋にもμ'sのポスターが貼られているけど──
「これ、私の顏と入れ替えてある……」
「こっちもにゃ~」
どれもこれもにこ先輩がセンターに見えるように加工してあった。
「わざわざこんなことまで……」
「涙くましいというか……」
この光景を見て、一部は怒りよりも感心のほうが強くなる。
「あ……あんたたち……」
そんな風ににこ先輩の部屋を見ていると、当の本人であるにこ先輩が帰ってきた。私たちが居ることが予想外だったらしくかなり焦ったような表情をしている。
「お姉様お帰りなさい、バックダンサーの方々がお姉さまにお話があると……」
「そ……そう……」
にこ先輩は買い物袋を床に置きながらこころちゃんの話を聞いているが、声は明らかに動揺していた。
「申し訳ありません、すぐに済みますので、よろしいでしょうか……」
海未ちゃんは優しそうな声と笑顔だけど、逆にそれが恐い。
「うっ……え……えっと……こころ……悪いけど……わ、私今日仕事で向こうのマンションに行かなきゃいけないから……じゃっ!!」
そう言ってにこ先輩はその場から逃げ出した。
「まてぇぇぇ!!」
逃げ出したにこ先輩を真っ先に追いかける海未ちゃんと真姫ちゃんと絵里ちゃんだった。
あの三人はお冠だったからなあ。そうなるのは仕方ないとして、私に出来ることは一つしかない。
「にこ先輩ご冥福をお祈りします」
私は取り敢えず合掌しておく。あんな悪鬼迫る勢いの三人を私一人じゃあ止められないから
「沙紀ちゃん諦めたんだ……」
「うん、あれはもう無理だと思う」
穂乃果ちゃんの質問に私は清々しいほど笑顔で答えたと思う。
そんなにこ先輩はと言うと、逃げた先でちょうど帰ってきたもう一人の妹であるここあちゃんに捕まり、追いかけてきた三人に追い付かれてしまった。
こうしてにこ先輩は捕まってしまったのだった。
如何だったでしょうか。
というわけで今回からほぼこの小説の主人公と化しているにこ先輩のメイン回。
先にこの回をやったのはこれからの展開を考えた結果です。実際彼女が居ての篠原沙紀ってところもあるので……ともかくこれからの展開をお楽しみに。
気軽に感想など頂けるとモチベにも繋がって嬉しいです。
誤字、脱字ありましたらご報告していただけると有り難いです。
それでは次回をお楽しみに。できれば次回も一週間以内に投稿できたら良いなと思っています。