ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー 作:タトバリンクス
それではお楽しみください。
1
「ところてんと最も相性が良い食材、調味料は何なのかしらねぇ……」
「このわたしが、もう何年もこの課題に試行錯誤しているけど、未だに答えが見つからないわ」
「だけど、考え方を変えれば、それだけところてんは深く至高な食材とも言えるわ」
「あぁ……ところてん……ビバ、ところてん……あっぱれ、ところてん」
「人の……上で……変な独り言を……言わないでくれる……」
まるで黄昏ように囁いた沙紀に、私は苦しいのを我慢しながら、ツッコミを入れる。
「別に良いじゃない、わたしの人生において、三番目に大事なことなのよ、それを変と侮辱したにこ先輩には、もう十回追加の刑よ」
「はぁ!? 何よ……それ!! ふざけるん……じゃない……わよ……」
「何よも、だっても、口答えは受け付けないわ、もたもたしないで、さっさとこなしなさい」
「そもそも……何であんたを……背中に乗せて……腕立て伏せを……しなくちゃ……いけないのよ……」
私は何時もの神社で、練習をしていたはずなのに何故か沙紀を背中に乗せて腕立て伏せをさせられていたわ。
それはもう有無を言わさないような感じで。
「何でって……決まっているじゃない、基礎練よ」
「だったら……普通に……腕立て伏せをすれば良いじゃない」
「甘いわ、今の時代アイドルは歌って、踊れて、戦えなければならないわ、何時か別の事務所のアイドルや、宇宙からやって来たアイドルと戦うときのために」
「意味が……分からないわよ……」
沙紀が言っていることは、冗談なのか、そうじゃないのかは、さておき、こんなトレーニングを続けたら、何時か筋肉が付いて、腕が太くなるわよ。流石にそれは嫌よ。
私は上に乗っている沙紀の話を無視して(下手なことを言うと、回数が増やされそうだから)、かなりキツいけど、残りの腕立て伏せの回数を消化することに専念した。
「ペースを上げてきたわね、あと10、9、8……」
沙紀は私が腕立て伏せを終わらせることに専念したのに気付いていたのか、残りの回数を口にし始めた。
「2、1、0……終了」
終了という言葉を聞いた瞬間、私は力が抜けて、倒れこんだ。
「終わったんだから……さっさと……退きなさいよ……」
「──からの……もうワンセット……」
「やらないわよ!!」
終わったにも関わらず、鬼畜にももう一回やらせようとする沙紀に、私は全力で拒否をすると、沙紀は私の背中から降りた。
「ホント……疲れた……」
地面に倒れ込んだまま、私は死にそうな声でそう呟いた。
「お疲れさま、にこ先輩、はい、コレ」
私の顔の横にスポーツドリンクを置いて、沙紀は私の隣に座り込んだ。
私はスポーツドリンクを見ると、直ぐ様、起き上がり、スポーツドリンクが入った容器を手に取って、一気に中身を飲み干した。
「はぁ~、ホント、死ぬかと思ったわ」
「そんな大袈裟ね」
「大袈裟じゃないわよ、あんたが重いから余計に疲れるのよ」
「重いと言われるのは、心外ね、……でも確かに一部分が決定的に違うから仕方ないわよね」
そう言って沙紀は自分の胸を強調するようなポーズを取り始める。それを見て私はかなりイラッとした。
「あんた、ケンカ売っているわよね!!」
「はて? 何の事やら、わたしはたださっきの体勢がしっくり来なかったから、変えただけよ」
そう惚ける沙紀だけど、何処か悪意のあるように感じる。
「そう……あんたがそう惚けるなら……こっちだって考えがあるわよ」
私はそう言った直後に、不意討ち気味に沙紀の胸に掴み掛かろうとする。
クールぶっている沙紀に、希直伝のわしわしを食らわせて、恥ずかしい思いをさせてやろうと、そう思って掴み掛かろうとした。
だけど、手が沙紀の胸にもう少しで触れそうな距離で、突然──視界が真っ暗になった。
「わたしの胸に触れようなんて、悪い子……」
何故かとても近くで聞こえる沙紀の声で目を開けると──ほぼ顔と顔が触れそうな距離で目の前に沙紀がいた。それどころか私は沙紀に押し倒された。
えっ? えっ!? 何が起こったのよ。何で私が沙紀に押し倒されているのよ。
沙紀を退かそうとするけど、両手両足が逃げられないようにガッチリと沙紀の身体で押さえられている。
「突然、わたしの胸に触れようするから、つい、とっさに押し倒してしまったわ」
混乱している私の心を読んだみたいなのか分からないけど、私に沙紀はそう説明した。
「けど……にこ先輩が悪いのよ、わたしの胸を触ろうとするから、そんな悪い子にはお仕置きしないと……」
そう言って沙紀は私の首筋を優しく舌で舐めた。
「ひゃっ!!」
何が何だか理解できない状況で、急に首を舐められたせいで、変な声が出てしまった。
「少ししょっぱいわ……」
「うぅ……仕方ないじゃない……運動したあと……なんだから……」
聞きたくもなかった味の感想やさっきの声の恥ずかしさで私は死にそうになる。
「別に味は嫌いじゃないわ、むしろ好みよ、それににこ先輩の匂いも、さっきの声も可愛かったわよ、もっと聞いていたいわ」
フォローのつもりなのかすごく変なことを口にする沙紀だけど、私からしたら恥ずかしいことを口にされて、顔が紅くなってくる。
「にこ先輩の顔……紅くなっている……可愛いわ……もっと可愛い顔を見せて……」
そう言ってまた沙紀は私の首を舐め始める。
「ひゃっ!! ちょっ……と……止め……な……さい……よ……」
抵抗するけど、身動きが取れず、沙紀を止めることができなくて、私の首は舐められ続ける。
「ふふふ……いいわね……その反応、ゾクゾクするわ……もし、キスをしたら……どんな反応をするのかしら……」
私の反応を見て、調子に乗ったみたいで、そんなふざけたことを口にする。
「ちょっと……それは……ダメよ」
だけど、そんな私の声が届いていないのか、沙紀の顔は、私を見つめながら、少しずつ少しずつ近づいてくる。
沙紀の吐息が私の頬に触れて少しくすぐったくて、沙紀の髪からシャンプーの良い香りが漂ってくる。
何か大分前にも似たような事が、あったような気がするけど。
ウソ……このままだと……私のファーストキスの相手って……沙紀になるの。そんなの……。
私は沙紀の顔が触れそうなくらい近くになると、恥ずかしさのあまり、目を閉じてしまう。
目を閉じたところで、キスされることは変わらないから意味はないけど。だけど、目を閉じたせいで沙紀が何処まで近づいているのか、分からなくて、とても長い時間が経っているように感じる。
それから体感時間で、何十分くらい経ったような気がするけど、唇に何か触れたような感触がない。
私はゆっくりと目を開けると、沙紀の顔は私の顔を触れそうなくらい近くじゃなくて(未だに押し倒されているけど)、少し離れた距離にあった。
「やっぱり、調子に乗って奪ったら……ダメね、あなたは……私にとって大切な人だから……」
沙紀はとても小さな声で呟くと、私を押し倒すのを止めて、離れていった。
「ちょっ……」
「休憩は終わりよ、早く練習に戻るわよ」
私は沙紀に何か言おうとしたけど、その前に沙紀は何事も無かったようにそう口にして、立ち上り、その場を離れていった。
「何よ、それ……」
沙紀の姿が見えなくなると、私の中で何とも言えない気持ちだけが残った。
勝手に向こうが調子に乗って、私のファーストキスを奪おうとしたのに、まるで冷めたみたいな反応するのは。
もしかして私……弄ばされたの……。
「あぁ~!! 何なのよ、あいつ!!」
この何と言うか分からないモヤモヤした気持ちを発散するために、私は大きな声を出すしかなかった。
ただ言えることは、とりあえず私のファーストキスは守られたってことだけだった。
2
沙紀が立ち去ったあと、私は(沙紀のせいで)乱れたしまった自分の心を落ち着かせてから、あいつのあとを追って、神社の階段まで移動した。
「かよちん遅いにゃ~」
「久しぶりだとキツいね」
そこには階段で別の練習をしていた花陽と凛がいた。
花陽は階段を登りきると、ハアハアと息が切らして疲れているのが分かるけど、逆に凛は息一つ乱れてなくて、体力に余裕がある感じだった。
「あんたたちの練習はまだ楽そうでいいわね」
自分と二人の練習内容の差を比べて、嫌気が指しながら二人に声を掛ける。
「あっ、にこちゃん、そっちの練習は終わったの?」
「ええ……」
「何か……大変そうだったんだね……」
私に気づいた花陽の質問に私は遠い目をしながら答えると、花陽はそれで察したみたいで、それ以上は何も言わなかった。
私、花陽、凛、それにマネージャーの沙紀を加えての四人が、今のアイドル研究部。
あれから私と沙紀はμ'sのメンバーに一緒にアイドルを続けないかって、聞いて回ったけど、花陽と凛以外はみんな断った。
やっぱりμ'sは穂乃果が作ったと言ってもいいわ。
人を引き寄せる力。
こればっかりは穂乃果の魅力──才能、と言ってもいいかもしれない。
みんなそんな穂乃果に誘われてμ'sに入ったんだから。結局、私が誘ったところでみんながみんな一緒にアイドルを続けてくれるわけがない。
こんなこと比べたって意味がないかもしれないけど、私にはきっと穂乃果みたいな才能がないのかもしれない。
実際に同じようなことをやって、私は失敗しているわけだし……。
こんなこと考えてると、あいつに怒られるわね。
「そういえば、あのバカは何処に行ったのよ、てっきりこっちに来たと思たんだけど」
辺りを見て回るけど、沙紀の姿は全く見当たらない。練習を再開すると言ったから、花陽と凛にも声を掛けに言ったかと思ったけど、違うみたいね。
「沙紀ちゃんならところてんが切れてやる気が起きないから買いに行ってくるって言って、コンビニに走っていったにゃ~」
「何そのニコチンが切れたからタバコ買ってくるみたいなノリ……」
「そうそう、そんな感じ、沙紀ちゃんってところてん中毒何じゃないかって思っちゃったよ」
「ところてん中毒って……凛ちゃん……」
「凛の言う通りよ、最近のあいつを見ると、マジでそう思うわ」
最近のあいつは偏食もいいところよ。毎日、昼ご飯はところてんしか食べてない。それどころか隙あれば、どんな所でもところてんを食べているわ。
あれをところてん中毒と呼ばないで、何て呼ぶのよ。
「じゃあ、あいつが帰ってくるまで待機ってこと?」
「その必要はないわ、もう買い終えたから」
不意に、後ろから声が聞こえたから振り返ると、大量のところてんが入ったコンビニ袋を持った沙紀がそこにいた。
「あんた、いつの間に戻ってきたのよ!!」
「たった今」
私が突然戻ってきた沙紀に驚きながら質問すると、沙紀は興味なさそうな口ぶりでそう答えた。
「それにしても早いわね」
「コンビニまで全速力で走ったわ、ただそれだけよ」
そう言いながら沙紀はコンビニ袋からところてんを取り出していた。そのところてんを取り出す動きが何となくだけど、とても嬉しそうな風に見えた。
「どんだけところてんが食べたいのよ!!」
「もうこれは病気だにゃ~」
そう凛に突っ込まれているけど、沙紀は気にせず、取り出したところてんを食べ始めた。
それにしてもコンビニまで全速力で走ったって言うくせに、こいつ……澄ました顔をして、息一つ乱れてない。流石は元トップアイドルとは言いたいわね。ただその元トップアイドルが、ところてんを買いに行くために全速力で走っている姿は見たくはないけど。
「さて……次の練習は何をしようかしら……」
そう、ところてんを食べながら考える沙紀。すると──
「みんな……」
突然、穂乃果がどこかばつの悪そうな顔をしながら私たちの前に現れた。
「穂乃果ちゃん……」
「練習続けてるんだね」
「うん」
「当たり前でしょ、スクールアイドル続けるんだから」
「えっ?」
「悪い」
「いや……」
私たちがスクールアイドルを続けていることに驚いている穂乃果に私は何でもないように言う。
「μ'sが休止したからってスクールアイドルやっちゃいけないって決まりはないでしょ」
「でも……何で……」
「好きだから」
穂乃果の疑問に私は迷わずそう答える。
「にこはアイドルが大好きなのよ」
「みんなの前で歌って、ダンスして、みんなと一緒に盛り上がって、また明日から頑張ろうって、そういう気持ちにさせるアイドルが私は大好きなのよ」
そう言って私はちらっと沙紀のほうを見る。
昔のあいつを見て、私がそう思ったように、いつか、私もみんなをそう思わせるアイドルになりたいと、本気で思っているから。
「穂乃果みたいないい加減な好きとは違うの」
「違う、私だって」
「どこが違うの」
私は穂乃果の言い訳をばっさりと切り捨てる。
「自分から辞めるって言ったのよ、やってもしょうがないって」
「それは……」
「ちょっと言い過ぎだよ」
「にこちゃんの言う通りだよ……邪魔しちゃってごめんね……」
私の言ったことに穂乃果は暗い顔して認めると、暗い笑顔を浮かべながら謝って、その場を離れようとする。
「穂乃果ちゃん、今度わたしたちだけでライブをやろうと思ってて、もし良かったら」
「穂乃果ちゃんが来てくれたら盛り上がるにゃ~」
「あんたが始めたんでしょ、絶対来なさいよ」
「みんな……」
私たちはそれだけ伝えて、穂乃果が階段を下りていくのを見送った。
「穂乃果も穂乃果なりに思うことや迷いがあるみたいね」
穂乃果の姿が見えなくなったあと、沙紀がそう口にした。
「そうね……」
穂乃果がここにふらっと立ち寄ったってことは、多少なりともスクールアイドルに未練があるみたいだし。
「わたしの見立てだと……あと一押しってところね……案外、明日には自分の中で答えを出すのかもしれないわね」
「あんた……そんな風にカッコつけているけど、ところてん食べたままだと全く締まらないわよ」
私は沙紀にツッコミを入れたあと、私たちはそれぞれ練習を再開した。
その翌日、沙紀の予想通り、穂乃果は自分の中で答えを出し、完全復活をすることになった。
3
翌日の放課後、私はあいつと二人きりで話すために部室に向かっていた。
あいつには携帯に部室に来るようにって、メッセージを飛ばしておいて、向こうも気づいているから、多分、来ているはず。
部室の前まで歩くと、部室の扉の窓から人影が見えた。どうやらあいつが私より先に来ているみたい。
そうして部室に入ると、沙紀が雑誌を読みながら私のことを待っていた。
「悪いかったわね、急に呼び出して」
「あら、にこ先輩来たのね、別に構わないわ」
私が沙紀に声を掛けると、沙紀は雑誌を読むのを止めて、私のほうを向いた。
「それで何? 話って」
「ちょっと待ちなさいよ……はい、これ」
私は鞄からミルクティーとブラックコーヒーを取り出して沙紀に見せる。
「この前のお返し、あんた、どっち飲む?」
「この前のって……ああ、あの時のね──じゃあ、こっちを貰うわ」
何時の時のお返しか思い出した沙紀は迷わずブラックコーヒーを私から受け取った。
やっぱりそっちを取るのね……。
私は残ったほうのミルクティーを空けて、飲み始める。
「それにしてもホント、穂乃果にはビックリするわ、ことりを連れ戻して、μ'sを完全復活させるなんて……」
今日の朝のこと、私は聞いた話だから詳しくは知らないけど、穂乃果が海未を呼び出したみたい。そこで穂乃果は海未に本音を口にして、それを聞いた海未がことりを連れ戻すように背中を押した。
それからは穂乃果はことりを連れ戻すために空港へ向かい、海未は残りのメンバーに今日ライブをやると声を掛けに回った。
海未に集められた私たちは半信半疑でライブの準備して、穂乃果とことりを待つことになった。
そうしてライブ開始直前ギリギリに、穂乃果がことりを連れ戻して戻ってきた。
それからはホントぶっつけ本番、ライブの衣装があるわけないから制服でやることになるし、歌やダンスだって、リハーサルなしでやらなくちゃいけなかったわ。
そんな慌ただしい中でやったライブだったけど、今まで一番の出来だったって感じる。
今までで一番μ'sの結束力が強くなった瞬間だったってそう思ったわ。
「穂乃果とことりの件に関しては本人たちが素直になれば、そこまで拗れることはなかったのよ……ただ単純にタイミングが悪かっただけで余計に悪化しただけよ」
確かに今回の件は色んなことが起こったせいで、μ'sが解散寸前まで追い込まれたとも言ってもいい。
「だけど、今まで以上に私たち──μ'sの結束力は強くなったわ」
「そうね、今日のライブはわたしも見ていて、一番心が躍ったわ」
「……」
「何よ、わたしは本気で言っているわよ」
「いや……それは分かっているのよ……」
ただそんなことを言っても、沙紀の表情が一切変わらないから、本当にそう思っているのかが分かりにくい。
「わたしとしても刺激バカのせいで予定がかなり狂ったけど、まあ、わたしにとって最悪の事態だけは回避できたから……まだ修正が効くわ」
「刺激バカ? ……何のことよ?」
「いやこっちの話よ、それよりもわたしに話があって呼んだだから、用件をさっさと言いなさいよ」
沙紀が何か気になることを言っているけど、沙紀は私に呼び出した理由を言うように話を逸らした。
「……」
正直、私が沙紀を呼び出した理由は、ずっと気になっていたことがあったから、それを聞こうと呼び出した。
だけど、何……この不安は……。
何故か分からないけど、この質問をしたらもう後戻りが出来ないような、そんな不安が私の心の中を埋め尽くす。
「……最近色々とバタバタして、ずっと言えなかったのだけど……」
私は不安を残しながら覚悟を決めて、沙紀にこの質問をした。
「あんた……一体誰なの?」
私がそれを口にしたときの沙紀の表情は何時もと変わらず、どこか冷めたような顔で、それが何処かとても怖いと感じた。
如何だったでしょうか。
どうしてにこは沙紀にあんな質問をしたのか。それに沙紀はどう答えるのか。
それは次回をお楽しみに。
そんなわけで感想などありましたら、気軽にどうぞ。
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