ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー   作:タトバリンクス

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みなさんお久しぶりです。ほぼ二ヶ月振りの投稿です。

そんなわけでお楽しみください。




四十三話 そして彼女は思い出す

 1

 

 学園祭から数日が経ったある日──私は昼休み一人屋上で壁に寄り添って座り、何となく空を見上げる。

 

 天気は良く、日差しは強いけど風が涼しく秋を感じさせて、お弁当を食べるのにはちょうど良い。

 

 最近は学園祭実行委員としての仕事が忙しくて、なかなかゆっくりお弁当を食べる時間がなかったから、こうのんびりとしているのは久し振り。

 

「はぁ~」

 

 学園祭が終り、実行委員長としての肩の荷が下りて、更にこんな良い天気なのに、思わず私は溜め息が出てしまった。

 

 何で溜め息が出たのかなんて理由は分かってる。

 

 μ'sのラブライブ出場辞退と言う結果になってしまったから。

 

「あともうちょっとだったのに……」

 

 ラブライブ出場圏内までランキングが上がって、今回の学園祭のライブが成功すれば、ほぼ確実に出場できるところまで来ていた。

 

 だけど、あんなことになって叶わない夢になってしまった。

 

 今回の件で穂乃果ちゃんに全ての責任を負わせるつもりはない。もちろん穂乃果ちゃん自身反省する必要があるけど、一番責任を負わないといけないのは私だ。

 

「でもこれは私だけのせいじゃないってお姉ちゃん言ってたっけ」

 

 学園祭が終わったあと、私はお姉ちゃんの家に泊まった。多分私のことを心配して、泊まるように勧めてくれたんだと思う。

 

 そのときにお姉ちゃんは今回の件は部員全員に責任があるって言ってた。

 

 確かにお姉ちゃんが言うように部員全員に責任があるのは分かる。穂乃果ちゃんのことに誰かが気づくことが出来れば、この事態は回避できた可能性が高いから。

 

 だけど、やっぱり一番責任を負わないといけないのは私。μ'sのマネージャーとして、みんなの様子をちゃんと見てれば問題はなかったんだ。

 

 例え学園祭実行委員としての仕事があったとしてもどっちも完璧にこなせば、何も問題はなかった。

 

 結局悪いのは何もかもを完璧に出来なかった私のせい。そのせいで私とって重大なミスを犯してしまったから。

 

「にこ先輩……」

 

 私はとても大切な人の名前を口にする。

 

 こんな私を救ってくれた人。

 

 私に居場所をくれた人。

 

 私に目的をくれた人。

 

 私の大好きな人。

 

 そんなあの人に誓ったあの人をスーパーアイドルにすると言う約束を果たすことが出来なくなってしまった。

 

 ラブライブ出場して優勝すればあの人の夢を叶える道を作ることが出来たのに、ラブライブ出場辞退になってしまったからそれは叶わない。

 

 私はあの人からたくさんのものを貰っているのに、私はあの人に何一つ恩を返すことが出来ていない。

 

 それどころか約束一つ守れないなんて……。

 

「これじゃあ、まるで役立たずな昔の私のままだ……」

 

 まるでじゃない。本当に役立たず。

 

 何も成していない。何にも貢献出来てない。いや、まだ役立たずならいい。なんせ私は事態を悪化させる疫病神でしかないのだから。

 

 嫌だ……。嫌だ……。嫌だ……。嫌だ嫌だ……。嫌だ嫌だ嫌だ。戻りたくない。戻りたくない。戻りたくない。戻りたくない。役立たずで疫病神な私なんかに戻りたくない。

 

 あの人には私のことを道具として扱ってもいいから、最終的に捨てられてもいいから、何か一つでも役に立ちたい。

 

「何としてでも……にこ先輩の役に立たないと……」

 

 だけど何をすればいいのか。アイデアが何一つ思い付かない。

 

 ラブライブ出場出来ないとなると、出来ることはかなり限られる。

 

 今回のラブライブでスクールアイドルの完全な格付け決まってしまう。ラブライブが終わったあと、今までのやり方では順位を上げるのは困難。

 

 次のラブライブに出場するって手段があるけど、そもそもいつやるかも、そもそももう一度行われるか分からないものに賭けるなんてできない。

 

 それ以前に、にこ先輩が卒業と言うタイムリミットだって、残された時間はあと半年くらい。この期間の間に約束を果たすなんて無理。

 

 いや半年くらいで済むかも怪しい。私に残された時間の方が断然少ない可能性がある。

 

 学園祭に現れたあの子が私の見間違いじゃなければ、もう既に私がここにいることは分かってる。

 

 あの子のすることは殆んど読めない。だけど必ず何処かで私たちに接触してくることは確か。そうなるともう……。

 

「ダメ……」

 

 色々と考えてみるけど、良いアイデアが浮かぶどころか詰み始めてることに気づく。

 

「とりあえずもうすぐ昼休みが終わるから戻ろう」

 

 私はお弁当を片付けて自分の教室に戻る。

 

 教室に戻る途中、廊下を歩いてると、掲示板の前に人が少し集まってる。

 

「何だろう……」

 

 掲示板の前に集まってる人の反応を見ると、嬉しそうな顔をしている人ばっかり。

 

 私は気になって掲示板を見ると、そこには来年度入学者受付のお知らせが貼られてる。私はそのお知らせの内容を読んでみると──

 

「!!」

 

 そこには来年度も生徒を募集すると書かれていた。それはつまり廃校を阻止できたってこと。

 

 この学校は存続が決定した。同時にμ'sの目的が達成出来たってことを意味していた。

 

 2

 

 学校の存続が決まってから数日後、私たちは部室に集まっていた。

 

「みんなグラスは持ったかな?」

 

 にこ先輩はみんなの前に立って、グラスを持っているのを確認する。

 

 今回の集まりは学校存続が決まったお祝い。μ'sの目標だった廃校阻止が達成されたから、みんなでこうして集まっている。

 

「学校存続が決まったと言うことで部長のにこに~から一言挨拶をさせて頂きたいと思いま~す」

 

 みんながグラスを持っているのを確認が出来ると、にこ先輩は話始める。

 

「思えばμ'sが結成され、私が部長に選ばれたときからどのくらいの月日が流れたのであろうか」

 

「たった二人のアイドル研究部で耐えに耐え抜き今こうしてメンバーの前で思いをかたら──」

 

『かんぱ~い』

 

 そんなにこ先輩の話を聞かずにさっさとお祝いを始める。

 

「ちょっと待ちなさい!!」

 

「ホントだよ、みんなにこ先輩の有難いお言葉を聞かないで始めるなんて有り得ないよ!!」

 

「沙紀……」

 

「そんなわけで、にこ先輩の有難いお言葉はあっちで二人きりで聞きますので、さあこちらへ──」

 

「よ~し、さっさとお祝い始めるわよ」

 

 にこ先輩を隣の部室に連れていこうとすると、何かを察したのかスルーしてみんなの所へ移動する。

 

「別に何もしませんよ、に~こ~先輩」

 

「あぁ~お腹すいた、にこちゃんも沙紀ちゃんも早く食べないとなくなっちゃうよ」

 

 私とにこ先輩はテーブルの前に座ると、すぐ近くにパクパクと用意してあったお菓子を食べてる穂乃果ちゃん。

 

「いやしいわね」

 

「まあまあ良いじゃないですか、さっさにこ先輩こちらのお菓子をどうぞ」

 

 にこ先輩に適当選んだお菓子をお皿に取り分けて渡すと、それを受け取ってにこ先輩も食べ始める。

 

 にこ先輩が食べてる姿を見てから私も適当にお菓子を食べ始める。

 

「そういえば穂乃果ちゃん、ごめんね……この前はお見舞いに行けなくて……」

 

 少ししてから私は穂乃果ちゃんに謝る。穂乃果ちゃんが倒れてから数日後、みんなでお見舞えに行こうとなったけど、そのときに私は一緒に行けなかった。

 

「ううん、大丈夫だよ、沙紀ちゃんは忙しかったみたいだし、こっちこそごめんね、心配掛けちゃって……」

 

 穂乃果ちゃんは気にしてない素振りをするどころか、むしろこっちの方が謝れた。

 

 やっぱり学園祭のときに倒れたことを気にしてるんだと思う。

 

「ううん、気にしないで、穂乃果ちゃんの身体に問題がなければ私は安心だよ、けど……」

 

「けど……どうしたの? 沙紀ちゃん」

 

「やっぱり何かもやもやするから……そうだ!! 穂乃果ちゃん、私の身体好きに使っていいよ」

 

「ぶっ!!」

 

 私の思い付いた提案に横で話を静かに聞いていたにこ先輩が吹き出す。

 

「にこちゃん汚いにゃ~」

 

「しょうがないでしょ、横でこいつが変なことを急に言い出すから!!」

 

 にこ先輩は吹き出してしまったものを拭きながら怒るけど、その顔は少し紅い。その顔を見て私は察した。

 

「えぇ~私は労働力として身体を使ってと言ったつもり何ですけど~、にこ先輩はいったいどんな意味に思ったのか~、私にご教授をいただけますか~」

 

 私はニヤニヤしながらにこ先輩に詰め寄って聞き出そうとすると、にこ先輩に頭を叩かれる。

 

「イッタ!! けどにこ先輩のご褒美GET!!」

 

『えぇ~』

 

 にこ先輩に叩かれて喜ぶ私を見て、周りが若干どころかかなり引いている。

 

「久し振りに沙紀ちゃんのこういうテンションを見ると……」

 

「やっぱり変態さんだよね」

 

「まあ、委員長ちゃんも最近忙しかったからストレスが溜まってたかもしれないんよ……だからね」

 

「今日は大目に見ておきましょう」

 

「何この可哀想なものを見るような暖かい目は止めて、そんな目で見られると……すごくゾクゾクする……」

 

 そんなことを口にすると、さらに周囲から引かれたような気がしたが気にしない。

 

 こんな扱いをされるけど、やっぱりみんなと久し振りに会うのは楽しい。学園祭以来なかなかみんなとは会えなかったから。

 

 それと同時にみんなを──にこ先輩をラブライブに出場させてあげられなくって心苦しいと感じてしまう。

 

 今はそんな風に感じてるようには思ってないように振る舞ってるけど、そう振る舞えば振る舞うほど、私は余計に心苦しくなっていく。

 

 私がこんなに楽しくしているのが許されていいのかって……。

 

「ホッとした様子やね、エリチも」

 

「そうね、肩の荷が降りたって言うか」

 

 そんな風に思っているとお姉ちゃんと絵里ちゃんからそんな話が聞こえてきた。

 

「μ'sやって良かったでしょ」

 

「どうかしらね、正直私が入らなくても同じ結果だった気がするけど……」

 

「そんなことないよ、μ'sは9人それ以上でもそれ以下でもダメやってカードが言ってるよ」

 

「私も絵里ちゃんがμ'sに入ってくれなかったら、ここまでの結果にならなかったと思うよ」

 

 お姉ちゃんのカードが云々は信じてないけど、実際に絵里ちゃんが入ってからμ'sの勢いは一気に上がった。

 

「そうかな……」

 

 私とお姉ちゃんにそう言われても絵里ちゃんは実感のない様子。けどそれは事実なんだから。

 

「ごめんなさい、みんなにちょっと話があるんです」

 

 急に海未ちゃんは立ち上り、みんなは不思議そうに海未ちゃんの方を向いた。

 

「聞いてる?」

 

「ううん、沙紀は?」

 

「いや……でも……」

 

 海未ちゃんが話そうとしてることに心当たりがある気がするけど、なかなか思い出せない。何かとても重要なことのような気がするけど。

 

「実は……突然ですが留学することになりました、二週間後に日本を発ちます」

 

 海未ちゃんから告げられた事実にみんな驚き戸惑った反応をした。

 

 私もその話を聞いてやっと思い出した。ことりちゃんが留学することを。

 

「前から服飾の勉強をしたいと思ってて……そうしたらお母さんの知り合いの学校の人が来てみないかって……」

 

「ごめんね、もっと早く話そうって思っていたんだけど……」

 

 ことりちゃんの震える声を聞いて、彼女がずっと悩んでいたことを思い出す。それと同時に私が最低な人間だと気付いた。

 

「どうして言ってくれなかったの?」

 

 ことりちゃんが留学することを知らされてなかった穂乃果ちゃんは立ち上り、ゆっくりとことりちゃんの前に向かった。

 

「穂乃果……学園祭があったから……」

 

「海未ちゃんは知ってたんだ」

 

「それは……」

 

 ことりちゃんが穂乃果ちゃんに言わなかった理由を海未ちゃんが代弁するけど、海未ちゃんは知っていたという事実に穂乃果ちゃんは怒ってるように聞こえた。

 

 いや聞こえたじゃない。穂乃果ちゃんは本気で怒ってる。

 

「どうして言ってくれなかったの? ライブがあったからって言うのは分かるよ、私と海未ちゃんとことりちゃんはずっと……」

 

「穂乃果……」

 

「ことりちゃんの気持ちも分かってあげて」

 

「分からないよ!!」

 

 みんなが穂乃果ちゃんを落ち着かせようとするが、大きな声を出して自分の気持ちを口にした。

 

「だっていなくなっちゃうだよ!! ずっと一緒だったのに離ればなれなっちゃうだよ!! なのに……」

 

 穂乃果ちゃんが怒るのは無理もない。穂乃果ちゃんにとってことりちゃんは大切な友達だから。その友達が自分にそんな大切なことを伝えてくれなかったのが、とても悲しいから。

 

 だけどことりちゃんはそんなつもりはなかった。何故なら……。

 

「何度も言おうとしたよ……」

 

「えっ?」

 

「でも穂乃果ちゃんライブやるのに夢中で、ラブライブに夢中で、だからライブが終わったらすぐ言おうと思ってた……相談に乗ってもらおう思ってた……」

 

「でもあんなことになって……聞いてほしかったよ、穂乃果ちゃんには一番に相談したかった」

 

 ことりちゃんが話せなかった理由を聞いて、言えなかった理由が自分の行動せいだと思い、穂乃果ちゃんの顔がどんどん曇っていく。

 

「だって初めて出来た友達だよ、ずっと側にいた友達だよ……そんなの……そんなの当たり前だよ」

 

「ことりちゃん」

 

 ことりちゃんは部室から走り去って行くけど、穂乃果ちゃんは追いかけることは出来ず、その場で立ち尽くし彼女の名前を呼ぶことしかできなかった。

 

 3

 

 結局お祝いはお開きになった。あんなことになってしまったら、とてもお祝いできる空気じゃない。

 

 私はお祝いで出たゴミを片付け部室に戻る途中だった。

 

 しかし部室に戻る足取りがとても重い。あんなことが起こったあとで、それに穂乃果ちゃんは今部室にいない。あのあとそのまま穂乃果ちゃんは家に帰ってしまった。

 

 穂乃果ちゃんはことりちゃんが部室から走り去ったあと、海未ちゃんからことりちゃんの本心を告げられた。

 

 それを聞いた穂乃果ちゃんはとても辛そうな顔をしていた。自分がラブライブに夢中になるあまり周りを見れていなくて、本来なら気づくことができたことに気づくことができなかったから。

 

 きっと穂乃果ちゃんは心の中で自分のことを責めてると思う。自分のせいでこんなことになったんだって。

 

 それは一つの要因だとは思う。だけど、それは一つの要因でしかない。それで穂乃果ちゃん一人を責めるのは間違っている。

 

 本当に悪いのは私だ。

 

 もっと私が上手くやっていればこんなことにならなかった。ちゃんと私がマネージャーとしてみんなのことを見れたらこんなことにはならなかった。

 

 友達のあんな悲しい顔を見ないで済んだ。

 

「ふっ……何が友達の悲しい顔を見ないで済んだだって……」

 

 私は自分が思ったことを嘲笑った。何故なら私にはそう思う資格がないのだから。

 

 ことりちゃんが悩んでいたことを今の今まで忘れてたくせに、そんなことに口にするなんて最低過ぎる。

 

 そもそもことりちゃんが私に相談したときに私は、この件を完全に後回しにした結果がこれ。

 

 理由なんて分かってる。単に私の目的に関係ないことだったから。心の奥底で利用価値が無いものだって、判断したから。

 

「やっぱり私は最低だ」

 

 友達が悩んでいたのに、それを利用価値がなければバッサリと切り捨てる。そもそも私が穂乃果ちゃんたちを本当に友達と思ってることさえ怪しい。

 

 そう思って行動すれば、穂乃果ちゃんたちを利用できると考えたからそうしてるだけであって、私は穂乃果ちゃんたちを友達とは思ってない。

 

 私にとって穂乃果ちゃんたちは──μ'sは私の目的のために利用できる駒でしかない。目的さえ達成すれば最後には切り捨てる捨て駒。

 

「あぁ……、ホント嫌になってくる……」

 

 自分の本質に改めて気付かされて自己嫌悪に陥る。それに……。

 

「今の穂乃果ちゃんとことりちゃんを見てるとあのときの事を思い出してくる」

 

 さっきの穂乃果ちゃんとことりちゃんの話を聞いて、私は二年前、私の大切な親友とケンカ別れしたときのことを思い出してしまう。

 

(どうして私に相談してくれなかったの……言ってくれたら、いくらでも力になったのに……)

 

(力になる? ふざけないで、あなたに何ができるって言うの? 私と違って何もかも恵まれて、何でも持ってるあなたに何が分かるって言うの)

 

(あなたと違って、私にはもうこれしかないの、星野如月しかないの、あの場所しかないの)

 

(私がやらなきゃ、私が守らなきゃいけないんだよ、そうしないとそうしないと……私の親友なら何で分からないの!!)

 

(やっぱり私だから……結局つーちゃんは私のこと親友だと思ってなかったんだ!!)

 

 そう言ってあのとき私はそのままその場を走り去って、それからずっと会っていない。

 

「ごめんね、ごめんね……つーちゃん……」

 

 あのときのことを思い出すと、あのときの後悔を共に思い出して悲しくて涙が出てくる。

 

 あのときも結局私は自分の目的のために親友を──つーちゃんを、切り捨てた。

 

 そして何もかも切り捨てた結果、私は最後には何もかも失っていたことに気付いた。

 

 残ったのは後悔だけ。それ以外は何も残らず、目的も果たされず、大切なものは何も残ってない。

 

 そして今も昔と変わらず同じようなことを繰り返そうしてる。

 

「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ」

 

 このままだと私はまた目的を達成できず、それどころかまた自分のせいで──

 

(お前のせいだ)

 

 不意にそんな声が聞こえたような気がした。ただの幻聴。幻聴に決まってる。

 

(お前がミスしなければこの試合勝てたのに)

 

(何でも出来るからって調子に乗ってるのか)

 

(何でいつも出来てることが出かないの、バカにしてるの)

 

(役立たず)

 

(どうしてあの人からこんな出来損ないの落ちこぼれが産まれたんだ)

 

 幻聴だと思ってもどんどんそんな声が聞こえてきて、聞こえないように私は両手で耳を塞いで声が聞こえないようにする。

 

(お前のせいで、お前のせいで、お前のせいで、お前のせいで、お前のせいで、お前のせいで、お前のせいで、お前のせいで、お前のせいで、お前のせいで)

 

「あっ……あぁ……」

 

 耳を塞いでも何時までも声は聞こえ続ける。

 

「違う、違う、違う、違う、違う、私は役立たずじゃない、私は篠原沙紀でアイドル星野如月、あのお母さんの娘で天才なんだよ、伝説まで登り詰めたアイドルだよ、役立たずじゃない、落ちこぼれじゃない」

 

 聞こえてる幻聴に対して、必死に否定するけど、否定するほど身体は震えて嫌な記憶が甦り頭が痛くなる。

 

 アイドル活動を休止と言い渡された記憶。

 

 つーちゃんとケンカ記憶。

 

 大人たちが私の前で言い争ってる姿。

 

 何かが焦げていく臭い。

 

 そして──

 

(違う、お前なんか如月ちゃんじゃない、この偽物が、そんな偽物には……)

 

 そんな幻聴が聞こえると、同時に私は眼鏡が落ちて拾おうため震える手を伸ばそうとすると──

 

 手には紅くべっとりとした何が付いてることに気付いた。

 

 これは……もしかして……。

 

 手に付いてるものが何が一瞬で気付いた私は二年前のあの日から出来事が全てフラッシュバックし──

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!!」

 

 ショックの余り私の意識はここで途絶えた。

 




そんなわけで如何だったでしょうか。

ふざけてる沙紀を書くのは楽しいなぁ~(遠い目)

はい、どう見ても完全に鬱展開ですね。

しかし、これである意味彼女の物語が動き始めました。

これから展開されていくのか、果たして彼女に何が起こったのか、なかなか時間は掛かるとは思いますが、見届けて頂けると幸いです。

何か感想などありましたら気軽にどうぞ。

誤字、脱字がありましたらご報告して頂けると有り難いです。

出来れば来週くらいには投稿出来ればいいななんて思ってます。

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