ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー   作:タトバリンクス

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大変お待たせしました。

それではお楽しみください。


四十五話 崩壊

 1

 

「……」

 

 お昼休みの部室──私と一緒にお昼を食べている沙紀は、何か真剣そうに考え事をしていた。

 

「醤油かぽん酢……いやあえてここはソースもありね」

 

 真剣に沙紀は自分の目の前に並べた調味料を見ながらそんなことを口にした。

 

「──決めた、まずはシンプル・イズ・ベスト、これね」

 

 そう言って沙紀は醤油を手に取り、鞄からあるものを取り出して、それに醤油を掛けて食べ始めた。

 

「あんた……何を食べてるの?」

 

「何って……ところてんよ?」

 

「いやそれは見たら分かるわよ、ただ……」

 

「その量は何よ?」

 

 沙紀の手元に置かれてるところてんのパックの数がぱっと見ただけで10パック以上置かれてる。

 

「こんなの普通ですよ、普通」

 

「いやいや流石に多すぎるわよ、何それ、もしかして全部今日のお昼なの!!」

 

「お昼なのかと聞かれれば、それはyes」

 

「そこはせめてnoって言ってほしかったわ!!」

 

 いや仮にnoって答えても逆にその量はホントに何なのか分からなくなるけど。

 

「ところてん10パックって普通に飽きるでしょ」

 

「甘いわ、ところてんはこの世で至高の食べ物……」

 

「ありとあらゆる料理、調味料に合う完全食、飽きることないわ」

 

 そう言って沙紀は何処からともなくあらゆる調味料を取り出していた。

 

「いやいや何処から出てきたのよ、その調味料……」

 

「わたしのスタイルの良さはところてんのお陰だと言っても過言ではないわ」

 

「聞いてないし、それに答えになってないわよ」

 

 こんな風に一緒にお昼を食べているけど、私には違和感しかなかった。

 

 沙紀の声は冷淡で口調も敬語ではなく、瞳は何処か冷めてる。それにこいつのアイデンティティーだった眼鏡や三つ編みのお下げでなく、髪はストレートで眼鏡は掛けていない。

 

 そのスタイルはかつて多くの人を魅了させてきたアイドル星野如月そのもの。

 

 いや、そのものって言っても結局星野如月は沙紀何だから変わらないはずなんだけど。

 

 ただ見た目が変わっただけでここまで雰囲気が変わるものかしら。

 

 そんなことを考えてると、ガラッと部室の扉が開く音がして、希が部室の中に入ってきた。

 

「あっ、やっぱり二人はここにいたんやな」

 

「わたしたちに何か用?」

 

「ホントに委員長ちゃん、何時もの髪型じゃないんやん」

 

「別にたまには良いでしょ」

 

 希は部室に入ってくるなり沙紀を見ると、やっぱり気になったみたいでその話題になると、沙紀は少し面倒くさそうに答えてた。

 

 多分、散々いろんな人に希と同じ反応をされたんだと思う。

 

 この学校で篠原沙紀と言えば委員長スタイルと十中八九そう答えるくらいこいつのイメージは強い。それどころか自分でこのスタイルは私のアイデンティティーだから言うレベルだし。

 

 それなのにそのスタイルを崩しているのを見ると、誰だって気になるに決まってるじゃない。

 

「はぁ~、たかが見た目を変えたくらいでみんな気にしすぎ、わたしが別にどんな髪型で来ようがわたしの勝手じゃない」

 

「まあ確かにそうやんね」

 

 どうやらほかでも本当に希と同じ反応をされてたみたいで、希もそれが分かるとそこまでその話題を続けなかった。

 

「ねぇにこっち……」

 

 希は私の方に近づいて小声で呼び掛けてくる。

 

「何よ……」

 

「委員長ちゃん……人が変わったみたいに雰囲気が違うんやけど、にこっちはどう思う?」

 

「あれじゃないの、気分転換に別のキャラ演じてるじゃないの」

 

「そうかな……にこっちがそう言うんやったらそれでいいんやけど……」

 

 希は若干納得してないような雰囲気だったけど、一先ずはそういうこととして引き下がったわ。

 

 正直私も何か引っ掛かる気がするけど、確信はないし、自分が言ったようにただ演技をしてるという理由でも納得は出来なくもない。

 

 何故なら沙紀にはそれで納得できてしまう理由があるから。

 

「それであんたは結局何しに来たのよ」

 

「ほらっ、ことりちゃんもうすぐ海外に留学するやん」

 

「それでみんなで何かことりちゃんの為にできないかなって、呼び掛けてるところなんやよ」

 

 なるほどね。ことりの送別会みたいなことをしようとしてるのね。確かにこの前のお祝いがみんなで何かするの最後になるのは悲しいし。

 

「それで何をやるのか決まってるの?」

 

「う~ん、今のところはライブをやろってウチとエリチは考えてるんやけど、どうかな?」

 

「それはありね、その方がμ'sらしいわ」

 

「良いんじゃない、わたしも思い出としては悪くはないと思う」

 

 希の提案に私と沙紀も賛成する。

 

「他のメンバーにもその話はした?」

 

 沙紀が希に他メンバーに話したのか聞くと、希は首を横に振る。

 

「ううん、これからや、今エリチが穂乃果ちゃんと海未ちゃんに、ウチがこのあと真姫ちゃんたちのところに行って話してくるから」

 

「なら一緒に付いていくわ、どうせみんなでどこかで集まって話し合うんでしょ」

 

「それならにこっちと委員長ちゃんは先に屋上に行っておいて、ウチも真姫ちゃんたちに声掛けたらそっちに行くから」

 

「分かった、先に屋上に行ってるわ」

 

「うん、それじゃあウチは呼びに行ってくるよ」

 

 そう言って希は部室を出ていって、真姫ちゃんたちを声を掛けに──多分一年生の教室に、向かったわ。

 

 残った私も先に屋上に行くように準備しようとすると、沙紀は残ってた5パックのところてんを一気に担ぎ上げ、口の中に入れて飲み込んでいた。

 

「さあ、行きましょ」

 

「えぇ……」

 

 何事もなかったように全部食べきってた沙紀に私は呆れながらあとに付いていった。

 

 2

 

 希に言われた通り、屋上に向い、他のメンバーが来るのを沙紀と二人で待っていた。

 

 それから少ししてから、海未がやって来て、希と一緒に真姫ちゃん、凛、花陽の順で屋上に集まった。

 

 みんな屋上に集まったときの反応は大体一緒で、沙紀の姿に驚いて、沙紀はすごく面倒くさそうな反応で返していた。

 

 そんなやり取りがあってから絵里が穂乃果を連れて屋上にやって来た。

 

「ライブ?」

 

「そう、みんなで話したの、ことりがいなくなる前に全員でライブをやろうって」

 

「来たらことりちゃんにも言うつもりよ」

 

 どうやら絵里は穂乃果には集まった理由を教えてなかったみたいで、まずはその説明からした。

 

「思いっきり賑やかのにして門出を祝うにゃ~」

 

「はしゃぎすぎないの」

 

 凛のテンションが上がり過ぎないように頭を叩いて、頭を冷やそうとする。

 

「にこちゃん何するの!!」

 

「ふん、手加減してやったわよ」

 

 私と凛が近くで馬鹿騒ぎしているのに、穂乃果の表情は暗く、全く笑っていない。それどころかみんなでことりの送別ライブの説明をしているときも、同じような表情していた。

 

「まだ落ち込んでるんですか?」

 

「明るくいきましょう、これが9人の最後のライブになるんだから」

 

「私がもう少し周りを見ていれば、こんなことにはならなかった」

 

 まだこの前の件で落ち込んでいる穂乃果を絵里が元気付けようとするけど、それどころか自虐的なことを口にした。

 

「そ、そんなに自分を責めなくても」

 

「自分が何もしなければこんなことにはならなかった」

 

「あんたね」

 

「そうやって自分のせいにするのは傲慢よ」

 

 穂乃果を慰めようとするけど、逆に自分の行動を否定することまで口にし出した。

 

「でも!!」

 

「それをここで言ってなんになるの、何も始まらないし、誰も良い思いをしない」

 

 絵里の言う通り、もうこの件は終わってしまったこと。今更ここで何を言っても何も変わらない。

 

「ラブライブだってまだ次があるわ」

 

「そう、今度こそ出場するんだから落ち込んでる暇なんてないんだから」

 

 何時やるか何て分からないけど、1回目が合ったんだから2回目だってあるに決まっているわ。それまでにいっぱい練習すればいいんだから。

 

 だけど、私の思いとは裏腹に穂乃果が口にしたのは、思いがけないことだった。

 

「出場してどうするの?」

 

「えっ?」

 

 穂乃果が口にした一言が私の思考を一瞬停止させて、穂乃果が何を言ったのか理解できるのに、僅かに時間が掛かった。

 

「もう学校は存続出来たんだから、出たってしょうがないよ」

 

「穂乃果ちゃん……」

 

「それに無理だよ、A-RISEみたいになんて……いくら練習したって慣れっこない」

 

「あんた、それ……本気で言ってる?」

 

「……」

 

 私の質問に対して穂乃果は答えない。

 

「本気だったら許さないわ」

 

「……」

 

 もう一度聞くけど、何も反応しないってことはそれはつまり……。私はそう考える前に既に身体が動いて──

 

「許さないって言ってるでしょ!!」

 

「ダメ!!」

 

 私は穂乃果に殴り掛かろうとしたけど、真姫ちゃんが間に入ってきて、私を止めようとする。

 

「放しなさいよ、にこはねあんたが本気だよ思ったから、本気でアイドルをやりたいと思ったからμ'sに入ったのよ」

 

 あのとき、観客のいない講堂を見て、相当のショックを受けたのに、それでもアイドルを続けるって言った姿を見て、私は──

 

「ここに賭けようと思ったのよ、それを……こんなことくらいで諦めるの!? こんなことくらいでやる気をなくすの!?」

 

 私の気持ちを口にするけど、穂乃果の表情は変わらなくて、私の心は怒りよりもどんどん諦めの気持ちの方が強くなっていった。

 

 少しずつ冷静になって周りを見てると、何人のメンバーは悲しい顔をしてるし、それどころか泣いてる子もいた。

 

 誰も穂乃果にどんな言葉を掛けたら良いのか、分からないままになってると──

 

「そうね、確かに穂乃果の言い分は分かるわ」

 

 穂乃果の考えに同意するように沙紀がそう口にした。

 

「廃校を阻止して、目標を達成されて、私たちの存在意義もなくなったわ」

 

「これから先、これと言った目標を無いまま惰性に続けても意味はないわ、ことりも抜けることだし、それならいっそ、ここで終わりにするのは間違っていないわ」

 

「沙紀……あんた何言ってるの?」

 

 あんたが……それを口にしたら……。

 

「何って……別に私は事実を言ってるのよ」

 

「穂乃果はどうしたいの?」

 

 沙紀は穂乃果に問う。

 

「辞めます」

 

「私、スクールアイドル辞めます」

 

 そう宣言してしまった穂乃果はその場から逃げ出すように立ち去ろうとすると、海未が穂乃果の前に立ち塞がり、そして──

 

「あなたがそんな人だとは思いませんでした」

 

 穂乃果の頬に強くビンタしたあと、涙声でそう口にした。

 

「最低です……あなたは最低です!!」

 

 海未は震える声でそう口にすると、穂乃果はビンタされて赤くなった頬を触れていた。




それでは如何だったでしょうか?

一先ずこれでアニメ1期12話までの話が終わりました。

これから先どのようなことが起こるのか、お楽しみにしてください。

何か感想などありましたら気軽にどうぞ。

誤字、脱字がありましたらご報告していただけるとありがたいです。

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