ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー 作:タトバリンクス
かなりマジで久し振りの更新です。
それではお楽しみください。
1
ある日の昼休み、私──篠原沙紀は、一人屋上に居た。
別段何か用事があるわけでもなく、かと言って、一人ここで時間を潰すわけじゃない。ただ単純に、ふらりとここに足が向いただけ。とくに理由はない。
私は屋上の壁に寄りかかり座ると、携帯にイヤホンを繋ぎ曲を聴き始める。イヤホンから流れている曲はもちろんμ'sの曲。そもそも今の私の携帯には、彼女たちの曲しか入っていない。
μ'sの曲を聴くと落ち着く。嫌な雑音や嫌なことを聞かず、思い出さずに済む。私の気持ちを落ち着かせるにはそれだけで十分。
「ラブライブか……」
思わず独り言を呟く。
奇しくも再び開催されることが決まったスクールアイドルの祭典。前回とはルールが大幅に変更され、花陽ちゃん曰く『アイドル下克上』も可能となった。
もちろん、我らがμ'sも──最後の思い出作りとして、参加することになったが、更なるルール変更で苦戦を強いられることに。
予選で発表できるのは、新曲のみというルールによって、急遽新曲を用意しなければならなくなった。その辺に関しては、絵里ちゃんのウルトラCな思い付き(合宿)で、紆余曲折はあったけど、何とか新曲を完成させた。
今は順調に新曲の歌や振り付けの練習や衣装の作製を行って、予選の準備を進めている。
そう順調に。
私が居なくても問題ないくらいに。
そもそも新曲の件に関しては、私は元々戦力外。衣装に関しても、裁縫ならできるけど、新しいアイディアを生み出すことは私にはできない。そこはいい、私は生み出す側の人間じゃないから。そんなことは分かっている。
私にできることは他人の道筋を整えること。それもちゃんとやれていたのか今となっては怪しい。
学園祭のときはほぼ実行委員の仕事をしていたために、学園祭ライブの練習は海未ちゃんや絵里ちゃんに任せっきりにして、私は見ることができなかった。だけど、ライブ本番のクオリティはかなり高いものになっていた。
もし、ライブが中止にならなければ、前回のラブライブも違う結末になっていたかもしれないくらいに、彼女たちは──μ'sは、成長している。
「私はもうμ'sには必要ないのかな……」
私の本音が溢れる。
私は私の目的のために、前回のラブライブで優勝できるように、μ'sをサポートしてきた。実際にμ'sが優勝できる算段もあった。だが、全ては失敗に終わった。
しかし、それは私の都合だ。私の目的が失敗に終わってもμ'sが失敗したわけじゃない。むしろ、彼女たちは得るものが多かった。
μ'sの本来の目的だった廃校の阻止。これまでのライブで得た経験。μ'sの絆。それが彼女たちが得たもの。
対して私は何を得たのだろうか。
(お前のせいで……)
突然、そんな声が聞こえる。
(役立たずが……)
これは幻聴。実際に聞こえてるわけじゃない。現に私にはμ'sの曲が聴こえている。
(お前なんか……)
(これなら■■のほうが……)
「ハァハァ……」
しかし、そんなことは関係なく幻聴は聞こえ続け、私の心を乱していく。気を抜けば私の心が折れてしまいそう。いや、心が折れてしまえれば、どれだけ楽だろうか。だが──
「まだ私には、やらなきゃいけないことがあるから……ここで折れるわけにはいかない……」
噛み締めるように私は自分に言い聞かせる。それから私は何度も同じ言葉を言い聞かせ続ける。
「……」
そして、ある程度心が落ち着くと、私は立ち上がり身体を伸ばして、気持ちを切り替える。すると、屋上の扉が開く音が聞こえてる。どうやら誰かがここに来たみたい。
私は誰が来たのか気になり、扉の近くを覗き混んで確認すると、そこにはにこ先輩がいた。
「あっ、あんたここにいたのね」
にこ先輩は私に気づくと、こちらの方へ近づいてくる。
「どうしたんですかにこ先輩、私に会えなくて寂しくなったんですか」
「違うわよ」
「とか言って本当は~」
「実は寂しかった──とか言わないわよ」
挨拶がてらいつものノリで会話をする私とにこ先輩。それだけで私は安心する。
「それで本当は何の用ですか、別に私は用がなくても一向に問題ありませんけど」
「ちゃんと用はあるわよ、緊急会議よ」
冗談はこのくらいにして本題に入ると、にこ先輩はそう答えた。
2
私たちは部室に集まっていた。
理由はにこ先輩は緊急会議と言ったが、ルールを確認するため。
経緯としては、穂乃果ちゃんがちゃんとラブライブのルールを把握してなかったから、これを機にみんなでルールを一度確認しようとなったらしい。
穂乃果ちゃんらしいと言えば穂乃果ちゃんらしい。
今は私が──マネージャーらしく、みんなの前でルールの説明をしている。
「自分たちで場所を決めた場合、ネット配信でライブを生中継、そこから全国の人にライブを見てもらう」
「全国……すごいや!!」
「各グループの持ち時間は五分、エントリーしたチームは出演時間が来たら、自分たちのパフォーマンスを披露、特設サイトから全国に配信され、それを見たお客さんが良かったグループに投票──順位が決まる」
「そして上位四組が最終予選にというわけね」
「四組……狭き門ね」
ざっと私はルールの説明を終えると、事の厳しさにそれぞれ顔を曇らせていた。地区ごととはいえ、何十組というスクールアイドルの中から、たった四組しか予選を突破できない厳しい現実。
しかし、問題はそれだけではない。
「とくに、この東京地区は一番の激戦区」
「それになんと言っても……」
「A-RISE……」
「そう、既に彼女たちの人気は全国区、四組のうち一つは決まったも同然よ」
A-RISE。
前回優勝グループであり、知名度や人気など圧倒的なアドバンテージを誇っている。本番で彼女たちが失敗しない限り、彼女たちの予選突破は火を見るよりも明らか。
まあ、彼女たちが本番で失敗することはほぼ皆無。にこ先輩の言うように、最終予選の一組は確定。
正直、私的にはA-RISEはシード枠でも良いんじゃないかって思うんだけど。
「えぇ!! 凛たちはあと三つの枠に入らないといけないの」
「そういうことよ」
A-RISE以外にも、多くのランキング上位のグループがこの地区にはいる。そんな強敵たちを抑えて、残り三組に食い込まなくてはいけない。
「でもポジティブに考えよう、あと三組進めるんだよ」
「確かにそういう考え方もあるね」
物は言いようではあるが、他の枠は確定ではない以上、μ'sにも予選突破の可能性はある。
現に穂乃果ちゃんの言葉を聞いて、みんなの不安げな顔が、みるみるやる気に満ちている顔になっている。
言葉一つでメンバーの士気を上げる辺り、やっぱり穂乃果ちゃんはリーダーとしての才能があるなあ。最近は生徒会長になって、その才能も磨きがかかっている。
「今回の予選は会場以外の場所でも認められてるんだよね」
「そうだよ」
「だったらこの学校をステージにしない? ここなら緊張しないで済むし、自分らしいライブができると思うんだ」
穂乃果ちゃんはそう提案をする。
「良いかも」
「甘いわね」
「にこちゃんの言う通り」
穂乃果ちゃんの提案に、ことりちゃんは賛成するが、にこ先輩と花陽ちゃんは反対した。私も言葉にしないが頷く。
別ににこ先輩が反対したから同調したわけじゃない、と付け加えておく。
「中継の配信は一回勝負、やり直しは効かないの、失敗すれば、それが全て全世界に晒されて……」
「それに画面の中で目立たないといけないから、目新しさも必要になるのよ」
花陽ちゃんとにこ先輩の意見は最もだ。PVのように取り直しは不可能であり、ネット配信である以上、今までのライブ以上に観客が見てくれる。
そのプレッシャーの中で、パフォーマンスをしなければならない。当然、失敗する可能性だって、ゼロとは言い切れない。
しかし、そのプレッシャーを乗り越えて、見てくれた観客たちの印象に残せれば予選通過も夢じゃない。
あとはどう観客の印象に残すかだけど、にこ先輩の言う通り、他のスクールアイドルよりも目立つ必要がある。だからこそ、ぱっと見で分かる目新しさが重要。
ただ学校だと今までのライブで何度も使っているため、目新しさは感じにくい。それが分かっているから二人は反対した。
「目新しさ……」
「奇抜な歌とか?」
「衣装とか?」
「極端だけど、まあそうだね」
目新しさと言われて、みんなは思い付く限りのことを口にする。ただその辺は加減を間違えると、スベってしまう可能性があるから難しいところ。
「例えばセクシーな衣装とか」
「無理です……」
お姉ちゃんが悪ノリで口にしたセクシーな衣装で、一体何を想像したのか、海未ちゃんは膝を抱えて踞ってしまう。
「海未ちゃ~ん」
「こうなるのも久し振りだね」
「そういえばそうだね」
μ'sを始めた頃は事あるごとに、恥ずかしがっていたっけ。確かあの頃は、スカートが短くて脚が見えるから恥ずかしいとか言ってた気がする。
「エリチのセクシードレス姿も見てみたいなぁ~」
「それは私もめちゃくちゃ見たい!!」
お姉ちゃんが絵里ちゃんに向けた悪ふざけに、私が食い付く。
「おぉ!! セクシャルハラスメント」
「セクシーダイナマイトじゃあ……」
「絵里ちゃんなら一瞬で悩殺できるね」
絵里ちゃんのセクシードレス姿を着た姿を想像すると、興奮してきた。そんな絵里ちゃんが激しいダンスなんて踊れば……。
「あっ……ヤバ……鼻血出てきた」
想像(というよりも妄想)し過ぎて鼻血を出してしまったことに気付いた私は、ポケットからティッシュを取り出して鼻に詰める。
そんな私の行動にみんなは(慣れてしまって)特に気にしていない。いや、慣れって怖いね。
「嫌よ」
「えぇ……」
「沙紀……本気でがっかりした顔しないでくれる」
膝を地に付けてガチ目に凹む私に、絵里ちゃんは困った表情をしていた。
「セクシードレス……離してください、私は嫌です」
「誰もやるとは言ってないよ」
私が凹んでいる横で、また一体何を想像したのか、海未ちゃんはこの場から逃げ出す勢いで走り出そうとする。しかし、穂乃果ちゃんに腕を掴まれて止められる。
「ふん、私もやらないからね」
「またまた部長にはお願いしてない」
「つねるわよ」
「もうつねってるにゃ~」
「というか、何人かだけで気を惹いても」
凛ちゃんがにこ先輩をからかって遊んでいると、花陽ちゃんに正論を言われてしまう。
「確かにそうだね──それににこ先輩はそのままでも十分可愛いですよ」
「そうよ」
果たしてどっちの肯定かは分からないけど(多分、どっちもだと思うが)、頷くにこ先輩。
「まあ、ステージについては良さげなところをいくつか探しておくよ」
幸い私には心当たりがないわけじゃない。それにマネージャーとして、これくらいはやらないと、私のいる意味もないし。
「ステージのことは沙紀に任せて、こんなところで話してるよりやることがあるんじゃない?」
「……やる事?」
真姫ちゃんは私にステージのことを一任してくれると、みんなを連れて何処かに向かうのだった。
3
放課後、私は一人でμ'sのステージに使えそうな場所を校外で探していた。
「う~ん? ここはどうだろう?」
現在、私は星野如月の下積み時代に、ステージとして使用していた場所に来ていた。
しかし、μ'sのイメージにあまり合ってない感じがするので、個人的には微妙なところ。
「まっ、決めるのはみんなだから、とりあえずここも候補に入れておこう」
いくら私が微妙だと感じても、それは私だけかもしれないので、一先ずは候補として、携帯で写真を撮っておく。明日にでもみんなに見せて決めて貰えればいい。
「これでめぼしい所は回ったかな」
私はさっき撮ったステージの写真を確認しながら、そう口にした。
他にも昔使用していたステージや同じ事務所に所属していたアイドルから聞いたステージを見て回り、写真を撮っておいた。その写真もついでに確かめる。
「いい感じに候補は集まったし、どうしようかな」
私は写真を見終わると、そのまま携帯で時間を確認する。時刻は十七時ですごく微妙な時間だった。
「今から学校に戻っても練習終わっているし……」
かといってどこにも寄らずに、そのまま家に戻るのは味気ない。なので私はこの辺で何かないか考える。
「そういえばここから近かったっけ……」
考えていると私はある場所が近いことに気付いた。
「……顔は見せないといけないよね」
一瞬だけ行くかどうか迷ったが、私はそう思い立つと、携帯にイヤホンを繋げてから鞄に入れて、その場から離れる。
今から向かう目的地までは徒歩でも行ける距離なので、私はμ'sの曲を聴きながらゆっくりと歩く。
そういえばμ'sのみんなは今頃何しているんだろう。
μ'sの曲を聴いてるせいかそんなことが頭に過った。
私がステージ探しを始める前にみんなの様子を見たときは、真姫ちゃんの提案で放送室を借りてMCの練習をしていたけど。
ちなみにお昼に真姫ちゃんがみんなを連れて向かったのは、真姫ちゃんの友達に放送室を借りるお願いしに行くためだった。
結果的に放送室を借りれたので、MCの練習をすると、穂乃果ちゃんは問題なく喋っていたけど、海未ちゃんと花陽ちゃんがかなり緊張しながら喋っていた。
まあ、あの二人は大勢に話すのは、あまり得意じゃないから仕方ないけど。
そんなこともあって、MCの練習をしていたが、今は多分ダンスや歌の練習でもしていると思う。
ダンスや歌の練習については私が居なくてもキッチリやれるから……。
なんて考え事をしていると、気付いたら目的地に辿り着いた。
「……」
目的地を前にして私は中に入るかどうか迷ってしまう。来てみたはいいものをやっぱり気乗りはしていない。正直ここで引き返しても問題はない。
「でも行くしかないか……」
私は多少入るのに躊躇ったが、来てしまったものは仕方ないと諦めて中に入る決心を決めた。
目的地の中に入って、ある程度歩いて進むと、ある場所で立ち止まる。
「久し振り……お母さん……」
そう声を掛けるのは、私のお母さんのお墓。
私はお母さんが眠る墓場に一年ぶりの墓参りにやって来たのだった。
如何だったでしょうか。
沙紀に起こり始めている異変や心境の変化が物語にどう影響するのか。
次はいつ更新できるか分からないですが、出来るだけ早く更新できたらいいなとは思っています。
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