ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー 作:タトバリンクス
それではお楽しみください。
1
「久し振り……お母さん……」
私はお母さんのお墓に挨拶する。
「……」
一年ぶりの墓参りで積もる話や報告はあるはずだけど、いざお母さんのお墓の前に立つと、何を話せばいいのか分からず、それ以上の言葉が出てこなかった。
それにこうしてお母さんのお墓を見ると、お母さんが亡くなったことを実感してしまう。
私のお母さんは、無駄にテンションの高くて、エネルギッシュで、何をしても死ななそうな人だった。
そんなお母さんに小さい頃の私は振り回されることが多かった。
外で一緒に遊べば、子供相手に大人げないくらい本気で勝ちにくることも日常茶飯事。手を抜いてくるなんて百パーセントありえない。
それに暇さえあれば、行き先を告げずに──というよりも思い付きで、旅行に連れ出されることなんてよくあった。
例えば、私が小学四年生の夏休み初日──目を覚ますと、何処か分からない山の中に連れていかれたことがあった。
荷物は必要最低限で、食料は現地調達とかいう小学生には酷なサバイバル生活に、当然わたしは文句を言った。
しかし、お母さんは──
(だって家族でキャンプしてみたかったんだもん)
なんて子供みたいなことを口にしながらわたしに抱き付いて甘えてきた。頭を撫でたり、身体の至る所を必要以上に触ってくるのが、余りにも鬱陶し過ぎてわたしは文句を言う気力も無くなった。
その結果、私は貴重な夏休みの二週間をサバイバル生活に費やしてしまった。
その間台風が直撃してテントが壊れたり、お母さんの悪ノリで虫を食べさせられそうになったりと、散々な目にもあった。それも今思えば(死にかけたが)良い思い出だって思わなくはないけど。
そんな母親だったから親子というよりも姉妹みたいな関係に近かった気がする。
正直な話、私のお母さんがどんな人だったのか聞かれると、私は返答にとても困る。なぜなら娘である私でもお母さんのことはこれ以上知らないから。
基本的にお母さんは自分のことは話さない人だったから。私が生まれる前はどんな風に生きていたのかとか。どんな仕事をしているのかとか。何一つ、全く知らなかった。
知らないついでに付け加えておくなら私はお父さんのこともよく知らない。
私が物心着く前から家に居なかったからって言うのもある。それどころか写真一つないせいで、顔すらも知らない。だから今でも生きているのか、もう既に亡くなっているかすらも分からない。
多分、生きてはいないだろう。もし、生きていたのならお母さんが亡くなったあと、一度くらいは私の前に父として現れているはず。だがそれすらもない。つまり、そういうことなんだろう。
そんなことを考えながらお墓を見つめていると、私はあることに気付いた。
あまりにもお母さんのお墓は汚れてなく、キッチリと手入れがされていた。まるで最近誰かがここへ来て手入れでもしたかのように。
でも誰が……。私以外にお母さんのお墓に用がある人なんて……。でもまあいいか。
私は少し気になったが考えるのは止めて、それ以上気に止めなかった。
「……とりあえず、私はいつも通りだよ──わたしの状態は一年前とは変わってないけど……」
沈黙を破って私はお母さんに近況を報告する。
「学校もちゃんと行ってるよ。成績だってちゃんと維持してるし、今はクラス委員にもなって『白百合の委員長』なんて呼ばれてるんだよ」
「部活だって一応続けてるよ、それにこの一年で部員がいっぱい増えたんだ」
「そのお陰で活動も本格化してきて、今は大きな大会に向けてたくさん練習してるんだよ」
「この前だってみんなで合宿にも行ったりして、すごく楽しかったよ──そもそも部活に入ってからは毎日がすごく楽しくなったよ」
にこ先輩と毎日楽しく部活動していること。
学校が廃校になりかけて、穂乃果ちゃんたち──μ'sのみんなと一緒に廃校を阻止しようと活動したこと。
お姉ちゃんの家によく泊まりに行って、可愛がってもらっていること。
同級生の友達や後輩ができたこと。
生徒会で絵里ちゃんのお手伝いをしたこと。
そんな最近学校であった出来事をお母さんに話しながら、私自身も一つ一つみんなとの思い出を思い出していた。
「部活に入って……にこ先輩に出会えて本当に良かったって思っているよ」
何もかも失って空っぽになった私の心に、あの日──にこ先輩に初めて声を掛けられた日からたくさんのものを貰った。正直私なんかが返しきれないくらいに。
「でもね……みんなとの楽しい思い出が増えるたびに、私なんかが楽しい思いしていいのかなって思うんだ……」
私は手袋をした手に視線を向ける。
「私のせいで全部滅茶苦茶にして、みんなに迷惑をかけて……それにお母さんまで……」
私の頭の中に過るのは、二年前の出来事。
大切な親友とケンカ別れしまったこと。
事務所から活動休止を言い渡されたこと。
大切な人の夢やあの子との約束を守れなかったこと。
そして真っ赤に染まった私の手。
「忘れるつもりは全くないよ、これは私が背負わなきゃいけない罪だから……罰だって甘んじて受けるつもりだよ……」
私にとっては今の時間はあまりにも幸福なもの。けどそれは本来なら私が持っちゃっいけないものだ。
「だけど……せめて……私の大切な人の夢を叶える手伝いが終わるまでは待って……そのあとならいくらでも罰は受けるから……」
私は切実に願った。しかし願ったところでそんなの無意味で無駄だって分かっている自分がいた。
どう足掻いたってあの子に気付かれた可能性がある時点で、私に残された時間はほぼない。それに今回のラブライブを勝ち進めたら本選前には必ずあの人と出会ってしまう。
どちらにしろ八方塞がりだ。打開する術なんて初めから存在しない。
「ホント……どうしたら良かったんだろう……」
あのときの私はそれが正しい判断だと、私が負わなければならない責任だと思っていた。だけどそれ自体が間違っていた。それに気付かず間違い続けた結果、私は失敗した。
私が本当の■■■■じゃないからって、ただそれだけの理由で。
結局のところ私の過去の失敗が尾を引いているだけなんだ。にこ先輩は関係ない。これは私だけの問題なんだにこ先輩を──μ'sを、巻き込むわけにはいかない。
いや、そうじゃない。そんな綺麗事染みた理由なんかじゃない。私は恐いだけなんだ。私のことが、私の罪がみんなに──にこ先輩に、バレることがただ恐いだけなんだ。
「やっぱり私は自分勝手だ……嫌になってくる……」
にこ先輩に軽蔑され、必要とされなくなったら、私は昔の空っぽの自分に戻ってしまう。それを恐れているから私は私自身の問題をずるずると引き伸ばし、先伸ばししている。
それだけじゃない。にこ先輩の夢を叶えるって言っているくせに私はとても中途半端な立ち居振る舞いしている。
前回のラブライブのときだってそうだ。本気でにこ先輩の夢を叶えるつもりなら部活一本に集中すれば良かった。それを私の下らないプライドのせいで部活一本に集中できない状況を作り出してしまった。
その結果がラブライブ出場辞退っていう不様な結果。それどころかμ's解散の危機という最悪の事態まで発展してしまった。
あのときもうちょっと私がみんなの近く居れば、ライブ中に穂乃果ちゃんが倒れる事態は避けられたかもしれない。
あそこさえ未然に防げたら結果は違うものになっていたはず。少なくてもラブライブに出場はできていた。そうなればにこ先輩の夢を叶えることができたのに。
「何ができたって……烏滸がまし過ぎるよ私……今まで何一つ約束を果たしてないくせに……」
そもそもμ'sが解散しかけたとき私は何もできなかった。この問題を解決できたのは、穂乃果ちゃんや他のメンバーがちゃんと自分と向き合った結果、μ'sは解散せずに済んだ。
そんなみんながμ'sのために動いてるなか私は──。
「うっ!!」
あのときのことを思い出そうとすると、突然頭痛がして身体がふらついた。
それから少し経つと頭痛が治まり同時にあのときのことを思い出した。
「そうだ……あのときは確かにこ先輩と花陽ちゃん、凛ちゃんの方に居たんだっけ……」
にこ先輩が三人でユニット組むから練習に付き合いなさいって言われてそっちの方で行動していた。
「何で忘れてたんだろう……」
それに変。その辺り数日間の記憶が思い出そうとすると、さっきと同じように頭痛がしてくる。
「なに……これ……」
記憶として覚えているようで覚えてない。経験したようで経験してない。知っているようで知らない。全てが曖昧に、歯抜けのような気持ち悪い感覚。私が私じゃないこの感覚。
「私……疲れてるのかな……」
今日は放課後からライブ出来そうな場所を散々回ってたわけだし。それにここ最近気を詰めすぎて精神的に落ち着くことができなかった。そのせいで身体に疲れが溜まっているかもしれない。
「とりあえず今日はもう戻るね……お母さん……」
戻るにはいい頃合いだと思う。多分今を逃すとまた色々と考え込んでしまってきっとここに長居しそう。
「じゃあね……今度は何時になるか分からないけど、また近いうちに来るよ」
私はお母さんに挨拶を済ましてお墓をあとにした。
2
私は家に戻るため電車に乗っていた。特に電車内ですることもなく、私は何時ものように携帯をイヤホンに繋いで、音楽を聴きながら降りる駅に着くまでの時間を潰していた。
そんな風に過ごしていると、携帯から着信音が聞こえたから画面を確認する。
『みんないま秋葉に居るけど、あんたはどうする?』
そう書かれたメッセージがにこ先輩から届いていた。
私はメッセージを見てすぐに返信しようとしたけど、少し悩む。
疲れも溜まっているからさっさと休みたいって気持ちもある。それに個人的にはあまり秋葉辺りには近付きたくない。だけどそれと同じくらいににこ先輩と会いたいって気持ちもある。
別に電車自体はいま乗っているのでそのまま行くことが出来るから、あとは私の気持ちの問題。
「……」
『私もそっちに行きます』
多少迷いはしたけど、私はそうメッセージをにこ先輩に送り、秋葉に向かうことにした。
それからさっきと同じように音楽を聴いてると、数十分後には電車は秋葉駅に到着した。
秋葉に到着した私は駅を出て、にこ先輩にメッセージでどこに居るのか確認した。すぐににこ先輩から返事が来て、どうやらUTXの大きなモニター辺りに居るってのが分かり私もそこに向かう。
「まさかUTXの前まで行かないといけないなんて……」
あそこの辺りまで行くのが分かっていたら、多分断っていたけど今さら遅い。
駅から目と鼻の先にあるのでそこまで時間も掛からずUTXの前まで辿り着いた。そのまま目印の大きなモニターの辺りまで歩くと、その周辺には多くの人集りができていた。
私的には正直ありがたいけど、にこ先輩たちを探すのに苦労しそう。
そんなこと考えながらこの人集りの中からにこ先輩たちを探そうとすると、何処からかA-RISEの曲が流れ始め少しするとA-RISEの三人がモニターに映っていた。
『UTX高校にようこそ』
A-RISEの三人がそうアナウンスすると、集まっていた人たちがみんな彼女たちが映るモニターに釘付けになっていた。
『ついに新曲ができました』
新曲って言葉聞いて、ビックリするぐらい周りにいる人たちの歓声ですごく盛り上がっていた。
『今度の曲は今までで一番盛り上がる曲だと思います』
『是非聴いてくださいね』
それだけアナウンスすると、彼女たちはモニターから姿を消した。けど周りにいる人たちの盛り上がりはまだ冷めていない。むしろ更に盛り上がっている気がする。
「すごいな……」
素直にそんな感想が溢れた。
僅か数分のアナウンスでこの盛り上がり、流石は前回ラブライブ優勝グループにして、現ナンバーワンスクールアイドルグループ。それだけじゃない。
「あのときの目標叶えるなんて……やっぱりすごいよ……」
モニターを見ながら私はただそう呟くと、私は切り替えてにこ先輩たちを探しに向かおうとする。
多分、にこ先輩たちが──というよりもにこ先輩か花陽ちゃん(あるいはどっちも)が今日ここでA-RISEが発表することを知ってたからここに来たんだと思う。だからここに人も多かった訳だったのも説明が付く。
私は人混み掻き分けながらにこ先輩たちを探していると、にこ先輩……じゃなく穂乃果ちゃんたち二年生組を見つけた。
「ほの──!?」
穂乃果ちゃんたちに声を掛けようとしたけど、彼女たちの前にいる人物に気付いて驚きを隠せなかった。
「高坂さん」
そう穂乃果ちゃんたちに声を掛けるのは前回ラブライブ優勝グループにして、現ナンバーワンスクールアイドルグループA-RISEのリーダ──―綺羅ツバサ。
穂乃果ちゃんは一瞬誰だか気付かなかったけど、すぐに気づいたようで大声を上げそうになる。だがそれを止められ、そのまま綺羅ツバサに手を引かれたまま何処か連れ去られた。
それを見ていた海未ちゃんとことりちゃんは二人のあとを追って直ぐ様走り出した。
「なんであの人が……穂乃果ちゃんを……」
そんな状況を一部始終見ていた私はあまりにも急展開過ぎて脳が状況を理解せず、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
如何だったでしょうか。
この辺りから少しずつ沙紀について過去や秘密などが明らかになってくることが多くなります。
個人的にもついにここまで来たと思うところはあります。できるだけ続きを早く更新をできるようにしていきますが、気長に待っていただけるとありがたいです。
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