ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー 作:タトバリンクス
それでは五章をお楽しみください。
五十一話 再びステージの幕は上がる
1
私にとって沙紀はただの後輩……って言い切れない。
それはアイドルとマネージャーだからとか。μ'sには先輩後輩の関係を禁止にしているから後輩じゃないっていうわけじゃない。
私にとってあいつは星野如月であり、憧れの
私とは住む世界が違う。何というか本の中の登場人物のような空想の世界の人。例えるならお姫様みたいにキラキラと輝いた存在。
実際は本の中の登場人物じゃなくて、私と同じ世界の人だし、星野如月をお姫様みたいに例えるのは違うわね。どちらかと言うと、ユーリちゃんがお姫様で、星野如月は女王。
何処までも冷徹で、冷淡で、冷静な氷の女王。うん、そのほうがしっくりくるわ。
私の考えるアイドル像とは真逆のアイドル。そんな彼女の輝きに私は憧れた──いや、今でも憧れている。
この前、あいつにそっくりな雪音に私が沙紀のことを好きだと言われたけど、私があいつに抱いている感情はきっと好意じゃなくて、ただの憧れ。
あいつが星野如月である以上、どんなにふざけたりバカなことをしても、それは消えることはないわ。
あいつからしたら私がそんな風に接してるのは、嫌なのかもしれない。だけど、あいつはそんな素振りを見せないで、バカみたいに私に好意を見せてくる。
それが本心で言っているのか、ただからかっているのか、私には分からない。
この前の学園祭の件もそうだし、私のことを今でも先輩と呼び続ける理由も、あいつの歌とダンスから何も感じない理由も私は知らない。
そう……あいつのこと、何も分からないし、何も知らない。
きっと私の心のどこかであいつに対する憧れが、あいつのことを本当の意味で踏み込むことを邪魔しているんだと思う。
自分の中の憧れを壊さないために。
私にとって篠原沙紀はただの後輩で、アイドルとマネージャーで、私の憧れの
その関係のまま憧れの
私は自分の夢を叶えて、あいつとの約束を果たすために。
それが私のやるべきことなんだと信じて。
2
講堂でのライブから数週間たったある日。私は一年生たちと沙紀を屋上に呼び出していたわ。
「いい、特訓の成果を見せてあげるわ」
私は一年生たちの目の前に立つと、花陽と凛は真剣に私のほうを見ている。だけど、真姫ちゃんだけは、興味なさそうに髪の毛をいじっていたわ。
「にっこにっこに~!」
「あなたのハートににこにこに~! 笑顔届ける矢澤にこにこ~! ダメダメにこに~はみんなのモノ」
フフフ、決まったわ。なんて心の中で思っていると──
「気持ち悪い」
バッサリと真姫ちゃんに切りつけられる。
「ちょっと、昨日一生懸命考えたんだから~!!」
「知らない」
「っていうか、五人でこんなことしても意味があるの」
さっきのことで真姫ちゃんに文句を言おうとしたけど、凛の言葉で止めたわ。それよりも先に溜め息が出てくるわね。
「あんたたち何にも分かってないわね。これからは一年生が頑張らなきゃいけないのよ」
私たち三年生はあと半年で卒業するし、穂乃果たち二年生は、少し前から生徒会に入ったわ。
今だって穂乃果たちがいないのは、生徒会の仕事をしているわけだし。これからはそっちの方で忙しくなって、練習に来れないときも多いはずよ。
そうなると、今の一年生が主体になってやっていくことが、大事になってくるわ。
「いい、私はあんたたちだけじゃあどう頑張ればいいか分からないだろうと思って、手助けに来たの。先輩として、沙紀、準備は?」
「あいよ、準備できましたぜ。にこ先輩のダンナ」
今まで私の後ろで準備をしてもらっていた沙紀が、また訳の分からない口調というか、キャラでビデオを構える。
それにしても相変わらずこいつは、ビデオとか、カメラを持つと、テンションが高いわね。
「そのビデオは?」
「何言ってるの、ネットにアップするために決まってるでしょ。今やスクールアイドルもグローバル、全世界へとアピールしていく時代なの」
そのためにさっきまで沙紀にビデオの準備をしてもらっていたわ。
「ライブ中だけでなく、日々レッスンしている様子もアピールに繋がるわ」
「そういうこった、そんなわけで、いつも通りの風景をお願いしますぜ」
沙紀は私たちにビデオを向けながら、何時でも撮影が出来るようにスタンバイしている。
「フヒヒ……こうやって一年生を甲斐甲斐しくところをアピールすれば、それを見たファンの間に──」
「にこ先輩こそセンターに相応しいよ~。にこ先輩は後輩思いで可愛いよ~」
「との声が上がり始めて……ちょっと何言ってるのよ!!」
「なに、にこ先輩のダンナの気持ちを代弁しただけですわ」
「にこちゃん……」
「あっ……ニコ」
沙紀が変なことを言うせいで、私の思惑が三人にバレちゃったじゃない。とりあえず、私は笑って誤魔化すけど、凛と真姫ちゃんには呆れられた顔をされたわ。
「一先ず今の流れ、ビデオに納めましたが、使います?」
「使うわけないでしょ、バカ~!!」
そんなの使ったらイメージ下がるじゃない。そんなの無しに決まってるわよ。
「分かりやしたぜ、じゃあこれは私のにこ先輩フォルダに保存ってことで……」
沙紀はこっそりとビデオのメモリーカードを抜き取って、自分のポケットにしまう。そんな沙紀の姿が見えたから、私はメモリーカードを取り返そうとしたら──
「えっ……えっ!?」
いきなり休憩スペースから花陽のすごく驚いた声が聞こえてきた。
「かよちんどうかした?」
「ウソ……」
私たちはその声を聞いて、花陽のところまで駆け付けると、花陽は携帯の画面を見つめたまま、困惑した顔をしていた。
「花陽?」
「ありえないです……こんなこと……」
花陽は何に驚いたのか、理由を教えてくれないまま、急にその場を飛び出して行っちゃった。
私たちも何が何やら分からないまま、花陽のあとを走って追いかける。
花陽がそこまで驚くことと言えば、思い付くのは一つしかないわよね……。私はそんなことを走りながら考える。
そして花陽を追いかけ続けると、花陽はアイドル研究部の部室に入っていった。私たちも同じように中に入ると、そこで花陽は興奮しながら、パソコンで何か調べていたわ。
「あぁ~、どうしよう、すごい、すごすぎます」
「突然、どうしちゃったの」
「アイドルの話になるとこうね」
やっぱりそうだと思ったわ。それにしても花陽があんなに興奮するなんて、よっぽどすごい情報が来たってことよね。かなり気になるわ。
「凛はこっちのかよちんも好きだよ」
「私はそんな凛ちゃんが好きだよ」
「そのくだり前もやったにゃ~」
私の横で沙紀が凛に対してボケてるけど、気にしない。
「夢!? 夢なら夢って先に言ってほしいです」
「一体何なのよ」
「教えなさい」
『なっ!?』
全然花陽が教えてくれないから、無理矢理私たちはパソコンを覗き込むと、そこにはとても驚くことが書いてあったわ。
3
パソコンに書かれた内容を見た瞬間、私たちはメンバー全員に部室に集まるように声を掛けたわ。ただ約一名に関しては、歩きまわってたせいで、捜すのに苦労したけど。
そうしてメンバー全員を部室に集めて、席に座ってもらうと、花陽が説明のために、みんなの前に立つ。まずはそこで花陽がさっきまでいなかったメンバーに、パソコンに書かれたことを伝えると──
「もう一度!!」
「ラブライブ!!」
それを聞いて、メンバーたちは驚いた反応をするけど、そのまま花陽はラブライブのルールの説明を始める。
「そう、A-RISEの優勝と大会の成功を以て終わった第一回ラブライブ。それがなんとなんと、その第二回大会が行われることが早くも決定したのです」
「今回は前回を上回る大会規模で、会場の広さは数倍。ネット配信のほか、ライブビューイングも企画されています」
「すごいわね」
「すごいってもんじゃないです!!」
花陽は興奮気味に説明するけど──花陽が興奮するのも分かる。
ラブライブ出場できたら、そんなプロ並みの大規模なステージで歌えるなんて、夢のようだもの。そんなことを考えると、私も花陽と同じように、テンションが上がってくるわ。
「そしてここからがとっても重要……大会規模が今度のラブライブはランキング形式ではなく、各地で予選が行われ、各地区の代表になったチームが本戦に進む形式になりました」
「つまり人気投票によるランキングは関係ないということですか」
「その通り!! これはまさにアイドル下剋上!! ランキング下位のものでも予選のパフォーマンス次第で、本大会に出場出来るんです」
「それって……私たちでも大会に出るチャンスがあるってことよね!!」
「そうなんです」
今回のルール変更の中で一番の朗報よ。前回のラブライブのときは、ランキングを上げるのにかなり苦労したから。でも今回のルールなら、予選当日までパフォーマンスの完成度を高めることに集中しやすいし。
本大会の出場の枠も前回の倍以上みたいで、前回よりも出場できる可能性は高いわ。これなら本気で本大会に出場も夢じゃないわね。こんな嬉しいことはないわ。
「すごいにゃ~」
「またとないチャンスですね」
「ええ」
「やらない手はないわね」
「そうこなくっちゃ」
花陽の説明を聞いて、他のメンバーも本大会に出場できるかもしれないって、思い始めてラブライブのエントリーしようとする乗り気を感じる。
「よ~し、ラブライブ出場目指して……」
「でも待って……地区予選あるってことは……私たち……A-RISEとぶつかるってことじゃない」
「あっ」
さあこれから張り切っていくよみたいな流れから、絵里がとんでもない事実に気づいてしまった。
「終わりました……」
「ダメだ~」
「A-RISEに勝たないといけないなんて」
「それはいくらなんでも」
「無理よ」
予選でA-RISEとぶつかると瞬間、メンバーの全員がほぼ諦めムード。無理もないわね。A-RISEって言えば、スクールアイドルランキング不動の一位で、前大会の優勝グループ。
そんな強敵が予選でぶつかるとなったら、諦めたくなる気持ちになるわ。
「いっそのこと、全員で転校しよう」
「出来るわけないでしょ、確かにA-RISEにぶつかるのは苦しいですが、だからと言って諦めるのは、早いと思います」
「そうそう、海未ちゃんの言う通りだよ、今回は予選のパフォーマンス次第で下剋上できるんだから、いくらでもやりようはあるよ」
「海未と沙紀の言う通りね、やる前から諦めていたら何も始められない」
「それはそうね」
「エントリーするのは自由なんだし、出場してもいいんじゃないのかしら」
「ええ」
「そうだよね、大変だけど、やってみよう」
諦めムードなっていたけど、とりあえずはエントリーしようってことで、話が纏まったわ。
「じゃあ決まりね……穂乃果?」
みんなで盛り上がっていると、絵里は一人で黙々とパンを食べている穂乃果に気付いた。
私もいつもとは反応を違う穂乃果のほうを見ると、不自然に感じる。まるで穂乃果だけは、私たちの盛り上がりとは無関係だと、言ってるみたいで。
そんな穂乃果がパンを食べながら、私たちに向かってとんでもないことを口にしたわ。
「出なくてもいいんじゃない」
『えぇ~!!』
その穂乃果の思いもよらない発言に、私たちは声を上げて、驚くしかなかったわ。
4
今日の夕食後──私は沙紀と公園で待ち合わせの約束をしていたから、そこに向かっていたわ。
待ち合わせの公園に着くと、私は沙紀の姿を探してみる。すると、時計の前で、沙紀が携帯からイヤホンを繋げて、何かを聞きながら待っていた。
「悪いわね、こんな時間に呼び出して」
私は沙紀のほうまで近づいて、声を掛けると、沙紀は私に気付いて、イヤホンを外す。
「いえ、気にしないでください、にこ先輩の呼び出しなら、いつ、いかなる状況でも飛んできますので」
先に来てたから待たせちゃったかなって思ったけど、沙紀は気にしていないみたい。ただ、こいつの場合は、何時間待っても、こんな風に言いそうなのよね。
「それににこ先輩、今日はこころちゃんたちのご飯を作ってたんですから」
そう。こんな時間に沙紀を呼び出したのは、妹たちのご飯を作っていたからよ。
いつもママが帰ってくるのが遅いから、私が妹たちのご飯を作ることをなっているわ。沙紀もそれを知ってるから、あんまり気にしてないみたいだけど。
「でもにこ先輩も言ってくれたら、お夕飯作るの手伝いましたのに」
「イヤよ、あんたが作ると、にこの姉としての威厳が下がるのよ」
昔こいつを家に連れていったときに、料理を作ってくれたことがあったわ。そのときに妹たち(それどころかママ)の胃袋をガッチリと、掴むような料理を作りやがったのよ。
そのせいで一時期は私の料理が物足りないとか言われて大変だったわ。
「えぇ~、にこ先輩の作る料理美味しいじゃないですか、それに私、久々にこころちゃんたちに会いたいですよ」
「そんなことよりもあんた制服のままだけど、家に帰ってないの?」
家に連れていくような流れにならないように、無理矢理話題を変える。
「はい、家に一回戻ると、時間が掛かりそうだったので、そのままです」
こいつを見つけたときに制服のままだったから、もしかしてって思ったけど、まさか、マジでそうだったのね。
「あんた、夕飯は食べたの?」
「いえ、食べてませんよ、終わってから食べようかなって」
そうだと思ったわ。だったらこれを持ってきて正解ね。
「はい、これ、もしかしたら夕飯食べてないんじゃないかと思って、作ってきて正解だったわ」
「……」
私が持ってきたお弁当を沙紀に渡すと、受け取った沙紀はぽかんとした表情をしていた。
「もしかして私のために……」
「まあ、夕飯の余り物だけどね」
沙紀は一瞬だけど、申し訳なさそうな顔をしてから笑顔を見せる。
「ありがとうございます!! これは持ち帰って家宝にしますね」
「いや、食べなさいよ」
そんなやり取りをしてから、私たちは適当なベンチに座って、そこで沙紀は受け取ったお弁当を広げる。
「いただきます……う~ん!! 美味しいです!!」
沙紀は嬉しそうにお弁当を食べ始める。沙紀はお弁当を美味しそうに一口一口食べるから、見てるこっちも嬉しくなってくるわね。
ただ気になることがあるとしたら、沙紀が両手に付けてる手袋。
「食事中でも外さないのね、それ」
「ん? これですか? それはもちろんですよ、なんたって私の熱く燃え滾る紅蓮の炎を押さえつけるマジックアイテムなんですから」
そう言って意味の分からないポーズを取る沙紀。ちなみにちゃんとお弁当を落とさないように避けてる。
「この前と言ってること違うわよ」
この前は漆黒の炎がどうとか言ってたような気がするけど。
「あれ? そうでしたっけ……」
言った本人も忘れる適当っぷり。完全にその場のノリで言ってるわね。
あの日──雪音と入れ替わりから戻ってからずっと沙紀は手袋をしている。どうして付けているのか、聞いてもこんな風にあれなことしか言わないわ。
それだけじゃないわ。最近は一人で居るときは携帯にイヤホンを繋げて何かを聞いてることも多くなってる。
少なくても雪音と入れ替わる前まではそんなことはなかったから、余計に気になるわ。
「にこ先輩、それで今日はどう言った呼び出しですか?」
「えっ!? 何、考え事をしていて聞いてなかったわ」
手袋やイヤホンのことを気にし過ぎて、沙紀の話を聞こえてこなかったわ。
「今日はどう言った呼び出しですか?」
「あぁ……そのことね、ちょっと穂乃果のことでよ」
「なるほど、大体にこ先輩が聞きたいことが分かりました」
今日の呼び出し理由を話すと、沙紀は何が聞きたいのか分かったような反応をした。
こういうときは察しがいいから助かるわ。
「多分、穂乃果ちゃんはこの学園祭のときのことを気にしているんだと思います」
「まあ、そうよね」
穂乃果がラブライブに出ないって言った理由はそれしか考えられないわよね。
自分が突っ走ったせいで、そのあと色々と大変なことになったことを気にしている。
「それに穂乃果ちゃん生徒会長になりましたから、今までよりも忙しくなってるのもあるとは思うんですけどね」
「それもありそうなのよね」
絵里の推薦で穂乃果は生徒会長に選ばれたって聞いたときは驚きと心配があったけど、今のところ上手く生徒会を動かせてるみたい。
それを同じように生徒会に入った海未とことりがフォローしてるってところが大きいかもしれないわね。
「そういえば、何であんた、生徒会に入らなかったのよ、てっきりにこはあんたが次の生徒会長になると思ってたけど」
絵里が生徒会をやっていたときは結構手伝っていて、かなり絵里や副会長だった希との信頼も高かったから、推薦されてると思ったけど。
「私も一応絵里ちゃんから推薦されましたよ……ただ、断りましたけど」
「珍しいわね、あんたが断るなんて」
基本的にこいつは頼まれると断らない。そんな沙紀が断るなんて本当に珍しい。
例え生徒会長じゃなくても他の役職とか、こいつなら入ってもおかしないのに、今のこいつは生徒会すら入っていない。
「そうですか? 私だって断るときは断りますよ、そんなことより、にこ先輩はどうしたいんですか?」
完全に沙紀は生徒会のことは興味ない口振りで、話題を元に戻す。
「私は……もちろんラブライブに出たい」
考える必要もないわ。私はスクールアイドルとしてどこまで行けるか試したい。それに叶うのなら、あの舞台に立ちたいんだもの。
「にこ先輩ならそう言うと思ってました」
私の思いを聞いて、沙紀は何処か分かっていたような口ぶりだったけど、嬉しそうな顔をしていた。
「あんたはどうしたいのよ」
「私はにこ先輩の意見を尊重します、出ないなら出ないでいいですし、出るなら出れるようにお手伝いする、ただそれだけです」
私が沙紀に同じ質問を返すと、迷わずこいつはそう答えた。
その答えを聞くと同時に、私は学園祭あとの屋上で一人、雨に濡れながら、立ち尽くしていた沙紀の姿を思い出した。
もし、またラブライブの本大会に出られなかったら……またあの時みたいにこいつが辛そうな顔をするんじゃあ。
「さてと、にこ先輩が出ると言った以上、穂乃果ちゃんを説得する方法を考えないといけないですね」
「……そうね、何かないの?」
私は一瞬、頭に過ったことを振り払って、今はラブライブにエントリーするための方法を沙紀と一緒に考えることにした。
そして、沙紀と一晩話し合って思い付いた穂乃果の説得方法が──
「勝負よ、穂乃果」
説得とは縁遠い方法で、その翌日に実行することになったわ。
5
私は穂乃果に勝負を申し込んだあと、無理矢理穂乃果をジャージに着替えさせて、何時もの神社に移動したわ。
「いい、これから二人でこの石段をダッシュして競争よ」
「何で競争?」
私は石段に指を差して勝負内容を言うけど、穂乃果はそもそも何で勝負するのか、分かってないみたい。
「また今度にしようよ、今日からダンスレッスンだよ」
「ラブライブよ、私は出たいの、だからここで勝負よ、私が勝ったらラブライブに出る、穂乃果が勝ったら出ない」
「分かった」
私の真剣な思いを感じ取ってくれたみたいで、穂乃果は勝負を引き受けてくれたわ。
私たちは石段の前で走る準備を始める。準備をしていると、チラッと他のメンバー、がこっそりと見に来ているのが見えたわ。
「それでは審判は私が務めますね!!」
大きな声で沙紀は手を振りながら、ゴールとして石段の先で待機していた。
沙紀が待機しているのを確認すると、私は走るために構える。
「いい……行くわよ……よ~い──ドン!!」
私は穂乃果に確認をしたあと、スタートの合図をするけど、タイミングをわざとずらして、そのまま走り出す。
「にこちゃんズルい」
「ふん、悔しかったら追い抜いてご覧なさい」
合図をずらされて出遅れた穂乃果は、私に文句を言いながら走るけど、私は気にしないで走り続ける。
ズルして早め走ったけど、穂乃果とはそこそこ差はあるわね。今のペースだとギリギリになりそうだわ。
一瞬だけ自分と穂乃果との差を確認して、私は少し焦って走るスピードを上げようとしたけど、それがいけなかった。
「あっ!!」
私は石段から足を滑らせて、その場から転んでしまう。
「くっ……」
「にこちゃん!!」
「にこ先輩!!」
転んでしまった私を心配して、穂乃果と沙紀が私のところまで駆け寄ってきた。
「にこちゃん……大丈夫?」
「へ、平気……」
「もうズルするからだよ」
「うるさいわね、ズルでも何でもいいのよ、ラブライブに出られれば……」
意地でも勝負を続けようと立ち上がるけど、突然、パラパラと雨が降り始めたわ。
「にこちゃん」
「にこ先輩手当てしますね」
沙紀は雨が降ったのと、私を手当てを行うために、場所を変えようとする。
そのあと、神社で雨宿りをしながら、私は沙紀に怪我の手当てしてもらったわ。そこに勝負の様子を見てたメンバーも集まってきた。
私が手当てしてもらっている間、絵里はみんなに私たちが、あと半年で卒業すること。三年生がラブライブに参加できるのは、今回限りだと言うことを伝えていたわ。
「本当はずっと続けたいと思う、実際卒業してからもプロを目指して続ける人もいる」
「でもこの私たちがμ'sとして、ラブライブに出られるのは今回しかないのよ」
希と絵里はμ'sとして、最後にラブライブに出てみたいと、その思いを口にしたわ。
「やっぱりみんな……」
「わたしたちもそう、例え予選で落ちちゃったとしてもみんなで頑張った足跡を残したい」
「凛もそう思うにゃ~」
「やってみても良いんじゃない」
一年生たちはみんなの思い出として、ラブライブに参加してもいいと思っている。
「みんな……ことりちゃんは」
「私は穂乃果ちゃんが選ぶ道なら何処へでも」
「また自分のせいで、みんなに迷惑を掛けてしまうのでは、と心配しているんでしょ」
海未は穂乃果が、何を不安に思っているのか、お見通しな口振りだったわ。
「ラブライブに夢中になって周りが見えなくなって、生徒会長として、学校のみんなに迷惑を掛けることがあってはいけないと」
「全部バレバレだね」
穂乃果は自分の考えがお見通しだったことに、少し笑う。
「始めたばかりのときは何も考えないで出来たのに、今は何をやるべきか分からなくなるときがある」
「でも一度夢見た舞台だもん。やっぱり私だって出たい。生徒会長やりながらだから、また迷惑を掛けるときもあるかもだけど、本当はものすごく出たいよ!!」
「みんなどうしたの?」
穂乃果の思いをみんなに話して、答えを聞こうとすると──
「穂乃果忘れたのですか?」
みんなで穂乃果を囲んで、私たちは歌い出す。可能性を感じるあの歌を。
『やろう!!』
「やろう、ラブライブ出よう!!」
「ほ、穂乃果!?」
ラブライブにエントリーする決意をした穂乃果は突然、雨が降っている外へ飛び出して──
「雨止め~!!」
大声でそう叫んだ。すると、穂乃果の声が届いたのか分からないけど、雨が止み始めて、晴れた空が広がった。
「本当に止んだ、人間その気になれば、何だって出来るよ、ラブライブに出るだけじゃもったいない、この九人で残せる最高の結果──優勝を目指そう」
「優勝!?」
「そこまで行っちゃうの!?」
「大きく出たわね」
「面白そうやん」
穂乃果の優勝宣言に私たちは驚きながらも、もしかしたら出来そうなんじゃないかって、雰囲気がみんなの中に出てきたわ。
そんななかあいつはみんなが歌うときから既に他人事のように、ただ眺めていたことに誰も気付かなかった。
「ラブライブのあの大きな会場で精一杯歌って、私たち一番になろう」
こうして私たちの二度目の挑戦が始まったわ。だけど、私たちは知らなかった。始まりと同時にあいつにとっての終わりが近づいていたことに。
雪音の言葉の意味が分かるそのときが。
私たちの将来に影響する第二回ラブライブが始まった。
如何だったでしょうか。
アニメ二期の物語と沙紀の物語が、どのように関わっていくのか、その先に何があるのか、お楽しみに。
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