ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー   作:タトバリンクス

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それではお楽しみください。


四十九話 そして日常に戻る

 1

 

「あなたの予想通り、わたしはあなたが知っている篠原沙紀じゃないわ」

 

 そう口にした目の前の沙紀に、私は驚きを隠せなかった。

 

「やっぱり、あの子みたいにキャラを演じ分けるのは無理ね」

 

 少し残念しそうに沙紀──いや、沙紀にそっくりな彼女は言っているが、私はそんな言葉を聞き流していた。

 

 正直、粗がある推理で彼女が認めるとは思わなかったし、そもそも私の勘違いで、沙紀じゃないことが間違ったほうが良かった。何故なら──

 

「じゃあ、あんたは誰なのよ、それに……あいつは今どこにいるのよ」

 

 目の前の沙紀が沙紀じゃないなら、そうした新たな疑問が生まれてくる。

 

 特に目の前の沙紀が沙紀じゃないなら、本当の沙紀が今どこにいるのかが私にとって、とても重要なこと。

 

「その疑問は当然よね……まずはにこにーが一番気になっているであろうあの子が、どうなっているのか、教えておきましょう」

 

 私の考えていることを読んでいたみたいで、彼女は今の沙紀の状況を話してくれるみたい。

 

「あの子は……家で安静に眠っているわ」

 

「眠っているって……あいつ具合が悪いの?」

 

「そうね……わたしとあの子が入れ替わる前に何があったのか、覚えている」

 

「あんたとあいつが入れ替わる前って……」

 

 彼女にそう言われて、私は彼女と沙紀が入れ替わる前の出来事を思い出してみる。

 

 彼女と沙紀が入れ替わっていたのは、穂乃果がμ'sを辞めるって言った日だから……その日の前日ってことよね。

 

 確か……その日は廃校の阻止のお祝いをして、そのあと、穂乃果がμ'sを辞めると言う決め手になったことりの留学の件が話に出てたわよね。それから……。

 

「そうよ──あの日って……あいつが廊下で倒れて、保健室に運んだわね」

 

 お祝いがお開きなったあと、廊下から沙紀の悲鳴が聞こえて、悲鳴が聞こえたところまで駆けつけると、そこには沙紀が倒れていたわ。

 

 私と同じように悲鳴を聞いて駆けつけてきた希と絵里と一緒に沙紀を保健室まで運んだわね。

 

 三人であいつのことを心配していたら、次に会ったときには、沙紀の見た目とか雰囲気が変わって、そのインパクトが強くて話題がそっちにずれたわ。

 

 そのあとも何も無かったように沙紀が過ごしていたから、私は大丈夫だと思って、完全に忘れていたわ。

 

 でも、本当は沙紀と目の前の彼女が入れ替わって、本当の沙紀はあの日から家で安静にしているってことよね。

 

「本当にあいつは大丈夫なの」

 

 あの日から数日が経っている。今日まで入れ替わっていたってことは、まだ回復していないってことになる。私は沙紀のことが心配になって、彼女にそう聞いた。

 

「あの子の症状はストレスによる発作みたいなものよ、本当ならわたしと入れ替わらなくても2、3日休めば、ある程度は落ち着くはずだったわ、だけど、それができなかったのよ、あの子は」

 

「休めばあの人に迷惑が掛かる、あの人に余計な労力を使わせる、そう思って、あの子は無理を通してでも、学校へ行こうとしたのよ」

 

「バカじゃないの……」

 

 彼女から沙紀の状況を聞いて、私は思わず、そう呟いた。

 

 何が迷惑が掛かるよ、何が余計な労力を使わせるよ、自分が辛いのに、他人のことばっか気にして、バカじゃないの。

 

「そうね……昔からあの子はそういうところがあるから、大抵そういうときのあの子が何かしようとすると、物事が全て悪い方に悪化ばかりするのよね」

 

 彼女は相変わらず表情や口調は分かりにくいけど、何処か呆れるように感じた。

 

「だから、そうならないように、わたしはあの子と入れ替わったのよ」

 

「わたしがあの子と入れ替わって、何事も無かったように振る舞えば、少なくてもあの子が心配していたことは無くなるわ」

 

 彼女の言う通り、実際に彼女が何事も無かったように振る舞ったお陰で、私たちはあまり気にすることはなかったけど……。

 

「だったら、もうちょっと髪型とか、喋り方とか、あいつに似せようとは思わなかったわけ」

 

 正直、見た目のインパクトもそうだけど、その辺しっかりやっていれば、私にバレなかったって言えなくないし。

 

「嫌よ、わたし、縛られるよりも縛るほうが好きなの」

 

「何の話をしてるのよ!!」

 

「それに」

 

「えっ? そこはスルーするの?」

 

「わたしはあの子みたいに他人の真似は出来ないわ、最もあの子の場合は、そうすることしかできなかったのだけど」

 

 彼女の真似は出来ないって言い切った部分は聞こえたが、最後の方は上手く聞き取れなかった。

 

「そう言った理由で本当は2、3日入れ替わるつもりだったのだけど、初日からいきなりあんなことが起こるから、一区切り着くまでこの状態を続けることしたのよ」

 

「せっかくあの子が戻ってきても、またストレスで倒れたら、わたしとわざわざ入れ替わった意味がないわ」

 

「だから今日まで入れ替わったわけね、大体そっちの状況は分かったわ」

 

 彼女から沙紀の状況を聞いて、私は今の状況を何とか把握することができた。

 

「じゃあ、問題は解決したからあいつは……」

 

「そうね、わたしもお役御免って事で、普段通り、明日からあの子が学校に通うことになるわね」

 

「そう……なら良かったわ」

 

 彼女の口からそれを聞いて、私は安心した。そんな私に目の前の彼女はじっと見つめていた。

 

「それにしても、さっきの推理といい、すぐにあの子の心配したり……もしかして、にこにーはあの子の事が好きなのかしら」

 

「……はあ!? あんた、何言ってるのよ!!」

 

 いきなり彼女がそんなことを言ってきたせいで、私は驚いて、大声を出してしまう。

 

 好き? 私があいつのことを!? そんなことあるわけないじゃない。

 

「いや、あの子のこと、細かいところまで結構見ていて、わたしと入れ替わっているのを見破った訳だから」

 

「それはあいつが私の後輩だから……後輩のことをしっかり見るのは先輩の役目でしょ」

 

 そうよ、私とあいつは先輩後輩の関係よ。好きとかそういうのはある訳じゃない。そもそも私たちは女の子同士なのよ。

 

「その心がけは良いことだと思うけど……いや、にこにーの場合はそういうことができるけど、素直になれないタイプ──つまり、ツンデレなのね」

 

「誰がツンデレよ!! 誰が!!」

 

 何かこれに近いやり取り、あいつとやったような気がする。

 

「数日間、一緒に過ごしたけど、やっぱりにこにーは面白いわね」

 

「はあ? いきなり何なのよ、それにさっきから気になっていたんだけど、私の呼び方変わってない?」

 

 彼女、さっきから私のことをにこ先輩じゃなくて、にこにーって呼んでいる気がする。

 

「わたし、気に入った相手には親しみを込めて、あだ名で呼ぶようにしているのよ、だからいいわよね」

 

「別にいいけど……だったら、そろそろあんたの名前を教えなさいよ、こっちはあんたのこと、なんて呼べばいいのか分かんないのよ」

 

 目の前の彼女が沙紀と同一人物って言っていいくらい、そっくりだから、油断していると、間違えてあいつの名前を言ってしまいそうなのよ。

 

 それに目の前の彼女と沙紀の関係もすごく気になる。

 

「そうね……なら、クイズよ、わたしとあの子の関係をにこにーが当ててみなさい」

 

「何よ、突然……」

 

 彼女の急な提案に私はとても戸惑った。

 

「いいじゃない、もし、当てることが出来れば、わたしの名前を含めて、わたしとあの子のこと全て教えてあげるわ」

 

「もし、外しても残念賞として、わたしの名前は教えてあげるわ」

 

 私がクイズを当てようが、外そうが、どっちにしても彼女は名前だけは教えてくれるみたいね。だったら最初から名前だけでも教えてくれればいいのに。

 

「ちなみにわたしとあの子の全ての中には、星野如月の活動休止の真実も含まれているわ」

 

「!?」

 

 彼女が言ったある言葉に私は思わず反応してしまう。

 

 星野如月の活動休止の真実。

 

 当時、人気絶好調だった星野如月が、突然、活動休止を宣言して、アイドル界から姿を消した。

 

 ファンから多くの活動休止の推測や憶測がネット上で出回るけど、どれも信憑性がないものばかり。

 

 それに実際に星野如月だったあいつから直接聞いてもはぐらかされた事ばかり。

 

 だから私もどうして星野如月が活動休止になってしまったのか、詳しくは知らない。だけど──。

 

「何故、中学生アイドル星野如月が突然アイドル活動を休止してしまったのか、何故、あの子の心が壊れてしまったのか、このクイズに正解するだけで、その答えを全て知ることができるわ」

 

 今の彼女の言葉が何処か悪魔の囁きように聞こえる。

 

 彼女が言うことが本当なら、私が彼女とあいつの関係を当てることが出来れば、それを含めて全部知ることができる。

 

 あの雨の日のことも。ときどき見せる辛そうな顔の理由も。私のことを先輩って呼び続ける意味も。全部……全部知ることができる。

 

 それが分かれば、もう一度あいつを──。

 

 それを知りたいと思う気持ちと同じように、心の奥で不安を感じる気持ちがある。いや、彼女に最初に質問した以上の不安を感じている。

 

 もし、この真実を知ったら、今の関係が壊れてしまうんじゃないのか、あいつが傷つくんじゃないのか、そんな漠然とした不安が。

 

「私が当てることが出来れば、全部教えてくれるのよね……」

 

「ええ、もちろん、約束は守るわ」

 

 私は彼女にもう一度確認すると、彼女は頷いた。あとは私が答えるだけ。

 

 大丈夫、普通に考えて、彼女とあいつの関係はこれしかないはずよ。

 

「あんたは……あいつのお姉さんなのよね」

 

 普通に考えれば姉妹。姉か妹の二択。そうじゃなきゃ、ここまで彼女とあいつが似ているなんてことは有り得ないわ。あとは姉か妹の二択を当てればいいだけの話よ。

 

 何となくあいつに対しても彼女の話しぶりで何処か姉っぽい感じがしたのと、あとは勘。

 

「残念……外れよ」

 

「そう……」

 

 しかし、私の予想とは違い、彼女は何処か残念そうにそう口にして、私はその言葉を受け入れた。

 

「残念だわ……にこにーなら当ててくれると思ったけど、難しかったかしら」

 

「そうよ、あんたに関しては私は名前すら知らないし、それにあいつから聞いたこともなかったんだから」

 

 私が外してがっかりしてる彼女だけど、そもそも私は彼女の存在を初めて知ることになった訳なんだし、分かるわけないじゃない。

 

「そうかしら、本気であの子のことを知ろうとしているのなら、薄々気付くと思うのだけど……まあ、にこにーがわざと外したのなら話は別だけど……」

 

「まあいいわ、これで話は終わりね、そろそろ帰るわ」

 

 そう言って彼女は残っていたブラックコーヒーを飲み干して、鞄を持って立ちあがり、部室を出ようとした。

 

「ちょっと待ちなさいよ、まだあんたの名前を聞いてないわよ」

 

「そうね、まだ言ってなかったわね……」

 

 彼女はこのまま部室を出ていきそうだった勢いだったけど、部室の扉の前で立ち止まる。

 

篠原雪音(しのはらゆきね)……名字はあの子と同じで、雪の音って書いて雪音」

 

「篠原雪音……」

 

 やっぱりあいつの親類筋。

 

「にこにー、今日話したことはあの子には秘密ね」

 

「分かったわ」

 

「ありがとう助かるわ……あと最後に一つ、どんなものにも終わりがあるものよ、きっと今のままだと、そのときが来たときに、にこにーは後悔をするわ」

 

「だから、そうならないようにあなたは何時か知らなきゃいけないのよ、それだけは覚えていなさい」

 

 そう言って彼女──篠原雪音は、部室を出ていった。

 

 2

 

 翌日──私は何時ものように登校していると、後ろから突然──

 

「にこ先輩、おはようございます!!」

 

 私に抱き付いて耳元から大きな声で私に挨拶をするよく知っている声が聞こえた。

 

「朝っぱらから抱きつくんじゃないわよ、熱いじゃないのよ!!」

 

「良いじゃないですか、私とにこ先輩の仲なんですから」

 

 私は抱き付いてきたのを、無理矢理引き剥がして振り向くと、三つ編みのお下げに眼鏡を掛けた私の知っている沙紀がいた。

 

「……」

 

「どうしたんですか? にこ先輩、私の顔を熱い眼差しでじっと見つめるなんて、そんなに見られると私……ムラムラのヌレヌレですよ……」

 

 私に見つめられたせいか荒い息遣いなり、また(今度は性的な意味で)抱き付こうとする沙紀に、私は無言で黙らせる。

 

「にこ……先輩の……ご褒美……GETだぜ……」

 

 そう言って顔を紅く染めながら倒れこむ沙紀を見て、私はやっと実感することができた。

 

 私の前だと無駄にテンションが高く、変態行為をして、私が制裁を与えると喜ぶ彼女は、本当に私の知ったいる篠原沙紀だと言うことを。

 

 ただ一つ気になることがあるとするなら──

 

「あんた……その手はどうしたのよ」

 

 今までしていなかった手袋をしていることに、私の目は行ってしまう。

 

「あぁ~、これですか、これはですね……フフフ」

 

「漆黒の黒太陽の力を封じ込めているとかいないとか的なやつですよ」

 

 変なポーズを取りながら、ちょっと低めの声を出してカッコつける沙紀。しかし、寝転がったままだから格好良いどころか、間抜けに見える。

 

「あっそ」

 

 そんな沙紀に私は呆れるしかなかった。多分、最近なんかそういう系のものでも見たんだと思う。飽きたら止めるわね。

 

「ささっと、立ちなさいよ、遅刻するじゃない」

 

「イエス、マイマスター!!」

 

 私は歩き始めると、沙紀は立ち上がって、私のあとを追いかける。

 

 沙紀と一緒に登校していると、ふとこんなことを聞いてみた。

 

「あんたってさ……姉妹とかいないの?」

 

「急にどうしたんですか?」

 

 突然過ぎて、沙紀はきょとんとした顔で私の方を見る。

 

「いや……何となく気になっただけよ……」

 

 雪音に昨日のことは話すなって口止めされているから、本当のことは言わず、曖昧な感じで答える。

 

「にこ先輩の質問には答えるつもりなので、別にいいですけど……私、にこ先輩の性奴隷ですし」

 

「はぁ~、もう突っ込まないわよ」

 

「篠原沙紀には姉も妹もいませんよ、一人っ子ですから、そもそも血縁なんてもうこの世にはいないんですから」

 

「そう……悪いわね、変なこと聞いちゃって……」

 

 やっぱりそう答えるのね。私は予想通りの答えに対して、疑問には思わなかった。

 

 篠原雪音……こいつにとってどういう関係なのかは私には分からないけど、少なくてもあいつのお陰で沙紀が元気に登校できている。

 

(どんなものにも終わりがあるものよ、きっと今のままだと、そのときが来たときに、にこにーは後悔をするわ)

 

 不意に雪音が立ち去る前に言った言葉を思い出す。

 

 どうして雪音がそんなことを言ったのか分からない……いや、分かっているのよ、だってあのとき私は──

 

 雪音と沙紀の関係を外して、心の奥底から安心した気持ちでいっぱいだったから。それを雪音は気づいていたからあんなことを言ったのよ。

 

 分かっている……分かっているわよ。私だってあと半年もすれば卒業。あいつと一緒にいられる時間が少ないことだって。

 

 だから、私は私のやり方であいつを──。

 

「にこ先輩、早くしないと遅刻しますよ」

 

「分かってるわよ」

 

 廃校や解散の危機もなくなって、私たちの日常は戻ってきたんだから、沙紀のことだって……私の卒業する半年以内で何とかできるわ。

 

 だから何も心配はないわよ。

 

 私は心の中で決心と誓いをして、何時もの日常へと戻っていた。沙紀と一緒に過ごす日常へと。

 

 3

 

 このときの私はまだ何も知らなかった。

 

 もう既に星野如月の真実に辿り着くまで、舞台も役者も準備が終わっていたことを。

 

 私がもう一度、篠原雪音と再会するのが、そう遠くない未来だってことを。

 

 そして私と沙紀の今の関係が終わりに向かっていることを。

 

 そうして私たちの二回目のステージが幕を開ける。




如何だったでしょうか。

これでアニメ一期までの物語が終わり、折り返し地点までやって来ました。

次回は後日談を経て、アニメ二期――次の章へと物語は進んでいきます。

まだまだ完結までには先は長いですが、篠原沙紀とμ'sの物語がどのような結末を向かえるのか、最後までお付き合い頂けると有り難いです。

何か感想などありましたら気軽にどうぞ。

誤字、脱字がありましたらご報告して頂けると有り難いです。

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